博士(水産科学)佐藤 純 学位論文題名
クルマエビのホワイトスポット病
(white spot disease: WSD) の防除対策に関する研究 学位論文内容の要旨
クルマエビのホワイトスポット病(white spot disease: WSD)は、種苗生産およぴ養殖 生産において最も重要なウイルス感染症のーっである。種苗生産過程でのWSD防除対策 はほば確立されたが,中間育成場や養殖施設においては,飼育環境中に生息する甲殻類か ら,あるいは飼育海水を介しての水平伝播が起こる可能性があり未だ解決されていない。
一方で、WSSV感染耐過エビ類が再感染に対し抵抗性を獲得すること(免疫様現象)が明 らかにされている。本研究では、これらの免疫様現象を利用した水平伝播防除技術の開発 を行った。
まず第1章では、種苗生産過程におけるWSDの発生状況と対策に関する疫学的調査 を行い、WSSV (white spot syndrome virus)の感染経路を検討した。初年度の1996年は親エ ビのウイルス検査結果に基づく選別を実施しなかった。翌1997年は生検法により得られた 卵巣卵 を試料とし てPCRによ りWSSVの検出を行い、その結果に基づき親エビ選別を行 った。得られた卵は、1996年は海水での卵洗浄を、また1997年には紫外線海水とヨード 剤を用いて卵消毒を行った。その結果、1996年の種苗生産ではWSDの発生は認められな かったが、種苗を配布した中間育成場において16事例中8事例でWSDの発生が認められ た。産卵に供した一部の親エビの胃上皮について調べた結果、7月以降にWSSVの検出率 が高まる傾向を示した。一方、親エビの選別と卵消毒を行った1997年には、種苗生産およ ぴ中間育成のいずれにおいてもWSDは発生しなかった。これらの事例から,種苗生産過 程 に お け るWSSVの 主 た る 感 染 経 路 は 垂 直 伝 播 の 可 能 性 が 高 い と 判 断 さ れ た 。 次いで第2章では、親エビからの垂直感染予防の観点から実施されている受精卵のヨ ード剤による消毒の安全性と効果にっいて検討した。ヨード剤による安全な消毒方法の把 握を目的に、卵の発生段階の違いによるヨード剤の影響と異なる有効ヨウ素濃度および浸
漬 時間 に よる 消 毒 処理 の 影響 を調査 した。卵 の消毒試 験では、 発生段階が2細胞期、128 細 胞期 、 胚形 成 以 降の4ス テ ージ 船 よ び卵 内 ノー プ リ ウス 期の2ステージの 計8ステー ジ にっい て、有効ヨ ウ素濃度5 mg凡への5分 間浸漬の 影響を調 べた。対 照区はヨー ド剤未処 理とした。受精卵への影響は、ふ化率と形態異常の発生状況を観察して判断した。さらに、
有 効ヨ ウ 素濃 度0,2.5,5.Oお よび10mg凡の ろ過海水 にそれぞ れ5、10、15お よび20分 間浸漬 し、ふ化率 への影響 と浸漬後 の卵表面 の生菌数 を計数した。その結果、卵の消毒試 験では 、正常ふ化 率は各発 生段階と もヨード 処理区と 対照区で顕著な差は認められなかっ たが、128細胞期だけ がヨード 処理の有無にかかわらず低下する傾向が認められた。また、
有 効ヨ ウ 素濃 度 と 浸漬 時 間の 試 験 では 、 ヨウ 素 濃 度2.5mg凡で20分 以上、5mg凡で15分 以上、10mg/Lで5分以上の 浸漬が、 対照区と 比較して ふ化率の 低下が認 められた。 卵表面 の 生 菌 数 は 、 ヨ ウ 素 濃 度5mg几 へ の5分 問 浸 漬 で90% 減 少 す る こ と が 確 認 さ れ た 。 第3章で は 、WSSVの病 原 性試 験 に 基づ く 適正 な 攻 撃強 度の 算出を行 い、大腸菌 で発 現 し たWSSVの 構 造 タ ン パ ク 質 で あ るrVP26とrゾP28を 経 口投 与 した ク ル マエ ビ のWSSV への防 御効果にっ いて検討 した。rVP26とrVP28を10pg/gshrimp/日で配合飼料に混合し、
平 均 体 重0.6gあ る い は6.8gの ク ル マ エ ビ に15日 間 投 与 し た 。 対 照区 に は 、大 腸 菌
(凪cカP′fあぬc〇ぬ)由来タンパク質を25いg/gskinlp/日で同様に投与した。経口投与終了10 日後に 、病エビの 筋肉、磨 砕液ある いは血リ ンパを用 いて経口、浸漬および注射で攻撃試 験を実 施した。試 験区と対 照区の累積死亡数は、ぞ検定により比較した。その結果、0.6g のクルマエビを用いた場合、経口攻撃試験における各区の累積死亡率は、対照区90%、rVP26 投 与区63% お よ びrVP28投与 区60% で 、対 照 区と 両 投 与区 との 間に有意 差が認めら れた
(Pく0.05)。浸漬攻 撃におい ても、対照区およぴrVP26投与区の累積死亡率は、それぞれ 100%および57%で、両区に有意差が認められた(PくO.01)。一方、6.8gのクルマエビを用 い た場 合 、経 口 攻 撃で は 、対 照区の 累積死亡 率は31%で あったが 、rVP26とrVP28投与区 で 死亡 は 認 めら れ な かっ た 。浸 漬 攻 撃で は 、対 照 区57% 、rVP26区21% およ びrVP28区 22%、 ま た注 射 攻 撃で は 、対 照 区93% 、rVP26区31% およ ぴrVP28区52% と 、い ず れ の 攻撃法においても投与区の死亡率は対照区に比べ有意に低かった(Pく0.01および0.05)。
以 上の 結 果 から 、rVP26お よびrVP28の 経 口 投与 に よりWSSVに 対 する 防 御効 果 が 誘導 さ れることが示された。
最後に 第4章では、rVPsの経口投 与による 感染防御 の持続期 間、免疫 記憶およぴ 特異 性 にっ い て検 討 し た。 こ れま でに、WSSVrVPsを経口投 与したク ルマエビ に感染防御 効果
が誘導され、追加投与による防御効果も得られることを明らかにした。本章では,ホモあ るいはへテロのrVPを追加投与することで,クルマエビに認められる免疫様現象の記憶お よ び特 異 性に つ い て検 討 を行 っ た。 平 均体 重80 mgの ク ルマ エ ビにrVP26,rVP28
(10嵋/g‐sMmp/dり)およびPBSを含む配合飼料を15日間連続投与した後,初回投与から 45,55およびl06日後に浸漬法によりWSSVで攻撃した。さらに、106日後に初回投与し たrVPsのホモあるいはへテロのrVPを7日間追加投与し、初回投与より113日後に同様の 方法で攻撃を行い、感染防御能の変化を比較検討した。rvPs投与区のWSSV攻撃に対する 防御効果は、55日でピークとなり、106日後には低下した。一方、rVP26投与区にrVP26 あるいはrVP28を追加投与した区のRPSは各々100%および33%であったが、rVP28投与 区にrVP26あるいはfVP28を追加投与した区のRPSは各々42%および67%となり、ホモ rvPを追加投与区のRPSがへテロrVP追加投与区のRPSに比べ有意に高くなった。なお、
rVP非投与区にrVP26あるい はrVP28を投与したときのRPSは各々44%およぴ0%であっ た。以上の結果から、クルマエビに認められる免疫様現象には、改めて特異性とある程度 の記憶があると考えられた。
以上、種苗生産過程におけるWSD防除技術の確立までの過程を発生状況、受精卵消 毒および産卵用親エビの選別の各対策別に検討し、現時点で考えられる最も有効な防除対 策技術をとりまとめると、以下の通りである。1.親エビの選抜、2.卵消毒、3.飼育水 の管理。飼育水の殺菌管理が難しくなる天然海面を利用した養殖生産過程での対策として は、クルマエビの生体防御能を利用した水平感染対策が考えられ、rVPsの経口投与とブー スターの必要性について検討したところ、WSSVに対する防御効果が誘導できること、さ らに誘導される防御反応の発現時期および持続期間について明らかにした。今後は、防御 反 応の 機 序の 解 明 を行 い 、効 率 的な 防 御効果の 誘導手法の 構築に結び っけたい。
学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 准教授 助教
吉 水 守 五 嶋 聖 治 西 澤 豊 彦 笠 井 久 会
学 位 論 文 題 名
クルマエビのホワイトスポット病
(white spot disease: WSD) の防除対 策に関する研究
ク ル マ エ ビ のホ ワ イ トス ポ ッ ト病(white spot disease: WSD)は 、 種苗 生 産 およ び 養 殖生 産 に お い て 最 も 重 要 な ウ イ ル ス 感 染 症 の ー っ で あ る 。 種 苗 生 産 過 程 で のWSD防 除 対 策 は ほ ば 確 立 さ れ た 。 し か し 、 中 間 育 成 場 や 養 殖 施 設 で は 、 飼 育 環 境 中 に 生息 す る 甲殻 類 や 飼 育 海 水 を 介 し て 水 平 伝 播 が 起 こ る 可 能 性 が あ り 、WSD防 除 対 策 は 未 だ 解 決 さ れ て い な い 。 一 方 で 、WSD原 因 ウ イ ル ス(white spot syndrome virus,WSSV)感 染 耐過 エ ビ 類が 再 感 染 に 対 し 抵 抗 性 を 獲 得 す る こ と ( 免 疫 様 現 象 ) が 明 ら か に さ れ て い る 。 本 研究 で は 、こ れ ら の 免 疫 様 現 象 を 利 用 し た 水 平 伝 播 防 除 技 術 の 開 発 を 行 っ た 。
ま ず 第1章 で は 、 種 苗 生 産 過 程 に お け るWSDの 発 生 状 況 と 対 策 に 関 す る 疫 学 的 調 査 を 行 い 、WSSVの 感 染 経 路 に っ い て 検 討 し た 。 初 年 度 の1996年 は 親 エ ビ 選 別 を 実 施 し な か っ た が 、 翌1997年 は 親 エ ビ 卵 巣 卵 を 対 象 と し てPCRに よ るWSSV検 出 結 果 に 基 づ き 親 エ ビ 選 別 を 行 っ た 。 ま た 、1996年 は 海 水 で の 卵 洗 浄 の み を 、1997年 に は 紫 外線 海 水 とヨ ー ド 剤 を 用 い た 卵 消 毒 を 行 っ た 。 そ の 結 果 、1996年 の 種 苗 で は 、 配 布 し た 中 間 育 成 場 の16事 例 中8事 例 でWSDの 発 生 が 認 め ら れ た 。 一 方 、 親 エ ビ の 選 別 と 卵 消 毒 を 行 っ た1997年 に は 、 種 苗 生 産 お よ ぴ 中 間 育 成 の い ず れ に お い て もWSDは 発 生 し な か っ た 。 こ れ ら の 事 例 か ら 、 種 苗 生 産 過 程 に お け るWSSVの 主 た る 感 染 経 路 は 垂 直 伝 播 の 可 能 性 が 高 い と 判 断 さ れ た 。 次 い で 第2章 で は 、 親 エ ビ か ら の 垂 直 感 染 予 防 の 観 点 か ら 、 受 精 卵 の ヨ ー ド 剤 に よ る 消 毒 の 安 全 性 と 効 果 に っ い て 検 討 し た 。 そ の 結果 、 受 精卵 の 発 育段 階 別 の 消毒 試 験 では 、128 細 胞 期 に お け る 正 常 ふ 化 率 が 低 下 す る 傾 向 が 認 め ら れ た 。 ま た 、 有 効 ヨウ 素 濃 度と 浸 漬 時 間 の 試 験 で は 、 ヨ ウ 素 濃 度2.5 mg凡 あ る い は5m〆Lで そ れ ぞ れ5分 の 処 理 が 安 全 で あ り 、 本 処 理 条 件 で 卵 表 面 の 生 菌 数 が 90% 以 上 減 少 す る こ と が 確 認 さ れ た 。
第3章 で は 、WSSVの 病 原性 試験 に基 づく 適正 な攻 撃強度 に基 づき 、大 腸菌 で発 現し た WSSV構 造 タン パ ク 質rVP26とrVP28を 経 口 投 与 し た ク ルマ エビ の感 染防 御効 果に つい て 検討した。まず、rVPsを配合飼料に混合し10p,g/g‑shrimp/日で15日間投与した。投与対照 区には、大腸菌由来のタンパク質を25 yg/g‑shriHlp/日で同様に投与した。経口投与終了10 日後 に、 病エ ビの 筋肉あ るい はそ の磨 砕液 を用 い、 経口 、浸 漬お よび 注射 法によ りWSSV 攻 撃 試 験 を実 施 し た 。 そ の 結 果 、 経 口 攻 撃 で は 、rVP26とrVP28投 与区RPS値が100% と なり 、浸 漬攻 撃で もそれ ぞれ71お よぴ70% に達 した 。注 射攻 撃で は、rVP26投与 区のRPS 値 が61% とな っ た 。 以 上 の 結 果 か ら 、rvPsの 経 口 投 与に よりWSSVに対 する 高い 防御 効 果を誘導できることが確認された。特に、経口攻撃試験で高い防御効果が得られたことは、
共 食 い に よる 水 平 的 ぬ 感 染の 拡大 を特 徴と するWSDの実用 的な 防除 対策 のー っに なる と 考えられた。
最 後 に 、第4章 で はrVP26お よびrVP28の 経口 投与 したク ルマ エビ の感 染防 御の 持続 期 間 、 免 疫 記 憶 お よ び 特 異 性 に つ い て 検 討 し た 。 平 均 体 重80mgの 個 体 にrVPs
(10pg/g‐shrinlp/dり)およびPBSを含む配合飼料を15日間連続投与した後、定期的に浸 漬 法 に よ りWSSVで 攻 撃 し た。 さら に、106日後 に初 回投与 したrvPsのホ モあ るい はへ テ ロ のrVPを7日 間 追 加 投 与 し、 初回 投与 より113日後 に同様 の方 法で 攻撃 を行 い、 感染 防 御 能 の 変 化を 比 較 検 討 し た 。rVPs投 与 区 のWSSV攻 撃 に対 する 防御 効果 は、55日 でピ ー ク と な り 、106日 後 に は 低 下 し た 。 一 方、rvP26投 与 区にrVP26あ るい はrVP28を 追加 投 与 し た 区 のRPSは 各 々100%お よぴ33% であ った が、rVP28投与 区にrVP26あ るい はrvP28 を 追 加 投 与し た 区 のRPSは 各 々42% お よび67% と な り 、 ホ モrVPを 追加 投 与 区 のRPSが へ テ ロrVP追 加 投 与 区 のRPSに 比 ベ 有 意 に 高 く な っ た 。な お、rvP非投 与区 にrVP26あ る い はrVP28を 投 与 し た 時 のRPSは各 々44%お よぴ0% であっ た。 以上 の結 果か ら、 クル マ エビ に認 めら れる 免疫様 現象には、改めて特異性とある程度の記憶があると考えられた。
以 上 、 種苗 生 産 過 程 に おけ るWSD防 除技 術の 確立 までの 過程 を発 生状 況、 受精 卵消 毒 およ び産 卵用 親エ ビの選 別の各対策別に検討し、現時点で考えられる最も有効な防除対策 技術 をと りま とめ ると、 以下 の通 りで ある 。1.親エ ビの選抜、2.卵消毒、3.飼育水の 管理 が重 要で あり 、また 、飼育水の殺菌管理が難しくなる天然海面を利用した養殖生産過 程では先の対策に加え、クノレマエビの生体防御能を利用したfVPsの経口投与と追加投与に よる水平感染対策を加える必要があると考えられた。