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RAS 癌遺伝子 抑制変異体による ヒト舌癌に対する増殖抑制効果

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Academic year: 2021

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     博 士 ( 歯 学 ) 葛 巻 学 位 論 文 題 名

RAS 癌遺伝子 抑制変異体による ヒト舌癌に対する増殖抑制効果

学位論文内容の要旨

  現在まで舌癌の治療法と しては主に外科療法、化学 療法、放射線療法が用いられてきた。しかし、

いずれの治療法でも機能障 害や後遺症など患者に対す る治療後の影響は無視できない。このため、患 者に低侵襲かつ優れた効果 を持っ新しい治療法として 、遺伝子治療法の検討は重要である。本研究で は、RAS癌遺 伝子 の発 現亢 進 を示 すヒ ト舌 癌 に対 する 遺伝 子治 療 の基 礎研 究とし て、RAS癌遺伝子 の機 能を 抑制 す る抑 制変 異体 遺伝 子N116Yを アデ ノウ イルスベクターに搭載してヒ ト舌癌細胞株に 感染させ、細胞増殖に対す る影響について検討した。

材料と方法

  細制 朱 には 、ヒ ト舌 癌 細8包 昧HSC‑3、HSC4、& 噛およびヒ ト口唇正常紡琳B細胞株KDを 用いた。

各 細胞 株 のRAs蛋 白質 の発 現お よび 日K蛋白 質 のり ン酸 化は 、そ れ ぞれ の抗 体を用いてウ エスタン ブ ロ ッ ト 法 で 解 析 し た 。RAs癌 遺 伝子 抑制 変 具体N116YcDNAあ るい はコ ン トロ ール とし て大 腸 菌 ロ , ガ ラ クト シダ ーゼ 遺伝 子 (La吃)cDNAを サイ トメ ガロ ウイ ル ス( いW)プ ロモ ータ ーと 共 に 接 続 し 、 ヲ 艚 殖 陛 ア デ ノ ウ イ ル ス ベ ク タ 叫 、dQw‐N116Y、 お よ びAdの 付I舷 を 作 製 し たNn6Y 遺 伝 子 発 現 の 検 出 は 、AdQn仆I116Yま た はAdQw−La吃 を 各細 胞昧 に感 染 、培 養後 に全 融乢 へ を 抽 出 し てcDNAを 合 成 し 、R‐PCRを 行 っ た 。 各 細 胞 株 の 増 殖 測 定 は 、Ad.Q小 仆H1甜 あ る い は AdいW,h吃を 感染 後、 経 時的 に生 細胞 を計 数 して 行っ た。 また 、 ヒト テロ メラーゼ触媒 サブュニ ッ ト(11THU) を プロ モー ターに 用いたアデノウイルスベクタ ーAdlERI.−N11甜を使用し た実験で は 、Mrrア ッ セ イ を 行 っ た 。 ア ポ トー シス の 検討 は、 各舌 癌細 胞 株にAdい 小′ ‐N116yある い は AdCMv.h吃を 感染 させ た のち 細胞 を回 収し て ヘキ スト 染色 し、 螢 光顕 微鏡 にて核の形態 を観察し て 行っ た 。h1RTプ ロモ ー ター 漕l生 の 測定 には 、ル シフェラ ーゼリポーター遺伝子を用い た。各結 果 は 平 均 値 と 標 準 偏 差 値 で 示 し 、 そ れ ぞ れ の 数f直 をStu匸lent sf幗tで 検 定 し た 。

1. RAS癌 遺 伝 子 抑 制 変 異 体N116Yの ヒ ト 舌 癌 細 胞 株 に 対 す る 増 殖 抑 制 ・ ア ポ ト ー シ ス 誘 導 RAS癌 遺 伝 子 抑 制 変 異 体N116Yの増 殖抑 制お よ びア ポト ーシ ス誘 導 効果 を調 べる た め、 各細 胞株 に お け るRAS蛋 白 質 産 生 を ウエ スタ ン ブロ ット 法で 検 討し た。 正常 線維 芽 細胞 株KDではRAS蛋白     ―765―

(2)

質 の 産 生 が ほ と ん ど 見 ら れ な か っ た の に 対 し て 、 舌癌 細胞 株HSC‑3、HSC4、SASでRAS蛋 白質 産 生の 亢進 が確 認 され た。CMVプロ モー ター を 持っア デノウイルスベクターAd. CMV‑N116Yあるいは コ ン ト ロ ソ レ のAdCMV‑LacZを 、 正 常 紬 包 株KDお よ て 晤 繊 田 胞 株HSC‑3、HSC4、SASに 感 染 さ せ 、N116Y遺 伝 子 発 現 をRr‐KR法で 確認 した 。Ad CMV‑LacZ感染 細胞 では 増幅 産 物が 検出 され な か っ た の に 対 し て 、 全 て のAdCMV‑N116Y感 染 細 胞 に お い てN116Y特 異 的 増 幅 産 物が 検出 され た AdCMV‑N116Yあ る い はAd. CMV‑LacZ感染 細 胞株 の細 胞増 殖 抑制 効果 につ いて 検 討し たと ころ 、 ALい 刪a吃を 感染 させ た 細胞 株は 、非 感染 細 胞株 と同 じよ う に増 殖し た。 これ に 対し てAd.洲 ニ N11甜を感染させた全て の舌癌細胞株では、明らかな 増殖抑制が見られた。また 、A(iQ垣v―La吃感 染細 胞株 では 形 態変 化は 見ら れ なか った のに 対し 、AdQn′.N116yを感染させ た場合では細胞の伸 展性が阻止され島状に凝 縮した像が観察された。さらに、Ad.い爪′‐La吃を感染させた細胞株ではア ポト ーシ スが 見 られ なか った が 、AdQn仆7116Yを 感染 させ たHsC‐3、HSC一4で は 核濃 縮や 断片 化 など のア ポト ー シス の特 徴が見られた。増殖抑制効 果、形態変化およびアポト ーシスはKDでも見ら れた 、こ れら のRAs癌 遺 伝子 抑制 変異 体N116Yによ る細胞に対する効果の機溝を 解析するため、RAs の下流で働くりン酉餅腔 哮素ロぇKを調べた。AdCMv_klcZを感染させたHSC‐3では、R〕F弗憫を後著 明 な ロKの り ン 酸 化 が 検 出さ れ た。 これ に対 して 、Ad. の舛 .N116Yを感 染さ せ た場 合はHKの り ン醐 匕カ 瀬出 さ れず 、N116y遺罐 子の 発現 が 凡噛 下流 の情 ギ 臨鑓 系を 抑制 する こ とが 証明 され た

2.h1Brプ ロ モ ー タ ー お よ ぴN116Y搭 載 ア デ ノ ウ イ ル ス ベ ク タ ー の 構 築 と 癌 特 異 的 喞 樹 綿 |J   癌特 異的 なN116Y遺伝 子の 発 現系 を樹 立す るた め 、各 細胞 株に おけ るhIロUプロモーター活陸を 測 定 し た 。KDで は わ ず か な レ ベル のhTERrプロ モー ター 活 性し か見 られ なか っ たが 、3つの 舌癌 細 胞株 全て にお いて 高 いhTERrプロ モー ター 活陸 が 確認 され た。 そこ で 、hTERTプロモーターおよ びN116Y遺伝 子 をシ ャト ルプ ラ スミ ドに 挿入 して 、非増殖陸アデノウイ ルスグノムプラスミドと共 にヒト胎児腎由 来293細胞にコトランスフェ クションし、アデノウイルス ベクターAd hTBてr―N116Y を作製した。コントローッレとして用kヽるアデノウイノレスベクター|Ad11T日Uも同様に竹製した。次に、

KDおよ びHsC‐3、SAsに 対しAdhT駅I、−Nll甜あ るいはA(thTERrを感 染させ、細8尠曽殖に対する 効 果 をMrrア ッ セ イ に て 調 べた 。AdhTロUは 、い ず れの 細胞 株に 対し て も細 胞傷 害陛 を 示さ なか っ た こ れ に 対 し てAdhTHひN11dを 用 い た 場 合 、 高 いh1ロ 汀 プ ロ モ ー タ ー 漕 陸 を 持 つHSC.3、 SASでは 、非 感 染細 胞と 比較 し て増 殖が 有意 に抑 制された。これに対し 、KDではこのような増殖抑 制 努 果fま 認 め ら れ ず 、 AdHr瓜r‐ N116Yの 癌 特 異 餅 な 細 餅 鞴 抑 制 効 果 が 示 さ れ た

  RAS癌 遺 伝 子 抑 制 変 異 体N116Yは 、 ヒ ト 舌 癌 細 胞 株HSC‑3、HSC4、SASに 対 し て 明ら かな 細胞 増殖 抑制 効 果を 、更 にHSC―3、HSC‑4に 対し ては アポ トー シ ス誘 導効 果も 示した。この機購 はRAS 癌遺 伝子 下 流で 働く りン 酸化 酵 素ERKの りン 酸化 が抑制されるた めであることが示された。 多くの 癌に 発現 し 正常 細胞 株で は発現して いないヒトテロメラーゼ触媒 サブュニット(hTBば)のプ ロモー ター を持 つN116yアデ ノ ウイ ルス ベク タ ーを 構築 し、舌癌細胞株 に対する細胞増殖抑制効果 を検討 した とこ ろ 、舌 癌に 特異 的な 抑 制効 果が 見ら れた 。これらの結 果から、hTE爾プロモーター を持つ N11甜アデ ノウイルスベクターが、ヒ ト舌癌に対する遺伝子治療に 用いられる可肯眺助ミ示唆 された

‑ 766

(3)

学 位論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査

教授 教授 教授 助教授

北川 戸塚 向後 進藤

学 位 論 文 題 名

善政 靖則 隆男 正信

RAS 癌 遺 伝 子 抑 制 変 異 体 に よ る ヒト舌癌に対する増殖抑制効果

   審 査 は 、 審 査 委 員 全 員 の 出 席 の 下 に 口 頭 試 問 の 形 式 に よ り 行 わ れた 。申 請者 に 対し て提 出論 文と それ に関 連し た学 科目 につ いて 試 問を 行っ た。審査論文の概要は以下の通りである。

   本 研 究 は 、 ヒ ト 舌 癌 に 対 す る 遺 伝 子 治 療 の 基 礎 研 究 と し て 、 RAS 癌 遺 伝 子 の 機 能 を 抑 制

す る 抑 制 変 異 体 遺 伝 子 N116Y を ア デ ノ ウ イ ル ス ベ ク タ ー に 搭 載 し て RAS 癌 遺 伝 子 の 発 現 亢

進 を 示 す ヒ ト 舌 癌 細 胞 株 に感 染さ せ、 細胞 増殖 に対 す る影 響に つい て検 討し たも ので ある 。

   実 験 に 先 立 っ て 、 各 細 胞 株 に お け る RAS 蛋 白 質 産 生 をウ エス タン ブ口 ット 法で 検討 した 。

正 常 線 維 芽 細 胞 株 KD で t ま RAS 蛋 白 質 の 産 生 が ほ と ん ど 見 ら れ な か っ た の に 対 し て 、 舌 癌

細 胞 株 HSC‑3 、 HSC ー 4 、 SAS で RAS 蛋 白 質 産 生 の 亢 進 が 確 認 さ れ た 。 CMV プ 口 モ 一 夕 ー を

持 つ ア デ ノ ウ イ ル ス ベ ク タ ー Ad.CMV‑N116Y あ る い は コ ン ト 口 ー ル の Ad.CMV‑LacZ を 、 正

常 細 胞 株 KD お よ び 舌 癌 細 胞 株 に 感 染 さ せ 、 N116Y 遺 伝 子 の 転 写 を 証 明 す る た め RT‑PCR 法

で 確 認 し た 。 Ad.CMV‑LacZ 感 染 細 胞 で は 増 幅 産 物 が 検 出 さ れ な か っ た の に 対 し て 、 全 て の

Ad.CMV‑N116Y 感 染 細 胞 に お い て N116Y 特 異 的 増 幅 産 物 が 検 出 さ れ た 。 次 に 、 RAS 癌 遺 伝

子 抑 制 変 異 体 N116Y の 増 殖 抑 制 効 果 お よ び 細 胞 形 態 へ の影 響に つい て検 討し た。 Ad.CIVfv ‐

LacZ を 感 染 さ せ た 細 胞 株 は 、 非 感 染 細 胞 株 と 同 じ よ うに 増殖 した が、 Ad.CIVf V‑N116Y を 感

染 さ せ た 全 て の 舌 癌 細 胞 株 で は 、 明 ら か な 増 殖 抑 制 が 見 ら れ た 。 ま た 、 Ad.CMV‑LacZ 感 染

細 胞 株 で は 形 態 変 化 や ア ポ ト ー シ ス は 見 ら れ な か っ た の に 対 し 、 Ad.CMV‑N116Y を 感 染 細

胞 株 で は 細 胞 の 伸 展 性 が 阻 止 さ れ 島 状 に 凝 縮 し た 像 が 観 察 さ れ た 。 HSC‑3 、 HSC‑4 で は核 濃

縮 や 断 片 化 な ど の ア ポ ト ーシ スの 特徴 が見 られ た。 増 殖抑 制効 果、 形態 変化 およ びア ポト ー

シ ス は KD で も 見 ら れ た 。 こ れ ら の 抑 制 変 異 体 N116Y 発 現 に よ る 細 胞 に 対 す る 効 果 の 機 構

を 解 析 す る た め 、 RAS の 下 流 で 働 く り ン 酸 化 酵 素 ERK を 調 べ た 。 Ad.CMV‑LacZ を 感 染 さ

(4)

せ た HSC‑3 で は 、 EGF 刺 激 後 著 明 な ERK の り ン 酸 化 が 検 出 さ れ た 。 こ れ に 対 し て 、 Ad.CMVN116Y を感 染 さ せた 場 合は ERK の りン 酸 化が 検 出 され ず 、N116Y 遺伝 子 の 発現 が RAS 下流の情報伝達系を抑制することが証明された。

   癌 特異的な N116Y 遺伝子の 発現系を樹 立するた め、まず 各細胞株 におけるヒトテ口メラ ー ゼ触媒サ ブュニッ ト(hTERT) プロモー ター活性 を測定し た。 KD では わずかなレベルの活 性 し か 見られ なかった が、3 つの 舌癌細胞 株全てに おいて高 いhTERT プロモー ター活性 が 確 認 さ れた。 そこで、 hTERT プ口モー ターおよ びN116Y 遺伝子 をシャト ルプラスミ ドに挿 入 して、非 増殖性アデノウイルスゲノムプラスミドと共にヒト胎児腎由来293 細胞にコトラ ン スフェク ションし 、アデノウ イルスベ クターAd.hTERT‑N116Y を作製した。コント口ール と し て アデノ ウイルス ベクター Ad.hTERT も同様に 作製した 。次に、 KD およびHSC‑3 、SAS に 対 し Ad.hTERT ‐ N116Y あ る い はAd .hTERT を感染さ せ、細胞 増殖に対 する効果 をMTT ア ッ セイにて 調べた。Ad .hTERT は、いずれの細胞株に対しても細胞傷害性を示さなかった。

Ad . hTER1 、‐N116Y を用 いた場合 は、高いhTERT プ口モーター活性を持つHSC −3 、SAS にお い て、非感 染細胞と 比較して増 殖が有意 に抑制された。これに対し、KD ではこのような増 殖 抑制効果 は認めら れず、Ad .hTERT ‐ N116Y の癌特異的な細胞増殖抑制効果が示された。

  RAS 癌遺 伝 子抑 制 変 異体 N116Y は 、 ヒト 舌癌細胞 株HSC ‐3 、HSC . 4 、SAS に対し て明ら か な細胞増 殖抑制効 果を、更に HSC ‐3 、HSC14 に対 してはア ポトーシ ス誘導効果も示すこ と が 明 らかに なった。 この機構 はRAS 癌遺伝 子下流で 働くりン 酸化酵素ERK の りン酸化 が 抑制されるためであることが示唆された。多くの癌に発現し正常細胞株では発現していない hTERT のプ 口モータ ーを持つ N116Y アデノウ イルスベ クターを 構築し、 舌癌細胞株 に対す る細胞増殖抑制効果を検討したところ、舌癌に特異的な抑制効果が見られた。これらの結果 か ら 、 hTERT プロモ ーターを 持つN116Y アデ ノウイル スベクタ ーが、ヒ ト舌癌に対 する遺 伝子治療に用いられる可能性が示唆された。

   論文審査にあたって・、論文申請者による研究要旨の説明後、本研究ならびに関連する研究 について口頭試問を行った。

   主な 質問事項 は、1 ) RAS 夕 ンパクの GDP/GTP 結合部位の中で116 番目アミノ酸変異体を 選ん だ理由、 2 )ウェス タンブロットで各細胞株のRAS 蛋白質のどのような状態が確認でき たか 、3 ) Ad.CMV‑N116Y を各 細胞株に 導入した 際の N116Y 発現 の相違にっ いて、4 )逆転 写酵素にっいて、5 )ヘキスト染色以外のアポトーシスの確認法、6 )抑制変異体による細胞 増殖の抑制とアポトーシスの関係、7 ) ERK 以外の MAPK 系のキナーゼのりン酸化にっいて、

8 ) 抗 癌 剤に よ るア ポ ト ーシ ス に 関与 し てい る JNK 経路 も確認し た方が良 いのでは 、91 Ad.hTERT‑N116Y によ る遺伝子 発現は、 リアルタ イムRT‑PCR によ る定量化や タンバク発現 も確認した方が良いのでは、10) 得られた結果の重要性と今後の研究の方向性、等であった。

   これらの試問に対して申請者は明快な回答、説明を行った。本研究は低侵襲かつ優れた効

果を 持つ新し い口腔癌 の治療法 として、 N116Y 抑制変異体を使った遺伝子治療の可能性を

(5)

示したものであり、その内容が高く評価された。学位申請者は、関連分野にも幅広い学識を

有していると認められ、更に有効な遺伝子治療の研究を進めており、将来性についても評価

された。本研究業績は口腔癌治療のみならず関連領域にも寄与すること大であり、博士(歯

学)の学位に値するものと認められた。

参照

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