博 士 ( 医 学 ) 甲 野 智 也
学 位 論 文 題 名 ●
Left temporal perfusion assoclatedWith ● ●
SuSplC10uSneSSSCOreontheBriefPSyChiatriCRatingSCale ●
1nSChiZOphrenia
(統合失調症における簡易精神症状評価尺度の 疑い深さス コアと相関 する左側頭 葉の血流)
学位論文内容の要旨
【背景】
近年の画像研究 はpositron emission tomography (PET) やsingle photon emission computed
tomography (SPECT)を用 い て、 統合 失調 症 の病 態生 理を 解明 す るこ とを試みて いる。しかし な が ら 、
PETや
SPECTを 用 い て 統 合失 調症 患 者の 脳血 流を 調査 し た過 去の 研究 では 、 統合 失 調症 患 者の 脳血 流に 特徴 的 な所 見が 見出 さ れて いな いだ けで な く、 部分的には 矛盾した所見 すら 示 され てい る。 統合 失 調症 は多 彩な 精 神症 状が 出現 する 症 候群 であり、そ のために病態 生理 の 解明 が妨 げら れて い る可 能性 があ る 。こ の問 題を 解決 す るー つの方法は 、各々の精神 症状と脳機能の関 係を別々に調査することであ る。
【目 的】
統 合失 調症 患 者の 精神 症状 と脳 血 流を 評価 し、 各々 の 精神 症状 の重 症度と脳血流の間に相 関が ある かを 調 査し た。
【 対 象 】
北 海 道 大 学 病 院 精 神 科 神 経 科 で 統合 失調 症 と診 断さ れた 患者 よ り選 択さ れた
29例の 患者 を 対 象 と し た 。 男 性
12例 、 女 性
17例 、 平 均 年 齢
31.7土
12.1歳 、発 症年 齢
22.9土8.9 歳 、罹 病 期 間
107.6土
11213か 月、 内服 して い た抗 精神 病薬 の クロ ルプ ロマ ジン 換 算量
804.31645.6 mg/日 で あ っ た 。
【方法】
123I̲IMP SPECT
を施行して脳血流を評価し、Brief Psychiatric Rating Scale (BPRS) を用いて、
SPECT
施行日の精神症状を評価し た。Statistical Parametric Mapping (SPM99) を使用し 、統計 解 析 を 行 っ た 。 全 患 者 の
SPECT画 像 の 標 準 化 、 ス ム ー ジ ン グ を 行 っ た 。 最 初 に 、
BPRSの 各症 状ス コア と 相対 的血 流の 間に 相 関が ある か、 単 回帰 分析 を行 い調 査 した。相対的 血流を 従 属 変 数 、
BPRS症 状 ス コ ア を 独 立 変 数 と し た 。 次 に 、
BPRSの 各 症 状 ス コ ア と 相 対 的 血流 の 間 に 相 関 が あ る か 、 重 回 帰 分 析 を 行い 調査 した 。相 対 的血 流を 従属 変 数、
BPRS症状 スコ ア を 独 立 変 数 と し た 。
BPRS症 状 ス コ アの 中で 相関 分析 を 行っ たと ころ 、 それ らの 中に 多数 の 相 関 が あ る こ と が 確 認 さ れ た 。 そ の た め 、
2つ の
BPRS症 状 スコ アの 問 に相 関が ある 場合
(P‑value: 0.05,
r>0.367)、 それ ら2 つの
BPRS症状 スコ ア を除 外し 、残 り のBPRS 症 状ス コア を重 回帰 分析 の 独立 変数 とし て集 約 した 。最 後に 、 相対 的血 流、 罹病 期 間、抗精神病 薬のク ロル プロ マジ ン 換算 量の 間の 相関 を 調査 する ため の 重回 帰分 析を 行っ た 。相対的血流 を従属
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変 数 、 罹 病 期 間 、 抗 精 神 病 薬 の ク ロ ル プ ロ マ ジ ン 換 算 量 を 独 立 変 数 と し た 。 い ず れ の 回 帰 分 析 に お い て も 、 Corrected P‑valueく 0.05を 統 計 学 的 に 有 意 と 判 定 し た 。
【結果】
単 回 帰 分 析 に お い て 、 疑 い 深 さ ス コ ア と 左 下 側 頭 回(max.:x ―64 mm,y=−10 mm,z ―30 mm; 2=3.42; P=0.030)の 血 流 の 間 に 正 の 相 関 が 認 め ら れ た 。 疑 い 深 さ ス コ ア は 、 脳 の ど の 領 域 の 血 流 と も 、 負 の 相 関 を 示 さ な か っ た 。 ま た 、 他 のBPRS症 状 ス コ ア は 、 脳 の ど の 領 域 の 血流とも、正及 び負の相関を示さ なかった。
相 関 分 析 の 結 果 、 相 関 が 認 め ら れ な か っ た4つ のBPRS症 状 ス コ ア ( 心 気 的 訴 え 、 感 情 的 引 き こ も り 、 疑 い 深 さ 、 興 奮 ) を 重 回 帰 分 析 の 独 立 変 数 と し た 。 相 対 的 血 流 を 従 属 変 数 、4 つ のBPRS症 状 ス コ ア を 独 立 変 数 と し た 重 回 帰 分 析 に お い て 、 疑 い 深 さ ス コ ア と 左 下 側 頭 回 (max.:x二〓ニ―64 mm,y‑−10 mm,Zニ−30 mm; Z‑score二二ニ3.33; P=0.037)の血流の間に正の相関が認め ら れ た 。 疑 い 深 さ ス コ ア は 、 脳 の ど の 領 域 の 血 流 と も 、 負 の 相 関 を 示 さ な か っ た 。 ま た 、 他 の3つ のBPRS症 状 ス コ ア は 、 脳 の ど の 領 域 の 血 流 と も 、 正 及 び 負 の 相 関 を 示 さ な か っ た 。 ま た 、 相 対 的 血 流 を 従 属 変 数 、 罹 病 期 間 、 抗 精 神 病 薬 の ク ロ ル プ ロ マ ジ ン 換 算 量 を 独 立 変 数 と し た 重 回 帰 分 析 に お い て 、 罹 病 期 間 、 抗 精 神 病 薬 の ク ロ ル プ ロ マ ジ ン 換 算 量 は 、 脳 の ど の領域の血流と も、正及ぴ負の相 関を示さなかった。
【 考 察 】
本 研 究 は 統 合 失 調 症 患 者 に お け るBPRSの 疑 い 深 さ ス コ ア と 相 関 す る 正 確 な 脳 領 域 を 見 出 し た 。 疑 い 深 さ は 被 害 妄 想 を 反 映 す る 項 目 で あ り 、 本 研 究 の 所 見 は 統 合 失 調 症 に お け る 被 害 妄 想 と 左 下 側 頭 回 の 異 常 の 関 連 性 を 示 唆 し た 。 疑 い 深 さ はBPRS陽 性 症 状 サ ブ ス ケ ー ル の 中 の 一 項 目 で あ る 。 統 合 失 調 症 の 陽 性 症 状 の 重 症 度 と 左 側 頭 葉 に お け る 血 流 と の 正 の 相 関 を 示 し た 本 研 究 の 所 見 は 、 過 去 の 研 究 の 所 見 と 一 致 す る 。
統 合 失 調 症 患 者 の 一 部 は 、 自 分 が 精 神 的 な 病 気 で あ る と 考 え て お ら ず 、 現 在 の 精 神 面 の 健 康 に 満 足 し て い る ほ ど 、 精 神 的 な 病 気 の 兆 候 に 不 安 が 少 な ぃ ほ ど 、 よ り 自 分 が 精 神 的 な 病 気 で あ る と 考 え て い な い 、 と 報 告 さ れ て い る 。 自 分 が 精 神 的 な 病 気 で あ る と 考 え て い な い 患 者 は 、 医 師 に 被 害 妄 想 を 含 め た 精 神 症 状 の 存 在 を 伝 え な い 可 能 性 が 高 い と 考 え ら れ る 。 そ の 結 果 、 医 師 は 患 者 の 重 症 度 を 正 確 に 把 握 で き ず 、 治 療 戦 略 の 展 開 が 遅 れ て し ま う 危 険 性 が あ る 。 本 研 究 の 所 見 は 、 統 合 失 調 症 患 者 の 左 下 側 頭 回 の 血 流 を 測 定 す る こ と に よ り 、 被 害 妄 想 の 重 症 度 を 客 観 的 に 評 価 し 、 よ り 迅 速 に 治 療 戦 略 を 展 開 す る こ と が で き る 可 能 性 を 示 唆 し た 。 本 研 究 で は 、BPRSの 疑 い 深 さ ス コ ア と 左 下 側 頭 回 に お け る 血 流 の 相 関 以 外 の 所 見 は 示 さ れ な か っ た 。 し か し な が ら 、 過 去 の 研 究 で は 統 合 失 調 症 に お け る 他 の 精 神 症 状 と 特 定 の 脳 領 域 の 関 連 性 が 指 摘 さ れ て い る 。 例 え ば 、 陰 性 症 状 は 前 頭 葉 、 視 床 、 基 底 核 の 血 流 異 常 と 関 連 が あ る こ と 、 幻 聴 が 出 現 す る 時 に 聴 覚 野 、 前 頭 葉 内 側 部 、 前 頭 前 野 が 活 性 化 す る こ と が 報 告 さ れ て い る 。 抗 精 神 病 薬 は 脳 血 流 を 低 下 さ せ る こ と が 知 ら れ て お り 、 本 研 究 に お い て 、 こ の よ う な 症 状 と 脳 血 流 の 関 連 性 が 見 出 さ れ な か っ た の は 、 抗 精 神 病 薬 の 影 響 が 関 係 し て い る の か も し れ な い 。
【 結 諭 】
統 合 失 調 症 患 者 に お い て 、BPRSの 疑 い 深 さ ス コ ア と 左 下 側 頭 回 の 血 流 の 間 に 正 の 相 関 が 認 め ら れ た 。 我 々 は 、 左 下 側 頭 回 の 血 流 を 測 定 す る こ と に よ り 、 統 合 失 調 症 の 被 害 妄 想 の 重 症 度 を 客 観 的 に 評 価 し 、 よ り 迅 速 に 治 療 戦 略 を 展 開 で き る 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。
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学位論文審査の要旨 主査 教授 佐々木秀直 副査 教 授 自土 博樹 副査 教 授 小山 司 副査 教 授 玉木 長良
学 位 論 文 題 名
Left temporal perfusion assoclatedWith ● ●
SuSplC10uSneSSSCOreontheBriefPSyChiatriCRatingSCale ●
1nSChiZOphrenia
(統合失調症における簡易精神症状評価尺度の 疑い深さス コアと相関 する左側頭 葉の血流)
近年の画像研究はpositron emission tomography (PET) やsingle photon emission computed
tomography (SPECT)を用いて、統合失調症の病態生理を解明することを試みている。しかし ながら、PET や
SPECTを用いて統合失調症患者の脳血流を調査した過去の研究では、統合失 調症患者の脳血流に特徴的な所見が見出されていない。統合失調症は多彩な精神症状が出現 する症候群であり、そのために病態生理の解明が妨げられている可能性がある。この問題を 解決するーつの方法は、各カの精神症状と脳機能の関係を別々に調査することである。そこ で、本研究は、統合失調症患者の精神症状と脳血流を評価し、各々の精神症状の重症度と脳 血流の関係を統計解析により明らかにすることを目的とした。
統合 失調症 患者
29例を対象とした。
123I̲IMP SPECTを施行して脳血流を評価し、Brief
Psychiatric Rating Scale (BPRS)を用いて、SPECT 施行日の精神症状を評価した。Statistical
Parametric Mapping (SPM99)を使用し、統計解析を行った。最初に、BPRS の各症状スコアと 相対的血流の問に相関があるか、単回帰分析を行い調査した。次に、BPRS の各症状スコア と相対的血流の間に相関があるか、重回帰分析を行い調査した。最後に、相対的血流、罹病 期間、抗精神病薬のクロルプロマジン換算量の間の相関を調査するための重回帰分析を行つ た。いずれの回帰分析においても、Corrected P‑value く0.05 を統計学的に有意と判定した。
単回帰分析において、疑い深さスコアと左下側頭回
(max.:x−64 mm ,y  ̄―10 mm ,z  ̄−30
mm; 2=3.42;P−−0.030) の血流の間に正の相関が認められた。疑い深さスコアは、脳のどの領 域の血流とも、負の相関を示さなかった。また、他のBPRS 症状スコアは、脳のどの領域の 血流とも、正及び負の相関を示さなかった。一方、相関分析の結果、相関が認められなか った
4つの
BPRS症状ス コア(心気的訴え、感情的引きこもり、疑い深さ、興奮)を重回帰 分析 の独立 変数とし た。相対的血流を従属変数、4 つの
BPRS症状スコアを独立変数とした 重回帰分析において、疑い深さスコアと左下側頭回(max. ニx‑ ―64 mm ,
y‑―10 mm ,Z ニ−30 mm;
2‑score=3.33; P=0.037)
の血流の間に正の相関が認められた。疑い深さスコアは、脳のどの領 域の 血流と も、負の 相関を示さなかった。また、他の3 つのBPRS 症状スコアは、脳のどの 領域の血流とも、正及び負の相関を示さなかった。また、相対的血流を従属変数、罹病期間、
―380ー
抗精神病薬のクロルプロマジン換算量を独立変数とした重回帰分析において、罹病期間、抗 精神病薬のクロルプロマジン換算量は、脳のどの領域の血流とも、正及び負の相関を示さな かった。
以上の結果から、統合失調症における疑い深さと左下側頭回の異常の関連性が示された。
疑い深さは被害妄想を反映する項目であり、本研究の所見は、統合失調症患者の左下側頭回 の血流を測定することにより、被害妄想の重症度を客観的に評価することができる可能性を 示唆した。一方、本研究では
BPRSの疑い深さスコアと左下側頭回における血流の相関以外 の所見は示されなかった。抗精神病薬は脳血流を低下させることが知られており、本研究に おいて、このような症状と脳血流の関連性が見出されなかったのは、抗精神病薬の影響が関 係しているのかもしれない。
口頭発表に際し、白土教授から、健常者における疑い深さと脳血流の関係、抗精神病薬の 脳血流に対する影響についての質問があった。小山教授から対象患者の日常生活能力、状態 像、現在の治療状況、統合失調症の精神症状と脳の深部構造の関係、対象患者の脳MRI につ いての質問があった。主査の佐々木教授から統合失調症の精神症状と側頭葉底面の関係、薬 物治療による精神症状の改善と脳血流の変化の関係にっいての質問がなされた。最後に、玉 木教授から精神科領域の
PET研究を行う場合に将来有望と考えられるPET トレーサーについ ての質問がなされた。いずれの質問に対しても、申請者は研究結果およぴ文献的知識により、
概ね適切に回答した。
この論文は、統合失調症患者において左下側頭回の血流を測定することにより、被害妄 想の重症度を客観的に評価することができる可能性を示唆したということで意義のあるも のと評価され、審査員一同は、これらの成果を高く評価し、大学院課程における研鑽や取得 単位なども併せ申請者が博士(医学)の学位を受けるのに充分な資格を有するものと判定し た。
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