博士(地球環境科学)瀬尾 寛
学 位 論 文 題 名
Studies on the Regenerated Chitosan as a Biomedical lvIaterial
(生 医学材料としての再生キトサンに関する研究)
学 位 論 文 内 容の 要 旨
キトサンは、自然界にセルロースに次いで豊富に存在するキチンをアルカリ加水分解し て得られるBl−4結合を有するムコ多糖でC→2位に反応性の高いアミノ基を有しており、
タンバク質や金属イオンとの親和性が強いことが知られている。またキトサンは酢酸や乳 酸などの有機酸に容易に溶解することから繊維、フィルム、その他の形態への再生の試み がなされ、その用途展開に対して大きく注目されている。
本研究の目的はさまざまな形態に成形加工された再生キトサンを生医学材料として用い るにあたり、その特性を十分に活かせる形態と応用部位との最適条件を見い出すことにあ る。加 えて 院内 感染 を惹 き起 こすMRSAや乳 幼児 にと って 深刻な 問題 であ るアトピー性 皮膚炎に対して、再生キトサンとポリノジックレーヨンの混合繊維であるキトポリィの特 性を十分に引き出せる材料設計を行い、抗菌性や抗アレルギー性などの効果を検証して、
生活環境の改善に少なからず貢献することである。
1章はキ卜サンを精製し再生キトサンとして繊維、フィルム、多孔質ビーズ、微粒子へ の成形加工を行った。キトサンはカ二 工ビ殻を出発物質とし、脱カルシウム、脱色素、
除夕ンバクにより得られたキチンから熱濃アルカりによる脱アセチル化反応によって得ら れるため、不純物、酸不溶物その他の汚染物質が多く存在する。精製工程における残留金 属イオンの推移からも、生医学材料として研究を進めるにあたり精製工程を経た再生キト サンが必要となることは明らかである。このようにして得られた再生キトサンをマウスに 投与したところ、ぞの一部が消化吸収されて血中濃度に現れ胃、腎臓をはじめ多くの臓器 に蓄積 され るが 、そのほとんどが48時間以内に代謝されることが分かった。また再生キ トサンの懸濁液をマウスに静脈注射して標的細胞障害性マク口ファージの誘導活性を評価 し腹腔マク□ファージの活性化能を確認した。さらに再生キトサンは細菌・真菌類に対し て抗菌・抗カビ性を示すことを最小生育阻止濃度の測定で明らか,にした。土壌微生物に加 え生活環境の中で見られる雑菌から皮膚常征菌まで含めての測定により黄色ブドウ球菌、
大 腸 菌 、 雪 腐 病 菌 、 斑 点 病 菌 、 そ し て 白 癬 菌 に ま で 効 果 が 確 認 で き た 。 2章では、この多機能性を有する再生キトサン繊維に血漿夕ンバクを固定化させたり、
ビーズを用いた全血灌流や薬剤の徐放溶出の試み、さらにはフィルムによる創傷治癒の効
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果確認も実施した。アミノ基を持つ再生キトサン繊維は他の天然、合成繊維と比較して血 漿夕ンパクの固定化量は群を抜いて多かった。次にアフイニティリガンドとしてProtein‑
Aを固定化したカラムに全血を灌流して免疫グ口ブリンを中心に吸着除去することから、免 疫吸着体カラムとして体外循環システムでの治療法が示唆された。さらには抗ガン剤アド リアマイシンを吸着させて徐放溶出させるなどドラッグデルバリーシステムのための徐放 薬 物 用 担 体 と し て の 検 討 を 行 い 、 最 初 の60分 で44% の 薬 剤 放 出 を 確 認 し た 。 3章は上述 のように 再生キト サンを外科的手法により創面、組織内にて用いる場合とは 異なり皮膚科領域での応用に関して検討した。すなわち皮膚表面で用いる場合にはキトサ ン量1%(w/w)以内での使用において感作、アレルギーの心配のないことが臨床的に得られ たため、同じロ1―4結合であるセル口ースの化学構造を持っポリノジックレーヨンに対し て1%(w/w)濃度の再生キトサン微粒子をピスコース段階で混練した混合繊維キトポリィを 得た。キトポリィは同じセル口ースのコットンと比べ吸放湿性に優れ、土壌中や貯水槽内 での微生物分解性が得られた。
数年前に病院・老人医療施設・在宅介護などで多剤耐性菌のメチシリン耐性黄色ブドウ 球菌 (MRSA) を原 因 とす る 院内 感染が拡 がり、抗 生物質が 効かず、塩 素系殺菌 剤も効 果が 得 ら れず 院 内 環境 が 悪化 して死 亡者が出 るまでに 至った。MRSA臨 床分離株 に対す るキトポリィの抗菌効果を大阪府立公衆衛生研究所他で確認し、患者用肌着、バジャマ、
夕オル、シーツから病室のカーテン、バーティションなどへの応用が始まっている。また MRSA保菌 者 が 入院 す る病 棟 へ出 入りする 看護婦用 の不織布 によるアイ ソレーシ ョンガ ウン を 用 いた7日 間 の臨 床 着 用試 験 で も看 護 業務 で 表 面にMRSAが付着 しても内 部に浸 透することがなく感染防御が可能であった。キトポリィはキトサンの抗菌性、ポリノジッ クの保湿性に加えて感作・アレルギー性がなく高い安全性が得られたことから子供用の肌 着を作っ てアトピ ー性皮膚 炎の患者を対象に3週間の着用試験を実施したところ多くの症 状におい て改善効 果が見ら れ7 1.7%の改 善率が得 られた。 その後も継 続着用し た結果
「環状・ 貨幣状湿 疹」「水 疱・膿疱 」は100%改 善し、「 粃糠」「掻 痒」「発 赤」など のその他症状も70〜90%の改善率であった。
本研究に用いた再生キ卜サンは急性・亜急性・慢性毒性試験および変異原性試験、アレ ルギー試験などによって裏付けされた安全性の高い素材であり、生医学材料として生活環 境の改善や院内環境の保全に役立たせることで環境負荷を減少させ、ひいては地球環境保 護に結びっくものと確信している。
さらに、この再生キトサンを化学修飾して抗菌スペクトルを拡大させたり、キトポリィ に甘草エキス(グリチルリチン酸ジカリウム)、ア口工エキス(ア口イン)などの消炎作 用やスキンケア機能を持つ薬剤を固定化することで、かぶれなど皮膚疾患の治癒および予 防することが期待できる。
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学位論文審査の要旨
主 査 教 授 西 則 雄 副 査 教 授 坂 入 信 夫
副 査 教 授 西 村 紳 一 郎 ( 理 学 研 究 科 )
副 査 教 授 林 壽 郎 ( 大 阪 府 立 大 学 先 端 科 学 研 究 所 )
学位論文題名
Studies on the Regenerated Chitosan as . a Biomedical IVIaterial
( 生 医 学 材 料 と し て の 再 生 キ ト サ ン に 関 す る 研 究 )
キト サンは、廃棄されているカニ殻、エ ビ殻中等に豊富に存在するキチンをアルカリ加水 分 解し て得られるムコ多糖である。この多 糖は反応性の高いアミノ基を有しており、夕ンバ ク 質や 金属イオンとの親和性が強いことが 知られている。またキトサンは酢酸などの有機酸 に 容易 に溶解することから繊維、フイルム 、その他の形態への再生が可能で、その用途展開 が注目されている。
本研 究の目的はさまざまな形態に生形加 工された再生キトサンを生医学材料として用いる に あた り、その特性を十分に活かせる形態 と応用部位との最適条件を見出すことにある。加 えて院内感染を弓Iき起こすMRSAや乳幼児にとって深 刻な問題であるアトピー叫生皮膚炎に対 して、再生キトサンとポ リノジックレーヨンの混合繊維であるキトポリィの特性を十分に弓I き 出せ る材料設計を行い、抗菌性や抗アレ ルギー性などの効果を検証して、生活環境の改善 に貢献することである。
1章ではキトサンを精製し再生キトサンとしてlrdf丶フイルム、多孑L亅質ビーズ、勧陸子への 成 形加 工を行った。キトサンはカ二・エビ 殻を出発物質とし、脱カルシウム、脱色素、除夕 ン バク により得られたキチンから熱濃アル カりによる脱アセチル化反応によって得られるた め 、不 純物、酸不溶物その他の汚染物質が 多く存在する。精製工程における残留金属イオン の 推移 からも、生医学材料として研究を進 めるにあたり精製工程を経た再生キトサンが必要 と なる 。このようにして得られた再生キ卜 サンをマウスに投与したところ、その一部が消化 吸収されて血中濃度に現 れ、胃、腎臓をはじめ多くの臓器に蓄積されるが、そのほとんどが48 時 間以 内に代謝されることが分かった。ま た再生キトサンの懸濁液をマウスに静脈注射して 標 的細 胞障害性マク口ファージの誘導活性 を評価し腹腔マク口ファージの活性化能を確認し た。さらに再生キトサンは細菌・真菌類に対して抗菌・抗カピ十生を示すことを明らかにした。
土 壌微 生物に加え生活環境の中で見られる 雑菌から皮膚常在菌までの測定により黄色ブドウ
球 菌 、 大 腸 菌 、 雪 腐 病 菌 、 斑 点 病 菌 、 そ し て 白 癬 菌 に ま で 効 果 が 確 認 で き た 。 2章では、この多機能性を有する再生キトサン繊維に血漿夕ンノヾクを固定化させたり、ビー ズ を用 いた 全血 灌流や、薬剤の徐放溶出の試み、さらにはフ イルムによる創傷治癒の効果確 認 も実 施し た。 アミノ基を持つ再生キトサン繊維は他の天然 、合成繊維と比較して血漿夕ン パクの固定化量は群を抜 いて多かった。次にアフイニテイリガンドとしてProtein ‑Aを固定化 し たカ ラム は免 疫吸着体カラムとして体外循環システムでの 治療法が示唆された。さらには 抗 ガン 剤ア ドリ アマイシンを吸着させて徐放溶出させるなど ドラッグデリバリーシステムの ための徐放薬物用担体と しての検討を行い、好結果を得た。
3章では上述のように再生キトサンを外科的手法に より創面、組織内にて用いる場合とは異 な り皮 膚科 領域 での応用に関して検討した。すなわち皮膚表 面で用いる場合にはキトサン量 1%(W/W)以 内で の使 用に おい て感 作、 アレ ルギ ー の心 配の ない こと が臨床的に得られたた め 、同 じロ1―4結合 であ るセ ル口 ース の化 学構造を持っポリノジックレーヨンに対して1% (W/W)濃度 の再 生キ ト サン 微粒 子を ビス コース段階で混練し た混合繃離キトポリィを得た。
キ トボ リィ は同 じセル口ースのコットンと比ベ吸放湿性に優 れ、土壌中や貯水槽内での微生 物分解性が得られた。
数年 前に 病院 ・老 人医 療施 設な どで 多剤 耐r生菌のメチシ リン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA) を 原因 とす る院 内感染が拡がり、抗生物質が効かず、塩素系 殺菌剤も効果が得られず院内環 境 が悪 化し て死 亡者 が出 るま でに 至っ た。MRSA臨 床分 離眛 に対 する キトボリィの抗菌効果 を 大阪 府立 公衆 衛生研究所他で確認し、患者用肌着、バジャ マ、夕オル、シーツから病院の カ ーテ ン、 バー テイ ショ ンな どへ の応 用が 始ま っ てい る。 またMRSA保菌者が入院する病棟 ヘ 出入 りす る看 護婦 用の 不織 布に よる アイ ソレーションガウンを用いた7日間の臨床着用試 験 でも 看護 業務 で表 面にMRSAが付 着し ても 内部 に 浸透 する こと がな く感染防御が可能であ っ た。 また 、子 供用 の朋 着を 作っ てア トピ 一捌こ膚炎の患者を対象に3週間の着用試験を実 施したところ多くの症状 において改善効果が見られた。
本研 究に 用い た再生キトサンは急性・亜急性・慢性毒性試 験および変異原性試験、アレル ギ 一試 験な どに よって裏付けされた安全性の高い素材であり 、生医学材料として生活環境の 改 善や 院内 環境 の保全に役立たせることで環境負荷を減少さ せ、ひいては地球環境保護に結 びっくものと考えられる 。
この よう に著 者は再生キ卜サンによる、人間と環境に優し い生医学材料に関して多くの知 見を得た。
よっ て、 著者 は博士(地球環境科学)の学位を受けるのに 充分な資格を有するものと判定 した。