自明な結び目が 2- 隣接である結び目について
下田 真寛 ( 神戸大学大学院理学研究科 博士課程前期課程 1 年 ) 2013 年 12 月 20 日
概 要
一回の交差交換で移り合う結び目
K, J
に対して, K
がJ
にn-adjacent
で あるという関係がAskitas
とKalfagianni
によって定義された.
自明な結び目 にn-adjacent
である結び目については研究されているが,
逆に,
自明な結び 目がn-adjacent
である結び目についてはあまり研究されていない.
本稿で は,
自明な結び目が結び目K
に2-adjacent
であるための必要条件を, K
の 判別式を用いて与える.
1. 導入
一回の交差交換で移り合う結び目 K, J に対して, K が J に n-adjacent であるとい う関係が Askitas と Kalfagianni[1] によって定義された . 自明な結び目に n-adjacent で ある結び目については研究されているが , 逆に , 自明な結び目が n-adjacent である結び 目についてはあまり研究されていない. 本研究では, 自明な結び目が n-adjacent である 結び目に着目し , 自明な結び目が結び目 K に 2-adjacent であるならば , K の判別式の 値が 1 になるという結果を得た .
本稿の 2 章では , 主定理の紹介とそのための定義を導入する . 3 章では , 主定理の証明 に必要な結び目の手術表現について記述し , 4 章で主定理の証明を行う .
2. 主定理
本稿の主定理は定理 2.4 である . はじめに , 主定理のための定義を導入する . 結び目 K に対し , K の補空間 X = S 3 \ K の無限巡回被覆空間を X e とする . τ : X e → X e を Aut( X) e ∼ = Z の生成元とし, τ ∗ : H 1 ( X) e → H 1 ( X) e を τ に導かれる準同型写像とす る . このとき , x ∈ H 1 ( X), e f(t) = a r t r + · · · + a 0 + · · · + a − s t − s ∈ Z [t, t − 1 ] に対し , f(t)x := a r τ ∗ r (x) + · · · + a 0 x + · · · + a −s τ ∗ − s (x) ∈ H 1 ( X) e と積を定めると , H 1 ( X) e は Z [t, t − 1 ]-加群の構造を持つ.
定義
2.1 ([2, 3]). H 1 ( X) e の Z [t, t − 1 ]- 加群としての表現行列を K の Alexander 行列 と よび, M K で表す. M K の行列式 detM K は Z [t, t − 1 ] の単元倍を除いて一意に定まる.
これを K の Alexander 多項式 とよび , ∆ K (t) で表す . また , det(K) := | ∆ K ( − 1) | を結 び目 K の 判別式 とよぶ .
命題
2.2. ∆ K (t) は次の (i), (ii) を満たす . (i) ∆ K (t − 1 ) = ∆ K (t).
(ii) ∆ K (1) = 1.
定義
2.3 ([1]). 結び目 K, J に対し , K が J に n-adjacent であるとは , K のある図式
D と D の交点 c 1 , . . . , c n が存在して , そのうち任意の m 個 (0 < m ≤ n) の交点で交差
交換した図式が J を表すことである .
図 1. スクエア結び目は 3 1 に 2-adjacent である . 例えば , 図 1 のように , スクエア結び目は 3 1 に 2-adjacent である .
定理
2.4. 結び目 K に対し , 自明な結び目が K に 2-adjacent であるならば , det(K) = 1.
自明な結び目が 2-adjacent であるような結び目の例には , 自明な結び目がある . 残念 ながら , 非自明な結び目の例は見つかっていない .
3. 結び目の手術表現
任意の結び目の任意の図式に対し , 適切な交点をいくつか選び交差交換を行うと自明 な結び目の図式が得られる . また , 結び目図式の交差交換は , 絡み数が 0 となるような 自明な結び目を交点に引っ掛けておき , それに沿って ± 1-surgery を施すことによって 実現できる . このことから , Levine [4] と Rolfsen [2, 3] は結び目の手術表現を導入した .
命題3.1 ([2, 3]). K を結び目, O を自明な結び目とする. このとき, 次の (i)–(v) を満た すような S 3 \ O 内の互いに素な n 個のトーラス体 T 1 , . . . , T n と , S 3 \ ( ˚ T 1 ∪ · · · ∪ T ˚ n ) 上の自己同相写像 ϕ が存在する .
(i) ϕ(O) = K.
(ii) ϕ(∂T i ) = ∂T i .
(iii) c(T i ) を T i の中心線とすると, c(T 1 ) ∪ · · · ∪ c(T n ) は自明な絡み目.
(iv) lk(c(T i ), O) = lk(c(T i ), K) = 0.
(v) µ i を ∂T i の meridian とすると , lk(ϕ − 1 (µ i ), c(T i )) = ± 1.
定義
3.2. 命題 3.1 で得られる (T 1 , . . . , T n , h) を , 結び目 K の 手術表現 とよぶ . ただし , h = ϕ | ∂(T
1∪···∪ T
n) とする.
命題
3.3. 結び目 K は次の (i), (ii) を満たす Alexander 行列 M K = (a ij (t)) を持つ . (i) a ij (t) = a ji (t − 1 ).
(ii) | a ij (1) | = δ ij =
{ 1 (i = j),
0 (i ̸ = j).
証明.
自明な結び目 O の補空間 X 0 の無限巡回被覆空間を X f 0 とする. 命題 3.1 より, X \ ( ˚ T 1 ∪ · · · ∪ T ˚ n ) と X 0 \ ( ˚ T 1 ∪ · · · ∪ T ˚ n ) は同相である . T i の持ち上げを V i とし , V = V 1 ∪ · · · ∪ V n と定める . ϕ e : X f 0 \ V ˚ → X e \ ˚ V を ϕ から得られる同相写像とす る. 図 2 のように, V i の連結成分をひとつ指定し, V i,0 と定める. ∂V i,0 の longitude を l i , meridian を m i とする . このとき , Z [t, t − 1 ]- 加群表示として , H 1 (( X e \ V ˚ ) ∩ V ) ∼ = H 1 (∂V ) ∼ = (m 1 , . . . , m n , l 1 , . . . , l n : ) , H 1 ( X e \ ˚ V ) ∼ = H 1 ( X f 0 \ ˚ V ) ∼ = (m 1 , . . . , m n : ) , H 1 (V ) ∼ = (l 1 , . . . , l n : ) が得られる. ここで, 次の Mayer-Virtoris 完全系列を考える.
H 1 (∂V ) −→ f
1H 1 ( X e \ V ˚ ) ⊕ H 1 (V ) −→ f
2H 1 ( X) e −→ f
3H 0 (∂V ) −→ f
4H 0 ( X e \ V ˚ ) ⊕ H 0 (V ).
H 0 (∂V ) の生成元を x i とすると f 4 (t k x i ) = (1, t k x i ) と決まる . したがって f 4 は単射ゆえ f 2 は全射である . また , m ′ i = ϕ e − 1 (m i ) とすると , f 1 (t k m i ) = (t k m ′ i , 0), f 1 (t k l i ) = (0, t k l i ) より , Kerf 2 = Imf 1 = (m ′ 1 , . . . , m ′ n : ) ⊕ (l 1 , . . . , l n : ) となる . 準同型定理より , H 1 ( X) e ∼ = (m 1 , . . . , m n : m ′ 1 , . . . , m ′ n ) である . つまり , m ′ i を m 1 , . . . , m n と t で表せば , K の Alexander 行列の様子がわかる . V i,0 の中心線を c(V i,0 ) とすると ,
m ′ i =
∑ n
j=1
∑ ∞ k= −∞
lk(m ′ i , t k c(V j,0 ))m j .
ここで, k ̸ = 0 のとき lk(m ′ i , t k c(V j,0 )) = lk(l i , t k l j ) であるため, lk(l i , t k l j ) = lk(t − k l i , l j ) = lk(l j , t − k l j ) より , (i) が得られる . また , t = 1 のとき , m ′ i = ∑ n
j=1 lk(m ′ i , c(T j )) である ので , 命題 3.1 の (v) より , (ii) が得られる .
補題
3.4. D を自明な結び目の図式 , c 1 と c 2 を D の異なる交点とする . D を c 1 で交 差交換した図式を D 1 , D を c 2 で交差交換した図式を D 2 , D を c 1 と c 2 で交差交換し た図式を D 3 とする . また , D i が表す結び目を K i ( i = 1, 2, 3 )とする . このとき , あ る r(t) ∈ Z [t, t − 1 ] と ε 1 , ε 2 ∈ {± 1 } が存在して , r(1) = 0 かつ
M K
3= (
ε 1 ∆ K
1(t) r(t − 1 ) r(t) ε 2 ∆ K
2(t)
)
が成り立つ .
証明.