関数解析学と微分方程式への応用
Functional Analysis and Its Application to Differential Equations
関数方程式研究室
BV17068
前島 正寿 指導教員:竹内 慎吾 教授1
はじめに一般に微分方程式の解を求めることは難しい.そこで関数 解析学の観点から微分方程式を見つめなおすことによって, 微分方程式の解の存在と一意性を考察する. 本研究では,関 数解析学の基本事項をまとめ,実際にその内容を微分方程式 に応用する.関数解析学については[1]と[2]を,関数解析学 の微分方程式への応用については[3]を参考にした.
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準備ノルム(RやCにおける絶対値を一般化したもの)が定 義された線形空間をノルム空間,内積が定義された線形空間 を内積空間といい,完備なノルム空間をバナッハ空間,完備 な内積空間をヒルベルト空間という.
I = (a, b) (⊂R)を有限あるいは無限の開区間とし, 通
常の微分をf′,f(m)などと表す.また,uをI上の可測関数 とする.
C(I) :={f |I上で連続}.
Cm(I) :={f |I上でm回微分可能かつf(m)も連続}. C∞(I) :={f |I上で無限回微分可能}.
suppf :={x∈I |f(x)̸= 0}.
C0m(I) :={f ∈Cm(I)| suppfがIの有界閉集合}. C0∞(I) :={f ∈C∞(I)| suppf がIの有界閉集合}. Lp(I) :=
( u|
Z b a
|u(x)|pdx <∞ )
(1≤p <∞).
L∞(I) :=
u| ess.sup
x∈I
|u(x)|<∞
. L1loc(I) :={u|uはIで局所可積分}.
∥u∥p :=
Z b
a
|u(x)|pdx
!1/p
(u∈Lp(I), 1≤p <∞), ess.sup
x∈I|u(x)|(u∈L∞(I), p=∞).
Lp(I) (1≤p≤ ∞)はノルム∥ · ∥pに関してバナッハ空 間になる.
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広義導関数定義 3.1. m を自然数とし, f ∈ L1loc(I)とする. 任意の φ∈C0∞(I)に対し,次を満たすg ∈L1loc(I)が存在すると き,gをf のm階の広義導関数といいDmf で表す.
Z b a
f(x)φ(m)(x)dx= (−1)m Z b
a
g(x)φ(x)dx.
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ソボレフ空間定義 4.1. mを自然数とし, 1≤p≤ ∞とする. Wm,p(I) を次のように定義する.
Wm,p(I) :=
f ∈Lp(I)|Dkf ∈Lp(I), 1≤k≤m . Wm,p(I)に属する関数に対し,次式でノルムを定義する.
∥f∥m,p :=
Xm k=0
Dkfp
p
!1/p
(1≤p <∞), Xm
k=0
Dkf
∞ (p=∞).
定理 4.1. Wm,p(I)は∥f∥m,pをノルムとしてバナッハ空 間である.
定義4.2. Wm,p(I)におけるC0∞(I)の閉包をW0m,p(I)で 表す.Wm,p(I)とW0m,p(I)を総称してソボレフ空間とよぶ. 定理 4.2. 1 ≤p≤ ∞とし, u∈W1,p(I)とすると, ある
¯
u∈C( ¯I)が存在して,u= ¯u(a.e.x∈I)である.また,次の 式が成り立つ.
¯
u(x)−u(y) =¯ Z x
y
Du(t)dt(x, y∈I).¯ Wm,2(I)に属する関数に対し,次式で内積を定義する.
(f, g)m,2= Z b
a
f(x)g(x)dx+ Xm k=1
Z b a
Dkf(x)Dkg(x)dx.
(1) バナッハ空間に対して内積が定義されたため, Wm,2(I)と W0m,2(I)はヒルベルト空間になる.
定義4.3. Hm(I)とH0m(I)を次のように定義する. Hm(I) :=Wm,2(I), H0m(I) :=W0m,2(I).
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線形汎関数H をヒルベルト空間,Kをその係数体とする.
定義5.1. 汎関数f :H →Kが次の線形性の条件を満たし ているとき,fはH上の線形汎関数であるという.
(
f(x+y) =f(x) +f(y) (x, y ∈H), f(αx) =αf(x) (α∈K, x∈H).
定義 5.2. 汎関数f :H →Kが次の条件を満たすとき, f は点x0∈Hで連続であるという.
「任意のε >0に対し, δ >0が存在して,∥x−x0∥< δ を満たすすべてのx∈Hに対し|f(x)−f(x0)|< ε.」
また, 汎関数f がH のすべての点で連続であるとき, f はH上で連続であるという.
定義 5.3. f をH 上の線形汎関数とする. 次の条件を満た すとき, fはHで有界であるという.
「ある定数M >0が存在して,|f(x)| ≤M∥x∥(x∈H).」 定理5.1. H上の線形汎関数f :H →Kに関して,次は同 値である.
(i)f はH 上で連続である. (ii)f はH上の1点で連続である. (iii)fは有界である.
この定理により,線形汎関数については,連続であること と有界であることが同値である.
定義5.4. H 上の連続線形汎関数全体からなる集合をHの 共役空間といい,H∗で表す.
H∗に属する関数に対し, 次式でノルムを定義する.
∥f∥= sup
x∈H, x̸=0
|f(x)|
∥x∥ .
定理5.2(リース). f をH上の連続線形汎関数とするとき, 次を満たすy∈Hがただ1つ存在する.
f(x) = (x, y) (x∈H).
また,∥f∥=∥y∥が成り立つ.
この定理は連続な線形汎関数をヒルベルト空間上の点を 用いて一意に表せるというものである.
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微分方程式への応用次の常微分方程式の境界値問題について,関数解析学を用 いて解の存在と一意性を考察する.
a, b∈Rとし,I= (a, b)を区間とする. (−u′′(x) +u(x) =f(x) (x∈I),
u(a) =u(b) = 0. (2)
定義6.1. u=u(x)が(2)の古典解である.
⇔ (
u∈C( ¯I)∩C2(I),
uは(2)の方程式と境界条件を満たす. 定義6.2. u=u(x)が(2)の弱解である.
⇔
u∈H01(I), Z b
a
DuDφ dx+ Z b
a
uφ dx= Z b
a
f φ dx(φ∈H01(I)).
(3)
(2)が一意な弱解を持つことを示す.f ∈L2(I)とする. F(φ) =
Z b a
f(x)φ(x)dx(φ∈H01(I))
とおくと,F はH01(I)上の連続線形汎関数である.従って, 定理5.2より,
∃1u∈H01(I)s.t. F(φ) = (φ, u) (φ∈H01(I)) が成り立つ.得られた式は(1)を用いて書き換えると
Z b a
DuDφ dx+ Z b
a
uφ dx= Z b
a
f φ dx(φ∈H01(I)) となり,次の定理が成り立つ.
定理6.1. (2)においてf ∈L2(I)とする.このとき, (2)は 一意な弱解u∈H01(I)をもつ.
この弱解uがC1( ¯I)にも属していることを示す. (3)は 任意のφ∈C01(I)についても成り立つので,Dφ=φ′ とす ると,
Z b a
Duφ′dx= Z b
a
(f −u)φ dx(φ∈C01(I)) が成立し, 広義導関数の定義より, D2u ∈ L2(I)を得る. 従って,u∈H2(I)となる.ここで定理4.2より,Du∈C( ¯I) であることからu′∈C( ¯I)が存在し,次の定理が成り立つ. 定理6.2. 定理6.1の弱解uはu∈H01(I)∩C1( ¯I)である. 最後に, f ∈ C( ¯I) ならばこのuが古典解であること を示す. (3) と広義導関数の定義から, u′′ ∈ C( ¯I)となり, u ∈ C2( ¯I) を得る. 一方, (3)の左辺第 1 項を部分積分 し, C01(I)はL2(I)で稠密であることとφの任意性から, φ=−u′′+u−f ととると
Z b a
(−u′′+u−f)2dx= 0
が成立し,−u′′+u−f = 0 (a.e.x∈I)を得る.u′′, u, f はすべて連続であることより,次の定理が成り立つ.
定理6.3. f ∈C( ¯I)のとき, (2)には弱解u∈H01(I)∩C2( ¯I) が一意に存在する.さらにuは(2)の古典解である.
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まとめ微分方程式の境界値問題の解の存在と一意性を示す際に, 弱解をリースの定理により一意に表せることや, uがどの空 間に属しているかということが重要であり,関数解析学は微 分方程式と密接に関わっている.
参考文献
[1] 樋口禎一・芹沢久光・神保敏弥,関数解析学の基礎・基 本,牧野書店, 2001
[2] 竹内慎吾, “関数解析”講義ノート, 2018年度前期 [3] 兼子裕大, “解析学III”講義ノート, 2019年度後期