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体静脈に対するステント留置術

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日本小児循環器学会雑誌 14巻3号 447〜449頁(1998年)

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体静脈に対するステント留置術

埼玉医科大学心臓病センター小児心臓科 小林 俊樹  狭窄血管に対する治療としてバルーン血管形成術(BDA)は国内でもかなりの数が行われ,その有効性や手 技に対する検討,また限界についても検討が成されている1)2).しかしステント留置術(SI)の有効性や限界に ついては,欧米を中心に幾つもの報告が行われているが3)4),本邦ではステントが先天性心疾患に対して保健適 応を得ていないため限られた報告しか無いことが現状である5).東京女子医科大学の中西らは,肺動脈の拡大時 に血管内エコーを用いて血管内膜や中膜の破損状況をより詳細に観察することで,より極限に近いバルーンカ テーテルサイズを選択しBDAの効果をより確実なものとし,異物を挿入するSIを可能な限りさけようとす る試みを行っている.しかしその反面,BDAでは拡大目標径より大きなバルーンを用いて拡大し,血管内膜か ら中膜にかけて裂傷を生じさせて拡大を得るのが機序であるが,SIでは拡大目標径までバルーンを拡大して ステントを留置するだけであるため,血管内皮への損傷はBDAに比較して小さく,血管狭窄に対する第一選 択の治療としてSIを行っている施設もあるようである6).

 体静脈に対しては,黒岩らも報告内で述べているように,静脈圧の低さや他の胸腔内構造物よりの圧迫など によりBDAで有効な結果が得られなかったり,再狭窄が高頻度に見られる所でありSIの良い適応と考えら れる.当施設でも,大血管転位症のMustard術後の上大静脈狭窄合併症例で, BDAを行ったが再狭窄の見ら れた症例にSIを行った(図1). SIの翌日には顔面浮腫は消失し, SI前には拡大していた脳室もSIの1カ月 後のCTでは正常化を示しているなどの著効が観察された.この様な体静脈系の狭窄に対しては第1選択の治 療と考えている7).しかし,今回の黒岩らの報告のした症例においては,その治療方針に関し賛否の分かれると ころと思われる.本来,右上肺静脈の異常還流を左房に導く事を目的とした手術の結果,上大静脈の狭窄をき た訳であり,上大静脈症候群を改善するためのSIにより,その右上肺静脈を閉塞した結果となった.本来の目 的に立ち返って再手術を行う選択肢もあったのではないかと考えられる.しかし右肺静脈の還流異常を伴い,

そこの修復を行うと同様の現象を起こす症例は他の施設にも存在し,今後も出現する頻度は高い.そのために も黒岩らには肺静脈が閉塞した右側上部肺の経過について慎重に経過観察を行い,遠隔期の状態についても継 続して報告してもらうことにより,今後同様の症例の治療方針の指標となることを期待する.

 手技的な問題については,体重の小さな症例の末梢肺動脈に留置を行うときにはFront loadingと呼ばれて いるガイドワイヤーのみを先に留置し,細いシース内にステントを装着したバルーンカテーテルを挿入して,

ステントともにシースを狭窄部に挿入する方法が良いと考えられる8).しかし上大静脈に関しては,大腿静脈よ りほぼ真直のためまずシースを挿入し,その中をステントを装着したバルーンカテーテルを挿入する方法で行 えると考えられる.しかし黒岩らもまず使用したステントが既に装着されたJ&J社のバルーンカテーテル は,ステントのずれが多く使用しづらい.このためバルーンの表面の親水性コーティングをわざと行わず,ス テントがずれにくくした他社のバルーンカテーテルに装着し直しSIを行っている.またステントをバルーン に装着するときには,造影剤の粘着性を糊の代わりに利用してバルーンとステントの間に塗り滑りにくくした りする工夫が重要なポイントとなってくる.

 ステントの今後について

 今回使用されたJ&J社製のステントは腸骨動脈と腎動脈の狭窄に対して既に保険審査を通過し,国内で販 売されている.しかし先天性心疾患に多く見られる肺動脈と体静脈に関しては保険適応が無い.北米でその様 な対象に対してステントを用いる場合には,有償治験の形を取りステント供給が可能なためJ&J社の米国本 社では,本邦で適応拡大のための治験を行い保険対象に追加する意志は全く無かったようである.しかし小児 循環器専門医よりの要請により,J&J日本支社が独自に日本国内で先天性心疾患に対し治験を行い保険適応

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448−(60) 日小循誌 14(3),1998

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糠ふ

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図1 12歳,男児,大血管転位症,1型,8カ月時にMustard手術が行われた.他院にて経過観察  を受けていたが9歳時に上大静脈の狭窄に気がつかれ当院にてバルーン血管形成術行われ,頭痛  や運動能は軽度改善した.再狭窄のためステント留置を行った.

 1.下大静脈閉鎖のため上大静脈よりのアプローチで狭窄部位の造影を施行.

 2.3.18mmオーエンスバルーンに装着したステントを拡大.

 4.5.狭窄部位が上下に長いため,もう1個のステントを最初に留置したステントの上部に一部重  なるようにして留置.

 6.留置終了後の上大静脈造影.

 7.留置1年後の上大静脈造影,一部に血管内膜の増殖と思われる所見(矢印)が観察される.

を得る動きがあり近い将来現実化すると思われ,J&J社の勇断には感謝の念を禁じ得ない.しかし先に述べ たように,同社はステントを自社のバルーンカテーテルに装着した形で販売しており,バルーンカテーテルの 費用が加わるため非常に高価なものとなっている.このため当初にステントが装着されていたバルーンカテー テルが無駄になってしまう事が現状である.医療費の削減の意味からもステントをバルーンと別売の形で販売 するかバルーンカテーテルの改良を行うことをJ&J社に期待する.いずれにしろJPICで行った全国施設に 対するステント対象例のアルケート調査では,複雑心奇形の症例に治療を行っている施設は皆SIの適応と考

えられ症例を複数例抱えており早期に臨床使用が可能となるように期待している.

      文  献

1)Rothman A, Perry SB, Keane JF, Lock JE:Early results and follow−up of balloon angioplasty for branch   pulmonary stenosis. J Am Coll Cardiol 1990;15:1109−1117

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平成10年5月1日 449−(61)

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中西敏夫,松本康俊,富松宏文,他:肺動脈狭窄に対するバルーン拡大術の成績.1)大血管転換症に対するJatene 術後の症例.日小循誌 1993;8:645−−665

Mullins CE, O Laughlin MP, Vick GW, Mayer DC, Myers TJ, Kearney DL, Schatz RA, Palmaz JC:Implanta−

tion of balloon・expandable intravascular grafts by catheterization in pulmonary arteries and systemic vein.

Circulation 1988;77;188−199

0 Laughlin MP, Perry SB, Lock JE, Mullins CE:Use of endvascular stents in congenital heart disease.

Cirulation 1991;83:1923−1939

中西敏夫,小田川康久,山村英司,他:ステントを用いた経皮的肺動脈拡大術.日小循誌 1993;8:540−550 Shaffer KM, Mullins CE, Grifka RG, OLaughlin MP, McMahon W, Ing FF, Nihil MR:Intravascular stents in congenital heart disease:Short−and Iong−term results from a large single center experience. J Am Coll Cardiol 1998;31:661−667

Abdulhamed JM, a]Yousef S, Khan MA, Mul]ins C:Balloon dilatation of complete obstruciton of the superior vena cava after Mustard operation for transposition of great arteries. Br Heart J 1994;72:482 485 Fogelman R, Nykanen D, Smallhorn JF, McCrindle BW, Freedom RM, Benson:Endovasular stents in the pulmonary circulation. Clinical impact on management and medium−term follow−up. Circulation 1995;92:881

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