日本小児循環器学会雑誌 13巻6号 790〜795頁(1997年)
直径3.Omm以上の動脈管開存症に対するコイル閉鎖術 同時ダブルまたはトリプルコイル法の有用性
( ド成9年7月30[受付)
(平成9年1/月]7日受理)
久留米大学小児科,鹿児島生協病院小児科*
赤木 禎治 家村 素史 橋野かの子
衛藤元寿石井正浩堤隆博
杉村 徹 西畠 信* 加藤 裕久
key w《)rds:動脈管開存症,コイル塞栓術, detachable coil,カテーテルインターベンション
要 旨
1995年2月から1997年6月までに当科で施行した動脈管開存症のコイル閉鎖術6/例中,大動脈造影に おける動脈管の最小部径が3.Omm以E(3.0〜5.7min)の31例を対象とし, detachable coilを用いたコ
イル閉鎖術の有効性について検討した.初期の3例に対しては直径8mmのコイルを1個用いて閉鎖を
試みたが,完全閉塞は得られなかった.経静脈的に2個のコイルを同時に留置するダブルコイル法,さらに経静脈的に2個と経動脈的に1個のコイルを同時に留置するトリプル法を使用することによって28 例中26例(93%)で術後24時間以内に完全閉塞を得た.カラードップラー心エコー上残存短絡を認めた
5例中4例は術後6カ月以降にコイルを用いた再閉鎖術を施行し,全例完全閉塞した.コイル閉鎖術後
の平均入院期間は2.4寸0.8日であった.本法を用いることで直径3.Omm以Fの動脈管でも非開胸的治 療が可能である.はじめに
近年動脈管開存症に対するコイル閉鎖術の有用性が 報告されている1) ).本法は4〜5Fといった細いカ テーテルで経静脈的もしくは経動脈的に動脈管の閉鎖 が・∫能であり,従来用いられてきたPorstmann法や Rashkind法と比べより侵襲性の低い方法と考えられ ている.しかしながら,その適応は,一般に動脈管の 最小部径が3.01nlTl未満の小さな動脈管に限られてい る2)〜「 ).これは,塞栓子としてのコイルの性質ヒ3.Omm 以一ヒの動脈管では残存短絡の発生頻度が有意に高くな ること,さらに合併症としてのコイルの脱落頻度が高 率になるためである6).我々はこのような中等度以ヒ の動脈管開存症に対し,複数個のコイルを同時に留置 することにより閉鎖を試みてきたので,その手技と有 効性について報告する.
別刷請求先:(〒830)福岡県久留米市旭町67 久留米大学小児科 赤木 禎治
対 象
1995年2月から1997年6月までに当科で施行した動 脈管開存症のコイル閉鎖術61例中,大動脈造影におけ る動脈管の最小部径が3.Omm以上の31例を対象とし た.これらの症例の閉鎖術施行時年齢は7カ月から47 歳(中央値5.5歳),体重は7.2〜62.Okg(中央値17.O
kg), Fick法を用いて算出した肺体血流比は
1.2〜2.6(中央値1.6),動脈管の最小部径は3.0〜5.7 mm(中央値3.5mm)であった(表1).心合併症とし ては,1例に心室中隔欠損症,/例に大動脈弁狭窄症 を認めた.動脈管の形態はKrichenkoらの分類7)に 従って分類し,Inegaphoneタイプ19例, windowタイ プ5例,tubularタイプ3例, aneurysmalタイプ1例,
elongated conicalタイプ3例であった.これらの症例 は,全例典型的な連続性心雑音を有しており,31例中 12例は肺動脈収縮期圧30mmHg以⊥の肺高血圧を有 していた.また運動時の動摩や多呼吸を25例,反復す る呼吸器感染症を17例,心不全症状を8例に認めた.
日小循誌 13(6),1997 791−(61)
表 1
絡短存残 後間時24
* * * *竃爬三三三三三三㎜竃竃鯉竃古肝nN古百NNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNN
後直
謡 睡
蒜 麗竃璽灘㎞﹄嚥㎞懸㎞
圧
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:再コイル閉鎖術を施行し,完全閉鎖された症例.
#:大動脈弁狭窄症合併例.##:心室中隔欠損症合併例
これらの症例の現在までの平均経過観察期間は12.7±
7.6カ月である.
方 法
初期の3例にはCambierらの報告2)に基づき動脈 管最小部径の2倍以上の直径を有するコイル(すなわ ちコイル径8mm)を1個使用することで閉鎖を試み た.コイル塞栓術を施行することにより動脈管の短絡 血流は有意に低下し,心雑音は3例とも消失したがカ ラードップラー心エコー上ではわずかな短絡血流を認 め,術後6カ月を経ても完全閉塞に至らなかった.こ のため4例目からは2個以上のCook detachableコ イルを同時に用いるダブルもしくはトリプルコイル法 を以下のような方法で施行した.
既に報告している方法1)にそって大動脈造影を行い カテーテル径を基準に動脈管最小部径を測定した.動 脈管の最小部径が3.Omm以上の場合には左右の大腿 静脈からそれぞれ5Frのend−hole multipurposeカ テーテルを挿入し,動脈管を経由し下行大動脈に留置 した.このとき,必要に応じストレートのガイドワイ
ヤーを併用した.このカテーテルを通してCook
detachableコイルを大動脈側に3〜4巻ほど押し出 し,2本のカテーテルをほぼ同時に肺動脈側へ引くこ とによってコイルの留置を試みた.大動脈側のコイル の留置形態が良くない場合にはガイティングワイヤー やmultipurposeカテーテルを操作することによって コイルの位置や形態を変更した.大動脈側のコイル留792−(62) H本小児循環器学会雑誌 第/3巻 第6号
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図] 同時ダブルコイル法による動脈管閉鎖術
(症例13)
a:大動脈造影側面像で最小径4.3mmの megaph(川eタイプの動脈管を認める. b:経 静脈的に2個のdetachableコイル(1白:径8 mlnと5mn1各1個)を留置したところ, c二 動脈管は完全に閉鎖されている.
置が完了した後,肺動脈側のループを形成した.以上 の操作でコイルの留置が終了した後,大動脈造影を行 いコイルの留置状態と残存短絡の有無を評価した.残 存短絡がないか,あってもわずかな(肺動脈内にジェッ トとして流入しない)場合にはガイティングワイヤー を回転させ,コイルを離脱させた(ダブルコイル法).
一方,肺動脈主幹部まで造影されるような有意な残存 短絡が残っている場合には,2個のコイルを離脱させ ることなく,大動脈側から5Frまたは4Frのelld−
holemultipurposeカテーテルを肺動脈へ挿入し,3個 目のコイルを同時に留置し,その後,各々のコイルを 離脱させた(トリプルコイル法).
離脱IO分後に再度大動脈造影側面像を施行し,残存 短絡の有無を確認した.3個のコイルを留置しても残 存短絡のある場合は,再び大動脈側から4Frのend−
holemultipurposeカテーテルを肺動脈へ挿入し,短絡
の消失するまでコイルを追加した.なお操作に先立ち,
ヘパリンを体重あたり50単位(最大量2,000単位)静注 した.呼吸不全の強かった症例13は気管内挿管下に閉 鎖術を施行した.それ以外の症例では術中の安静が得
られない場合に,適時サイアミラールナトリウムの静 注を用いた麻酔下に閉鎖術を施行した.感染性心内膜 炎の予防のため術当口と翌「1はアンピシリンとクロキ サシリンの合剤を100mg/kg/day静注した.
閉鎖術当日,胸部レントゲン写真を撮影し,コイル の位置を確認した.閉鎖術後24時間以内にカラードプ ラ心エコーを施行し,残存短絡や末梢肺動脈狭窄の有 無を確認した.さらにコイル塞栓術後の溶血を評価す るため検血,血液生化学検査を施行した.退院後は1,
3,6,12カ月後に胸部レントゲン,カラードプラー 心エコーを施行し,残存短絡,動脈管の再開通や未梢 肺動脈狭窄の有無を経過観察した.
平成9年12月1口 793−一(63)
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図2 同時トリプルコイル法による動脈管閉鎖
イホ1 (症tij[j 2 6)
a.大動脈造影側面像で最小径42mmの megaphoneタイプの動脈管を認める, b:経 静脈的に2個のdetachableコイル(ilF 1径8 mm 2個)を留置した後の大動脈造影で残存 短絡(矢印)を認めた.c:経動脈的に3個目 のコイル(直径5mm)を留置した. d:3個の コイル留置でも短絡は完全に消失せず,4個 目のコイルを留置するために4Frのカテーテ ルを肺動脈に挿入したところ.e:4個のコイ ル留置により動脈管は完全に閉鎖された.
794−(64)
結 果 1.治療成績
治療成績を表1に示す.先に述べたように初期の3 例に対しては8mmのコイルを1個使用することで閉 鎖を試みた.3例とも心雑音の消失を伴う短絡血流量 の減少を得ることはできたが,カラードプラー1認め られるわずかな残存短絡は術後6カ月をたっても消失 しなかった.ダブルコイル法を開始してからの28例で は術直後の完全閉塞率は68%(19/28),術後24時間の 完全閉塞率は93%(26/28)に達した.残存短絡を有し た5例中4例では,初回閉鎖術から6カ月以降にコイ ル塞栓術を追加し,全例で完全閉塞を得た.表に示す ように最近の15例については,術後24時間の完全閉塞 率は100%に達している.
2.合併症
残存短絡を有した5例中2例では溶血を示唆する LDH上昇(最高値836と708)を認めたが,ヘモグロビ ン値の低下は認めず,術後1カ月でLDH値は正常化 した.ダブルコイル法を開始してからの症例では,術 後翌nに溶血を疑わせるLDHの上昇やヘモグロビン 値の低下を認めた症例はなかった.術後38度台の発熱 を6例に認めたが,全例3日以内に改善し,コイル閉 鎖術後の ド均入院期間は2.4+0.811であった.外来で の経過観察中,動脈管の再開通を認めた症例はなかっ た.治療前に存在した臨床症状は術後1カ月以内にす べて消失した.コイル留置後の左肺動脈の血流速度は 6個のコイルを使用した症例16で1.71m/secとヒ昇 したが,それ以外の症例では全例1.5m/sec以ドで あった.症例16ではコイル塞栓術前後で肺血流シンチ グラフィーを施行したが,術前後での肺血流分布状態 に有意差は認めなかった.
考 察
コイルを利用した動脈管塞栓術は,当初小径が2.5 mm以下の小さな動脈管を主な対象に行われてきた が,最近では複数のコイルを用いて,より大きな動脈 管の閉鎖が試みられている.ところが動脈管径が大き くなればなるほど,術後の残存短絡率が高くなり,コ イルの逸脱を起す確率も高くなっている.米国におけ る動脈管開存症に対するコイル塞栓の多施設研究で は,コイル塞栓術を施行した535例中102例(19%)で コイルの脱落や不安定な留置のためにコイルの回収を 行ったこと,また15例(2.8%)では,肺動脈などに脱 落したコイルの回収が不可能であったこと,残存短絡 率は3.Omm以上の動脈管で有意に高くなることが報
L【本ノJ、LEd Ofi 環器学会雑n志 第13巻 第6号
告されている.術後に重度の溶血が出現し,開胸して 取り除いたとの報告も少なくない.我々も当初Cam−
bierらの報告に基づき直径2.5mm以上の動脈管症例 では最小部径の2倍以一Lのコイルとして直径81nmの
コイルを1個使用することで閉鎖を試みた.しかしな がら術直後に完全閉塞にたどり着く症例はなく,遠隔 期にも完全閉塞を得ることはなかった.
2個以上のCook detachableコイルを同時に用い るダブルもしくはトリプルコイル法の長所は,複数個 のコイルが同時に留置されることでより確実なコイル の留置が可能であること,さらに安定した留置を確認 してから離脱できることである.我々はHijaziらが報 告しているようなGianturco coilを複数個用いた閉 鎖術の経験はないが,留置位置が修正できること,留 置状態を確認した後に離脱できる事から,detachable コイルを用いた方が,特に動脈管が大きな場合には,
より安全に閉鎖術を施行することが可能であると考え
る.
同時ダブルもしくはトリプルコイル法を用いる場合 のコイル選択に関しては,今回の報告では一・定の基準 を持っていない.しかしながら我々の経験を後方視的 にみると,おおよそ以下のような選択法が考えられる.
すなわち,動脈管最小部径が3.0から4.Ommの場合に は,直径51nmのコイルを2本,もしくは動脈管膨大部
径が8mm以上ある場合は直径8mmのコイルと5mm
のコイルの組み合わせ,最小部径が4.(lmm以Eの場合 は直径8mmのコイルを2本使用して最初のコイル留 置を行い,残存短絡のある場合には直径5mmのコイル を大動脈側から追加する方法である.いずれの場合も それぞれの症例の動脈管や動脈管膨大部の直径と形態 を考慮しながらコイルの選択を行う必要がある.また 術後の溶血を回避するために,造影上の残存短絡が消 失するまでコイルを留置する事が重要である.今回対 象にした動脈管の最小部径は5 . 7mmまでであるが,Hijaziらの報告にもあるようにこれ以上のサイズで あってもコイルによる閉鎖は技術的に可能であると思
われる.
本法を施行するにあたっては,2個のコイルをほぼ 同時に操作する必要があり,コイルの操作を充分理解
した2名以上の術者が必要である.またこ0)ような動 脈管では高流速の短絡血流のため直径8mmのコイル では血流によるコイルの変形が大きく,目的部位への 正確な操作が難しいことが経験される.施行するにあ たっては,コイル操作法を含め充分な経験を持った術
平成9年12月1日 795−(65)
者のもとで施行することが必要である.
以上のような制限はあるものの,直径3.Omm以上の 動脈管開存症でも製数のコイルを同時に用いることで 外科手術と比べはるかに低侵襲的に治療が可能であ
り,今後動脈管開存症治療の第1選択となる可能性が あると思われる.
文 献
1)橋野かの子,赤木禎治,杉村 徹,前野泰樹,主計 武代,山川留美,清松由美,衛藤元寿,加藤裕久:
新しいコイルを用いた動脈管開存症のコイル塞栓 術とその中期予後.日小児会誌 1996;100:1888
−−/893
2)Cambier PA, Kirby WC, Wortham DC, Moor JVI,「: Percutanec)us closure of the small(<2.
5mm)patent ductus arteriosus using coil embol−
ization. Am J Cardiol 1992;69:8]5−816 3)井埜利博,西本 啓,秋本かつみ,大久保又一,佐 藤洋明,長岡理恵了,藪田敬次郎:動脈管開存症に おけるコイル塞栓術 4症例での検討一.日小児 会誌 1995;99:ll33−・1ユ36
4)間 峡介,衣川佳数,佐々木 康,中西敏雄:新し いデタッチャブルコイルを用いた経皮的動脈管塞 栓術.H小循誌 1995;11:782 789
5)Moore JW, George L、 Kirkpatirck SE, Mathew・
son JW, Spicer RL, Uzark K, Rothmall A,
Calnbier PA, Slack MC, Kirby WC:Per−
cutaneous closure of the slnall patent ductus dllctus arteriosus using occluding sprhlg coils. J Am Coll Cardiol l994;23:759 765
6)Lloyd TR, Beekman RII, Moore JW, Ilijazi ZM, Hellenbrand WE, Sommer RJ. Wig9{ns JW, Zamora R, Vincent RN:The PDA coil registry: report of the first 535 procedures.
Circulation 1995;92:(Suppl):1−380
7)Krichenko A, Benson LN, Burrows P, Mose CAF, McLaughiln P, Freedom RM:Angiogra−
phic classiHcation of the isolated, persistently patent ductus arteriosus and implantations for percutaneous catheter occlusion. Am J Cardiol I989;63:877−−880
8)Hijazi ZM, Geggel RL: Results of antero−
grade transcatheter closure of patent ductus arteriosus using single of multiple Gianturco coils. Am J Cardiol 1994;74:925−929 9)Shim D, Wechsler DS, Lloud TR, Beekman RH III: IIernolysis following coil embolization of patent ductus arteriosus. Cathet Cardiovasc Diagn 1996;39:287 290
Transcatheter Coil Occlusion of Moderate Size(≧3.Omm)Patent Ductus Arteriosus:Efficacy of Simultaneous Double or Triple coils Technique
Teiji Akagi, Motohumi Iemura, Kanoko Hashino, Genju Eto, Masahiro Ishii,
Takahiro Tsutsulni, Tetsu Sugimura, Makoto Nishibatake*and Hirohisa Kato Department of Pediatrics, Ku14ume University School of Medicille and Kagoshima Seikyo Hospital*
To evaluate the cHnical efficacy of transcatheter coil occlusion of patent ductus arteriosus minimum diameter≧3.O Inm,31 patients were analyzed. The minimum ductal diameter was ranged fron13.Oto 5.7mm with a median of 3.5mln. Cook detachable coil system was used in all cases. Although successful coil occlusion achieved and heart murmur disappeared in the first three patients in this series using one 8 mm coil, color Doppler echocardiography persisting small residual shunt flow more than 6 months after the procedure. Using the technique of simultaneous and transvenous approach of two coils(double coil technique), or simultaneous transvenous approach of two coils and transarterial approach of orle coil(triple coil technique), color Doppler echocardiographic complete occlusion was observed in 260f 28 patients(93%)within 24 hours after the procedure. Repeated coil occlusion was performed in 40f 5 patients whose residual leakage persisted more than 6 months, and complete occlusion was observed in all。 The hospital stay was ranged from 2 to 4 days with a mean of 2.4±0.8 days. Using these techniques,
nonsurgical closure of patent ductus arteriosus can be performed safely even in patients whose mininluIn ductal diameter ≧3.O mm.