要旨:
本研究の目的は、スクールソーシャルワーカーが子どもに対してどのようなプロセスでアド ボカシー機能を遂行しているのか、さらに同機能を遂行するにあたりその促進 ・ 阻害要因が何 かを実証的に明らかにすることである。研究成果は、最終的に実践的活用を意図している。
研究方法は、7名のスクールソーシャルワーカー(4年未満の経験者)に対し、半構造化イ ンタビューを行い、その結果を修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチで分析を行った。
分析の結果、教職員から情報収集をしたスクールソーシャルワーカーは壁にぶつかり戸惑う が、それを機に積極的に介入しようと試み、子どもや保護者に寄り添う。しかし、うまく進展 せず困り感を感じる。それを契機としてスクールソーシャルワーカーはスーパービジョンから ヒントを得、気づくのである。その後、先を見据えた専門的判断と支援を行うことで子どもの アドボケイトにつながる。
キーワード:スクールソーシャルワーク、アドボカシー機能、教職員との連携、半構造化イン タビュー、修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ
はじめに
1989年に「子どもの権利に関する条約」(以下、条約)が国連で採択されて以来、20年余の 月日が流れた。その現代的意義について、喜多明人(2011)は、わが国においていじめや虐待 など子どもへの暴力、権利侵害からの救済・予防は、条約が示してきた「解決主体としての子 ども」観に依拠した子どもオンブズパーソン制度の発展等に寄与し、昨今の厳罰主義への子ど も政策に歯止めをかけてきたと指摘する。
また、日本政府は同条約を1994年に批准してからこれまで3度にわたり国連に対し報告書を 提出している。言うまでもなく、条約の国内法上の地位からすると条約に抵触する法律がない か、新たに立法措置が必要か否かなど検討しなければならない。しかしながら荒牧重人(2010)
によると、2008年4月に提出した第3回報告では、第2回総括所見の実施に誠実に取り組んだ とはいえないと政府の姿勢に疑問を投げている。
ここで条約とスクールソーシャルワーカー(以下、SSWr)の関係について言及すると、条
スクールソーシャルワーカーのアドボカシー 機能遂行のプロセス
〜子ども支援に焦点を当てて〜
比 嘉 昌 哉
沖縄国際大学人間福祉研究 第10巻 第1号 2013年3月
約の中に SSWr 配置に関する規定は存在しない。ところが、第3回子ども権利委員会勧告にお いて「生命・生存および発達の権利」に関する項目で自殺予防対策の一環で SSWr の配置につ いて初めて言及がなされている。自殺予防に限らず、今日の学校現場では、いじめ、体罰、特 別支援教育における課題及び過度に競争的な学校環境の課題等が山積している。そのような中 で2008年度から SSWr の全国配置が開始された。
翻って、学校現場におけるソーシャルワーク(以下、SW)実践においてアドボカシー機能 は重視され・実践されているであろうか。筆者はこれまでの自身の実践活動や現在行っている スーパーバイザー(以下、SVr)としての経験から、子どもたちの権利を護るために同機能に 着目し、それを遂行しているか否かを検証する必要性を痛感している。なぜならば、立場の弱 い子どもへのアドボケイトは、SSWr の実践において最も重要な役割と考えるからである。そ こで本研究において、筆者は SSWr のアドボカシー機能に焦点をあてる。
Ⅰ
.研究の背景SSWr 活用事業は、始まったばかりの事業であるためスクールソーシャルワーク(以下、
SSW)の実践・研究とともに今後発展していくことが期待される。ここでは、国の SSWr 活用 事業と SSWr の重要な役割と考えるアドボカシー機能を取り上げることとする。
前者については SSW の担い手を中心に述べることとするが、一地域の SSW 実践に焦点を当 てる前に全国の SSWr 活用事業の全体像を概観することとする。また、後者についても後述す るように、アドボカシー研究自体も発展途上にある現状で、アドボカシー機能の枠組みをどの ように捉えるかということは重要であり本研究の根幹に関わることと考える。
1.スクールソーシャルワーカー活用事業
「SSW 元年」と呼ばれた2008年度より全国的に SSWr が配置されている。初年度全国で944人 の SSWr が配置され、一挙に世間の注目が集まった。
その担い手である SSWr 像について文部科学省(以下、文科省)は、①社会福祉士や精神保 健福祉士の社会福祉国家資格を有する者、②教育・福祉の知識・技術をもち、過去に教育・福 祉分野で活動経験のある者としている。SSWr は、ソーシャルワーカー(以下、SWr)である にもかかわらず、文科省が上記のように任用のあり方に含みをもたせたのは、社会福祉の専門 性と教育現場で具体的にアクションを起こせる実績双方を兼ね備えた人材が限られていること が理由としてあげられる(日本社会福祉士養成校協会 2008)。財務省主導で導入された経緯を 含め、急遽決まった事業であるため、担い手不足の課題は当初より予想されたことである。そ れゆえ、現任訓練・人材養成については 走りながら考えざるをえなかった のである。その 結果、野田正人(2007)が指摘するように事業開始以前から全国各地で課題であった SSW 活動と SSW 的活動 の課題がより明確になってきた。
2012年度で5年目を迎えた同事業であるが、2年目の2009年度より、事業の形態が変更さ
れ、委託事業から補助事業となった。これまでの先行研究としては、担い手の資質や資格の有 無から生じるであろう SSWr の役割・機能について言及した先行研究は少ない。都市部であれ ば、社会福祉士等有資格者のみで採用可能だが、地方では社会福祉の国家資格を有する者の割 合は都市部に比べ低い 。都市部では社会福祉士・精神保健福祉士資格の所持を雇用の際の採 用要件にしているところも多いが、地方では同様に設定し公募すること自体難しい。実際、A 県での2011年度の国家資格所持者の割合は25.9%(7 /27)である。一方、SSW 実践は SW の 専門家が実践するのが前提だが、実際は否である。資格が仕事をするわけではないが、野田
(2007)の指摘を待つまでもなく、子どもの抱える様々な課題には一定の専門性を兼ね備えた 専門職が対応すべきと考える。
また、 SSW 元年 に文科省が行った調査(岡本 2009)では、社会福祉士をもつ者46.7%、
精神保健福祉士をもつ者は24.0%となっていた。さらに、日本社会福祉士会(2012)が2011年 度に行った調査によると、全国には463名の SSWr が配置され、そのうち社会福祉士をもつ者 45.6%、精神保健福祉士をもつ者は13.2%となっている。それ以外の資格等としては、教員免許 所持者、心理に関する資格等があげられるが、SW を専門とする者の SSW 活動とそれ以外の者 の行う SSW 的活動には違いが出ることは想像に難くない。
2.アドボカシー機能
国際ソーシャルワーカー連盟の SW の定義には「SW 専門職は、人間のウェルビーイングの 増進を目指して、社会の変革を進め、人間関係における問題解決を図り、人々の エ ン パ ワ メ ン ・ ・ ・ ・ ・ ・
ト と解放を促していく(後略)」(傍点筆者)とある。筆者は、昨今の社会情勢を踏まえ子ども・ を支援する大人(支援者)が増加する中、SSWr が当事者である子どもの権利擁護を意識し、
積極的に取り組むことはその独自性・存在意義に大きく関わるものと考える。一方、SSWr の役 割として山下英三郎(2006)や山屋春恵(2008)らもアドボカシー機能の重要性を取り上げて いるが、ここでは門田光司と小西加保留の定義を中心にみていくこととする。
門田(2010:26)はアドボカシー機能について、マイケルソン(J.S.Mickelson)の定義を 参照にしながら、大きく4つに分類している。それは、①ケース(マイクロ・クライエント)
アドボカシー、②クラス(マクロ・コーズ)アドボカシー、③セルフアドボカシー、④仲間ア ドボカシーである。そのうち、SSW においては子どものニーズを権利擁護・代弁するため子ど も個人を支援する「ケースアドボカシー」と教員へのコンサルテーションを通して学級の児童 生徒たちのニーズを代弁・権利擁護する「クラスアドボカシー」が特に重要であると強調する。
野田は、SSW 活動と SSW 的活動を区別し定義している。前者は SW を専門とする者が SW を認識して行う 活動を指し、後者は SW を専門としない者が SW を認識して行う活動としている。
野田正人(2007):「スクールソーシャルワークの役割」『スクールソーシャルワークの可能性』ミネルヴァ 書房、18-30。
例えば、都市部の東京、神奈川、愛知、大阪の4都府県の社会福祉士合格者は1万に超えるのに対し、秋 田、山梨、和歌山、鳥取、島根、徳島、高知の7県は1000人を下回る。ちなみに、A 県は1500名余である。
[(社)日本社会福祉士会(2012年3月現在)]
SSWr の支援対象として子どもの保護者や教職員を含めることは当然のことだが、本研究で は、特に子ども本人への支援に焦点をあてることから、門田のいうケースアドボカシーに焦点 化し進めていく。しかしながら、言うまでもなく子どもを支援する上ではケースアドボカシー に限らず、クラスアドボカシー等も併行して行われる必要があるため、切り離して考えること はできないことをはじめに断っておきたい。
一方、小西(2007:42)はアドボカシー概念について、沖倉らの分類を元にその区分と内容 を整理している。小西は、アドボカシーをパーソナルレベル・システムレベルに大別し、前者 の主なものにケース・クライエント、グループ、ピアアドボカシーを、後者の主なものにクラ ス、パブリック、リーガルアドボカシーをあげ、これらは必ずしも単独で行われるものではな く、それぞれが補い合って重層的にダイナミックに展開されることで効果が発揮できるとして いる。また、アドボカシー活動の区分は、活動の対象・内容・場などのレベルを放置したまま、
それぞれにネーミングがなされているということ、さらに担う者が当事者、家族、弁護士、
SWr など多彩であるため混乱が生じていると指摘する。
小西の区分からすると、筆者が本論で捉える SSWr が行うアドボカシーは、ケース・クライ エント、ファミリー、アシスティブといったパーソンナルアドボカシーを指すといえる。その 一方で、生活そのものを支援する SSWr は広い意味ではすべてを網羅し、セルフ、ピア、リー ガル、コミュニティレベルのアドボカシーを無視することはできない。つまり、SSWr が狭義 のアドボカシー に固執し、社会変革のための活動を軽視するのであれば、本来のアドボカ シー機能は発揮できないといえる。
Ⅱ.研究の目的と方法
1. 目的
筆者は、学術コンテンツ・ポータル(GeNii)を通して文献レビューを行ったが、本テーマ に関する先行研究はほとんどなかった。換言すると、「SSW」と「アドボカシー」をキーワー ドとして検索したがヒットしたのは数件であり、筆者の求める SSWr のアドボカシー機能に焦 点化したもの及びその支援プロセスを明らかにしたものはほとんどなかった。
また、SSWr がアドボカシー機能を遂行するには何らかのきっかけが存在すると考える。そ こで、本研究において現役 SSWr へのインタビュー調査を実施し、そこで得たデータを修正版 グラウンデッド ・ セオリー ・ アプローチ(以下、M-GTA)によって分析する。それにより、
同機能がどのようなプロセスで遂行されるのか、さらに同機能を遂行するにあたりその促進・
阻害要因は何かを探っていきたい。
本論において「アドボカシー機能」とは、単に本人の代弁だけではなく、自分自身の権利を主張したり、
ニーズを表明することに困難を伴う、痴呆性高齢者、障害者、子ども等に対し、彼らの自己決定に基づき、
本人に代わってその権利を擁護したり、必要なサービスを獲得するための様々な仕組みや活動の総体として 捉える(沖倉 2001)。
2. 方法
三毛美予子(2003)は、量的調査法と対比し質的調査法の長所として、①人々の感情・意 図・認識・相互作用に付与している意味に焦点をあてること、②現象のプロセスを捉えること、
③研究テーマとなる現象が認知されていない・理論や概念が十分示されていない場合に適して いることなどの3点を指摘している。
本研究では、前述のように SSWr が実践を行う中でアドボカシー機能の遂行プロセスを明確 にすることを目的とする。現時点では分かっていないが、実際には起こっている現象を探索的 に捉え、それを明らかにする必要性を感じている。ゆえに、本研究では質的研究を採用するこ ととする。
(1)調査協力者
調査協力者は2011(平成23)年度 A 県内に勤務している SSWr のうち、県教育事務所派遣 の SSWr 8名である。但し協力者のうち1名が調査終了後に調査協力を辞退したいと申し出た ため、調査結果から除外し、計7名となった [ 表1参照 ]。調査方法は半構造化インタビューを 採用し、1人当たり概ね1〜1.5時間、回数は1回である。インタビューの期間は2011年2〜8 月である。インタビューに要した総時間は、9時間5分である。インタビュー内容は IC レ コーダーで録音し、その後データを逐語録化しまとめた。
以下、表1は調査協力者の概要である。
(2)倫理的配慮
調査協力者には事前に研究の趣旨について口頭及び文書にて説明を行った。調査の記録につ いては、すべての調査協力者から同意を得て IC レコーダーで録音を行った。また、分析及び結 果公表の際には、個人が特定されないように十二分に配慮した。
表1 調査協力者一覧
インタビュー 勤務形態 時間 資格の有無
( 社会福祉士等 ) SSW 入職前の
SW 経験年数 SSW 経験年数
性別 協力者 年齢
NO.
配置型(単独校 ) 1 時間 15 分
無 7年
2年目 女性
30 代 1
配置型(単独校 ) 1 時間 18 分
有 3年
2年目 女性
20 代 2
配置型(拠点校)
1 時間 18 分 有
なし 3年目
女性 40 代 3
配置型(拠点校)
1 時間 35 分 有
20 年 3年目
女性 50 代 4
配置型(拠点校)
1 時間 6 分 無
37 年 2年目
女性 60 代 5
派遣型 1 時間 24 分
無 なし
3年目 女性
60 代 6
派遣型 1 時間 9 分
無 1 年
3年目 女性
40 代 7
※協力者の年齢及び SSW 経験年数等は、調査時(2011 年 8 月 31 日現在)のものとする。
なお、データは研究室内の鍵のかかるロッカーに保管し、調査票及び結果は開示の求めに対 し説明責任を果たすべく最低5カ年は保管する。その後、紙データについてはシュレッダーに て自ら処分する。
さらに、調査の実施 ・ 結果の分析においては、筆者が調査協力者である SSWr らの SVr であ ることも十分に配慮し実施した。
(3)分析方法
本研究では、M-GTA(木下康仁2009;2007;2003)に基づいて分析を行った。M-GTA は、
アメリカの社会学者 Glaser と Strauss によって考案されたグラウンデッド ・ セオリー ・ アプ ローチに実践的応用を意図して木下が修正を加えたものである。
筆者が、本研究において M-GTA を採用する理由は以下の3点である。① SSW 自体が ヒューマンサービスであり、SSWr が課題を抱える当事者(子どもら)に働きかけを行うこと により、当事者の課題を解決・緩和するプロセスをもつ。② SSWr は子どもを援助の中心にお きつつ、その家族、関係する学校教職員、その他地域の関係機関等の社会的相互作用の中で支 援活動を行う専門職である。③本研究で得られた知見は実践的活用を意図しており、SSWr が 今後効果的に役割遂行していくために必要な実証研究といえる。
また、M-GTA では分析焦点者と分析テーマを定め分析を進める。ここでは、上記の調査協 力者を分析焦点者と呼ぶ。換言すると、本研究では分析焦点者を SSWr としての実践活動歴が 短い SSWr(4年未満)とする。分析テーマは、「壁にぶつかった SSWr がスーパービジョン
(以下、SV)を契機にアドボカシー機能を発揮できるようになるプロセス」とした。なお、こ の時点における現象特性は、「SSWr が壁にぶつかることで悩むが、それを機に SV 等を通して 自らの役割を再確認する」であった。
8人目のインタビューは一定の分析が完成した後に実施したが(期間的には、1人目の調査 からは半年間のタイムラグあり)、そのデータから新しい概念生成の可能性は見出せず、これま での分析結果で説明可能であった。それゆえ、一定の理論的飽和化に至っていると判断した。
一方、逐語録についてはインタビュー終了後速やかに作成し、それを当該調査協力者に提示 し、話した内容と相違はないか確認していただき、若干の修正を行った。なお、分析に際して は質的研究に詳しい研究者(社会福祉学博士)に個別 SV を依頼し継続的に指導を受け、さら に西日本 M-GTA 研究会においてグループ SV を受けた。
Ⅲ.研究の結果及び考察
概念の生成に関しては、概念ごとに「分析ワークシート」を立ち上げ作業を行った。その一 例として表2「ワークシート例示『介入チャレンジ』」を示す。最終的には29の概念、13のサ ブカテゴリー、4のカテゴリーが生成された。その生成された概念、概念の定義、サブカテゴ リー、カテゴリーの一覧を表3「カテゴリー・概念一覧」として示すこととする。
表2 ワークシート例示「介入チャレンジ」
介入チャレンジ 概念名
保護者や教職員等に対し、いくら拒まれても積極的に介入していくこと。
定 義
1. (ケース会議などは?)いいえ、ケース会議はもてません。校内での関係する教員間での進捗状況に対 する情報交換はできますが、ケース会議がもてていません。(もてなくてもここまでうまくいっている?
どうしてももてない?)臨時の職員会議ではなく、全体での会議やケース会議をもっともってほしいとい う要望書は出しました。≪ No.1 ≫
2. 学校の先生についても中にいる方についても最初はよそ者というのがあからさまに見えたのですが、
今はそれはなくなってきている。支援する立場、関係機関の立場で言えば、面白くない、こういうケース をつないだことで面白くないと思っている方〈教員〉もいると思います。こういう様子がうかがえます と、行政におけるケース会議で学校における調査ではこういうことがわかって、ここにつなげたいと 思っていますとつなげた時に、何ていったらいいのか?受け取りたくないというか〈笑〉……。(温度差が ある)はい。(やりたいという想いと現実の行動どうでしょうか?)両方ですかね。自分のできることを やる、フォローする。逆に放置することも。(原動力は?行政へ働きかける……)地域の子どもでしょ。
こんなに困っている子どもがいる、それが分かったのだから支援してあげてと。私たちができる範囲も 限られているので、そちらでできる支援で助けてあげてと。≪ No.1 ≫
3. (教師らに跳ね返〈反対〉されたことについては?)跳ね返〈反対〉されると、その場は〈笑〉……、
その時の細かい内容は覚えていないのですが、その時に跳ね返〈反対〉された場合はそうですかと思うの です。私はちょっとずつやってみせると、やっぱりこうだったんだと先生方にも見えてきて、じゃそのま まお願い〈依頼がくる〉みたいになることもあったので。(後で自身が見せるということ)はい。≪ No.3 ≫ 4. A 病院のケースワーカーにこういう状況があってと〈お父さんが一時帰宅する〉情報を流してほしい と病院に要望したら、組織ではやっていないし、任意入院なので〈一時帰省を〉拒む理由もないと。だ からできないと言われたので、〈私は〉ケースワーカーの方に直接話そうと相談した。この子を支えたい と思っていること、お父さんが帰ってくると彼にこういう不利益があると。するとケースワーカーの方 が分かった、自分の判断でお父さんの利益だけを考えて息子さんに不利益が生じるというのであれば ケースワーカーの方から私に連絡をしましょう。≪ No.4 ≫
5. 彼はお母さんが修学旅行に行かせられないと言った時から、ずっと登校しなくなった。お母さんを呼 んで、これでは約束したことと違うと、やってくれると言ったので住所を移さないことにしたのにどう するんですか?と。彼は修学旅行を結構楽しみにしていたし、今からどうにかならないかというと、〈お 母さんは〉いや本人も納得しています。〈うちの子は〉誰も修学旅行に行った子はいない。これがお母さ んの平等と〈笑〉。これが B 家では平等でも他の普通の中学生では平等ではない、みんなができているこ とを経済的な理由できない状況を社会はなくそうとしているのですよと。その時は時すでに遅しという 感じになった。だったらもうちゃんと住所を移しましょうと働きかけた。≪ No.4 ≫
6. 2 学期始まった頃に、担任から。いきなり当初から本人・お母さんとは面識ないし、いきなり私は SSWr ですという訪問はできないので、必ず担任の先生の了解を得るとかどうしても行けなければ、担任 にアポを取ってからしか行けない。この担任の先生には私しょっちゅう言っている、「お願いだから私と 一緒に家庭訪問しよう」と。ほんと一緒に行こうと言っても全くダメ。行けなければ、ちょっと連絡を 取って何とかしてくれないとモーションかけていたのだけど全くらちがあかなくて。結局関わったのが 2 学期の末の 11 月か 12 月の始め。≪ No.5 ≫
7. 学校側は何度か家庭の中に入ろうとしたのですけど、家庭訪問はよしてくださいと、お父さんから言わ れていた。精神的に落ち着かないお母さんなので家庭訪問すると余計落ち着かなくなると。家庭訪問お 断りしますと、何年も家庭訪問していないケース。今回、去年の 5 月から〈私は SSWr として〉C 小に 配置されているので、SSWr が配置されたのを機会に、子どもと親の相談員に働きかけてまずは家庭訪問 してみましょうと。一応ケース会議も行いました。家庭の方から訪問はよしてくれと言われても、これ では窓口を開けない限りどうしようもない、不登校は続くと。まずは私と子どもと親の相談員が家庭訪 問すると。≪ No.6 ≫
ヴァリエー ション
(具体例)
・他の概念 介入お断り と関連あり。
・定義:保護者や教職員等とする⇒保護者や学校だけではなく、教育委員会も含むため。
理論的メモ
注)《 》内の No. は調査協力者それぞれに割り振った通し番号であり、下線は発言のポイントである。
また、( )は筆者の発言であり、〈 〉は筆者の補足である。
表3 カテゴリー・概念一覧
定義 概念 概念
サブカテゴリー カテゴリー
初期段階において、子どものニーズを確認するために、学 校・教職員から情報収集を行う。
子どもの情報を集める 教職員と 1
うまくやる 情報収集か
らはじめる
教職員と連携しなければ前に進めないので波風を立てない ようにうまく付き合うこと。
波風を立てない 2
子ども理解のため初期の段階で、保護者(母親)と接し信 頼関係を築くため聴くことに徹する。
保護者の声に耳を傾ける 3
子どもに寄り添うことを意識し、援助を進めていこうとす るが自らの力量不足を感じる。
力量不足 4
壁にぶつかる
支援が必要であるにも関わらず、保護者や学校(教職員)
が介入を拒否するということ。
介入お断り 5
保護者や教職員等に対し、いくら拒まれても積極的に介入 していくこと。
介入チャレンジ 6
壁を崩す 介入チャレンジ によって問題要因が発見でき、次の支 援につながるということ。
問題要因の発見 7
子どもの声(想い)を確認しつつ、信頼関係の構築に努め ること。
子どもの声(想い)を確 8 認する
直接関わる
寄り添う
普段保護者から褒めら(承認さ)れることの少ない子ども たちを意図的に褒めて認めてあげること。
意図的に子どもを褒める 9
子どもを支援する中で、親代わりにしつけ等をして丁寧に 関わること。
親代わりに関わる 10
子どもの声(想い)を聴くことの重要性を認識した上で家 族・保護者、友人、教職員及び関係者へ伝えること。
子どもの声(想い)を周 囲に伝える
11 伝える
保護者の要望を受けとめ、その抱える課題をともに解決し ていけるように信頼関係を構築すること。
保護者の要望を受けとめ 12 る
受けとめる
保護者と関わりをもち、その声(想い)を受け止めること で安心感を与えること。
保護者の声(想い)を受 け止め安心感を与える 13
意識して学校と保護者の間に入り、保護者の声(想い)を 学校・教職員に伝えること。
保護者の声(想い)を学 校・教職員へ伝える 14
教員ではなく、SSWr が家庭訪問をすることにより保護 者・家庭の状況を理解すること。
家庭訪問から保護者・家 庭を理解する
15
子どもにあらわれてくる問題を家族(夫婦)の問題として 捉え対処する。
家族 ( 夫婦)の問題として 捉え対処する
16
援助のプロセスで介入チャレンジを試みるがうまく進展せ ず、困り感を感じる。
どん詰まり感 17
どん詰まり
自ら受けてきた SV 等を通しての子ども(対象者)との関 わり方に気づくこと。
ヒントを得る 18
気づく
SV を契機 に動く
SSWr が自己覚知を通して、自らをコントロールし、対象 者に情緒的に巻き込まれないようにする。
情緒的に巻き込まれない ようにする
19
事前情報に左右されず、子どもの権利を護るため自らの目 で確かめながら援助すること。
自らの目で確かめる 20
情報の扱い を注意する
なかなか話してくれない子どもに対しては、周囲から情報 周囲から情報を集める を得る。
21
周囲の関係者から事前に得た情報を鵜呑みにせず、白紙の 状態で支援に取りかかること。
事前情報を鵜呑みにしな 22 い
現状を打破するために、少し先を見据えて専門的な判断を して、支援の手立てを考える。
少し先を見据える 23
先を見据え た専門的判 断と支援
援助プロセスの途中で子どもの変化に気づくこと。
子どもの変化に気づく 24
子どもの権利を護るために他機関へ積極的に働きかけるこ とにより単なるリファに留まらず実質的につなげること。
実質的につなげる 25
関係機関の動きが悪く、当事者である子ども・保護者に嫌 な思いをさせてしまいその尻拭いをすること。
関係機関の尻拭い 26
尻拭い
(問題要因の発見から)関係者を巻き込み、協働するまで にいたる。
関係者との協働 27
子どもをア ドボケイト
する
子どもが本当に何も求めているかくみ取ること、また、く み取ろうと努力すること。
真のニーズをキャッチす 28 る
子どものニーズ をキャッチする
子どもの望むことにパートナーシップを意識して支持する 希望を支持する こと。
子どもを 29 支持する
分析の結果、SSWr がアドボカシー機能を遂行する上で影響を与える要因の存在が確認でき た。以下、分析テーマである「壁にぶつかった SSWr が SV を契機にアドボカシー機能を発揮 できるようになるプロセス」に沿ったストーリーラインを示す。その際、カテゴリーを【 】、
サブカテゴリーを〈 〉、概念を で表す。なお、文中の『 』はインタビューデー タからの引用であり、ここでは紙面の都合上代表的な語りを掲載することとし、( )は筆者 の補足とする。以下がカテゴリー4、サブカテゴリー13を使用してのストーリーラインである
(文末「結果図」参照)。
SSWr は、まず〈教職員とうまくやる〉ことを意識・実践しながら【情報収集からはじめる】。
その際に最初からうまく展開せず〈壁にぶつかる〉。この〈壁にぶつかる〉は全プロセスを通し て起こる事象であるが、SSWr はそれを機に積極的にその〈壁を崩す〉ことにチャレンジする。
その後、子どもや保護者に【寄り添う】。換言すると、子どもに対しては〈直接関わる〉ことや 子どもに関する情報を周りの関係者に〈伝える〉などをして支援し、また保護者に対しては
〈受けとめる〉ことなどを実行する。そこで支援がスムーズに展開すればいいが、うまくいか ず〈どん詰まり〉に陥る。
そして SSWr は、【SV を契機に動く】。つまり、SV を通して子ども等の関わり方に〈気づく〉
ことやアセスメントに不可欠な〈情報の扱いに注意する〉のである。次のプロセスは2つに分 かれる。まず〈先を見据えた専門的判断と支援〉や関係機関の〈尻拭い〉に進む場合である。ま た、他方では SV を契機としての気づきから、先の〈壁を崩す〉プロセスに戻る場合である。そ こから再度子どもや保護者に【寄り添う】へ、さらに〈先を見据えた専門的判断と支援〉等へ 進む。それらを経て、SSWr は表面的には見えない〈子どものニーズをキャッチする〉ことや パートナーシップを意識しつつ〈子どもを支持する〉などして【子どもをアドボケイトする】。
以下、プロセスを前半と後半に大別し、結果及び考察を示すこととする。
1.支援初期の【情報収集からはじめる】から【寄り添う】までのプロセス
SSWr はまず、情報の源である学校・教職員から 子どもの情報を集める 。その際に待った がかかると前に進めないので 波風を立てない ように〈教職員とうまくやる〉。それは、新任 SSWr の宿命ともいえる。専門職とはいえ関係者に対し、最初から率直に言いたいことを言え るわけではない。つまり、教職員と協働して子どもを支援するため、うまく折り合いをつけて 進めていくのが SSWr の腕の見せ所である。そこで衝突してしまうと進展できないため支援初 期の一つのポイントといえる。学校というフィールドで SW 実践を行う SSWr にとっては重要 な側面といえ、そこでは学校そのものの理解が必要である。
現在の「学校」は、学校が校長をトップとするヒエラルキー社会であること、校務分掌制度で一教員が一人何役も 担わなければならない(教科指導のみならず生活指導・保護者支援など幅広い役割を求められている)現状がある。
また、初期段階では保護者(特に母親)と接し、信頼関係を築くために 保護者に耳を傾け る ことに徹し、子ども理解を図る。
その後、SSWr は〈壁にぶつかる〉。つまり、支援のプロセス途中で SSWr 自らが 力量不 足 を感じたり、支援の必要があるにもかかわらず保護者及び学校・教職員から介入を拒まれ たりする 介入お断り がある。子どもを支援するプロセスにおいて、SSWr が子どもに対し うまく応えられない、イライラする自分に気づく、子どもがなかなか話してくれない(心を開 かない)ということが起こり、自らの力量不足を実感する。一方、教職員は子ども支援の必要 性は認識しているが、SSWr が子どもと関わることに対して拒否することがある。それは教師 自らの領域を侵されたくないという教員の意識の現れ(抵抗)ともいえる。これについては、
厨子健一・山野則子(2011:37)の指摘する「教師の単独解決への使命感」 という概念で説明 できる。つまり、教職員は学校現場で起こっている問題に対し外部の人材に任せることなく自 ら解決しなければならないという責任感やプライドをもっており、それにより SSWr へ待った をかけるということである。
換言すると、学校教職員、教育委員会(以下、教委)の理解不足は支援を停滞させる。今回 の事例の中には、ニーズはあるが関わりを拒否する保護者や担任教諭の存在があり、子どもや 保護者との関わりそのものがとれないケース、教委の対応のまずさで不登校が長引いたと考え られるケースもあった。その逆では、学校・教職員の理解が得られることで支援がスムーズに 展開することもあった。
教職員と SSWr の関係性については、西野緑(2010)、三毛(2003)らが 力量に基づく関 係 という概念を用いて、連携協力者である教職員とバランスを取りながらうまくつながり・
連携することを指摘している。筆者は、両者が単に親しいというだけではなく、お互いの専門 性を尊重し言いたいことが率直に言える関係性を保ち、時にはお互いの足りない部分を補い合 い、子どものために一緒に取り組むパートナーシップを構築することが重要であると考える。
その後のプロセスとして、SSWr は〈壁にぶつかる〉とその〈壁を崩す〉ことにチャレンジ する。保護者や教職員に対し、いくら拒まれても積極的に介入しようとする 介入チャレンジ を試み、またそれを機に 問題要因の発見 をし、〈壁を崩す〉。そして、第一義的対象者であ る子どもや保護者に【寄り添う】のである。子どもに対しては、〈直接関わる〉こととして、子 どもとの信頼関係を構築すべく 子どもの声(想い)を確認する ように努め、さらに 意図 的に子どもを褒める 、 親代わりに関わる ことを行う。問題を抱えている子どもの場合、普 段から保護者との関わりが少ない傾向にある。いわゆる児童虐待など不適切な環境に置かれて いる子どもや、判断のつきにくいグレーゾーンにいる子どもに対し、どのような支援の手立て を考えていくかは大きな課題といえる。西野(2009a;2009b)のいう「虐待的養育環境」にあ
厨子らは、SSWr の実践プロセスには、市町村教育委員会指導主事、教師及び SSWr の三者の認識が影響し、また その三者の認識は相互に影響し合っていることを明らかにしている。
厨子健一・山野則子(2011):「スクールソーシャルワーカーの実践プロセスに影響を与える要因〜当事者に問題意識 がない領域に関わるスクールソーシャルワーカーに着目して〜」『社会福祉学』52-2、37。
る子どもへ支援を考えていくことは、早期発見・支援、予防の視点からも重要といえる。その ような子どもたちにとっては、保護者以外の大人が日常的に関わることで、しつけを受けたり、
褒められ(承認され)たりと貴重な体験となる。子どもの心身の発達状況を理解し、子どもの 根底にある愛情・承認欲求を満たすように関わること(他の関係者にも要望する)も、筆者は SSWr の重要な役割と考える。
また、SSWr は子どもの声(想い)を周囲の者へ〈伝える〉のである。弱い立場に立たされ ることの多い子どもたちは、自ら想いをもっていても積極的に周りへアピールすることが難し い。SSWr は子どもの声(想い)を代弁し家族・保護者、友人、学校・教職員及びその他の関 係者に伝えるのである。ある SSWr は、ケース会議における場で『SSWr の役割は、子どもの 気持ちを代弁することであり、こういう場で代弁しなければどこでするのかと思った』と子ど もの視点で代弁することの重要性を語っている。
SSWr は、併行して保護者を〈受けとめる〉。具体的には 保護者の声(想い)を受けとめ安 心感を与える ことや 保護者の要望を受けとめる ことである。これらは、初期段階におい て当然の関わりともいえ、信頼関係の構築にもつながる。後者の「要望」については「声(想 い)」とは異なり、より保護者が明確に感じている事柄であるため SSWr は意識して受けとめ 本人及び周りに対しアクションを起こさなければならない。
加えて、 家庭訪問から保護者・家庭を理解する 、 家庭(夫婦)の問題として捉え対処す る 及び 保護者の声(想い)を学校・教職員に伝える ことも行う。家庭訪問による支援は、
SSWr のアウトリーチの一方法である。一 SSWr は、『教職員の場合、保護者と関わること、家 庭訪問することを躊躇する場合もあるが、SSWr はそれを積極的に行う。受け身ではなく積極 的に家庭に入ることができるのも SSWr の強みである』と語っている。
家庭(夫婦)の問題として捉えることは、子どもに現われてくる問題を子どものみの問題と せずに捉えることである。つまり、エコロジカルな視点で問題を捉え、子どもとその周りの環 境との交互作用で問題が生じていると考えることである。まさに SW の視点であり、それを学 校現場の教師らに提示することも大きな意味をなす。 保護者の声(想い)を学校・教職員に伝 える ことは、保護者の声(想い)を代弁することである。昨今の学校現場では、モンスター ペアレンツと呼ばれ、無理難題要求をする保護者の存在も指摘される(小野田2009;2010)と ころであるが、警察や弁護士の介入を要するようなケースは稀であり、多くの保護者は子ども のことを考え、なかなか学校へ発言しづらいのが現状である。そういう意味では 、SSWr が学 校・教職員と保護者との間に入り仲介・代弁機能を発揮することは重要な役割といえる。
2.〈どん詰まり〉から【子どもをアドボケイトする】までのプロセス
前述のようにほとんどの SSWr がプロセスの初期で〈壁にぶつかる〉ことで困るが、これま でに培ってきたスキル等で乗り切っていく。しかし、 介入チャレンジ を含め、〈壁を崩す〉
ように支援の中でいろいろと試みるが、うまく進展せず困り感を感じる(〈どん詰まり〉)。
この〈どん詰まり〉から抜け出すために SSWr は【SV を契機に動く】。まず継続して受けて
いる SV から子ども等への関わり方に〈気づく〉。つまり、SSWr は どん詰まり感 を感じて いる最中に SV を受け、そこから ヒントを得る こととなり、それが子ども・保護者理解に つながり、関わり方がわかるようになる。また、SSWr が自己覚知などを通して自らをコント ロールし 情緒的に巻き込まれないようにする のである。
さらに、〈情報の扱いを注意する〉では、なかなか話してくれない子どもには 周囲から情報 を集める ことを実行し、情報については意識的に 事前情報を鵜呑みにしない 、 自らの目 で確かめる ことを行う。そこでの作業は非常に重要であり、いったん描いていたケース像を 改めて見直すことになる。このことは、SSWr の特性の一つである「一人職種」との関連で考 えておかなければならない。言うまでもなく、SSWr は現場教員らから専門職として意見を求 められることが多々あるが、その際に瞬時に適切な判断を行い助言しなければならない。情報 を鵜呑みにしていては判断を誤ることになる。それゆえ、SSWr は情報を収集する力、判断す る力などのアセスメント力を、さらに物事を多角的にみる視点を研修や SV を通して身につけ る必要がある。
次に SSWr は先を見据えて専門的な判断をして、支援を行う(〈先を見据えた専門的判断と 支援〉)。SSWr は、現状を打破するために 少し先を見据える が、それは SWr の重要な視点 といえる。つまり、目の前のことだけを考えていては、対象者である子どもやその家族の生活 の質の向上や自立支援にはつながらない。また支援プロセスの中で 子どもの変化に気づく ことも専門職として重要である。SSWr には、少しの変化も見逃さない観察力が求められ、そ の気づきを子どもの周りの保護者・教職員らに伝える役割を担う。
そして他機関へ 実質的につなげる のである。子どもに関わる問題は学校のみの対応では 限界がある。学校教職員も必要に応じ外部の関係機関につなぐこともあるが、その場合単なる リファーにとどまることも少なくない。そこで、SSWr が当事者である子どもや保護者が求め る支援内容を代弁し、実質的に諸関係機関につなぎ、支援が具体的に進展するように支援する。
その一方で、関係機関につないだものの、当該関係機関の動きが悪く当事者である子どもや 保護者が嫌な思いをすることもある。その場合は SSWr が 関係機関の尻拭い をする。それ は、稀なことではない。さまざまな利用者がいてそれに対し、複数の専門家・機関が関わるチー ムアプローチにはミスマッチ・ミステイクも起こり得る。それを最小限にとどめ、仲介役・調 整役を担う SSWr の存在が大きくなる。そのような場面では、子どもを取り巻く環境全体を視 野に入れた支援を行う SSWr がそのフォローにまわり、当事者のアドボカシーのための役割を 担うことは重要と考える。
このように〈先を見据えた専門的判断と支援〉にスムーズに進展する場合もあるが、他方で SV を契機に再度 介入チャレンジ や 問題要因の発見 などの〈壁を崩す〉プロセスに戻 る場合もある。そして、再び子ども・保護者に 直接関わること 、子どもの想いを関係者に 伝えること などをして【寄り添う】ことを行い、先のプロセスである〈先を見据えた専門 的判断と支援〉へプロセスを進めるのである。
その後、支援の後半で SSWr は関係者を巻き込み、 関係者との協働 を図る。教職員との
関係作りが重要であることは前述したが、その他の関係者とのパートナーシップ構築がその後 の協働にとって大きな影響を与えるということはいうまでもない。併行して、SSWr は子ども の 真のニーズをキャッチする 。その際には、子どもが何を求めているかをくみ取ること、ま たくみ取ろうと努力することが重要で、それを周りに伝え子ども理解を促す。また、支援する SSWr が一方的に支援を進めるのではなく、子どもとのパートナーシップを意識して子どもの 希望を支持する ことがポイントとなる。パートナーシップについて山下(2008:13)は、
まずは弱い立場にある子どもに焦点をあてそこから実践を展開していくべきであると指摘す る。実際の支援場面において、SSWr が子どもと環境の双方に働きかけるとはいっても、上記 を意識していないならば、弱い立場にいる子どもの問題性ばかりに目がいき、その変容に比重 がかけられる危険性がある。
Ⅳ.結論〜調査の限界と今後の課題〜
1.調査の限界
前述のように、今回の調査協力者(分析焦点者)は A 県内に勤務している SSWr のうち、県 教育事務所に派遣されている4年未満の経験者7名である [表1参照]。さらに、調査の限界と しては、以下の3点があげられる。
①県もしくは市町村採用の SSWr で実践が異なるか、② SSWr 個々の資格の有無や理論的背 景による違いがあるか、③ SV 体制の有無が SSWr の実践に与える影響があるかなどである。
2.今後の課題 (1)実践上の課題
社会福祉の二次分野である学校で、SSWr がその力量を発揮するためには次の2点が課題と 考える。1点目が、学校教職員及び地域社会に対する SSWr の役割を周知する(広報を行う)
ことである。先述のように、SSWr の活動の成否は、学校教職員との連携・協働にかかってい るといっても過言ではない。SSWr が配置される際に、学校教職員や地域社会に対しどのよう に説明し入っていくか、導入時の課題といえる。換言すると、年度当初における校内のオリエ ンテーションのあり方、保護者への説明会等をどのように展開するか、さらには「学校便り」
「SSW 通信」を活用しての広報等も戦略的に行う必要があると考える。その際には、管理者を はじめとする学校教職員、教委の協力が必要不可欠である。
2点目が、SSWr 独自の行動指針等を確立することである。米国では全米 SWr 協会(以下、
NASW)が SWr 全体の倫理綱領『The NASW code of ethics』を示し、さらに SSWr につい てはパンフレット『School Social Workers:Enhancing School Success for All Students』
を発行しその役割を提示している。
周知の通り現在日本では、ソーシャルワーカー4団体(日本社会福祉士会、日本精神保健福 祉士協会、日本医療社会事業協会、日本ソーシャルワーカー協会)共通で「ソーシャルワーカー
の倫理綱領」が示されている(社会福祉士会は行動規範も提示)。しかし、それは全 SWr に対 するものであり、やはり学校というフィールドで実践を行う SSWr には独自の行動指針が必要 と考える。またこれが、SSWr の資質向上に直結する重要なものであると考えると、厚生労働 省が医療ソーシャルワーカー(以下、MSWr)に対し示している「医療ソーシャルワーカー業 務指針」(厚労省健康局長通知、2002年改正)が参考になる。つまり、社会福祉の二次分野で ある医療(病院)で SW 実践を行う MSWr にとって指針が必要不可欠であることと同様に、教 育(学校)というフィールドで SW 実践を行う SSWr にとってもその必要性は高いといえる。
他方では、NPO 法人日本 SSW 協会から SSWr の「活動のためのガイドライン(2002年)」
が示されているが、それはあくまでの民間団体の指針にすぎない。筆者は日本の SSW 萌芽期 におけるこの「活動のためのガイドライン」の果たしてきた功績はあると考えるが、一方で国
(行政)の責任で行動指針を示すことに意義があり、それは早急に策定しなければならないも のと考える。それにより、SSWr の実践プロセスすべてに役立ち、利用者である子どもや保護 者、学校教職員、関係機関職員等に対し SSWr の役割を周知することにも寄与でき、さらに
「一人職種」という特性を抱える SSWr の実践時の困難も軽減できるであろう。
(2)研究課題
まずは、調査の限界で指摘した3点、①県または市町村採用の SSWr で実践が異なるか、
② SSWr 個々人の資格の有無や理論的背景による違いはあるか、③ SV 体制の有無が SSWr の 実践に与える影響を明確にすることである。上記の3点は、相互に影響し合う要素であり決し て切り離して考えることができないといえる。
前述のように、ストーリーラインでは SSWr が〈どん詰まり〉から抜けだすのに【SV を契 機に動く】がキーワードになっている。今回の調査協力者に関しては、すべてが SV を受けて いるため程度の差こそあれその影響を受けているといえる。また、「走りながら考えざるを得 ない」状況にある SSW 事業にとって SV 体制の確立は何より重要であると考える。そのため、
SV が SSWr へ与える影響要素について今後詳らかにする必要がある。
その一方で、今後は SV 体制そのものがない場合はどのようなプロセスをたどるのか、また 何が要因となって〈どん詰まり〉状況を打破するのか等を明確にすることが課題といえよう。
次に、支援初期のプロセスにおいて起こる教職員からの 介入お断り に対し、逆に教職員 から待った(ブレーキ)がかからない場合について述べたい。おそらくそれは、教職員と SSWr の関係性や教職員からの SSWr への期待の違いによるものと考える。SSWr が、周囲の関係者 との関係性を構築し、かつ専門職・支援者として期待され、認められていれば待った(ブレー キ)はかからないであろう。しかし、今回の研究では調査協力者(分析焦点者)を SSWr と設 定し、SSWr 側の視点から分析を行っているため教職員の意識等は今回のデータからは読み取 ることができない。今後は、SSWr が連携をする教員をはじめとする各関係者から直接聴きと り等を行い、両者の関係性やその影響等について明確にしていきたい。
岡本民夫(2007:20-23)は実践の科学化について、多くの社会福祉従事者の体験には諸科
学にはない貴重なものが豊富に内包されているので、帰納法的に社会福祉援助方法論を構築す べきであると指摘する。これは、昨今のソーシャルワーク全体の課題であるエビデンスに基づ く実践を考えていく上でも重要な指摘であり、今回のような M-GTA を用いた分析等質的研究 を通して現場の実践を理論へ結びつけていく帰納法的研究を継続して行い有効な実践モデルを 開発していかなければならない。
謝 辞: 調査にご協力いただいた SSWr の方々に深くお礼を申し上げます。また、本研究を個別 SV という形で丁寧に ご指導下さった川崎医療福祉大学の長崎和則教授、グループ SV でご助言下さった西日本 M-GTA 研究会の皆 様にも厚く感謝申し上げます。
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小野田正利編著(2009):『イチャモン研究会〜学校と保護者のいい関係づくりへ〜』、ミネル ヴァ書房。
岡本民夫(2007):「社会福祉援助の課題」、仲村優一ほか監修『エンサイクロペディア社会福 祉学』、中央法規。
Abstract
Objectives:The purpose of this study was the following: (1) To clarify the school social worker advocacy function process in relationship to the support of children. (2) To clarify the promoting and inhibiting factors of the above advocacy process. (3) To utilize the research results to school social work practice.
Methods of Research:The data was acquired through semi-structured interviews with seven practitioners who have practice experience of less than 4 years. Analysis was undertaken through a modified grounded theory approach.
Results and Conclusions:School social workers collecting information from faculty and staff were troubled and confused. They tried to actively intervene and approach the children and their parents, however, they had trouble progressing and felt a sense of uncertainty. Upon noticing this situation, school social workers received tips during supervision. Following that, school social workers were better able to see the way forward to a child advocacy process that incorporates professional judgement and support.
Keywords:school social work, advocacy functions, cooperation of school social worker and staffs, semi-structured interviews, modified grounded theory approach.
Process of School Social Worker in the Fulfilling of Advocacy Functions
− A Focus on Support for Children −
Masachika Higa