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5回目のあの日が廻ってきた.3.11である.
最近,今も消えない被災地の噂として「タクシーに乗る幽霊」の話が新聞に 報じられた.仙台市内の大学生が,石巻のタクシー運転手たちに取材し,被 災地まで客を乗せていったが,着くと客が消えていたという経験を調査して,
卒論にまとめたという。
震災にまつわる幽霊譚としては,柳田国男が日本民俗学の黎明を告げた名 著と評価されている「遠野物語」の99話に記した,明治29年の明治三陸地震 津波後の幽霊譚が知られている.
福二という男が,山田町の田の浜の女性と結婚して,子どもも生まれ幸せ に暮らしていた.しかし津波で,妻と一人の子どもは亡くなってしまう.一 年後の夏の月夜,男女二人が渚から歩いてくるのに出会う.よく見れば女は 亡くなったはずの妻で,連れは福二が婿入りする前に,妻と相思相愛の仲に あったという噂の男だった.驚く福二が問えば,今は夫婦だという.「子ど もは可愛くないのか」となじると,妻は泣いたが,結局は男と去って行った.
東大を卒業し官僚としてエリート街道を歩んでいった柳田国男には,島崎
* 東北文化学園大学総合政策学部長
Prologue
岡 惠介*
OKA Keisuke
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ii Prologue
藤村ら文学者たちと交流し,抒情的な詩作にふけって恋の詩人と称えられた 若き日々があった.しかし彼はその恋の相手と何らかの事情で会えなくなり,
彼女は結核で亡くなる.失意の彼は恋と文学を捨て,柳田家に養嗣子として 入籍し,官僚の道を歩むことを選んだ.
ところが日本各地の視察を重ねるうちに,最も貧しいはずの奥地山村の 人々が,穏やかに幸せそうに暮らしているのを見て,日本の農政に疑問を持 ち,新たな日本民俗学を開拓していくことになるのだが,それはさておき,
彼の終生の研究テーマの一つは,死後の霊魂はどこに行くのか,というもの だった.
柳田は晩年,若き日の詩作の一切を自らの全集に入れることを拒否し,年 譜からも恋の詩人としての過去を抹殺している.しかし彼の学問的軌跡を読 めば,若き日に捨てた亡き少女との恋を学問的な課題に昇華させ,終生忘れ ることはなかったのではないか,と評する研究者もいる.私も99話をこのよ うな美しい夢幻的な幽霊譚として書き上げた柳田の脳裏には,若き日の恋の 蹉跌が蘇っていただろうと思えてならない.
人は痛みや挫折に傷つきながら,時にそれを次の問題意識に昇華させて未 来を拓いていく.我々の学部も急速な社会の変貌の中で様々な悩みを抱え,
それを解決すべく教員の負担も増加している.しかし,限られた時間の中で 真摯に自らの問題意識に向きあった総合政策学部らしい学際的な論文が今年 も集まり,ここに論集として刊行することができた.先行きの見えない不安 の時代にあって,これらの論考が悩みながら生きる現代人に,何らかの未来 への示唆を与えるものになれば,と願っている.
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