別紙1
論 文 審 査 の 要 旨
報告番号 甲 ・乙 第 3064 号 氏 名 塚原 明弘
論文審査担当者
主査 教授 弘中 祥司
副査 教授 山本 松男
副査 教授 高見 正道
(論文審査の要旨)
学位論文申請「MPC can maintain homeostasis of bacterial flora in denture plaque (MPC はデンチャープラーク内細菌叢の恒常性を維持することができる)」について、主査1名、副 査2名が個別に審査を行った。
本研究では、タンパク質吸着に抵抗性 を保持し血液や組織に良好な適合性を示す生体材料 の 2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)からなるポリマー用いて上顎全部床 義歯に付着したデンチャープラークの細菌構成を明らかにすることであった。10 名の被験者 から Miseq を用いて 16SrRNA を解析した。細菌構成は属レベルで Streptococcus 属が 53.6±
15.5%と最も多く、義歯管理状態が良好であるほど生物多様性が低く 、デンチャープラークの 生育が未熟である傾向が示唆された、という結果を得た。
本論文を審査するにあたり、初めに副査各委員より質問がなされた。以下要約抜粋を示す。
山本委員
質問:MPC の付着抑制効果について多糖類・LPS・リポタイコ酸それぞれについて付着抑制効 果はあるのか否か説明せよ。
(MPC は単独でもタンパク質付着抑制能を持ち、人工血管や人工関節表面にも用いられる。
これは MPC の性質により細菌が付着するための足場であるタンパクが付着できないためであ る。一方で MPC 単独ではなく、側鎖を添加することで付着抑制能を発揮することができる。
例えば、ホスホリルセリン基を含有した MPC ポリマーを用いた炎症反応を検証する実験では 、 MPC ポリマーにより抗炎症反応が確認されている2)。また、多糖類・リポタイコ酸について MPC が効果を発揮できるか否かについては、同様に側鎖の修飾因子によって効果が発揮でき るものと考えられる。)
高見委員
質問1:臨床評価日程を決定する際に義歯装着期間を 7 日間に設定している理由を述べよ (本研究で使用した PMBPAz は先行研究の結果から、 1 回のコーティングからの耐久期間
が 2 週間程度とされている1 )。そのため研究期間が必要以上に長くなってしまう場合、コー ティングが剥がれ落ちてしまい抑制効果を正しく評価できなくなってしまう可能性がある。
また評価期間が短い場合、そもそもデンチャープラークがコントロール群・実験群共に採取 可能なレベルまで沈着していない可能性がある。そのため評価期間はデンチャープラークが 採取でき、かつ PMBPAz の効果が正しく発揮されているであろう最短期間を考慮に入れ設定 した。)
質問2:上顎義歯を対象として検討しているが、下顎については検討する必要はないのか。
(過去の研究より、上顎義歯と比べ下顎義歯は舌の存在等によりプラークが付着しにくい傾 向がある3 )。そのため、下顎義歯を対象とした場合、 DNA 抽出あるいは細菌叢解析に必要な だけのデンチャープラークが採取できなくなる可能性が高い。そのため本研究では下顎では なくよりプラーク付着しやすい上顎義歯を対象として研究を行った。)
これら副査よりの質問に対する回答はいずれも適切であると考えられた 。続いて、主査弘中 委員より以下のような質問を行った。
質問:歯科補綴学的観点から PMBPAz コーティング材の可能性(裏装材・リベース材・人工 歯・義歯安定剤等)について言及せよ。
(以前の研究でMPCを義歯床材料に練りこんでしまい、その状態で義歯を作成する研究が行 われた。しかし、手技の煩雑さと費用の面から現実性がなく見送られた。その点からも裏装材 やリベース材といった材料には適応が困難と考えられる。また人工歯等にコーティングを行な った場合、義歯床以上に機械的刺激が強いためコーティングが今以上に維持できなくなると考 えられる。さらに安定剤に MPCを添加した場合、安定剤自身の粘着力に MPC の抑制力が勝 るとも考えにくい。そのため、PMBPAz は歯科材料に添加して用いるのではなく、単独でコ ーティング材として用いることが最もその性能を発揮できると考えられる。またもし他の歯科 材料に添加して用いる場合は、MPC 自身の機械的強度の向上も考えなくてはならないと考え られる。そのため、歯科補綴学的観点から考えると、PMBPAz は単独・また併用されるにし ろその機械的強度の向上を試みる必要があると考えられる。)
以上、主査弘中委員は全委員からの質問に対する回答の妥当性を確認したことによって 博士 (歯学)学位授与がふさわしいと判断した。
(主査が記載)