別紙1
論 文 審 査 の 要 旨
報告番号
甲・乙 第 3050 号 氏 名阿部 響子
論文審査担当者
主査 教授 上條 竜太郎
副査 教授 中村 雅典
副査 教授 馬場 一美
(論文審査の要旨)
学位申請論文「Functional analysis of endothelial permeability driven by glycosaminoglycans composing the glycocalyx」について、上記の主査1名、副査2名が個別に審査を行った。
敗血症では血管透過性の亢進により肺水腫や浮腫等が生じ、周術期の輸液管理に大きな影響を及ぼす。敗 血症の際に血管内皮細胞の内腔側に存在する Glycocalyx 層が破壊されることは明らかになっているが
Glycocalyx層の破壊と血管透過性亢進の関連は明らかにされていない。当該研究ではGlycocalyx層の主たる
構成要素であるGlycosaminoglycans(GAGs)の消失が肺血管透過性に与える影響についての解析を行った。
ヒト臍帯静脈内皮細胞株(HUVEC)を用いた電気抵抗値測定による血管透過性の解析では GAGs 消化に よる透過性の亢進は認めなかった。Histamine 刺激はGAGs 消化の有無に関わらず電気抵抗値の減少を認め たが、GAGs消化とHistamine組合せによる電気抵抗値の更なる減少は確認できなかった。
電子顕微鏡における肺血管内皮細胞でのGAGs検出では、敗血症マウス及びGAGs消化マウスの肺血管で は未処理群と比較してGAGsの減少が確認された。尾静脈内FITC-labeled Dextran投与による血管外漏出状 態の観察では敗血症モデルマウスのみで蛍光色素の血管外漏出が観察された。GAGs消化モデルでは明らか な血管外漏出は認めなかった。遺伝子発現プロファイルを行った結果、GAGs消化モデルにおいて、未処理 マウスと比較して炎症反応に関連した遺伝子発現の有意な上昇を認めた。
HUVECによる透過性機能解析の結果より、Histamine刺激による血管透過性亢進に、GAGsの有無は関連
していない可能性が示唆された。GAGs消化マウスにおいては高分子物質の血管外漏出が認められなかった。
しかしGAGs消化後に血管透過性を亢進させるシグナル入力が生じている可能性が考えられた為、遺伝子発 現プロファイルの解析を行った。解析結果より、Glycocalyx層におけるGAGsの消失は炎症時の血管透過性 亢進に関わる遺伝子発現変化と関連していることが示唆された。
本論文の審査において、副査の中村委員および馬場委員から多くの質問があり、その一部とそれらに対す る回答を以下に示す。
中村委員の質問とそれらに対する回答:
1. HUVECのGlycosaminoglycans消化後に遺伝子発現変化があるか。
HUVECの遺伝子発現変化は評価していないため詳細は不明であるが、当該研究でのマウスにおけ
るGAGs消化後の遺伝子解析のプロファイル結果では、leukocyteの内皮細胞接着に関連した遺伝 子発現の上昇を認めたことから、leukocyteの存在しない培養条件のHUVECに関してはGAGs消 化のみでは遺伝子発現変化が生じていない可能性が示唆される。
2.LPS投与によるGlycocalyx層消失機序は何か。
敗血症の際には血管内皮細胞よりheparinase活性化を生じることがGlycocalyx層の崩壊に関連して いるという報告がある[3]ため、当該研究の敗血症マウスでも同様の機序で Glycocalyx層が破壊さ れたことが示唆される。
馬場委員の質問とそれらに対する回答:
1. 血管内皮細胞の血管透過性調節におけるGAGsの機能的意義は何か。
血管内皮細胞の内腔側を、GAGsを含むGlycocalyx層が被覆することにより、炎症反応における レセプターへのシグナル入力を妨げているため、正常な血管透過性の保持においてGAGsは重要 な役割を果たしているという意義があると示唆される。
2. 遺伝子発現プロファイルの結果から、コントロールマウスと比較してGAGs消化マウスにおける 血管透過性上昇のシグナル入力のメカニズムについて分かったことは何か。
GAGs消化マウスの血管内皮細胞における遺伝子プロファイルの結果より、leukocyteの内皮細胞 接着と関連のある炎症関連タームが有意にエンリッチされていた。
両副査は、上記を含めた質問に対する回答が、いずれも満足のいくものであることを確認した。
主査 上條委員の質問とそれらに対する回答:
1. GAGs消化が遺伝子発現プロファイルの変化を引き起こす機序はどのようなものか。
GAGsの存在は、血管内皮細胞表面に存在するサイトカイン受容体等の分子が白血球等から分泌される サイカイン他等との結合を阻害していると考えられている。従って、GAGsの消化により、通常は生じ ない血漿中サイトカインー血管内皮細胞サイトカイン受容体の結合を誘導し、血管内皮細胞に種々の反 応を引き起こす可能性がある。以上より、今後更なる検討が必要であるが、今回の研究で明らかとなっ たGAGs消化による血管内皮細胞の遺伝子発現プロファイルの変動の少なくとも一部は、これにより 説明できるものと考える。
主査の上條委員は、両副査の質問に対する回答の妥当性を確認するとともに、本論文の主張をさらに確認 するために上記の質問をしたところ、明確かつ適切な回答が得られた。
以上の審査結果から、本論文を博士(歯学)の学位授与に値するものと判断した。
(主査が記載)