浪川 幸彦
April 24, 2007
1 数の体系
1.5
実数1.5.1
実数の定義有理数のところで述べた性質を少し整理された形で言い換えながら述べる。
Definition 1.5.1.
次の性質をみたす集合R
を実数体とよび,その要素を実数という:I.
四則演算についての性質i)(加法) x, y ∈ R
に対しそれらの和x + y
が定義され,次の性質をみたす;ia) x + y = y + x(可換法則)
;(x+ y) + z = x + (y + z)(結合法則)
;ib)
実数0
が存在して,任意の実数a ∈ R
に対してa + 0 = a
となる;ic)
任意の実数a ∈ R
に対してa + ( − a) = 0
となる実数− a
が(ただ一つ)存在する;ii)(乗法) x, y ∈ R
に対しそれらの積xy
が定義され,次の性質をみたす;iia) xy = yx
(可換法則);(xy)z= x(yz)(結合法則)
;(x+ y)z = xz + yz
(分配法則);iib)
実数1
が存在して,任意の実数a ∈ R
に対して1a = a
となる;iic)
任意の実数a 6 = 0 ∈ R
に対してaa
−1= 1
となる実数a
−1 が(ただ一つ)存在する:II.
順序についての性質i)
任意の実数a, b ∈ R
に対し,a > b, a = b, a < b
のうち一つ,しかもただ一つが成り立つ(全順序性)
(a > bまたは
a = b
のときa ≥ b
と,a < bまたはa = b
のときa ≤ b
と書く);ii) a ≥ b, b ≥ c
ならばa ≥ c
である;iiia) a ≥ b
ならばa + c ≥ b + c
である;iiib) a ≥ b
かつc ≥ 0
ならばac ≥ bc
である:1
III.
完備性(Dedekindの切断の公理)R
の空でない部分集合A, B
がR = A ∪ B, A ∩ B = φ(空集合),かつ任意の a ∈ A, b ∈ B
に対し
a < b
とする(このような対A, B
をR
の切断という)。このとき実数r ∈ R
が(ただ一つ)存在して,すべての
a ∈ A
に対しa ≤ r,すべての b ∈ B
に対しr ≤ b
となる。Remark.
有理数体Q
は上記の性質I. II.
をみたすが,III.
はみたさない(例:A = { a ∈ Q; a <
√ 2 } , B = { b ∈ Q; b > √
2 }
)。つまりIII.
が実数の本質である。Theorem 1.5.2. R
は存在して,しかも一意的である。Theorem 1.5.3. R
はQ
を含み,Q
の加法,乗法,順序はR
のそれに等しい。1.5.2
実数の基本性質Theorem 1.5.4 (Archimedes
の公理). 任意の正の実数a, b ∈ R
に対し,自然数n ∈ N
が存在 してa < nb
となる。Definition 1.5.5.
(実)数列{ a
n∈ R }
n∈NがA ∈ R
に収束するとは,次の命題が成立するこ とである:任意の
ε > 0
に対し,自然数N ∈ N
が存在し,任意のn ∈ N; n > N
に対し,| a
n− A | < ε.
これを
a
n→ A (n → ∞ ),
あるいはlim
n→∞
a
n= A
と書く。Remark.
これが有名な(?)ε− N
論法であるが,その考え方は簡単で,むしろ非常に工学的である。つまりどんな厳しい顧客の品質要求(誤差要求)に対しても応じることができる ことを保証するものである。
Proposition 1.5.6.
1
n → 0 (n → ∞ ).
Idea of Proof. 1/ε
に対してArchimedes
の公理を適用する。Theorem 1.5.7 (有理数の稠密性). a < b
となる任意の2実数a, b ∈ R
に対し,その間に有理 数c ∈ Q; a < c < b
が必ず存在するCorollary 1.5.8.
任意の実数a ∈ R
に対し,有理数列{ a
n∈ Q }
が存在して,an→ a (n → ∞ )
となる。Remark.
具体的には 1)無限小数;2)無限連分数
による表し方がある。
Definition 1.5.9. 1) R
の部分集合A
を考える。実数M
があって,すべてのa ∈ A
に対しa < M
となるときA
は上に有界であるといい,M をA
の上界とよぶ。2) A
が上に有界であるとき,最小の上界のことをA
の上限とよぶ。Remark.
「上」をすべて「下」に変えた概念・命題が存在する。いちいち記すのは省略する。Theorem 1.5.10 (上限公理).
上に有界なR
の部分集合A
に対し,必ず上限が存在する。Corollary 1.5.11.
上に有界な数列は必ず収束する。その極限値は上界を超えない。Theorem 1.5.12 (
区間縮小法の原理).
二組の数列{ a
n} , { b
n}
があって,a1≤ a
2≤ · · · ≤ a
n≤
· · · ≤ b
n≤ · · · ≤ b
2≤ b
1 かつlim
n→∞(b
n− a
n) = 0
であるならば,lima
n= lim b
n= c
とな る実数c ∈ R
が(ただ一つ)存在する。Theorem 1.5.13.
実数の定義における性質I. II.
をみたす集合R
に対して,次の条件は互いに同値である:
• III.
切断公理•
上限公理• Archimedes
の公理+区間縮小法の原理Remark.
ふつうはこれに 「Archimedesの公理+Cauchy
列の収束」条件を加え,この4つが 実数の本質である完備性の表現であると捉える。存在の証明は無限小数によるものの他,有 理数の切断の集合とするもの(Dedekind)と有理Cauchy
列の極限全体とするものの2種類 がある。「解析概論」(高木貞治著)は微分積分学の教科書として有名であるが,その冒頭の実数
論で
Archimedes
の公理を無視するという誤りを犯している。具体的には1/n → 0 (n → ∞ )
を証明なしに使っている。厳密な推論を行うことはそれほど難しい。
2 初等関数の世界[予告]
2.1
指数関数の基本性質と存在定理2.1.1
指数関数の基本性質指数関数
y = exp(x) : R → R
+ は(もし存在するとすれば)次の性質を持つ:0)
exp(0) = 1;
1)(狭義の)単調増加連続関数で,全射である(すべての正数を値として取る); 2)無限回連続微分可能である;
3)
d
dx exp(x) = exp(x);
4)(指数公式)exp(x
+ y) = exp(x) exp(y);
5) 任意の自然数
n
に対し,lim
x→∞
x
nexp(x) = 0
(つまりどんな多項式よりも増大度が大きい)2.2
対数関数の基本性質と存在定理2.2.1
対数関数の基本性質指数関数に対応する形で対数関数の基本性質を述べよう。
対数関数
y = log : R
+→ R
は(もし存在するとすれば)次の性質を持つ:0)
log 1 = 0;
1)(狭義の)単調増加連続関数で,全射である(すべての実数を値として取る); 2)無限回連続微分可能である;
3)
d
dx log x = 1 x ;
4)(対数公式)log(xy) = log
x + log y;
5) 任意の正数
ε
に対し,lim
x→∞
log x
x
ε= 0
前回の出席レポートについて
●問題:1 = 0.999
. . .
を証明して下さい[解答例]:
0.999 · · · = 0.9 + 0.09 + 0.009 + · · ·
= 0.9(1 + 0.1 + (0.1)
2+ (0.1)
3+ · · · )
= 0.9 lim
n→∞
1 − (0.1)
n1 − 0.1
= lim
n→∞
(1 − (0.1)
n) = 1
[講評]:上のような数学的な証明を与えた人と,いわゆる通俗的な「証明」を書いた人が半 ばしています。後者のほとんどは
1/3 = 0.333 . . . .
両辺を3
倍して1 = 0.999 . . . .
x = 0.999 . . .
とおき,両辺を10
倍すると10x = 9.999 . . . .
最初の式を引いて9x = 9.
ゆ えにx = 1.
というものでした。しかしこれらは「証明」とは言えません。いずれも
“. . .”
のきちんとし た数学的定義を与えずに議論しているからです。上の解答例での第1行目がそれに当たります。特に
1/3 =
は問題を言い換えているだけで,何もしていません。後者の「証明」は形式的に小数点以下が消えますが,そうしていいことはきちんとした定義を元に示されなければ なりません。無限級数の足し算引き算をするときに注意が必要なことはご存じのはずです。
数学的な定義がはっきりしないままの推論は「説明」であって,「証明」ではありません。
ただし新しいことを見つけるために,ある程度無謀な議論をしてみるのは許されることで す(これを
heuristic
な議論と言います)。しかしその場合にも最終的には数学的に厳密な議 論によって正当化しなければなりません。●ゼノンの背理のうち,アキレスと亀の話を説明し,その「正しい」解釈を与えて下さい。
[解答例][ゼノンの主張]アキレスの走る速さが亀より速いとしても,アキレスが亀のいた 地点に達するときは亀はすでに前にいくらか進んでいる。アキレスが再びその時の亀の地点 に達したとき,亀は再び前にいくらか進んでいる。このようにしてアキレスが亀の1ステッ プ前にいた所に到達するたびに亀はさらに前に進んでいるので,アキレスはいつまでもか目 に追いつくことができない。
[解釈]この考察では時間が考慮されていない。アキレスが各ステップで亀の前にいた地点 に到達するための時間を考慮する必要がある。例えばアキレスの速さが亀のそれの2倍であ るならば,追いつくために要する時間はステップ毎に半分になっていく。したがってこのス テップを積み重ねてもそれに要する時間は,最初にアキレスが初め亀のいた地点に到達する のに要した時間の倍を超えることはない。時間がちょうど倍になったときにアキレスは亀に 追いつく。つまりゼノンの主張はアキレスが亀に追いつくまでは追いつくことができないと いう当たり前のことを言っているに過ぎない。
[講評]かなり良く出来てはいましたが,とても有名な話なのに,名大生で知らない人がか
なりいるのはちょっと残念な気がします。インターネットで検索をするなどして調べてみて 下さい。
レポートについて
次の問題から
1
題以上(数理学科学生は2
題以上)を選んでレポートを書いて下さい:●問題1:実数の完備性の同値条件についての定理(Theorem 1.5.13)に証明を与えてくだ さい。
●問題2:log
x = R
x1 1
t
dt
として対数関数を,指数関数をその逆関数として定義することに より,両関数の基本的な性質を証明して下さい。●問題3:日常言語の論理と数学での論理とはどのような点が共通しており,また異なるの か,具体的な例を挙げて論じて下さい。そのことから学校で数学を学ぶことが論理的な思考 力を養うのに役立つか否かについて,自分の考えを述べて下さい(結論よりも,自分の考え がきちんと述べられているかどうかを見ます)。
・長さは
A4
レポート用紙2〜3
枚(ワープロ印刷),3〜5枚(手書き)程度(もっと長くて もいい)。提出は5月8日授業時まで。電子メールによる提出も可(ただしファイル様式はpdf, MSWord
のいずれか)。・レポートには学生番号・氏名および選んだ問題を最初に必ず明記してください。
・このレポートは返却しません。
・参考にした書籍あるいはウェブページがある場合にはその書名あるいは
URL
を明記する こと。引用なしに引き写しのあることが判明した場合には(たとえ内容を多少書き換えてい ても)不合格点を付けます。・電子メールで受け取ったときは必ず受領した旨返事します。提出後