細胞活性のモニタリングを目的とする計測技術の開発
誘電率を用いた酵母及び動物細胞の細胞数測定法の確立
廣藤祐史*1
1行あける
Development of the Measurement Method Aiming at the Monitoring of Cell Activity
Establishment of the Cell Number Measuring Method about Yeasts and Mammals using Dielectricity Yushi Hirofuji
従来行われてきた濁度法や計数法による測定と異なり,生存している細胞数のみをカウントすることを期待でき る誘電率による細胞数測定を検討した。酵母を対象とした比誘電率測定による細胞数計測を試みたところ,電極法 による細胞数測定は困難であることが判明した。電極法で細胞数を測定する場合には,細胞をグルコース等張液に 懸濁することが有効であると考えられる。
1 はじめに
特に清酒の醸造工程管理は経験者の勘に強く依存し ており,造り中の酵母の状態管理は明確な指標の元に 行われてはいない。誘電率による細胞数測定は,従来 行われてきた濁度法や計数法による測定と異なり,生 存している細胞数のみがカウントされる。培養状態の 変遷に伴う細胞の生死を的確かつ迅速に把握できる方 法は他になく,培養状態の管理手法として非常に有望 かつ効果的であると考え,測定方法の評価を行った。
2 研究,実験方法 2−1 測定装置
誘 電 率 測 定 に は ア ジ レ ン ト テ ク ノ ロ ジ ー 社 製 型 メータを使用した。当初は測定
Agilent 4285A LCR
対象は液体測定用電極
Agilent 16452A
による検討を行 ったが,培地組成の影響を除くことが困難であったた め,四電極法に基づく測定電極を自作した。2−2 培地と使用菌株
測定対象としては,
YM
培地で30
℃,一夜振とう 培養した協会7号酵母を使用した。2−3 イオン交換水およびYM培地の比誘電率の測定 培地組成の影響を評価するために,測定を実施する のに先立ち,イオン交換水及び
YM
培地について,比誘電率の測定を行った。測定引加電圧は
0.5V
,測 定周波数範囲は75kHz
〜1MHz
とした。2−4 酵母を対象とした比誘電率の測定
測定条件は水および培地の測定と同様にして,酵母 懸濁液の比誘電率測定を行った。
2−5 YM培地構成成分毎の比誘電率の測定
YM
培地を構成する成分であるYeast Extract
,Malt
, , に つい て,成分ごとの比誘
Extract Peptone Glucose
電率測定を行った。
2−6 動物細胞用培地の比誘電率の測定
動物細胞用培地である
F12
+FBS
培地を対象とし て比誘電率測定を行った。3 結果と考察 3−1 測定電極
今回使用した4電極法に基づく測定電極を写真1に 示した。
写真1 測定電極
電極材質は
SUS304
であり,ポリエチレンテレフタ レートをスペーサとして使用して直径38mm
の電極4 枚を1mm
の間隙で平行に配置した構造とした。3−2 4電極法による測定結果
4電極法によって測定した電極間容量を図1に示し た。
*1 生物食品研究所食品課
図1 4電極法による電極間容量
4電極法による測定を行っても,培地成分が共存す る場合には低周波数域で高い比誘電率が観測され,液 体測定用電極
Agilent 16452A
による測定結果(図2)と同様な誘電挙動を示した。電極法により細胞膜の誘 電率のみを測定することは困難であることが明らかと なった。
図2 液体測定用電極による酵母懸濁液の比誘電率
3−3 誘電挙動に影響する培地組成の検討
誘電挙動に影響を与える培地成分を明らかにするた
YM Yeast Extract Malt
めに, 培地を構成する4成分, ,
, , に つい て,成分ごとの比誘
Extract Peptone Glucose
電率測定を行った。各成分の濃度は
YM
培地と同様 に,それぞれ3g/L
,3g/L
,5g/L
,10g/L
とした。測定 結果っを図3に示した。図3 誘電挙動を示す培地成分
0 50 100 150 200 250 300 350 400
0 500 1000 1500
測定周波数/kHz
比誘電率/−
YM培地
培養原液
×10希釈液 0
2000 4000 6000 8000 10000 12000
0 500 1000 1500 2000
測定周波数/kHz
電極間容量/pF
Blanc
Pure Water
YM Medium
YM Medium(with Yeast)
-4000 -2000 0 2000 4000 6000 8000
0 500 1000 1500 2000
測定周波数/kHz
電極間容量/pF
Yeast Extract
Malt Extract Peptone Glucose
と が強く影響していることが
Yeast Extract Peptone
明らかとなった。
Malt Extract
とGlucose
は誘電挙動を 示さなかった。3−3 動物細胞用培地の誘電挙動の検討
動物細胞用培地である
F12
+FBS
培地の誘電挙動 を検討した結果を図4に示した。図4 動物細胞用培地の誘電挙動
動物細胞用培地の誘電挙動は
YM
培地と同様であ り,電極法により細胞誘電率を測定することは困難で あることが明らかとなった。細胞誘電率を電極法によ, ,
って測定する場合には 図3の結果に明らかなように 等張液に細胞を懸濁し,オフライン計測を行
Glucose
うことが有効であると考えられる。
4 まとめ
4電極法による細胞誘電率の測定を試みたが,4電 極法によっても,培地組成の影響を除くことは困難で あった。
YM
培地の場合,最も影響を与える成分は酵 母エキス,次いでペプトンであった。ブドウ糖と麦芽 エキスの存在は殆ど影響を与えなかった。動物細胞用 培地として,F12+FBS
培地の誘電特性を評価したが,培地と同様の傾向を示し,細胞誘電率のみを評価
YM
することは困難であった。電極法で細胞誘電率を評価 する場合には,グルコース等張液などに細胞を懸濁せ ざるをえず,オンライン計測は困難であることが明ら かとなった。
5 参考文献
1
) 第4版実験化学講座9「電気・磁気」, pp.215-243,
丸善 (1991
)) 花井哲也 不均質構造と誘電率〜物質を壊さずに
2 , "
内部構造を探る
",
吉岡書店 (2000
)0
50000 100000 150000 200000 250000 300000 350000 400000
0 500 1000 1500 2000
測定周波数/kHz
電極間容量/pF