自治医科大学消化器一般移植外科
2017 年に本邦初の慢性便秘症診療ガイドラインが発行され,その中で「便秘」は,「本来体外に排出す べき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」と定義された.また便秘症は,症状によって排便回数減 少型と排便困難型に,病態によって大腸通過遅延型,大腸通過正常型,便排出障害に分類された.慢性便 秘症の病態は多数あるので,正しい診断に基づいて適切に治療する必要がある.初期診療では,症状と身 体診察で排便回数減少型と排便困難型を鑑別した上で,食事・生活・排便習慣指導や慢性便秘症治療薬で 治療する.それで症状が改善しなければ,専門施設で大腸通過時間検査や排便造影検査にて病態を診断す るが,その際には,真の便秘ではない機能性腹痛症,機能性腹部膨満症,排便強迫神経症を鑑別すること が重要である.専門的治療にはバイオフィードバック療法,直腸瘤修復術,ventral rectopexy,結腸全 摘・回腸直腸吻合術などがある.
索引用語:便秘,便排出障害,大腸通過時間検査,排便造影検査,ガイドライン
緒 言
慢性便秘症は,生命にはかかわらないが日常生活 や心理面に多大な影響を及ぼすため,原因や病態に 応じて適切に治療する必要がある.2017 年 10 月に 慢性便秘症診療ガイドライン 2017(以下,便秘 GL)1)
が発行され,ガイドラインに基づいて診療を行うこ とが可能となった.また便秘 GL の発行と前後して 多数の新規便秘症治療薬が保険収載され,より多く の便秘症患者を治療することも可能となった.本稿 では,便秘 GL に基づいた慢性便秘症の診断と治療 について概説する.
Ⅰ.便秘の定義
「便秘」の定義として,筆者は 2010 年頃から,「本 来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出で きない状態」と提唱してきたが2),この定義は,ス トーマ・排泄リハビリテーション学用語集第 3 版で 採用され3),今回の便秘 GL でも採用された1).また
「便秘症」とは,便秘による症状が現れ,検査や治療 を必要とする状態であり,その症状として排便回数 減少によるもの(腹痛,腹部膨満感など),硬便によ
るもの(排便困難,過度の怒責など)と便排出障害 によるもの(軟便でも排便困難,過度の怒責,残便 感とそのための頻回便など)がある.
「便秘」とは「症状名」でもなければ「疾患名」で もなく,「排便回数や排便量が少ないために糞便が大 腸内に滞った状態」または「直腸内にある糞便を快 適に排出できない状態」を表す「状態名」である2,4-6). たとえば,日本消化器病学会による一般向けの医学 用語集の中では,「便秘症では排便が数日に 1 回程度 に減少し,排便間隔不規則で便の水分含有量が低下 している状態(硬便)を指しますが,明確な定義が あるわけではありません.」と記載されている7).し かし,排便回数が少ないからと言って必ずしも「便 秘」とは限らず,排便困難感や残便感を訴えるから と言って必ずしも「便秘症」とは限らない.それが,
「便秘」の定義の中で,「本来体外に排出すべき糞便」
と記載している理由である.すなわち,何らかの理 由で経口摂取量が不十分な場合は,結腸の中に「本 来体外に排出すべき糞便」の量が少ないために排便 回数も減少して当然であり,排便回数や排便量が少 ないからと言って必ずしも真の便秘とはいえない.
また残便感を訴える患者の中には,強迫観念のため
に,「本来体外に排出すべき糞便」が直腸内に存在し ないにもかかわらず,残便感(偽の便意)を訴えて 過度に怒責したり頻回にトイレに行ったりする排便 強迫神経症も少なからず存在し,そのような患者も 真の便秘症とはいえない2,4-6,8).最新のローマ基準で あるローマⅣでも,機能性便排出障害の診断基準と して,便をうまく出せないという症状だけで診断せ ず,排便造影検査やバルーン排出検査などで客観的 に診断することを求めている9).
そのローマⅣでは,「機能性便秘(functional con- stipation)」を,「排便回数が少ないか排便困難や残 便感が主な症状の機能性腸疾患」と定義しているが,
更に,「過敏性腸症候群(irritable bowel disorder,以 下 IBS)の診断基準に該当してはならず,腹痛や腹 部膨満感を有しても良いが,主な症状であってはな らない」10)と条件を付加しており,この条件が時とし て混乱を引き起こしている.この定義にしたがえば,
IBS 患者は,「機能性便秘」と診断することができ ず,IBS 患者は「便秘症」に同時に罹患できないと の誤解が生じる.ここで注意しなければならないの は,ローマⅣは,「慢性便秘」を定義しているのでは なく,「機能性便秘」を定義している点と,ローマⅣ における「機能性便秘」とは,「機能的な原因で生じ ている便秘」という一般名詞ではなく,ローマⅣの 診断基準によって定義づけられている「機能性便秘
(functional constipation)」という固有名詞すなわち 症候群を意味していることである.すなわちローマ 基準においては,「便秘」は「便秘を伴う IBS(いわ ゆる便秘型 IBS)」と「機能性便秘」の 2 種類があり,
各々の定義は存在するが,それを統合した「便秘」
の定義は存在しない.
したがってローマ基準では,一人の患者が IBS と
「機能性便秘」に同時に罹患することは不可能である が,日常診療においては,一人の患者が IBS と「機 能的な原因による便秘」を含めて慢性便秘に同時に 罹患することは十分に可能である.IBS を特別扱い しない米国消化器病学会も,慢性便秘を「排便回数 が少ないか,排便困難,あるいはその両症状を特徴 とする不満足な排便状態が 3 ヵ月以上持続している 状態と定義しており11),IBS の診断基準を満たすか どうかは無関係である.
Ⅱ.便秘の疫学
便秘の有症率は一般人口の 2 ~28%とされ,その 定義や調査方法によって大きく異なるが,平成 28 年 の国民生活基礎調査によれば,本邦における有訴者 率は男性 2.5%,女性 4.6%で,20~60 歳では圧倒的 に女性が多く,60 歳以降は男女とも加齢に伴って増 加し,80 歳以上の高齢者ではともに 10.8%と男女差 がなくなる12).また平成 10 年の国民生活基礎調査に よる有訴者率は男性 1.9%,女性 4.7%であり13),男性 では明らかに増加傾向にあるが,女性では必ずしも 増加していない.
Ⅲ.便秘の分類
慢性便秘(症)の分類に関して,我が国では古くか ら,器質性・症候性・薬剤性・機能性(痙攣性・弛 緩性・直腸性)という分類が広く用いられてきた14). しかし国際的には,排便回数減少を特徴とする大腸 通過遅延型便秘と排便困難を主症状とする便排出障 害といった病態による分類が一般的である11,15). そこで,この病態による分類と器質性・機能性と いった原因による分類を併せて勘案し,筆者は,大 腸通過正常型便秘,大腸通過遅延型便秘,便排出障 害という病態に基づいた分類を提唱してきた2,4,5).し かし,この病態による分類を行うには大腸通過時間 検査や排便造影検査などの専門的検査が必要であり,
一般的な便秘の初期診療においては不可能かつ不必 要であるため,便秘 GL では,筆者が以前から提唱 していた分類2)を基に作成された分類表が掲載され ており,病態による分類の前に,症状のみによって 排便回数減少型と排便困難型に分ける新たな分類が 採用された1).表 1 は,その便秘 GL の分類表を更に 改善したものであるが,専門的検査を施行しない施 設においては,この病態分類を念頭においた上で,
症状分類にしたがって診断,治療することが望まし い.ただし,複数の症状や病態を併せ持つ症例も多 数存在することに留意する必要がある.
分類の詳細な解説は他書6)に譲るが,表 1 が便秘 GL の分類表と唯一異なるのは,「硬便による排便困 難」の分類である.便秘 GL では,このタイプを「大 腸通過正常型」の一つとしたが,「大腸通過正常型」
とは,本来,排便回数が減少しているにもかかわら ず大腸通過時間検査を施行すると正常である病態を
意味するため,排便回数が正常な「排便困難型」の 一つである本タイプは「大腸通過正常型」ではなく,
「硬便による排便困難型」とするのが適切と考える6).
Ⅳ.慢性便秘症の診断基準
研究目的で慢性便秘症を厳密に定義する必要があ る場合には,従来,ローマ基準による「機能性便秘
(functional constipation)」の診断基準が国際的に広 く用いられている10).この基準は,週に 3 回以上便が 出ない人は腹部膨満感,腹痛や硬便による排便困難 に悩むことが多く,排便時に 4 回に 1 回より多い頻 度で排便困難感や残便感を感じる人は生活に支障が 出るため,何らかの治療を要することが多いという 疫学的データに基づいている.この診断基準が優れ ているのは,単に排便回数が少ないだけでは便秘症 と診断されず,排便困難感や残便感といった他の便 秘症状を必要としている点と,その一方で,排便回 数が十分にあっても排便困難感や残便感などの便排 出障害の症状が複数あれば便秘症と診断され,便秘 症に便排出障害も含まれている点である.したがっ て本邦の便秘 GL においても,慢性便秘症の診断基 準は,国際的に使用されているローマⅣ診断基準を 翻訳改変して,表 2 のごとくとなっている1,6,10). ただし定義の項で述べたごとく,ローマ基準では
過敏性腸症候群を「機能性便秘」から除外している が,それは,ローマ基準における「機能性便秘」と は,一般名詞としての機能性便秘(機能的な原因で 生じている便秘)を意味しているのではなく,ロー マ基準が独自に定義した固有名詞としての「機能性 便秘」を意味しているからである.したがって,実 際の日常臨床では慢性便秘症の原因の一つとして過 敏性腸症候群があると考えた方が合理的であるため,
表 2 のごとく本邦の便秘 GL の診断基準では,ロー マⅣに記載されている「過敏性腸症候群の基準を満 たさない」と「下剤を使用しない時に軟便になるこ とは稀である」の条件は除外されている.その一方,
表 2 の診断基準には,便秘症の代表的症状である腹 痛や腹部膨満感が含まれていないことに留意する必 要があり,これはローマ基準での「機能性便秘」に 過敏性腸症候群が含まれていないため,その特徴的 症状である腹痛や腹部膨満感も含まれていないこと が原因である.
当然のことながら実際の日常臨床では,慢性便秘 症と診断するのに表 2 の診断基準を満たす必要はな く,「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に 排出できない状態」が続くために日常生活に支障が 出ていれば,便秘症と診断して治療することが望ま しい.
排便困難型 排便造影検査など 器質性便排出障害 直腸瘤,直腸重積,巨大直腸,小腸瘤,S 状 結腸瘤など
機能性
排便回数減少型 大腸通過時間検査など
大腸通過遅延型
特発性
症候性: 代謝・内分泌疾患,神経・筋疾患,
膠原病,便秘型過敏性腸症候群など 薬剤性: 向精神薬,抗コリン薬,オピオイド
系薬など
大腸通過正常型 経口摂取不足(食物繊維摂取不足を含む)
大腸通過時間検査での偽陰性 など
排便困難型 排便造影検査など
硬便による排便困難 硬便による排便困難・残便感
(便秘型過敏性腸症候群など)
機能性便排出障害
骨盤底筋協調運動障害 腹圧(怒責力)低下 直腸感覚低下 直腸収縮力低下 など
Ⅴ.便秘症の診断
慢性便秘症の診療においては,診断を確定して治 療を行うのではなく,症状や検査結果に応じて,ま た治療に対する反応を見ながら,診断や治療を進め ることが多い16).慢性便秘症診療に関して筆者が提 唱する一般医家における初期診療アルゴリズムを図 1 に,専門施設における専門的診療アルゴリズムを 図 2 に示す.
1.病歴聴取
便秘症の診断では問診が重要であり,排便回数や 便性の他に,発症契機の有無,病悩期間,腹痛,腹 部膨満感,排便困難感,残便感,1 回の排便に要す る時間,下剤・坐薬・浣腸の必要性の有無,排便時 の摘便や肛門付近の圧迫の必要性,便意を感じてト イレに行っても実際には出なかった回数などを尋ね る.筆者は,便秘という主観的症状を極力客観的に 評価する目的で,症状重症度評価のために Constipa- tion Scoring System17)を,便秘が生活の質に及ぼす 影響を評価するために Patient Assessment of Con- stipation Quality of Life Questionnaire(PAC-QOL)
の日本語版である JPAC-QOL18)を用いている2). 2.身体診察
腹部診察に加えて直腸肛門診では,便塊や腫瘤,
血液付着,直腸瘤の有無の他に,肛門収縮時や怒責 動作時の骨盤底筋・肛門括約筋の収縮・弛緩の程度 や会陰の動きを確認する.
3.大腸内視鏡検査
これらの病歴聴取や身体診察で大腸癌などの器質 的疾患が疑われる場合,あるいは 50 歳以上で過去 3
年以内に大腸内視鏡検査を受けていない場合には,
大腸内視鏡検査を施行して狭窄性病変などの器質的 疾患を鑑別する.
4.専門的検査
まずは症状のみで排便回数減少型と排便困難型に 分類して初期診療を行うが,それでも症状が十分に 改善しない場合は,排便回数減少型に対しては大腸 通過時間検査を,排便困難型に対しては排便造影検 査,直腸バルーン排出検査,肛門筋電図検査,直腸 肛門内圧検査などを必要に応じて施行する19).
1)大腸通過時間検査(colonic transit study) SITZMARKS®を用いた X 線不透過マーカー法が 一般的であるが,海外では放射線同位元素を用いた シンチグラフィー法や腸管内の内圧・温度・pH を 測定する SmartPill®などを用いた無線カプセル法も 研究目的に使用されている20,21).
(1)X線不透過マーカー法(図3)
SITZMARKS®(Konsyl, Easton, MD, USA)など のX線不透過マーカーを使用して口から肛門までの 輸送時間を評価する検査であり,Hinton らによって 開発された22).上部消化管機能に大きな異常がない 場合には,大腸通過時間の評価として用いることが できる.代表的な 3 種類の X 線不透過マーカー法と その診断基準を以下に示す.
a .単純定性法( 1 カプセル・腹部単純 X 線検査 1 回法)
下剤を内服していない状態で,20 個のX線不透 過マーカーを含む SITZMARKS®を 1 カプセル内 服した 5 日後(120 時間後)に腹部単純X線検査
表 2 慢性便秘症の診断基準 1.「便秘症」の診断基準
以下の 6 項目のうち,2 項目以上を満たす a
b c d e f . . . . . .
排便の 4 分の 1 超の頻度で,強くいきむ必要がある.
排便の 4 分の 1 超の頻度で,兎糞状便または硬便(BSFS でタイプ 1 か 2 )である.
排便の 4 分の 1 超の頻度で,残便感を感じる.
排便の 4 分の 1 超の頻度で,直腸肛門の閉塞感や排便困難感がある.
排便の 4 分の 1 超の頻度で,用手的な排便介助が必要である(摘便・会陰部圧迫など).
自発的な排便回数が,週に 3 回未満である.
2.「慢性」の診断基準
6 ヵ月以上前から症状があり,最近 3 ヵ月間は上記の基準を満たしていること.
BSFS:ブリストル便形状スケール
(Lacy BE, et al. Gastroenterology 2016: 150: 1393-1407 を参考に研究会作成)
「日本消化器病学会関連研究会 慢性便秘の診断・治療研究会編:慢性便秘症診療ガイドライン 2017,p.6,2017,南江堂」より許諾を得て転載
を行う方法で,20 個中 4 個以上のマーカーが大腸 内に残存していれば大腸通過遅延型,3 個以下な ら大腸通過正常型と定性的に診断する23).
b .高感度定性法( 3 カプセル・腹部単純 X 線検 査 1 回法)
下剤を内服していない状態で,3 種類の異なる SITZMARKS®( 1 カプセルに 20 個のマーカー)
を 1 ,2 ,3 日目に 1 カプセルずつサークル,ダブ ル D,ベンツマークの順に内服し,6 日目(サーク ル内服の 5 日後)に腹部単純 X 線検査を施行す る.その腹部単純 X 線写真で,大腸内にサークル が 4 個以上またはダブル D が 6 個以上またはベ ンツマークが 12 個以上残存していれば大腸通過 遅延と定性的に診断する23).
c .定量法( 3 カプセル・腹部単純 X 線検査 2 回 法:Metcalf 法)
下剤を内服していない状態で,3 種類の異なる SITZMARKS®( 1 カプセルに 20 個のマーカー)を 1 ,2 ,3 日目に 1 カプセルずつサークル,ダブル D,ベンツマークの順に内服し,4 日目と 7 日目に 腹部単純 X 線検査を施行して(表 3 ),下記の近 似式を用いて大腸通過時間を算出する24).
Metcalf 法での大腸通過時間 =1.2×(n1+n2+n3+
n4+n5+n6)
Metcalf 法での大腸通過時間が,70 時間以上で大 腸通過遅延と診断する25,26).
また,大腸全体におけるマーカーの残存数のみな らず,大腸を右半結腸,左半結腸,S 状結腸・直腸
図 1 慢性便秘症の初期診療アルゴリズム 注 1:警告徴候とは以下の症状をいう.
○原因が特定できない体重減少
○血便
○ 50 歳以上で,過去 3 年以内に大腸検査を受けていない
注 2:排便回数減少型と排便困難型の分類方法は,以下の通りである.
○排便回数減少型において排便回数を厳密に定義する必要がある場合は,週に 3 回未満であるが,日常臨床では,その数値 はあくまで目安であり,排便回数や排便量が少ないために結腸に便が過剰に貯留して腹部膨満感や腹痛などの便秘症状が 生じていると思われる場合は,週に 3 回以上の排便回数でも排便回数減少型に分類してよい.結腸内での糞便の停滞時間 が長いため硬便化して,硬便による排便困難を生じる場合もある.
○排便困難型は,排便回数や排便量が十分あるにもかかわらず,排便時に排便困難感や残便感を生じる便秘症である.
○排便回数減少型と排便困難型を併せ持つ症例も存在することに留意する.
注 3:薬物療法
○非刺激性下剤には,浸透圧性下剤,膨張性下剤,上皮機能変容薬,胆汁酸トランスポーター阻害剤がある.
○下剤以外の薬物には,プロバイオティクス,消化管運動賦活薬,漢方薬がある.
BSFS:ブリストル便性状スケール
図 2 慢性便秘症の専門的診療アルゴリズム 注 1:排便回数減少型と排便困難型の分類方法は,以下の通りである.
○専門的診療における排便回数減少型は,長期に使用可能な下剤などの薬物療法が最大種類・量に達しても,排便回数や排便量が少なく,腹痛,腹部膨満,硬便による排 便困難などの便秘症状が持続する状態である.
また,既に初期診療において下剤などの薬物療法が行われているため,十分な排便回数が得られていることも多いが,依然として腹痛や腹部膨満感があって,その原因 が結腸に過剰に貯留した糞便である可能性が否定できない場合にも,排便回数減少型に分類する.
○排便困難型は,排便回数や排便量が十分あるにもかかわらず,排便時に排便困難感や残便感を生じる便秘症である.
専門的診療では,既に初期診療において下剤などで便性が軟便化されているため,軟便でも排便困難感や残便感が持続している場合が多い.
○排便回数減少型と排便困難型を併せ持つ症例も存在することに留意する.
注 2: 大腸通過時間検査では,本来は,排便に影響を与える下剤などの薬物をすべて中止して,大腸の便輸送能力を評価する.
〇結果が正常であれば,大腸通過正常型便秘症(normal transit constipation,NTC)と診断し,排便回数・排便量減少の原因として,食事・食物繊維摂取量不足の可能 性があるため,積極的な栄養指導を行う.
〇結果が異常であれば,大腸通過遅延型便秘症(slow transit constipation,STC)と診断し,薬物療法を開始・再開する.
〇栄養指導や薬物療法でも症状が改善しない場合は,その食事・薬物療法を維持した状態で,再度,大腸通過時間検査を施行する.
〇大腸通過時間検査で NTC と診断された場合でも,大腸通過時間検査自体の診断能による偽陰性(本当は STC であるにもかかわらず,NTC と診断される場合)の可能 性があることに留意する必要がある.
注 3: 専門的診療では,既に初期診療で下剤などが使用されており,大腸通過時間検査時の下剤中止が困難または中止しない方が良い場合もある.
〇そういった場合は,1 - 3 回/日の十分な排便回数が得られる適量の下剤を内服した状態で大腸通過時間検査を施行する.
〇その結果が正常であれば,排便量は十分なので,腹痛や腹部膨満の原因は,結腸に過剰に貯留した糞便ではなく,機能性腹部膨満症や機能性腹痛症(中枢介在性腹痛症 候群)である可能性が高い.
〇結果が異常であれば,薬物療法が不十分な可能性があるので増量し,排便回数が増加しても腹痛や腹部膨満感の症状が改善しない場合は,その増量した状態で,再度,
大腸通過時間検査を施行する.
注 4: 長期に使用可能な下剤などの薬物療法が最大種類・量に達しても,大腸通過時間検査の結果が異常な場合は,重症 STC(結腸無力症)と診断する.
〇その場合は,結腸全摘・回腸直腸吻合術の適応を検討するために,排便造影検査,上部消化管機能評価,精神心理評価を施行する.
注 5:軟便でも排便困難感や残便感を訴える場合は,その原因を調べるために排便造影検査を施行する.
〇骨盤底筋協調運動障害などの機能性便排出障害や直腸瘤などの器質的便排出障害を認めれば,病態に応じた治療を施行するが,擬似便が迅速かつ完全に排出されて便排 出障害の所見を認めない場合は,強迫観念のために,本来体外に排出すべき糞便が直腸内に存在しないにもかかわらず,残便感(偽の便意)を訴えて過度に怒責したり 頻回にトイレに行ったりする排便強迫神経症の可能性が高く,真の便秘症ではない.
注 6: 排便造影検査を施行できない施設では,バルーン排出検査や肛門筋電図検査を施行し,異常な(バルーンを排出できない)場合は,機能性便排出障害と診断してバ イオフィードバック療法を施行しても良い.
〇しかし正常な場合は,残便感の原因が直腸瘤や直腸重積などの器質性便排出障害の可能性があるので,その診断のために,排便造影検査が施行可能な施設に紹介するこ とが望ましい.
に分けて,各区域に残存したマーカーの数で各区域 の蠕動運動能を個別に評価する方法もあるが27,28),そ の信頼性は確立していない29).すなわち,S 状結腸・
直腸にマーカーが多数残存している所見をもって便 排出障害と診断するとの考え方もあるが,その信頼 性は低く29),やはり便排出障害の診断は,大腸通過 時間検査ではなく排便造影検査が最も信頼できると 考える.
大腸通過時間検査の役割は,排便回数が少ない患 者が腹痛,腹部膨満感,排便困難感,残便感などの 便秘症状を訴える場合に,その原因が,大腸の蠕動
運動が低下しているために排便回数が少ない大腸通 過遅延型なのか,蠕動運動を正常に生じる能力があ るにもかかわらず排便回数が少ない大腸通過正常型 なのか,あるいは,便秘とは無関係な過敏性腸症候 群,機能性腹痛症や機能性腹部膨満症なのかを鑑別 し,治療法を決定することにある(図 4 ).大腸通過 遅延型であれば,蠕動運動を正常化するための下剤 による治療が主体となる16,30).大腸通過正常型であれ ば,蠕動運動を正常に生じる能力があるにもかかわ らず排便回数が少ない原因の多くは,経口摂取量(特 に食物繊維摂取量)の低下であるため,食物繊維摂 取量の正常化,または,その代用としてのポリカル ボフィルカルシウムやカルメロースナトリウムの投 与が治療の主体となる4,5,16,31,32).
その一方,過敏性腸症候群,機能性腹痛症や機能 性腹部膨満症の患者では,本来体外に排出すべき糞 便は十分に排出できており,糞便が大腸に過度に貯 留していないにもかかわらず,腹痛や腹部膨満感の 原因を大腸に貯留した糞便すなわち便秘が原因だと 思い込んでいる場合が多い.そのような患者に対し
図 3 X 線不透過マーカーによる大腸通過時間検査(colonic transit study)
A:SITZMARKS®のカプセル内には,X 線不透過マーカーが 20 個含有されている.
黒枠内:腹部単純 X 線検査で,大腸内に残存したマーカーの一部を拡大表示.
黄線: 大腸を右半結腸,左半結腸,S 状結腸・直腸に分けて,各区域に残存したマーカーの数で各区域 の蠕動運動能を評価する方法もある.
B: 単純定性法では,下剤を内服していない状態で,カプセル 1 個を内服して 5 日後(120 時間後)の腹部 X 線写真で,大腸内にマーカーが 4 個以上残存していれば,大腸通過時間延長(大腸通過遅延)と診断 する.
高感度定性法では,検査の感度を上げるために 3 種類の形の異なるマーカーを使用し,1 日目にサー クル,2 日目にダブル D,3 日目にベンツを内服して,6 日目(サークル内服の 5 日後)の腹部 X 線写 真で,サークルが 4 個以上,ダブル D が 6 個以上,ベンツが 12 個以上残存のいずれかを満たすと大腸 通過遅延と診断する.
表 3 Metcalf 法による大腸通過時間検査方法 1 日目 2 日目 3 日目
4 日目
XP n3 n2 n1
7 日目
XP n6 n5 n4
n は,当該腹部単純 X 線検査で大腸内に残存して いる当該マーカーの個数を意味する.
て大腸通過時間検査を施行することによって,排出 されるべき糞便は十分に排泄されており,大腸に糞 便が過度に貯留していないこと,すなわち便秘では ないことを客観的に示して病態を説明するのに,大 腸通過時間検査は極めて有用である.実際,ローマ 基準においても,便秘とは無関係に腹痛が生じる機 能性腹痛症は,ローマⅢでは Functional Abdominal Pain として分類されていたが33),2016 年に改訂され たローマⅣでは,中枢介在性腹痛症候群(Centrally Mediated Abdominal Pain Syndrome)として中枢 介在性消化管痛障害(Centrally Mediated Disorders of Gastrointestinal Pain)に分類されるようになっ た34).すなわち,この病態における腹痛は,大腸など の腹部に原因があるのではなく中枢神経が主因であ るという意味であり,治療としては,便を排出させ るための便秘の治療は無意味で,脳腸相関を重視し た抗うつ薬・抗不安薬や精神・心理療法が主体とな る.このように大腸通過時間検査は,排便回数減少 型便秘症を大腸通過遅延型と大腸通過正常型に鑑別 するのみならず,便秘ではない過敏性腸症候群,機
能性腹痛症や機能性腹部膨満症の患者を便秘ではな いと診断する点においても極めて重要である(図 2 ,
4 ).
また,最大種類・量の下剤を使用しても十分な排 便が得られない高度な大腸通過遅延型便秘症である 結腸無力症(colonic inertia)の診断においても,大 腸通過時間検査は不可欠である.結腸無力症に対し ては結腸全摘+回腸直腸吻合術が適応となる場合が あるが,その症例選択は十分慎重に行う必要がある.
その条件として,大腸通過時間検査を用いて最大種 類・量の下剤でも糞便が十分に排出されないことを 客観的に確認すること,上部消化管に機能異常が存 在せず慢性偽性腸閉塞症が否定されていること,排 便造影検査などで便排出障害の併存が否定されてい ること,高度な精神・心理的障害を有さない,の 4 条件が挙げられる35).
上記のごとく,慢性便秘症の専門的診療において 大腸通過時間検査は極めて重要であるが,SITZ- MARKS®は,2019 年 6 月の時点で,本邦で薬事承 認も保険収載もされておらず,医師が個人輸入した
図4 慢性便秘症の専門的検査による病態診断
インジウム(111In)などの放射性同位元素でラベル された飲食物を摂取した上で,消化管内におけるそ の移動をガンマカメラで追跡することで,大腸通過 時間を測定する方法である20).X 線不透過マーカー 法が検査に 5 ~ 7 日を要するのに対して,シンチグ ラフィー法は 24~48 時間で施行可能で,両者の相関 も良好である36).しかしシンチグラフィー法は,放 射性同位元素の使用や大規模な施設を必要とする点 から研究でのみ使用され,臨床では普及していない.
(3)無線カプセル法(wireless motility capsule) 内 圧・ 温 度・pH が 測 定 可 能 な SmartPill®
(Medtronic, Minneapolis, MN,USA)などの無線カ プセルを内服することで,全消化管の内圧・pH を 測定することができるため,大腸通過時間のみなら ず胃排出能を含めた全消化管の機能を評価すること ができる.無線カプセル法は,レントゲン被爆がな く X 線不透過マーカー法との相関が良好で37,38),よ り詳細なデータが得られるため,2006 年に米国食品 医薬品局によって認可され,米国と欧州の消化管運 動学会によって慢性便秘症における大腸通過時間検 査として推奨されている21,39,40).無線カプセル法によ る大腸通過時間の基準値は 59 時間未満で,全消化管 通過時間の基準値は 73 時間未満と報告されている21). 本邦においても,その導入が期待されるが,残念な がら未だ研究においてすら使用されいない.
2)排便造影検査(defecography / evacuation proc- tography)(図5 A)
肛門から擬似便としての造影剤を直腸内に注入し,
透視台上のポータブル便器に座った状態で,安静時,
肛門収縮時,擬似便排出時のX線撮影を側面から行 う.会陰の高さ,肛門直腸角,擬似便排出時の骨盤 底筋・肛門括約筋の協調運動,直腸瘤や直腸重積の 有無などを評価して便排出障害の有無とその原因を 診断する8).以下に排便造影検査によって診断できる 便排出障害の病態を述べるが,直腸瘤や直腸重積な どの器質的所見は,排便障害を呈しない健常者にも
困難や不完全排便による残便感を生じる便秘であ
る4,8,14,43).原因として,怒責時に弛緩状態を保つべき
恥骨直腸筋を含めた骨盤底筋を収縮させてしまう骨 盤底筋協調運動障害,腹圧(怒責力)低下,直腸感 覚低下,直腸収縮力低下などがあり,ローマⅣによ る表 4 の診断基準が提唱されている9).
(2)直腸瘤(rectocele)(図5 B,C)
直腸膣中隔が脆弱化して排便時に直腸前壁が膣側 に膨隆するために,排便困難,残便感を呈する病態
である2,8,35,44).直腸膣中隔脆弱化の原因として,経膣
分娩,加齢,子宮摘出,慢性的な怒責などが考えら れている.
(3)直腸重積(rectal intussusception)(図5 D,E) 怒責時に,直腸内でたるんだ余剰の直腸粘膜が重 積することによって便排出経路を閉塞して排便困難 を生じたり,重積した粘膜を糞便と誤認して残便感 を生じたりする病態である2,8,35).排便造影検査を行 うことによって描出できるが,描出された粘膜重積 が症状にどの程度関与しているかの判断は極めて困 難である.
(4)小腸瘤(enterocele)およびS状結腸瘤(sigmoid- ocele)
怒責時に,深いダグラス窩に落ち込んだ小腸や S 状結腸が直腸前壁や骨盤底を圧迫して便排出経路を 閉塞したり直腸粘膜を刺激したりするために,排便 困難,残便感,会陰部の不快感などを生じる病態で ある2,8).S 状結腸や小腸を造影しながら排便造影検 査を行うことによって描出できるが,描出された小 腸瘤や S 状結腸瘤が症状にどの程度関与している かの判断は極めて困難である.
(5)巨大直腸症(megarectum)
結腸の形態は正常だが,直腸のみが拡張して便排 出障害を生じるため直腸内糞便嵌頓を繰り返す病態 である2,8).後天性に発生するものと ultrashort seg- ment タイプの Hirschsprung 病との鑑別が問題とな る先天性のものがある.その鑑別のポイントは,直 腸に糞便が嵌頓した場合,直腸肛門抑制反射が消失
した Hirschsprung 病では便失禁を生じずに腸閉塞 症状を呈するのに対して,直腸肛門抑制反射が正常 に存在する巨大直腸症では溢流性便失禁としての漏 出性便失禁を呈する点である.
(6)排便強迫神経症(defecatory obsessive compul- sive disorder)(真の便秘症ではない)
軟便でも排便困難感や残便感を訴える症例に排便 造影検査を施行しても,擬似便が迅速かつ完全に排 出されて,便排出障害の所見を認めない場合がある.
そういった症例は,強迫観念のために,「本来体外に 排出すべき糞便」が直腸内に存在しないにもかかわ らず,残便感(偽の便意)を訴えて過度に怒責した り頻回にトイレに行ったりする排便強迫神経症の可 能性があり,真の便秘症ではない2,6,8).すなわち,こ の病態における排便困難感や残便感は,直腸や肛門
に原因があるのではなく強迫観念が主因であり,治 療としては,便を排出させるための便秘の治療は無 意味で,病態の説明による認知行動療法や精神・心 理療法が主体である.このように排便造影検査は,
排便困難型便秘症を機能性便排出障害と器質性便排 出障害に鑑別するのみならず,便秘ではない排便強 迫神経症の患者を便秘ではないと診断する点におい ても極めて重要である(図 4 ).
3)直腸バルーン排出検査(balloon expulsion test) 水で膨張させたバルーンを直腸に留置して,それ を便にみたてて排出する能力を評価する検査で,簡 便であるため機能性便排出障害のスクリーニング検 査として行われる.検査方法は施設によって異なる が,代表的な方法としては,カテーテル付きのバルー
図 5 排便造影検査(defecography または evacuation proctography)
A:排便造影検査装置:
小麦粉 200g+バリウム 100ml+水 100ml を混ぜて作製した擬似便を直腸内に注入し,透視台上のポータブル便器に 座った状態で,安静時,肛門収縮時,擬似便排出時のX線撮影( 1 枚/秒)または連続録画(cinedefecography)を側 面から行う.
B:直腸瘤の模式図
C:直腸瘤の排便造影検査画像:
破線が本来の直腸前壁のラインであるが,怒責に伴って直腸内圧が上昇すると,そのラインを越えて直腸前壁が膣側に 膨隆し,一見,直腸に生じた瘤のように見えるため直腸瘤と呼ばれる.排便時に肛門方向に向かうべき直腸内圧のベク トルが直腸瘤方向に分散するため有効な排便ができず,過度の怒責や排便困難の原因となる.
D:直腸重積の模式図
E:直腸重積の排便造影検査画像:
口側の直腸が肛門側の直腸内に重積し,その先進部は肛門管上縁に達しており,直腸 - 肛門の直腸重積である.
ンを直腸内に留置して 50ml の温水を注入して膨張 させた後,プライバシーの保たれた個室の中で便座 に座って怒責して排出してもらい,1 分以内に排出 できなければ機能性便排出障害と診断する45).バ ルーンに注入する温水の量を便意を感じるまでとし たり,正常な排出時間を 5 分以内としたりする施設 もある.
4)肛門筋電図検査(anal electromyography)(図6) 肛門に筋電計を留置し,腹筋にも筋電計を貼付し て,肛門収縮時と怒責時の肛門括約筋と腹筋の電気 的活動度を評価する.怒責時に肛門括約筋の電気的 活動度が上昇すれば,骨盤底筋協調運動障害による 機能性便排出障害である可能性がある.
上記の排便造影検査,直腸バルーン排出検査,肛 門筋電図検査の 3 検査が,便排出障害を診断する主
*6 ヵ月以上前から症状があり,最近 3 ヵ月間は上記の基準を満たしていること.
F3a.便排出力低下 (Inadequate Defecatory Propulsion) の診断基準
排便動作時に,骨盤底筋協調運動障害の有無に関わりなく,便排出力が不十分
(怒責時の直腸内圧上昇分が 45mmHg 未満)である.
F3b.骨盤底筋協調運動障害(Dyssynergic Defecation)の診断基準
排便動作時の怒責力は十分だが,骨盤底筋群の不適切な収縮か不十分な弛緩(肛 門管静止圧の低下が 20%未満)を認める.
文献 9 )より翻訳改変引用
図 6 肛門筋電図検査
肛門筋電図装置(マイオトラックTM インフィニティ,エムピージャパン,東京):
肛門用電極(A)を肛門内に挿入し,腹筋用表面電極(B)を外腹斜筋上の皮膚に貼付した上で,座位で肛門収縮と怒責を 繰り返し,肛門括約筋と腹筋の電気的活動度を評価する.
C: 正常者の筋電図所見:怒責時に,肛門括約筋は弛緩した状態を保ったまま(筋電計の波形は平坦のまま),腹筋だけが 収縮して(筋電計の波形が上昇して),腹腔内圧が上昇する.
D: 骨盤底筋協調運動障害患者の筋電図所見:怒責時に,肛門括約筋が収縮して(筋電計の波形が上昇して),腹筋も弱い ながら収縮する(筋電計の波形が上昇する).骨盤底筋と同じ陰部神経で支配されている肛門括約筋と腹筋の協調運動 が障害されているために,骨盤底筋協調運動障害と呼ばれる.
な検査であるが,その診断一致率は必ずしも高くな い.Bordeianou らが 123 例の慢性便秘症を排便造影 検査で診断したところ,63 例(51%)が便排出障害と 診断されたが,その 63 例のうちバルーン排出検査で 便排出障害と診断されたのは 33 例(53%),肛門筋電 図検査で便排出障害と診断されたのは 31 例(52%)
のみであった46).したがって,各検査の結果を参考 にして治療を行うのは良いが,必ずしも完全には信 頼しないで,患者の症状や治療効果に応じて再検討 する必要がある.
5)直腸肛門内圧検査(anorectal manometry) 直腸肛門内圧検査において,患者が怒責動作をし た際に,肛門内圧が静止圧の 20%以上低下しない場 合に骨盤底筋協調運動障害と診断することがローマ 基準によって提唱されている(表 4 )9).しかしこれは,
排便時には肛門内圧が安静時よりも低下しなければ 便が排出されないはずだとする思い込みに基づいた 誤りである.実際には,排便障害症状が全くない健 常者において本検査を施行すると,怒責動作時に肛 門内圧が上昇することが圧倒的に多い.すなわち実 際の排便時には,S 状結腸から直腸に便が移動する ことに伴う便意に反応した直腸の収縮に加えて,怒 責による腹腔内圧上昇に伴う直腸内圧の上昇によっ て生じる直腸内の圧力が,肛門管内圧を上回れば,
たとえ肛門内圧が安静時より高くても便は直腸から 排出されるのである.Grossi らは,排便障害症状を 有しない健常者 85 例に本検査を施行したところ,
ローマ基準の診断基準にしたがえば 74 例(87%)が 機能性便排出障害と診断され,偽陽性率が高過ぎる ため,「直腸肛門内圧検査は,機能性便排出障害を診 断する検査法として不正確で有用性が低い」と結論 づけている47).したがって,骨盤底筋協調運動障害 を直腸肛門内圧検査で診断することは推奨できない.
ただし,怒責時の腹圧上昇能力を評価するのには有 用で,本検査において怒責動作時の直腸内圧を測定 して,安静時からの直腸内圧上昇分が 45mmHg 未満 の場合は,怒責能力が低下している可能性がある9).
Ⅵ.慢性便秘症の治療
規則正しい食事や睡眠などの生活習慣の改善・確 立が規則正しい排便のための基本であり,また,便 意を感じたら我慢することなく排便を行う排便習慣
も重要である.
1.食事・栄養指導
大腸通過時間が正常にもかかわらず排便回数や排 便量が少ない大腸通過正常型便秘症では,食物繊維 摂取不足が原因であることが多く,食物繊維摂取量 の適正化(18~20g/日が目標)で症状が改善する場 合が多い32).ただし,便秘症に対する食物繊維摂取 に関する栄養指導は,現在,本邦において保険診療 として認められておらず,今後,早急に解決すべき 課題である.このことは,適切な食物繊維の摂取が,
虚血性心疾患,脳卒中,糖尿病,肥満といった生活 習慣病の予防や治療に極めて有用であることを考え ると,国民が健康で長生きするためにも極めて重要 な課題である48).
また,咀嚼能力が低下していたり食習慣が既に確 立・固定してしまっていたりする高齢者などで食物 繊維摂取量の適正化が困難な場合は,カルメロース ナトリウムなどの膨張性下剤やポリカルボフィルカ ルシウムも有用である.しかし,その一方,大腸通 過遅延型便秘症や便排出障害では,食物繊維摂取量 増加では症状が改善しないどころか,かえって増悪 する場合も多いので注意が必要である32).一般的に は,慢性便秘症患者の中で,食物繊維摂取量が少な いために便秘症を呈している大腸通過正常型便秘症 の患者は 30~40%と思われる32).
2.排便習慣指導
脊髄障害患者や高齢者の中には,直腸の知覚が低 下しているために,大蠕動によって S 状結腸の便が 直腸に来ても便意を感じないのでトイレに行かず,
直腸糞便塞栓を生じて排便困難や溢流性便失禁とし ての漏出性便失禁を生じている患者がいる.そのよ うな患者では,診察時に直腸に有意な便を触知する ことが多く,治療法としては,便意を感じなくても 1 日 2 回,朝夕食の 30 分程度後にトイレに行って排 便動作をするように指導し,それでも排便が得られ ない場合は,朝のみ新レシカルボン坐剤®を使用す るように指導する排便習慣指導が有効な場合が多 い49).この排便習慣指導に基づいた排便習慣訓練を 継続して,直腸を定期的に空虚に保っていると,直 腸の知覚が回復してくる場合もある.
3.薬物療法
上記の食事・生活・排便習慣の指導でも症状が十 分に改善しない排便回数減少型便秘症は,大腸通過
遅延型便秘症である可能性が高く,それに対しては 下剤などによる薬物療法を行う.本邦で一般的に使 用されている便秘症治療薬は表 5 に示す通りである が,その選択と使用方法にはコツがある30).各薬剤 の作用機序や具体的な選択方法は,本特集の他稿に 譲るが,基本的な考え方や使用方法を以下に簡潔に 述べる.
下剤治療の基本は,非刺激性下剤を毎日適量内服 して,排便回数を 2 回/日~ 1 回/ 2 日,便性をブリ ストル便性状スケールでタイプ 3 ~ 5 に調整するこ とであり,刺激性下剤は,非刺激性下剤が適切な種 類・量に達するまでのレスキューとしてのみ頓用で 使用する.現在使用可能な非刺激性下剤は,酸化マ グネシウム,ルビプロストン,リナクロチド,ポリ エチレングリコール,ラクツロースであり,DSS 合 剤とエロビキシバットは刺激性要素も有するが,そ の刺激性作用はセンナやピコスルファートナトリウ
ムに比較して弱いため,非刺激性下剤と同様の使い 方が可能である.便秘症の重症度は様々であるため,
非刺激性下剤の第一選択薬は,用量の微調節が可能 な酸化マグネシウム,DSS 合剤,ポリエチレングリ コール,ラクツロースである.エビデンスレベルが 高いのは,ポリエチレングリコールとラクツロース だが,保険診療上は,厚生労働省が保険局医療課長 通知(いわゆる保医発)として,2012 年のルビプロス トン発売以降に発売された新規便秘症治療薬には,
「本製剤の慢性便秘症への使用に当たっては,他の便 秘症治療薬(他の新規便秘症治療薬を除く)で効果 不十分な場合に使用すること」の条件が付されてい るので,まずは薬価の低い酸化マグネシウムや DSS 合剤を使用することになる.すなわち,低い薬剤費 で治療可能な患者は安価な下剤で治療し,それでも 改善しないか副作用などのために使用できない患者 に対してのみ,薬価の高い新規便秘症治療薬を使用
日最大量:6 包)
高分子化合物 ポリエチレングリコール モビコール®
1 回 1 ~ 3 包,1 日 1 ~ 3 回( 1 日最大量:2 ~12 歳未満は 4 包,
12 歳以上は 6 包)
2.浸潤性と刺激性の合剤
(DSS 合剤)
ジオクチルソジウムスルホサク シネート + カサンスラノール
ビーマス®
ベンコール® 1 回 1 ~ 2 錠,1 日 2 ~ 3 回 3.上皮機能変容薬 ルビプロストン アミティーザ®(12μg)
または(24μg) 1 回 12~24μg,1 日 1 ~ 2 回 リナクロチド リンゼス錠®(0.25mg) 1 回 1 ~ 2 錠,1 日 1 回 4.胆汁酸トランスポーター阻害剤 エロビキシバット グーフィス錠®5 mg 1 回 1 ~ 3 錠,1 日 1 回
5.刺激性下剤
センノシド センノサイド錠®(12mg)
プルゼニド錠®(12mg) 1 回 1 ~ 4 錠,1 日 1 回,眠前
センナ センナ®
アローゼン®
1 回 0.2~0.5g,1 日 1 回,眠前 1 回 0.5~ 1 g,1 日 1 回,眠前 ピコスルファートナトリウム ラキソベロン錠®(2.5mg)
シンラック錠®(2.5mg) 1 回 2 ~ 3 錠,1 日 1 回,眠前 6.オピオイド誘発性便秘症治療薬 ナルデメジン スインプロイク錠®(0.2mg) 1 回 1 錠,1 日 1 回
7.膨張性下剤 カルメロースナトリウム バルコーゼ® 1 回 0.5~ 2 g,1 日 2 ~ 3 回 8.過敏性腸症候群治療薬 ポリカルボフィルカルシウム コロネル®
ポリフル® 1 回 0.5~ 1 g,1 日 2 ~ 3 回 9.坐剤
炭酸水素ナトリウム・
無水リン酸二水素ナトリウム 新レシカルボン坐剤® 1 回 1 ~ 2 個,1 日 1 ~ 2 回 ビサコジル テレミンソフト坐薬® 1 回 1 個,1 日 1 ~ 2 回
10.浣腸 グリセリン グリセリン浣腸液® 1 回 30~120mL
DSS:ジオクチルソジウムスルホサクシネート
するように,との意図と考える.ただし,小児におけ る臨床治験データが存在するポリエチレングリコー ルは,小児に関しては保医発の条件が付されていな いので,小児には第一選択薬として使用可能である.
そしてセンナやピコスルファートナトリウムなどの 刺激性下剤は,上記の非刺激性下剤が適切な種類と 量に達するまでのレスキューとしてのみ使用する.
その使用のポイントは,排便は毎日ある必要がない ことを患者に教育し,排便が全くなかった日の睡眠 前に刺激性下剤を服用し,排便があった日には服用 しないように指導する.これは大腸壁の無用かつ過 度な収縮を避けるためであり,刺激性下剤を長期に わたって使用せざるを得ない場合に有用と考えるか らである.しかし刺激性下剤の耐性や嗜癖性自体は,
証明されていないどころか国際的にはむしろ否定的 な意見が多く,刺激性下剤を過度に忌避する必要は ない50).
4.高度大腸通過遅延型便秘症に対する手術 最大量の下剤でも十分な排便が得られない高度な 大腸通過遅延型便秘症である結腸無力症(colonic inertia)に対しては,結腸全摘+回腸直腸吻合術が 適応となる場合があるが,その症例選択は十分慎重 に行う必要がある.その条件として,最大量の下剤 でも糞便が十分に排出されないことが大腸通過時間 検査で客観的に確認されていること,上部消化管に 機能異常が存在せず慢性偽性腸閉塞症が否定されて いること,排便造影検査などで便排出障害の併存が 否定されていること,高度な精神・心理的障害を有 していないこと,の 4 条件が挙げられる35).また,手 術によって排便回数が正常化して糞便が十分に排出 されるようになっても,腹痛や腹部膨満感は必ずし も改善しない可能性を,術前に十分に説明しておく ことも重要である.
5.便排出障害に対する治療
便排出障害に対しては,下剤は,大腸通過時間を 短縮する目的では不要であるが,軟便化することに よって排便困難を軽減する目的では有効な場合が多 い.非刺激性下剤を用いて,便性状をブリストル便 性状スケールでタイプ 4 ~ 5 に調整する.また新レ シカルボン坐剤®などの坐薬も,便排出障害の原因 にかかわらず排便を誘発する刺激として有用なこと が多い.
1)バイオフィードバック療法
本療法は機能性便排出障害が適応であり,肛門括 約筋の収縮・弛緩状態を,筋電計を用いて視覚的に 患者に認識させることにより,肛門挙筋や肛門括約 筋などの排便関連筋群や腹圧を生じる腹筋群を良好 にコントロールできるように訓練する治療法であ
る51-53).その訓練の一環として,バルーンを用いた肛
門挙筋・外肛門括約筋の弛緩・収縮訓練やバルーン 排出訓練も有用である54).バイオフィードバック療 法による便秘の症状改善率は約 70%であり,メタ解 析によってもその有用性は証明されており,便秘 GL においてもエビデンスレベル A,推奨度 2 の治 療法として推奨されている1).
2)直腸瘤修復術
直腸瘤は器質性便排出障害の原因の一つであり,
直腸膣中隔の脆弱化によって排便時に直腸前壁が膣 腔内に膨隆する病態で,排便困難感,残便感,頻回 便,会陰部不快感などの原因となる.治療法として,
下剤やバイオフィードバック療法もある程度は有効 であるが55),根本的治療法は手術による直腸膣中隔 の修復・補強である56).術式は,経肛門,経膣,経 会陰,経腹と多数存在し,施設や術者の方針,経験 によって選択されているのが実情である44).
3)直腸重積に対する手術
直腸重積も器質性便排出障害の原因の一つであり,
怒責時に,直腸内でたるんだ余剰の直腸粘膜が重積 することによって便排出経路が閉塞されたり,重積 した粘膜が糞便と誤認されたりするために,排便困 難や残便感を生じる病態である.排便造影検査で直 腸重積の有無や程度を診断することができるが,直 腸重積があっても排便障害症状を有しない者もいる ため,その手術適応は慎重に検討する必要がある.
主な治療法は手術で,stapled trans-anal rectal re- section(STARR)57)や ventral rectopexy58)などがあ る35).
Ⅶ.結 語
慢性便秘症診療ガイドライン 2017 に基づいて,慢 性便秘症の診断と治療に関して概説した.慢性便秘 症の病態・原因は様々であり,原因に応じて治療法 も多数存在する.近年,多数の便秘症治療薬が新た
EA ファーマ株式会社)
文 献
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