名 誉 ・ プ ラ イ バ シ ー 侵 害 図 書 の 閲 覧 制 限 措 置 請 求 権 に つ い て
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(2) 早法七四巻三号︵一九九九︶. ︵1︶. 五七六. 低いうえに︑名誉・プライバシー侵害の場合の賠償金の額は一〇〇万円から二〇〇万円程度であり︑例えばマスコ. ミが出版物の売り上げ部数や視聴率をあげるために︑名誉・プライバシー侵害にあたるような過激な報道をして ︵2︶. も︑その程度の賠償金ですむのなら採算が十分にとれることになり︑賠償責任による名誉・プライバシー侵害行為 の抑止は十分には期待できない︒. そこで被害の救済として︑賠償責任の追及以外のいわゆる特定的救済の問題がクローズアップされることに ︵3︶. なる︒本稿では特定的救済のうち︑近時問題となってきている特定個人に対する名誉・プライバシー侵害図書の図. 書館での閲覧制限措置の請求権を検討の対象とする︒この問題の特徴は︑被害の回復措置の請求の相手方が︑名. 誉・プライバシi侵害行為の直接の加害者ではなく︑しかも資料提供につき公共的責任を負った図書館である点に. ある︒他方で図書館は資料の保存・提供というまさにその公共的使命の故に︑名誉・プライバシi侵害図書が一旦. 所蔵され︑広く市民の閲覧等に供されると︑被害の継続・拡大に固有の寄与をするという特色がある︒. ︵4︶. この問題は単に理論問題として重要なだけでなく︑名誉・プライバシi侵害図書の閲覧制限措置の請求が図書館. に対し実際に行われ︑図書館がその対応に苦慮しているという現実の事態を引き起こしており︑未だ学界で検討さ. れていない重要問題となってきている︒ここでは︑本問題について︑このような閲覧制限措置請求権の法的根拠︑ ︵5︶ 図書館の自由とのかかわりでの閲覧制限措置請求権の正当性︑その具体的内容︑手続きについて試論を展開する︒. ︵!︶ 例えば一九九〇年から一九九四年の我が国における最近の名誉・プライバシー侵害を理由とした損害賠償請求訴訟における平. 四︶︶︒なお︑以下に引用する文献・判例は紙幅の都合上最小限にとどめざるを得ないことを付言しておく︒. 均認容額は一六〇万円だと言われている︵秋吉健次﹁名誉・プライバシー関連判例の現状﹂ジュリスト一〇三八号四八頁︵一九九.
(3) この点を指摘するものとして︑加藤雅信教授は﹁何を書かれても︑基本的には一〇〇万円以下の損害賠償という現在の状況は. 名誉殿損の特定的救済について概観する近時の論稿として︑和田真一﹁名誉致損の特定的救済﹂山田卓生編集代表﹃新・現代. 早急に改められる必要がある﹂と指摘する︵同﹁名誉・プライバシー侵害の救済論﹂ジュリスト一〇三入号︶︒. ︵2︶. ︵3︶. よる差止請求との関係を中心としてー﹂民商一一六・四・五・一︵一九九七︶など︒名誉・プライバシー侵害の救済措置として. 損害賠償法講座2権利侵害と被侵害利益﹄ 二六頁以下︵有斐閣︑一九九八︶︑大塚直﹁人格権に基づく差止請求i他の構成に. の損害賠償請求以外の特定的救済の多様化の必要性を強調する論者として︑前掲加藤雅信の他︑五十嵐清﹁人格権侵害と原状回. 秋田県の事例では︑人格権侵害を理由に領布禁止の仮処分を受けた地方の雑誌について︑被害者側の弁護士より県内の図書館. 復﹂札幌法学四巻一H二合併号三九頁︵一九九三︶など︒. に対して︑当該図書の閲覧︑貸出を続けることは被害者に対する人格権侵害の不法行為を構成するので︑閲覧︑貸出を中止するこ. ︵4︶. と︑もしこの要求に応じなければ図書館に対して法的手段に訴えるという内容の警告文が送付された︒図書館側では図書館︵員︶. の自主組織である社団法人日本図書館協会に設置された﹁図書館の自由に関する調査委員会﹂とも協議の上︑当該雑誌を発行する. 出版社の承諾を得た上で︑当該記事の部分を除いた雑誌の複写を閲覧させることになった︒以上についての簡単な紹介として︑山. 本順一﹁ある県立図書館の憂轡﹂図書館雑誌九〇巻九号六八七頁︵一九九六︶︒またいわゆる神戸少年事件の容疑者の少年の顔写. 本稿は前注4の秋田事件を契機に︑民事責任論を専門とする者の立場からの意見を聞かせてほしいとの依頼に対して行なった. 真を掲載した週刊誌についての図書館の対応の問題は後述二2でふれる︒. ︵5︶. 本稿と同趣旨の三本の報告・講演の中で述べてきた私見を発展させたものである︵①日本図書館協会﹁図書館の自由に関する調査. リストとしての報告︵甲府・九七年一〇月︶︑③北海道図書館大会での講演︵札幌市・九八年九月︶︶.これらの報告の機会を与え. 委員会﹂関東地区小委員会セミナーでの報告︵東京・九六年一二月︶︑②全国図書館大会・第九分科会﹁図書館の自由﹂でのパネ. て下さり︑資料の提供もして下さった関係者の皆さん︑いろいろと現場の立場から貴重な御意見や御質問をいただいた図書館員の. 皆さん︑とくに図書館の自由に関する調査委員会の委員山家篤夫氏︵都立中央図書館︶にはここで記して謝意を表したい︒そして. つとめられた﹃新・判例コンタール民法9不法行為﹄︵三省堂︑一九九五︶の中で︑私が名誉殿損・プライバシー侵害に関する民. このような問題についての報告を筆者が依頼されたきっかけは︑私の指導教授であり︑ここに論文を捧げる篠塚昭次先生も編者を. 五七七. 法七一〇条をめぐる判例解説を書いたことが図書館の自由に関する調査委員会の方の目にとまったことによる︒その意味で拙いも. 名誉・プライバシー侵害図書の閲覧制限措置請求権について︵松本︶.
(4) 1. 早法七四巻三号︵一九九九︶ のではあるが︑本テーマでの論稿を篠塚先生に捧げさせていただくことにした次第である︒. 一 図書の閲覧制限措置請求権の法的根拠. ︵6︶. 五七八. 今のところ我が国で図書館を相手取って名誉・プライバシー侵害図書の閲覧制限請求が訴訟で争わ. 肖像権侵害を理由として出版社に図書館への付箋送付・付箋貼付依頼を請求した事件. ︵1︶ 事案. れた事例はないようである︒ただし︑肖像権侵害を理由に写真週刊誌を発行する出版社を相手取って︑当該雑誌の. 回収措置︑当該雑誌記事が肖像権を侵害する違法なものであることを当該雑誌を所蔵する図書館に警告する付箋を ︵7︶ 送付し︑この付箋の当該記事への貼付を依頼することなどを請求した事案があり︑本問題を考える上での参考にな る︒. この事案では︑出版社に対してこのような図書館への請求をさせる法的根拠が︑肖像権の侵害状態の将来にわた. る除去に求められている︒これは︑一審判決が位置づけるように︑﹁肖像権に基づく妨害排除及び予防のための各. 一審判決は︑損害賠償請求については一部認容したものの︑事後回収及び図書館への警告文付箋. 措置﹂であり︑人格権侵害を理由とした差止請求の一種と考えられる︒. ︵2︶ 判旨. の送付︑貼付依頼請求については︑かかる請求の実効性がないことを理由に請求を棄却した︒すなわち事後回収請. 求については︑写真週刊誌は流通先の購買者のもとで保存される性質のものではなく回収が困難であること︑また. 付箋貼付依頼請求については︑たとえ出版社に図書館への付箋貼付依頼請求を命じても︑実際に付箋を貼付するの.
(5) が図書館である以上︑それが実現されるかは不明確であり︑実効性がないというのである︒. 二審判決も上記請求を棄却したが︑その理由に︑①かかる請求を認めなければ原告の精神的苦痛を除去できない. とまでいえないこと︑②週刊誌の性格からして読後長期間保存されることは多くはなく︑その文献的価値も高いも. のではなく︑後に資料として利用される可能性は極めて少ないこと︑③肖像権は︑その対象たる肖像について︑物. ︵8︶. 本事案に関する上記二つの判決は本稿のテーマに関して重要な示唆を与えてい. まず一審判決が指摘する請求の相手方︵出版社︶と請求内容の行為者︵図書館︶が別主体であること. 本テーマに与える示唆. 権と同様な包括的か2元全な支配を包含する程成熟した権利ということはできないことを挙げている︒ ︵3︶ る︒. ① 実効性. に起因する実効性の問題は︑名誉・プライバシi等の侵害図書の出版社とは別に︑直接に図書館を相手取って図書 の閲覧制限措置等を請求した場合には生じない︒. ②被害の継続また週刊誌としての性格上一般読者に長期間保存されたりしないという点は︑図書館への所蔵の. 場合は当てはまらない︒更に二審判決がいうように︑文献的価値が低く︑後に資料として利用される可能性は極め. て少ないかどうかはにわかには断定できない︒そもそも図書館の本来的目的は所蔵図書が広く市民に資料として利. 用されることを目的としているのであるし︑また︑センセーショナルな記事について興味本位で閲覧されたり︑複 写されたりする可能性も否定できない︒. ③肖像権の権利としての成熟性二審判決は更に肖像権の権利としての未成熟性を請求棄却の判断要素として挙. 五七九. げている︒肖像権は我が国においては︑周知のように﹁個人の私生活上の自由の一つとして︑何人も︑その承諾な 名誉・プライバシー侵害図書の閲覧制限措置請求権について︵松本︶.
(6) 早法七四巻三号︵一九九九︶. ︵9︶. 五八○. しに︑みだりにその容貌・姿態を撮影されない自由を有する﹂として刑事事件において始めて最高裁で認められた ものである︒. ︵10︶ 一般的には肖像権も人格権の一つとして差止請求権の法的根拠となりうると解されているが︑従来は肖像権侵害 ︵11︶. とともに︑名誉殿損の成否が主要な論点となっており︑肖像権の侵害だけについて法的責任を追及した裁判例とし. ては本件が初めてであるとされている︒私見としては︑肖像権に基づく妨害排除・妨害予防請求権も一般的には肯. 定できると考え︑従って請求棄却の理由として肖像権の権利としての未成熟をかかげる二審判決には反対である︒. しかし︑この点を措くとしても︑少なくとも既に判例で認められているような名誉殿損やプライバシー侵害を理由. とした人格権侵害に基づく妨害排除・妨害予防請求権として図書館への閲覧制限請求権を構成するならば︑権利と. 人格権侵害に基づく差止請求が認められること自体は︑判例・学説上. しての未成熟を理由とした請求棄却にはならないことを二審判決は示唆していると言えよう︒次にこの点を検討し よう︒. 2 人格権的構成 ︵1︶ 人格権侵害に基づく差止請求権. ︵12︶. 異論はない︒周知のように最高裁は公職選挙法上の候補者についての名誉殿損にかかわる北方ジャーナル事件にお ︵13︶. いて︑名誉にかかわる人格権が差止請求権の法的根拠たり得ることを認めた︒またプライバシi侵害を理由とする. 差止請求権も下級審判決及び学説は肯定する︒従って︑名誉・プライバシーという人格権侵害に基づく差止請求権. として名誉・プライバシー侵害図書の閲覧制限措置請求権を構成することが考えられよう︒なお後述のように閲覧. 制限措置請求権には︑生じた被害の原状回復という側面もあるが︑将来継続する被害の予防という差止請求権の対.
(7) 違法性阻却事由. 従来︑出版物による名誉鍛損の場合に︑とりわけ問題となるのは表現の自由や報道の. ︵14︶ 象たる性格ももつので︑このような場合には過失を問わない差止請求権が成立すると考える︒. ︵2︶. 自由︑出版の自由などの憲法的価値との調整の問題であった︒仮に客観的に他人の名誉が侵害されているとして ︵15︶. も︑表現の自由などを考慮して一定の要件のもとに違法性が阻却されることがあることは︑損害賠償責任に関して 既に判例・通説の認めるところである︒ ︵16︶. 人格権侵害を理由とした差止請求権についても︑仮に客観的な人格権侵害状態があったとしても違法性が阻却さ. れるならば差止請求は認められないことも一般的に承認されていると言える︒前掲北方ジャーナル事件最高裁判決. は︑公職選挙法上の候補者に関する名誉殿損出版物の領布等の事前差止につき︑①その表現内容が真実でなく︑②. それが専ら公益を図る目的でないことが明白であって︑③被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被るおそれ. があるときに例外的に事前差止が認められるとしている︒そして損害賠償責任の場合の違法性阻却事由について ︵17︶. は︑被告側でその存在について証明責任を負うのに対して︑事前差止の場合は原告側で違法性阻却事由のないこと. 図書館に対して名誉・プライバシー侵害図書の閲覧制限措置請. について証明責任を負うものと解されている︒ ︵18︶ プライバシ:侵害の場合も真実性の要件を除き︑同様な違法性阻却事由が当てはまると考えられよう︒. ︵3︶ 違法性阻却事由としての図書館の自由. 求がなされる場合も︑名誉・プライバシi侵害図書の事前差止を被告出版社に対して請求する場合と同様の違法性 阻却事由の有無によって判断すべきであろうか︒. 五八一. 図書館に対して図書の閲覧制限を請求する場合には︑いわゆる﹁図書館の自由﹂との調整の問題が生ずる︒﹁図 名誉・プライバシー侵害図書の閲覧制限措置請求権について︵松本︶.
(8) 早法七四巻三号︵一九九九︶. ︵19︶. 五八二. 書館の自由﹂とは︑図書館が資料収集︑資料の提供において自由を有し︑そこに加えられる不当な干渉を排除する ︵20︶. 自由である︒この﹁図書館の自由﹂は︑憲法との関係でいえば︑表現の自由︑思想の自由︑知る権利などを根拠と. すると考えられている︒ある出版物が図書館から排除されれば︑それだけ表現の受け手が制約される結果︑表現の. 自由が制限されることになるし︑市民が自由に思想を形成するためにも︑図書が自由に閲覧できる必要がある︒図. 書の閲覧制限はこのような表現の自由︑思想形成の自由を予め制約する結果をもたらし︑その意味で事前検閲的機. 能を果たす出版物の事前差止との共通性を見出すことができる︒従って︑北方ジャーナル事件最高裁判決が示すよ うな上記三つの違法性阻却事由がないことを原告側で証明すべきと考えられよう︒ ︵21︶. この点につき︑﹁図書館の自由に関する宣言﹂も︑図書館の自由が制約され得る場合の一つとして︑﹁人権または. プライバシーを侵害するもの﹂を挙げている︒但し︑図書館は名誉・プライバシi侵害の直接の加害者ではない. し︑資料提供についての公共的責任も負っているので︑上記三要件を満たさない図書の閲覧につき︑即座に閲覧制. 限措置請求権が成立するか否かは別途検討を要する︒この問題は閲覧制限措置の内容としてどのような措置を請求. 不法行為構成. するかいう問題ともかかわるので︑次項二で検討しよう︒. 3. 図書の閲覧制限措置は︑将来継続する被害の予防という面では差止請求権の問題に︑また既に生じた被害の回復. という点では︑原状回復的側面を有する︒従って︑人格権に基づく差止請求という法的構成とは別に︑民法七壬二 ︵22︶ 条で規定された﹁名誉ヲ回復スルニ適当ナル処分﹂の内容として図書の閲覧制限を請求することも考えられる︒. 一般に﹁名誉ヲ回復スルニ適当ナル処分﹂は不法行為責任の効果としてとらえられており︑従って︑当該名誉致.
(9) ︵23︶. ︵24︶. 損・プライバシー侵害行為の帰責性︑すなわち少なくとも過失の存在が問題となる︒過失の本質が被害発生の予見. 可能性と結果回避可能性を前提とした予見義務違反︑結果回避義務違反にあるとすると︑図書館には所蔵する図書. が他人の名誉やプライバシーを侵害するか否かをいちいち調査する事前の予見義務まではないと言えよう︒しか. し︑例えば後述するように︑被害者から名誉・プライバシi侵害図書である旨の判決文︵の写し︶の送付ととも. に︑当該図書の閲覧制限措置請求が実際に図書館になされたという場合には︑被害発生の予見が可能であり︑また. 閲覧制限措置をとることにより結果回避が可能であるとすれば︑漫然と当該図書を閲覧自由にまかせていた場合に. は結果回避義務違反が生じうる︒なおこのような図書館における帰責性の存在については︑一般の不法行為の場合 と同様︑被害者側が証明責任を負うことになろう︒. また図書館は名誉・プライバシi侵害の直接の加害者でないことを考慮すれば︑差止請求権につき述べたような 違法性阻却事由のないことを被害者側で証明することが必要となろう︒. 訴訟外では前注4の秋田の事例の他︑いわゆる﹁三億円事件﹂︵一九六八年一二月︶で誤認逮捕された男性の配偶者から出版. 社への要請︵一九八七年︶に端を発し︑新聞社から図書館への閲覧制限請求がなされ︑一定の図書館がこれに対応し警告文を当該. ︵6︶. 新聞記事の掲載された縮刷文に貼付した事例がある︵日本図書館協会図書館の自由に関する調査委員会編﹃図書館の自由に関する. 作家の井上ひさし氏の配偶者になると目された女性を隠しどりした写真を掲載した写真週刊誌に関する事件︒東京地判平元. 事例33選﹄一二一頁以下︵日本図書館協会︑一九九七︒以下﹃事例33選﹄と略す︶︒. 本件判決が実効性のなさを理由に警告文送付・貼付依頼請求などを棄却している点については︑﹁不確実かつ実効性に乏しい. 六二﹈三判時二一二九号一三二頁︑東京高判平二・七・二四判時一三五六・九〇︒. ︵7︶ ︵8︶. ︵山口純夫・判評三七三号三〇頁︑一九八九年︶との見解がある︒同旨前掲和田二二頁︒. 五八三. 手段でももっと考慮すべきではないか﹂︵五十嵐清・判評三七一号三八頁︑一九八九年︶︑﹁裁判所はもっと積極的姿勢をとるべき﹂. 名誉・プライバシー侵害図書の閲覧制限措置請求権について︵松本︶.
(10) 五八四. 最大判昭四四・二丁二四刑集二一二巻一二号一六二五頁︵警察官によりデモ行進中の大学生が写真撮影された点が問題となっ. 早法七四巻三号︵一九九九︶ ︵9︶. ︵12︶. ︵11︶. ︵10︶. 近時の裁判例として︑東京地判平九・六・一一三判時一六一八号九七頁︵ジャニ:ズおっかけマップ事件︶︑学説として竹田稔. 最大判昭六丁六・一一民集四〇・四・八七二︒. 一審判決についてのコメント︵判例時報一三一九・一三三頁︶︒. 竹田稔﹃名誉・プライバシー侵害に関する民事責任の研究﹄二二〇頁以下︵酒井書店︑一九八九︶など︒. た事件︶︒. ︵13︶. ﹃図書館の自由を考える﹄︵青弓社︑一九九六︶︑川崎良孝﹃図書館の自由とは何か. ︵20︶. 前掲﹃事例33選﹄二五四頁︒但し︑人権またはプライバシー侵害を理由として︑どのような場合に︑どのような手続きで︑ど. この点については前注19の諸文献参照︒. アメリカの事例と実践﹄︵教育資料出版会︑. ︵21︶. 一九九六︶ 等参照︒. 同. 九八七︒ 前注﹃事例33選﹄二五三頁以下︶︒図書館の自由については︑渡辺重夫﹃図書館の自由と知る権利﹄︵青弓社︑一九八九︶︑. いる ︵日本図書館協会図書館の自由に関する調査委員会編﹃図書館の自由に関する宣言一九七九年改訂解説﹄日本図書館協会︑一. 書館はすべての検閲に反対する﹂ ﹁図書館の自由が侵されるとき︑われわれは団結して︑あくまで自由を守る︒﹂ことが宣言されて. ﹁第1図書館は資料収集の自由を有する﹂︒﹁第2図書館は資料提供の自由を有する︒﹂﹁第3図書館は利用者の秘密を守る﹂﹁第4図. は ﹁図書館は︑基本的人権のひとつとして資料と施設を提供することを︑もっとも重要な任務とする﹂との基本的視点のもとに. 書館協会が ﹁図書館の自由に関する宣言﹂︵以下﹁宣言﹂と略す︶を採択し︑それが七九年に改訂され今日に至っている︒そこで. 我が国では図書館の自由につき破壊活動防止法の導入に伴う図書館の中立性確保をめぐる論争を経る中で一九五四年に日本図. 前掲大塚四九頁︑前掲竹田﹃名誉・プライバシー侵害に関する民事責任の研究﹄一五五頁以下︒. 最大判昭六丁六・二民集四〇・四・八七二頁︒. 前掲大塚三九頁以下︑和田一三一頁以下︒. 最判昭四一・六・二三民集二〇・五・一一一八︒. 前掲大塚 一 七 ︑ 五 一 一 頁 ︒. ﹃名誉・プライバシー侵害に関する民事責任の研究﹄一五六頁︑二二〇頁以下︵酒井書店︑一九八九︶︑前掲・大塚一一コ頁など︒ 14 15 16 17 18 19.
(11) ︵22︶. 前掲和田一一八頁︑大塚一七頁︒. 前掲和 田 一 二 一 頁 ︒. な内容の資料提供の制限をすべきかという具体的問題については従来あまり議論されてこなかったようである︒. ︵23︶. 閲覧制限措置の内容. 図書館への事後回収措置の請求. 二. 井裕﹃テキストブッタ事務管理・不当利得・不法行為﹄一五五頁以下︵有斐閣︑一九九三︶参照.. ︵24︶過失の本質論をここで展開する余裕はない.近時の文献として吉村良一﹃不法行為法﹄六〇頁以下︵有斐閣︑一九九五︶︑. 1. 名誉・プライバシi侵害図書の事前差し止めが認められる場合はもとより︑図書館に一旦所蔵された後でも︑当. 該図書が回収されれば図書の閲覧制限問題は最初から生じないが︑図書館自体を相手取って事後回収措置を認めた 判決は今のところないようである︒. 中学二年生の男子生徒が近所の小学校五年生を殺害したとされるいわゆる神戸少年事件の加害少年の顔写真を掲 ︵25︶. 載した写真週刊誌の場合は︑図書館の中には問題の発生をさけるため︑最初から当該号を収蔵しなかったところも. あったようである.しかし﹁図書館は︑国民の知る自由を保障する機関として︑国民のあらゆる資料提供にこたえ ︵26︶. 五八五. なければならない﹂という﹁図書館の自由に関する宣言﹂の肯定すべき理念からして︑所蔵自体を行わないこと. 閲覧制限措 置 請 求 の 内 容. は︑図書館の公共的使命からいって問題である︒. 2. 名誉・プライバシー侵害図書の閲覧制限措置請求権について︵松本︶. 澤. のよう.
(12) 五八六. 名誉・プライバシーの保護と市民の知る権利の保障とを調整するためには︑仮に図書の閲. 早法七四巻三号︵一九九九︶. ︵1︶ 基本的視点. 覧制限措置を認める場合でも︑名誉・プライバシi保護にとって十分な措置であるとともに︑市民の知る権利をで. きるだけ損なわないことが要請されよう︒またその閲覧制限が恣意的になされれば︑表現の自由や思想の自由を侵 すことにもなりかねないので慎重な検討が必要である︒. 閲覧制限措置については︑警告文の付与の形態を原則とすべきであり︑当該図書自体の閲覧禁止措置は︑それ以. ここで警告文の付与とは︑ある図書の名誉・プライバシー侵害部分につき︑﹁この部分. 外には︑当該名誉・プライバシー侵害を防止できないようなごく例外的な場合に限られるべきである︒ ︵2︶ 警告文の付与. については︑OO裁判所により︑名誉・プライバシi侵害にあたるとする判決︵仮処分︶がOO年OO月OO日に. 出され︑当該被害者より文書により図書の閲覧制限措置の請求があり︑本図書館として警告文を貼付することが相. 当と判断しましたので︑本図書の取り扱いにつき御配慮下さい﹂という趣旨の文書を貼付することを意味する︒. 図書館利用者に当該図書が名誉・プライバシ!侵害と裁判所により判断された図書であることを警告することに. よって︑名誉・プライバシ:侵害そのものは除去されなくても︑その指摘されている事実が他人の名誉・プライバ. シーを侵害するものであることを明らかにできる︒また警告文の付与であって閲覧禁止措置ではないので︑市民の 知る権利も保障されることになる︒ ︵27V. ・ ⁝. ︵28︶. 一般に警告文の付与はラベリング措置の一種として︑それが濫用されれば図書館が表現の自由や出版の自由等を. 犯すことになり許されないと考えるべきである︒但し︑以上のように特定個人︵法人も含む︶の名誉・プライバシ. i侵害が具体的に裁判所により判断され︑被害者が閲覧制限措置を請求してきたという例外的な場合には︑表現の.
(13) ︵29︶. 名誉・プライバシー侵害図書を図書館が所蔵しつつも︑全面. 自由や出版の自由︑図書館の自由という抽象的法益の保護を理由に︑頭から警告文の付与を排斥することは妥当で はない︒. ︵3︶ 警告文の付与で目的を達成できない場合. 的ないし一時的に閲覧禁止措置をとることは許されるだろうか︒例えば神戸少年事件の加害者とされた少年の写真. が雑誌に掲載されたような場合には︑そのようなプライバシi侵害が少年法の趣旨に明確に反するとして図書の閲. 覧制限措置が請求されたり︑或いは請求がなくても図書館の判断で閲覧制限をするという場合に︑当該写真をその. まま閲覧させて︑そこに警告文を付与するだけでは︑後述のように容ぼう等本人であること推知させるような写真 等の掲載を禁じた少年法の趣旨が達成されない︒ ︵30︶. 実際の図書館の対応の中には︑この場合に当該写真が掲載された雑誌の当該号を全面的に閲覧禁止にしたり︑写 ︵31︶. 真の部分をマジックで塗りつぶす︑或いは写真に紙を貼り見えないようにして利用提供させるなどの対応があった. ようである︒しかし︑当該号の全面的な閲覧禁止措置は名誉・プライバシi侵害記事以外の部分について利用者が. 閲覧できないという点で問題である︒またマジックで塗りつぶすなどの行為は︑後述するような著作権の同一性保 持権や編集権の侵害にあたるおそれもある︒. そこでこのように警告文の付与では閲覧制限の目的が達成できないごく例外的な場合には︑上述の警告文の付与. とともに︑当該写真部分を除いた複写を利用提供させるという措置が考えられる︒この措置によって︑当該問題部. 分以外は自由に閲覧できるので︑資料提供という点の問題を回避できる︒当該写真部分に紙を貼るという方法も考. 五八七. えられるが︑このようなセンセーショナルな記事については︑張った紙が破られたり︑当該記事部分自体が切り取 名誉・プライバシー侵害図書の閲覧制限措置請求権について︵松本︶.
(14) 早法七四巻三号︵一九九九︶. 五八八. られるなどの図書保存上の問題も考慮しなければならない︒そこで一番適当な方法が当該写真部分を除いた複写の ︵32︶ 提供ということになる︒. なお︑当該写真部分を除いた複写の提供は︑著作権法とのかかわりで︑著作権者の同一性保持権に反しないか︑ また図書館が著作物を複写する限定的な要件に合致するのかが問題となろう︒. 著作権法は︑前者の同一性保持権については︑確かに﹁著作者は︑その著作及びその題号の同一性を保持する権. 利を有し︑その意に反してこれらの変更︑切除その他の改変を受けないものとする﹂と規定している︵二〇条一. 項︶︒しかし︑当該写真部分を除いた複写の提供が著作の﹁改変﹂に仮にあたるとしても︑著作権法は他方で﹁著. 作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変﹂は例外的に認められることを. 同時に規定している︵二〇条二項四号︶︒ここでの図書の﹁改変﹂は後述するように少年法の規定に明白に反するプ. ライバシー侵害を回避するための最小限の措置として︑原物自体は図書館に無修正で保存した上︑当該問題部分を. 除いた複写の提供という形で行われるのである︒これは当該著作物が少年法の明文の規定に明確に反する形での少. 年のプライバシー侵害という﹁性質﹂を有し︑他方で図書館が広く市民に所蔵する資料提供をしなければならない. という図書館所蔵雑誌の﹁利用目的及び態様﹂に照らし﹁やむを得ないと認められる改変﹂にあたると解されるの ではなかろうか︒. また図書館等が図書などの資料により著作物を複製できる場合も限定されているが︵一一二条︶︑上述のように写. 真を除いた雑誌の複写による提供が︑当該記事が破損されるおそれがきわめて高いことに鑑みた緊急避難的措置で. ある以上︑﹁図書館資料の保存のため必要がある場合﹂に該当して複写が許されると考えられるのではないだろう.
(15) カ・. %. 朝日新聞西部本社版・一九九七年八月一八日朝刊.なおこの事件に関する各地の図書館の対応については︑私も出席︑報告し. 号磐. なお日本図書館協会は︑問題の写真週刊誌の記事につき︑この記事が﹁宣言﹂に規定された資料提供の制限がなされ得る﹁人. アメリカ図書館協会の﹃図書館の権利宣言﹄︵アメリカ図書館協会評議会一九五一年採択︑その後一九九〇年六月二六日修正︶. 法人の名誉殿損を認めたものとして︑最判昭三九・丁二八民集一八二・二二六︒これに対してプライバシーは原則として. アメリカのラベリング声明も︑第二次大戦後一九五〇年代前半のマッカーシズムの時代に︑共産主義的な図書に対してラベル. 表現の自由の問題であって︑特定個人の名誉・プライバシー侵害図書の間題ではないのである︒ これらの事例の紹介として朝日新聞大阪本社版二九九七年八月二〇日朝刊参照.. ︵30︶ これらの事例の紹介として毎日新聞一九九七年七月二日夕刊参照︒. ︵32︶ このような措置をとった図書館の紹介として北海道新聞一九九七年七月一一日︒. ︵31︶. 名誉・プライバシー侵害図書の閲覧制限措置請求権について︵松本︶. 五八九. といわれている︵前掲川崎﹁図書館の自由とは何か﹄二三頁以下︶︒すなわち︑そこで問題となっているのは一般的な思想の自由︑. を貼り︑それによってアメリカ的でない図書を排斥しようとする図書館への攻撃が諸団体によって行われたことに端を発している. ︵29︶. イバシー侵害ととらえられないこともない︶︒. 特定個人に帰属するであろう︵但し︑プライバシーを自己情報コントロール権と考えれば︑法人の有する情報の秘密の侵害がプラ. ︵28︶. 館における知的自由マニュアル︵第5版︶﹄一四六頁︵日本図書館協会︑一九九七︶︒. であるとして︑これに反対している︵アメリカ図書館協会知的自由部編︵川崎良孝︑川崎佳代子訳︶︶﹃図書館の原則新版ー図書. の解説文第一五項では﹁ラベリング声明﹂を採択し︑資料に記入したり︑資料を指定したりするラベリングは︑﹁検閲者の道具﹂. ︵27︶. いる︵後に図書館雑誌九一巻八号五八一頁︵一九九七︶に収録︶︒私見もこの見解の趣旨に基本的に賛同する︒. 入・保存を差し控えるような対応或いは原資料に図書館が手を加えることについては︑首肯しがたい︒﹂との﹁見解﹂を公表して. 権またはプライバシーを侵害するもの﹂に該当するとした上で︑﹁当雑誌の損壊・紛失等のないよう配慮が必要である︒また︑受. ︵26︶. に関する調査委員会・関東地区小委員会・西河内靖泰氏作成︶が貴重な資料を提供しており︑本稿でも活用させていだいた︒. た九七年の全国図書館大会での第九分科会﹁図書館の自由﹂︵前注5参照︶で配布された﹁資料集﹂︵日本図書館協会図書館の自由. ︵25︶. 条.
(16) 早法七四巻三号︵一九九九︶. 閲覧制限措置の手続き. 被害者からの請求. 三. 五九〇. 七月一〇日︶︒しかし︑私見によれば︑本文で述べるようにこのような場合の複写は出版社の承諾がなくても可能であると考える︒. 上の問題から写真を除いた複写の提供を差し控え︑当該記事の掲載された号を閲覧停止にしたとされている︵読売新聞一九九七年. ︵33︶ 神戸少年事件の加害者少年側の弁護士から当該写真掲載週刊誌の閲覧制限措置の請求を受けた国立国会図書館では︑著作権法. 1. 前述したように︑図書館自体は図書館の性格から︑所蔵する或いは所蔵すべき図書・雑誌がある特定の者の名. 誉・プライバシーを侵害するか否かを事前に判断することはできないし︑またすべきでもない︒従って︑上述のよ. うな閲覧制限措置が例外的になされるとしても︑その前提となる当該図書が名誉・プライバシー侵害にあたるか否. かの判断は︑まず被害者からの請求が図書館になされることを出発点とすべきである︒しかも口頭による請求で. 裁判所による名誉・プライバシー侵害の判断. は︑内容が不明確になりやすく︑後々の証拠という点からも問題であるので︑文書による請求が必要と解すべきで ある︒. 2. 被害者から図書館への文書による閲覧制限措置請求がなされたとしても︑その前提となる名誉・プライバシ⁝侵. 害の有無については︑その前提とされる事実について図書館は調査する能力を有しないし︑また︑その事実が名. 誉・プライバシi侵害にあたるという法的判断を下す能力もないので︑結局︑直接に名誉・プライバシi侵害を行.
(17) っている当該図書の筆者や出版者に対して︑裁判所が名誉・プライバシ:侵害だと評価したということを前提とす るしかないであろう︒. ︵34︶. 裁判所による判断については︑仮処分による判断も含まれると解すべきである︒なぜなら︑仮処分は仮の判断で. あるとはいえ︑被害救済の緊急性︑必要性が認められるから下される処分であり︑名誉・プライバシー侵害の︑そ. れが一旦侵害されると被害の救済が本来的に困難であるとの性質に鑑みて︑仮処分の段階であっても図書館が何ら. かの対応をとる必要性があり得るからである︒この意味で判決が確定していることも要しないと解する︒. もっとも︑一日一名誉・プライバシー侵害であると判断する仮処分が出されたが本案判決で覆されたり︑名誉・プ. ライバシー侵害であるとの原判決の判断が覆された場合には︑名誉・プライバシi侵害でないとの終局判決が出る. までは︑被害の救済の観点からとりあえず警告文を付与しておくのが妥当と考えられる︒また終局判決で名誉・プ. ライバシー侵害には当たらないとされた場合は︑後に述べる図書館内の検討委員会の議を経て閲覧制限措置を解除. 閲覧制限措置の検討主体. すべきであろう︒. 3. 以上のように裁判所の判断を前提にして被害者が当該名誉・プライバシー侵害図書の閲覧制限措置請求をしてき. た場合に︑これに対して自動的に閲覧制限措置をとるとか︑図書館員が個人的に対応することは問題がある︒被害. 者自身が本当に請求しているのかどうかの確認や︑裁判所による法的判断がなされた事実及びその内容の確認も必. 要であるし︑いつからどのような閲覧制限措置をいつまでとるのかといった具体的な措置の内容についても検討が. 五九一. なされる必要がある︒これらの確認︑検討が個人的な対応で終わるならば︑措置の恣意性が生ずるおそれもある︒ 名誉・プライバシー侵害図書の閲覧制限措置請求権について︵松本︶.
(18) 早法七四巻三号︵一九九九︶. 五九二. 総じてこのような手続き的公正を期すためには︑各図書館内に閲覧制限措置に関する検討委員会を設置すること. が必要であろう︒この委員会はすでに国立国会図書館に設置されているような常設の委員会の形で︑その構成︑運 ︵35︶ 営︑とりうる措置の内容︑判断基準などにつき内規を設定することが望ましい︒ 4 被害者からの請求がない場合. 以上のように当該図書館への被害者からの文書による閲覧制限措置の請求がなされない限りは︑図書館の方で積. 極的に閲覧制限措置をとる必要はないし︑とるべきではないのが︑原則である︒しかし被害者からの請求がなくて. も︑或いは︑名誉・プライバシー侵害であるとの裁判所の判断がなくても︑名誉・プライバシー侵害が極めて明. 白・重大であり︑かつそのことが公知の事実として図書館にも容易に認識できる場合には︑上述の図書館内の検討 ︵36V 委員会での審議を経て一定の閲覧制限措置をとることも例外的に認められると考えるべきである︒ ︵37︶. なぜなら︑このような明白な名誉・プライバシi侵害が公知の事実となっている場合に︑被害者からの直接の請. 求がないからといって問題図書を無制限に閲覧に供することも図書館の自由に含まれるというのは︑図書館の公共. 神戸少年事件の加害者とされた少年の写真掲載問題について. 的性格からして疑問だからである︒. 5. 神戸少年事件の加害者の写真掲載問題はまさにこのような例外的な場合だったと考えられる︒少年法は周知のよ. うに﹁家庭裁判所の審判に付された少年又は少年のときに犯した罪により公訴を提起された者については︑氏名︑. 年齢︑職業︑住居︑容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写. 真を新聞紙その他の出版物に掲載してはならない﹂と定めている︵少年法六一条︶︒その趣旨は﹁少年の健全な育成.
(19) を期し︑非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分﹂を行うという少年法の目的︵同一. 8︶. 条︶から︑本人であることを推知させるような記事や写真が公表されることが︑その後の少年の更正を阻害するか ︵3 らであると解されている︒この意味で︑法は﹁家庭裁判所の審判に付された﹂或いは﹁公訴を提起された﹂少年に ︵39︶ つき規定しているが︑この趣旨は逮捕後審判に付される前の段階でも同様に当てはまる規定と解されている︒. 少年法の趣旨が以上の点にある以上︑加害少年の写真を掲載する記事は明確に少年法六一条に反するものであ. り︑このことが図書館にとって容易に認識された以上は︑当該図書の閲覧制限措置の可否やその内容につき上記検. 討委員会での検討を経て︑一定の閲覧制限措置がなされることも許容されるであろう︒このことは少年法自体の当. 否の議論とは別次元の問題である︒すなわち図書館という公共的な性格を担う機関が︑少なくとも現行少年法では. 明確に禁止されている特定のプライバシー侵害行為につき︑直接の加害者ではないとしても閲覧提供という形でそ. 閲覧制限の解除. の違法行為に荷担し︑被害を拡大することが許されるかどうかが間題なのである︒. 6. 以上のような閲覧制限措置をとった場合でも︑それを永遠に続けるべきかはまた別の問題である︒前述のよう. に︑一旦名誉・プライバシi侵害と判断された図書でも︑結局そのような法的判断を覆され︑かつ︑そのことの判 ︵40︶. 決が確定した場合は閲覧制限措置が解除され得る場合もある︒国会図書館の内規では閲覧制限措置につき一定期間. 経過後見直すべき旨の規定をおいているが︑そのような規定をおくことも考慮に値するであろう.ただし︑時が経. 過したからとか︑或いは被害者が死亡したからという理由は︑閲覧制限措置解除の判断要素にはなり得ても︑それ. 五九三. のみでは決定的な理由とはならないであろう︒時の経過は必ずしも名誉・プライバシー侵害の違法性を減少させる 名誉・プライバシー侵害図書の閲覧制限措置請求権について︵松本︶.
(20) 早法七四巻三号︵一九九九︶. 五九四. ものではないし︑時が経過して閲覧制限措置が解除されると︑被害発生時点から時がたっているだけにかえって図. 書利用者に当該図書内容が真実で妥当な記事であるとの誤解を与えやすいとも言えるし︑また死者自信の名誉・プ ︵41︶. ライバシーを認めるかはともかく︑少なくとも死者の遺族の敬愛追慕の情は法が保護すべき利益と考えられている からである︒. なおひとたび図書の閲覧制限請求が認められた場合に︑後にこれが正当な理由なく解除され場合には︑その時点 から新たな人格権侵害が発生し得ると考えられる︒. 新社︑一九八四︶参照︒. ︵34︶ 仮処分による出版物の差止について︑武田章弘﹁出版物の販売差止の仮処分﹂﹃裁判実務大系︵4︶﹄二〇八頁以下︵青林書院. 二月二五日に一部改正︒以下﹁内規﹂と略す︶の紹介として前掲﹃事例33選﹄七二頁以下︒. ︵35︶ ﹁国立国会図書館資料利用制限措置に関する内規﹂︵一九八八年一二月一四日制定︑八九年一月一日より施行︒その後︑九三年. 人権を侵害することが客観的に明らかな資料﹂の場合に利用制限措置の対象となり得るとしている︒. ︵36︶ 前掲の国立国会図書館﹁内規﹂では名誉︑プライバシー侵害等が裁判で確定しない場合でも﹁その内容を公開することにより. だけでは閲覧制限措置手続きを開始すべきほどの公知性がないと言えよう︒また特定の地域で問題となっている名誉・プライバシ. ︵37︶ 被害者からの直接の閲覧制限措置の請求はないが︑たまたま特定の一部の図書館員が名誉・プライバシi侵害を知ったと言う. i侵害事例でもそれが全国的に公知の事実となっている場合には︑当該地域の図書館だけでなく︑他地域の図書館でも閲覧制限措 置の是非が検討されるべきであろう︒. ︵38︶ 少年法六一条の趣旨として︑白取祐司﹁少年事件の報道と少年法﹂法律時報七〇巻八号三〇頁以下︵一九九七︶及びそこに引. 用の諸文献参照︒報道の自由と少年保護との関係については︑﹁特集・表現の自由と少年の人権﹂法律時報七〇巻一一号︵一九九 この点につき前注白取三三頁︒. 八︶も参照︒ ︵3 9︶.
(21) ︵40︶前掲の国立国会図書館の﹁内規﹂では︑利用制限措置がなされた資料は︑一定期間︵最長三年︶以内に再審議しなければなら. 死者の遺族の敬愛追慕の情の法益性につき︑東京高判昭五四・三二四高民集三二巻一号三三頁など︒. ないとの規定が置かれている︵前掲﹃事例33選﹄七三頁︶︒. ︵41︶. おわりに. 以上要約すれば︑図書の閲覧制限措置は︑原則として︑被害者から当該図書が名誉・プライバシi侵害であり︑. そのために閲覧制限措置を請求することが文書で示され︑かつ︑裁判所により当該図書が名誉・プラバシー侵害で. あるとの法的判断がなされたことを前提にして︑各図書館内に設定される検討委員会で検討された上なされうる例. 外的な措置と位置づけられる︒その内容は警告文の付与を原則として︑ごく例外的な場合に当該名誉・プライバシ ︵42︶ 1侵害部分を除いた複写の提供措置が考えられ得る︒. 図書館は市民の知る権利の保障を担う公共的性格を有する︒この点は従来も強調されてきた︒しかし︑今日図書. 館は市民の権利の実現主体としてのみならず︑個々の市民の権利の侵害主体にもなりうる︒名誉・プライバシ:侵. 害図書の閲覧制限の問題は︑そのような図書館の侵害主体性にかかわる新しい問題である︒今後は以上のような閲. 覧制限措置の可否の要件・効果を精緻化するとともに︑要件・効果論を根底で規定する図書館の公共的性格に関す. 五九五. 神戸少年事件にかかわって︑加害者とされた少年に関する検事調書とされる文書の一部が月刊誌に掲載され︑これも少年法の. る議論を更に展開していくことが求められよう︒ ︵42︶. 名誉・プライバシー侵害図書の閲覧制限措置請求権について︵松本︶.
(22) 早法七四巻三号︵一九九九︶. 五九六. 趣旨に反するのではないかと図書館の対応が問題となった︒これに対して︑日本図書館協会は﹁見解﹂を発表し︑安易な資料提供. 制限はすべきではないとし︑提供制限をしうる条件として︑①領布差し止めの司法判断がなされたこと︑②当局から図書館にその. 通する︒ある論者は︑この﹁見解﹂につき﹁今後の現場の判断基準として有益であろう﹂とする︵山田健太﹁﹃少年の保護﹄と表. 旨の通知があったこと︑③被害者から制限をしてほしい旨の申し入れがあったことをあげているが︑これは私見と根底において共 現の自由﹂ジュリスト︸二二六号五四頁︵一九九八︶︒.
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