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電子書籍利用の要因抽出とモデル化による利用促進への示唆 渡部和雄 1 電子書籍は多くの利点を持つが, 現状では出版物市場の 1 割以下を占めるに過ぎない. そこで, 電子書籍の利用促進の示唆を得ることを研究目的とした. 電子書籍利用とインターネット利用の親和性の高さに着目し, まずは消費者の電子書籍

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(1)

Making Suggestions for Promoting E-book Usage

by Extracting Factors and Constructing Models of E-book Usage

Kazuo W

ATABE †1

Abstract

Electronic books, or e-books, offer several benefits over traditional books: e-book

devices are easily portable, easily accessible, and are able to store thousands of books

without taking up physical space. Despite these merits, in 2013, e-books had a market

share of only six percent of the book market in Japan. This prompted us to seek

suggestions on promoting the usage of e-books among consumers. We carried out a

five-step study as follows:

(i) A questionnaire-based survey was conducted with 1,000 consumers to gauge their

behaviors and attitudes toward paper books, e-books, information sharing, degree of the

desire to use e-books, and the frequency of e-book usage.

(ii) We then extracted seven factors by applying exploratory factor analysis to the

data collected. The factors included users’ awareness of the advantages and disadvantages

of e-books, love of paper books, interest in book contents, and gathering and sharing

information through the Internet.

(iii) Hypotheses were set that indicate the relationship among the extracted seven

factors, degree of the desire to use e-books, and frequency of e-book usage.

(iv) A confirmatory factor analysis was conducted. Then, we constructed a consumer

e-book usage intention model and a consumer e-book usage frequency model using

structural equation modeling (SEM).

(v) After analyzing the models, suggestions were made to enterprises dealing with

books, such as publishers, book stores and authors, for promoting consumer usage of

e-books.

The suggestions included raising consumers’ interest in the contents of e-books,

approaching consumers who actively disseminate information through social media and

encouraging them to promote e-books, helping consumers to understand the advantages of

e-books, and easing consumers’ concern about the disadvantages of e-books.

Key words: electronic book, usage promotion, consumer survey, structural equation

modeling, model

†1

Faculty of Knowledge Engineering, Tokyo City University

Received: February 21, 2014

Accepted: October 23, 2014

J Jpn Ind Manage Assoc 66, 1─11, 2015

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電子書籍利用の要因抽出とモデル化による利用促進への示唆

渡部

和雄

†1 電子書籍は多くの利点を持つが,現状では出版物市場の 1 割以下を占めるに過ぎない.そこで, 電子書籍の利用促進の示唆を得ることを研究目的とした.電子書籍利用とインターネット利用の 親和性の高さに着目し,まずは消費者の電子書籍や情報受発信に対する意識や行動について質問 紙調査を行った.そして,回答の探索的因子分析を行ったところ,電子書籍の長所・短所,ネッ トで情報収集・発信など 7 つの因子が抽出された.検証的因子分析を経て,構造方程式モデリン グを用いて,消費者の電子書籍利用意向モデルおよび電子書籍利用頻度モデルを構築した.これ らのモデルを基に,電子書籍事業者向けに消費者の電子書籍利用を促進する方策を提案した. キーワード: 電子書籍,利用促進,消費者調査,構造方程式モデリング,モデル

1 電子書籍について

1.1 電子書籍の普及状況 日本国内における出版物(書籍・雑誌)の推定販 売額が2014年まで10年連続で前年割れした[1など]. その一方で,電子雑誌を含む電子書籍市場の大きさ は2013年度は1,013億円,2014年度は1,390億円と推測 され,今後も拡大し続けるとされている[2].しかし, 2004年と2010年と少なくとも2度のいわゆる「電子書 籍元年」[3], [4]を迎えながらも,電子書籍は2013年で 出版物市場の6%程度を占めるに過ぎず,未だ普及し ているとは言えない. 電子書籍は大量の書籍を持ち運び可能,保管場所 を取らない,いつでもすぐ読める,いつでも買える, 品切れがない,文字を検索できる,低価格など多く の利点を持つ.しかし,日本で普及していない理由 は何か,また普及させるには電子書籍事業者(電子 書籍の著者,出版社,電子書店,端末製造業者ら) はどのような方策を実施すべきだろうか.そこで, 筆者らは人々の電子書籍に対する意識や行動および 電子書籍利用に影響すると考えられる要因について 調査,分析することにより,消費者の電子書籍利用 を促進するための示唆を得たいと考えた. 1.2 電子書籍とは 植村[5]によれば,電子書籍とは「既存の書籍や雑 誌に代わる有償あるいは無償の電子的著作物で,電 子端末上で専用の閲覧ソフト(ビューワー)により 閲覧されるフォーマット化されたデータ」である. インプレス総合研究所[2]は電子書籍を,「書籍に近 似した著作権管理のされたデジタルコンテンツ」と している.能勢ら[6]は電子雑誌を定義し,「雑誌に 近似したパッケージ化されたデジタルコンテンツ」 としている. 本論文では電子書籍とは,「電子書籍専用端末ま たは汎用端末で読める書籍または雑誌の体裁をした デジタルコンテンツ」とする.ここで,電子書籍専 用 端 末 と は ,Amazon Kindle や 楽 天 Kobo , SONY Readerなど専ら電子書籍をダウンロードしたり読ん だりするための端末,汎用端末とはスマートフォン や携帯電話,タブレット端末,パソコンなど,用途 が広く,電子書籍も読める端末を指すものとする. なお,電子書籍専用端末と汎用端末を合わせて電子 書籍端末と呼ぶことがある.

2 電子書籍普及に関する主な先行研究

電子書籍普及についての先行研究は,研究手法に より大きく次の3種類に分けられる. ①主として実験により,電子書籍端末のユーザビ リティ(使いやすさ)や眼精疲労についてデータを 取り,利用しやすい電子書籍端末を探った研究 ②出版社や書店などの動向を調査・考察し,普及 への課題や方策を示した研究 ③消費者への質問紙調査に基づいてデータ分析し, 普及への課題や方策を示した研究 ①には文献[7]~[10]などがある.矢口[7], [8]は読み やすさとユーザビリティの観点から,デジタルメデ ィアを紙メディアと比較した.電子ペーパーを採用 した端末は大きさ,重さは紙の本と同じような特性 を持つが,表示能力については漢字を使う日本語文 †1 東京都市大学 知識工学部 受付: 2014 年 2 月 21 日,再受付(3 回) 受理: 2014 年 10 月 23 日

(3)

書の表示には版面の大きさ,画面解像度が十分では ないことを指摘している.総じて,現状のデジタル メディアは読みやすさやユーザビリティは紙メディ アより劣り,紙メディアを完全に代替できるもので はないが,紙メディアのコンテンツを利用すること は可能と報告している.岡野ら[9]は電子ペーパーの 呈示条件・媒体重量・表示面積が読みやすさに与え る影響を実験により評価した.そして,ある重量以 下ならば媒体を手持ちにすることで読みやすくなる ことと,読みやすさと画面サイズの関係を定量的に 示した.磯野ら[10]は実験により,実験者の視覚疲労 は液晶タブレットの方が電子ペーパーより大きく, 視覚疲労の自覚症状も強いことを示した.電子ペー パーと液晶画面で異なるが,電子書籍端末は総じて 読みやすさ,使いやすさ,画面解像度,視覚疲労の 面での改善が求められている. ②の出版社や書店などの動向を調査・考察し,普 及への課題や方策を示した主な研究として,文献[11] ~[13]がある.佐々木[11]は電子書籍ビジネスの発展 のためには,出版社と権利の関係,電子書籍フォー マットが多様なこと,電子書籍制作コスト,統一し た書誌データがないこと,電子書籍の取次機能など が課題であると報告している.坂本・田中ら[12]は米 国,中国,台湾,韓国,シンガポール,フランスに ついて,電子書籍の導入と普及動向を展望した.そ して,日本での課題として,偏っているコンテンツ の一般化を挙げ,これにより高機能端末の普及とオ ープンな書籍配信プラットフォームの利用拡大とい う好循環を生み出すと報告している.三菱総研[13]は 電子書籍の普及が出版社,書店や取次,印刷会社, 電気メーカーそれぞれに及ぼす影響を考察し,電子 書籍を新しい市場創出の援軍と捉えて,出版市場全 体の活性化に向けて業界が取り組むべきだと述べる. ③の消費者への質問紙調査に基づいてデータ分析 し,普及への課題や方策を示した主な研究として文 献[7], [14]~[19]がある.Ratten[14]は社会的認知理論 を基に概念モデルを検討し,大学生への質問紙調査 からマーケティング(電子書籍が消費者の目に触れ る頻度)と革新志向(個人が革新的で危険を冒す方 か)が電子書籍端末の受け入れ意思に有意に影響す ると結論づけた.Foasberg[15]は大学生への質問紙調 査を行った.学生は電子書籍の利点では可搬性,利 便性,保存容量を高く評価し,欠点では電子書籍専 用端末および電子書籍の費用の高さ,品ぞろえ不足, 目の疲れを挙げている.CamachoとSpackman[16]は大 学の教職員に質問紙調査を行った.紙の書籍を好む 人と電子書籍を好む人は6:4に分かれ,前者はその理 由に読みやすさと書籍を持ち運んで容易に開けるこ とを挙げ,後者はその理由に入手が容易,他に何も 持つ必要がないこと,検索力を挙げたと報告してい る.YenとTsai[17]は大学生で電子書店の利用者に質 問紙調査を行い,満足度と知覚された有用性が電子 書店の継続的利用に影響するとした. 矢口[7]は2010年1月に読書傾向と電子書籍端末に関 する意識調査を首都圏と関西圏で行った.電子書籍 の利用に対して,積極的な人も否定的な人も少なく, 多数を占める共存派は電子書籍の利便性は認めなが らも紙の書籍を好み,電子書籍には消極的であった と述べている.矢口・植村[18]は翌年,この調査を質 問数や標本数を拡大してほぼ同じ地域で行った.電 子書籍について回答者からは,「本を読む満足感が 得られない」,「本を所有する満足感が得られな い」,「紙の本で十分だ」など,電子書籍の必要性 を否定する回答が多かったと報告されている.また, 「画面が見にくそう」,「入手できる電子書籍が少 なそう」,「電子書籍の購入が面倒だ」,「電子書 籍の操作が煩雑そうだ」など,多くの回答者が電子 書籍(端末)の問題点を指摘した.一方で,「本が デジタル化されるのは時代の流れで仕方ない」とい う消極的肯定が最も支持されたと報告されている. 渡部[19]は消費者調査とデータ分析により,電子書籍 の利用者は非利用者よりも電子書籍の長所を高く評 価していること,インターネットで情報受発信や買 い物する人ほど電子書籍を利用したい意識が強いこ と,消費者が利用したい電子書籍端末やコンテンツ が必ずしも利用されていない(利用できない)こと などを明らかにした.

3 本研究の目的と方法

筆者らはWebやSNSなどインターネットを使った 情報収集や発信と,インターネットを通じて購買さ れることが多い電子書籍の利用との親和性の高さに 着目している.しかし,前述の先行研究では,電子 書籍利用要因として,インターネットを使った商品 情報の収集や情報発信に対する消費者の意識や行動 を挙げたものは少ない.また,他の電子書籍利用要 因を含めて,それらの要因間の因果関係,およびそ れらの要因と電子書籍利用との因果関係を明らかに したものは非常に少ない. そこで,本研究の目的は以下の3点とする. (1)電子書籍利用の諸要因(因子)を探る. (2)それらの要因間,および要因と電子書籍利用の因 果関係を包括的にモデル化する. (3)構築したモデルを分析して,消費者の電子書籍利

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用を促進するために,電子書籍事業者がどのよう な方策を実施していくべきかの示唆を得る. これらの目的を達成するため,以下の手順で研究 を進める. (1)消費者の電子書籍利用に影響すると考えられる要 因を検討し,消費者に質問紙調査(以下,消費者 調査)を行う. (2)消費者調査の結果を分析し,電子書籍利用に影響 すると考えられる因子を抽出する. (3)抽出された因子と,消費者の電子書籍利用意向 (電子書籍への関心の高さや電子書籍を利用した い度合い)および消費者の電子書籍利用頻度(電 子書籍を実際に利用する頻度)との因果関係を示 す仮定を設定する. (4)この仮定に基づいて,構造方程式モデリングを用 いて,電子書籍利用モデルを構築する. (5)構築したモデルから,電子書籍事業者に対し,消 費者の電子書籍利用促進策を提案する.

4 消費者調査の概要

調査対象者は首都圏(東京都,千葉県,埼玉県, 神奈川県)を中心とした関東地方居住者で,20歳か ら69歳までの男女とした.5つの年齢層(20歳代,30 歳代,40歳代,50歳代,60歳代)に男女100人ずつを 均等に割り付けた.調査は,調査会社が抱えるパネ ルから上記条件を満たす者を選び,電子メールを送 って回答を依頼し,Webページにアクセスして質問 に回答してもらう方法を用いた.調査時期は2014年4 月で,パネルへの依頼メール発送数は3,130,有効回 答数は1,515(有効回答率48.4%)であった.回収依 頼した1,000サンプルが,有効回答から上記の割付に 従ってランダムに選ばれた. 消費者調査において,質問項目は次のように決定 した.前述の先行研究[7], [14]~[18]やネットでのク チコミの研究[20],ネット調査会社らによる消費者調 査[2], [21]~[23],また筆者らが行った簡単な予備調 査の経験に照らして,消費者の電子書籍利用に影響 すると思われる要因を検討した.その結果,消費者 に以下のような質問をすることとした(計32項目).  電子書籍の利便性や不便さに対する認識(12項 目)  紙の書籍や書店に対する意識や行動(5項目)  主な書籍ジャンルへの関心の高さ(4項目)  インターネットを使った情報収集や情報発信の 行動(7項目)  インターネットでの商品・サービスについての 情報収集方法(4項目) ここで,意識や行動に関する質問には原則として, 1. 当てはまらない~5. 当てはまる,の5件法で,頻度 に関する質問には,1. まったく利用しない~5. ほぼ 毎日利用する,の5件法で回答してもらった. これらに加えて,電子書籍の利用希望や実際の利 用状況を把握するため,次の項目についても質問し た(計4項目).  電子書籍への関心の高さ,電子書籍を読める端 末の利用意向(利用したい度合い)(2項目)  電子書籍(コンテンツ)の利用頻度,電子書籍 を読める端末の利用頻度(2項目) 消費者調査の結果の概要を表1に示す.電子書籍利 用者は397人(39.7%)であった.うち,パソコンやス マートフォンなど汎用端末で電子書籍を読んでいる 人は,387人(38.7%)であった.電子書籍専用端末利 用 者 は111人(11.1%)とまだ少なく,最も多い楽天 Koboでも88人(8.8%),Amazon Kindleは85人(8.5%)で あった.なお,専用端末だけを利用して電子書籍を 読んでいるのは10人のみで,他の101人は汎用端末も 併用して電子書籍を読んでいた. 表1 消費者調査の結果の概要 人数 割合 男性 500 50.0% 女性 500 50.0% 20歳代 200 20.0% 30歳代 200 20.0% 40歳代 200 20.0% 50歳代 200 20.0% 60歳代 200 20.0% 利用者 397 39.7% 非利用者 603 60.3% 男性 225 22.5% 女性 172 17.2% 汎用端末 387 38.7% 専用端末 111 11.1% パソコン 321 32.1% スマートフォン 218 21.8% 携帯電話 160 16.0% タブレット端末 140 14.0% その他 97 9.7% 楽天Kobo 88 8.8% Amazon Kindle 85 8.5% SONY Reader 72 7.2% その他 72 7.2% 電子書籍 利用端末 電子書籍で 利用する 汎用端末 電子書籍で 利用する 専用端末 回答者の 性別 回答者の 年齢層 電子書籍 利用者 利用者 の性別 調査した質問項目について回答の平均値,中央値, 最頻値,標準偏差を表2に示す.回答の平均は3点台 が多かったが,頻繁に情報発信する者は少なく,情 報発信関連の質問22~25では1点台半ばが多かった.

5  電子書籍などに対する潜在意識の因子抽出

電子書籍や紙の書籍・書店,ネットでの情報受発

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信などに対して消費者が持つ潜在意識を探るために, 消費者調査の結果を使って,探索的因子分析を行っ た. 表2 質問項目の回答の平均と標準偏差など 1.いつでもどこでも読めるのは便利だ  4 4  2.持ち運びしやすいのは便利だ  4 4  3.保管場所を取らないのは便利だ  4 4  4.何千冊も持ち運べるのが便利だ  4 4  5.ゴミが出ないなど環境にやさしい  4 4  6.画面表示の文字の大きさを変えられるのは便利だ  4 4  7.電子書籍をコレクションしにくい  3 3  8.読むための電子機器の故障や破損が不安だ  3 3  9.電子書籍やアプリの起動に時間がかかる  3 3  10.電子書籍で読めるジャンルに偏りがある  3 3  11.電子書籍で読めるコンテンツが少ない  3 3  12.個人情報流出など、セキュリティが不安だ  3 3  13.紙の書籍を読むことが好きだ  3 3  14.紙の書籍をよく読む方だ  3 3  15.街の書店をよく利用する  3 3  16.紙の書籍の質感やにおいが好きだ  3 3  17.本や雑誌は、書店で実際に手に取って選ぶのが好きだ  3 3  18.よくネットで商品・サービスの価格を比較する  3 3  19.よくネットで商品・サービスの情報を調べる  3 3  20.商品・サービスについて、よくネットと実店舗の価格を比較する  3 3  21.よくネットで商品・サービスの情報を調べて、ネットで購入する  3 3  22.価格比較サイトのクチコミで情報発信する  1 1  23.ネットショップのクチコミで情報発信する  1 1  24.動画配信サービスで情報発信する  1 1  25.電子掲示板で情報発信する  1 1  26.専門書に関心がある  3 3  27.教科書・参考書に関心がある  2 3  28.実用書、ビジネス・経済書に関心がある  3 3  29.辞書・事典に関心がある  3 3  30.Webページで情報収集する  5 5  31.検索エンジンで情報収集する  5 5  32.電子メールで情報収集する  5 5  中央 値 最頻 値 質問項目 平均値 標準 偏差 注)すべての質問項目は件法(~)で回答してもらっ   た. 表2に示した消費者調査を行った項目の1番から32 番の回答を因子分析した(注1).その結果,表3に 示すように,固有値が1以上となる因子が7つ抽出さ れた.表3の左側に調査の際の質問項目1~32を,そ の右側には各質問項目に対応した因子負荷量を示す. 各因子に対応する質問への回答(質問に対する消 費者の回答は直接的に観測されているので,以下で は質問項目を観測変数とも呼ぶ)の因子負荷量の大 きさにより,各因子にラベルを付与した.まず,第1 因子はいつでもどこでも読める,持ち運びしやすい, 保管場所を取らないなど,電子書籍の長所を表す質 問項目に対応する因子負荷量が高いため,「電子書 籍の長所を評価」と名付けた.第2因子はコレクショ ンしにくい,電子機器の故障や破損が不安など,電 子書籍の短所に関する質問項目に対する因子負荷量 が高いため,「電子書籍の短所を懸念」と名付けた. 第3因子は紙の書籍を読むことが好きだ,紙の書籍を よく読むなどなので,「紙の書籍に愛着」とした. 同様にして,第4因子は「ネットで商品情報収集」, 第5因子は「ネットで情報発信」,第6因子は「書籍 コンテンツへの関心」,第7因子は「ネットで情報収 集」とした. 表3 探索的因子分析の結果 1 2 3 4 5 6 7 .963 .939 .906 .888 .881 .863 .828 .765 .765 .751 .108 .717 .712 .935 .859 .790 .782 .748 .859 .810 .797 .781 .818 .807 .780 .774 .861 .746 .739 .729 .747 .727 .626 0.97 0.90 0.92 0.89 0.87 0.85 0.75 32.07 11.12 8.88 6.87 6.17 4.70 4.40 32.07 43.19 52.07 58.94 65.11 69.80 74.21 10.26 3.56 2.84 2.20 1.97 1.50 1.41 1 1.000 2 .569 1.000 3 .414 .589 1.000 4 .386 .353 .320 1.000 5 .029 .093 .024 .235 1.000 6 .339 .351 .441 .282 .287 1.000 7 .251 .165 .168 .406 .212 .254 1.000 固有値 26.専門書に関心がある 25.電子掲示板で情報発信する 27.教科書・参考書に関心がある 28.実用書、ビジネス・経済書に関心が 29.辞書・事典に関心がある 30.Webページで情報収集する 31.検索エンジンで情報収集する 32.電子メールで情報収集する 信頼性係数 (Cronbachのα ) 寄与率 (%) 累積寄与率(%) 24.動画配信サービスで情報発信する 13.紙の書籍を読むことが好きだ 14.紙の書籍をよく読む方だ 15.街の書店をよく利用する 16.紙の書籍の質感やにおいが好きだ 17.本や雑誌は、書店で実際に手に 取って選ぶのが好きだ 18.よくネットで商品・サービスの価格を 比較する 19.よくネットで商品・サービスの情報を 20.商品・サービスについて、よくネット と実店舗の価格を比較する 21.よくネットで商品・サービスの情報を 調べて、ネットで購入する 22.価格比較サイトのクチコミで情報発 23.ネットショップのクチコミで情報発信 因子 因子相関行列 質問項目 12.個人情報流出など、セキュリティが 1.いつでもどこでも読めるのは便利だ 2.持ち運びしやすいのは便利だ 3.保管場所を取らないのは便利だ 4.何千冊も持ち運べるのが便利だ 5.ゴミが出ないなど環境にやさしい 6.画面表示の文字の大きさを変えられ るのは便利だ 7.電子書籍をコレクションしにくい 8.読むための電子機器の故障や破損 が不安だ 9.電子書籍やアプリの起動に時間がか 10.電子書籍で読めるジャンルに偏りが 11.電子書籍で読めるコンテンツが少な 注)因子抽出法は反復主因子法,回転法は因子間に相関 があることを想定したプロマックス回転法を用いた. 注)質問項目の右側の数は因子負荷量を示す.因子負荷 量の絶対値が未満の場合は表示を省略した.

6 電子書籍利用のモデル化

6.1 検証的因子分析モデル 探索的因子分析の結果,7つの因子が抽出された. これら7つの因子構造を検証的因子分析モデルにより 検証したところ,図1のようになった.図1で,長方 形は観測変数,楕円は潜在変数(複数の観測変数の 背後にあると想定される構成概念),小さな円(e1 ~e21)は誤差変数を表す.また,直線の矢印上の数 値はパス係数(潜在変数の観測変数への影響の強さ を示す標準化済み推定値)である.曲線の双方向矢 印の係数は潜在変数間の共分散の大きさを表す. モデルはできる限り単純でわかりやすく,データ の当てはまりが良いものとしたい.そのため,図1で は,それぞれの潜在変数(因子)を構成する観測変

(6)

数は,表3の各因子内で因子負荷量が大きいものから 順に3つずつ選んだ.その結果,構築された検証的因 子分析モデルの適合度指標は,GFI, CFIが共に0.9以 上であり,RMSEAが0.05以下となり,モデルの当て はまりは非常に良好である[24]. 6.2 電子書籍利用モデル構築のための仮定 電子書籍利用モデルを構築する目的は,モデルか ら電子書籍利用促進のための示唆を得ることである. 古典的な消費者の購買プロセスモデルであるAIDMA

(Attention, Interest, Desire, Memory, Action),あるいは 比較的最近,インターネットでの情報検索・共有を 意識して提唱されたAISASモデル (Attention, Interest, Search, Action, Share)[25]のいずれでも,消費者は製 品・サービスに注意を向けて関心を持ってから購

入・利用に至る[26].また,消費者が技術や製品を受

け入れる要因の関係をモデル化したTechnology

Ac-ceptance Model (TAM)では,利用意向(ある技術や製 品を利用したい度合い)が実際の利用に強く影響す る[27].そこで,消費者の電子書籍利用を促進するに は,筆者らは消費者が電子書籍を利用したいという 意識を高めることと,実際に利用する頻度を高める ことの両方が必要だと考えている(注2). そこで,構築する電子書籍利用モデルの目的変数 を電子書籍利用意向(消費者の電子書籍への関心の 高さや電子書籍を利用したい度合い)および電子書 籍利用頻度(電子書籍を実際に利用する頻度)とす る.そして,5節で抽出された7つの因子を利用して, 因子間の因果関係,および因子と目的変数との関係 を次のように仮定する(図). 図2 電子書籍利用モデルの仮定 (1)電子書籍の長所,短所に関する仮定 数千冊の書籍を携帯でき,いつでもどこでも手軽 に読めるというような電子書籍の長所を理解してい る消費者は,電子書籍利用に前向きだと考えられる ので,電子書籍の長所を評価していることは電子書 籍利用意向や利用頻度を高める方向に影響すると考 えられる. 逆に,コレクションしにくい,アプリの起動に時 間がかかるなど,電子書籍の短所が気になる消費者 は,電子書籍をあまり便利だとは思っていないので, 電子書籍利用に否定的だと思われる. 電子書籍の長所を評価している人は,電子書籍に 多少なりとも関心があると推定できるため,電子書 籍の短所もある程度認識していると考えられる.同 じ理由で,電子書籍の短所を懸念している人は長所 もある程度理解しているのではないだろうか.その ため,「電子書籍の長所を評価」と「電子書籍の短 所を懸念」は双方向で影響し合う可能性がある. (2)紙の書籍に愛着,コンテンツへの関心に関する仮 定 図1 検証的因子分析モデル

(n=1,000, GFI=0.961, CFI=0.978, RMSEA=0.040, χ2=432.137, 自由度=168)

注)数値は標準化推定値を示す.モデル化には Amos Ver.21 を用いた(図 3,図 4 も同様).

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紙の書籍に愛着がある人は,紙の書籍を読むこと が好きで,紙の書籍をよく読む人である(表3,図 1).そのため,電子書籍も内容(コンテンツ)に興 味を持てば読みたいと思い,実際に利用するのでは ないだろうか.また,紙の書籍に愛着がある人なら ば紙の書籍と共通したコンテンツも多い電子書籍に も多少なりとも関心を持つため,電子書籍の長所, 短所もある程度理解しているのではないだろうか. 書籍のコンテンツに関心が高い消費者ならば,電 子書籍にも関心を持つと思われ,電子書籍の長所・ 短所を知っており,電子書籍利用意向や利用頻度も 高いのではないだろうか.また,興味を持っている コンテンツについて,よくインターネットを通じて 情報収集している可能性が高い. (3)ネット情報関連の影響の連鎖に関する仮定 ネットで商品情報を収集する人は検索エンジンな どを利用して,興味のある商品やサービスを探した り,それらを販売しているネットショップを探した りするので,商品情報に限らず様々な情報をネット で収集しているのではないだろうか.また,そのよ うに様々な情報を検索したり,商品・サービスを購 入したりする人は好奇心旺盛で活動的だと推測され るので,自分が収集した情報や購入した商品・サー ビスについての経験などを,SNS (Social Networking Service)やブログなどで,積極的に発信したくなるの ではないだろうか.また,情報発信する人は発信す る話題を求めているので,電子書籍も情報源の一つ として利用することが想定できる.以上から,「ネ ットで商品情報収集」→「ネットで情報収集」→ 「ネットで情報発信」→「電子書籍の利用意向また は利用頻度」というネット情報関連の影響の連鎖が 想定される. 6.3 消費者の電子書籍利用モデルの構築 消費者の電子書籍への関心の高さや電子書籍を利 用したい度合い(利用意向)および実際に電子書籍 を利用する頻度(利用頻度)を高めるための示唆を 得たい.そのため,構造方程式モデリング(SEM)に よる多重指標モデルとして,消費者の電子書籍利用 意向モデル(図3)および電子書籍利用頻度モデル (図4)を構築した.本モデルは6.2項および図2で示 した仮定に基づいて,表3下欄の因子相関行列が示す 因子間の相関係数が高い因子間を因果関係の方向 (矢印の向き)に気を付けてパスで結び,パスの有 意性やモデルの適合度指標を確認しながら,有意で ないパスを削除するなど試行錯誤の後に,構築され た.なお,図2で両方向矢印がある「2 電子書籍の短 所を懸念」と「1 電子書籍の長所を評価」について は,パス係数がより大きかった前者から後者へのパ スのみを採用した. 図3で,目的変数となる電子書籍利用意向は2つの 観測変数「電子書籍に関心がある」と「電子書籍端 末を利用したい」から構成される潜在変数である. また,図4で目的変数となる電子書籍利用頻度は2つ の観測変数「電子書籍端末利用頻度」と「電子書籍 コンテンツ利用頻度」から構成される潜在変数であ る.本モデルで利用したデータは今回の調査で回答 を得た1,000サンプルすべてである.両モデルとも, モデルの適合度指標であるGFI, CFIは0.9を超えてお り,RMSEAは0.05以下と,いずれも非常に良い値と なっており,モデルの適合度が高い[24]. (1)電子書籍の長所と短所の認識の電子書籍利用意向 および利用頻度への影響 「電子書籍の長所を評価」と「電子書籍の短所を 懸念」の因子は,図4の「電子書籍利用頻度」には影 響しないが,図3の「電子書籍利用意向」には直接影 響する.「電子書籍の長所を評価」は「電子書籍利 用意向」を強める方向に働き,その影響の大きさは 0.31 (p<0.01)である.一方で,「電子書籍の短所を懸 念」は「電子書籍利用意向」を弱める方向に働き, その影響力は-0.15 (p<0.01)である. (2)紙の書籍への愛着の影響 一方で,筆者らの予想に反して,「紙の書籍に愛 着」が強いほど電子書籍の短所を強く懸念し(パス の強さは両モデルとも0.46 (p<0.01)),消費者の「電 子書籍利用頻度」を直接下げる方向に働いている (-0.08 (p<0.05)). (3)ネット情報関連因子の影響 両モデルにおいて,「書籍コンテンツへの関心」 →「ネットで商品情報収集」→「ネットで情報収集」 →「ネットで情報発信」の連鎖が,いずれのパスも1% 水準で有意に成立している. 最後の「ネットで情報発信」から「電子書籍利用 意向」または「電子書籍利用頻度」へのパスも1%水 準で有意である.特に「電子書籍利用頻度」への影 響は0.65 (p<0.01)と非常に大きい.ネットで情報収集 や発信を行うほど電子書籍を利用したい意識や実際 に利用する頻度が高まることを示している. (4)書籍コンテンツへの関心の影響  「書籍コンテンツへの関心」は,上述したネット 関連因子の連鎖的影響の起点となるだけでなく,電 子書籍利用意向および電子書籍利用頻度を直接高め ている(それぞれ0.60 (p<0.01),0.24 (p<0.01)).

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3 消費者の電子書籍利用意向モデル

(n=1,000, GFI=0.946, CFI=0.966, RMSEA=0.045, χ2=658.429, 自由度=215)

注1)表示されているパス係数は標準化推定値である.**印のパス係数は1%水準で有意,*印

のパス係数は5%水準で有意である.

注2)簡単のため,潜在変数から観測変数へのパス係数および誤差変数の表示を省略した.

4 消費者の電子書籍利用頻度モデル

(n=1,000, GFI=0.944, CFI=0.964, RMSEA=0.046, χ2=681.262, 自由度=216)

注1)表示されているパス係数は標準化推定値である.**印のパス係数は1%水準で有意,*印

のパス係数は5%水準で有意である.

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(5)モデルから得られる示唆  両モデルから,電子書籍の利用意向および利用頻 度を高めるためには,直接的には「ネットで情報発 信」,「書籍コンテンツへの関心」,「電子書籍の 長所を評価」を高めれば良い.さらには,それらの 要因を高める「ネットで商品情報収集」および「ネ ットで情報収集」を高めていけば良い.逆に,「紙 の書籍に愛着」,「電子書籍の短所を懸念」につい ては緩和していく必要がある.

7 電子書籍利用促進への示唆

消費者の電子書籍利用意向モデル(図3)および電 子書籍利用頻度モデル(図4)から,電子書籍の一層 の利用を図るには,次の施策が有効なことがわかる. (1)消費者にもっと電子書籍の長所を知ってもらう 「電子書籍の長所を評価」から「電子書籍利用意 向」へのパス係数は0.31 (p<0.01)と比較的大きい.1 節にまとめたように,電子書籍は多くの長所を持っ ている.電子書籍事業者は様々なメディアを使って, 電子書籍の長所について消費者の理解を得られるよ うにする必要がある.電子書籍の出版社や電子書店, 専用機メーカーなど,それぞれがリアルとネットで の広告・宣伝を通じて消費者に電子書籍の長所を訴 えるとともに,電子書籍関連の協議会なども広報に 努めていくべきである. また,出版社などはコンテンツを利用できる端末 の種類を増やして(例えばスマートフォンのみから タブレット端末や電子書籍専用端末の併用),より 多くの機会で消費者に電子書籍を利用してもらえる ようにする. (2)ネットで情報発信している人に働きかける ネットで頻繁に情報発信する人ほど「電子書籍利 用意向」および「電子書籍利用頻度」が高いので, ネットで情報発信している人たちに電子書籍の利用 を働きかける.さらに,彼らに電子書籍を実際に利 用してもらうことで,その長所を積極的に発信して もらえれば,クチコミにより多くの消費者に電子書 籍への関心を高めてもらう効果も期待できる. 特定の商品・サービスに関心が高い人はオピニオ ンリーダー(OL),広く様々な商品・サービスに関心 が高い人はマーケット・メイブン(MM)または市場の 達人と呼ばれ[28],ネットで商品・サービスを紹介し たり,他の人から頼られて質問に答えたりしている. 電子書籍事業者がSNSやブログで情報発信している OLやMMを探し出し,働きかけることで,そのクチ コミによる影響力を発揮してもらう.また,電子書 籍事業者がSNSに公式サイトを作り,電子書籍に関 心のある消費者を集めて,企業から情報発信したり, 個人が意見交換したりできる場を作る. さらに,Kindleダイレクト・パブリッシングのよ うに,誰でも簡単に,しかも安価に電子書籍を出版 できる仕組みを作る.これにより,多数の著者と, その著書に魅了された,さらに多くの読者に電子書 籍を利用してもらえるようになるであろう. (3)書籍コンテンツへの関心を高める 「書籍コンテンツへの関心」は電子書籍利用意向 モデルおよび利用頻度モデルの起点となっており, この因子から他の多くの因子や目的変数に有意なパ スが出ている.「書籍コンテンツへの関心」は特に, 直接的に電子書籍利用意向や利用頻度を高める効果 が大きい. 消費者の「書籍コンテンツへの関心」を高めるに は,モデル左側の観測変数にある専門書,参考書, 実用書,ビジネス書を含めた書籍全般への関心を高 めるために,広告や宣伝を行い,新聞や雑誌の記事 で取り上げてもらったり,有名作家の新刊書籍を電 子書籍と同時発売したり,テレビドラマや映画の原 作本を電子書籍で出版したりするなどが考えられる. また,上記のジャンルに加えて,小説,コミック, スポーツ,児童書など,電子書籍コンテンツの幅を 広げることに力を入れる.さらに,既存の書籍のデ ジタル化以外に,電子書籍の特徴を生かしたコンテ ンツ作成もあろう.例えば,マルチメディアを活用 した絵本,インタラクティブなゲームのような本, 作家と読者がやりとりしながら共に作り上げていく 小説,従来の流通ルートには乗りにくかった短編や 雑誌記事1編ごとの販売などがあるだろう. (4)ネットで商品情報を収集している人や,商品に限 らず情報収集している人に働きかける  「ネットで商品情報収集」,「ネットで情報収 集」は「電子書籍の長所を評価」や「ネットで情報 発信」を高める.そこで,ネットで商品情報を収集 している人に向けて,過去に購入したモノやサービ スに関連した電子書籍を薦めたり,ネットショップ のWebページに広告を出したりする.また,検索連 動型広告の仕組みを使って,Googleなどの検索エン ジン利用者が検索に使ったキーワードに関連した電 子書籍へのリンクを検索結果画面の広告欄に表示さ せ,利用者がクリックしてその広告を見て購買する ことを誘う. (5)消費者の電子書籍の短所に対する懸念を緩和する 図3より,「電子書籍の短所を懸念」因子は「電子 書籍利用意向」に負の影響がある.矢口ら[19]は,電 子書籍による読書を経験したことがない人は,実態

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に対する誤解が多いと指摘している.このような消 費者に家電量販店などの店頭で,電子インク端末や タブレット端末を試してもらって,起動の速さ,文 字の拡大・縮小により読みやすくできること,端末 のバッテリーの持ちの良さなどを体感してもらうこ とで,消費者の電子書籍の短所に対する懸念の緩和 を図っていく. (6)紙の書籍に愛着がある人の電子書籍に対する認識 を変える 「紙の書籍に愛着」は「電子書籍利用頻度」を直 接低下させるだけでなく,「電子書籍の短所を懸 念」を増大させることにより「電子書籍利用意向」 を下げてしまう.そのため,紙の書籍に愛着がある 人の電子書籍に対する認識を変える必要がある.例 えば,大規模な書店チェーンなどで行われている電 子書籍の実演,販売もあろう.また,Amazonなどの ネット書店で紙の書籍を購入した人には,電子書籍 専用端末やコンテンツのパンフレットを同梱するな ど,電子書籍の最新情報を知ってもらい,電子書籍 利用を喚起する.紙の書籍が好きな人は電子書籍の 品ぞろえに不満を持っていることが多いため(注3), 出版社や電子書店が品ぞろえの充実を図る.また, 電子書籍でしか購入できない多数のコンテンツを集 めて,低価格で提供する.

8 まとめと今後の課題

消費者の電子書籍利用の促進を目的として,消費 者に質問紙調査を行い,探索的因子分析,検証的因 子分析,構造方程式モデリングを通じて,消費者の 電子書籍利用意向モデルおよび電子書籍利用頻度モ デルを構築した.これらのモデルから得られる示唆 に基づいて,電子書籍事業者に向けて,電子書籍利 用促進のための提案を行った.消費者の電子書籍へ の関心と利用したい意識を高めるためには,特に書 籍コンテンツへの関心を高めることと,電子書籍の 長所を評価してもらえるようにすることが重要であ ることが判明した.また,消費者に電子書籍をより 頻繁に使ってもらうためには,書籍コンテンツへの 関心を高めることもさることながら,ネットで情報 発信している活動的な人をターゲットとすると,電 子書籍の利用が広がっていく可能性が高いことを示 すことができた. 今後の課題として,以下の3点が挙げられる. (1)他の利用促進要因の探索  電子書籍は期待ほど安くないという人もいる.サ ービスを打ち切る電子書籍ストアがあり,購入した 電子書籍を読めなくなる心配もある.電子書籍の利 用意向や利用頻度に影響する要因は本研究で扱った もの以外にもあると思われる.今後はインタビュー 調査や質問紙調査を通じて,他の要因も探索してい きたい. (2)年齢層別の分析  今後は性別,年齢層別に電子書籍に対する意識や 利用状況を分析し,それぞれの特徴を把握し,性別, 年齢層別の利用促進策を検討したい. (3)調査法の課題 今回の質問紙調査は20歳代から60歳代まで5つの年 齢層の男女を対象として,インターネットを通じて それぞれ100名ずつ,計1,000名の回答を得た.イン ターネット利用率は2013年末時点で83%に達してお り,特に50歳から69歳のインターネット利用が拡大 している[29].しかし,それでも,インターネット の利用率は13歳から59歳では9割を超えているのに対 し,60歳から64歳は77%,65歳から69歳は69%と低 い.高齢者層の調査はインターネットだけでなく, 郵送や電話を併用するなど,工夫する必要がある.

(1) 一般に,最尤法による因子分析では変数は多変量 正規性を前提としている.しかし,反復主因子法 および最小二乗法では多変量正規性は前提としな いとされる[30].本研究では因子分析には反復主 因子法を用いた.  因子分析の前提として変数は間隔尺度以上であ ることが期待されている.しかし,順序尺度の変 数でも5件法以上なら実際上は連続変量として扱 っても特に問題がないとされている[31], [32].構 造方程式モデリングは最尤法を使うことが多いが, 最尤法の推定値はデータが正規分布から逸脱して いても頑健性があるとされる[30]. (2) 構造方程式モデリング(SEM)を用いて,6.3節の図 3に潜在変数「電子書籍利用頻度」を加えて, 「電子書籍利用意向」から「電子書籍利用頻度」 へ パ ス を 引 い て み た と こ ろ , パ ス 係 数 は 0.61(p<0.01)と非常に大きかった.つまり,電子書 籍利用意向が高まれば,電子書籍利用頻度もかな り高まる.そのため,電子書籍利用促進にはいず れか片方ではなく,この両者を共に高めることが 重要だと考えた. (3) 今回行った消費者調査で,紙の書籍が好きな人と そうでない人の電子書籍の品ぞろえへの不満につ いて,平均の差の検定を行った.その結果,紙の 書籍が好きな人の方が品ぞろえへの不満が1%水 準で有意に高いことがわかった.

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参 考 文 献

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参照

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