はじめに
初回腎生検にて膜性増殖性糸球体腎炎と診断 し,ステロイド療法により寛解状態にあった患 者が腎機能障害を伴うネフローゼ症候群を再発 したために再度腎生検を行った。初回生検像で 軽度にみられた糸球体内皮細胞障害がさらに高 度に認められた。膜性増殖性糸球体腎炎では一 般に著明な内皮細胞障害を来すことはなく,そ の成因について若干の検討を行った。症 例
症 例:70歳女性。職業:主婦 主 訴:蛋白尿,浮腫 既往歴:4回の妊娠(1回自然分娩,1回帝王 切開,2回流産),高血圧症(50歳頃∼),下肢 静脈瘤(60歳時stripping施行),変形性股関節 症(69歳時人工関節置換術施行) 家族歴:特記すべきことなし 嗜好歴:飲酒,喫煙ともになし 現病歴:50歳頃から高血圧にて降圧剤を服 用していた。60歳時には血圧130 ∼ 140/70 ∼ 80mmHgと良好であり,尿所見正常,腎機能正 常であった。62歳時に血圧上昇,蛋白尿陽性 となり,その後尿潜血も出現し持続した。65 歳時には尿蛋白3g/日以上となったため腎生 検を行った(1回目)。この時の血圧は160 ∼ 200/60∼ 80mmHg,Ccr 74ml/minであった。以 後食事療法および降圧剤処方を行い,外来での 血圧は160 ∼ 170/80 ∼ 90mmHgにコントロー ルされていた。翌年には尿蛋白4 ∼ 5g/日と増 加しネフローゼ症候群を呈したためステロイ ド治療を開始した(PSL30mg/日)。以後外来通 院にて経過観察を行ない,蛋白尿は徐々に減少 したため,ステロイド剤を漸減していった。68 歳時には蛋白尿は1 ∼ 2g/日,69歳時には蛋白 尿は1g/日以下となり,PSLも5mg/日まで漸減 した。この頃,変形性股関節症に対して整形外 科に入院し手術を行った。しかし退院後,蛋 白尿は急増し,4g/日以上となり,Ccr 40ml/min と低下,浮腫も著明となったため再度腎生検を 行った(2回目)。 入 院 時 現 症: 身 体 所 見: 身 長149cm, 体 重61kg( 通 常52kg), 体 温37.5 ℃, 血 圧 162/80mmHg,脈拍80/分, 整。意識清明,言語 正常。皮膚:乾燥や紫斑はない。リンパ節腫脹 なし。眼結膜充血や貧血は認めず。甲状腺腫大 なし。項部硬直なし。胸部:心雑音なし。肺音 清明。腹部:平坦,軟。両下肢に浮腫著明。 入院時検査所見:入院時検査所見を表1,表 2に示す。 尿所見は蛋白(3+),潜血(1+),硝子・顆 粒・上皮円柱を多数認める。尿蛋白定量では 4.25g/日であった。血算ではRBC 252×104 /μ l, Hb 7.9 g/dl, Ht 23.3 %と高度の正球性正色素 性貧血を示していた。凝固系は特記すべき異常 を認めなかった。生化学ではTP 5.0 g/dl, Alb 2.9 g/dlと低蛋白血症を呈していた。LDH 722 IU/l膜性増殖性糸球体腎炎に糸球体および細動脈
内皮細胞障害を伴った一例
牧 野 武 志
1和 田 達 彦
1羽 村 素 子
1橋 本 ヒロコ
1岸 由美子
1長 場 泰
1守 屋 利 佳
1坂 本 尚 登
1鎌 田 貢 壽
1小 林 豊
1重 松 秀 一
2と高値を示し,T-cho 281 mg/dlと上昇していた。 腎機能はUN 34 mg/dl, Cr 1.44 mg/dlと中等度の 障害を認めた。電解質には特記すべき異常を認 めなかった。免疫ではIgG 601 mg/dl, ハプトグ ロビン 16 mg/dlと低値を示していた。補体は正 常範囲内であった。内分泌系は特記すべき異常 は認めず,その他各種抗体は異常を認めなかっ た。 生理検査所見: 心電図:HR 78/分・整,軸 正軸,移行帯 V4-5, ST-T変化なし 胸 部X-p:CTR 59%,C-P angle sharp, 肺 野 異 常陰影なし 腎 臓 超 音 波: 右 腎 119×42mm, 左 腎 110× 48mm,皮質輝度は若干亢進,結石,腫瘍等 なし。 心 臓 超 音 波:AoD 30mm, LAD 52mm, LVDd/s 60/37mm, IVSth 10mm, PWth 11mm, EF 60% LV wall motionは正常。MR 2度,AR 2 ∼ 3度, 左房拡大あり。IVC正常。心嚢液貯留:少量。 眼科:高血圧性眼底(K-W 2度,Scheie H2S2)
臨床経過
1回目の腎生検から2回目腎生検入院までの 経過を図1に示す。 表 1 入院時検査所見 尿一般,沈渣 比重 1.015 pH 5.0 蛋白 (3+) 糖 (−) 潜血 (1+) RBC 1-3/HPF WBC 3-5/HPF 硝子円柱(+) 顆粒円柱(+) 上皮円柱(+) B-J蛋白 (−) NAG 14.3 U/L 蛋白定量 4.25 g/日 血算 WBC 10100 /μl RBC 252×104 /μl Hb 7.9 g/dl Ht 23.3 % Plt 16.3×104 /μl Reti. 21.6 ‰ FRA% 0.7 % ESR 28 mm/H 凝固系 PT 10.1/10.7sec. APTT 35.7/37.6sec. Fib 338.3 mg/dl FDP 4.13μg/ml D-DMR 6.17μg/ml 生化学 TP 5.0 g/dl Alb 2.9 g/dl T.Bil 0.3 mg/dl GOT 18 IU/l GPT 9 IU/l LDH 722 IU/l T-cho 281 mg/dl UN 34 mg/dl Cr 1.44 mg/dl UA 5.8 mg/dl Na 143 mEq/l K 4.3 mEq/l Cl 114 mEq/l Ca 7.6 mg/dl IP 3.9 mg/dl 表 2 入院時検査所見 免疫 CRP <30μg/dl IgG 601 mg/dl IgA 327 mg/dl IgM 66 mg/dl C3 84 mg/dl C4 23 mg/dl CH50 43 U/ml Haptoglobin 16 mg/dl 内分泌 ADRN 16pg/ml NORA 515pg/ml PRA 1.4ng/ml/H ALDOST 18pg/ml CORT 6.5μg/dl その他 Cryoglobulin (−) ANA <40× CIC 5.8μg/ml 抗DNA抗体 <2 IU/ml MPO-ANCA <10EU PR3-ANCA <10EU 抗GBM抗体 <10EU 抗CL抗体 5.3U/ml 抗CL-β2GPI抗体 <1.3U/ml Lupus AC 正常組織所見
1.1回目生検 光顕(図2)にて糸球体48個中8個に全節性 硬化病変が認められた。メサンギウム細胞の増 殖および基質の増加を認め,分葉化構造が明ら かである。PAM染色(図3)では二重化構造 および内皮下腔の拡大が著明である。拡大した 部分に単球系細胞の侵入を認める。血管病変は (図4)細動脈硬化の所見とともに,一部の血 管では内膜の腫張が著明であり高度の内腔狭小 化を認める。 蛍光抗体法(図5)ではIgGがフリンジパター ンで局在しておりC3,C1q,IgMも同様の局在 を示していた。 電顕(図6)では内皮下腔の拡大が著明で内 皮下およびメサンギウム領域に沈着物を認め る。単球系細胞の侵入を認める。 2.2回目生検 光顕(図7)にて糸球体48個中30個に全節 性硬化病変が認められた。1回目の生検と比較 し全体的にメサンギウム細胞の増殖および分葉 化構造が著明であり,一部,係蹄構造が失われ ている部分を認める。また細動脈の内膜肥厚が 著明である。間質の細胞浸潤は1回目に比べ高 度であった。PAM染色(図8)では内皮下腔 の拡大が著しく,この拡大した部分に多数の単 球系細胞が侵入していた。また細動脈(図9) には内膜の著明な拡大を認める。 蛍 光 抗 体 法( 図10) で はIgGが フ リ ン ジ パターンで局在していた。これを拡大すると (図11)IgGが線状様に局在して見える。C3, C1q,IgMも同様の局在を示していた。 電顕(図12)では内皮細胞の腫大と内皮下 腔の浮腫性膨化が著明であった。内皮下には単 球系細胞の侵入を認めた。一部,メサンギウム 細胞の間入像を認めた。別の糸球体(図13) では内皮下の浮腫性膨化が明らかであった。 図� 血圧と蛋白尿の推移 0 50 100 150 200 250 H4.1 H10. 12 H11. 8 H12. 1 H12. 6 H12. 11 H13. 4 H13. 9 H14. 2 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 血圧 (torr) 蛋白尿 (g/ 日 ) 第1回 腎生検 第2回腎生検 30mg 20mg 15mg 10mg 7.5mg 5mg PSL 整外手術 図 1 血圧と蛋白尿の推移 図 2 第 1 回目腎生検 HE 染色 図 3 第 1 回目腎生検 PAM 染色図 4 第 1 回目腎生検 HE 染色 図 5 第 1 回目腎生検 蛍光抗体法(IgG) 図 6 第 1 回目腎生検 電顕 図 7 第 2 回目腎生検 HE 染色 図 8 第 2 回目腎生検 PAM 染色 図 9 第 2 回目腎生検 PAM 染色
図 10 第 2 回目腎生検 蛍光抗体法(IgG) 図 11 第 2 回目腎生検 蛍光抗体法(IgG) 図 12 第 2 回目腎生検 電顕 図 13 第 2 回目腎生検 電顕
考 案
本例は長期間にわたる中等度の高血圧症に膜 性増殖性糸球体腎炎が併存した症例である。第 一回および第二回の腎生検で,通常の膜性増殖 性糸球体腎炎では確認できない細動脈ならびに 糸球体の高度の内皮細胞障害が認められた。 血管内皮細胞の役割として①血漿成分の選択 的透過性,②血栓の形成あるいは抗血栓性,③ 血管の収縮及び弛緩の調節,④血管内皮由来 の因子やサイトカインの産生,⑤その他が挙 げられる 。血管内皮細胞が何らかの障害を 受け機能不全を起こすことで,これらの内皮 細胞が本来の働きを失い,種々の異常を呈し てくるようになる。内皮細胞障害を起こす因子 としては白血球,血小板,自己抗体(抗内皮細 胞抗体,抗好中球細胞質抗体,抗GBM抗体), CIC,細菌毒素(verotoxin)そして血行力学的 因子等が挙げられ,これら因子による血管内 皮細胞障害が血管内微小循環障害を引き起こす 。血管内皮細胞障害(表3)は悪性高血圧症, HUS/TTP,APLS,DIC,妊娠中毒症,移植腎(免 疫抑制剤による薬剤毒性因子および拒絶反応) SLEなど様々な病態においてみられる。 HUS/TTPとは微小血管内皮細胞の障害によ り破砕赤血球を伴う溶血性貧血,血小板減少症, 急激な腎機能障害,精神神経症状を呈する血 栓性微小血管症(thrombotic microangiopathy;TMA)を伴う。原因はO-157感染症,基礎疾患 の存在(悪性腫瘍,妊娠,膠原病など),薬剤 の副作用(抗癌剤,経口避妊薬,免疫抑制剤な ど)が挙げられる。本例では網状赤血球の増加, LDH高値,ハプトグロビンの低下など溶血性 貧血を示す所見を認めたが,HUS/TTPを示唆 するような破砕赤血球の存在,血小板減少,精 神神経症状は認めず,また本疾患を来すような 基礎疾患の存在や薬剤の使用歴なども認められ ず,HUS/TTPは否定的と考えられた。 DICは悪性腫瘍,敗血症,産科的疾患などの 基礎疾患に伴って起こる凝固線溶系の異常であ る。血小板,凝固線溶系の活性化により微小血 栓が形成され微小循環障害を引き起こし,同時 に凝固因子の消費に伴う出血傾向を来す 。本 例ではDICを引き起こすような基礎疾患は存在 せず,検査結果上,血小板減少は認めず,凝固 系の延長もなかった。病理組織上,糸球体内皮 細胞の膨化や内皮下腔の拡大は認めたが,DIC に比較的特徴的とされるフィブリン血栓は認め なかった。蛍光抗体法でのフィブリノーゲンの 局在も認めなかった。 SLEや強皮症,APLSなどの膠原病関連疾患 においても糸球体内皮細胞障害を引き起こす。 SLEでは自己抗体が免疫複合体を形成し,これ が糸球体の様々な部位に沈着する。内皮下腔に 沈着することで,内皮細胞は基底膜から剥離し, 内皮細胞の腫大が起こる。本例では抗核抗体, 抗DNA抗体,ループスアンチコアグラントに は異常を認めず,臨床的にも合致する点に乏し い。病理学的にもループス腎炎に特徴的なwire loop lesion,電顕的にもtubuloreticular inclusions や沈着物内の微小管腔構造は認めなかった。同 様に強皮症やAPLSを示唆するような血清学的 所見や臨床的所見は認めなかった。 高血圧による血管内皮障害も重要である。一 般には悪性高血圧症のように臓器障害を伴う程 の重症高血圧により血管内皮の障害が生じると 考えられている。本症例では経過中,悪性高血 圧症のエピソードは確認できておらず,図1に 示すような中等度の高血圧の推移であった。し かし組織学的には高度の血管内皮細胞障害に 伴う内皮細胞の腫大や内皮下腔の拡大そして著 明な内腔の狭小化が認められた。本態性高血圧 症に基づく良性腎硬化症では細動脈の内膜の硝 子化や線維化に伴う血管壁の肥厚が主病変であ り ,内膜の浮腫性膨化や糸球体内皮細胞障害 は明らかではない。本例は基礎疾患に膜性増殖 性糸球体腎炎が存在しているが,この疾患は糸 球体内皮下やメサンギウムに免疫複合体が沈着 し,しばしばメサンギウム細胞の内皮下への間 入が認められる。このような内皮下の障害が持 続する状況下で中等度の高血圧が持続的に負荷 された場合,内皮細胞の腫大や内皮下腔の浮腫 性膨化が生ずる可能性があるのかもしれない。 今後,糸球体腎炎に高血圧を合併した際の糸球 体病変の詳細な検討が必要と考えられる。 なお,各種の病因により細動脈,糸球体の内 皮細胞障害が起こる場合,その病因の違いに よって内皮細胞障害の組織変化に差異が認めら れるのかどうか,今後の微細構造の詳細な検討 も必要となろう。 表 3 血管内皮細胞障害を来す疾患 表� 血管内皮細胞障害を来す 疾患 � 悪性腎硬化症 � HUS/TTP � APLS � DIC � 妊娠中毒症 � 移植腎 � 膠原病関連腎症(SLE、強皮症) � 代謝性疾患(糖尿病、高脂血症)
参考文献
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2)有村義宏:糸球体内皮細胞障害機序. 腎と透
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3)Katafuchi R, et al:Morphometrical and functional correlations in Benign nephrosclerosis. Clin Nephrol 28(5): 238-243, 1987
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大,増生,剥離の病態. 腎と透析 Vol.52(5): 613-618, 2002
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6)Kincaid-Smith P, et al:Disseminated intravascular coagulation and the kidney. Haemostasis and the kidney.Remuzzi G, Rossi EC, pp191-198, 1989
討 論
乳原 どうもありがとうございました。ただい まの発表に対して,まず臨床の立場からのディ スカッションをお願いします。 木村 聖マリアンナ医科大学の木村ですが,ど うもありがとうございます。見逃したかもし れないのですが,血小板の数はどうだったので しょうか。 牧野 血小板の数は正常です。 木村 まったく異常なかったですね。 牧野 はい,そうです。 木村 最初はLDHが高いとおっしゃっていま したが,その推移はどうでしたか。 牧野 LDHは単位でいうとIU/Lですが,500 ∼ 700IU/Lで軽度上昇を示していました。 木村 1回目から2回目もずっと高い状況でし たか。 牧野 測ったところは,ほぼ正常の上限からや や異常値に向けて。血小板は入院時ですが16 万ぐらいありまして,特に極度に下がったとき はありませんでした。 木村 血圧を下げたときに,それが上がってく るとか,そういうことはなかったのですか。 牧野 血圧の治療をしたときの血小板数です か。 木村 ええ,そうです。 牧野 詳しい数字はわかりませんが,その推移 は覚えていません。 木村 もし,高血圧性の血管障害,HUS/TTP のようなthrombotic microangiopathyが考えられ るのだったら,そういうものがなかったかと 思ったのですが。あとは血液の塗抹標本で破砕 赤血球や,赤血球の大小不同などなかったです か。 牧野 破砕赤血球は来院時が0.7%で,何回か 測りましたが,ほぼ1%以下で明らかな異常は 認めませんでした。 木村 そうですか。どうもありがとうございま した。 乳原 ちょうど発表のところで,腎機能のわり には異様に貧血が強いということですね。ヘマ トクリットが21%か,22%でした。ハプトグロ ビンが低いことから,いま木村先生にご指摘を いただいたようにHUS的な要素が加わってい たのではないかと,私も思うわけですけれども。 牧野 はい。 乳原 その他,よろしいでしょうか。それでは, はい,3人。誰から。 森田 藤が丘病院の森田と申しますが,私は2 点質問をさせていただきます。第1点目は,血 管の病変から見て,第1回目の生検と第2回目 の生検はどのように違うと考えられたのでしょ うか。 牧野 先ほど電顕では示したのですが,内皮下 ですね。内皮下腔の拡大が1回目もありました が,2回目はより著明になっており,また単核 球系の細胞の侵入が著明に増加しています。 森田 2回目が著明で。 牧野 はい。 森田 光顕レベルで見た内膜の狭窄,浮腫性変 化,肥厚は1回目と2回目でどうだったのでしょうか。 牧野 細動脈レベルの血管では,明らかにひど くなっています。 森田 2回目のほうが,内膜変化が著明であっ たということですね。 牧野 はい。 森田 ありがとうございました。第2点目の質 問です。この方は高血圧の病歴が20年ありま すが,血圧がコントロールされていたときもあ れば,コントロールが不良なときもあったとい うことで,血圧が変動していたと思うのです。 血圧コントロールの指標としての眼底変化は何 回か20年間で評価されていたと思いますが,2 回の腎生検との前後関係において,眼底所見は どのように変わっていったのでしょうか。 牧野 お恥ずかしい話ですが,1回目の腎生検 のときには眼科の受診カルテが見当たらず,確 認はできませんでした。2回目は先ほど示した ような。 森田 Keith-Wagener分類では2度。 牧野 はい。 森田 ちなみに心電図で1回目と2回目の腎生 検で,著明に所見が変わったということがあっ たでしょうか。 牧野 特に1回目も問題がなかったと思います が,2回目も明らかな高血圧性の変化とか,そ の辺は明らかな異常は認めませんでした。 森田 ありがとうございました。 乳原 では,遠藤先生。 遠藤 東海大学の遠藤です。股関節の手術をさ れて,急性増悪されるまでの期間はどのくらい あったのですか。 牧野 退院してからなので,約1カ月です。 遠藤 1カ月ぐらい。 牧野 はい。 遠藤 本人が気づく,明らかに浮腫が出るまで に1カ月ということで,再燃したのはもっと前 だった可能性はありましたか。 牧野 整形外科の手術をして,退院時には蛋白 尿は陰性で,腎機能も正常でしたが,退院して 2週間後の外来と,またさらにその2週間後の 外来に来たのですが。 遠藤 2週間後はどうでしたか。退院2週間後 に,もう何か尿蛋白が増えている所見はなかっ たのですか。 牧野 2週間後は特に増えているところはな かったのですが,そのあと。ですから,手術を してからだと1カ月ちょっとしたところで。 遠藤 その間の血圧のコントロールが悪かった という,何かあるのですか。 牧野 たしかに家に帰りまして,同じような降 圧剤を飲んでいたのですが,食事療法の影響も ありますが,やはり170 ∼ 180mmHgぐらいで した。 遠藤 その程度。 牧野 ええ。200mmHgは超えていないです。 家でも測ってもらっていました。 遠藤 発熱の経過はどうですか。手術後から再 燃までの,入院中でもかまわないのですが,熱 発はなかったですか。 牧野 手術後は特にそういうことはなかったで す。 遠藤 家でも。 牧野 家でも,なかったです。 遠藤 むしろ再燃というか,再燃の像といろ いろな手術のヒストリーから考えて,何かpost infectiousな,あとは腎生検の像も含めて,そ ういうinflectionが何か増悪のきっかけになっ たのではないかということを考えたものですか ら。 乳原 では,原先生,どうぞ。 原 虎の門病院腎センターの原です。ハプトグ ロビンの低値はその後,どのように推移したの ですか。 牧野 低値はやや持続していましたが,2回目 の腎生検を行って,そのあとステロイドのパル ス療法をして,40mgで経過を見ていましたが, 最終的に退院するときはやや低いのですが,先 ほどの16と示したよりはわずかに上がってい ました。30 ∼ 40mg/dlぐらい,正常の下限ぐら
いにあったと思います。 原 この症例から見せていただくと,先ほど木 村先生がおっしゃったように,malignant hyper-tensionによるnephrosclerosisのファクターでの 血管病変が加わっているのではないかと思い, ハプトの低下がみられており,2回目の腎生検 では特に破砕赤血球が認められてはいないよう ですが。thrombotic microangipathyの変化と考え られたのですが。また病理の先生にあとでお教 えいただきたいと思いますが,70歳という高 齢で,しかもステロイドをかなり使っていた。 それに伴う血管病変もここに加わっているので はと思います。 牧野 ありがとうございます。 乳原 よろしいでしょうか。 河村 東海大の河村ですが,きょうは特別に参 加させていただきまして。内皮障害ということ で,酸化LDLが非常に問題になると思うので すが,この人はかなりの高脂血症がございまし たでしょうか。 牧野 はい。今回の外来での経過を見ますと, やや高めだったのですが,入院時はたしかに コレステロールが280 ∼ 290mg/dlと高い数値 を示していましたが,やはりネフローゼ症候群 に伴う二次的な変化とも考えまして。でも,そ の前の外来での経過を見ると,やはり200mg/dl 前後ぐらいと正常上限を示していました。 河村 一時的に高くはなったわけですね。 牧野 はい。 河村 ありがとうございます。 乳原 では,長濱先生,どうぞ。 長濱 横浜市大第2病理の長濱といいますが, 1点だけ。体位で血圧が変わったりということ は,調べたことはありますか。 牧野 それは調べていません。すみません。 長濱 起立性低血圧とか,そういったことは。 牧野 入院時の起立性低血圧は特にありません でした。 長濱 ありがとうございました。 乳原 いままでにMPGNといっていた症例の 何%かが最近C型肝炎に伴うクリオグロブリン 血症で説明できるようになったわけですが,こ の人の場合,クリオグロブリン血症は完全に否 定できるということですか。 牧野 MPGNの原因疾患としてクリオグロブ リンはあげられるのですが,何度か測っている のですが,毎回,陰性でした。 乳原 その他,よろしいでしょうか。過去10 年間で178の症例報告が当研究会であったわけ ですが,そのうちMPGNは4番目に多くて16 例ありました。クリオグロブリン血症を合わせ ると19例が症例呈示されています。そのなか でⅠ型が11例報告されています。このなかで 横須賀共済病院から,MPGNと思っていたら途 中でHUSを合併して,腎機能が悪くなって亡 くなってしまった症例も報告されていたようで す。その他,MPGNにいろいろな疾患を合併し たものが,この10年間で多彩に報告されてき たわけですが,これは純粋にMPGNだけかど うかということですね。 その他,よろしいでしょうか。では,病理の ほうからお願いしたいと思います。重松先生で すか。 重松 共同演者になっているものですから,私 がきょうは先行させていただきます。 【スライド02】今度の症例は,血管系ですね。 いろいろな動脈の病変と糸球体病変の組み合わ せで,両方にかなり共通の部分があって,それ で一括りにできるのか,あるいは2つの病態が 重なっているか。それを病理でどう見るかとい うことが問題になろうかと思います。 ここにきょうのディスカッションの,1つは 糸球体病変ですね。富核のある,一見MPGN 様の富核のある変化です。それから,ここに細 動脈,中等大の動脈,ここではよく開いていま すが,内膜から中膜にかけて,かなり肥厚があ ります。そして,中膜の平滑筋の細胞がある部 分ではきちんと保たれているけれども,まった く消えて,atrophyに陥っているところもある ということです。かなり強い動脈硬化性の変化
が,この症例にはかぶっていることになろうか と思います。 【スライド03】血管の変化ですが,演者も出し ましたが,ここに小葉間動脈レベルになると, それほど変化は強くありませんが,これが細 動脈レベルにきますと急に内皮下の硝子様の均 一な蛋白質性物質が非常に増えて,血管腔が狭 くなってきます。ここでは糸球体にはそれほど 強い変化,むしろ増殖性の変化が強く,これは MPGNと何か血管病変が共存していると見た いような標本の状態です。 【スライド04】これをずっと見ていきますと, 細動脈の変化があって,それから輸入動脈か らだんだん,今度は糸球体にも,これとほぼ似 た変化があるわけです。ここでは輸入動脈のあ たりは狭くなっていてfoam cell化した細胞が加 わっています。 【スライド05】Masson染色はいろいろなコラー ゲン,沈着物を見るのに非常に有用な染色です が,これで見ると動脈の変化はかなり青っぽく, IgA腎症のdepositなどとよく似ています。古く なると青っぽいdepositになるのです。ここが foam cell化した細胞が入っています。糸球体は どちらかというとpinkishになって,非常にフ レッシュな,フィブリンが多い沈着物が糸球体 にも見られます。 【スライド06】これをPAM染色で見ると,構 築上の変化がかなりよくわかります。これは 中膜の血管,平滑筋がほとんどなくなって,こ こはlayeringで平滑筋があったところの枠だけ が残っています。fibrinoid necrosisという強い 血管障害ではないけれども,慢性的に加わっ てきた染み込み病変を主とする,むしろ糖尿病 的な染み込み病変を主とする変化です。ここは mesangiolysisのようになって,中央にかろうじ て血管腔が狭まった形で残っています。ここに はむしろfarm cellがたくさんたまっています。 あとの糸球体の変化は演者がおっしゃったよ うに,あまりmesangialmatrixは実際には増えず, 内皮下浮腫や,これと似た軽い変化が糸球体の 病変に加わっていると言えます。 【スライド07】この2つの糸球体は,ともにか なり強い内皮下浮腫等が見られます。血管腔が 狭小化している。こちらの糸球体にも,double contourもできあがっていますから,この糸球 体の主たる病変はMPGNであるが,そこに少 し血管内皮障害を思わせるような,thrombotic angiopathy様の変化が加わっていることが言え るかと思います。 【スライド08】電子顕微鏡で送られてきた,こ の1枚というのを撮って示したのがこれです が,これも演者の写真に弱拡大で出ていました が,はっきりした沈着物はなく,内皮下浮腫で す。血清成分が染み込んで,一部でこういうフィ ブリンのようなものが析出している。まさしく thrombotic microangiopathyの初期病変といえる ような,内皮障害の新しい時期の変化です。そ うはいっても,内皮下に新しく基底膜ができて います。これは内皮細胞がつくった基底膜です。 上皮下のもは,もとからある基底膜です。 そういうわけで,基底膜ができるぐらい,内 皮細胞はその障害に耐えているわけですが,し かし,浮腫状態は依然として続いている。かな り慢性の変化といえます。ここに出てきている 細胞は,メサンギウム細胞の特徴がありません から,macrophageだろうと思いますが,内皮下 浮腫のあるところに間入的な形で細胞が入って いるわけです。これがB1の所見でした。 【スライド09】2回目のbiopsyですね。ネフロー ゼが再発しているときの変化ですが,これは 明らかに糸球体病変も残っていますが,このよ うなthrombotic microangiopathy様の変化が強く なっているわけです。血管の内腔は中等大の, 小葉間動脈レベルではあいていますが,第1回 目と同じように細動脈レベルになると一向によ くならず,同じような調子です。完全に塞がっ たようなところも見られます。 【スライド10】PAM染色で見ても,mesangioly-sisというか,内皮下浮腫が亢じて係蹄全体に 広がりを示すような変化が進行しています。
【スライド11】そして,Massonで見ると赤い deposit,染み込みの部分が面積を増やしていま す。このような急性変化が,旧い変化の上に相 乗りしているのかと思います。 【スライド12】これもそうですね。血管にも, こういう染み込み現象たくさんの新しい滲出物 が染み込んで,血管腔が本当に細くなっていま す。ここではほとんど基質に置き換わっていま す。 【スライド01】この1枚も演者が出しましたけ れども,ここに血管腔があって,症例に出し たのは係蹄の壁の内皮下浮腫でしたが,それが ずっと全周性になって,メサンギウムまでずっ と広がって,mesangiolysisという状態になって います。ところが,この辺にあるメサンギウム 細胞には非常に粗面小胞体,ERが増えて幼若 化現象,α-smooth muscle
actin陽性のtransfor-mationを起こしています。要するにHUSでも 急性期にはメサンギウム細胞が幼若化して,組 織の上での先祖返りを見せる。そういう像が出 ています。 この症例は持続する高血圧などが観察されて おりますが,そういうことがあって,悪性高血 圧とは言わないまでも,細動脈への血管障害が あり,それに加えて糸球体にはMPGNのⅠ型 があって,それがネフローゼを起こしている。 結局,2つの病変が重なって出ているという, まとめ方をしました。以上です。 乳原 いまのはⅡ型,Ⅰ型です。はい。 山口 重松先生とほとんど同じ意見で,この年 齢でMPGNのタイプⅠ,低補体血症を呈さず に,稀にそういうことはあるのかと,最近はご 老人といいますか,70歳,80歳でも,臨床の 先生たちが生検をしますと,どうも一筋縄では いかない腎生検の材料がここのところずいぶん 増えているように思います。いろいろなものが オーバーラップしてくるということで,いまま であまり経験がないような3つも,4つも腎炎 が重なってくるような印象ですが。1回目と2 回目で糸球体のつぶれた数を数えると,最初が 73分の22で30%,2回目の生検で78分の53と いうことで,7割近くの糸球体がつぶれている ということで,何か腎機能障害がどんどん進展 していることが明らかだろうと思います。 【スライド】重松先生に本当に具体的に,きれ いにご説明いただいたので,私が言うことは あまりありませんが,1つはいろいろな高血圧 性の腎障害のタイプです。先ほどのように細 動脈のhyalinosisが非常に強く出て,糸球体に segmentalなhyalinosisをつくってくるタイプ。 ですから,糸球体までで,そのまわりの尿細管 は比較的にこのようにプリザーブされている。 悪性高血圧になりますと,逆にこちらがや られてきます。ひどい例では尿細管がやられ てきて,糸球体に非常に象徴的に,この症例で は比較的糸球体細動脈に集約したような形で病 変が出ている。もちろん,ある程度このような 尿細管間質病変はありますが,つぶれた糸球体 がだいたいベースになっている場合が多いわけ です。ただ,2回目は尿細管間質病変が明らか に進展していることは間違いないように思いま す。それから,MPGNそのものは非常にhyper cellarな糸球体病変を形成しています。 【スライド】ずいぶん弱拡で撮りましたが,そ ういうhyalinosisが糖尿病などで見るようなFi-brin cap 様の非常に大きな,こういう形でhya-linosisが強調されて出てくることも,この症例 の特徴のような印象を持っております。普通は segmentalなcollapseに 基 づ い て,scleroticに 変 化していくことが多いわけですが,この方の場 合はどちらかというと先ほどのように血管極部 近いところで,何かhyalinosisがFibrin cap様に 出てくる。最初の生検では数個でしたが,2回 目ではこの頻度が非常に増えています。 【スライド】弱拡で同じようなところを撮って いますが,先ほどと同じで,こういうvascular poleに近いところからsegmentが完全に侵され て,cellularなhyalinosisになってしまって,と ころどころ癒着病変もつくっているわけです。 おもしろいのは,尿細管系が意外とこういうと
ころでも影響をあまり受けていないことです。 【スライド】銀で見ますと,たしかにmesangio-matrixがだいぶ増えて,一部はややsmall nodule 様にも見えないことはありません。ただ,実際 に銀の染まりの濃淡を見ますと,濃いところと, 濃く染まっているところが,もとのの非常にも とになるようなところです。MPGNのときにメ サンギウムのところが非常に強く拡大するので すが,そこにまたこのように動脈に穴があいて くるような形になります。ですから,このよう な濃く染まっているところがもとのところで, あとは何かどんどん新しく成長していくといい ますか, capillaryがどんどんできてくるような 感じの病変だろうと思います。 【スライド】vascular poleがここで,やはり非常 に近い位置にボーマン嚢と癒着を示すような globularな hyalinosis が segmental な hyalinosis を 形成しているということです。 【スライド】これは2回目です。だいぶ間質病 変が進展しています。糸球体のつぶれも,だい ぶ目立っています。一時期,蛋白尿がずいぶん 下がっているのですね。たしかに高血圧に伴う 腎障害ということで,ああいうsegmentalなhy-alinosisから少し漏れるとか,あるいはobesity だとか,いろいろな蛋白が漏れる可能性がある わけですが,やはり私はMPGNそのものがず いぶんよくなったのかという,2回目もまった く似たような像を呈しているので,どのぐらい までreversibilityがあるのかわかりませんけれ ども,私には少しMPGNそのもののextortiveの 変化が強くなっているような印象です。ずいぶ んMPGNそのもののactivityが一度はよくなっ て,またreactivationというか,増悪したという 感じを持っています。 【スライド】これはcollapseした糸球体で,あま り細胞浸潤が目立ちません。このようなクリオ というわけではありませんが,hyalinosisが少 し濃くPASに染まる印象があったので,そこ をとったのだろうと思います。 【スライド】MPGNの像ですが,ずいぶんextor-tiveというか,外来性の細胞がsegmentによっ てはずいぶん入っているように思います。です から,二次的にhyalinosisで修飾されているの で,MPGNそのもののactivityはわかりづらい のですが,2回目はこういうextensionが非常に 強いので,もしかすると再燃といいますか,そ ういう病態になったのではないかと思います。 【スライド】だいぶつぶれてきて,血管病変が 主体でどんどんsegmentがシンプル化して,増 殖性の変化もわからなくなった。あるいは硬化 性の病変,Fibrin cap様の病変がだいぶ強くなっ ているわけで,高血圧性の腎障害も進展してい ることが言えると思います。 【スライド】先ほどと同じところだろうと思い ます。以上です。 乳原 ただいまは病理からの説明でしたが,そ れに対して。 木村 聖マリアンナ医科大学の木村ですが,ど うもありがとうございます。病理の腎臓の組織 でthrombosisは特になかったのでしょうか。 山口 はっきりしたthrombosisの形をとってい ないのですね。 木村 それとも,やはりthrombotic microangi-opathyの組織像という。 山口 というわけにはいかないと思います。で すから,ほとんどhyalinosisと脂質の沈着が主 体で,明らかにrecanalizationというような像は はっきりしないのです。 木村 そうですか。thrombotic microangiopathy のときに見られるような内皮障害があって,糸 球体障害がある程度検出されていると考えてよ ろしいのでしょうか。それはまったく別ですか。 山口 thrombosisはないのですが,似たような 病態が末梢の血管から糸球体にかけて起きてい たということで,thrombosisのないHLSA様の 組織像と考えていいと思いますけれど。 重 松 WHOのthrombotic microangiopathy, こ の命名があまりよくないと思うのですけれど。 Thrombosisが必発だから,thrombotic microangi-opathyという意味でこれをつくっているのでは
なく,ひどいときにはthrombosisまで至ります という意味なのです。本当に大事な病変は内皮 に出発する循環障害のことです。ですから,あ まりthrombosisがないから,これはそれではな いと持っていかれると,病理としては困るので すが。 木村 もう1点よろしいでしょうか。あとは arterioleの変化は先ほど原先生からもご質問が ありましたけれども,これは相当強い変化だと 思うのですが,これは高血圧だけでは説明がつ かないのか,あるいは今回の病態に関連した変 化が加わっているから,これだけ強いものなの か。その辺を教えていただきたいのですが。 山口 どうでしょうか。例えば若い人の高血圧 の組織などを我々が見ると,これと似たような 変化を示していますので。それは1つの極端な 例として現れているのだろうと思うので。たし かにこの症例は非常に強調されていますが,高 血圧以外のファクターが何かあるかと言われる と,少し別に高血圧性の細動脈病変として考え てけっこうだろうと思います。ただ,病態的に は非常に先生が言われているような,HUS like の何かそういう病態が非常に強く出ている形の ものだろうと思います。 木村 ステロイドの影響はいかがでしょうか。 重松 硬化病変はステロイドにより,進行を早 めることがありますが,この方はステロイドの 治療前からかなり強い硬化病変がありますね。 ですから,このケースでステロイドの影響が強 く出ているかどうかは,病理的に解釈が非常に 難しいと思います。 木村 わかりました。どうもありがとうござい ました。 乳原 では,小林先生。 小林(修) 湘南鎌倉総合病院の小林です。 MPGNという診断に対して疑問を出すつもり は毛頭ないのですが,C3もフリンジに染まっ ていますし,私の質問はCircum ferential mesan-gial interposition(CMI)ということと,内皮下 腔の開大。要するにdouble controlとしてPAM で見えてくるものをよく見ると,当然,2つの ことを考えながら,かつ蛍光抗体を参考にして MPGNの診断をつけていきます。 ところが,このように臨床的にMPGNがあ り、そこへ内皮下腔の開大をきたすような内 皮細胞の障害。そういう臨床的病態が加わって くると,MPGNの基本的な定義と申しますか, diffuse globalなCMIがあると云々というところ が,実にあいまいなものとなってくるわけです。 そういったところで再生検がなされている。そ こで質問になりますが,いわゆるmesangial cell のCMIの割合と内皮下腔の開大,内皮の滲出 性病変,あの割合が1回目と2回目と変わって きているのでしょうか。というところを病理の 先生にご質問をさせていただきます。 山口 このようにオーバーラップしてきて,き れいなMPGNの1つの証拠になりますmesan-gial interpositionも明らかにあります。場所に よっては,内皮下腔の拡大が顕著に出ていると ころと,きれいな形のmesangial interpositionの ところの両方が出ているように思います。撮ら れてくる糸球体によって,ずいぶん違うのです。 2回目はほとんどMPGNの所見がない,HUS likeの糸球体の電顕が撮られてきているものが 1つあるのです。 もう1つには,明らかにmesangial interposi-tionがはっきりあって,para-mesangialからsub endの沈着が,dense depositが明らかにある場 所がありますので,やはりMPGNがベースに あって,もちろん高血圧とどちらが先というこ とはないと思いますが,両方の病変が混在して 出ていると考えていただいてけっこうだと思い ます。 小林(修) ありがとうございます。湘南鎌倉 の小林です。臨床的にも総合的に考えるわけで すが,この組織をぱっと見せられてMPGNな のか,あるいはHUSというか,内皮障害をき たすような臨床病態のいくつかのなかのどれか ということを,考えながら組織を見る。MPGN の場合にもdouble controlの質的,あるいは量
的な問題が診断を左右することがあって,それ をはたして私が見たときに,MPGNにしては mesangial interpositionが少ない。そのわりに内 皮下腔の開大病変が多いので,何かそういう病 変がありませんか,と問いただしながらやると 思うので,非常に難しい症例ではありましたけ れど,とても勉強になりました。ありがとうご ざいます。 乳原 発表された,北里の先生はどうでしょう か。 小林 北里大学内科の小林です。本当に貴重な 多くのコメントをいただきまして,ありがとう ございました。今回,この症例を発表させてい だいた最大の目的は,MPGNのタイプⅠだろう ということが1つありましたが,それだけでは 違うのではないか。特にああいう糸球体を中心 として,あるいは細動脈の内皮細胞障害を強く 思わせるような所見が併存していたことがあり ました。これをどのように理解したらいいかと いうことが問題になりました。先ほどからご意 見をいただきましたように,thrombotic micro-angiopathyという広義のなかで理解をするのも 1つだと思いますが,なかなか検索上,HUSに しても,APSにしても,そういう所見がきちん と出てこないところがあります。一方では高血 圧が持続して,特に2回目の場合は入院中にか かわらず,200mmHgぐらいの高血圧が続くこ ともありました。 悪性高血圧症のとき,あるいは悪性腎硬化症 のときには高度の内皮細胞障害がくることは, 実際の症例を通して知っているのですが,こ の方は,少なくとも血圧はそこまでは高くなっ てないのですね。しかし,ある程度の,例えば 160∼ 180mmHgぐらいのところがわりに持続 している。 1つ疑問に思ったのは,もしHUSなどの普通 に考える内皮細胞障害の可能性があまりないと したときに,高血圧でこれを説明してよいかど うか。我々は例えば160 ∼ 180mmHgというレ ベルの腎硬化症を腎生検の対象にはほとんどし ていないものですから,そういうときの糸球体 はどうか,あるいはそういうときの細動脈はど うかということを,少なくとも私自身,理解し ていない。 その点で,剖検例をたくさんご覧になってい らっしゃる病理の先生に,ぜひお教えいただき たいのは,臨床的に見てmalignant hypertension ではなくても,中等度の高血圧が続いたときに は内皮細胞障害は起こってもいいのだと,その ようなことが一般的な病理学的な理解としてお ありかどうかを,最後にお教えいただければと 思うのですが。 山口 小林先生の質問はなかなか難しいのです が。お答えにはならないと思うのですが,最近, いろいろ老人の生検材料がすごく多いので,1 つは血圧が血圧計で表れている血圧の値と,本 当の腎内でのhemodynamicsといいますか,そ こでautonomicに,何か自律的に腎内での血圧 のものは,discrepancyがあるような症例に我々 は実際に出会いまして。ですから,表向きは 140mmHgだったり,150mmHgぐらいでコント ロールをしているつもりです。けれども,実 際には腎障害がどんどん進展している症例に出 会ったことがあります。そういうことから考え ますと,この症例は一見少しずつ動いて,コン トロールをしようとしているのですが,腎内で のhemodynamicsが,なかなかそれを変化でき ないことがあるのではないかと,私自身はそう 考えています。 乳原 よろしいでしょうか。では,どうもあり がとうございました。
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