点から再び解釈する.そして,x2 + 9 = 10x[対象 O]の図解法[理論 T]を生成する.ここで,生成 した図解法の歴史的解釈T1は,現代の読者[歴史 家T1]が所属する数学的コミュニティのコード< 代入によって方程式の解を確認する慣習>で記 される.この活動は,【活動4】に該当する.また, 展開 I から展開 III までに生成した図解法[理論 T],その歴史的解釈 T1を,GeoGebra[テクノロジ ー]のヴァーチャルコード<動的な図形の動き> で解釈する.この活動は,【活動 5】に該当する 活動の動機となる. 展開V では,学習者は,x2 + 40 = 10x を図解法 で解くことを試みる.x2 + 40 = 10x を図解法の手 順に従って解こうとすると,図形の面積が負とな り,線分の長さが負,虚数となる.また,x2 + 40 = 10x の解は虚数となる.ここでは,学習者は,展 開I から展開 V までに生成した図解法[理論 T] を現代の読者[歴史家 S1]の視点から解釈する. そして,図解法の歴史的解釈T1を生成する.ここ で,生成した図解法の歴史的解釈T1は,現代の読 者が所属する数学的コミュニティのコード<負 の数,虚数>で記される.この活動は,【活動 4】 に該当する. 展開VI では,学習者は,GeoGebra を用いて x2 + N = ax の図解法について考察する.ここでは, 学習者は,展開I から展開 V までで生成した図解 法[理論T],その歴史的解釈 T1を,GeoGebra[テ クノロジー]を用いて解釈する.ここで,生成さ れた図解法[理論 T],その歴史的解釈 T1 は, GeoGebra のヴァーチャルコード<動的な図形の 動き>で表される.この活動は,【活動5】に該当 する. 展開VII では,学習者は,面積が負である図形 と,長さが負,虚数である線分を指摘し,その理 由を説明する.ここでは,学習者は,展開I から 展開V までに生成した図解法[理論 T],歴史的 解釈T1を,学習者のメタコード<学習者の学習経 験など>で解釈する.この活動は,【活動7】に該 当する.また,学習者は,展開I から展開 VI まで の活動を繰り返し,仮説的に解釈を生成,修正す る.この活動は【活動8】に該当する. 4.本研究の成果と今後の課題 本研究では,ICT と数学史を題材とする授業モ デルで,数学史の文献を読み解く活動である解釈 学的営みを説明することができた.今後の課題は, 授業モデルで,授業実践における実際の学習者の 解釈学的営みを説明することである. 引用・参考文献
Cardano, G. (1993): Ars magna or the rules of algebra (T. R. Witmer, Trans.). Mineola, NY: Dover. 礒田正美(2001):数学的活動論,その解釈学的
展開-人間の営みを構想する数学教育学へ のパースペクティブ-,第34 回数学教育論 文発表会論文集,223-228.
Jahnke, H. N. (1994): The historical dimension of mathematical understanding: Objectifying the subjective. P.roceedings of the eighteenth International Conference for the P.sychology of Mathematics Education, I. University of Lisbon, 139-156. 松嵜昭雄(2007):機構に関する Web サイトを活 用したレゴによる直線運動と円運動の変換 の再現,岸本忠之編著「数学科・デジタル テクノロジーで広がる学習環境の創造-イ ンターネットによる数学コンテンツを活用 した指導実践-」,21-35,明治図書. 鈴木大樹(2017):ICT を利用した数学史を題材 とする授業モデルの構築-図解法を題材と する大学生対象の実験授業による例証-, 第50 回秋期研究大会発表収録,443-446. 塚原久美子(2002):数学史をどう教えるか-算 数・数学の授業における数学史活用の目 的・方法と実践-,東洋書店. 土田知之(2001):学校数学における数学史教材 の開発に関する研究,平成13 年度筑波大学 大学院教育研究科修士論文.
理科学習における対話過程の分析とその意味に関する研究―ナラティヴ論を基軸とした一考察―
$6WXG\RQ$QDO\VLVDQGWKH0HDQLQJRI'LDORJLFDO3URFHVV
in Science Classes. - Based on Narrative Approach -
大木裕未,長沼武志,和田一郎
OOKI, Yumi,NAGANUMA, Takeshi,WADA, Ichiro
横浜国立大学大学院教育学研究科,神奈川県三浦市立剣崎小学校,横浜国立大学 Graduate School of Education, Yokohama National University, Kenzaki Elementary School, Yokohama National University [要約]理科学習において,他者との協働的な学習により,対話を通して自己の考えの妥当性を高めて いくことは,「資質・能力」の育成に関して大きく寄与すると捉えられ,バフチンをはじめ,歴史的にも 数多く指摘されている。それを踏まえ本研究では,ブルーナーの指摘する「ナラティヴ論」を基軸とし, 理科学習における対話の内実を詳細に捉え,その意味について検討することを目的とした。 結果として,対話により,子ども同士でナラティヴの「社会性」として関わり,他者の発言をアプロ プリエーションすることでナラティヴの構築が進むこと,教師が相互アプロプリエーションし子どもを 見取り,ナラティヴの「社会性」として関わることで子どものアプロプリエーションが促され,ナラテ ィヴの構築が進むこと,対話におけるアプロプリエーションと相互アプロプリエーションによるナラテ ィヴの構築は「時間性」の要素が不可欠であることが明らかとなった。 [キーワード]対話,ナラティヴ論,小学校理科 1.問題の所在と研究の目的 平成 年3月に新学習指導要領が公示された。 そこでは,「何を学ぶか」だけでなく,「どのよう に学ぶか」,「何ができるようになるか」の視点を 取り入れた授業改善が重要であると示された。中 でも,「どのように学ぶか」については「主体的・ 対話的で深い学び」の視点から学習過程を改善す る必要があると提案されている。これに見られる ように,他者との協働的な学びを通し,自己の考 えの妥当性を高めていくことは,子どもの「資質・ 能力」育成に関して大きく寄与すると捉えられる。 この協働的な学習における,他者とのやり取り である対話の重要性は,バフチンやヴィゴツキー, ワーチなどにより,歴史的にも数多く指摘されて いる。 しかし,理科学習における対話の内実を詳細に 捉えることや,その意味について検討することは, 課題であると考えられる。これに関わり,本研究 では,ブルーナーの指摘する「ナラティヴ論」に 着目する(ブルーナー,)。それを基に,理科 学習における対話の詳細を捉え,その意味につい て検討することを目的とした。 2.理科学習おける対話の位置づけ 子どもの学習における対話の重要性について, バフチンをはじめとした多くの理論は有益であ る。バフチンは,「理解とは,他のテキストたちと の相関と新しいコンテキスト(自分の,現代の, 未来の)における意味づけのし直しである」と指 摘している(バフチン,)。これにより,学習 を通した理解は,他者との対話を通して意味づけ を 行 っ て い く こ と で あ り , そ の 意 味 は 文 脈 (FRQWH[W)に依存するものであると捉えられる。 そして,バフチンは「すべての言葉は人それぞれ に自分のと,人のとに分れるが,その境界は入り 乱れて,その境界線上で激しい対話の戦いが行わ れている」と指摘している(バフチン,)。 また,バフチンは言葉の獲得について,「言葉の 中の言葉は,なかば他者の言葉である。それが〈自 分の〉言葉となるのは,話者がその言葉の中に自 分の志向とアクセントを住まわせ,言葉を支配し, 言葉を自己の意味と表現の志向性に吸収した時 である」と,他者の言葉を「収奪」することであ ると説明している。 このような指摘を踏まえれば,学習は他者との ― 174 ― ― 175 ―
相互作用を踏まえた,社会文化的な視点から捉え る必要があると解釈できる。 このように,学習を社会文化的な視点で捉える ことは,ヴィゴツキーの理論を基軸とするもので ある。ヴィゴツキーは,人間の概念構築や言葉の 意味の習得,思考などの「高次精神機能(KLJKHU PHQWDOIXQFWLRQ)」の発達について,社会文化的 な視点から説明した。それによると,高次精神機 能の発達は,社会・文化との関わりによる「精神 間機能」として現れ,その後に個人の思考内部の 関わりである「精神内機能」として現れる(ヴィ ゴツキー,)。子どもは,他者や文化資源との 関わりにより思考を深め,それを自分の中に「内 化(LQWHUQDOL]DWLRQ)」していくのである。 更に,ワーチは,ヴィゴツキーの「内化」の概 念を,「習得(PDVWHU\)」と「専有(DSSURSULDWLRQ)」 の2つ分けて考えることを提案した。このうち, 「専有(DSSURSULDWLRQ)」について,バフチンの 「収奪」の説明を踏襲し,「他者に属する何かある ものを取り入れ,それを自分のものとする過程」 と説明した(ワーチ,)。すなわち,子どもは 他者のものを取り入れ,自分のものとすることで 思考を深めていくと捉えられる。 また,%URZQ らは,教室における教師と子ども の関わりに目を向け,教室内で子どもがアプロプ リエーションを行いながら学習を進めることと 同様に,教師も子どもの考えをアプロプリエーシ ョンして捉え,それに対しフィードバックを与え, 考えの更新を促すことを「相互アプロプリエーシ ョン(PXWXDODSSURSULDWLRQ)」と提案しアプロプ リ エ ー シ ョ ン の 意 味 を 拡 張 し た ( %URZQ HW DO)。 これらのことから,学習において教師や子ども などの他者や教材という社会・文化との関わりの 中で,協働的に思考を深め,アプロプリエーショ ンし,自己のものとしていくことが求められると 捉えられる。そしてそれは教師の関わりである 「相互アプロプリエーション」により促されると 考えられる。これらはすなわち,学習における対 話の成立である。 3.ナラティヴ論に基づく対話の意味 次に,学習において実現を目指される対話の内 実を捉える視点として,ブルーナーの「ナラティ ヴ論」の指摘に着目する。ブルーナーは,人間の 思考様式について2種類あると提案した。個別の 経験からの思考である「ナラティヴ・モード」と, 体系化・一般化された「セオリー・モード」であ る。また,これら2つの様式は独立しているので はなく,情報を補完し合う,相補的な関係である と指摘した(ブルーナー,)。これを踏まえ, $YUDDPLGRX&2VERUQH は,理科学習におけるナ ラティヴ・モードとセオリー・モードの相補関係 が成立した,全体の認知構造を「ナラティヴ」と 捉えた。そして,ナラティヴの構築を成立させる 7つの要素を示した($YUDDPLGRX & 2VERUQH, )。また,野口によれば,ナラティヴは,「時 間性」,「意味性」,「社会性」のという3つの性質 を有することが指摘されている(野口,)。こ れらの指摘について,大木らは表1のように整理 し,ブルーナーの指摘との関連付けを図った(大 木ら,)。 表1 ナラティヴの構成要素 ナラティヴは「時間性」を有することにより, 構築が始まる。その要素として,学習の見通しで ある「志向性」や,連続して起こる「事象」,個別 の「経験」が位置づけられる。そして,「時間性」 を一貫して持ち,事象が関連付くことで「構造」 が生じる。また,他者の思考や教材を「媒介」と して関連付ける。このようにして,ナラティヴに 「意味性」を帯びる。さらに,「意味性」の促進に は,「社会性」が関連する。教師や子ども同士で他 者の思考について言い換えを図る「語り手」や,
相互作用を踏まえた,社会文化的な視点から捉え る必要があると解釈できる。 このように,学習を社会文化的な視点で捉える ことは,ヴィゴツキーの理論を基軸とするもので ある。ヴィゴツキーは,人間の概念構築や言葉の 意味の習得,思考などの「高次精神機能(KLJKHU PHQWDOIXQFWLRQ)」の発達について,社会文化的 な視点から説明した。それによると,高次精神機 能の発達は,社会・文化との関わりによる「精神 間機能」として現れ,その後に個人の思考内部の 関わりである「精神内機能」として現れる(ヴィ ゴツキー,)。子どもは,他者や文化資源との 関わりにより思考を深め,それを自分の中に「内 化(LQWHUQDOL]DWLRQ)」していくのである。 更に,ワーチは,ヴィゴツキーの「内化」の概 念を,「習得(PDVWHU\)」と「専有(DSSURSULDWLRQ)」 の2つ分けて考えることを提案した。このうち, 「専有(DSSURSULDWLRQ)」について,バフチンの 「収奪」の説明を踏襲し,「他者に属する何かある ものを取り入れ,それを自分のものとする過程」 と説明した(ワーチ,)。すなわち,子どもは 他者のものを取り入れ,自分のものとすることで 思考を深めていくと捉えられる。 また,%URZQ らは,教室における教師と子ども の関わりに目を向け,教室内で子どもがアプロプ リエーションを行いながら学習を進めることと 同様に,教師も子どもの考えをアプロプリエーシ ョンして捉え,それに対しフィードバックを与え, 考えの更新を促すことを「相互アプロプリエーシ ョン(PXWXDODSSURSULDWLRQ)」と提案しアプロプ リ エ ー シ ョ ン の 意 味 を 拡 張 し た ( %URZQ HW DO)。 これらのことから,学習において教師や子ども などの他者や教材という社会・文化との関わりの 中で,協働的に思考を深め,アプロプリエーショ ンし,自己のものとしていくことが求められると 捉えられる。そしてそれは教師の関わりである 「相互アプロプリエーション」により促されると 考えられる。これらはすなわち,学習における対 話の成立である。 3.ナラティヴ論に基づく対話の意味 次に,学習において実現を目指される対話の内 実を捉える視点として,ブルーナーの「ナラティ ヴ論」の指摘に着目する。ブルーナーは,人間の 思考様式について2種類あると提案した。個別の 経験からの思考である「ナラティヴ・モード」と, 体系化・一般化された「セオリー・モード」であ る。また,これら2つの様式は独立しているので はなく,情報を補完し合う,相補的な関係である と指摘した(ブルーナー,)。これを踏まえ, $YUDDPLGRX&2VERUQH は,理科学習におけるナ ラティヴ・モードとセオリー・モードの相補関係 が成立した,全体の認知構造を「ナラティヴ」と 捉えた。そして,ナラティヴの構築を成立させる 7つの要素を示した($YUDDPLGRX & 2VERUQH, )。また,野口によれば,ナラティヴは,「時 間性」,「意味性」,「社会性」のという3つの性質 を有することが指摘されている(野口,)。こ れらの指摘について,大木らは表1のように整理 し,ブルーナーの指摘との関連付けを図った(大 木ら,)。 表1 ナラティヴの構成要素 ナラティヴは「時間性」を有することにより, 構築が始まる。その要素として,学習の見通しで ある「志向性」や,連続して起こる「事象」,個別 の「経験」が位置づけられる。そして,「時間性」 を一貫して持ち,事象が関連付くことで「構造」 が生じる。また,他者の思考や教材を「媒介」と して関連付ける。このようにして,ナラティヴに 「意味性」を帯びる。さらに,「意味性」の促進に は,「社会性」が関連する。教師や子ども同士で他 者の思考について言い換えを図る「語り手」や, 解釈し価値づける「読み手」の要素が関連付くこ とで,ナラティヴの「意味性」はより深化し拡大 する。このナラティヴの構築過程は,理科学習に おいて,子どもの思考が,経験を拠り所とするも のが,科学的になっていく過程であると捉えられ る。また,このような子どもの思考の変容は自動 的に起こるわけではなく,他者との対話が不可欠 である(大木ら,)。 このようなナラティヴの構築の際,子ども同士 で「語り手」や「読み手」として関連付くことは, 他者の思考をアプロプリエーションする機会で あり,それにより「意味性」が関連付くと捉えら れる。そして,そのようなアプロプリエーション の機会を支えるのはナラティヴの「時間性」であ ると考えられる。また,教師が,子どもの思考に 対し「語り手」や「読み手」として関連付くこと は,「相互アプロプリエーション」であり,それに より子どもの思考に「意味性」を関連付かせ,ナ ラティヴの構築を促すと捉えられる。これらを関 連付けると,図1のように摸式化できる。 以上より,図1に示した視点を用いることで, 理科授業における対話の成立について詳細に捉 えることが出来ると考えられる。 4.理科学習における対話過程の分析 4.1 分析方法,調査時期,実施対象及び実施単元 本研究では,図1に示した視点に基づき,小学 校第5学年理科の単元「人の誕生」を事例として, 理科学習における対話の成立について分析を行 った。そしてそれを基に,理科学習における対話 の意味について考察を行った。 本授業実践は, 年6月に実施された,神奈 川県内公立小学校第5学年 名を対象とした。 4.2 授業実践の概要 本授実践は,小学校理科の単元「人の誕生」(全 7時間)に関する学習であり,表2で示す内容で 計画,実施した。 本稿では,第2次を分析対象として取り上げる。 表2 学習内容の概要 次 学習内容 1 (第1・2時) どうして人間は誕生までに時間 がかかるのかについて学習した。 2 (第3・4・5時) 母親はどのように胎児を守り栄 養を与えているのかについて学 習した。 3 (第6・7時) 胎児は子宮でどのように成長す るのかについて学習した。 図1 対話を通じたナラティヴの構築過程
5.結果及び考察 本授業実践では,「人の誕生について明らかに する」ことを全体の志向性として学習が進められ た。その中で,第2次では,「母親はどのように胎 児を守り栄養を与えているのか」を志向性とし, 班で教科書やインターネットを用いて調査し,そ れをクラスで共有し,学習が進められた。そのた め,「時間性」の要素が保証されていた。その際の プロトコルの抜粋を表3に示す。この学習場面で は,「母親が胎児を守る仕組み」として,子宮と羊 水の機能について対話を通じて思考を深めた。 表3 プロトコルの抜粋 発話 番号 内容 (T:教師,A~F:子ども) T1 A1 T2 A2 B1 T3 C1 T4 C2 T5 じゃあ,守る仕組みからみんなでやって いこうか(A・B児の班へ発表促す)。 守る仕組みをしているのは子宮と羊水 です。子宮は赤ちゃんを守る部屋。子宮 内膜は赤ちゃんが安心して眠れるよう にお布団の役目をしている。あと,寒さ をしのぐこともできる。 なんで? お布団の役目をしているから。 次に羊水,子宮は羊水に満たされてい る。だから,外からの衝撃を和らげるこ ともできる。 (略) (C・D児の班へ発表促す) 子宮は,胎児を育てる。簡単に言うと, 胎児を育てる部屋で,子宮の内側にある 子宮内膜は,安心して寝られるようにふ わふわしたお布団の役目をしている。 少し表現が変わりましたね。何だった? もう一度。 ふわふわ。 (略) お布団みたいなふわふわって言ったよ ね。さっきの班(A・B児が所属)は寒 E1 T6 E2 さをしのげるって言いましたが,子宮は 衝撃から身を守る役目はあるの?ない の? ある。 (略) (E・F児の班は)それについて少しお 話を付け足せると思うんですよね。 胎児は子宮の中で育ち,その子宮の中に は羊水という水で満たされています。な ので,衝撃を和らげるし,子宮も分厚い から,(子宮で)衝撃を和らげた後に, 羊水でも和らげているので,胎児には衝 撃は来ない。例えば,2段ベッドから飛 び降りることあるじゃん。その時に,布 団1枚の上に飛び込むよりも,2枚の方 が痛くないじゃん。 初めにA児は,A1のように子宮は「胎児を守 る部屋」であり,子宮内膜は布団のような役目を していると発言した。これは,A児の「布団で眠 った」という経験と,母体内での胎児を関係づけ た表現である。そのため,「布団」というA児のナ ラティヴ・モードと「子宮で胎児を守っている」 というセオリー・モードが相互作用したナラティ ヴであると捉えられる。 この発言を受け,C児は子宮内膜について「ふ わふわしたお布団の役目」と発言した。これは, 「読み手」となりA児の発言解釈した発言である と考えられる。また,A児の発言A1における, 「子宮内膜はお布団である」という考え方をアプ ロプリエーションした発言であると捉えられる。 そしてそれを踏まえ,C児が自己のナラティヴと 関連付け,C1の発言をしたと考えられる。これ により,「お布団」の考えに「ふわふわ」という質 的なイメージが関連付き,意味が拡大した。 さらに,E児は,2段ベッドでの例えを発言し た。これは,C児の「子宮内膜はふわふわなお布 団」という発言と,B1の羊水に関する発言につ いて「読み手」となる発言であると捉えられる。 そしてそれにより,B児とC児の思考をアプロプ
5.結果及び考察 本授業実践では,「人の誕生について明らかに する」ことを全体の志向性として学習が進められ た。その中で,第2次では,「母親はどのように胎 児を守り栄養を与えているのか」を志向性とし, 班で教科書やインターネットを用いて調査し,そ れをクラスで共有し,学習が進められた。そのた め,「時間性」の要素が保証されていた。その際の プロトコルの抜粋を表3に示す。この学習場面で は,「母親が胎児を守る仕組み」として,子宮と羊 水の機能について対話を通じて思考を深めた。 表3 プロトコルの抜粋 発話 番号 内容 (T:教師,A~F:子ども) T1 A1 T2 A2 B1 T3 C1 T4 C2 T5 じゃあ,守る仕組みからみんなでやって いこうか(A・B児の班へ発表促す)。 守る仕組みをしているのは子宮と羊水 です。子宮は赤ちゃんを守る部屋。子宮 内膜は赤ちゃんが安心して眠れるよう にお布団の役目をしている。あと,寒さ をしのぐこともできる。 なんで? お布団の役目をしているから。 次に羊水,子宮は羊水に満たされてい る。だから,外からの衝撃を和らげるこ ともできる。 (略) (C・D児の班へ発表促す) 子宮は,胎児を育てる。簡単に言うと, 胎児を育てる部屋で,子宮の内側にある 子宮内膜は,安心して寝られるようにふ わふわしたお布団の役目をしている。 少し表現が変わりましたね。何だった? もう一度。 ふわふわ。 (略) お布団みたいなふわふわって言ったよ ね。さっきの班(A・B児が所属)は寒 E1 T6 E2 さをしのげるって言いましたが,子宮は 衝撃から身を守る役目はあるの?ない の? ある。 (略) (E・F児の班は)それについて少しお 話を付け足せると思うんですよね。 胎児は子宮の中で育ち,その子宮の中に は羊水という水で満たされています。な ので,衝撃を和らげるし,子宮も分厚い から,(子宮で)衝撃を和らげた後に, 羊水でも和らげているので,胎児には衝 撃は来ない。例えば,2段ベッドから飛 び降りることあるじゃん。その時に,布 団1枚の上に飛び込むよりも,2枚の方 が痛くないじゃん。 初めにA児は,A1のように子宮は「胎児を守 る部屋」であり,子宮内膜は布団のような役目を していると発言した。これは,A児の「布団で眠 った」という経験と,母体内での胎児を関係づけ た表現である。そのため,「布団」というA児のナ ラティヴ・モードと「子宮で胎児を守っている」 というセオリー・モードが相互作用したナラティ ヴであると捉えられる。 この発言を受け,C児は子宮内膜について「ふ わふわしたお布団の役目」と発言した。これは, 「読み手」となりA児の発言解釈した発言である と考えられる。また,A児の発言A1における, 「子宮内膜はお布団である」という考え方をアプ ロプリエーションした発言であると捉えられる。 そしてそれを踏まえ,C児が自己のナラティヴと 関連付け,C1の発言をしたと考えられる。これ により,「お布団」の考えに「ふわふわ」という質 的なイメージが関連付き,意味が拡大した。 さらに,E児は,2段ベッドでの例えを発言し た。これは,C児の「子宮内膜はふわふわなお布 団」という発言と,B1の羊水に関する発言につ いて「読み手」となる発言であると捉えられる。 そしてそれにより,B児とC児の思考をアプロプ リエーションし,自己のナラティヴと関連付け発 言したと考えられる。それにより,「母親が胎児を 守る仕組み」について,「ふわふわなお布団」とい う考えに,羊水の役目を関連付け,「子宮と羊水で ダブルクッションになっている」とし,更に意味 を深化・拡大した。 この場面での教師の介在についてみると,相互 アプロプリエーションを行い,子どものナラティ ヴに対し「読み手」として機能していることが分 かる。T2は,A1の「寒さをしのぐことが出来 る」という発言は「子宮内膜はお布団の役目」と いうことと関連付くと解釈し,「読み手」として機 能する発言であると捉えられる。また,T4は, A1の発言をC児がアプロプリエーションし,C 1の発言をしたことを解釈し,「読み手」として価 値付けし,再度発言を促したと捉えられる。そし てT5は,E児の表現はこれまで展開された対話 をより詳細にすると解釈し,「読み手」価値付けし, 発言を促したと捉えられる。 このように,教師が,子どものナラティヴを相 互アプロプリエーションして捉え,フィードバッ クとして「社会性」の要素で関わっていた。それ により,子どものアプロプリエーションを促し, ナラティヴの構築が進むことが明らかになった。 以上のように,対話により,子ども同士で発言 をアプロプリエーションすることで,ナラティヴ の構築を進めた。また,教師が子どもを見取り, 相互アプロプリエーションを行うことで,子ども のアプロプリエーションを促し,ナラティヴの構 築が促進されたと捉えられる。 6.本研究の総括と今後の展望 本研究の成果は以下のようにまとめられる。 1)対話により,子ども同士で「語り手」や「読 み手」というナラティヴの「社会性」とし て関わり,他者の発言をアプロプリエーシ ョンすることで,「意味性」が関連付き,ナ ラティヴの構築が進む。 2)対話において教師が相互アプロプリエーシ ョンをし,子どもを見取り,「語り手」や「読 み手」というナラティヴの「社会性」とし て関わることで,子どものアプロプリエー ションを促す。それにより子どものナラテ ィヴに「意味性」が関連付き,その構築を促 進する。 図2 「人の誕生」における対話を通じたナラティヴの構築過程
3)このような,対話におけるアプロプリエー ションと相互アプロプリエーションによ るナラティヴの構築は「時間性」の要素が 不可欠である。 このように,理科学習における対話について, 図1に示した視点で捉えられることが明らかと なった。それにより,理科学習における対話は, 子ども同士でアプロプリエーションをし,「社会 性」として関わり合うことで,子どもの思考の深 まりであるナラティヴを構築していくことであ ると捉えられる。また,教師が子どもに対し相互 アプロプリエーションをし「社会性」として関連 付くことで,子どものアプロプリエーションを促 す。 本研究を踏まえ今後は,対話を通じた学習によ る,子どもの思考の質的変容について検討してい きたいと考えている。 引用及び参考文献
$YUDDPLGRX/ & 2VERUQH-:「7KH 5ROH RI 1DUUDWLYH LQ &RPPXQLFDWLQJ 6FLHQFH 」 ,QWHUQDWLRQDO-RXUQDORI6FLHQFH(GXFDWLRQ, 9RO,1R,SS,7D\ORU )UDQFLV *URXS, バフチン00(新谷啓三郎他>訳@):『ことば 対 話 テキスト』,平凡社, バフチン00(伊東一郎>訳@):『小説の言葉』, %URZQ$/ $VK' 5XWKHUIRUG0 1DNDJDZD.*RUGRQ$DQG&DPSLRQH-&: 「'LVWULEXWHGH[SHUWLVHLQWKHFODVVURRP」, 3V\FKRORJLFDODQGHGXFDWLRQDOFRQVLGHUDWLRQV, , ブルーナー-(田中一彦>訳@):『可能世界の心 理』,みすず書房,, 野口裕二:『ナラティヴ・アプローチ』,勁草書房, , 大木裕未・齊藤武・和田一郎:「ナラティヴ論に基 づく対話的な理科授業における子どもの思考・ 表現の変容過程の分析」『臨床教科教育学会誌』 第 巻,第2号,, ヴィゴツキー(土井捷三・神谷栄司>訳@):『「発達 の最近接領域」の理論』,三学出版,, ワーチ-9(佐藤公浩他>訳@):『行為としての 心』,北大路書房,,