トマト減塩料理の減塩効果および料理としての受容性の検討
林 宏紀*
§・伊藤早苗**・上ノ堀聡子*・吉田和敬*・
石田裕美**・砂堀 諭*・菅沼大行*・三浦理代**
* カゴメ株式会社イノベーション本部自然健康研究部 〒329-2762 栃木県那須塩原市西富山 17 ** 女子栄養大学栄養学部 〒350-0288 埼玉県坂戸市千代田 3-9-21The Study of Salt Reduction Effect and Acceptability of “Tomato Low-salt Diet”
Hiroki Hayashi*, Sanae Ito**, Satoko Uenohori*, Kazutaka Yoshida*, Hiromi Ishida**,
Satoshi Sunabori*, Hiroyuki Suganuma* and Masayo Miura** * Kagome Co., Ltd.
17 Nishitomiyama Nasushiobara-shi Tochigi 329-2762 ** Kagawa Nutrition University
3-9-21 Chiyoda Sakado-shi Saitama 350-0288
──────────────── Hypertension is one of the critical risk factors of dementia and cerebrovascular disease which shorten healthy life expectancy. Salt reduction is the most effective approach for prevention and improvement of hypertension. However, it is difficult to make it a habit because salt reduction makes the diet taste worse. Glutamic acid abounding in tomatoes is known to lower the threshold of saltiness. Therefore, we developed “Tomato low-salt diet” in which salty Japanese seasonings such as soy sauce and miso (fermented soybean paste) were replaced by tomatoes or tomato ketchup and assessed the effect and substitutability as a low-salt diet. We conducted a randomized parallel-group trial in 33 healthy Japanese women (aged 21.5±1.1 years). The tomato low-salt diet or the control diet of which sodium content were 2,415±194 and 3,376 ±397 mg/day (mean±SD), respectively, were consumed for 14 days. One person dropped out the study because of poor health condition and the another one were excluded from the statistical analyses by insufficient compliance for food intake. Consequently, statistical analyses were performed for 31 subjects (n=15 ; control diet, n=16 ; tomato low-salt diet). Continual intake of the tomato low-salt diet for 14 days significantly decreased urine Na/K ratio compared to before the intervention (p<0.01) and the amount of decrease was significantly larger compared to the subjects consumed the control diet (p<0.01). Regarding acceptability, almost all dishes of the tomato low-salt diet was easy to cook and 90% of the subjects evaluated the tomato low-salt diet delicious although the score in continuity in daily diet was low. In conclusion, the tomato low-salt diet has the salt-reduction effect and the dishes might be useful as a variety of low-salt diets. Key words : Salt reduction, Tomato, Soy sauce, Miso, Tomato ketchup 1. 緒 言 日本人の平均寿命は毎年のように過去最高を更新し ており、2017 年に厚生労働省が発表した 2016 年の速 報値では、女性が 87.14 年、男性が 80.98 年に達して いる1)。寿命の延長は喜ばしいことであるが、近年、 平均寿命とともに注目を集めている数値に「健康寿命」 がある。2000 年に世界保健機関が提唱した2)この数値 は、“日常的・継続的に医療や介護に依存せず、自ら の心身で生命を維持し、自立した生活ができる期間” を表すものである。日本のような超高齢社会において §[email protected]
は特に、この健康寿命と平均寿命との差を極小化する ことが、労働力の維持や介護・医療費の膨張抑制のた めの喫緊の社会課題であるが、2001 年以降、両者の 差はほとんど改善されていない3)。平成 28 年度の国 民生活基礎調査4)によれば、「要支援」や「要介護」 に至る原因の第 1 位は認知症、第 2 位は脳血管疾患で あり、この両者に共通するリスク因子として高血圧が ある5), 6)。高血圧の主な成因は食事や運動等の日々の 生活習慣であることから、適切な量と質の食事を摂取 することは、高血圧のみならず、高血圧がリスク因子 となる脳血管疾患や認知症の予防を介して健康寿命の 延伸につながるものと考えられる。その一つが「食塩 摂取量の減少」である。 日本人の食事摂取基準(2015 年版)では、1 日あた りの食塩摂取量の目標値は、男性で 8.0 g 未満、女性 では 7.0 g 未満に設定されており7)、実際の摂取量は漸 減傾向にあるものの、いまだこの目標値は達成されて いない8)。その原因の一つとして、減塩は高血圧を抑 制する有効な手段ではあるが、塩味が弱くなるため通 常の味付けに比べ“おいしさ”が損なわれ、毎日継続 して摂取しにくいことが考えられる9)。その解決策の 一つに、うま味により塩味の閾値を下げ、結果として おいしさを損なうことなく減塩を達成する手段があ る。そこで我々は、野菜の中でもグルタミン酸含量が 高いトマトに着目した。グルタミン酸のうま味は様々 な料理の味を構成している。和食では昆布のグルタミ ン酸をだしとして活用している。地中海食においては、 トマトソースをうま味のベースとして活用している。 トマトを主原料にした調味料であるトマトケチャップ は、しょうゆやみそに比べて食塩含量が少ない一方、 うま味であるグルタミン酸が豊富であり、加えて糖や 酸(酢)も含む。よって、しょうゆやみその代わりに トマトケチャップを使うことにより、減塩による嗜好 性の低下をうま味、甘み及び酸味で補えると考えた。 これに基づき、我々は「トマト減塩料理」を設計した。 以降、本研究で設計・開発した料理をトマト減塩料理 と呼び、トマト減塩料理を組み込んだ食事をトマト減 塩食と称す。「トマト減塩料理」のコンセプトは、しょ うゆやみそなどの調味料の使用量の減少と、トマトケ チャップや生トマト、トマトソースを使用することに よる香味改善の両立である。本研究では、トマト減塩 料理の減塩効果、および料理としての受容性を明らか にすることを目的に介入試験を実施した。減塩効果は、 尿中ナトリウム/カリウム比(Na/K 比)を指標とし、 通常料理またはトマト減塩料理の摂取による影響を比 較した。受容性は、トマト減塩料理の食生活への取り 入れ易さを、調理の難易度、食味、継続性を指標に評 価した。 2. 方 法 1)試験デザインならびに研究対象者 本研究は女子栄養大学研究倫理審査委員会(承認番 号第 106 号)およびカゴメ株式会社研究倫理審査委員 会(受付番号 2017-R02)の承認の元、ヘルシンキ宣 言および人を対象とする医学系研究に関する倫理指針 を遵守して実施した。また、試験開始前に UMIN 登 録を行った(登録番号 000026495)。 試験デザインは 2 群による並行群間試験とした。研 究対象者は、インフォームドコンセントが得られた健 康な管理栄養士養成校の女子学生とした。研究対象者 の除外基準は、高血圧の治療薬や、Na 製剤および K 製剤などの薬剤の服用者、試験食に対して食物アレル ギーのある者、試験期間中に妊娠・授乳の予定がある 者、本試験開始時に他のヒト試験に参加している者、 試験責任医師から試験参加に不適格であると判断され た者とした。最終的に 33 人の研究対象者を選定した。 解析対象者は、以下の除外基準に該当せず、全ての スケジュールを終了した者とした。解析対象者の除外 基準は、制限事項を遵守しなかった者、本試験期間中 に他のヒト試験に参加した者、その他、試験責任医師 から不適当と判断された者とした。 2)スケジュール 試験期間は 2017 年 3 月 25 日から 4 月 21 日までの 4 週間とし、前半 2 週間を「準備期間」、後半 2 週間 を「摂取期間」とした(図 1)。摂取期間は既報10), 11) を参考に、食生活の変化が尿中指標に影響を及ぼすた めに十分な期間として 2 週間を設定した。準備期間は 通常通りの食生活を継続するよう指導した。摂取期間 中は、決められた試験食及び水やお茶などを除く飲食 を禁止し、運動や睡眠といった生活習慣も大きく変更 しないこととした。 準備期間に身体計測、食事調査及び 24 時間蓄尿を 実施した。摂取期間中は、試験食の摂取状況、調理の 難易度及び食味の評価を食事日誌に毎日記入するよう 依頼し、最終日に 24 時間蓄尿を実施した。摂取期間 後に再度身体計測を行い、トマト減塩料理の継続性の アンケートを記入させた。 3)群分け 準備期間の尿分析の結果に基づき、尿中 Na/K 比が 均等になるように、層別ランダム化により研究対象者 を「通常食群」と「トマト減塩食群」の 2 群に分け、 通常食群を 16 人、トマト減塩食群を 17 人とした。 4)データ収集方法 ①尿中 Na/K 比
尿中 Na/K 比は、24 時間蓄尿法で採取された尿に 含まれるナトリウム、カリウムの濃度から比を算出し た。24 時間蓄尿は、指定日の起床時から数えて 2 回 目の尿から翌日起床後 1 回目までの尿を採取すること で行った。採尿用ボトルには採取時刻を記入させ、指 定日翌日 9 時にボトルを回収し、24 時間分の尿を合 わせて均一化した後、尿の総量を測定すると共に、分 析のために 10 mL をサンプリングした。尿中ナトリ ウム濃度、カリウム濃度は株式会社エスアールエルに 委託し、電極法12)にて測定した。 ②身体計測 準備期間と摂取期間後の計 2 回、体重、体脂肪率(イ ンピーダンス法、バイオスペース社製 Inbody 770) および血圧(収縮期、拡張期)の測定を行った。血圧 は朝 8 時半の登校後、座位で落ち着いた後、1 度測定 した。準備期間のみ身長を測定した。 ③食事調査 準備期間の栄養摂取状況を知るために、食物摂取頻 度調査(FFQ-POP)、食事記録調査の 2 種類の方法を 用いて食事調査を行った13)。FFQ-POP は、調査日の およそ 1 か月前までの食生活を振り返って記入させ た。食事記録は、摂取期間開始日から逆算した連続 3 日間を指定し、摂取した料理名、食品名とその概量及 び重量を調査票に記録してもらった。エネルギー及び 栄養素摂取量の計算は日本食品標準成分表 2015 年版 (七訂)に対応したエクセル栄養君 ver.8(建帛社)を 用いて行った。なお、計算に当たり調理損失は考慮し ていない。調査票を回収後、不明点は対象者に問い合 わせた。概量のみの記載の場合は概量より重量を推定 し、食事調査に熟練した管理栄養士が確認を行った。 通常食群とトマト減塩食群それぞれに振り分けられた 研究対象者の準備期間の栄養摂取状況は、準備期間中 の FFQ-POP および食事記録をそれぞれ比較すること で異同を確認した。また、準備期間の食事と試験期間 の食事からの栄養摂取の差異は、食事記録のデータと 試験食の分析データを用いて検証した。 ④受容性評価 摂取期間中に研究対象者が毎日記録した食事日誌を 用いて、トマト減塩料理の調理の難易度と食味に関す る調査を行った(図 2)。調理の難易度については、 当日摂取したトマト減塩料理に関して、「調理がしや すかったですか?」の設問に対して“易しい”、“普通”、 “難しい”を、食味については、「おいしかったです か?」の設問に対して“はい”、“いいえ”を選択肢と した。摂取期間後に、トマト減塩料理の継続性に関す るアンケート調査を行った(図 3)。「トマト減塩メ ニューは日頃のメニューとして、継続して食べられま すか?」の設問に対して“はい”、“いいえ”を選択肢 とした。“いいえ”を選択した場合は、その理由を“ト マトが嫌い”、“おいしくなかった”、“その他”の中か ら選択させ、“その他”の場合は理由を自由記述で記 入させた。 5)試験食 試験食は 7 日間分を 1 サイクルとした献立を用い、 これを繰り返して 2 週間分とした(表 1)。日本人の 食事摂取基準 2015 年版に基づき、エネルギー及び栄 養素の基準を設定した。献立は朝食、昼食、夕食、間 食の 4 食とした。飲料は水、糖やミルクを含まないお 茶やコーヒー、及びナトリウムやカリウムをほぼ含ま ない物のみ自由摂取とした。トマト減塩食群は、献立 のうち 17 の料理をトマト減塩料理に変更した(表 2)。 試験期間中は試験食及び指定した飲料以外の飲食を禁 止した。 通常料理は調理書を中心に選定した14), 15)。トマト減 塩料理は、通常料理にトマトまたはトマト調味料を用 い、他の調味料の使用量を減量することで、通常料理 に比べて 1 食分あたり 30%以上の減塩となる料理で ある。すなわち、トマトを用いたみそ汁では、みそを およそ半分に減らし、トマトを具として使用した。ト マトソースを用いた料理はトマトパッツァ(たらをト 図 1 試験スケジュール
マトソースで煮たもの)とトマトカレーであり、対照 とした通常料理は、それぞれトマトソースを用いずに 同様の食材を調理した、たらの煮つけとカレーとした。 その他の料理では、通常料理のしょう油、みそ、顆粒 だし、および砂糖をおよそ半分に減らし、減らしたしょ う油またはみそと同量のトマトケチャップを加えて調 理した。トマトは市販のトマト、トマトソースはカゴ メ株式会社製 基本のトマトソース、トマトケチャッ プはカゴメ株式会社製 トマトケチャップを使用した。 試験食は前もって試作し、ナトリウム量とカリウム量 を一般財団法人 日本食品分析センターに委託し、原 子吸光光度法で分析した。 朝食、夕食および登校しない日の昼食は、食材とレ シピを研究対象者に提供した上で対象者が自ら調理す ることとした。登校日の昼食は、調理したものを提供 した。試験食は煮汁も含め全部摂取させた。 6)統計解析 2 群間の平均値の有意差検定は EZR(ver.1.35)を 用い、基本食群とトマト減塩食群の比較は Student’s t 検定、準備期間と摂取期間の同じ群間の比較は対応 のある t 検定で行った16)。準備期間の食事調査と試験 食の平均値の検定は、1 標本の t 検定で行った。いず れの検定でも、p<0.05 の場合に有意差ありとした。 3. 結 果 1)解析対象者 研究対象者のうち、体調不良により試験を中断した 1 人、欠食のため解析対象から除外された 1 人以外の 31 人(通常食群:15 人、トマト減塩食群:16 人)を 解析対象者とした。対象者特性を表 3 に示す。 2)身体計測 体重、体脂肪率、収縮期血圧、拡張期血圧は、準備 期間と摂取期間後および 2 群間のいずれの比較におい ても有意な差は認められなかった(表 3)。 3)準備期間の食事調査 FFQ-POP お よ び 食 事 記 録 か ら 算 出 し た エ ネ ル ギー、タンパク質、脂質、糖質、食塩相当量(食事記 録はナトリウムから換算)、カリウム(食事記録のみ) の摂取量について群間比較した結果、2 群間に差は認 められなかった(表 4)。 4) 食事記録と試験食のナトリウム量、カリウム量 および Na/K 比 試験食に含まれるナトリウム量、カリウム量および Na/K 比を表 5 に示した。試験食の食塩相当量は通常 食が平均 8.57 g、トマト減塩食が平均 6.13 g であった。 試験食のナトリウム量、カリウム量、食塩相当量を準 備期間の食事記録と比較したところ、通常食群の試験 食のナトリウム量および食塩相当量は準備期間と差が なかったが、試験食のカリウム量は準備期間より有意 図 2 難易度、食味アンケート用紙(料理名は日によって異なる) 図 3 継続性アンケート用紙
に多かった。また、トマト減塩食群では、準備期間に 比べ摂取期間のナトリウム量および食塩相当量は有意 に低く、カリウム量は有意に高かった。通常食群およ びトマト減塩食群のいずれも、摂取期間の Na/K 比は 準備期間より有意に低かった。 5)尿中ナトリウム量、カリウム量、Na/K 比 表 6 に尿中ナトリウム量、カリウム量、Na/K 比を 示す。準備期間の尿中ナトリウム量、カリウム量およ び Na/K 比は、2 群間で有意な差は認められなかった。 尿中のナトリウム量を準備期間と摂取期間で比較し たところ、トマト減塩食群において準備期間に比べ摂 取期間は有意に低値であった。群間で比較したところ、 通常食群に比べトマト減塩食群は摂取期間の尿中ナト リウム量が有意に低かった。準備期間から摂取期間へ の尿中ナトリウムの変化量を比較したところ、通常食 群に比べ、トマト減塩食群の変化量は有意に大きかっ た。 尿中のカリウム量を準備期間と摂取期間で比較した ところ、準備期間に比べ摂取期間は両群とも有意に高 値であった。準備期間、摂取期間のそれぞれのポイン トにおいて 2 群間の尿中カリウム量を比較したとこ ろ、差が認められなかった。また、変化量においても、 差は認められなかった。 尿中の Na/K 比を準備期間と摂取期間で比較したと ころ、準備期間に比べ摂取期間は両群とも有意に低値 であった。準備期間、摂取期間のそれぞれのポイント において尿中 Na/K 比を比較したところ、準備期間で は差は認められなかったが、摂取期間ではトマト減塩 食群の方が通常食群に比べて有意に低値であった。準 備期間から摂取期間への尿中 Na/K 比の変化量を比較 したところ、通常食群の変化量に比べ、トマト減塩食 群の変化量は有意に大きかった。 6)料理としての受容性評価 表 7 にトマト減塩料理の難易度、香味、継続性評価 結果を示す。トマト減塩料理の調理の難易度を調査し たところ、62.8%が「易しい」、36.8%が「普通」、0.4% が「難しい」と答えた(表 7)。トマト減塩料理の食 味については、89.6%が「おいしい」、10.4%が「おい しくなかった」と答えた(表 7)。料理毎では、100% 「おいしい」と答えた料理は、肉じゃが、切り干し大根、 チンジャオロース、照り焼き、さばのみそ煮、カレー、 みそ汁(生トマト)、生姜焼きであった。一方、「おい 表 1 試験食献立
しい」評価が 70%未満であった料理は納豆(61%) のみであった。 継続性の問いに対しては、「はい」の回答が 37.5% (6 人)、「いいえ」の回答が 62.5% (10 人) だった (表 7)。「いいえ」の理由は、「おいしくなかった」の回答 が 3 人、「その他」が 7 人であった。「その他」で得ら れたコメントでは、「味が似てしまうため継続は難し い」「ケチャップの味に飽きてしまって、継続は難し い」「ご飯と一緒に食べるには物足りない」「ケチャッ プを入れると、料理が全てケチャップ味になってしま う」といった、ケチャップ味に対する違和感を訴える 意見が多く見られた。 4. 考 察 1)尿中 Na/K 比への影響 まず研究対象者の栄養摂取量を把握するため、準備 期間の食事調査を行い、FFQ-POP および食事記録の どちらにおいても 2 群間に差は認められなかった。 準備期間に比べて摂取期間では両群とも尿中カリウ ム量が有意に増加していたことから、準備期間に対す る摂取期間の尿中 Na/K 比の低下は、食事からのカリ ウム摂取量の増加を反映したものと考えられた。 この尿中 Na/K 比の変化量を比較したところ、通常 食群に比べてトマト減塩食群は変化量が有意に大き かった。尿中ナトリウム量についても同様の結果であ り、摂取期間中のナトリウム摂取量の違いが反映した ものと考えられた。 食事の Na/K 比は尿中 Na/K 比に反映されることが 知られており、今回のトマト減塩料理の試験結果は既 報に沿ったものである10), 11)。尿中 Na/K 比と血圧との 関係について、高血圧者では食事の Na/K 比が血圧低 下に強く相関し、食事の Na/K 比が低いほど血圧は低 くなることがわかっている17)。また、尿中 Na/K 比と 血圧が正の相関を示し、尿中カリウム濃度と血圧は逆 相関することも報告されている18), 19)。よって、高血圧 者を対象とした場合は、トマト減塩料理の摂取により 食事中および尿中の Na/K 比が低下し、高血圧を改善 することが期待される。今回は健常者を対象とした試 験であり、血圧への影響の評価は目的としておらず、 想定通り血圧に対する効果は見られなかった。 表 1 続き
なお、今回の試験食は大部分が研究対象者の自炊に よるものであり、調理法や調味の程度に不備があれば 尿中 Na/K 比にも影響することが考えられた。しかし ながら、トマト減塩食群の尿中 Na/K 比が通常食群に 比べて有意に低値であったことから、両群とも決めら れた試験食を決められた通りに摂取したことが推測さ れた。 2)料理の受容性 調理しやすく、おいしく、継続して食べたい料理を 受容性の高い料理と考え、調査を行った。トマト減塩 料理の食味は 89.6%の者がおいしいと答え、調理の難 易度では 99.6%の者が「易しい」または「普通」と回 答したことから、個々の料理では評価に差があるもの の、総じて調理しやすく、おいしい料理であることが 示唆された。 本試験でのトマト減塩食は 1 日当たり 3 ないしは 4 料理を通常料理からトマト減塩料理に変更しており、 料理当たりの減塩率は平均およそ 40%であった。全 ての料理を一律で減塩してしまうと、食味の影響が大 きく、食事全体に対する満足度が低くなると考えられ 表 2 通常料理とトマト減塩料理の対比表(変更点のみ)
るが、1 食当たりおよそ 1 料理をトマト減塩料理に変 更することで、1 日の食塩摂取量を 2.44 g 減らすこと ができ、食味の上でも好評であった。トマト減塩食は 一部の料理を強く減塩することで、食欲の維持に貢献 すると考えられた。 一方、継続性については、半数以上が「継続できな い」と答えたことから、トマト減塩料理を毎食継続的 に摂取することは困難であると考えられた。料理単品 の嗜好性や調理の難易度には問題がないものの、複数 のトマト減塩料理を毎食食べ続けることには抵抗を感 表 2 続き
じたものと推測された。よって、トマトのうま味は活 用しつつ、トマトケチャップ味を感じさせない料理を 開発したり、他の減塩料理を併用したりすることで、 継続性を高められると考えられた。 グルタミン酸を活用した減塩については、石田らが グルタミン酸マグネシウムを用いた官能試験を実施し ている20)。減塩により「おいしさ」「塩味の強さ」「味 全体の強さ」が有意に低下し、うま味の添加によりそ れらが有意に改善していた。この研究では、減塩のた めにグルタミン酸ナトリウムを用いることによるナト リウムの付与を、マグネシウム塩に代替することで解 決していた。しかし、マグネシウム塩は苦味等の呈味 に影響するため、調味料との相性を検討して使用して いた21)。今回のトマト減塩料理では遊離のグルタミン 酸を付与しているため、苦味などのネガティブな呈味 には影響しないが、トマトの風味やトマトケチャップ の味が継続性を低下させていた。トマト減塩料理は調 味料の代替による減塩をコンセプトとしたが、減塩率 を優先しているため、それぞれの料理に応じた微調整 は行っていない。今後は和洋中といった様々な料理に 合わせてトマトやトマト調味料を調節することによ り、トマトの風味を自然に感じ、元の料理の味を高め たトマト減塩料理の開発を進めていく。 本研究の限界について述べる。本来減塩食を必要と するのは高血圧の中高年の男女であるが、本研究の研 究対象者は健常な若年女性であった。理由としては、 本研究のような食事を全て代替する研究は、食事の提 供や調理の都合により実施可能な研究対象者が限定さ れてしまうことによる。従って、減塩食摂取による血 圧の影響は主目的とせず、尿中指標を測定することで 減塩食の効果を評価した。よって、減塩の最終的なア ウトカムである血圧低下は評価できなかった。 表 3 対象者プロファイルおよび身体計測結果 表 4 準備期間の食事調査(FFQ-POP、食事記録) 表 5 食事記録および試験食のナトリウム、食塩 相当量、カリウム量および Na/K 比
5. 結 語 減塩は、高血圧を予防改善することで認知症や脳血 管疾患の発症を抑制し、介護状態になるリスクを減少 させることで健康寿命の延伸に貢献できる食事法であ る。減塩の課題である食味や継続性を改善すべく、ト マト減塩料理を開発し、トマト減塩料理を摂取した際 の減塩効果と料理としての受容性を評価した。 その結果、トマト減塩料理の摂取は尿中 Na/K 比を 低下させ、減塩効果を示した。尿中 Na/K 比と血圧と は比例関係にあることが知られており、高血圧者にお ける血圧の改善にトマト減塩料理が有効である可能性 が示唆された。 トマト減塩料理の料理受容性として、調理の難易度、 食味、及び継続性を評価した。その結果、トマト減塩 料理は、調理に困難がなく、90%の者がおいしいと答 えたことより、トマト減塩料理は減塩料理のバリエー ションの 1 つとして受け入れられると推測された。一 方、継続性では 63%の者が継続できないと答え、理 由として元の料理の味からのかい離を感じたことや、 トマトケチャップ味が続くことに対する不満が見受け られた。 今後は、高血圧者に対するトマト減塩料理の減塩効 果を評価する。また、本試験結果で得られた嗜好性や 継続性に関する意見を参考に、トマト減塩料理の改良 を図る。 表 6 準備期間および摂取期間の尿中ナトリウム量、カリウム量及び Na/K 比 表 7 トマト減塩料理の調理の難易度、食味及び継続性
謝 辞 試験実施に当たり多大なご協力を頂きました、女子 栄養大学 栄養学部 実践栄養学科の野島希和子氏、 平野明希氏、福田宴子氏および給食・栄養管理研究室 の皆様に感謝いたします。 文 献 1) 厚生労働省:平成 28 年簡易生命表(2017) 2) E.E. Gakidou et al : Defining and measuring health inequality : an approach based on the distribution of health expectancy, Bulletin of the World Health Organization, 78 (1), 42-54 (2000) 3) 厚生科学審議会地域保健健康増進栄養部会次期国民 健康づくり運動プラン策定専門委員会、健康日本 21 (第 2 次) の推進に関する参考資料 (2012) http://www. mhlw.go.jp/bunya/kenkou/dl/kenkounippon21_02. pdf(平成 29 年 9 月 20 日アクセス) 4) 厚生労働省:国民生活基礎調査の概要(2016) 5) 羽生春夫:生活習慣病と認知症、日本老年医学会雑 誌、50 巻、727-733 頁(2013) 6) 日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会、 高血圧治療ガイドライン 2014(2014) 7) 厚生労働省:日本人の食事摂取基準(2015 年版)(2015) 8) 厚生労働省:平成 27 年度国民健康・栄養調査(2015) 9) 宇田健司、京極泰久:減塩の最新消費者調査・市場 動向とおいしい減塩食品の味作り、食品と開発、52 巻、7 号、12-14 頁(2017)
10) M Mori et al : Effects of cooking using multi-ply cookware on absorption of potassium and vitamins: a randomized double-blind placebo control study, Int J Food Sci Nutr, 63 (5), 530-536 (2012)
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international study of electrolyte excretion and blood, BMJ, 297, 319-328 (1988) 19) Y Tabara et al : Descriptive epidemiology of spot urine sodium-to-potassium ratio clarified close rela-tionship with blood pressure level : the Nagahama study, J Hypertens, 33, 2407-2413 (2015) 20) 石田眞弓ら : うま味を利用した減塩料理の提案とその 官能評価、日本栄養・食糧学会誌、64 巻、5 号、305- 311 頁(2011) 21) 石田眞弓ら : うま味を利用した減塩料理の提案とその 官能評価、月刊フードケミカル、30 巻、4 号、36-42 頁(2014) (平成 29 年 10 月 20 日受付、平成 30 年 1 月 15 日受理) ────────────────────────