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基本動作の構えやバランス戦略

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 740 42 巻第 8 号 740 ~ 741 頁(2015 年) 理学療法学 第 42 巻第 8 号. 大会シンポジウム 12. 基本動作の構えやバランス戦略* ─思いこみが及ぼす治療的学習への影響─ 冨 田 昌 夫**. 動作ができるということは動作をやろうとしたときに,動作に. はじめに. 必要な構えやバランスを伴った基本動作が自律的に立ち上がる. 今まで無視してきた情動や無自覚な潜在認知という概念を導. ことである。これを複雑な動作が基本動作を先導するという。. 入することで情動,感情,理性を機能的に結びつけ,治療的動. 2.構えやバランスを組みこまれた基本動作. 作の学習に新たな展開ができる。これからの理学療法に欠かせ. 自転車に乗るとき,本能,情動による身を守るという大きな. ない概念になると期待している。. 文脈に基づいて倒れずに,物にぶつからずに乗るという全体的. 動作に内在する意図と自律. な方向性は決まっている。それを実現するときに,積極的に動 く構えやバランス戦略にするか,あるいは安全安定を求めた動. “怖い,怖いといって固くなり動作ができない患者” , “筋力. かない構えやバランス戦略にするかが情動や無自覚で潜在的な. がつき,中殿筋歩行をしなくても歩けるようになったのに,運. 認知で決まってくる。戦略は決まっても戦術である具体的な手. 動療法室をでるとまた元の歩容に戻ってしまう患者”は少なく. 順や方法は状況や環境に応じて変化させることができる。動作. ない。因果関係がつかみにくく対応に難渋するが,そこに潜む. 開始時にすべてのやり方を決めて,それを命令し,実行してい. 最大の問題はできない,痛いなどと思いこむことにより自律的. るのではなく全体的な方向や戦略は決めているがやり方はやり. に自己保存の過剰な反応が出現し,動くことより安全安定が. ながら変えている。無自覚に決まったバランス戦略の中で戦術. 優位な基本動作の構えやバランス戦略に偏ってしまうためで. であるやり方は様々に変えていることを私たちはまったく意識. ある。. せずに行っている。. 1.基本動作とは 長崎の動作の意味論. 3.動作の解体 1). を参考にした。動作をするとき,た. 自転車に乗るという課題達成のために意図するのは自転車に. とえば自転車に乗る(複雑な動作あるいは行為という。高度な. 乗るということである。手足は動くのであり,意図して動かす. スキルが必要)とき乗る動作は自転車を跨ぎ,サドルに座って,. のではない。乗る動作ができるというときにはそこに含まれる. ペダルを漕ぎながらハンドルを操作するなどいくつかの下位動. 基本動作に必要な手足の運動パターンは基本動作に先導されて. 作に分解できる。複雑な動作を構成し,これ以上分解すると運. 無自覚に動くのである。基本動作に必要な筋の緊張や協調,バ. 動になってしまう動作は移動動作と粗大な操作である。移動動. ランスも当然基本動作に組みこまれて先導される。自律的に選. 作・粗大な操作を基本動作(誰にでもできる簡単なスキルで行. 択された構えやバランス戦略は,自分がそのような戦略を選択. える)と呼ぶ。複雑な動作はやろうと意図すれば下位の基本動. したことも,その戦略を使って基本動作を行っていることも. 作が自律的に立ち上がる。基本動作は運動が組み合わされて構. まったく自覚していないので基本動作の最中に意図的に戦略を. 成される。運動を組み合わせるとき,無自覚なうちに最適な構. 変えることはできない。. えやバランス戦略が組みこまれるので倒れたり不快になったり. 基本動作ができなくなるということは,このような通常行っ. しないで動作が行える。どのように組みこむか私たちはまった. ている運動パターンで無自覚な手足の運動ができなくなる,あ. く意識していない。運動をするには姿勢を維持したり変えたり. るいは限られた運動パターンでしか動けなくなることである。. する必要がある。姿勢の調整には筋緊張が重要であるが,いか. 意識して手足を動かすと,動作と違って手足の運動は局所的で. に緊張を整えるかも私たちはまったく意識していない。複雑な. あり,全身的なバランスは準備されない。そのため不安定にな り,自己保存の過剰な反応で全身が硬くなる。. *. Set and Balance-Strategy of Fundamental-Movement: Influence of Belief to Motor Learning ** 藤田保健衛生大学医療科学部リハビリテーション学科 客員教授 (〒 470–1192 愛知県豊明市沓掛町田楽ヶ窪 1–98) Masao Tomita, PT: Fujita Health University School of Health Sciences キーワード:基本動作,構え,潜在認知. 4.戦略まで変えられる治療的学習とは 無自覚に選択された構えやバランス戦略のもとで課題を練習 すれば,戦術を磨き,多様化したり,強く速く行えるようにな る。しかし,戦略まで変えることにはつながらない。戦略を変 えるには気持ちよく安心して動くことで自己保存の過剰な反応.

(2) 基本動作の構えやバランス戦略. 741. や過剰な防衛反応をなくす必要がある。. 的な迷路性の刺激に反応し頸部を過剰に伸展して頭部を枕に押. 動作を行う中で患者が自信をもち,やる気をだして情動や無. しつけてダイナミックな変化に適応できなくなる。そのため. 自覚で潜在的な認知で,動いても危険でないことに気づいて. に,わずかな姿勢変化で不安や恐怖を訴え過剰な防衛反応が出. “危険,痛い,できない”という思いこみをぬぐい去ることが. 現する。日頃から転がる動作を行う必要がある。. できたときにのみ基本動作は積極的に動く構えやバランス戦略. 3.内臓は未だに背臥位に適応できていない. で行えるようになる。治療という行為の最中に患者の情動まで. 背臥位を持続すると口呼吸,舌根沈下による睡眠時無呼吸,. 変える接触の仕方や声かけが重要なのである。. 下側肺症候群,腹部血管の内臓による圧迫で下肢の静脈血栓,. 行動を開始するとは. 腹圧がかけにくいため便秘,膀胱炎などの問題が起きやすい。 背中を下にした姿勢が引き起こす問題ですべてが腹臥位になる. 1.意思決定に先行する構え. だけで解決できる。. リーチするとき主動作筋である三角筋は手を伸ばすと意思決. 4.思いこみによるバランス戦略の固定化. 定したときに活動を開始する。本来,意思決定する前に筋は働. 腹臥位は難しい,車いすでは背もたれに寄りかかると安定す. く必要がないと考える。ところが意思決定に先行して体幹の一. るといった患者,セラピスト双方の思いこみが一致して過剰な. 部の筋が活動を開始する。動作を開始するという意志決定に先. 安定をつくるバランス戦略の選択に結びつき,運動の自由度が. 行する筋活動は「構え」と呼ばれ,バランス戦略に基づいて転. 低い姿勢を患者は習慣としてしまう。車いすで支持基底面の外. 倒転落せずに,リーチするという基本動作を可能にするための. 側後方に圧をかけて座る姿勢は,すべての姿勢で,支持面の外. 準備である。なにかをするとき“やるぞ”と意思決定して行動. 側後方に圧をかけてバランスを取るバランス戦略を強制的に学. を開始すると,それを支援するために構えが準備されると考え. 習させてしまうといわざるを得ない。車いすテーブルなどを利. てきた。実際は,やろうとするとき,身体が生きるのに不利に. 用して背もたれに寄りかからないで座位姿勢を維持できるよう. ならない文脈で無自覚に活動を開始し“このようなやり方でよ. に工夫,習慣にする必要がある。. ければ支援しますよ”と構えを準備する。その構えにしたがっ. 5.呼吸とリズム運動. て行動を開始しているということである。. 長期に背臥位をとっていると伸筋が優位となり,呼気が不十. 2.サブリミナルな刺激,情報での活動. 分な,浅くて早い呼吸になりやすい。努力性の吸気になるため. 快不快の定位反応には扁桃体が重要である。音を聞いたり見. に,頸部肩甲帯の筋緊張が高くなり,背部が浮いてしまう。背. て怖いと反応するのもまず扁桃体で,皮質では閾値に達しない. 部をベッドにつけるように調整し,ゆっくり長く息を吐くこと. 2) サブリミナルな刺激でも反応できる 。逃げるという身体反応. で筋緊張のバランスを整えることが重要である。緊張が抜けた. が怖いという感情に先行するというジェームス・ランゲ説の神. ところで,両腕を組み,左右に振りながら両下肢を交互に曲げ. 経学的な説明になると考える。拡大して解釈するとネガティブ. 伸ばしする。歩行様のリズム運動をすることで,活動性を高め,. な発想や取り組みはサブリミナルな変化で自己保存の過剰な反. 不動をつくらないようにする。このような運動は自己,あるい. 応を引き起こし身体に消極的,回避的な構えや戦略をとらせて. は家族の管理で習慣になるまで続ける必要がある。. しまう。林は身体機能(情動)から感情(記憶)を生みだし脳 機能(理性)と結びつける前頭前野─線条体─視床─ A10 モ. おわりに. ジュレータニューロン群─大脳辺縁系の連合をダイナミック・. セラピストのこうやればよくなるというマニュアル的な思い. センターコアと呼ぶことを提唱 3)し,ポジティブな発想が運動. こみを克服し,潜在認知を考慮して,基本動作ができなくなっ. 効果や運動学習の質を変えることを強調し,成果をあげている。. た患者へのアプローチは基本動作ができる患者や健常者の運動. よく見かける治療的な問題を感じる場面. 学習とはまったく違う点があることを認識しなければならな い。情動や潜在認知による構えやバランスの戦略を変えられる. 1.廃用症候群の予防. ようになったとき,行動変容を定着,保持できるアプローチに. 早期座位,早期離床は重要なことはいうまでもない。しかし,. 一歩近づけるのではないかと今後の展開に大きな期待を掛けて. 治療者の思いこみや期待が過剰になり姿勢が崩れてもさらに続. いる。. けると,患者は辛い,苦しいなどネガティブな感情を強く感じ て,反って諦めやうつ,過剰な防衛反応を引き起こす原因をつ くりだしてしまう。 2.背臥位が引き起こす問題 低反発の寝具の発達で背臥位で動くことが少なく,同じ肢位 をとる時間が長くなっている。背臥位で不動が持続すると持続. 文 献 1) 長崎 浩:動作の意味論.雲母書房,東京,2004,pp. 74–181. 2) 下條信輔:サブリミナル・インパクト.筑摩書房,東京,2008, pp. 10–239. 3) 林 成 之: 思 考 の 解 体 新 書. 産 経 新 聞 出 版, 東 京,2008,pp. 16–66..

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