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大学生がもつ性同一性障害(GID)への知識,当事者への印象と対応

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Academic year: 2021

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日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P2-66 428

-大学生がもつ性同一性障害(GID)への知識,当事者への印象と対応

○跡辺 灯1)、青木 俊太郎2)、関口 真有3)、本谷 亮3) 1 )北海道医療大学大学院心理科学研究科、 2 )福島県立医科大学医療人育成・支援センター、 3 )北海道医療大学心理科 学部 【問題と目的】 「性自認」と「身体の生物学的性」とが異なる状態 であり,性別違和感のため自分の身体の性を強く嫌 い,その反対の性に強く惹かれた心理状態が続くこと を性同一性障害(Gender Identity Disorder;以下, GID)という(中塚,2011)。 現在,性の多様性を巡って多くの活動(例:パート ナーシップ制度)が見られている(吉川,2016;柳沢 他,2015)が,人々の中にはいまだ性的マイノリティ への社会的スティグマが存在していると考えられる。 当事者のもつ社会的不適応や生きづらさは,人々がも つ社会的スティグマによるものが大きいことが分 かっており,これを消失させる,あるいは低減させる ことが出来れば当事者たちの抱えている問題を改善さ せ,より性に多様な社会が実現するのではないかと考 えられる。 スティグマの低減には,( 1 )権力者による制度の 確立と,( 2 )相手のことを適切に知り,( 3 )対等で, ( 4 )共通の目標に向けて協力し合う関係の中で接触 するという 4 つが重要であるとされている(Brown, 1995)。現在我が国はGIDを含めた性的マイノリティに 対して一定の社会的制度の支持が得られている状況に あり,諸外国と比較して日本の一般家庭間での貧困差 や経済格差が小さいと仮定すると,特に( 2 )と( 4 ) の 2 条件がスティグマを低減させる鍵になると推察さ れる。以上のことから,本研究では大学生がもってい るGIDに関する知識の有無や現在抱いている印象,出 会った時に自身が起こす行動等を調べ,彼らがもつ GIDへの社会的スティグマの傾向を明らかにすること を目的とした。 【方 法】 調査対象者 地方大学に所属する大学生を対象に調 査した。 調査材料 ( 1 )フェイスシート 協力者の年齢,性別,GIDとの接触経験の有無につ いて回答を求めた。 ( 2 )GIDに対しての知識を調べる正誤問題 西成他(2012)及び柳沢他(2015)を参考に作成し た合計10問の正誤問題を実施した。 ( 3 ) 日 本 語 訳 版Linkス テ ィ グ マ 尺 度( 下 津 他, 2015) 精神疾患者に対するスティグマを測定する12項目の 尺度を 4 件法( 1 :全くそう思わない, 2 :あまりそ う思わない, 3 :少しそう思う, 4 :非常にそう思う) で行った。 ( 4 )自由記述 GID当事者へ現在どのような印象をもっているか, また『家族』『友人』『仕事仲間』『店員』がGID当事者 であると知った場合にどのような感情を抱き,対応す るかについてそれぞれ回答を求めた。 統計解析 調査材料( 1 )〜( 3 )ではt 検定を行っ た。また,( 4 )の回答を用いて,臨床心理学に精通 している教員 1 名と大学院生 2 名の計 3 名でKJ法を 行った。 倫理的配慮 本研究は,北海道医療大学心理科学部 倫理委員会の承認を得て実施した。 【結 果】 回収したうち白紙を除外した147名(男性 42名,女 性 104名,不明 1名,平均年齢 19.89±2.07歳)を解 析の対象にした。GIDとの接触経験があるのは34名, 接触経験がないのは108名であった。 正誤問題の平均点は8.00±1.41点,接触有り群は 8.59±1.11点,接触無し群は7.88±1.45点であり,有 意差を認めた(t =3.00,p <.01)。一方,Linkスティ グマ尺度の平均は31.05±5.19点,接触有り群は31.97 ±6.34点,接触無し群は30.78±4.76点であり,両群 間に有意差は認められなかった(t =1.00,ns .)。 自由記述で収集された回答に関する小項目編成の結 果を設問ごとにまとめたものをTableに示した。当事 者に抱いている現在の印象では,接触有り群,接触無 し群の両群に共通して「無関心」という項目が最も回 答数の多いものとして見られた。「否定的」の項目は 接触無し群のみであった。 感情面では接触の有無に関わらず「受容」と「驚き」 が,対応面では「現状維持」の項目が共通していた。 また,接触無し群のみに感情面で「嫌悪」が,対応面 で「回避」が複数の対象で見られた。『家族』が当事 者だった場合,両群に「恥」の項目が,『友人』の場 合は感情面において接触有り群で「偏見」が見られた。 『仕事仲間』の場合接触無し群で感情面において「懸 念」,対応面で「妥協」という項目が見られた。『店員』 の場合は接触有り群において対応が「現状維持」のみ に集約された。

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日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P2-66 429 -【考 察】 接触有り群の正答率が接触無し群と比較して有意に 高かった理由として,当事者本人から話を聞いたり自 分で調べるなど一般の人よりも知る機会が多いことが 推測される。一方でスティグマは両群の間に有意差は なくどちらも下津他(2015)で平均的な集団の目安と されている点数と同水準であり,接触有り群ではス ティグマの低下を認められなかった。接触が十分な効 果をもたらすためには,Brown(1995)が挙げる接触及 び関係性を築く等の条件が必要であり,本研究対象で の接触有り群にはこの点が不十分だったと考えられ る。このような,共通の目的のために協力して何かを 成し遂げる関係のことを協同という。協同関係は『仕 事仲間』で見られた「懸念」と「妥協」にも関連して いると考えられ,今後は単なる接触経験だけでなくそ の接触の質も調査する必要があるだろう。 『現在の印象』については,「生きづらさ」「偏見が ない」「個性」といった理解を示す項目がある一方で 「無関心」の項目も見られた。人間は本来的に現状維 持を好み,変化に抵抗する心性を備えていると考える システム正当化理論(Jost et al, 2010)が提唱され ており,ここでの「無関心」はこの理論が働いている と捉えることが出来る。 また,接触無し群では「否定的」という項目や「嫌 悪」「回避」の感情や対応が見られることから,ある 程度のスティグマ感情に知識と接触が関連していると 考えられるが,実際の対応との間でギャップが生じて いるようにも感じる。これは精神疾患に対してあから さまなスティグマを示す回答は少ないが,実際に接す る際に戸惑いや不安を感じる者が多いという研究と同 様のことが起きているのではないかと見ることも出来 る(望月他,2008)。 『家族』の「恥」や『友人』の「偏見」の項目から, 当事者のことをよく知っていたとしても自分と近すぎ る人物では抵抗感が強くなることが明らかとなり,こ れは山本他(2012)と同様の結果であった。また「回 避」の項目から,これがカミングアウトを躊躇する, またはカミングアウト後に抑うつ等の不適応を起こす 要因の一つではないかと推察される。 『店員』の場合は友人や家族とは違い距離を置きや すく,あまり深い関わりをもつ必要が無い。そのた め,その場限りの付き合いから拒否感を抱かずに接せ られたのではないかと考えられる(山本他,2012)。 以上のことから,スティグマを低減させるには知識 や接触経験を単に増加させるだけでは不十分であり, 協同関係等のような意味のある接触をもつ必要性が示 唆された。また,今後は当事者との関係性の違いに よって抱きやすいスティグマが異なることにも着目 し,検討することも重要である。

参照

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