日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P1-46 212
-メタ認知的信念と接近的注意バイアスの関連
○南出 歩美1)、甲斐 圭太郎1)、富田 望2)、熊谷 真人3)、熊野 宏昭2) 1 )早稲田大学大学院人間科学研究科、 2 )早稲田大学人間科学学術院、 3 )合同会社カウンセリングルームさくら 【目的】 社交不安者には, 脅威刺激に対する注意の接近や回 避を表す注意バイアスがみられる。注意バイアスは 「注意の促進」「注意の転換の困難」「注意の回避」の 3 つのコンポーネントから成り, 注意の促進と注意の 転換の困難は脅威刺激に対する接近的注意バイアスで ある (Cisler & Koster, 2010)。両者は注意処理の様 式が異なるとされており, 前者は自動的処理である一 方で, 後者は統制的処理であるといった主張が広く支 持されている (Cisler & Koster, 2010)。しかし, 自 動的処理と統制的処理の境界は明らかでないことから (Cisler & Koster, 2010), 接近的注意バイアスに介入する際に, 意図や意識に焦点を当てることは難しい と考えられる。 注意バイアスへの介入を取り入れた心理療法の 1 つ にメタ認知療法 (Metacognitive therapy: MCT) があ る (Wells, 2009 熊野他監訳, 2012)。MCTでは, 接近 的注意バイアスは脅威刺激に注意を向けることの利点 や利益, または制御不能性などに関する誤った信念で あるメタ認知的信念の影響を受けて生じると考えられ ている (Wells, 2009 熊野他監訳, 2012)。メタ認知 的信念が注意の促進と注意の転換の困難の双方に影響 を及ぼす要因であれば, 接近的注意バイアスへの介入 方法としてメタ認知的信念の変容を促す技法を用いる ことが可能である。南出他 (2018) では, 質問紙尺度 とドット・プローブ課題を用いた実験パラダイムによ り, 接近的注意バイアスに対するメタ認知的信念と注 意の促進, および注意の転換の困難の関連が示されて いる。しかし, ドット・プローブ課題のような刺激へ の反応時間 (以下RTとする) をアウトカム指標とする 認知課題を用いる場合, 解析時にRTの除外基準を設け るが, その基準は研究者によって様々である。そこ で, 本研究では, 南出他 (2018) の解析時のRTの除外 基準を変更し, 接近的注意バイアスに対するメタ認知 的信念と注意の促進, および注意の転換の困難の関連 を再度検討することを目的とした。 【方法】 対象者 学生24名 (男性 7 名, 女性17名; 年齢 (平均±SD) 21.63±3.09歳)。 測定指標 ( 1 ) 注意の焦点づけに対するメタ認知的信念尺度 (MFAQ; Tomita & Kumano, 2016): 社交不安者におけ
る接近的注意バイアスに対するメタ認知的信念を測定 した。 ( 2 ) ドット・プローブ課題: 脅威刺激と中性刺激を 対呈示した後に, どちらか一方の刺激呈示位置に ドットを呈示し, ドット呈示位置を弁別することを求 めた。刺激材料には, 男女各 4 名の怒り顔画像と中性 顔画像を使用し, 刺激呈示時間を操作することで注意 の促進 (刺激呈示時間100ms) と注意の転換の困難 (刺激呈示時間500ms) を測定した。ドットが脅威刺激 呈示位置に出現する条件を一致条件, 中性刺激呈示位 置に出現する条件を不一致条件とし, 各課題条件試行 の平均RTの差異を注意バイアスとした。不一致条件試 行の平均RTと比較して, 一致条件試行の平均RTが短い 場合は接近的注意バイアスが生じており, 長い場合は 回避的注意バイアスが生じていることを意味してい る。本研究では, 不一致条件試行の平均RTよりも一致 条件試行の平均RTが短くなることを想定した。なお, 課題デザインは O ’Toole & Dennis (2012) を参考に 作成した。 倫理的配慮 早稲田大学における「人を対象とする研究に関する 倫理委員会」の承認を得て行われた。 解析手続き 守谷・丹野 (2007) を参考に, 各対象者においてRT が平均RT±3SD以上に相当する試行を分析対象から除 外した。MFAQ得点の中央値で, 対象者を接近的注意バ イアスに対するメタ認知的信念高低群 (以下メタ認知 的信念高低群とする) に群分けした。ドット・プ ローブ課題の平均RTについて, 群と課題条件を要因と する 2 要因分散分析を行った。 【結果】 注意の促進について, 群の主効果と交互作用は有意 でなく (F (1, 22)= 0.02; F (1, 22)= 2.49, each n.s. ), 課題条件の主効果は有意傾向であった (F (1, 22)= 3.06, p <.10)。交互作用は有意でなかった が, 探索的検討として単純主効果検定を行ったとこ ろ, メタ認知的信念高群における課題条件の単純主効 果 が 有 意 で あ っ た (F (1, 22)= 6.04, p <.05) (Figure 1)。 注意の転換の困難について, 群と課題条件の主効 果, および交互作用は有意でなかった (F (1, 22)= 0.00; F (1, 22)= 2.53; F (1, 22)= 0.80, each n.s. )。交互作用は有意でなかったが, 探索的検討と
日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P1-46 213 -して単純主効果検定を行ったところ, メタ認知的信念 高群における課題条件の単純主効果が有意傾向で あった (F (1, 22)= 3.38, p <.10) (Figure 2)。 【考察】 注意の促進について, 2要因分散分析の結果, 交互 作用は有意でなかった。探索的に単純主効果検定を 行った結果, メタ認知的信念高群では不一致条件試行 の平均RTよりも一致条件試行の平均RTが有意に短く, メタ認知的信念低群では両者に有意差はないことが示 された。このことから, 接近的注意バイアスに対する メタ認知的信念が高い者は中性顔よりも怒り顔に鋭敏 であり, それらを探索する傾向にある可能性が示唆さ れた。注意の促進は刺激入力時点から短い時間で生じ る現象であることから, 社交不安者は社交場面におけ る脅威刺激に対して常に注意を張り巡らせる傾向にあ ると考えられる。 注意の転換の困難について, 2要因分散分析の結 果, 交互作用は有意でなかった。探索的に単純主効果 検定を行った結果, メタ認知的信念高群では不一致条 件試行の平均RTよりも一致条件試行の平均RTが短い傾 向にあり, メタ認知的信念低群では両者に有意差はな いことが示された。このことから, 接近的注意バイア スに対するメタ認知的信念が高い者は中性顔よりも怒 り顔を見続ける傾向にある可能性が示唆された。注意 の転換の困難は刺激入力時点から比較的長い時間で生 じる現象であることから, 社交不安者は社交場面にお いて脅威刺激を一度見つけると, 方略的にそれらを見 続ける傾向にあると考えられる。 本研究の結果, 接近的注意バイアスに対するメタ認 知的信念は注意の促進, 注意の転換の困難を生じさせ ている可能性はあるが, 主要な問題ではないと考えら れる。今後は, 従前より注意バイアスとの関連が指摘 されている状態不安や特性不安, 注意制御機能と いった他の要因による影響を考慮した上で, 本研究の 結果を再検討する必要がある。