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Journal of Life Cycle Assessment, Japan 特集 シナリオ分析とLCA 総 説 Review Article LCA とシナリオ分析 福島 康裕 1, Life Cycle Assessment and Scenario Analysis Yasuhiro FUK

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1. はじめに  2007年、気候変動に関する政府間パネル (Intergovern-mental Panel on Climate Change, IPCC)とアル・ゴア元 アメリカ副大統領が温暖化と気候変動への取り組みによっ てノーベル平和賞を受賞した。彼らが気候変動に関する警 鐘を鳴らし世界規模での行動を促すのに用いたのは、シナ リオの分析とその結果の効果的な提示であった。さまざま な分野の科学者たちの膨大な研究成果を結集したモデルが 開発され、シナリオの分析や描出に用いられた1)。  実はシナリオ分析はそれまでにも計画・戦略策定の場で 活用されてきた。例えば石油危機の時代までさかのぼると、 ロイヤルダッチシェルがシナリオ分析を経営戦略の策定に 用いており、経営上のさまざまな「不確定要素」を元にシ ナリオが生成され、分析が行われていた2)。そのおかげで 石油危機が到来したときにいち早くそれまでの生産能力拡 大路線からアップグレーディング路線への変更を決定する ことができ、結果としてダメージを最小限にとどめ、競合 他社の引き離しに成功したといわれている。  以上のようにシナリオ分析は、要素数や要素間の関係の 数が多く不確実性と複雑性が高いシステムの分析結果を解 釈へとつなげ、さらにはわかりやすく描出し、最終的には 行動へとつなげるのに有効なシステム分析ツールおよびコ ミュニケーションツールとして用いられている。  シナリオをシステムの分析やコミュニケーションに利用 する場合に単なる予測・予報と異なるのは複数の「シナリ オ」が提示される点であろう。正確な予測をすること自体 よりも、起こりうる未来の状態およびそこへの道筋を全て (あるいはそのなかの典型例を複数)描出することで現在 の意思決定をよりよいものにしてゆこう、というのがこの 分析方法をとる場合の基本的な態度となっている。環境シ ステムも相当に複雑な系であり、その分析ツールとしてシ ナリオ分析は有効である。  LCAでもその意思決定への応用が進むにつれて、シナ リオという用語を頻繁に耳にするようになってきた。例え ばScopusでの論文検索で「LCA」「Scenario」というキー ワードで検索すると年々論文数が増えている事がわかる (図1)。LCAが個々の製品のライフサイクルの分析からシ ステム解析ツールおよびコミュニケーションツールとして 1 國立成功大學/台灣台南市大學路一號 1 National Cheng Kung University / Taiwan No.1 University Road, Tainan City, Taiwan *連絡先(Corresponding author), [email protected]

特集「シナリオ分析とLCA」

LCAとシナリオ分析

福島 康裕1,*

Life Cycle Assessment and Scenario Analysis

Yasuhiro FUKUSHIMA1,*

総 説(Review Article)

Synopsis:

Objective. The objective of this review article is to understand the current status of the development of scenario analysis methodologies applying LCA, and scenario-based LCA.

Results and Discussion. Scenario analysis is increasingly utilized in LCA related studies. This echoes need of introducing life cycle thinking in a wider dimension of decisions that require participation of multiple stakeholders. Scenario analysis naturally deals with future situations, and introduces time dimensions in the analysis. Thus, both inventory and impact assessment stages require enhancements. In this article, the status quo of such discussions is reviewed. In addition, use of life cycle thinking to generate scenarios in scenario analyses for technology innovation is introduced to demonstrate the wider potential of LCA in non-LCA studies. Conclusions. The review shows several new directions in the research needs in the field of Scenario-based Life Cycle Assessment. Keywords: Attributional LCA; consequential LCA; scenario analysis

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さらに数歩、応用範囲が広がってきている、その証拠の一 端と捉えることができるだろう。しかし、研究例が増えた 分、個々の場面でシナリオという用語が指す意味が非常に 多様になってきており整理が必要である。そこで本稿では、 シナリオ分析のLCAでの用いられ方と、ライフサイクル 思考のシナリオ分析での応用パターンについて概観し、さ らにはLCAをシナリオ分析に応用する際の手法上の注意 点を述べることとする。 2. LCAにおけるシナリオ分析  シナリオという用語は「仮定のセット」という意味で用 いられることが多い。単なる組み合わせに近い場合は 「ケース」を用い、より現実的かつ実行可能な組み合わせ のみを「シナリオ」と呼んで区別する場合もある。  突然だが私はレストランで個々のメニューを自分で組み 合わせるのは面倒だし、加減がわからず頼みすぎたり足り なかったりするので苦手である。かといって、セットメ ニューの中からひとつを選ぶだけというのも味気なく感じ る。そんな私のような人間ばかりでもないとは思うが、似 たような感覚をお持ちの方も多いのではないだろうか。そ んな私がちょうどよく感じるのは、セットで値段は決まっ ているが、中身はいくつかの選択肢の中から自由に選べる ような方式である。たとえば、前菜は5種類、メインが3 種類、デザートが4種類ありその日の気分や好みで好きな ものを選ぶことができるようなあれである。私たちが選ぶ ことのできるのは複数ありうる5×3×4通りの組み合わせ のうちひとつである。これならば何度このレストランに 行っても飽きることはないし、頼みすぎる心配もない。そ のときの食欲や気分にあわせて選ぶ楽しみも残されている。  LCAを実施する際には、後で述べるようなさまざまな 場面で仮定をおく必要が出てくる。適切な仮定をひとつお くことでずばり結果を出すことができることもあれば、複 数の仮定の下で計算を行い、結果を比較・検証することが 必要になることも多い。この「複数の仮定」が単に個別の メニューの羅列ではなく、先述のメニューの例のように構 造がはっきりしていれば、そこからあるときは無作為に、 またあるときには文脈を持たせて仮定が組み合わされて多 くのシナリオが生成される。このシナリオに基づいて評価 範囲や機能単位を定義し、インパクトカテゴリとその特性 化手法を選択できるようになる。  そこで本章では、まずLCAでシナリオが用いられる場 合どのような仮定の組み合わせとして用いられているのか を解説する。仮定は以下に述べるようにインベントリモデ ルに関するもの、影響評価モデルに関するもの、そして製 品の使用量に関するものの3通りへの分類を試みた。この 整理の方法は本誌にて筆者が2009年に提案して用いたが、 最近の文献3)でも同様の整理が用いられている。 2.1 インベントリモデルに関する仮定  ある製品について「ゆりかごから墓場まで」の評価を環 境影響の観点から実行するのがLCAであるが、製品の一 生はわれわれLCAの実施者が努力すれば必ず明らかにで きるというわけではない。製品の一生はLCIを実施すると きにインベントリモデルとして表現されるが、このモデル が一意に定めらないことがある。例として製品のライフサ イクルのうち、使用後の段階に着目してみよう。  ある製品のLCAを実施するときにその製品が使用後に どのように処理(リサイクル、焼却、埋め立てなど)され るかを確定することができない場合がある。これは具体的 には異なる国や地域で処理方法が異なる、製品寿命が長い ため将来廃棄される時点での処理方法がまだ確定できず複 数の方法が想定される、というような場合である。このよ うな場合には実現しうる複数の製品ライフサイクルについ てインベントリ分析が行われる。つまり、LCAでは製品 がたどる(たどった)可能性のある生涯がシナリオと呼ば れることがあるのである。たとえば中谷らはPETボトル の再資源化方法についてマテリアルリサイクル、ケミカル リサイクル、焼却などの方法を、再利用先として短繊維、 長繊維、ボトルなどを、そして再資源化および再利用の場 所について日本と中国をシナリオを構成する要素として想 定し、それらの組み合わせについて温暖化ガスの排出削減 量評価を行っている4)。このような廃棄段階の例では、“廃 棄シナリオ(End-of-life scenario)”という言葉が用いら れる。同様に利用シナリオ、再利用シナリオ、製造シナリ オなどが考慮されることもあるし、さらにはこれらの組み 合わせが用いられることもある。  また、LCIで構築するインベントリモデルの「構造」が 変化しなくても、各プロセスの「原単位」が変化すること で異なる製品ライフサイクルが実現される。技術のブレー 図 1 Scopusにおいてキーワード「LCA」と「Scenario」で検索され た論文数の推移。2014年のデータは4月30日時点での結果。最近 は 5年毎に倍になっている。

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クスルーがおきて製造におけるエネルギー消費量が少なく なった、買い替えが進むことでより利用時に省資源な製品 が普及した、といった場合が考えられる。そこで原単位が 依存する変数、あるいは原単位そのものの変化のしかたに ついて複数の仮定をおき、これをシナリオ要素とすること もできる。  このタイプの解析を行う目的には、どのシナリオ要素の 組み合わせがより環境影響が低くなるかを評価すること、 そして各プロセスの原単位に影響のある変数がさまざまな シナリオにどのような影響があるのかを評価することの二 通りがありうる。  インベントリモデルに構造の変化があるような仮定でも、 とりうるすべてのインベントリモデルを内包したようなモ デル(superstructure modelと呼ばれる)として表現すれ ばすべてのシナリオが変数の変化として表現できるように なる。このような方法を用いて、シナリオを目的に応じて 抽出することができる。たとえば、環境負荷最小化などの 目的に合致したシナリオをインベントリモデルの構造に関 する変数を設計変数とした最適化問題を解くことによって 生成するというアプローチも用いられる。あらかじめシナ リオを想定するのではなくシナリオをある方針で生成する 点が上記で述べたシナリオ分析と異なる点である。これを 水処理シナリオの抽出に適用した例を紹介しよう。原水の 使用量と処理容量が最小になるようなインベントリモデル がHuang5)やLim6)らによって発表されている。同様の アプローチはリサイクルのシナリオ抽出などへの応用も考 えられるし、水処理やリサイクルといった製品ライフサイ クルを構成する一部だけではなく、その全体の最適化へも 適用できるだろう。ただし、最適化されたシナリオ自体に 意味があるだけでなく、制約条件や、各変数の感度により 大きな意味がある場合も多いため、その結果の解釈には注 意が必要である。 2.2 インパクト評価モデルの変化に関する仮定  理論上は、インパクト評価モデルについてもシナリオ解 析を行うことは可能であり、意義も大きいと筆者は考えて いる。これは、LIMEなど多くのインパクト評価モデルで は汚染物質のバックグラウンド濃度や資源埋蔵量などの変 数が用いられており、LCAを行う際には複数の想定を適用 することが合理的な場合があるからである。例えば同じ量 の温暖化ガスの排出でも、30年後にはさらに温暖化が進ん でおり現在同じ量を排出するのとは異なる影響が生じる可 能性がある。理論上は、と書いたのは実際にこれを行うこ とは現状では非常に困難だからである。これは統合化影響 評価モデルは多くのLCA実行者にとってはモデルそのも のではなくモデルを用いた計算結果のデータベースであり、 1) バックグラウンド濃度やその他の前提条件について 自分で仮定をおきなおして計算できるようになって いない 2) そのような修正を矛盾なく行うことができるような 分類や構造化がなされていない という事情がある。  モデルを用いた計算結果だけではなくモデル自体が修正 可能な形で公開されるようになれば、この分野の研究はさ らに有用なツールへと進化できるようになる。たとえば、 Arbaultら7)は生態系サービスを評価するためのシステム 動態モデルを発表しており、インパクト評価においてもシ ナリオ評価から生成された時間に依存して発生する環境負 荷に対応するための道筋がつき始めている。また、Bright ら8)は土地利用(森林管理)がアルベドや炭素循環に及 ぼす影響を考慮した温暖化インパクトに関するモデルを提 唱し、シナリオに応じて適用されるべきこのような補正の 有無が、無視できない程度の結果の違いを生むと主張して いる。このように、インパクト評価手法の研究の方向性と して、他のインパクト項目についてもシナリオ分析に応用 されることを前提としたモデルの開発とその検証、そして ツール化がある事は間違いないだろう。  より簡便なインパクト評価方法として、Distance-to-Target(DtT)法やCritical volume approachなどがある。 前者は規制値や排出削減目標値に対してどれだけの環境影 響が生じたか、後者は排出された汚染物質を規制濃度まで 薄めるために必要な体積はどれだけになるのか、という指 標を用いて影響評価を行う手法である。これらの方法を用 いるのであれば規制値や目標値の将来の変化を仮定しシナ リオ要素とすることでシナリオ分析に組み込むことができ そうである。たとえば日本では車の排ガス規制などは何年 も先まで決まっているので、このような方法でシナリオ要 素を加える方法は実行しやすいと思われる。しかし、これ までにそのようなシナリオ評価が実行された例は見当たら ない。 2.3 機能単位の変化に関する仮定  従来型のLCAではある製品のライフサイクルを評価対 象範囲とし、その範囲からの製品単位量あたりの環境影響 が評価結果となる。そのようなLCAの結果を応用して製 品の消費量が変化した場合の影響の評価を行うことがで きる。  近年とくに日本とヨーロッパで持続可能な消費に関する 研究発表が増加している。このうちライフスタイルの変化 シナリオの評価などは複数の製品LCAの結果を応用しそ れらの製品の各ライフスタイルにおける消費量の変化を分 析するということになるため、機能単位の変化に関する仮

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定に分類できる。また、単一の製品について分析する際で も、製品の消費量の推移を仮定としてシナリオの要素に組 み込むことができる。 3. シナリオ分析におけるライフサイクル思考  LCAの基礎概念であるライフサイクルの視点は製品ラ イフサイクルのさまざまな段階で発生する環境負荷項目を 見逃さないようにするのに有効である。第2章ではLCA におけるシナリオ分析について述べたが、逆にLCAを用 いたシナリオ分析も可能である。  Fukushimaら9, 10)は2003年に固体酸化物型燃料電池と ガスタービンの複合発電システムの導入シナリオの分析を 行った。複数の燃料と発電方式が組み合わされて電力が供 給される日本の既存システムにどの程度燃料電池が導入さ れていくのか、またどのような技術のブレークスルーが導 入に影響を及ぼし、そのとき淘汰される既存あるいは競合 新技術はなにかということを、シナリオ分析を用いて議論 した。  まず図2に示したような、将来にわたる変換効率の向上、 コストの低下に加えて一人当たり電力消費量の推移、人口 の推移、燃料価格の推移、原子力発電の建設量などの項目 に関する推移を専門家の意見に基づき、シナリオ要素とし て複数想定した。この際に、さまざまな専門家のだれもが 「自分はこのシナリオ(要素)に完全には同意しないが、 こういうシナリオ要素が想定されたことは理解できる」と いうレベルのシナリオ要素群が想定されていることが重要 である。  次に50年間の需要の変化に対応して発電所が建設され さまざまな燃料を用いて運転されるときに、電力会社が 2000年からの50年間のコスト最小化という立場で運転と 建設を進めた場合、燃料電池の導入量に影響力のある重要 な要素は何かということを評価した。具体的には、まず上 記のようなシナリオ要素の組み合わせを条件とし、発電所 の建設量と運転方法を設計変数としてコスト最小の目的で 最適化計算を行うことで、シナリオを決定した。つまり、 おのおののシナリオはその前提となる条件の組み合わせの 下では、コスト最小となっているわけである。このように シナリオを生成した上で、各シナリオ要素が燃料電池の導 入量や他の発電設備の建設量などに与える影響を評価した。 このとき生成し、比較に用いたシナリオの数は3,000以上 に達した。一例として、図3に参照シナリオ(最も標準的 なシナリオ要素を組み合わせて得たシナリオ)における発 電容量の推移を示す。  この際ライフサイクルの視点を取ることで見出された重 要な変数のひとつが、電極に用いられるランタン(La) という物質の供給である。その多くが中国から輸入されて いるが、この物質の供給量の成長の度合いを制約条件の一 つに加えるかどうかで燃料電池の導入量が異なった。例え ば図3の参照シナリオで燃料電池複合システム(SOFC/ GT)の導入量が少ないのはこの制約によるものであるこ とがわかった。Laの供給は導入に影響しうる重要な変数 であったということがいえる。こうして得られた知見を元 に、Laのリサイクルが行われた場合、電極構造の変更が 行われLa消費量が減少した場合、という仮定が図2に示 したシナリオの要素に追加された。単純に効率やコスト、 その他の技術的用件だけでシナリオ分析を行うのではなく、 製品の製造(= 発電)に係る設備のための資源の供給の潜 在的問題を発見し、その利用可能量を増やすためのシナリ オ要素を評価に含めることができたのは、ライフサイクル 思考を適用したおかげであると考えている。  この研究では、さらにシナリオ要素のシナリオ全体への 影響を詳細に解析している。その一例として円筒型の電極 構造から、平面型の電極構造への移行という技術上のブ レークスルーが達成された場合の分析結果の一部が図4で ある。2030年にこのブレークスルーがおきることを想定 すると、日本にとって有限な資源であるLaを最大限に活 用するため、そのときまでSOFC/GTの導入は控えられる。 また、参照シナリオと比較するとLNGガス複合サイクル (GCC)の導入が低く抑えられ、発電容量不足分はSOFC/ GTによって置き換えられるまでは既存の石油火力(Oil) でまかなう、というのが見て取れる。より詳しくは論文を ご参照いただきたいが、このようにシナリオ評価はそのシ ナリオ自体だけでなく、技術の発展というシナリオ要素の +-Technology scenario options

| |

| +- SOFC Tech. related | | |

| | +- Lifetime of SOFC module (3) | | |

| | +- Reduction in La intensity (2) | | |

| | +- La recycling (2) | | |

| | +- Energy conv. efficiency (3) | |

| +- Other tech. related | |

| +- Installed cap. of NaS battery (3) |

+- Social scenario options | |

| +- Overall power demand (3) |

+- Economic scenario options | |

| +- Fuel cost projections (2) |

+- Political Scenario options |

+- Advanced La reserve policy (2) |

+- Nuclear power policy (3)

図 2 燃料電池複合システム導入シナリオ要素の分類10)。これら

の要素を組み合わせた状況におけるコスト最小化問題を解いて、 2000-2050における、各発電設備の導入量とその運転方法を決定 した。

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評価にも用いられる。また、そこでライフサイクルの視点 がシナリオ要素の発見につながることがあることがお分か りいただけるのではないかと思う。 4. 製品 LCAとシナリオ分析型 LCAの相違点  2章で述べたような、シナリオ分析をLCAに応用する手 法をシナリオ分析型LCA (Scenario-based LCA)と本稿 では呼ぶことにする。先にも述べたように、ひとつの結果 に絞らず複数のシナリオを解析するのがシナリオ分析なの で、シナリオ分析型LCAではさまざまな形での結果の比 較が行われる。間違った比較結果は直接間違った意思決 定・コミュニケーションへとつながってしまうため、この ような分析を行うときには特に注意が必要である。特に、 シナリオ分析をLCAで行うときにはシナリオの中で「現 状の」ではなく「これから実現する」製品システムについ ての解析が必要となることが多い。このような場合に特に 注意すべき点として、LCAの二つのアプローチの違いを 紹介する。  従来型の製品LCAでは、結果は製品の属性値(attribute) になると捉えることができる。このような計算のアプロー チはAttributional LCAと呼ばれている。例えば、カーボン フットプリントはまさに、製品にその製品の「製造時に発 生する温暖化ガスの排出量」という新しい属性を加えて、 カロリー、成分、製造年月日など他の属性値と同等に表示 をするわけである。ここで属性化されるのは、製品を製造 することですでに発生した、あるいは発生することが決まっ 図 3 参照シナリオにおける各発電方式の発電容量9) 図4 SOFCセル技術革新シナリオの電源供給システムへの影響10)。棒グラフは左が参照シナリオ、右が革新シナリオのコスト(左軸)。 折れ線は中抜きが参照シナリオ、中塗りが革新シナリオにおける導入量(右軸)。他の発電方式の導入容量は注目している技術革新に よって導入量が変化しない。 [109 /year] Oil Coal SOFC/GT GCC

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ている環境影響、あるいはそこから得られた知見となる。 こ の ア プ ロ ー チ は 製 品 が 実 際 に 用 い ら れ て か ら(in retrospect)そのデータを用いて行われるためRetrospective LCAとも呼ばれることもある。  実はAttributional LCAは、それだけでは直接には意味 のある結果とならない。得られた結果から製品のライフサ イクルに伴って発生する環境影響の構造が理解された後に、 まず改善案が生成され、それらの案が採用された場合の改 善効果を定量化することで、初めて環境影響の低減につな がるからである。したがって、Attributional LCAで得ら れた結果を元にどのように改善案を生成するのか、またそ れらの改善案を採用した場合の効果をいかに評価するのか ということが重要である。このように、今後おきる変化に よる環境影響の変化を求めるアプローチはConsequential LCA、あるいはChange-oriented LCA, Prospective LCA などと呼ばれている。  Consequential LCAを実行する際には、Attributionalな アプローチを採用する場合とは用いるべきデータに違いが 生じるため注意を要する。特に以下のようなパターンが当 てはまる場合はバックグラウンドデータの精査が必要だろ う。これで全て網羅されているというわけではないかもし れないが、筆者が認識している限りに於いては以下のよう なパターンがある。 (1)ひとつの製品が環境影響量の異なる複数の製造方法で 作られている場合  バックグラウンドデータとして提供されているのが、環 境影響量の異なる複数の方法で製造される際のインベント リの重み付け平均値であるような場合は、その製品の使用 量が増加あるいは減少したことによる結果(consequence) は、現時点での属性値でしかないAttributional LCAによ る値と異なってくる。これは使用量の増減は、現時点の製 造方法が重み付けされたそのままの割合で対応するわけで はないからである。例として夏場と冬場の電力について考 察してみよう。日本でも台湾でも、冬場の電力のほうが需 要ピークが小さく火力発電の割合が少ないため1kWhあた りの排出原単位は小さくなる。しかし、太陽光発電や節電 などによって削減できる量は、1kWhあたりで冬場のほう が少ないとはいえない。これは、実際に削減されるのは負 荷曲線が変わることで結果として削減されるであろう発電 所の運転による排出であり、これは需要削減シナリオに よってことなった結果となる。台湾の計算結果では、太陽 電池の導入による「削減原単位」は導入量に対して非線形 に変化し、1kWhあたりでは夏場より大きくなる場合も あった11)。 (2)注目する製品が共に生産される他の製品の製造と切り 離せない場合  あるプロセスが共に重要な製品を複数生産している場合、 そのうち一部の製品の使用量の増減は上流プロセスからの 排出量削減にそのまま波及するとは限らない。たとえば、 複製品のうち片方の製品の使用量が減少するようなシナリ オの結果を鉄の生産を例として仮想してみよう。  鉄の使用量が減少しても、同時に生産されるコークス炉 および高炉から得られる燃料ガスの燃焼によって得ていた 蒸気と電力は付近の工業地域に供給しているため減らすこ とができないという場合が実際に想定される。このような 場合、鉄の減産にともなって得られる燃料ガスが減少した 分については、天然ガスなどで補って電気と蒸気を供給す る必要が出てくる。このような場合、削減される温暖化ガ スの算定は、単純に以前のLCAの結果(例:kg-CO2 -equiv. / ton-steel)に削減量(例:ton-steel)をかけ合わ せたものではなく、きちんと削減によってライフサイクル 全体で誘起された結果を計算に含めなくては正しい削減量 を算出できない。  製鉄プロセスは蒸気や電力だけでなく、将来水素を燃料 として積極的に用いる場合にはその供給源として期待され ているため、そのような状況の下では鉄の使用量の変化の 評価はさらに単純には行かなくなる。また、同様の例は、 石油製品、化学物質(NaOHとCl2)、電力と蒸気などでも 発生しうるため注意を要する。 (3)もたらされる変化が非線形な場合  使用量によって分析対象製品の原単位に変化が現れてく るような場合は、Attributional LCAの結果をそのままバッ クグラウンドデータとして用いることはできないことがあ る。例えば、製造・輸送設備の容量拡張の必要性が生じる 場合、規模の拡大による省エネ効果が大きな場合、バッチ 輸送が行われる場合などがある。  シナリオ分析型LCAではAttributional, Consequential どちらの方式も採用しうる。すでにある製品のライフサイ クルが何通りか存在し、ひとつに確定できないために感度 解析的にシナリオ分析が採用される場合はAttributionalな アプローチで計算をすればよい。しかし、やはりシナリオ 分析型LCAでは多くの場合でConsequentialなアプローチ が 必 要 に な る だ ろ う。 た と え ば、Plevinら12)は Attributional LCAによってのみ温暖化排出削減シナリオ の評価を行うと政策決定者に誤解を招く恐れが有ると警告 している。想定する変化の及ぼす結果(consequences)を 想定することが必要になるが、そのために用いる事の出来 るツールやその仕様に関する知見はまだまだ限られている。 現実的に適用されているものとしては経済原理に基づきコ

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ストの最小化を原則としてconsequenceを導きだすもの11) 以外には部分均衡モデル13)などを用いたものがある14) があまり一般的とはいえない。単純な均衡やコスト最小化 という原則にどの程度現実的な制約条件(生産能力、共生 産品の需要など)を加えるかがconsequential modelingの 一つの方向性となっている。  少なくとも現時点では、全ての原単位データや使用量の データについてConsequentialなアプローチで計算された も の を 用 い る こ と は 現 実 的 で は な い。 し た が っ て、 Attributionalなアプローチでシナリオ分析を行い、シナ リオの比較結果に対して感度解析を行って結果の感度が高 い変数について、上記にあげたような3つの観点からデー タと分析範囲の精査を行うという手順が現実的であろう。 例えばColletら3)も感度解析によって時間依存性を考慮 する項目を洗い出すための枠組みを提案している。 5. 結言  本稿では、非常に包括的で強力な分析ツールであり、コ ミュニケーションツールでもあるシナリオ分析とLCAに 関連する考え方、手法と課題の整理を試みた。比較のため のLCA, シナリオを構成するさまざまな仮定を検証する方 法、仮定間の関係の検証(矛盾の排除)などは、まだまだ 手法の発展が不十分である。例えば、筆者は本総説中にて インベントリに関するシナリオとインパクト評価に関する シナリオというように分類を行ったが、これらのシナリオ が独立に設定できる保証はない。ある仮定が同時に両方の 仮定に影響を及ぼすこともあり得るときに、いかにシナリ オを矛盾なく構造化するかについては、さらなる研究の必 要性が大きい。関連する文献としてシナリオの作成方法や 一般によく知られているシナリオの例などの現状が水野 ら15)による総説で議論されているが、理論的にも、また 実用上のツールとしてもまだまだ発展の余地のある分野で あるといえる。また、分析を超えて、シナリオを利用して いかにステークホルダー間で将来のビジョンを共有し、社 会を持続可能な状態へと動かしてゆくのか、という実用に 供するための手法についても方法論の議論と適用事例の両 方が必要である。  なお、本稿は筆者が以前本誌のLCA講座「LCAを支え る理論と手法」にて発表した文章16)を元に、のちの研究 事例や学会での討論、文献などをふまえて加筆、調整した ものである。この2009年の拙筆16)以来、多くの研究の発 展があったが、おおむねその方向性は当時既に押さえられ ていたように思う。 (平成26年5月7日受付) 参照文献 1) Intergovernmental Panel on Climate Change (IPCC) (2007): Climate Change 2007: Synthesis Report of the Fourth Assessment Report, IPCC, Geneva, Switzerland, 104pp. 2) キース・ヴァン・デル・ハイデン (1998):シナリオ プランニング 戦略的思考と意思決定, ダイヤモンド 社, 東京, 312pp. 3) Collet P., Lardon L., Steyer J.-P., Helias A. (2014): Int J Life Cycle Assess, 19, 320-330 4) 中谷隼, 藤井実, 森口祐一, 平尾雅彦 (2008):日本LCA 学会誌, 4(4), 324-333 5) Huang C., Chang C.T., Ling H., Chang C.C. (1999): Ind Chem Eng Res, 38, 2666-2679 6) Lim S.R., Park J.M. (2009): J Environ Manage, 90, 1454-1462 7) Arbault D., Riviere M., Rugani B., Benetto E., Tiruta-Barna L. (2014): Sci Tot Environ, 472, 262-272 8) Bright R. M., Cherubini F., Stromman A. H. (2012): Environ Impact Assess, 37, 2-11 9) Fukushima Y., Shimada M., Kraines S., Hirao M., Koyama M. (2004): J Power Sources, 131(1-2), 327-339 10) 福島康裕 (2004):ケミカルエンジニヤリング, 49(4), 249-254 11) Kuo Y.-M., Fukushima Y. (2009): J. AWMA, 59(3), 360-372 12) Plevin R.J., Delucchi M.A., Creutzig F. (2013): J Ind Ecol, 18(1), 73-83 13) Earles J. M., Halog A., Ince P., Skog K. (2013): J Ind Ecol, 17(3), 375-384 14) Earles J. M., Halog A. (2011): Int J Life Cycle Assess, 16(5), 445-453 15) 水野有智, 梅田靖 (2013):日本LCA学会誌, 9(4), 324-331 16) 福島康裕 (2009):日本LCA学会誌, 5(2), 286-291

図 2 燃料電池複合システム導入シナリオ要素の分類 10) 。これら の要素を組み合わせた状況におけるコスト最小化問題を解いて、

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