タイ文化圏の農耕文化
―ラオス北部の稲作を中心に―
園江 満
タイ文化圏とは?
東南アジア大陸山地部に存在したタイ系民族 Tay による盆地連合国家群は、現在国民国家とし てのタイランド注 1)、ビルマ(ミャンマー)、ヴェ トナム、ラオス、インド・アッサム州、中国雲南 省にそれぞれ帰属しているが、今日なお「多言語、 多民族であって、一つの大伝統に支配されるので はなく、さまざまな文化要素を持ちながら、それ らを有機的に結びつけている何らかのシステムが 存在する一つの複合文化交流圏」4)という性格を 持った地域として捉えることが可能であり、これ を「タイ文化圏 Tay Cultural Area」注 2)と呼んでいる(図 1)。 タイ文化圏における言語・歴史・物質文化につ いては、これまでにこの概念を提唱した東京外国 語大学アジア・アフリカ言語文化研究所の新谷ら が、多角的に論じている1,3,4)が、本稿では、物質 文化の中でも農耕文化について稲作に関する生産 工具と技術を中心に、ラオス北部およびその周辺 の地域が、タイ系民族を中心とした多民族間の文 化的交流を不断に繰り返しながらも、確かにタイ 文化圏として一つのまとまりを成しており、水田 稲作に代表されるタイ系民族の生活基盤としての 生産にかかわる文化的伝統も、実は、この中で醸 成されたものである可能性を紹介する。
東京大学総合研究博物館 / 東京農業大学国際食料情報学部
中国西南部から東南アジア大陸山地部にかけての山間盆地には、かつて盆地連合国家群が存在して いた。この地域の社会は、今日もなお国民国家の国境を超えて、タイ系言語をリンガフランカとしな がらも多言語・多民族構造をもった複合文化交流圏としての緩やかなつながりを維持している。 筆者は、これまでにも稲作を中心とした農業にかかわる道具と技術の考察から、ラオス北部と中部 以南ではさまざまな相違点があることを指摘してきた1~3)が、本稿では、この周辺地域の広がりを捉える概念としての「タイ文化圏 Tay Cultural Area」をラオス北部の農耕技術を軸に描き出し、併せて、 一般には水田農耕民と考えられているタイ系民族の農耕文化が、多民族社会における文化的・物質的 交流によって現在に至ったものである可能性をいくつかの事例から検討してみたい。
ラオスの風土
ラオス(ラオス人民民主共和国)は、国土面積 236,800km2を有する東南アジア唯一の内陸国であ る。今日に至るラオスの領域は、現在北端のポン サーリー県の一部となっている勐烏と烏得が、清 仏間の条約により 1895 年に仏印に編入されたこ とによって定めれらたもので、盆地を中心とした ムアン(ムン)はタイ系民族の「クニ」を示して いる(写真 1)。 ラオスは全国土の 75%が山と高原に覆われ、 平野はメコン河とその支流を中心とした河川に 沿って点在しており、タイ文化圏の一角をなすラ オス北部は、全域が中国南部山塊の南端にあたる ラオスの北部山地に属している。 気候的にみると、一般的にはラオスは熱帯サバ ナ気候帯に属しており、季節風による明瞭な雨季 と乾季があり、年間の降雨のほとんどは、5 月初 旬頃から 10 月末までの雨季に集中している。地 域による降水量は、年間 1,200 から 3,500 ミリ程 度までとかなり異なっており、南部では降水量が 4,000 ミリを越える熱帯モンスーン気候に属する 地域もある一方で、北部のポンサーリー県では温 暖夏雨気候に属し、照葉樹林帯が広がっている。 また、ヴィエンチャン以南では雨季の間に 1 週間前 後の小乾季(ドライ・スペル)があって、北部の気 候との明瞭な違いとしてあげることができる1,3)。図 1 タイ文化圏概略図 新谷原図より眞島建吉作成。
勐 勐
ラオスの人びと
ラオスは多民族国家であり、タイ系民族である ラーオを中心として 2008 年に公定された 49 の民 族からなっている(表 1)注 3)。 これらの民族は、言語グループによってタイ・ カダイ Tai-Kadai 系、モン・クメール Mon-Khmer 系、 ミャオ・ヤオ Myao-Yao 系、チベット・ビルマ Tibet-Burman 系(写真 2)およびその他に大別さ れており、以前は概ねこれに沿った居住地標高区 分による高地ラーオ Lāo Sūng・中高地ラーオ Lāo Thœng・低地ラーオ Lāo Lum という 3 分類法が使 われていた(図 2)が、現行の民族分類発表後 2009 年には使用が禁止された3)。 あらためて表 1 を見ると、ラオス全域における タイ系民族はラーオを中心として北部のポンサー リーとウドムサイの両県および南部のセーコーン 県を除き 30% 以上の住民が満遍なく分布してい るのに対し、モン・クメール系では北部のクム、 中部のマーコーン、南部のユル、スェイなど民族 によって居住分布が分かれており、チベット・ビ ルマ系、ミャオ・ヤオ系の各民族では中部以南の 分布は限られている。また、タイ系民族に限って みても、北部ではサイニャブーリー以外の各県で、 ルーやタイなど非ラーオの民族人口が卓越してお り、多民族国家ラオスの中にあって北部における 多民族構造は特に顕著であるといえる。 また図 2 にみられるよう、同地域内における民 族ごとの生活空間にも、ある程度の住み分けが あって、タイ系民族は好んで山間盆地や河川沿い の低地に居住しているのに対して、モン・クメー ル系では丘陵地の斜面に、ミャオ・ヤオ系やチベッ ト・ビルマ系は山地に集落を構えることが多い。 しかしながら、居住空間を別にしていることは、 民族間の断絶を示したものではなく、定期的に開 かれる市や祭事を通じて、人とモノの交流は頻繁 に行われており、その多言語構造の共通語として タイ系言語が役割を果たしている。 表 1 ラオス各県における民族人口(2005)3) 㪋㪐ಽ㘃᳃ᣖฬ 㪌㪃㪉㪍㪏 㪋㪃㪇㪇㪎 㪉㪋㪃㪉㪉㪍 㪉㪉㪃㪈㪏㪏 㪈㪈㪏㪃㪇㪈㪍 㪎㪌㪃㪇㪈㪉 㪉㪇㪎㪃㪈㪏㪎 㪈㪇㪉㪃㪈㪎㪍 㪍㪋㪍㪃㪐㪎㪍 㪉㪊㪋㪃㪍㪊㪋 㪈㪇㪌㪃㪉㪐㪏 㪉㪊㪉㪃㪈㪐㪏 㪌㪈㪉㪃㪐㪍㪍 㪈㪉㪃㪌㪌㪍 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ラオスは、今なお労働人口の約 8 割が農業に従 事し(78.5%:2005 年国勢調査)、GDP シェアで 5 割以上を農業が占めている農業国であり、とく に稲作を主生業としている。 国内自給達成年である 1999 年の統計で見ると、 農地の合計面積は国土面積の 4%強にあたる約 1,000,000ha で(表 2)、収穫面積から見た稲作の 割合は全作目の 80%を占める 781,900ha、生産量 は、2,093,800 トンとなっている。 ラオスでは、1998/99 年度に初めての農業セン サスを実施しており、これによって稲作の概況を 見るとラオス全世帯の約 84%に相当する 668,001 世帯が農家世帯であり、このうちの約 92%を占 める 614,184 世帯が稲作農家となっている(表 3)。 ラオスにおける栽培稲品種については、拙著1~3) でも論じたところであるが、全体でみると糯性の 在来品種を中心として作付されており、北部では 在来の陸稲作割合が顕著に高く、相対的に粳品種 を嗜好している(表 3)。ラオスの在来稲は、か つてジャバニカと呼ばれていた陸稲性の強い大粒 の熱帯ジャポニカ系品種が大部分を占めており、 チャオプラヤーデルタ等の東南アジア低地部で一 般的な長粒のインディカ系品種の栽培は、ラオス では中部以南でのみ行われていたものと考えら れ、これもタイ文化圏の広がりを区切るひとつの 指標と見ることができる。 コメ収支の観点から見ると、2002 年から翌年 にかけて行われた第 3 回ラオス消費支出調査か ら、全国を平均した一人当たり精米消費量は 210 キログラムで、これを 2002 年の農業統計と比較 すると、ラオス中南部では概ね自県の実質消費を 賄うだけの稲作生産を行っているのに対して、陸 稲依存傾向の強い北部 7 県では自給水準に達して いないことが読み取れる(表 4)。 また、技術の面からラオスの稲作を比較すると、 工学的には、北部においては陸稲が卓越している にもかかわらず、表 5 の一時的堰灌漑にみられる よう田越灌漑・伝統的堰・揚水水車(写真 3)・ 柄杓灌漑などの伝統的灌漑システムによって、中 部以南の「産米林」と称される粗放な天水田とは 異なる緻密な水管理によって水田は維持されてお ৻ᐕ↢‛ ભ㑄䉁䈢䈲ભ⠹ ᳗ᐕᕈ‛ ⨲䇭 ᨋ䇭 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㪈㪋㪃㪇㪇㪋 㪊㪉㪃㪌㪏㪇 㪉㪅㪊㪊 㪈㪍㪃㪊㪌㪇 㪈㪍㪃㪇㪇㪇 㪉㪊㪇 㪈㪍㪃㪐㪍㪎㪃㪍㪍㪋 㪈㪏㪋㪃㪍㪇㪇 㪐㪉 㪌㪐㪉 㪉㪈㪍 䊦䉝䊮䊅䊛䉺䊷 㪉㪈㪃㪈㪈㪍 㪌㪐㪃㪎㪏㪇 㪉㪅㪏㪊 㪊㪐㪃㪎㪋㪇 㪈㪏㪃㪏㪈㪇 㪈㪃㪉㪊㪇 㪊㪈㪃㪈㪊㪊㪃㪋㪉㪋 㪈㪊㪏㪃㪍㪇㪇 㪉㪉㪌 㪎㪇㪉 㪉㪌㪍 䉡䊄䊛䉰䉟 㪉㪏㪃㪐㪊㪊 㪎㪇㪃㪏㪐㪇 㪉㪅㪋㪌 㪊㪍㪃㪉㪐㪇 㪊㪉㪃㪈㪇㪇 㪉㪃㪌㪇㪇 㪊㪍㪃㪐㪈㪐㪃㪌㪈㪉 㪉㪌㪊㪃㪏㪇㪇 㪈㪋㪌 㪍㪋㪋 㪉㪊㪌 䊗䊷䉬䉥 㪈㪍㪃㪍㪈㪍 㪋㪐㪃㪌㪍㪇 㪉㪅㪐㪏 㪊㪐㪃㪉㪇㪇 㪐㪃㪉㪏㪇 㪈㪃㪇㪏㪇 㪉㪌㪃㪏㪈㪇㪃㪏㪋㪏 㪈㪊㪎㪃㪉㪇㪇 㪈㪏㪏 㪍㪊㪎 㪉㪊㪊 䊦䉝䊮䊌䊋䊷䊮 㪋㪇㪃㪋㪉㪊 㪐㪉㪃㪍㪐㪇 㪉㪅㪉㪐 㪊㪐㪃㪋㪏㪇 㪋㪋㪃㪏㪊㪇 㪏㪃㪊㪏㪇 㪋㪏㪃㪉㪎㪉㪃㪐㪌㪉 㪋㪋㪇㪃㪎㪇㪇 㪈㪈㪇 㪍㪇㪏 㪉㪉㪉 䊐䉜䊌䊮 㪉㪐㪃㪊㪈㪎 㪏㪇㪃㪋㪉㪇 㪉㪅㪎㪋 㪋㪌㪃㪏㪐㪇 㪉㪐㪃㪐㪊㪇 㪋㪃㪍㪇㪇 㪋㪈㪃㪏㪏㪉㪃㪎㪊㪍 㪉㪐㪌㪃㪌㪇㪇 㪈㪋㪉 㪍㪋㪐 㪉㪊㪎 䉰䉟䊆䊞䊑䊷䊥䊷 㪊㪐㪃㪏㪐㪋 㪈㪈㪊㪃㪍㪎㪇 㪉㪅㪏㪌 㪎㪌㪃㪍㪌㪇 㪊㪊㪃㪊㪉㪇 㪋㪃㪎㪇㪇 㪌㪐㪃㪈㪐㪐㪃㪊㪊㪍 㪊㪌㪉㪃㪋㪇㪇 㪈㪍㪏 㪎㪇㪋 㪉㪌㪎 䊯䉞䉣䊮䉼䊞䊮㚂ㇺ 㪎㪈㪃㪉㪌㪍 㪉㪐㪐㪃㪈㪇㪇 㪋㪅㪉㪇 㪈㪐㪉㪃㪍㪇㪇 㪄 㪈㪇㪍㪃㪌㪇㪇 㪈㪌㪌㪃㪎㪎㪈㪃㪉㪏㪇 㪍㪊㪊㪃㪈㪇㪇 㪉㪋㪍 㪋㪎㪏 㪈㪎㪋 䉲䉢䊮䉪䉝䊷䊮 㪉㪊㪃㪎㪎㪌 㪍㪌㪃㪋㪏㪇 㪉㪅㪎㪌 㪋㪐㪃㪉㪐㪇 㪈㪌㪃㪏㪏㪇 㪊㪈㪇 㪊㪋㪃㪈㪇㪈㪃㪐㪏㪋 㪉㪋㪉㪃㪊㪇㪇 㪈㪋㪈 㪍㪎㪉 㪉㪋㪌 䊯䉞䉣䊮䉼䊞䊮 㪌㪋㪃㪏㪈㪇 㪉㪉㪇㪃㪐㪎㪇 㪋㪅㪇㪊 㪈㪎㪍㪃㪎㪇㪇 㪌㪃㪎㪎㪇 㪊㪏㪃㪌㪇㪇 㪈㪈㪌㪃㪇㪏㪈㪃㪈㪎㪍 㪊㪋㪍㪃㪈㪇㪇 㪊㪊㪊 㪌㪎㪊 㪉㪇㪐 䊗䊥䉦䊛䉰䉟 㪉㪋㪃㪉㪎㪏 㪏㪊㪃㪎㪐㪇 㪊㪅㪋㪌 㪌㪉㪃㪏㪇㪇 㪌㪃㪉㪐㪇 㪉㪌㪃㪎㪇㪇 㪋㪊㪃㪍㪊㪎㪃㪏㪊㪉 㪈㪐㪎㪃㪍㪇㪇 㪉㪉㪈 㪌㪊㪉 㪈㪐㪋 䉦䊛䉝䊮 㪌㪉㪃㪈㪉㪎 㪈㪎㪋㪃㪌㪇㪇 㪊㪅㪊㪌 㪈㪉㪏㪃㪍㪎㪇 㪈㪃㪇㪊㪇 㪋㪋㪃㪏㪇㪇 㪐㪇㪃㪏㪎㪐㪃㪍㪇㪇 㪊㪉㪐㪃㪈㪇㪇 㪉㪎㪍 㪎㪈㪎 㪉㪍㪉 䉰䊯䉜䊮䊅䉬䊷䊃 㪈㪊㪐㪃㪌㪏㪉 㪋㪐㪐㪃㪎㪇㪇 㪊㪅㪌㪏 㪋㪇㪍㪃㪉㪍㪇 㪊㪃㪏㪋㪇 㪏㪐㪃㪍㪇㪇 㪉㪍㪇㪃㪉㪋㪊㪃㪎㪍㪇 㪏㪈㪈㪃㪋㪇㪇 㪊㪉㪈 㪋㪌㪉 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り1~3)、限られた面積の水田を最大限に利用する 努力が払われているものといえる。 一方、技術上の農学的側面である栽培に関して は、北部の水田稲作は苗代技術によって特徴付け られている1~3)。ルーや黒タイなどラオス北部の タイ系民族の間では、水稲であっても陸苗代に播 種し、水苗代一次移植の後本田に移植する。陸苗 代への播種では、焼畑地同様に堀棒を用いて籾を 穴播きする注 4)が、この際用いられる堀棒は北部 のルーでは 2 メートル以上の棒に水牛角の穂先を つけたものや、中部の傾斜地におけるタイムーイ やタイシァンディー注 5)などのタイ系民族では 4 ~ 50 センチメートルほどの特殊な箆状のものが あり6)、タイ系民族の水田稲作技術の中に焼畑陸 稲作の痕跡を色濃く残している3)。
農作業と農具
農業の生産環境は、農具の形態を規定するもの であり、環境と技術あるいは文化の複合によって 農具を含む生産工具は、地域ごとに多彩なバリ エーションを見せる1)。 ここでは、生産工具とその使用法が、タイ文化 圏という地域を形作る目に見えるいくつかの証拠 を提示していることを紹介したい。 耕具・整地用具 耕具はそれぞれの(農耕)文化の形成に規定的 といってよい文化財7)であり、農耕文化の具象表 現の一つと考えられる。ラオスにおいて農業生産 の中心である稲作には、陸稲による焼畑耕作と水 田水稲作があることを既に示したが、水田を耕起 する犂と耙の使用法は、その稲作のもつ文化的背 景を極めて明確に表している。 アジアの犂は、中国系枠型犂(図 3)とインド 系 軛 犂の系譜を引くものに大別することができ るが、ラオスとその周辺の地域ではその両系統の 影響を受けた多様な犂型が見られる(表 6)。筆 者はこれまでに、タイ系民族の使用する犂には、 表 6 に挙げたもの以外の犂型を含む8)8 つの系統 があることを確認しており、そのうちインド系軛 犂の系統であるマレー犂(図 4)を除く 7 系統が ラオス国内で使用されている。 ラオスにおいて見られる犂型は、北部ではその ほとんどが、中国系枠型犂のうち雲南犂の系統に 属しており、図 5 に見られるよう、直轅系では四 角構造をもった擬打延型、三角構造で無床の 図 4 カンボジアのインド系軛犂(マレー犂)pha:l 1) 長く伸びた轅を軛(頸木)に直接固定する。 表 6 ラオスとその周辺における犂型の分類2) ㅪ⚿ ヮ ‧⇓ 㐄 ᐥ ᩇ ಽᏓ ਥ䈭᳃ᣖ ᡆᛂᑧဳ 㐳 䊦䉝䊮䊌䊋䊷䊮એർ 䊤䊷䉥䊶䊦䊷 ዊ ᛴᜬ┙ဳ ή䌾⍴ 䊘䊮䉰䊷䊥䊷䍃䉲䉢䊮䉪䉝䊷䊮 䊦䊷䊶䋨㤥䉺䉟䋩 ᧻⪲ဳ ⍴䌾ਛ 䊦䉝䊮䊌䊋䊷䊮એർ 䊦䊷䊶㤥䉺䉟 ᒭヮᨒဳ ή 䊘䊮䉰䊷䊥䊷 䊖䊷䊶䉺䉟䊇䉜䊶䊊䊆 䉺䉟ဳ ᄢ ਛർㇱ䈎䉌ਛㇱ 䊤䊷䉥䊶䊒䉝䊮 䉮䊮䉬䊮ဳ ਛ䌾ᄢ ਛㇱએධ䊜䉮䊮ᴡጯ 䊒䊷䉺䉟䊶䊒䉝䊮 䊙䊧䊷 ࿕ቯဳ ᒭヮ ‐㬍䋲 ή䌾ዊ 䉺䉟ਛᄩᐔේ䊶䉦䊮䊗䉳䉝 䉲䊞䊛䊶䉪䊜䊷䊦 ⋥ヮ 㕖ᨒဳ ᭴䇭䇭ㅧ 㪰ሼ ᨒဳ ྾ⷺ ំേဳ ᳓‐㬍䋱 ਛ ਃⷺ ᄢ ᒭヮ 㪯ሼ 㐳 ή 図3 ラオスにおける犂耕の様子1) 引綱で轅と軛(頸木) を連結する中国系枠型犂。 ᠘᧼ వ 䉦䊮䉻䊷䊦ဳ 䊋䉾䉺䊮䊋䊮ဳ 15䌣䌭 30䌣䌭 㼠㼔㼍㼕 㽱䁲㼗 㼚㿘ʠ㼚㼓 㼟㾌㼕 㼗㼔㿘ʠ ᅗ5-2-21 ≑⪔䛾ᵝᏊ ᅬỤ䠷ᢞ✏୰䠹 ≑thai ㌼䇺æk ᘬᮌn㿘ʠng ႃᙜs㾌i kh㿘ʠ ᅗ3 䝷䜸䝇䛻䛚䛡䜛≑⪔䛾ᵝᏊ1䠅 ≑ᡭ ᘬ⥘ ᡭ⥘ ≌␆ ≑㎅抱 持 立型、短床の松葉型があり、彎轅系は北端 部のポンサーリー県の一部でのみ使用されてい る。 その一方、中南部のメコン河沿いでは非枠型の Y 字構造をもったコンケン型が優勢であり、この 犂型は牽畜と犂体の連結面では搖動型となってい るが、形状面ではマレー犂の影響を受けたものと 推測される。また、この中間地域にはタイ型犂と も言うべき X 字構造をもつ固有の犂型が見られ、 枠型犂の分布南限は、タイ文化圏の領域の緩やか な境界をなぞっている。 また、犂と伴って整地作業に使用される耕具に 耙が挙げられるが、この構造と使用方法も、タイ 文化圏における技術体系を非タイ文化圏地域との 写真 1 川に沿った山間盆地にあるタイ系民族の集落景 観(ポンサーリー県ブンヌァ郡:ルー) 写真 2 ワニュ(ムチ、公式分類上はアカ。)の子供たち (ポンサーリー県サムパン郡) 図 5 ラオスとその周辺における犂型の分布2) 䊙䊮䉻䊧䊷 䉼䉢䊮䊙䉟 䉴䉮䊷䉺䉟 䊋䊮䉮䉪 䊦䉝䊮䊌䊋䊷䊮 䊟䊮䉯䊮 䊘䊮䉰䊷䊥䊷 䉲䉢䊮䉪䉝䊷䊮 䊯䉞䉣䊮䉼䊞䊮 䉰䊯䉜䊮䊅 䇭䇭䉬䊷䊃 䊌䊷䉪䉶䊷 䊒䊉䊮䊕䊮 䊊䊉䉟 䊖䊷䉼䊚䊮 䊋䉾䉺䊮䊋䊮 ビルマ (ミャ ンマー) 中 国 ヴェトナム タ イ 䂓 䉮䊮䉬䊮 カンボジア 䂔 䂦 䂰 䂥 X Y 㸠 䂔 㸠 Y YY Y YY YY Y Y Y Y 㸠 㸠 㸠 㸠 䂔 䂔 䂔 䂔 䂔 䂔 䂔 䂔 䂔 䂔 䂔 䂔 䂔 䂔 䂦 䂦 䂦 䂦 X X X 䂥 䂥 䂥 䂰 䂰 ᡆᛂᑧဳ 凡 例 ᛴᜬ┙ဳ ᒭヮᨒဳ ᧻⪲ဳ 䉺䉟ဳ䋨Xሼ䋩 䉮䊮䉬䊮ဳ䋨Yሼ䋩 䊙䊧䊷 䂰 䂰 䂔 䂔 ᨒဳ䈱ಽᏓධ㒢
間に特徴付けている。 ラオスの耙には、雲南で耖ツァオパー耙と呼ばれる而字型 のもの(図 6)と、同様に踩ツァイパー耙と呼ばれる橇型の もの(図 7)がある注 6)が、東南アジア大陸部全 域で見られる而字型耙の北限が雲南中部である9) のに対して、ポンサーリー県が橇型耙の南端であ ると考えられる1)。 犂・橇型耙・而字型耙を組み合わせた「耕-耙 -耖」の作業体系は、本来華北の畑作地帯で確立 されながらも、雲南中部からラオス北端にかけて 一般的な整地作業体系であるが、ラオスにおいて は、橇型耙に代えて竹製の均平棒(図 6)を平耙 として使用する形で北部一帯まで広がっており1)、 犂と大型の而字型のみを用いるラオス中部以南の 低平な水田耕起・整地の技術とは異なった地域的 広がりを持っている。 このほか、前節で触れた堀棒の使用は、水田稲 作技術としては北部から中部山地に固有のもので あり、厳密には耕具といえないものの、小鍬や除 草用手鋤も、この地域の農作業を特徴付ける重要 な農具である。特に手鋤は、中国西南部からイン ドシナ半島の山地に沿って、広く使用されている ものの、タイ文化圏に属する地域では民族にかか わりない必需品である1~3)一方、ラオス中部以南 では、主に山地に住むモン・クメール系民族の間 でのみと使用の範囲が限定されるようになる。こ のことも、タイ文化圏における民族間の頻繁な文 化的・技術的交流と、中部以南の地域における相 対的な没交渉性を対比させる事例として挙げるこ とができよう。 収穫・調整用具 ラオスにおける稲の収穫法は、①鎌による株刈 り、②穂摘具を使用した穂首刈り③素手による扱 きとりに大別できる。 図 7 橇型耙操作の様子(ハニ)3) 表 7 耕具に関する民族語彙(文献 3 に加筆) 図 6 竹製均平棒bō khātを装着した而字型耙1) この図 における各部位の語彙は、白タイ語である。 .CQ0QTVJGTP .GW *C[K .QNQ 5KFC 2JQWPQK *Q VJCK VJCK żGWưJG ʣKIQ NK NK \VFV
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写真 5 山形歯車をもつ畜力駆動竪型双ローラー圧搾機 (ルアンパバーン県ナムバーク郡) 写真 6 綿轆轤(‘īu fāi)による繰綿の様子(ポンサーリー 県ブンタイ郡) 写真 3 タイ系民族の揚水水車(ファパン県サムタイ郡) 写真 4 扱き取りによる陸稲の収穫(チャムパーサック 県パークソン郡:ラヴェン)
表 8 稲 作 に 関 わ る タ イ 系 民 族 の 語 彙 ( 文 献 8 に 加 筆 ) Phuan Phutai Black Tai White Tai Red Tai Leu Nhuane Thai Neua Thai Northern
Central and Southern
Phongsali Luang Namtha thai thai thai thai thai thai thai thai thai thai (sai) thai thai ᨩ ng ǀʠn ng ǀʠn ng ǀʠn thai ng ǀʠn thai ng ǀʠn ng ǀʠn nok thai ng ǀʠn ng ǀʠn ng nj'an thai lnj 'ang sai khan thai り ng ǀʠn -ng ǀʠn ng ǀʠn ng ǀʠn ng ǀʠn ng ǀʠn hǀ ʠn sai hƗ ng y Ɨm ᐥ nƗ tƗ ng phan Ưang dƗ t thai mai d Ɨt -(phan Ưang) -kƯ o mai dt Ư t Ư hnj a m nj ᩇ -lang dang lang dang dang thai dang thai pƗ n mai l Ư chen -ヮ ta ng Ɨp / h Ɨk hƗ k hƗ k thai hƗ k thai kh Ɨp thai kh Ɨp kh Ɨp ng ǀʠm / kh Ɨp lƗ o kh Ɨn thai hƗ ng sai mai l Ư khai hƗ ng 㐄䋨 ᠘᧼䋩 (bai thai) bai phan Ưang po thai bai phan Ưang nok lek thai bai thai fnj 't lƯ p Ɨn bai ph Ɨn 㐨䋨 వ䋩 sop n ǀʠng m Ɨk sop dnj an thai -m ǀʠ thai m Ɨk thai sop n ǀʠng sop ng ǀʠn / sop thai kæn thai sop thai pak lik thai m Ɨk sop 䈎 䈔 thai thai thai thai thai thai thai thai thai thai thai ⠺⠽ kh Ɨt kh Ɨt ph nj’a kh Ɨt bƗ n bak bƗ n bak fnj 'a ph 㮉 ph nj'a / f nj'a ph 㮉 -ph nj' khr Ɨt ⠽ 䈎 䈔 kh Ɨt kh Ɨt ph nj’a kai n Ɨ kh Ɨt kh Ɨt lnj at fnj 'a kƗ o kƗ o ph œ -khr Ɨt ᔐ ⠽ -ph Ưak ph Ưek la s Ɨng thik ᔐ ⠽ 䈎 䈔 -kh Ư ph Ưak / d nj'ng kh Ư thik 㐳⠺⠽ -bƗ n l Ɨt bƗ n l njat -ဋᐔౕ mai m ǀʠp / b ǀ kh Ɨt -mai m ǀʠp mai f Ưan / mai l Ɨt bǀ / mai b nja mai ph Ưan bnj a k njat -᧸䊶 ᧈ bƗ n chan mai k ǀʠi ဋ䈜 m ǀʠp -m ǀʠp fƯan lnj at ⒳ tok k Ɨ tok k Ɨ phok k Ɨ vƗ n k Ɨ sak k Ɨ nam ch Ɨ ⧣ઍ tƗ k Ɨ tƗ k Ɨ (tƗ k Ɨ) tƗ k Ɨ tƗ k Ɨ ken ch Ɨ 㒽⧣ઍ kƗ bok -tƗ phok kƗ chak tƗ k Ɨ bok ੑᰴ᳓⧣ઍ kƗ nam -tƗ sam tƗ sam tƗ k Ɨ nam ৻ᰴ⒖ᬀ -sam sam sam cham ᧄ↰⒖ᬀ dam n Ɨ dam n Ɨ pu 㰁n Ɨ lam n Ɨ dam n Ɨ / p u 㰁n Ɨ pu 㰁n Ɨ dam n Ɨ sop n Ɨ dam n Ɨ ㎨ ᝌᑼ kƯ ao kƯ ao lƯam kƯ ao kƯ ao kƯ ao kƯ ao kh Ưao ⵍ䈞ᑼ kƯ ao nok kok -kƯ ao 䋨v 䋩 kƯ ao nok kok kh Ưo kƯ ao 䋨v 䋩 ᚻ㍁ væk -væ 㰁 v㭉 k ph Ɨ ng ǀʠ ka væ 㰁 ko ʠvek ⒷᏎ kh ǀʠn t ǀʠn kan lƯang lƯang dƯ ang (khæ 㰁) kh ǀʠn d Ưang dƯ ang kæ 㰁 khe 㰁 (mai n Ưp) ᛂⓃ kh ǀʠn t Ư kh ǀʠn p Ư kh ǀʠn tap khao mai kh ǀʠ kh ǀʠn pœ kh ǀʠn kh ǀʠ kæ 㰁 mai ko ʠke 㰁 ᛂⓃ mai kh ǀʠn kh ǀʠn t Ư khao
khouan van khun
⣕Ⓝบ phæn t Ư khao mai f ǀʠn f Ɨt phæn f Ɨt khao nang c Ɨhn phæn t Ư khao / kæ 㰁 phæn f Ɨt khao Lao Yang
東南アジア大陸部全般では、カンボジアやビル マ(ミャンマー)でそれぞれγ字型、S 字型など 大型の鎌に代表されるものに始まり、形状面でも 大きさでもかなりのバリエーションがあるに拘ら ず、ラオスの鎌は刃と柄の接合方法で挿入式と被 せ式の別がある1,3)ほかは、概ね均質といってよい。 これに対して、穂摘具と扱きとり用の陸稲収穫 籠(写真 4)は、この地域における稲作の特徴を 明瞭に表わしている。 ラオスの山地における最も一般的なイネの収穫 方法は、素手による扱きとりである。モン・クメー ル系言語で概ね bɛ:m と呼ばれる陸稲収穫籠を使 用した扱きとりは、ラオス国内においてモン・ク メール系民族が焼畑陸稲栽培を行っているほぼ全 域で見られるが、この地域における脱粒性の高い 陸稲の収穫方法としては極めて適したものといえ る。この収穫法は、東南アジアでは島嶼部にも残 されており、本来東南アジア大陸部最古のオース トロネシア語系民族の文化をオーストロアジア語 族のモン・クメール系民族が引き継いだものであ り、一部のモン・クメール系民族の間で行われてい る穂摘具による収穫に先立つ技術と考えられる1~3)。 一方で、穂摘具による穂首刈りはタイ系民族も 行っており注 7)、堀棒による播種や、陸苗代技術 などと併せて、「水田農耕民」として語られるこ との多いこれらの民族も、その技術的基盤に焼畑 陸稲作が深く関わっていることは疑う余地の無い ものといえる。 穂首刈りで収穫された稲では、多くの場合、籾 は穂のままで貯蔵され、脱穀・脱稃・精搗は臼と 杵で一連の作業として行われるため、前節で指摘 した水田稲作の根幹を成している耕起の技術体系 と農具が外からもたらされたのと同様に、稲巻棒・ 打穀板(タタキ台)・打穀棒・打穀棍・穀扇(表 8 参照)などの水田稲作にかかわる農具も、本来 的には使用されていなかったものと考えると、ラ オスにおける農村の風景は、現在と大分違ったも のに見えてくる。 ローラーと歯車 タイ系民族が創出した文化的伝統は、稲作だけ に止まらない。 ここでは、その例として隣接するインドと中国 でそれぞれ発達した技術を、タイ文化圏のひとび とが、いかにして受容したかということを、工芸 作物に関る生産工具の仕掛けから紹介する。 現在のタイランド語で砂糖を指す語はナムター ン nam tān であるが、この語はマレー語を起源と して、本来サトウヤシからとったヤシ糖のことを 示している。一方で、タイ文化圏では、気候上サ トウヤシの生育には適当でなく、砂糖(ナムオー イ nam‘ō֊ i)はサトウキビから作られるが、花軸 を切るだけで糖液を得られるサトウヤシと異な り、砂糖生産には硬いサトウキビの茎を圧搾して 糖液(蔗漿)を採取しなければならない。 この際使用されるのが、歯車つきのローラーを もった甘蔗圧搾機(搾糖機)であり、これまでの 研究からタイ文化圏における伝統的な歯車には三 つの系統があることが分かっている10)。「タイ文 化圏」研究のパイオニアの一人であるクリスチャ ン・ダニエルス教授は、主に雲南・西双版納にお ける調査結果から、甘蔗圧搾機の駆動ギアを①二 段木栓歯車 double toothed gear ②平行ウォーム(螺 旋 状 ) 歯 車 worm gear ③ 山 形 歯 車 chevron-teeth gear(写真 5)に系統を分類し、その起源について、 それぞれ二段木栓を中国の漢族、平行ウォームを インドに求められるとし、山形歯車はタイ系民族 独自のものである可能性を指摘しているが、筆者 のラオスにおける調査からは、これを強く支持す る結果が得られている。 ラオスにおいて、甘蔗圧搾機の分布はヴィエン チャン以北に限られており、上記 3 系統の全ての 歯車を持った甘蔗圧搾機がみられるが、山形歯車 が突出して多く、駆動法についても、これまでに 報告されてきた水牛などの畜力・水力のほかに、 写真 5 の村などでは畜力と併せて人力注 8)を用い ている。 甘蔗圧搾機が示すものは、犂同様に大きな文明 の系譜の影響を受けながらタイ文化圏における創 意がある。それは、この機械を構成する要素であ るローラー・動力伝達法・駆動法の組合せによっ て表現され、そのうち特に動力伝達システムであ る歯車(ギア)は、この地域の文化的多様性と交 流を雄弁に物語っていると言ってよい。 また、逆の事例として興味を引くのは、実綿か ら種子と綿毛を分けて原綿にする綿轆轤である (写真 6)。この道具は、手廻ハンドル基部のウォー ム(螺旋状)歯車で回転するローラーを用いてい
るが、甘蔗圧搾機では歯車に 3 系統があるのに反 して、綿轆轤の歯車ではウォームしか採用されて おらず、その後の糸繰り作業を行う紡車もアジア 全域で極めて普遍的な構造と形状をしていること は、この地域における両者を含んだ農村工業の技 術受容もまた、単一的でなかったことを示してい る6)。 このほか、さきに見た揚水水車も回転系の仕組 みを持ったった機械であり、タイ文化圏内のタイ 系民族に特徴的である高度な水利技術の結晶とい える。多くのラーオが住んでいる東北タイからラ オス中部以南のコラート高原にかけての稲作は、 前章「ラオスの稲作」で見たように低投入な天水 田によって行われているのに対し、タイ文化圏に おける水田では、堰や揚水水車等の水管理システ ムをもった灌漑が行われており、このほかにも脱 穀用の添水 碓 や水車など山間の流水が巧みに用 られているなど、水利の面でも、タイ文化圏と非 タイ文化圏の間を遮っている技術の文化的背景が 感じられる。
生産工具からタイ文化圏を考える
これまで見てきたように、タイ文化圏に相当す る地域は、インドと中国という二つの大きな文明 圏の間に挟まれ、多民族・多言語という環境下に あって、周辺の地域に対して独自に影響を与え、 文明を発信するということは無かった。 しかしながら、犂や耙あるいは甘蔗圧搾機の歯 車にみられるよう、2 大文明それぞれから受容し た物質文化を、この地域に固有な形で変容させ、 独自の文化的伝統として継承してきており、タイ 系民族に限ってみても、この地域から下流へ「出 て行った」人々が、より大文明に傾倒し、言語や 民族構造の面からも相対的に画一的な社会を構成 していることと対照的である。 すでに述べたように、生産工具は生活の基盤と なる活動を機能的に維持するための道具であり、 その社会の環境と技術あるいは文化的複合の結晶 といえる。それは、この地域の重要な主生業のひ とつである稲作の来歴をも語っており、また、工 芸作物という付加価値を持った農業生産物の加工 に不可欠な道具(機械)にも、文明の受容という 普遍性と地域の創意という固有性を、現代のわれ われに見せてくれている。 言語的・民族的多様性に富んだタイ文化圏とい う地域は、物質文化の面でもまた「知恵の多様性」 を育んでおり、国民国家の枠に囚われることのな い地域の生態環境に根ざした在来知という遺産を 豊富に抱えているのだといえる。謝辞
「タイ文化圏」研究に関しては、当初より東京 外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所教授 新谷忠彦、クリスチャン・ダニエルスの両先生に ご厚誼を頂いた。また、ヴィラチット・ピラーパ ンデート=ラオス文化振興財団理事長、僚友加藤 高志氏(現・名古屋大学大学院国際開発研究科准 教授)の長年に亘る協力と理解に対しても、感謝 の意を表する。補遺
本稿は、2009 年 12 月の雲南懇話会での講演内 容に沿って再構成したものであるが、年が明けた 2 月に「タイ文化圏」の最大の理解者である京都 大学名誉教授石井米雄先生の突然の訃報に触れる こととなった。生前のご懇篤に心よりお礼申し上 げるとともに、謹んで菩提の安らかなることをお 祈りする。注
1) タイ文化圏を論じる際にTay とThay との間に 誤解を生まないよう、タイ王国についてはタ イランド、タイ王国の国語となっている言語 をタイランド語と呼んでいる。 2) 当初は、日本語でTay とThay が区別できない ために「シャン文化圏 Shan Culture Area」の語 を使用していたが、ビルマのシャン州を中心 とした論議との誤解を招く虞があるため「タ イ文化圏」に改めた5)。 3) 第3 回国勢調査時に使用された49 民族分類に あるチベット・ビルマ系のシンシーリSingsily は、現行の公式民族分類ではプノイPhounoi に 変更されている3)。 4) タイ系民族による堀棒の使用については、拙 稿6)で一部報告の通り、ラオス-ヴェトナム国 境地域にしばしばみられ、現在その詳細につ いて分析中である。 5) タイムーイは、ボリカムサイ県を中心に居住しており、現行の公式分類ではタイとして扱 われている。タイシァンディーは、ファパン県 からボリカムサイ県にかけて分布がみられ、 自称はエー。以前はプータイのサブグループ として分類されていたが、現行の公式民族分 類に関する文書には「タイシァンディー」の 名称は確認できない。 6) ラオス国内の漢系言語話者であるホーの間で は、表7 に 見 ら れ る よ う 而 字 型 耙( 耖 耙 ) (ʧhou53)paa213を一般的に耙と認識しており、 橇型耙はpiŋ53 paa 213(平耙)と呼ばれている。 7) 注4)同様に、タイ系民族による穂摘具の使用 については、一部報告6)の上、現在考証を行っ ている。 8) 人力駆動により甘蔗圧搾機を使用する事例 は、ルアンパバーンからウドムサイ県におい て確認されるが、興味深いことに、この理由に ついて「昔は、水牛を牽畜として使っていた ものの、作業中に水牛が暴れだして甘蔗圧搾 機が倒れ、死人が出たために、以来人力で挽く ようになった。」との伝承が各地で聞かれる。
参考文献
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Agro-Cultural Complex in Tay Cultural Area; The Point of Rice
Culture in Northern Laos
Mitsuru Sonoe
The University Museum, The University of Tokyo/
Faculty of International Agriculture and Food Studies, Tokyo University of Agriculture
There used to be confederacy of chiefdoms in montane basin of the area from south-western China to Northern Mainland Southeast Asia. Tay Cultural Area shall be the notion of multi-ethnic societies in mountain area of Mainland Southeast Asia, especially crossing of Yunnan Province of Southern China, northern part of Laos, Northern Thailand and Shan State of Burma (Myammar) which has an organic linkage system on the linguistic, historical background.
This paper focused the agricultural practices in Northern Laos and aimed at elucidating the image of Tay Cultural Area by the interaction of the Tay with their neighbour through their rice production and material culture in rural societies.