研究ノート
賃金と利潤の分配および変動する成長率
一一グッドウィンの新しい理論について一一
京
佐
敏
崎
篠
序 よく知られているように, R.Mグッドウィンは, 1967年に「成長循環」という論文 を公表している。この論文、では,経済が成長し,しかも成長率が循環するモデルでの, 賃金と利潤との聞の分配の問題を取り扱・っている。ここでは,雇用者と被雇用者との 利害関係の対立に重点を置いて分析が行われている。ところがこれに対し,J
ロビン ソンより重要な批判がなされた。 それに答える形て二最近「賃金,利潤および変動する成 グッドウィンは, で ) そ 率 長 この論文では,賃金と利潤の聞に逆向きの (1983)という論文を、書いている。 動きの関係のあるリカードー・マルクス・スラップァ的世界と,そのような関係のな うまく統一的に説明している。また,成長率の循環の諸局面と いケインズ的世界を, より詳細に説明している。そしてこの場合,インフレーショ 分配との関係の問題も, ンの問題を分析に組込んでいる点、も新しいところである。 これら二つの論文を詳細に比較検討し,新しい論文のメリットや問 この小論では, 題点を明らかにしたいと思う。なお,第I
I
節では古い論文での見解を考察し,第I
I
I
節 む す び では新しい論文の見解を考察する。そして,第I
V
節では双方の比較検討をし,(1) RM. Goodwin,
"
A
Growth Cycle, "inSoαalism, Catitalism and Economic Groωth, edited by CH. Feinstein, 1967 ; inEssays zn Economic均 namics;written by R.M Goodwin, 1982(2)RM. Goodwin, "A Note on Wages, Profits and Fluctuating Growth Rates", Cam-bridge ]ournal
0
/
Economics, Sept!
D
ec, 1983-278一 第57巻 第3号 698 II グッドウィンの初期の理論 グットウィンは,
1
成長循環J
(1967) という論文で,成長率の循環との関連で,賃 金と利潤との聞の分配の問題を取り扱っている。ここではこの論文の内容を検討し, 問題点について考察し,最近における彼のこの問題についての新しい見解の検討のた めの,基礎としたい。 グッドウィンは,成長率における循環のモデルを作るに当たり,次のような七つの 仮定をしているO これらは新しい論文においても,基本的に維持されている。ただ, この論文では,諸量が実質額のみで表わされているが,後の新しい論文では,名目額 も使用されている点などは異なる。1
(1)体化されない (disembodied))恒常的な技術進歩。 (2) 労働力の恒常的成長 (steadygrowth)。 (3) 生産要素は労働と「資本J
(プラントと設備)とのこつだけで,両方とも同質的 かつ非特殊的である。 (4) すべての数量は実質かつ純。 (5) 賃金はすべて消費され,利潤はすべて貯蓄され,投資される。 (6) 一定の資本・産出高比率。 (7) 実質賃金率は完全雇用の近傍で上昇する。J
この外,資本の正常稼働の仮定が暗黙のうちになされていることに注意すべきであ る。 また,次のような記号を用いている。 q…1… … … 産 出 高 h… 川 川 川 一 資 本 w'" リリ川わ賃金率 (実質)α=
ぬe
"1"....,・1労働生産性 αt・リゆい刷",労働生産性の上昇率(一定)σ
。 川 ・0川小l資本・産出高比率(資本の生産性の逆数) (3)原訳では「具体化しえない技術進歩」としていたのを訂正した。(4) Goodwin, "A Growth Cyc1e", in Soα刷alism,Catitalism and Economic Growth, p,,54 (CHフェインステーン編,水田洋他訳『社会主義・資本主義と経済成長j69ページ)。
n=noeβt, 労働供給 β"十 一 ゎ … 労 働 供 給 の 成 長 率 ( 一 定 ) l=q/a 雇 用 u=w/α… t生産物中の労働者の取り分(share)(したがって(l-u)または(l-w/ α)は資本家の取り分) v=l/n 雇用率 (theemployment叫 i必
O
?
前記の諸仮定とこれらの記号から,次の関係があることが分かる。 余剰=利潤=貯蓄=投資 (1一ω/α) q=k (1) ここで (l-w/α)qは直接には余剰または利潤を表わしているが,それは仮定により 貯蓄にも等しいo k (冨dk/dt)は投資であるが,これは事後的には貯蓄に等しい。こ のようにして,利潤率の備は ,k/kとなり,したがって資本蓄積率に等しい。また, 資本・産出高比率が一定であるという仮定と,資本の正常稼働という暗黙の仮定から, 資本蓄積率と産出高の成長率は等しく,次の関係が得られる。 利潤率=よ/k=q/q=(1 -w/α)(九
また, α=q/lであるので次のようになる。 a/α=q/q-l/l=a1
/
l=q/ q一α (1一ω/α)/σ一α また,u=w/a, v=l/n, n/η=βであるので,v
n
v
n
(
1-w/
α)/σ一α一β (2 ) (3 ) (4 )=
(1-u)/
σ
一 ( α + β ( 5) ところで,仮定の (7)の内容を,グッドウィンは次の式で,表わしているow/
ω=
f
(
v
)
(
6
)
この式で表わされる関数は増大関数でるが,分析の明快さと容易さのために1次近似 をとり,次のl次式の形で考える。 ωI/w=-y+ρu (5)c
r
.
.
Goodwin, "A Note"," p..309 (6) k/k= (l-w/a) q/k= (l-w/a)fa (7) Goodwin, "A Growth,,",p,,55-280一 第57巻 第3号 700 ここでyとρは共に正の定数であり,双方とも大きな値を考えている。 ところで生産物中の労働者の取り分は u=ω/aであるので,その成長率は(7)式 から次のようになる。 u/u=ω/ω -a/α γ+ρu一α
=
一
(α+γ)+ρU このようにして, (は5)式と(は8)式とから次の 2式が得られ宮 v=c
c
1/0一(ほα+β削)一(1/0σ) u叫)v(
8
)
(9 ) u=l
一 (α+γ)+ρv) u(
1
0
)
グッドウィンは,これら二つの微分方程式から,時間を消去しまた積分によって, 次式を導き出す。0/σ)
u+ρu一(1/
σ
一 (α+β)J log u-(γ+α) log v (l0) =constant (8) Opιit, p55 (9) 原文では1/仰となっていたが,これは (1/a) uの意味である。 (11) (10) 本文で次頁に定めているような,簡略な記号を使えば, (9), (10)式はそれぞれ次のよう にな長。 q= (1/1 -fAu) v u= (-1/'-1:8,
V)u v""'dv/dt, u""'du/dtであるので du =dt du =dt (1/1-81u)V 'H, (-1/,+8,v) u dv du (1/1-81u) vー (-1/,+8,v) u (-1/,+ 8,v) udv=
(1/1 -81u) vdu 両辺を uvで割る(
弓
子
+
仇)
dv=(
す
-81)duf
(
ニ
デ
+8,)dv=f
(
す
-81)du "-1/2Iog v+8,v+ι'= 1/1log u-81u+ C 81u+,
e
V -7'fJOgU -1/2Iog v =ιーピ=
c
(1/σ) u+ρuー (1/0'ー (a+β))logu-(γ+a) log v=co抑stant
なお,原文では,左辺第3項の丸括弧内はa+ρとなっているが,これはa+βの誤り である。
さらに次のように記号を定める。 81= 1/σ:171=1/σ一 (α+β) 82=ρ: 172 =y+α -281 そしてグッドウィンは,これらの記号を使って, (ll)式を変換し次の式を導き出して しコる。
φ
(u)=
u~'e-8.u
=
Hvゆ v=Hψ(
パ
1) (12) ここでHは,初期条件によって定まる任意定数である。そして, 1/σ>(α+β)で あるので. 81.ι171' 172の凡、ての係数は正、であるとしている。 1/σは,資本の生産 性(資本・産出高比率の逆数)であり, α+βは,労働生産性の上昇率と労働供給の成 長率の和である。経験的に前者の方が後者より大きいという判断をしていると思われ る。 次にφ
(
U
)
とψ(
む)を,それぞれMとUで微分すると次のようになる。芳
(-81+
す
)φ勢=
(ぬーラ)ψ
,12.1.27>O
(
1
3
)
(14) (15)(
1
6
)
また,φ
(
U
)
の極大をもたらす Mの値は, (13)式から η1/81である。ψ
(v)の極 大をもたらす Uの値は (15)式から 172/82である。ω
(l/a') U+PVー (1/ a・一 (a+β)) log u-(γ+ a) log v = constant. 81u+82v-171log u-?t.log v= C ,81u-1hlOg u=-8,.v+ ?t.log v+C 川市'll0gu-81u=-C-1J2log v+82v ゅlogu~.+
log e-8•u=
log e-'+
log v-担-1-log e,8v ここで H=e-ιとすれば log un'e伽=logHv-桔e,8v れ un.e-~u=Hv市e8, v 白2) 通常,たとえば前者は 10%より大,後者は 10%より小と考えられるの (13) 図から見ると,グッドウインはこのように考えている。 v-282ー 第57巻 第3号 702 このようにして,
φ
(u)‘とψ
(v)は,それぞれ次の二つの図のような形をしてい る。φ
φ
;
〆 了 ¥
η,
/
8
,
第1図 Ml 、~
布'./82 第2図 U 次にグッドウィンが行おうとしたことは ,(12)式に示されたように,φ
(
u
)
をHψ (! 5) (v)に等しくさせることである。彼はこのことを,次の第3
図で説明している。ψ
(v)ψ
A U41 C.fop.c
i
t
, p 56. U5) 印c
i
t
,p..57 U。
~, 仇/8:
,
~2φ(
u
)
φ
第3図-283-第
3
図においては,原点より右の横軸に生産物中の労働者の取り分u(=w/α)を はかり,原点より上方には雇用率v(=1/η)をはかる。ここでUの値が+1
である ということは,生産物全体が労働者の取り分であることを意味し ,v
が+1
であること は,完全雇用を意味する。Uについて他方の極端である u=0
は,生産物の全体が資本 家の取り分であることを意味する。そして,原点より下方にはφ
(u)の値をはかり, 原点より左方にはψ (
v
)
の値をはかる。 そこでまず、第3
象限に,原点、を通ってφ
/
ψ
= Hの勾配を持つ半直線A
を描く。H
は与えられた初期条件によって決まる定数である。 次に第4象限と第2象限においては,それぞれφ
(u)曲線とψ
(v)曲線とが描か れている。そして,第3
象限に描かれたH
の勾配を持つ半直線A
によって双方を等し く置く。これはφ
(u)=Hψ(
v)という第(12)式の関係を表わすものである。この 結果,対応するUとUの可能な一連の一対の値が得られる。このUとUの一対の可能 な値の全体は一つの解をなしており,それは第1象限に示されている。そしてこれら の解の点は ,U, V平面上に正の値を持った閉曲線B上にある。 この B 曲線上における解の動きは, (9)式と (10)式から読み取ることが出来る。(
9
)式と (10)式を変形して次の形で考える。十[士一
(α+β)]
ー
す
( 9') す=一 (α+γ)+ρu (1σ) それぞれの左辺はv
とUの成長率である。(9 ')式と (10')式から次の関係が分か る。 沌 l一 (α+β)σ(=苛 ) に 応 じ て す 歪O (17) Uミ
守
之
(
=
?
?
)
に応じてす這o
路) そこでまずU=711/()1から出発して考える。 (17)から分るように,この瞬間にはUの 値は不変である。しかしこの時v<
7
1
2
/
ぬであるのでu/u<
0
となり ,u
は減少する。 するとv/v>
0
となり ,v
は上昇を始める。したがって解は矢印のように左上に向っ て移動する。v
= 712/ ()2に達すると, (18)から Uの下落は止まり ,v>
後/()2になると 上昇を始める。そして再び u=711/ ()1に達すると Uの上昇は止まり,やがて下落し始め-284一 第57巻 第3号 704 る。このようにして最初の位置に還り,矢印で示されているような循環が完成する。 ところ‘で,初期条件によって定まる
H
の値が変わり,したがって,A
直線の勾配が 変わると,それに応じてB
曲線の位置が移動する。また ,u
とUを時間の関数として とらえると,初期条件によって曲線上の移動の出発点を定めることが出来る。このよ うにしてグッドウィンは次のように述べている。「一つの初期条件が曲線を選別し,第 2 (の初期条件)が出発点をきめ,その後,われわれは,所与の外的変化がなければ, なんらかの特殊な曲線B
を,矢印の方向にいつまでも動くことになz
f
」
次にグッドウィンは,このB
曲線上の運動の経済学的意味について述べる。 まず生産物中の労働者の取り分Mと雇用率Uの値のとり得る範囲について述べて いる。解を表わす点が移動するにつれて ,uはあととらとの間を上下に振動し ,vはi
s
とらとの聞を上下する。またUとUは,事柄の性質上正でなければならず,vは定義 (8) によってlより小でなければならないとしている。 Mも通常1より小であるが,例外 的に1より大きくなる可能性についても述べている。 次に ,u
軸上でトOと +1との聞の範囲で,点Mは所得の分配を表わしている。左側(
u
の値)は労働者の取り分,右側 (1-u)
は資本家の取り分である。u=
ω/α
であ るので,資本家の取り分1-w/a
に資本生産性1
/
σ
を掛けた値(1-w/a)/
σ
は,前に述べたように,利潤率(=k/k)や産出高の成長率q/qに等しい。また利潤 額そのものは (1-w/
α)q= (1-u)
qである。したがって利潤と成長が最大の時 Uは最小のあになり,雇用率Uは 712/(j2である。そして産出高の成長率が高いことか ら雇用率Uはその最大値らに達し,対応する Uの値は 711/f
A
である。利潤率は(1-(20) 711/(jl ) / (Jである。また,成長率の下落は雇用率Uを 712/(j2に対し相対的に押し下 げ,u
は最大値の&に達し,利潤と成長は最小となる。この低い成長率は産出高と雇 用を完全雇用水準よりもかなり低いところまで下落させる。この結果,労働の生産性α
は賃金率Wよりも速く上昇しているので,u=
ω/α
は下がり,収益性は平均値に向 かつて回復する。 。 目 印 cil,p.56 (邦訳, 72ページ)。 間図の上で色とるとすべきところを,それぞれ';1とらと表わしている。これはミスプリン トであると思われる。 日 目 印 cit,p.56 (邦訳, 72ページ)。 自由 原文ではらとしているが,これはミスプリントであろう。 。曲 グッドウィンは,利潤率が7'/1/81になるとしているが,7'/1/仇になるのはUの値である。グッドウィンは,ここで得られた結論と,関連するマルクスの学説との関係につい て述べている。「私の信ずるところでは,これは本質的にマルクスが,資本主義の矛盾 および好況と不況という形でのその一時的解決によって意味したものである。しかし ながら,それは収益性が実質賃金の下落によって(必然的に)回復されるのでなくて, それ(実質賃金)が生産性とともに上昇しえないことによって,むしろ回復されると 主張する点では非マルクス的である。実質賃金は生産性との関係で下落せねばならな いし,それは循環の深刻さに依存して,絶対的にもまた下落するかもしれない。
J
この ように,収益性profitabilityの回復の原因として,マルクスは実質賃金の絶対的下落 を考えている。これに対しグッドウィンは,実質賃金は必ずしも絶対的に下落する必 要はなく,実質賃金の労働生産性にたいする相対的下落 (u=w/αの下溶)が回復を もたらすと主張しているのである。しかし景気後退が深刻である時には,実質賃金の 絶対的下落が起こり得るが,この場合には両者の主張は事実上一致する。 グッドウィンはさらに次のようにも言う。「改善された収益性は,M
出高と雇用量と のあまりにも力強い拡張を生み出すことによって,それ自身の崩壊の種を運び,かく て労働予備軍を破壊して,労働の交渉力を強化する。労働者と資本家とのこの内在的 な闘争と補完性とは,共存(両者の)に典型的なものである。」これは雇用率Uの上昇 が,u (=w/α) の上昇を招き,収益性を再び下落させる段階について述べたもので ある。ところでグッドウィンは,ボルテラ (v..V olterra)の学説との関連で,次のよ うに述べている。「ニつの人口ー一一部分的に補完的だが,部分的に敵対的なーーの共 存についてのボルテラの問題は,資本主義の動学的矛盾の理解において,それが多少 ともマルクス的な形態で述べられる場合には,とくに役に立つと私はず、っと思ってい ど 」 こ の 共 存symbiosisの考え方をここに使っているのである。なお,この景気回 復の段階においては,資本家も労働者もともに利益を受けることについて,後の論文 では強調していることに注意すべきである。 次にグッドウィンは,生産物中の労働者の取り分である Uと雇用率Uの長期的平均 値について述べている。「撹乱のないシステムはUに対して不変の平均値1'/1/81をもω c
砂 cil,p58 (邦訳, 73-4ページ)。 (22) 印 cil,p58 (邦訳, 74ページ)。 (泊) 印 cit,p 55 (邦訳, 71ページ)。-286- 第57巻 第3号 706 ち,Vに対してη'2/8.,をもっ。それゆえ,一定の長期的平均的なシステムでもなお,同 じ長期の一定値をもっということであ
2
7
」すなわち長期的に見れば,均衡している 状態でも,そうでない状態でも ,u=η,/()" V=1Jz/8., という不変の平均値をもつの である。 また,生産高と雇用量は,'
l
府表的に変動する成長率を示すことについても述べてい る。雇用率Uの時間的平均が一定であるから,雇用量は労働供給と同じ率で成長する。 また ,u (=ω/α)の時間的平均が一定であることから,賃金の上昇率と労働生産性の 上昇率とは均等になる。他方 u(=ω/α)が一定であるということは,生産物中の資本 家の取り分 (1一ω
/
2
)
5
〉が一定であることも意味する。資本・産出高比率。も一定であ れば,利潤率 (l-w/α
)
/
σ
は一定となる。 グッドウィンは,経済成長の過程における賃、金と利潤との関係について,次のよう に述べる。「進歩はまず利潤として生じるが,利潤は拡張に導き,拡張はまた賃金を押 し上げ,利潤を低下させる。・・・これは資本が(資本家の数でないとしてい,過度 に増殖する傾向があるためである。これと対照的に,労働はその供給が可変的だけれ ども賃金の関数だとは思えないから,なんらかの賃料財である。それゆえ労働は技術 進歩からの唯一の究極の受益者であz
:
}
J
このように,技術進歩があった時,生産費 の切り下げから始めは利潤が増大するが,結局は賃金上昇によって押し下げられ,利 潤率はほぼ不変となる。ところが労働の方は,賃金が上がってもそのことのために供 給が増えることは無いから,とくに賃金は下がらない。そこで究極的には技術進歩の ため利益を得るのは労働の方だけである。このようにしてグッドウィンは,次の言葉 で結んでいる。「今までのところ,歴史において起こったことは,賃金率が上昇し,利 潤率はイ尽く留まった (staydown)ということにはかなりの合意があるであろうと私は 考える。この論文が行おうとしたことは,このことの説明である。」 以上で,グッドウィンの「成長循環J
(1967)で展開された,変動する成長率と賃金 および利潤の分配との関係についての見解を考察した。この論文は学界で大きな反響 (24)印 cit,p.58 C邦訳, 74ページ)。(
2
日グッドウィンは,これをここでは利潤率と呼んでいるが,正確には利潤率はCl-w/a)/ 。である。 側 C砂cil,p.58 C邦訳, 74ページ)。 (幻)印 cit,p 58を呼んだが,とくに]ロビンソンから受けた批判に基づいて,グッドウィンは最近新 しい見解を発表している。次節では,これについて検討してみよう。 III グッドウィンの新しい理論 (28) グッドウィンは最近になって,
r
賃金,利潤および変動する成長率J
(1983)という 論文を書いている。これは,第 II節で検討した,r
成長循環J
(1967)の続編である。 「成長循環」に対して,J
ロビンソンは,グッドウィンがマルクスと同じ決定的な間違 いをおかしたと批評したa グッドウィンはたしかに,マルクスと同じように,r
雇用者? と被雇用者との間には利害関係の基礎的な衝突が存在する」と信じていたし,また今 も信じている。しかし他方,彼は,r
失業がある時(雇用者と被雇用者の)双方にとっ て,あらゆるものについてより多くのものが存在し得るJ
というケインズの見解をも 共有している。そこでグッドウィンはJ
ロビンソンの批評に悩まされ,二つの見解が 両立するような解決を与えるため,この新しい論文を書いたのである。 グッドウィンは,このことに関連して,まずリカードーの学説に対するシュンベー ターの批判から取り上げる。シュンペーターによれば,リカードーの学説に含まれて いる方法は,分析を国民生産物の分け前に限り,国民生産物の大きさの決定の問題を 回避しているというのである。これについてグッドウィンは,次のような見解を述べ ている。「このことは,ジョーン(ロビンソン)とカーノレ・マルクスとの聞の問題での その論点と関係があり,同時に私がやや軽率にも落ちこんだ畏を構成する。)」さらに この問題と関連して,スラッファが前記のケインズ的な問題を回避したことを批判し ている。そして,マルクスはリカードーやスラッファと同じ間違いはしなかったが, まだ不十分な点があったことについて述べている。 このような前置きに続いて,グッドウィンは単純化されたモデルのための仮定につ (2助 R M Goodwin, "A Note on Wages, Profits and Fluctuating Growth Rates,"Cam. bridge Journal of Economiω, Sept/Dec.,1983
(29) Cf.op cit, p305. (30) Cf.op. cit, p305 (
31) このような見解は,ケインズの『一般理論
J
にも見られるocfJM Keynes, The GeneralTheoηof Eemployment Interest and Money, 1936, p 4 (32) Gρodwin, "A Note, " p305
-288- 第57巻 第3号 708 いて次のように述べている。「ケインズのやり方で,地代が無く,政府がなく,外国貿 易がなく,また,労働者と資本家のみが存在し,前者は彼らの凡ての所得を消費し, 後者は全く消費しない,そのようなー経済を考察せよ。」ここには,ケインズ的な立 場で議論をするという態度を明白に表わしている。記号は前回の場合とほとんど異 なっている。その主要なものは次のとおりである。 ρu…・…・、価格水準 q' 一"産出高 w"'"・ ・ 貨 幣 賃 金 率
W =
ω'
a
,q+
,F回賃金総額 π…0・"'州・…総利潤a
………・リ凶産出高の単位あたり財投入 α"“0・,....……ぃ産出高の単位あたり労働投入σ
=wa
,…'"・t単位労働費用 λ…""'………・ωマークアップ率Fw
………一"固定的な賃金と給料F
d
.
………・0・・u与えられたプラントと設備についての減価償却F=F
w+
凡 …J産出高に対し不変な貨幣費用 ここには価格水準が現われ,諸量が実質額でなくて,基本的には貨幣額で表わされて いる点が,前の論文と異なっている。 このようにして,総利潤は次のように表わされる。 7C=ρq-F
ー(
p
a
+
ωa
,)q
=均一九一凡ー仰q-wa
,q
=(ρ(
1
-
a
)
q-F
d)ー (F,即+wa
,
q
)
=NNP-W
(
1
9
)
ここで仰は総生産額であり,ρ
a
q
は中間生産物,したがって,ρ(
1
-
a
)q
はGNP
で ある。また分配について次の関係がある。 (お)印 cit,p,306π十
W=NNP
7!W
喝 一 一 一 ,NNP
,NNP
ム したがって,もしNNP
が一定なら,労働の取り分が増えれば利潤がそれだけ滅り,逆 に利潤が増えれば賃金はそれだけ減ることになる。ここでグッドウィンは,分け前は 体系の機能の結果であって,その決定要因ではないことを強調している。 このようにして,まず「基礎的なケインズ的な場合」が考察される。そこでは,固 定費用F
とともに,一定の価格水準丸一定の産出高単位あたり財投入,a が仮定さ れる。また単位労働費用σ=ω
a,は,貨幣賃金率が労働生産性よりも速く上昇したり遅 く上昇したりまたは同じ速さで上昇したりするにしたがって,その値が上昇したり下 落したり不変であったりする。要するに必ずしも不変ではないのである。このように して,総利潤を表わす式は次のようになる。 π=五
(
(l-a)-
σ)q-F(
2
6
したがって,σ
の値が与えられれば,利潤は産出高 qに対して l次関数の形で変動す る。もし σの値が大きくなれば,qの係数が小さくなるので,qが πを決定する力を 弱める。また ,qはσ
から独立ではないとしている。次に,失業がある場合,産出高 が有効需要によって決定されるという,とくにケインズ的な方程式を示している。 q= (α+a/ρ) q+A (21) このAについてグッドウィンは,I
凡ての非体系的な実質需要の総計」と言っている。 要するに独立投資のようなものを考えているのである。 ここでグッドウィンは,これらこつの方程式を基礎に,賃金と利潤の分配関係の二 つの場合について,次のように述べている。 1(20) 式において,もし生産高が完全雇 用またはその他の理由のため固定されているなら,生産性以上の貨幣賃金の増大は, 必然的に利潤の下落を意味する。他方,全く異なった場合すなわちケインズの場合に は, (21)式におけるように,産出高は有効需要とともに変化可能であり,またそれに よって決定される。そこで実質賃金費用の増加は有効需要を増大させるであろうし, かくして産出高と利潤を増加させるであろ史〉」ここには,この論文でのグッドウイ倒 7/:=
p
q
-
F-(
p
a
十wa,)q=(
p
一
五
五
-wa,)q-F=五
(1-a)-o) q-F 倒 門q+子
+A=仰
+
与
.Q..+A= (a+ojp) q+A-290- 第57巻 第3号 710 ンの基本的な考え方が出ている。すなわち,分配の問題を二つの場合に分け,完全雇 用などのため産出高が固定している場合と,失業があり産出高が有効需要とともに変 化する場合を区別しているのである。前者の場合にはリカードー,マルクスおよびス ラッファの説のように,賃金と利潤の増減が逆向きの動きをする。そして後者のケイ ンズ的な場合には,有効需要の増大とともに,賃金と利潤の双方が増大するのである。 グッドウィンは,ここでは,とくに後者の場合を強調しているのである。 次にグッドウィンは, (20)式と (21)式とから,ケインズ的結論が得られることを, 式で示している。「この単純なモデルにおいて,二つの効果は正確に相殺される。すな わち (21)式を (20)式に代入すると,われわれは利潤が賃金と無関係であることを 見出す。
J
(
2
1)式を変形すると次のようになる。q - - J A
一ρ
(l-a)っ
- 0 これを (20)式に代入すると次式が得られる。 -p(l-a)-aπ
p (l-a)一σ
pA-F=pA-Y(
2
2
)
このようにして,利潤πの決定要因には,可変的な賃金部分が入っていないことが分 かる。そこでグッドウィンは,このところの結論を次のように述べる「賃金率の上昇 は需要を増加させ,かくして賃金と利潤の双方を等しく増加させるような仕方で産出 高を増加させる。このようにして,より現実的な場合においでさえ,逆向きの関係は (38) たしかに存在しないのである。」これが,グッドウィンの単純なケインズ的モデルの 結論である。 ところで,これまでは価格水準を一定としていたが,グッドウィンは次に,それが 変化する場合について分析している。すなわち,現代経済においては,単位労働費用 が上昇するところで不変の諸価格を仮定することは許されないとして,マークアップ 方式で決定される価格水準が変化する場合を考察している。そこで,一定のマークアッ プ率λを仮定し,生産者が価格を設定するとする。価格は次式のように定められる。 ρ (1+λ) (pa,
+
σ) (37) Op.cit, p.306 (3目 印 ιit,p306 (23)ここで仰は,産出物1単位あたりの財投入の費用,すなわち原材料費である。
σ
=wa
1
は産出物l単位、あたりの労働費用である。これらの和にλの率のマークアップを加え て価格p
を決めるのである。 次にグッドウィンは,マークアップが,予想される産出高F
のもとで,固定費用と 望ましい利潤 f を賄うよう,おおまかに計算される場合について考察している。この 場合には価格は次のように決定される。すなわち (23)式を変形する乙次のようにな る。 ρ=ρα十σ+λ(ρα +0) そこで,マークアップを F +が/q*と決めると,価格は次のように決められる。 π一
+
一
q
F
一
+
σ
+
α
A U 4 一 一 A M A (24) このようにして価格が決定されると,労働の実質単位費用。'=wal/
ρ
は次のように決 まる。 1 (39)。
= α1 + λ w また実質賃金率 ω/
p
は ゲ/
a
l
であるので,次のように定まる。 ω 1 , 1 、p
τLττ
工
-a) (25) このようにして, (24)式で定まる価格のもとで実質賃金も実質利潤7(*
/
ρ
も定まる。 また,賃金と利潤の分配の分け前も均衡においては次式のように定まる。 ωajq*十F
ω
7(* 一 司 (40) 一 一 回 ρ (1-a) q*-Fd Iρ(1-α)♂一九一ょ (湖 (23)式より ρI
(1+λ)=
p
a
+
o
'
1¥c
r
=
ρI
(1+λ)-pa
引 引11/ρ=1/ (1+λ)-a=o"
グッドウィンは,W
a
l
,も仰:,/
ρ
も同じ oという記号で表わしているが,ここでは区別 した。 側 (19)式より πホ=何事-F
一(
p
a
一 問 ) q* =ρq*-j何事一 ωa,
q*一九一九 人 科a,
q事+Fw+π車=ρ (1-a) q*ーFd ωa
,
q*+Fw+7( 戸(1-a) q縦 一F-;-~-292- 第57巻 第3号 712 左辺の分母は
NNP
である。そこで左辺第1項は,賃金の分配率,第2項は利潤分配率 である。しかし,一定のマークアップ率λで以て4均衡にない q>♂の時は正常以4上 の利潤が生じ ,q<
♂の時は正常以下lの利潤が生じるとしている。 今は,マークアップが,予想される産出高のもとで固定費用と望ましい利潤を賄う ように計算される場合であった。次には産出高が可変で、,諸価格が一定率λのマーク アップで定められる場合の分配の問題が考察される。ところでは9
)
式から分かるよ うに ,NNP
は次のように表わされる。W+
π
=
ρ (
l
-
a
)
q-Fd (23)式を使って,これを次のように変形する。W+
π=1/(JJf)-a
叫-F
(26) ただし,ここでは単純化のためFw=0
としている。そうすると,賃金総額W
は次の ようになる。 W=walq=Oq また (26)式から,利潤 πは次のようになる。(
2
7
)
= ( l-~-l)
oq -F (28) 1/ (1+λ)-a
グッドウィンは,これらの(
2
6
)
,(
2
7
)
式から,この場合の分配について次のように 述べる。「産出高の増加は ,W
と
πの双方を増加させるだろう。そして,単位賃金費 用の増加もまた,双方を増加させるであろうが,それは諸価格の上昇を通じてである。 どちらの場合にも,相対的分け前は変わるかもしれないが,逆向きの関係i
n
v
e
r
s
er
e
l
a
-t
i
o
n
はない。」 九 F h 一 ﹁ 叫 凡 a J W一
﹂
w一
一
戸
一
ト
一
σ
仁 1 訂 G 一 ﹁ 一え(一(二 1二
-Ah
l
一 十 乙L
し
17 一 十 如よ
一
-=
一
P
一
-p
f
z
=
=
i
p
+
i
d
m F W U ( 0 6ところで,今まではずっと失業があり産出高が可変である,ケインズの世界で分配 の考察をしてきた。グッドウィンは続いて,マークアップ方式で価格が定められるが, 産出高が拘束されている場合の考察に移る。「どのような理由のためにせよ,産出高が 拘束されている時には分析は著しく変化し,それゆえ,我々は実質賃金と実質利潤を 考察しなければならない。産出高が与えられたものとして,我々はスラッファ・マル クス・リカードーの世界に還っている。すなわち,一方のより多くは他方のより少く で、ぁ
Z
f
」そして完全雇用のために産出高が拘束されている場合についての分配の問 題や,これと関連して,ジョーン・ロビンソンの批判に対する釈明などを行っている。 「このようにして,完全雇用により拘束された産出高で以て(また,一定の減価償却で 以て),実質賃金総額の上昇は必然的に実質利潤の下落を意味する。したがって労働不 足があると実質賃金は強く上昇する傾向にあるので,賃金と利潤の逆向きの関係の問 題が生じるのは,完全雇用の領域においてである。これは労働予備軍の変動について のマルクス的概念である。そしておそらく,私がそれの作用の領域を正しく制限しな かったためにジョーンが異義を唱えたモデルに,私が導入したのはこの概念であっz
f
」すなわち,賃金が上昇すれば,利潤が下落するという逆向きの関係は,完全雇 用の領域においてのみ妥当するのに,そのように正しく制限しなかったので,ジヨ} ン4ロビンソンから批判を受けたと説明しているのである。 続いて,完全雇用で労働が稀少である時に,賃金の分け前が増え利潤の分け前が減 るメカニズムについて,次のように述べている。「労働が稀少になる時,二つの重要な 事柄が生じる。すなわち,実質賃金がほとんど確実に生産性以上に上昇し,また同時 に産出高の成長率は必然的に減速し始め,そしてそれは予想,投資,したがって利潤 における下落に導き,しばしばそれを促進する。したがって,総賃金と総利潤の双方 は,前者は後者よりも小さくではあるが下落し,それゆえ労働の分け前は上昇する一 方,利潤の分け前は下落する。J
このことは好況で労働が稀少になっている時の,賃 金と利潤の逆向きの関係の問題である。 さらにグッドウィンは,底深い不況時も,賃金と利潤の聞の逆向きの関係が生じ得 (43) Op cit, p..308 (44) 匂 cit,p..308 臼 日 Op cil, p..308- 294 -. 第
5
7
巻 第3
号 714 ることについて述べている。「幾分類似的に,単位労働費用は不況において下落する傾 向にある。というのは,労働生産性は上昇し続けるが,賃金率は激しい失業にもかか わらず下落しないからである。諸価格は値下げされるよりも速やかに値上げされる傾 向がある。それゆえ,再び相対的分け前は変わり,単位手JI潤はゆっくりと回復する一 方,実質賃金は比較的に不変に留まる。」前述のように,単位労働費用 (J'=wajは,貨 幣賃金率wと労働の生産性1
/
仏の比である。 wがほぼ一定で労働の生産性の逆数aj が小さくなれば単位労働費用σ
は下がるのである。そこで生産物一単位あたりの利潤 は上がる。また価格ρ
は下がるよりも上がる傾向が強いとすれば,実質賃金率ω/
p
は 惑くすると下がるかもしれないし,上がるとしでもあまり上がらない。このようにし て不況のどん底で産出高が拘束されている時には,利潤が増え賃金が減るという逆向 きの関係が生じる。グッドウィンはあまり細かいことは言っていないが,前後の関係 からこのようなととを考えていると思われる。 以上で,賃金と利潤が同時に増大したり減少したりするケインズ的な場合と,賃金 が増大すれば利潤が減少し,利潤が増大すれば賃金が減少するという,リカードー・ マルクス・スラップァ的な場合についての,グッドウィンの所説の説明を終えた。グッ ドウィンはこのことと景気循環との関係については,次のように述べている。「拡張と 収縮において,実質および(または)貨幣賃金と利潤は,一緒に上昇したり下落する ことが出来る。しかし高い雇用の場合と深い不況の場合において,逆向きの動き (in
v
e
r
s
e
m
o
v
e
m
e
n
t
)
が生じ得,相対的分け前は変化する。」このようにして,グッド ウィンは始め,賃金と利潤との聞の逆向きの関係がある場合として,完全雇用の場合 を述べ,同じ方向への動きがある場合として失業のあるケインズの世界を挙げた。し かし後には,賃金と利潤が逆向きに動くか同じ方向に動くかという問題を,景気循環 の局面と関係づけて説明している。これら二つの説明は無関係ではないが,一応区別 されるべきである。 グッドウィンは,論文の最後で,前回の論文「成長循環J
(1967)に掲載していた第3
図の一部をもう一度掲げ,以上の問題と図との関係について述べている。ただし今 回は前とは逆に ,uを縦軸にはかり ,vを横軸にはかっているので,循環の動きの方向 臼) O
6
p
ci,
.
t
p
3
0
8
仰 ) 印 cit,p..309が逆向きになっていることに注意すべきである。 M +1
ι
→
J
工
第4図+
1 v この図についてグッドウィンは次のように説明している。I
U
,Vの位相空間におい て(Uは賃金の分け前で,Vは雇用率すなわち,総労働力に対する就労している者の比 率),体系の典型的な動きは,第4図におけるように拡張と収縮の中ほどの範囲でかな (48) り不変な分け前であり,周極端において鋭い曲率を伴うものであるだろう。」 このグッドウィンの言葉を手がかりに,この図の内容について,詳しく考えてみよ う。第4図の横軸は雇用率Uをはかっているので,右へ行くほど景気の良い状態であ り,+1のところで完全雇用に達する。描かれている循環を見ると体系は完全雇用に達 していず,失業が常時存在するケインズの世界を念頭においているものと考えられる。 縦軸にはかられている Uは,生産物中の労働者の取り分すなわち賃金分配率である。 したがって,その値が+1に近づくほど賃金分配率が大きくなり,利潤分配率が小さ くなる。 景気の四つの局面について考えてみると,循環の右端が景気の峰であり,左端が谷 である。そして上側は収縮の局面で,下側は拡張の局面である。グッドウィンの言葉 のとおり,拡張と収縮の中ほどの範囲では,体系はほぽ水平に移動している。すなわ ち賃金と利潤の相対的分け前は安定しており,双方は同時に増大したり減少したりし ている。ところが,拡張と収縮の両端では,閉曲線は急速に曲がっており,相対的分ω
:
)
C
沙cit,p 309-296
一 第57巻 第3号 716 け前が急激に変わり始めることを示している。そして好況の峰では賃金に有利な分配 の逆向きの動き4が生じ,谷では利潤に有利な逆向きの動きが生じているのである。 このようにしてグッドウィンは,新しい論文「賃金,利潤および変動する成長率に 関する覚書J
(
1
9
8
3
)
では,I
成長循環J
(
1
9
6
7
)
では取り扱わなかった,賃金と利潤の 逆向きの動きの生じない,ケインズ的世界の分析を行っている。そして,賃金と利潤 の逆向きの動きおよび閉じ方向への動きと,景気循環の諸局面との関係についても明 らかにしたのである。I
V
むすび 以上のようにして,成長率が変動する過程における,賃金と利潤の聞の分配の問題 についての,RM
グッドウィンの所説について考察した。まず,1
9
6
7
年に書かれた「成 長循環」という論文について検討した。続いて,この論文に対してなされたJ
ロビン ソンの批評に答える形で書かれた,新しい論文「賃金,利潤および変動する成長率」(
1
9
8
3
)
の所説に‘ついて検討した。 「成長循環J
(
1
9
6
7
)
においては,生産物中の労働者の取り分(賃金分配率)uと, 雇用率Uというこつの変数を中心に置いている。そして ,U, V平面上で表わされる体 系が,景気循環の進行につれて一つの閉曲線を描くことを述べている。そして,この 閉曲線上の運動の経済学的意味についても説明し,マルクスの学説との関連について も述べている。すなわち,I
これは本質的にマルクスが,資本主義の矛盾および好況と 不況という形でのその一時的解決によって意味したもの」なのである。しかし,マル クスの説と異なる点についてもふれている。 またグッドウィンは,生産物中の労働者の取り分である Uと雇用率Uの,一定の長 期的平均値が存在することについても述べている。 そして,経済成長の過程での賃金と利潤との関係についても述べている。すなわち, 技術進歩があった時,始めは利潤が増大するが,結局賃金上昇によって押し下げられ, 究極的に技術進歩のため利益を受けるのは,労働だけだとしている。そして,最後に, この論文で行おうとしたのは,歴史上賃金率が上昇し利潤が低く留まったことの,理 論的説明であるとしている。 このようにして,グッドウィンはこの論文で,賃金と利潤の分配の問題を,短期的な成長率循環と長期的な経済成長とのニつの事柄と関連させて分析している。そして, これらの問題を考察する時,マルクスと同じように,資本と労働の利害の対立関係に 重点を置いている。また問題点としては,諸量を実質額でのみ表わしており,これと 関連して,物価とくにインフレーションの問題を無視していること等である。 続いて, 16年後に出されたグッドウィンの論文「賃金,利潤および変動する成長率」 (1983)について考察した。これは,前の論文に対し,
J
ロビンソンが,グッドウィン がマルクスと同じ決定的な間違いをおかしていると批評したことに答えるために書か れたものである。そこで彼は,r
雇用者と被雇用者との間には利害関係の基礎的な衝突 が存在する」というマルクスの見解と,r
失業がある時,双方にとってあらゆるものに ついてより多くのものが存在し得る」というケインズの見解とを,調和させようとし たのである。 この論文でも,変動しながら経済が成長する過程での,賃金と利潤の分配の問題を 取り扱っている。しかし,分析方法の一つの重要な違いは,前回は諸霊を実質額のみ ではかっていたが,今回は基本的には名目額ではかっていることである。それは,マ} クアップ方式による価格決定を仮定し,価格水準,とくにインフレーションの問題と の関連を考慮しているからである。また,ケインズ的世界の分析には,それが必要と 考えたためである。 そこでまず,失業が存在して産出高が有効需要とともに変化し,賃金と利潤とが同 じ方向に動くところの,ケインズ的世界での分配の分析を行っている。次に,完全雇 用などによって産出高が拘束されており,賃金と利潤との聞に逆向きの動きの関係の ある,リカードー・マルクス・スラッファ的世界での分配の分析を行っている。グッ ドウィンにとっては,これらこつの場合は決して矛盾するものではなく,両立し得る ものである。 次にグッドウィンは,前回の論文にも掲げていたような,生産物中の労働の取り分 (賃金分配率)
u
と雇用率Uを両軸にはかる平面上の閉曲線を再び使用している。そし て,景気循環の諸局面と,賃金と利潤が同じ方向に動いたり逆向きの動きをしたりす る問題との関連を,説明している。 前回の論文と比較する時,インフレーションの問題を組み込んでいることが一つの 特徴として考えられる。そして,リカードー・マルクス・スラッファ的世界の分配の-298- 第57巻 第3号 718
〆問題と,ケインズ的世界の分配の問題を,うまく統一的に説明していると思われる。 また,景気循環の諸局面と分配の関係の説明も,より明快になっていると考えられる。