香川生物(KagawaS¢ibubu)(34):31−36,2007
香川県高松市屋島洞窟のコウモリ混棲群における
モモジロコウモリの新生獣の個体数変動吉 川 武 憲
〒76ト0311高松市元山町88番地2 高松市立協和中学校藤 田 正 芳
〒768−0101三豊市山本町辻876番地 三豊市観音寺市学校組合立三豊中学校ChangesoftheNumberofNew−bornYoungin叫′Otismacroddco,lus
amongMixedBatColomiesattheYashimaCavesinTakamatsuCity,
KagawaPreftcture,Shikoku,Japan TakenoriYoshibwa,勒0棚九〟わ′・戊gゐ∫cゐ00ち乃肋刑α叫ぬgα㈹,花川タブ了ノ呼α乃 hlil叫・仲山‖へ一血t‥lJh、・りJ…∫ん′′川.れ=川イ‥l仙w・ん′.ヾ・…・・′・「小′′=′い′一世′JJ Abstract‥Thechangesofthenumberofnew−bornyoung were studied in Myotis macrodactylus
amongmixedbatcoloniesoneveryJunefrom1996
to2006attheYashimacavesinTakamatsuCity,
Kqgawa Pr・efbcture,JapanTheidentificationfor the species and the counting the nu叩ber・Ofthe new−bornyoungwerecarriedoutbyenlar苫edpic− tures phot(堰raphedin the caves.The new−born young wer−e Observedeveryyear”Thenumberof thenew−bornyoungwasestimatedas2550naVer− ageperyearItwasconsideredthatthenew−bornyoungshownearlyconstantinnumberduringthe
year’Sinvestigated は じめ に 晴乳類にとって,その地域で出産,そして,晴育ができる環境にあるかどうかは,そ
の地域に生息できるかどうかを決める重要なポイントである。洞窟棲のコウモリ煩が自然
の大洞窟のない香川県で,継続して−出産・哺
育できる場所があるかどうかは,コウモリ頬
の生息状況におおいに反映する。 香川県で洞窟棲コウモリ類の出産・哺育群が発見された報告は少なく(森井,1969,
1980;吉川,1996,1997),さらに出産・晴育
群の規模を正確に把握している報告はない。
本調査は,1996年から2006年までの11年間に
おける高松市屋島洞窟で形成されるコウモリ 混棲群で出産されたモモジロコウモリの新生獣の個体数の変動を中心に報告する。
稿を始めるに当たり,論文作成において適
切なご指導を頂いた香川大学教育学部生物学 − 31−OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
Fig・1lⅠ・JX:ationfbrastudyarea だ画像をA4用紙にいっぱいに引き伸ばして プリントアウトし,新生獣の種の判定や体色 の観察,そして,個体数を数えた。新生獣の 個体数は,同じ作業を3回行いその平均とし た。 1999年の三穴洞窟と2000年,2005年の北嶺 洞窟では新生獣のコロニーの存在を確認でき たが,個体数を確認することができるような 写真を撮ることができなかった.ため,コロ ニー・の大きさや種を目視で観察した.。 結 果 1998年から2006年まで毎年モモジロコウモ リの新生獣を中心としたコロニー・がみられ た。そのコロニー・は北嶺洞窟,三穴洞窟だけ
にみられた年と両方の洞窟にみられた年が
あった。Fig.2は撮影されたモモジロコウモ リの新生猷を中心としたコロニ・−であり, Fig.3は写真から数えられた各年のモモジロ コウモリの新生獣の全個体数の変動を洞窟ご とに示したものである。1996年から2006年ま での両洞窟で1年間に生まれるモモジロコウ モリの新生獣の平均個体数とその標準偏差は 255±蝕5(総個体数=2037)頭であった。教室金子之史教授に心からお礼を申し上げ
る。また,調査にご同行頂いた香川県自然科
学館専門職員であった小笠原善実氏,並びに
鳴門教育大学大学院藤谷光氏に感謝の意を表 する。 調査内容ならびに方法1996年から2006年の毎年6月中旬から下旬
かけて,高松市屋島西町にある屋島洞窟を調
査した(Fig.1)。屋島洞窟はいくつかの洞窟
群で構成されており,北嶺洞窟と三穴洞窟は
そのうちの主要な洞窟である。こ.の2つの洞
窟ははぼ同じ高度に掘られた採石用の穴で,
100m以上の長さがある。両洞窟ともに,最深
部は閉じて■おり,空気の出入りがはとんどな
い。さらに,内部には複雑に枝分かれした数
本の横穴を持ち,その−・部の穴の底には水が
たまっている。 調査は親コウモリが採餌のために出洞したと思われる20時以降に行われた。入洞後,新
生獣のコロニーがあると思われる近くまで静かに近づき,カメラで素早く新生獣のコロ
ニーを撮影した。その後,洞窟内の最深部の
気温を測定した。後日,パソコンに取り込ん
− 32 −Mituana(1996)
Hokurei(1996) Mituana(1997)
Mituana(1998) Hokurei(2001) Hokurei(2002)
Mituana−2(2003) Mituana(2002) Mituana−1(2003) Hokurei(2006) Mituana(2004) Fig・2.Acolonyofnew−bornyounglntWOCaVeSirlAb)Otismacrodacty[us・
ニーには1∼2頭のコキクガシラコウモリ
月ゐよ〃OJ野鳥〝∫CO用〟加の新生猷や数頭のエビナ ガコウモリAポ〃g呼Je川∫ルJggよ〃0∫〟∫の成獣の混成 が見られることがあった。 考 察 1996年から2006年までの‖年間,屋島洞窟 洞窟内の最深部の気温は12.5℃∼15.5℃で あったが,新生獣のコロニーがみられたのは 13.0℃∼15.5℃の間であった(Tablel)。 新生獣の体色は、生まれて間もない肌色の ものとある程度時間が経っていると思われる 灰色,そしてさらに成長がみられる黒色をし たものが混成していた(Table 2)。そのコロ − 33 −OLIVE 香川大学学術情報リポジトリ
1996 1997 199名 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006
Year Fig・31,Frequenciesofthenumberofnew−bornyounginA4yotismacrodactylusfbrllyearsAquestionmarkindicatesthatthenumbercouldnotbecounted
(森井,1980;吉川,1996)や本調査から推 測すれば,屋島洞窟でのモモジロコウモリの 出産開始時期は5月下旬から6月上旬と考え られるが,新生獣の体色から判断して,出産 日がばらついていることが推測される(Table 2)。さらに前田(1976)は,北海道でのモモ ジロコウモリは生後25日から35日で飛翔が可 能になると述べて−いる。2004年の個体数の減 少は,もともと出産数が少なかったとも考えられるが,この年の調査日が6月下旬であ
り,すでに飛翔できる個体が多数いたと思われる。したがって,屋島洞窟におけるモモジ
ロコウモリの出産数は年によってばらつきはあるが,はぼ安定していると考えられる。言
い換えれば,親コウモリが採餌でき,安全に 晴育できる環境が屋島洞窟周辺で確保されて ではモモジロコウモリを主とする新生獣のコ ロニーを毎年確認することができた。そのコ ロニ・−・は北嶺洞窟と三穴洞窟両方にみられる 年と,北嶺洞窟,三穴洞窟のいずれかに単独 でみられる年があった。コウモリ叛が洞窟を 選択する基準として−洞窟内の温度の違いが考えられるが,Tablelより13.0℃∼15.5℃ま
での範囲では温度によっていずれかの洞窟を選択している傾向はみられない。しかし,
12.5℃に下がっている洞窟では新生獣のコロ ニーがみられなかった。新生獣は体温調節機 能がまだ十分に発達しておらず,低温の洞窟 を避けた可能性もある。 モモジロコウモリの新生獣の個体数は, 2004年を除きほぼ200∼300頭前後の新生獣が 誕生している(Fig.3)。現在までの調査報告 一 34 一Tablel.Date,air・temPer・ature,PreSentOrabsentofnew−bolnyOunginMyotismacTOdac(ylus Airtemperature(℃) 12..5 13.0 13..5 14..0 14..5 Jun..14,1996 Jun..13,1997 Jun.14,1998 Jun.19,1999 (丁.,) × 0 0 0 (j Jun..11,2000 ぐ疇) Jun..10,2001 Jun..09,2002 く疇、) Jun..21.2003 (‘)
×
Jun…23,2004 Jun…25,2005 Jun…13,2006 喜 ㊦O present
X ab$ent
()present 式 absent Mitsuana Hokurei いるといえる。屋島洞窟は高松市中心街のす ぐ近くにあり住宅地と海に囲まれている状況 から考えると,これ以上モモジロコウモリが 生略していける環境が広がっていくとは考え られない。 モモジロコウモリの出産の状況を悪化させ ないためにも,自然の残された屋島周辺全体 の環境を今のまま守っていく姿勢が強く求め られる。引 用 文 献
前田啓四雄.1976い モモジロコウモリ, Ab70tisfnaC′Odacty[u5(Temminck,1840)の成 長と発育Ⅰ.外部形態と繁殖習性小 成長15 (3):29−40.森井隆三.1969.香川屋島洞窟における
叫oJよ5椚αC′・0血叫′J椚に、ついて.晴乳動物学 雑誌4(4,5,6):141−1服. 森井隆三1980い 香川県産モモジロコウモリTable2・Bodycolorofnew−bornyoung
in物oJム椚αC′OdαC秒J〝! Bodycolorofnew−・bornyoung P;nk G帽y Bt8¢k Jun…14,1996 ●●
Jun..13,1997 ●●
●
Jun..14,1998 ●●
●
Jun..19,1999 Jun‖11,2000 Jun..10,2001 Jun..09,2002 Jun…21,2003 Jun.23,2004 Jun“25,2005 ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● Jun‖13,2006 ●●
●
●presentintheHokureiorMituana
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然科学館研究報告18:19−24. 吉川武意.i997.香川県におけるモモジロコ ウモリの群れの構成とその変動.香川県自 然科学館研究報告19:9−14 (鳩,0ぬ椚αCrO血c秒J〝∫)の外部および内部形 態と出産時期について.香川生物9:5−9. 吉川武志.1996、.香川県高松市屋島洞窟のコ ウモリ混棲群におけるモモジロコウモリの 新生獣の数と分娩時期について.香川県自 ー 36 −