香川大学教育実践総合研究(Bull. Educ. Res. Teach. Develop. Kagawa Univ.),20:99−110,2010
授業づくり・授業改善に向けた教師の 「評価力」の
向上に関する研究(1)
授業づくり・授業改善に向けた教師の「評価力」の向上に関する研究プロジェクト
(附属教育実践総合センター)
760-8522 高松市幸町1−1 香川大学教育学部The Development of Teachers' Skill of Evaluation for the
Purpose of Class Planning and Improvement (1)
Research Project on the Development of Teachers' Skill of Evaluation for the
Purpose of Class Planning and Improvement
(Center for Educational Research and Teacher Development)
Faculty of Education, Kagawa University, 1-1 Saiwai-cho, Takamatsu 760-8522
要 旨 本研究では,「評価力」(より望ましい授業づくり・授業改善に向けた自らの授業を 自己点検する力)に着目し,教師の実践的指導力向上に関わる研究を行った。とりわけ校内 授業研究(校内研修)に焦点を当て,そこでの「評価力」の向上について検討を行うととも に,これからの校内授業研究の在り方についても言及した。本稿では,附属高松小学校と附 属坂出小学校の研究成果を中心に検討を行った。 キーワード 授業づくり 授業改善 評価力 校内授業研究 実践的指導力
はじめに
今日の学校現場において,児童生徒にわかる 授業,楽しい授業を展開することは,学力の向 上はもとより生徒指導面からも重要な課題と なっている。児童生徒の学びを確かなものにす るために,教師の実践的指導力が強く求められ ていると言えよう。 こうした問題意識に立ち,本研究では,「評 価力」(より望ましい授業づくり・授業改善に 向けた自らの授業を自己点検する力)に着目し 研究を進めた。教師それぞれが,より望ましい 授業づくりに向け,自らの授業実践を振り返り つつ,よりよい授業を作っていくことのできる 授業改善の力を向上させていくための一つの方 略として,校内授業研究(校内研修)に焦点を 当て,そこでの「評価力」の向上について検討 を行うこととした。 本稿では,まず,研究プロジェクトの経緯及 びそこで議論となったことを整理する。次に, 附属小学校における校内授業研究の改善の試み を示すとともに,そこから「評価力」向上に向 かう校内授業研究の在り方について検討してい く。Ⅰ.研究プロジェクトの経緯
1.1年次(平成19年度)における研究の焦点化 1年次は,校内授業研究の先行研究として, 香川県教育センターの研究成果に学んだ。香川 県の校内授業研究の意識・実態調査,また「授 業を変える『評価力』」の構造(RV・PDCA) などを学ぶことを端緒とした。県教育センター の研究成果(これからの校内研修の在り方−授 業を変える「評価力」−)の3つの視点:①焦 点化・共有化,②子どもの視点・多元性,③継 承性・継続性や,各附属学校から報告がなされ た「本校が考える授業像と授業を評価する視点 及び授業改善への取り組み」を参考にしつつ, 「授業改善→校内授業研究の在り方」を検討し ていくための要素として,11の要素を導き出し た。以下の通りである。 Ⅰ.1.全体の課題の明確化・焦点化(テー マ、目指す授業像) 2.個の課題の明確化・焦点化(個々 の授業改善の課題) 3.相互の課題の理解と共有化(上記 1,2を受けて) Ⅱ.1.多面的・多角的分析(様々な視点 からの検討) 2.根拠の明確化(子どもの学ぶ姿(抽 出児)・理論的裏付け) 3.代案の提示 4.授業改善への見通し(改善の方向 性の共有化)(上記1∼3を受けて) Ⅲ.1.校内研修の成果の共有とその具体 化(継承性・継続性) Ⅳ.1.校内研修への主体的関与(参観・ 討議) 2.評価の視点・尺度 3.基本的指導技術 こうした要素をもとに,図1のシートを作成 し,各附属学校での校内授業研究の現状を整理 した。 各附属学校には,これらを参考にしていただ き,いくつかの要素に焦点を当て,各附属学校 の研究テーマと関わるところで改善の取り組み (試行)を実施し,一人一人の教員の評価力の 向上について,また校内授業研究の在り方につ いて検討を行った。 1年次の議論を通じて仮説的に導き出されて きたことは,「自分の授業を客観視する力」が 「自分の授業を改善していく力」になり得ると いうものである。こうした力を身に付けていく ことができるような校内授業研究の在り方を問 うていくことが課題となった。 2.2年次(平成20年度)における各附属学校 での工夫・改善(試行) 2年次は,教師が自分の授業を客観的に捉え ること(メタ認知)と,あらたな改善策を見い 出していくこと(授業改善)ができるような校 内授業研究の在り方を,実践を通して明らかに していくことになった。具体的には,各附属学 校でのこれまでの校内授業研究を生かしつつ, 他の附属学校の取り組み(実践・方法)や県教 育センターの研究成果,また11の要素を参考に して,校内授業研究の在り方についての実践的 検討を行った。その過程を通じて,一般化(共 有化)できる視点の抽出とその検証を実施した。Ⅱ.附属高松小学校における校内研修の
現状と課題・改善
1.はじめに 附属高松小学校では,「自ら学びを高め,伸 びを実感する子」をテーマに研究に取り組んで いる。子どもたち自身が興味や関心をもって進 んで学習に取り組み,獲得した知識・技能,生 活経験等をつないだりつなぎかえたりしながら 自己の課題を解決していくことを目指してい る。そして,そのような授業を通して,子ども たちは自らの伸びを実感し,学ぶ意欲や態度を 高めていくと考えている。 また,上記の研究主題に加えて,「『活用』に 着目した指導と評価」をサブテーマに設定している。今回の学習指導要領の改訂において, 「習得」「活用」「探究」という学習指導の在り 方が強調されているためである。学習指導の在 り方においては,教師の意図性と子どもたちの 思考過程が一致するよう,授業過程の見直しと 改善が求められる。更に言えば,教師の実践的 指導力の向上が目指されなければならない。 そこで,今回,深まりのある研修をするため に,これまでの本校の校内研修の課題を明らか にし,その課題が改善される研修方法について 考えることとした。 2.本校の校内研修の現状と研究方法 研究テーマを年度当初に設定し,研究部を中 心とした研究組織のもとで研究を進めている。 週に1∼2回の研究授業を行い,その実践事例 をもとに研究主題についての討議をする。 ①事前研修 研究授業担当者が,授業2週間前に研究部に よる事前の研修を行う。授業の方向性や内容に ついて,研究テーマとのかかわりから検討す る。 ②研究授業 研究授業時には,抽出児童を決めておき,研 究テーマに沿った視点で見取る。特に,この抽 出児童の選定に当たっては,サブテーマでもあ る評価をもとに考えている。また,事前に提案 資料を配布することで,事前に授業内容や提案 内容を理解した上で,全員で授業を参観する。 授業後の討議会は,教員全員での討議スタイ ルで話し合いをする。この討議では,研究テー マをもとに授業者が提案した内容についての検 附属高松 小学校 附属高松中学校 附属坂出小学校 附属坂出中学校 附属特別支援学校 Ⅰ 1 明確化・焦点化全体の課題の 成 果 課 題 改善案 2 明確化・焦点化個の課題の 成 果課 題 改善案 3 相互の課題の理解と共有化 成 果 課 題 改善案 Ⅱ 1 多角的分析多面的・ 成 果 課 題 改善案 2 根拠の明確化 成 果 課 題 改善案 3 代案の提示 成 果課 題 改善案 4 授業改善への見通し 成 果 課 題 改善案 Ⅲ 成果の共有と校内研修の その具体化 成 果 課 題 改善案 Ⅳ 1 校内研修への主体的関与 成 果課 題 改善案 2 評価視点・尺度 成 果課 題 改善案 3 基本的指導技術 成 果 課 題 改善案 図1 「校内研修に関するアンケート」から見えてくること
(2)研修方法 3回の研修にワークショップ型の討議スタイ ルを取り入れた。これらのワークショップ型の 討議方法は,現在,公立学校で多く取り入れら れているものであり,討議の活性化や研究の深 まりを目的として考えられている。そこで,本 校においてもこの討議方法をとり,本校に合っ た討議方法について検討していく。特に,全員 の多様な意見の表出を目指し,教員の授業づく り・指導力の向上を図ることとした。 また,毎回,討議方法についての意見交換す る時間を設定したり,アンケートを取ったりす ることで,研修方法を改善し,よりよい研修を 考えた。 5.研究の実際 (1)第1回目研修について <討議方法> ①授業前(従来通り) 授業者が授業前日までに,提案授業について の資料を配布する。また,各自で資料から提案 事項について把握し理解する。 ②授業中 提案内容について,よい点と改善点を付箋紙 に記入する。その際,疑問点等を各自でもつよ うにする。また,抽出児の授業中の様相につい ての調査も合わせて行う。 ③授業後の討議 ・提案内容について授業者から提案し,その 後質疑応答のみを行う。 ・小グループ(低・中・高学年)に分かれ, 提案事項について討議する。 ・グループで話し合われたことの報告ととも に,課題を明確にし,課題について全体討 議をする。 <討議スタイルについての成果と課題> ①成果 少人数に分かれることによって,各自の意見 が出しやすく様々な考えを引き出すことができ た。また,教師の指導力にかかわる内容も出さ れた。 討を行う。ただし,前回までの討議で明らかに なった視点や内容とも比較検討することによっ て,より研究主題に迫れるようにする。 ③全体会・部会ごとの討議 授業研究だけでなく,専門部会(教科・楷の 木活動・ふれあい学習等)に分かれ,定期的に 研究テーマについての話し合いの場を持つ。こ のことにより,課題を明確にするとともに,そ の後の研究の見通しをもつ。 また,定期的に各方面からの講師を招き,本 校の研究の在り方や考え方についての指導・助 言をいただく。 3.これまでの校内研修の課題 (1)討議内容の深まりとつながり 毎回の討議では,その日の授業者からの提案 について討議を行うスタイルであるため,提案 の意味の解釈について共通理解をしたり,討議 の中核になる部分について絞り込んだりするま でに時間がかかっている。ただし,この時間が 討議会参加者の思考を深め,研究の課題や成果 が見えてくるため,必要な時間であるとも考え られる。しかし,討議時間に限りがあるため, その時間の成果と課題が不明確になっている。 (2)各自の意見の表出と教師の指導力 多くの参加者が自分の考えを述べているが, 討議内容や方向によって,全員が自分の意見を 述べられていないことがある。全体討議の形式 をとるため,研究内容以外の教師の指導力にか かわる内容等,多様な意見を表出することがで きない。 4.研究の方法 (1)対象となる研究授業 平成20年度は、これまでの校内研修のスタイ ルを見直し,上記の課題が改善される研修を目 指すこととした。 10月6日(月) 教科学習 音楽科 10月16日(木) 楷の木活動 楷の木活動 10月20日(月) 教科学習 体育科
②課題 グループ討議の場では,自分の意見を出して いるため,全体での話し合いの場で再度同じ意 見を言うことになり,討議として活性化されな かった。特に,各自の意見を出すばかりで,互 いの意見をかかわらせたり,授業者の提案内容 に迫ったりするなど,研究内容が深まるような 激論になりにくい面があった。 また,授業中に記入した付箋紙が,討議の中 でどう生かされるのかがはっきりせず,有効に 使うことができていない。つまり,このワーク ショップ型のスタイルでの討議は,司会の役割 が大きく,事前の討議の方向性を事前にもって おく必要があった。特に,各自が記入した意見 をどうつなげかかわらせていくかが重要になる と言える。 ついての質疑応答を行う。その後,全体で 提案内容について討議し,グループ討議の 視点を設定する。 ・小グループ(低・中・高学年)で分かれ, 討議の視点から,話し合いを行う。 ・各グループから出された意見をもとに改善 点等について全体で話し合う。 <討議スタイルについての成果と課題> ①成果 始めに全体討議をしたことで,グループでの 討議の視点が明確になった。前回同様,小グ ループでの話し合いの場をもつことによって, 各自の意見を出すことができた。 ②課題 始めの全体討議での内容が重要であった。こ こでの討議に時間をかけすぎたり,意見を出し すぎたりしてしまうと,その後のグループ討議 の深まりがなくなったり,改善案などが出にく くなったりする。更に,討議の流れが,「全体 討議→グループ討議」ではなく,その後にもう 少し話し合う時間が必要であった。グループで 話し合った内容についての検討や,討議を通し て明確になった点が不明瞭になってしまったか らである。全体を通して,付箋紙の意義や役割 を意識し,討議の中で十分に活用することで, 一人一人の意見を位置づけ,授業についての代 案や研究面での改善案等が出てくるのではない かと言える。 また,グループを小グループにするだけでは 交流が活性化しない。それは,各教員の専門と する教科によって授業の捉えや見方・考え方等 の視点が変わってくるので,グループでの話し 合いの場で共有化しにくい面があったのではな いかと言える。グループピングも検討すべきだ ろう。更に言えば,前回同様,司会者による視 点の明確化と進行方法が課題になることもあげ られる。したがって,学校として研究面の深ま りが必要とされるため,小グループになったと きは,研究部が司会をし,多様な見方・考え方 をまとめ,研究の方向性へと導くことが大切に なる。 グループに分かれての討議の様子 (2)第2回目研修について 第1回目研修での討議方法の課題から,討議 方法を見直し,改善する。 <討議方法> ①授業前 1回目と同様,事前に提案資料を配布する。 その際,授業の主張点を明らかにするために, 提案事項の要点と参観者に見てほしい点を,提 案資料表紙等で書き記す。参観者は,それらの 視点をもとに,授業を参観する。 ②授業中 前回同様,授業中によい点と改善点について 付箋紙に記入する。 ③授業後の討議 ・1回目と同様に,まずは提案内容や授業に
(3)第3回目研修について <討議方法> ①授業前 2回目と同様,提案事項の要点と参観者に見 てほしい点を提案資料表紙等で明確に提示す る。 ②授業中 1・2回目と同様に授業についてのよい点と 改善点について付箋紙に記入する。 ③授業後の討議 ・討議の始めに,授業についての良い点と改 善点について付箋紙に記入する時間を設定 する。この時間の設定により,各自の意見 を整理できると考えた。 ・提案内容について授業者から提案し,その 後質疑応答をする。 ・各自が記入した付箋紙を司会者が予め準備 しておいた観点別に類別していく。この観 点は,学校の研究主題とかかわるものであ り,提案者の主張点に合うものとする。 ・司会者が付箋紙の数や授業者の提案内容か ら討議の視点を絞り,それらの視点につい て全体で話し合い,小グループで話し合う 時の視点を絞る。 ・小グループ(教科性が似ているもの同士) に分かれて討議する。この時,授業者が各 グループの討議に参加し,グループ内での 質問を受けたり,意見を聞いたりする。 ・各グループから出た意見をもとに,授業の 良い点と改善点について再度全体で討議す る。 <討議スタイルについての成果と課題> ①成果 「全体討議→グループ討議→全体討議」の流 れに改善したため,討議内容がつながり,活発 な討議になった。また,各グループでの討議 に,授業者が参加する時間を設定することで, 討議内容の広がりが出たり,参観者からの意見 を直接聞いたりすることができた。 ②課題 討議内容の視点を早い段階で明確にすること で,討議の深まりが出てくる。今回は,討議の 始めに付箋紙に各自の意見を記入する時間を設 定し,その後,観点別に分類したが,事前に観 点を提示することで,より書きやすくなったの ではないかと考えられる。しかし,今回も前回 同様,付箋紙の意義や役割が明確でなかったた め,何のために使うのかをはっきりさせていく ことが今後の課題になる。 6.平成20年度の取り組みについて (1)試行の結果からの分析 3回の討議方法を行ったが,小グループに分 かれることによって,個々の意見を出しやすい 状況をつくることはできた。ただし,討議の活 発さや内容面の深まりという点に関し,疑問が 残る。グループ討議での明確な討議の視点や, 司会者の討議の見通し等,少人数で多様な意見 を活発に交流させるための手立てが必要になる と言える。 また,各グループでの意見を全体に提示する 場合,個々の意見がどのような話し合いによっ て出されたかがはっきりせず,グループ間のつ ながりが薄いものになっていた。グループ間で 同様の意見が出たとしても,それぞれの意見の 根拠となる部分が違っていれば,その考えの価 値や意義が違うものになり,異なるグループの 者には理解を得にくいこともある。各グループ での話し合いの流れが視覚的にも分かる工夫を する必要があるだろう。 グループ内での活発な意見交流は,各グルー プの司会者の進め方やまとめ方によるところが 大きく,その司会を研究部が担うことで,研究 の方向性と意見の相違点を比べながら,焦点化 することが可能になることが明らかとなった。 視点ごとの類別 (8つの視点)
(2)考察 研修は,その学校での研究の方向性と,討議 内容・討議の視点を関連させ,毎回の討議から の成果と課題をより明らかにしていくことが重 要である。そして,今回行ったようなワーク ショップ型の討議によって,参加者一人一が意 見をもち発言する機会が生まれ,教師の指導力 の向上につながると言える。ただし,各校の校 内研修の場が,常に多様な意見が活発に出され る場合,このような方法をとるよりも,全体討 議の中で各自の意見を戦わせ,全体で共有化し ながら討議を進めることによって,より深まり のある討議にすることができる。やはり,教員 の研修に対する意識と,討議の方向性と視点 (討議の中心となる観点)の明確化が大きく左 右すると考えられる。
Ⅱ.附属坂出小学校における校内研究主
題に沿った校内研修の現状と課題
1.本校の研究主題 (1)研究主題 「思考力」をはぐくむ学びの創造(3年次) −脳神経科学研究との連携から新しい時代の学 びにせまる− (2)研究主題について 思考力は,学力のキーワードとしてクローズ アップされ,今回の学習指導要領改訂に反映さ れたことからも,その育成は今や時代の要請と 言える。附属坂出小学校では,脳神経科学との 連携の成果を踏まえ,学習指導要領の改訂をに らみ,新しい時代の学びに迫っていこうと考え た。さらに平成20年度は,思考する術である 「思考様式」の習得・活用をねらい,メタ認知 からのアプローチを試みた。 2.校内研修の現状と課題 附属坂出小学校では,提案授業前の事前討議 を附坂小型授業クリエイティング,授業後の事 後討議を附坂小型授業リフレクションと称し, ワークショップ型の研修を積み重ねてきた。こ れは,2色に色分けした付箋紙に参観者がよ 附坂小型 授業リフレクション かった点と改善点を書く。そして,それを上の 写真のように,討議の柱を項目としたマトリッ クスに貼付し,分類・整理したものを基に討議 を進めるものである。 特に,開発教材については,脳神経科学研究 との連携から生まれた記憶を長期に把持する4 視点に沿って主張,検証を行った。具体的に は,事前に授業者が「意欲・情動」「簡略化・ 焦点化」「精緻化」「繰り返し」のどの視点に働 きかける教材かを主張する。教科書教材を従来 型とし,目盛りの1を基準として,開発教材の 効果を数値で主張するのである。そして,事後 に参観者が子どもの様相を基に4視点それぞれ について3段階で効果を評価し平均点を算出す る。参観者の主観的な評価を集約することに よって客観性を高め,主張が実現されていたか を検証するようにした(図2参照)。授業者が 主張するほど効果的でなかった数値のズレにつ いては,特に改善策を話し合うようにした。こ のことによって,次のような成果があった。 図2 レーダーチャートの利用①付箋紙を整理することにより,討議の視 点や意見の対立が明確となり,事前には 授業を参観する視点が,事後には,成果 や課題が明らかになった。 ②全ての参会者の意見が集約されるため, 何らかの形で一人一人の意見が授業者に 伝わる。 ③予め自分の考えを整理し,それが全体の 中で位置付けられるため,立場を明確に して討議が進む。 ④発言が一部に偏らず,全員の参加者に当 事者意識が生まれる。 ⑤主張と効果を数値化したことにより,課 題が焦点化され,代案にまで議論が及ぶ ようになった。 等 しかし,次のような課題も明らかになった。 ①討議すべき項目が多く時間がかかる。 ②意見を分類・整理する力,焦点化し,代 案まで高める力等,司会者の力量によっ て討議の質が左右される。 ③主張と効果の数値化は,数値の根拠とな る基準があいまいなため,信頼性が低い。 3.校内研修の改善案 そこで,次の改善策を講じることにした。 〈時間短縮〉 (1)議題となる指導案と検証計画を前日 までに配布し,参会者は問題意識を もって,クリエイティングに臨む。 【事前】 (2)全体で行うクリエイティングまでに, 同じ教科,また研究部と事前討議を行 い,修正案を全体に提案する。 【事前】 (3)問題点を記入した付箋紙は,拡大指 導案の関係する箇所に貼付し,貼付が 集中する箇所に討議の重点を置く。 【事前】 (4)授業中から付箋紙を書き始める。 【事後】 (5)基準の曖昧であった4視点の数値評 価は本年度研究の中心にならないため, 行わない。 【事前・事後】 〈意見の集約〉 (6)進行マニュアルを修正・加筆し,司 会者としての力量を高める。 【事前・事後】 (7)授業者は,事前に指導案だけでなく, 主張の効果を検証する検証計画も提案 し,討議の俎上に挙げる。フロアは, 印象や感覚,経験知を根拠に語るので はなく,指導案の叙述や授業における 子どもの様相を根拠に意見を述べる。 【事前・事後】 (8)司会に進行を任せてしまうのではな く,フロアも関連する意見には自ら発 言するようにしたり,進行について提 案したりしてつなげる。 【事前・事後】 (9)フロアは,結論から述べる,授業記 録やプロトコルで問題箇所を特定して 具体的に述べる,一文一義で述べる, 1分以内で述べる等,相手意識を高め る。 【事後】 (10)フロアーは付箋紙に書いたことのみ を述べるのではなく,討議の中で気付 いたこと等も述べるようにする。 【事前・事後】 4.取り組みの実際 特に,改善策(7)について,具体的な取り 組みの実際を詳述する。時間を短縮し討議を充 実させるためにも,意見を集約する際にも,そ の基となるものが揺れていては意義のある研修 は実現されない。 開発教材やメタ認知的活動についての総合的 な効果の有無を,量,質の両面から検証した。 もちろんテーマに迫るためであるが,印象や, 参観者のもつ授業観とのズレを根拠に討議する よりも,事実に即して議論することが,討議の
質を高め,時間短縮にもつながると考えたから である。 主に,ねらう「思考力」について「学級集団 全体の伸び」を量的に,「学びのプロセスの変 容」を質的に見とっていった。授業クリエイ ティングでは,指導案に記載する思考様式や開 発教材,メタ認知的活動を促す支援等について 討議される。さらにそれに加え,検証計画を吟 味する。例えば,思考力のプレテスト,ポスト テストの問題と目標とする「思考力」との整 合,設定した思考様式の把持テスト(直後,一 か月後)の問題の吟味などを加える。測りにく く捉えにくい学力とされる思考力を検証しよう とするため,この整合性の吟味には力を入れて きた。さらに,メタ認知能力を高低両群から3 名ずつの抽出児を選定し,その選定理由も吟味 した。 (1)量的側面からの検証 量的検証では,授業前,授業後の「思考力」テ スト(図3のA),授業後,一か月後の思考様式 の把持テスト(図3のB)でその変容を検証した。 (2)質的側面からの検証 メタ認知能力の抽出をその高低両群から行っ た。メタ認知能力の高い群とは,すなわち自分 の思考過程を意識化できる子どもたちの集団で ある。そういった子どもを見取ることで,授業 において子どものたどる具体的な思考過程を明 らかにすることができるだろう。また,メタ認 知能力の低い群の思考過程を見取ることで,子 どもがつまずきやすい思考の箇所が分かるだろ う。それを高い群の思考過程と比較すること で,思考の向かうべき方向が示され,低い群に どのような支援をすればよかったのかが明確に なってくるのではないかと考えたのである。具 体的には,以下のような測定調査,見取りを行 い,授業リフレクションの場で生かすよう心が けた。 さらに,図4のような「見取りシート」を開 発し,抽出児が授業中,どのような思考の過程 をたどるのか,事前に想定した上で,見取るこ とにした。 授業者は,事前に「個の見取りシート」「全 ①「学業成績とその予測を用いた測定※」
(Vadhan & Stander, 1994)により個々の 子どものメタ認知能力を測定。 具体的には,授業する教科の問題(20 問程度)を準備し,それを解答する際, 解答の正誤の予測も書き込ませる。そ の予測の正答率をメタ認知能力として 測定する。 ②測定結果から,学級の子どもを,メタ認 知能力の上位群・中位群・下位群に分ける。 メタ認知能力上位かつ思考力上位よ り3名(以下「A群」と記述),メタ認 知能力下位かつ思考力下位より3名(以 下「C群」と記述)を抽出する。 ③研究授業の中で,6名の子どもの思考過 程を重点的に見取る。 ※学習者の成績の予測と実際の成績の ズレを指標とする(小さい程、メタ 認知能力が高いとされる)。 図3 量的検証 さらに,その変容に有意な差があるか否かを t検定で分析した。(t検定は,2つのデータ の平均の相違を検定する際に用いられる。) このt検定を用いることによって,単純に平 均点を比較するよりも開発教材の効果に関する データの信憑性を高めることができた。すなわ ち,プレテストよりもポストテストの平均点が 向上した場合,それが個人の伸びによるもの か,全体の伸びなのか,とその分散を踏まえ, どれほど意味のある伸びなのか(どの基準で有 効と言えるのか)という有意差が明確となった のである。
は,モニタリングを促す支援,コントロールを 促す支援が明記されており,授業者による個の 見取りシートでタイミングや場を限定している ため,より客観性が保たれた。 3点目は,授業の終末の聞き取りである。当 該思考を経て学習問題の答えを見つけているか どうかだけでなく,抽出児がどのような考え方 をしたのがよかったのか,という思考成果の実 感をしているのか否かを記録するようにした。 そして,抽出児担当でない参観者が全体の見取 りを行うようにした。 これらの視点を大切にしながら,授業リフレ クションに臨んだ。授業リフレクションでは, 授業記録,板書記録とともに,抽出児6名の見 取りシートが参観者に配布された。全体の様相 を根拠に討議するのに加え,個の様相を随時織 り交ぜながら討議を進めることができた。 また,司会者は,付箋紙に書かれた内容を紹 介するに留まれば,ワークショップ型の討議の よさは発揮されない。書かれたことや付箋紙の 分布から何が言えるかを大切に意見を組織する 必要があるということも共通理解された。この 共通理解事項は,司会者マニュアルの修正・加 筆を通して,その充実に生かすことができた。 5.まとめ 討議を進める場合,重要なことは,子どもの 様相を根拠に語ることである。ただ,子ども一 人の瞬間の様相や印象をもって,その効果を測 るのでは,確かな議論は成立しない。例えば, 自分が参観している目の前の一人があくびをし ていたからと言って,その授業全体を否定する ことはできないのである。より客観的な事実を 基にその成果や課題が問われなくてはならな い。 平成20年度,量(クラス全体に関する数値的 評価)と質(個々の子どもの様相に関する評価) の両面から,開発教材やメタ認知的活動の有効 性を見取ることで,より正確な実態の把握が可 能となり,さらにそのことが新たな手だてにつ ながったと考える。研究を進めていく上で,客 観的なデータによる分析の重要性を再確認する 図4 個の見取りシート(サンプル) 体の見取りシート」を参観者に配布する。その 際,見取りシートには,どの場面のどのタイミ ングでどんな言葉を使って抽出児に質問するの かを明記した。抽出児の観察を担当する者は, それに忠実に質問し,子どもが自分の頭で考え ていることを再生する表現をありのままに記録 するようにした。質問することが授業者以外の 抽出児への支援や助言となってはいけないし, 人によって尋ね方が変わると,答え方にも影響 してしまうと考えたからである。そして,授業 リフレクションにおいて,記録したプロトコル (子どもから発せられる言葉のみならず,子ど もの動きや表情等をも加えた子どもの様相の記 録)を基に,検証を進めた。 さらに,授業リフレクションにおいて,個の 見取りからの報告の際,大切にした視点は3点 ある。 1点目は,見取っている抽出児が,課題意 識を十分もてているかどうかを観察者の視点か ら判断し,その判断理由をその抽出児のどんな 様相からかという根拠を明らかにして報告した 点。印象ではなくあくまで子どもの発言や様相 を根拠にすることによって,より客観的な授業 評価が実現した。 2点目は,子どものもつ思考様式によって, メタ認知的活動(モニタリング,コントロー ル)が実現していたかどうかである。指導案に
ことができた。 また,ワークショップ型の討議は,多様な意 見の表出のみならず,この根拠の客観性を高め ることにも有効であった。まず一人一人が意見 を言語化すること自体が,印象で語ることを防 ぎ,自分の立場を明確にしたり,意見を整理し たりすることにつながった。また,討議の場で は,発言者の偏りを防ぐだけでなく,論点の整 理,成果や課題の共有化に役立った。議論が白 熱し持論を展開するようなことがあった場合に も,付箋紙の位置づけを視覚化しているため参 加者が争点を見極め,討議の柱から外れること なく深まりのある討議を進めることができた。 さらに,討議の場を終えてからも授業者は,付 箋紙を振り返り,参加者一人一人の考えをかみ しめることができたことも成果と言えるだろ う。 課題となっていた意見の集約については,司 会者の力量のみの問題とするのではなく,司会 者がその力量を高めるとともに,参加者一人一 人が課題意識と「斬り合うのは論であり,人で はない」という意識をもち,議論に臨むことが 重要であるということを再度共通理解すること ができたのが成果である。 今後の課題としては,司会者の力量を高める ために,教育的タクトを方法論的にまとめた司 会マニュアルの充実を図るとともに,事前の主 張と事後の評価の一貫性を保持するための手だ てを言語化していく必要があると感じている。
おわりに
我が国の小学校では,伝統的に校内授業研究 が盛んである。こうした点に着目したアメリカ の研究者の一人がキャサリン・ルイスである。 日本の学力の高さが保障されているのは,こう した小学校の教師たちのたゆまぬ努力の成果で あるとの評価を得ている。 周知のように,1990年代のアメリカでは,日 本の授業研究がレッスン・スターディーとして 紹介され,それはアメリカの教師教育に大きな 影響を与えていると言われている。我が国の教 育現場では,日常的にこうした校内授業研究が 行われているが,今一度,その意味や可能性を 問うことが重要であろう。その際,本稿で提起 した「評価力」といった視点から問い直すこと には大きな意味がある。 本稿では,附属小学校2校でのあらたな改善 の試み(試行)とその分析・評価及び今後の課 題が示された。附属小学校にはそれぞれ校内授 業研究の仕方の伝統があり,またそこでは,そ れぞれの学校の研究テーマと関わった研究であ り,基礎的な技術レベルのみを探究するもので はなかろう。しかし,示された諸課題は,附属 小学校にとどまるものではなく,公立学校にお いても生かされていく,いくつかの重用な視点 が表れていると思われる。 附属高松小学校では,付箋紙を取り入れた校 内授業研究を行った。PDCAサイクルを繰り 返しながら改善を行い,司会者の力量やグルー プと全体との関連性等の課題を見い出しつつ も,「ワークショップ型の討議によって,参加 者一人一人が意見をもち発言する機会が生ま れ,教師の指導力の向上につながる」ことが指 摘されている。これまでの校内授業研究とあら たな改善の取り組みによって,さらなる発展の 可能性が示されたと言ってよい。 附属坂出小学校では,これまで積極的に付箋 紙を用いたワークショップ型の校内授業研究の 可能性を追求してきた。あらたに「時間短縮」 「意見の集約」を改善策として講じ,とりわけ 「改善策(7)」に焦点を当て,量(クラス全体 に関する数値的評価)と質(個々の子どもの様 相に関する評価)との両面から研究を深めてい る。それらを通じ,さらなる付箋紙の可能性や 司会者の力量,また一人一人が言語化すること の重要性が示された。 こうした附属小学校からの諸提起は,「評価 力」を高める校内授業研究の在り方について, 極めて示唆に富むものであると言えよう。 [謝辞] 本プロジェクト研究を進めるにあたり,ご多 忙の中,附属学校の先生方,また話題提供やアドバイスをいただきました香川県教育センター の先生方に厚く御礼申し上げます。 本研究プロジェクトメンバー <平成20年度> 七條正典,山岸知幸,宮前義和,松下幸司(附 属教育実践総合センター)/笠潤平(香川大学 教育学部)/高尾明博,福家弘康,廣瀬貴志, 長町裕子(附属高松小学校)/三宅永哲,金﨑 知子,樽本導和,大山貴久,福家光洋,山内秀 則,小出泰弘,小西寛,中田祐二,西岡由都, 久米亜弥,北村篤子(附属坂出小学校)/三野 健(附属高松中学校)/半山章人,北岡隆(附 属坂出中学校)/樫尾由美子,伊藤宏美,木下 博美,藤澤重美子,永井均,有家由佳子,大西 祥弘,岡野一子,紅野真弓,奈良早苗,中澤佐 知,滝澤健,荒井桂子,小松万里子(附属特別 支援学校)/濵 良重,北堀礼子(香川県教育 センター) <平成19年度>(転出等により,平成20年度の メンバーではなくなった方のみ記載) 森山敬三,東条直樹(附属坂出小学校)/岩本 豊(附属特別支援学校)/竹本惠一(香川県教 育センター)