乳児の育て方と母親の義務(部分訳)1892 年版
F.A.
アモン著、中井 臣久(訳)
はじめに
この著書(Die ersten Mutterpflichten und die erste Kindespflege von F.A.Ammon,1892) の初版の発行年は明らかではないが、第9版が 1860 年に出版されている ことから推定すると 1840 年代後半ではないかと考えられる。この著書は育 児について常に最新の理論と知識を踏まえて執筆されていたため、初版の 発売以来大変な好評のうちに版を重ねたようである。私が訳出した人工栄 養に関する第6章は 1892 年に出版された第 33 版からのものである。この 人工栄養に関する記述部分は、日進月歩の医学の最新理論を取り入れるべ く初版以来初めて大幅かつ詳細に改訂されたものである。特にこの部分は、 生物の自然発生説を信じて疑わない旧来の医学から、それを否定して無か ら有はあり得ないことを確信した現代医学への移行期の真っ只中に書かれ たものといえる。それまで不衛生の象徴的存在であった牛乳の汚名を払拭 して、哺乳食として栄養的価値の大きさを世間に広める重要な役割を演じ たものとして極めて興味深い。 1840 年代から 1870 年代の 30 年間といえば、日本では種痘の成功によっ て西洋医学が漢方医学にすっかり取って代わってしまった時期であった が、ヨーロッパでも新しい医学が権威と因習で固められた古い医学をいわ ばテーブルを一気に引っ繰り返すような勢いで駆逐する大転換期となっ た。まず 1840 年代後半のウィーンではゼンメルヴァイスが出産後の産褥 熱の原因は腐敗性の有機物にあると頑なに主張して、生物の自然発生説を 盲信する外科学の重鎮達から強い抵抗に会っていた。その後しばらくして イギリスでもリスターが創傷手術に石炭酸を使用して化膿防止に成功して 件の生物の自然発生説を否定してみせた。手術は皮肉にもゼンメルヴァイ
スが死亡した翌日の 1865 年8月 12 日に行われたという。リスターの考 えはパルツールの研究に勇気づけられたものながらも、従来の常識を大き く覆すものであったから、当初はロンドンの中央医学界からの強烈な逆風 の中に翻弄されてしまった。そして 1876 年には細菌学の祖といわれるコッ ホが病原体の科学的実証法を確立する。 ゼンメルヴァイスやリスターが提示した過去を否定する全く新しい考 え方が旧来の多くの医学者からの強い抵抗に会ったことは、まさに医学の 大変革を前にした 19 世紀の時代性を鮮やかに象徴しているように思われ てならない。一部の天才を除けば厳しい現実の中で何事も運命として受容 して諦めるか、積み重ねられてきた手ごわい伝統的権威を受け継いで生 きようとするかの二者択一の世界がまだ続いていて、多様な価値観が共存 し得る自由寛容な現代のそれとは比較にならないほどおぞましいもので あった。 このように 19 世紀中葉は医学にとってはその科学的実質がようやく固 まり始めて近代的な曙光が差し込めてきた重要な時期であったが、母乳に 恵まれなかった赤ん坊にとっては相変わらず惨めな暗黒の時代が続いてい た。生まれたばかりの赤ん坊が未熟児で生まれて吸啜反射がないために母 乳を飲めなかったり、幸いに健康に生まれてきても母乳に恵まれなかった りすれば、それはすなわち死の宣告を受けるのも同然であった。無事に出 産を終えて産褥期を脱した母親にしても、母乳が十分に出なければ子供を 自力で育て上げる資格はなかった。それは母親にとっては絶対的な神の宣 告のようなどうしようもない厳しい現実で、乳母を雇う経済的余裕がなけ れば、もはや生まれた赤ん坊が次第に衰弱し死相を帯びていくのをただ眺 めている以外に為す術はなかった。 栄養学上バランスの取れた粉ミルクは現代の日本人には当たり前の存在 であるが、日本で粉ミルクの生産が開始されたのは 1916 年といわれ、水 との溶解性の良い良質の粉ミルクの生産となると 1925 年まで待たねばな らなかった。栄養学的に母乳に匹敵する本格的な調整粉ミルクの生産が開 始されたのは、やっと第2次世界大戦が終わってからであった。母乳が出
ようが出まいがお構いなしにドラッグストアで粉ミルクを購入し、安心し て赤ん坊を育てられる便利な現代は、長い人類の歴史からすればまだまだ 特別な時代といえよう。 何事にもまして快適と効率重視の 20 世紀を迎えるまでの歴史のもとで は育児に母乳は不可欠であったから、女性の肉体美と健全な母体像とを分 離させて考えることはなかなかできなかったのであろう。例えば 1965 年 に彗星の如くに登場した痩せた中性的なファッションモデル トゥイギー のような女性は少なくとも理性の世界では美の対象としては考えられな かった。1960 年代といえば新生児が 10 人に一人は死んでしまった 19 世 紀までの忌ま忌ましい時代から決別して一人も死ななくなった画期的な時 期であった。つまり親にとっては子も孫も全員が健やかに育つ幸せな時代 がやってきた。 私たちは 19 世紀までの書物の中の女性像を想像するとき、時として著 者とは全く違った姿を思い浮かべているのかもしれない。19 世紀半ばの 最先端の育児書がある意味では昔の生活観に思いを馳せ、当時の母親の存 在の重みを考える手懸かりとなり、文学や美術などの文芸鑑賞の一助とな ることを期待して一部をここにご紹介します。 〈訳文〉 失意の母は育児はおろか 哀れな子に母乳なし 床に伏せる惨めな母子 産後の母に回復見えず 幼き姉が親代わり ミルクと水を糧にして、この子はもはや私の子! 抱いてあやせば 上機嫌、元気に動いて、健やかに ここに味わう至福の時間 時には手を焼く育児でも!
私と添い寝で更ける夜は 夜泣きを忘れて眠る時 稀に気配で目を覚まし ミルクを飲ませる抱き寄せる 時には駄々こね泣き止まず ベッドを離れてあやして回る ゲーテ ドイツ北部地方では、母親の授乳が適わない場合には、新生児は乳母の 手で育てられる。一方大方のドイツ南部地方では、母乳を得られない新生 児は以下に述べるように可能な限り母乳に近い形の人工栄養で育てられ る。ギリシャやローマの古代社会さらにはアラブ諸国でも赤ん坊の人工栄 養は知られていなかったように思われる。というのは、アラビア人を含 めて、新生児を母乳以外で育てる可能性について言及した医学者はひとり もいなかったからである。ようやく 1473 年になってメツリンガーが、そ の後 1522 年にはレースリンが新生児を母乳以外で哺育することについて 言及している。経験的には、人工栄養上のあらゆる問題点を綿密に克服す れば、赤ん坊は人工栄養でも育つのではないかと考えられてきた。よしん ば新生児の人工栄養による哺育が乳母には決して比べるべくもないとして も、哺乳食を与えるにあたって厳密な手順に従い、品質の良い食品を適切 に選択し、清潔に注意して哺乳食を調整し、そのうえに新生児が必要とし ているものをタイミング良く与えることができれば、毎年何千人もの赤ん 坊が体格の良い健康な人間に育つということをここではっきりと述べてお かなければならない。そうは言っても、赤ん坊を育てる母親は常に自ら観 察を怠らずに勤勉の手を差し伸べるべき最大級の義務を負うのは当然のこ とである。お手伝いさんはたとえ赤ん坊にこの上ない愛着を抱いていたと しても、十分な観察力も信頼性も丁寧さも持ち合わせず、言われたことだ けをするものであるから、育児を任せっきりにしてはならない。残念なこ とながら、例えば 1868 − 70 年の期間にミュンヘンで生後一歳未満で死亡
した 8329 人の乳児のうち、母ないしは乳母の母乳を与えられたのは 1231 人(14.7%)だけで、7078 人(84.9%)は人工栄養児であった。私たちが 注視すべき課題は、以下の二つの疑問に答えられれば解決されよう。 母乳哺育ができない赤ん坊にはどんな哺乳食を与えるのが良いのか。哺 乳食を与える場合にどんな注意を払ったらよいのか。これらに十分に答え るためには、新生児が消化できる哺乳食の種類と量を左右する新生児の消 化器官や消化メカニズムについてまず知る必要がある。胎児が母体中にあ るかぎりは、通常の意味での消化は行われていない。その理由は胎児は自 分のための栄養を母親から受け取っているからである。この場合の栄養物 は臍帯の血液によって運搬されてくる。臨月になると胎児は初めて自分の 周りにある羊水を時々飲むようになる。こうして胃の消化運動が始まると 考えられ、赤ん坊は出生直後に肛門から胎便といわれる物質を排泄する。 この排泄物には胆汁、粘液、飲み込んだ羊水などが混ざりあっている。新 生児が誕生後に初めて摂取するのが初乳で、これは濃度が薄い。この初乳 は5から8日後にはもう栄養価の高いものに変化する。新生児は口の中の 液体−唾液と口腔粘液−の助けを借りなくても完全に消化することができ る。赤ん坊のミルクの消化は次のように行われている。大方の場合には赤 ん坊が飲み込んで 15 分もすると、胃の内に入った母乳中のカゼインが胃 液の作用によって凝固する。母乳の水溶性成分である乳漿(ホエー)は、 一部は胃壁を通過して体内に吸収され、一部は胃の幽門を通過して小腸に 送り出されていく。胃内にはカゼインとバター脂肪分の混合物である白色 の濃厚な固まりが残留する。この固まりは赤ん坊の胃壁との接触面でペプ シンと胃酸の作用を受けて次第に柔軟な流動物に変化する。この流動化の 過程では母乳の固形粒子とバター脂肪分の脂肪粒が融合して溶け合うとと もに、母乳中のカルシウム分も溶解していき、最終的に白色の固まりを形 成する。こうして全量がゆっくりと少しずつ胃から次の腸の部分に押しや られる。そこでさらに消化されて、栄養分は血液中に移行し、残りは大便 となって最後に直腸から排出される。この流れを前以て説明しておけば、 母親や乳母の母乳をもらえない赤ん坊の自然の摂理に適った栄養法には、
次のような基本原則があることが明らかとなろう。赤ん坊は最初の6から 8カ月の期間は哺乳食として流動物のみを摂取するだけでよく、新生児は 吸ったり、飲み込んだりするだけで咀嚼することはできない。つまり、新 生児の胃は袋というよりはむしろ長細い管であるから、入ってきた流動 物は速やかに腸に送り出されてしまい、成人の袋状の形をした胃の内とは 違って長時間は滞留しない。新生児は生後2カ月頃になってやっと少量の 唾液の分泌を開始し、その後は月を追うごとに分泌量は増加する。消化腺 の活動は生後4カ月になって初めて開始され分泌を始める。大便を観察し てみて分かったことは、赤ん坊はミルクをかなり大量に消化することがで き、牛乳については4カ月児は成人のほぼ2倍の消化能力があるというこ とである。新生児のための健全な栄養物として必要な特性をすべて兼ね備 えているのはどうみてもミルクだけである。また私たちのところでは成分 とそれらの割合において母乳に極めて近いのは牛乳だけであるから、とに かく利用しない手はない。ロバ乳とやや臭みのあるヤギ乳は牛乳以上に母 乳に近いが、なかなか入手できないうえに高価過ぎる。母乳は最初の数日 は牛乳と同様に5−7%時には9%もの豊富なタンパク質を含有している が、1カ月目には平均 3.5%、その後の4カ月間で 1.87%にまで減少する。 逆に脂肪や糖質の含有量は増加して、前者は3%、後者は 5.2 − 5.9%に なる。ヤギとロバのミルクの間にはミネラルの含有量やアミノ酸の種類に 相違が見られるが、後者についてはまだ良く分かっていない。私たちは主 に牛乳の廉価なことに注目しており、そのうえ牛乳は哺育用に水で薄めた り砂糖を混ぜたりして簡単に母乳に近づけることができる。しかし、牛乳 のカゼインは母乳とは異なった化学組成をなしていて消化は良くないし、 水で薄めると脂肪不足をきたしてこれを補うのが難しい。母乳は糖分や脂 肪に富み、カゼインに乏しく、簡単に溶け、すぐに酸敗する牛乳と比べて はるかに日もちが良い。母親が赤ん坊を人工栄養で健康的に育てるには、 なによりもまず新鮮な良質の牛乳を絶やすことなく毎日入手しなければな らない。牛乳はまずは強力に殺菌されていて初めて良質といえる。エシャ リヒとクノプフが指摘しているように、夏の牛乳では、消費者の手元に届
いた時にはすでに1グラム中に 50 万から 700 万の細菌が繁殖している。 牛乳を搾ったら出来るだけ速やかに殺菌して、そのままの状態で利用に供 するまで保存するように配慮しなければならない。ブランデー醸造後の搾 り滓やビート、キャベツ、ジャガイモ類ないしは多くの葉物や湿性飼料で 飼育された牛のミルクは嘔吐や下痢の原因となり、赤ん坊には適していな い。ミュンヘンのゾクスレト教授の最近の研究では、牛乳の消化の善し悪 しは牛の食べた飼料の違いによって影響されるものではないが、腐敗ない しは発酵状態にある飼料であるブランデー醸造後の搾り滓、ビート滓、発 酵したビールの絞り滓や発酵飼料を与えている飼育場では、乾草を利用し ているところより牛乳が発酵菌によって汚染される可能性が高いので、後 者の飼育場から赤ん坊用の牛乳を得るのには一朝の優がある。しかし、乾 草を使う飼育場でも牛乳は多かれ少なかれ牛の糞便によって汚染されるこ とがあり、この糞便が発酵菌を運搬してくるから、牛乳の有害性について は汚染されている菌の性質と量によって決まる。このように牛乳の保存性 にはいろいろな違いがあることが分かる。搾りたての牛乳を室温下に置く と、保存性の悪いものは 40 時間、良好なもので 72 時間で凝固してくる。 これに対して摂氏 10 度の室温下では 208 時間、摂氏0度ではおよそ3週 間保存できる。このような理由から沸騰させた牛乳は生乳より長持ちす る。哺乳用の牛乳が保温状態で保存されていることがよくあるが、菌の増 殖を最も促進するのが温度である。ゾクスレト教授は乾草の使用について も、乾草の埃は消毒するのは難しいから、出来る限り牛乳に混入させない ようにすることが大切であり、そのためには乾草に熱湯を注ぐか、少なく とも水をかけて濡らしてから与えるようにしたいと助言している。 経験的にいうと、母乳ならば細菌に汚染されていないミルクを与えるこ とができるから新生児の母乳哺育は優れているといえる。一方牛乳に頼る 場合には発酵菌や有害微生物に汚染されているために、すでに発酵や腐敗 が始まった状態のものを赤ん坊に飲ませることになる。ミュンヘンのゾク スレト教授は、牛乳に含まれている有害菌をすべて殺して長期保存を可能 にするために、牛乳の家庭用殺菌装置を開発した。この装置は取り外し可
能な仕切りの付いた容器で、150cc の容量のビンが 10 本入っている。こ れらのビンに牛乳をいっぱいに注ぎ、お湯がたっぷり張られたブリキ製の 容器の内に挿入し、お湯の熱で牛乳が温かくなるまでしばらく放置してお く。その後容器の水が沸騰するまでゆっくり加熱して、暖めておいたガラ ス栓でビンを密封する。ゾクスレト教授をして最高の栓の材料と言わしめ た円盤状のゴム栓でビンに蓋をして、その上から小さなブリキ製のシリン ダーでしっかりと固定する方法もある。その後に牛乳を 15 分から 30 分間 煮沸する。牛乳が冷却するにつれてゴム栓はビンの内側にギュッときつく 吸い込まれて真ん中がくぼむ。ゴム栓は高い気密性を与えるが、しっかり と栓がはまっていないと簡単に指でずらすことができるのでわかる。こう すれば牛乳は何週間も保存が可能である。授乳直前になってビンを個別に 利用したい場合は、ビンのゴム栓を外して乳首をビンの口に直接はめる。 そしてビンを水に浸けたままにして手を入れていられるくらいの温度で温 める。一度開栓したり飲み残したビンの牛乳は赤ん坊に再び与えてはなら ず、残りの未開栓ビンの牛乳は出来る限り低温下で保存しなければならな い。蓋や栓を完璧に清潔に保つためには、常に少なくとも 10 個を使用可 能な状態にしておくことが絶対条件となる。ゾクスレト教授の装置一式は 信頼性が高く、正確な使用説明書が添付されている。ミュンヘンではカー ルプラッツ5番地のシュティーフェンホーファー商会、カウフィンガー通 り8番地のメツェラー商会やベルリンではローアベックにて 20 マルクの 定価で購入することができる。この牛乳殺菌法や授乳法はあらゆる方面か ら長い信頼を勝ち得ており、ゾクスレト教授の装置はもはや改良の余地の ないほど優れたものであることがわかっている。 牛乳は特定の一頭の牛からのものでなければならないという人達も多 い。これは近年大都市で増加してきている乳療養院では重大な問題であ る。このような施設では赤ん坊にいつも同じ牛のミルクを与えて欲しい という要望が出されるが、最近になってエングリム医師が重ねて確認して いるように、そのような要望には答えることはできないし、要望自体に根 拠がない。一頭の決まった牛から搾った牛乳であっても、その成分を分析
してみると決していつも同じではないことを忘れてはならない。その理由 は、牛が病気にかかっている危険性を無視したとしても、飼料からのいろ いろな影響によって牛乳の成分は変化するからである。特定の牛のミルク ならばいつも変わらぬ栄養源となるわけではなく、その成分は日一日とか なり変化しており、多数の牛からのミルクを混合すればこれらの変化をむ しろ調整することができる。だから同一の飼料で飼育されている多数の牛 のものを混合すれば、牛乳は何時でも最高の均質性を得ることができる。 消化を助けている牛乳のクリーム層はすくい取ってしまってはいけない。 牛乳からクリーム層を取り除いてしまうと消化が悪くなる。赤ん坊の月齢 に応じた牛乳の薄め方や牛乳の必要量を決めるために、エシャリヒ教授は 次のような表を提案した。この場合には母親のある程度の知能と注意力が 前提である。 発育が悪くてあまり元気のない赤ん坊には、牛乳を希釈するために加え る水の量を減らすのを急いではならない。牛乳を水で薄めるには、初めは 表1 授乳量と授乳回数 週齢(週) 牛乳量 水分量 総 量 授乳回数 一回の量 1/2 150 +250 = 400 :8 = 50 1 200 +200 = 400 :8 = 50 2 250 +250 = 500 :8 = 62 3 300 +200 = 500 :8 = 62 4 350 +250 = 600 :8 = 75 5- 6 400 +400 = 800 :7 = 115 7- 8 450 +450 = 900 :7 = 128 9-10 500 +400 = 900 :7 = 128 11-12 550 +450 = 1000 :7 = 143 13-14 600 +400 = 1000 :7 = 143 15-16 650 +350 = 1000 :7 = 143 17-18 700 +300 = 1000 :6 = 166 19-20 750 +250 = 1000 :6 = 166 21-24 800 +200 = 1000 :6 = 166 25-28 900 +100 = 1000 :6 = 166 29-32 1000 − = 1000 :6 = 166 33-36 1200 − = 1200 :6 = 200 37-40 1200 補充食 = 1200 :6 = 200 41-44 1200 補充食 = 1200 :6 = 200 45-48 1200 補充食 = 1200 :6 = 200
1対4∼3、4∼6週間後には1対2、9カ月後に初めてそのまま与える というのが大方の専門家の意見である。赤ん坊が吐いたり肥満であったり して牛乳をそのままでは与えられないことがあるが、このような場合には 牛乳を沸騰させて4分の1の熱湯を加える。希釈の理由は、そのままの牛 乳を与えては栄養価が高過ぎて嘔吐や肥満の原因となるからである。希釈 して減少した脂肪とタンパク質の量を補うために食用油や乳糖を加えたり するが、ビーデルト教授の著書によれば、牛乳のクリーム分を利用する手 もある。生の牛乳をそのまま数時間放置しておくと表面にクリーム分が浮 かんでくる。これを優しくすくい取って沸かせておいた水に混ぜてから、 十分に沸騰させて注意深く保存する。教授は次の6種類の調整ミルクを推 奨している。 1)クリーム分8、沸騰水 24、乳糖1 2)ミルク4、クリーム分8、水 24、乳糖1 3)ミルク8、クリーム分8、水 24、乳糖1 4)クリーム分8、ミルク 16、水 24、乳糖1 5)クリーム分8、ミルク 24、水 24、乳糖1 6)ミルク 32、水 16、乳糖 2/3 赤ん坊の成長に合わせて1から6に順番に移行して最後に純粋な牛乳に する。未消化のカゼインが便の中に存在するようなら、直ちにこれら6種 類のうちのどれか一つを作って与える。ビーデルト教授によれば、これら の調整ミルクはリッタースハインのリッター教授がかつて推奨したものと 非常によく似ているが、母乳をもらえなかった新生児や人工栄養では成長 が思わしくなかったり胃腸炎の赤ん坊に使用してみたところ、最高に成績 が良かったという。クリーム分をすくう手間を省くために、保存用クリー ムが商品化されている。この商品に水を加えて希釈すれば、前述した6 種類の調整ミルクに成分的に近いミルクを作ることが可能である。この保 存用クリームはヴォルムスにあるミュンヒ薬局で購入することができる。
H.V.リービッヒが強調しているが、ビーデルト教授の調整ミルクはタン パク質含有量が1∼ 1.5%と少ない。またこの種のものを消化できない赤 ん坊もいて、“我々が人工的な乳児用栄養食品として欠かすことができず、 少なくとも作り方が簡単で消化のよいものは、調整ミルクではなかなか望 めない”(ヤコビ)といわれる。その上に表面のクリーム層に集まってく る脂肪球は内部から細菌を一緒に運搬してくるので、牛乳に比べて腐敗し やすく発酵菌も多く、新生児の食品としてはあまり適当ではない(ゾクス レト)。 チューリッヒのクレープス教授は、牛乳を 65 ∼ 75℃の温度範囲に長時 間保つことにより無菌にできることを実験で確認した。彼は殺菌のために 牛乳の入った瓶をブリキ容器内の穴の開いた円い水平盤に差し込んで立 て、容器中の水を上記の温度帯に保った。こうして殺菌された牛乳はどん な年齢の赤ん坊にも心配なく与えることができる。その理由は病気の牛の ミルクに含まれていた病原菌さえもこうすれば完全に殺菌されるからで ある。 何度も失敗を重ねた後にミュンヘンのネーゲリ教授が数年前に成功した 方法は、ブリキ缶の代わりにガラス容器を使用しており、牛乳に何も加え ずしかも水分を失わずに搾ったままの状態で保存することができる。こ うして搾ったままの新鮮なアルプス地方の牛乳をどこへも送り届けること ができ、乳母を雇えない母親の赤ん坊のために最良の代替品が提供され るようになった。この牛乳の価格は1リットルが 50 ペニヒである。私は この牛乳をひと夏自室に放置しておいて6カ月以上経過してから開栓し てみた。牛乳は腐敗しておらず大変においしかった。同様にベルリンの薬 剤師であるシェルフ氏は新鮮な牛乳を高温にさらすことによってその保存 性を大きく高めることができた。この牛乳については、ローストックのド ルンブリュート医師がハンブルクからモンテビデオまで船旅をする家族に 40リットル持たせて2歳半の子供に試してもらったが、牛乳は旅行の最 後の日までまったく変質せず完璧に保存できたという。著者も確認してい るが、この保存牛乳は4カ月以上経過していても良く撹拌してから温めれ
ば、新鮮な牛乳に劣らぬ風味が保たれていた。この保存牛乳は、シュレー ジアン地方のシュトレーナー酪農場のノイハウス、グロンヴァルト、エー ルマンから供給されている。また、カルベルラ、ピッツ、コンゾールテ ンのために食品殺菌を請け負っている会社もベルリンのヴェストライプチ ガー通り 101 / 102 番地で販売している。 完璧な牛乳を得るために、いわゆるシュヴァルツの氷温法といわれる低 温保存法も推奨される。搾乳後の牛乳をすぐに氷の中に浸けてセ氏2−3 度に冷やせば保存が可能となり、深い容器の中で連続して冷蔵しておくと 10− 12 時間後にはクリームが完全に分離してくる。暑い夏に3日間冷蔵 保存しておいた牛乳は新鮮さが保たれているから沸かしても凝固しない。 牛乳を冷蔵保存してみてクリーム層の分離スピードが通常より大幅に遅い 場合には、有害な飼料(カビの生えた乾草、オート麦、スイートピー、湿っ た麦芽、醸造の残り滓)が使われていたのは違いなく、乳児用の牛乳とし ては適していないことを示している(ドルンブリュート)。 ゾクスレトの器具が入手できない場合には、ミルクを普及型のガラス 製哺乳瓶に入れる。なかでも北ドイツのハノーファーなどで普及している オーデコロンの瓶型の強化ガラス製の細長い哺乳瓶は、内容量が分かるよ うに目盛りが付いている。この哺乳瓶には開口部に飲み口を装着しなけれ ばならないが、これは哺乳瓶の代理店がしてくれることになっている。一 番良いのは母親の乳首の形をしたものであるが、廉価なこと、弾力性が あること、衛生面で手軽なことから黒いゴム製のものが最良で推薦に値す る。カルシウム分を除去した象牙や英国製の硫酸紙のものは扱いにくいし 高価でもある。象牙や骨からできた飲み口は固すぎる。エシャリヒ教授は 特に哺乳瓶や軽量容器の銘柄品を挙げて赤ん坊を牛乳で育てる人のために 便宜をはかっており、これらはミュンヘンのマッファイ通りにあるミュン ティンガーで購入できる。 ハルバーシュタットの上級医官フォンハーゼは哺乳瓶に大きな見やす い文字を使って、室温、お風呂の水温、ミルクの温度、月齢に応じたミル ク、水、砂糖の混合割合、更には赤ん坊の1∼6カ月までの標準体重を注
意書きとして記した。赤ん坊を人工栄養で育てる母親やお手伝いさんはミ ルクを準備する時に必要な注意事項を全部瓶から直接読み取れるし、順調 に体重が増加しているかどうかもその場で確認できる。この哺乳瓶はケル ンのエーレンフェルトにあるガラスエ房から7ペニヒの価格で入手できて 安い。 授乳は、昼間は3∼4時間の間隔を守り、夜間は1∼2回とする。飲み 終えた飲み口は赤ん坊の舌や唇の唾液が付着しているので、内部まで奇麗 にできるように哺乳瓶から取り外して真水で洗い、水を切って裏返しにし て置いておかなければならない。飲み口はたまには新しく取り替える必要 がある。お椀を使うと赤ん坊は飲み込むだけで吸わなくてもよいためにす ぐに食べ過ぎてしまうから、生後4∼5カ月になるまではいわゆる小さな お椀よりむしろ哺乳瓶の方が良い。ゾクスレト教授によれば、哺乳瓶の洗 浄は残ったミルクが乾かないように使用後直ちに水を入れ、大匙一杯のど ろどろにした木の灰を使って回転ブラシでピカピカになるまで磨き、グラ ス棚に逆さに吊るしておく。飲用に適したミルクの温度は母親の母乳を飲 むときの温度に出来る限り近い 28 ∼ 29℃がよい。賢い母親や手際の良い 良心的なお手伝いさんならば、ミルクの入った哺乳瓶をまぶたに当ててみ て気持ち良く感じられる時の感覚を大切にすれば、この温度を知ることが できる。普通のお手伝いさんが作るミルクは、彼女らの気まぐれ、まぶた の感覚の変化、怠惰などから、適温より熱かったり冷たかったりするので 任せきりにしておくわけにはいかない。ミルクの大きな温度変化は赤ん坊 の非常に敏感な消化器官に有害である。特に赤ん坊の便が通常より柔らか い場合には、牛乳にお湯を混ぜるのではなく、小匙1∼2杯の大麦ないし はオート麦の粉を 1/2 リットルの水と一緒に 30 分間煮立てたものを薄い 布で漉して使うこともできる。または、1/2 リットルの水に子牛の足をひ とつか 1/2 リットルから1リットルの水に 500 gの子牛肉を入れて煮込ん で肉スープを作る。水の代わりにおよそ同じ分量の肉スープを牛乳と一緒 にひとつひとつの瓶に入れて殺菌密閉して、冷暗所に保存する。最近では アラビアゴム、ニカワ質、葛粉、ウイキョウ茶、シナノキの花入り茶はも
はや加えなくなってきている。 次なる問題点は赤ん坊への人工栄養の与え方である。 生まれたばかりの新生児は睡眠時間がとても長いので食べる回数も量も 少ない。新生児の胃は短くて細いので毎回大匙4∼8杯の量を飲めば十分 で、これより量を増やせば結果的に食べ過ぎとなる。母親やお手伝いさん の中には、もっと多くの量をより頻繁に飲ませなければならないと間違っ た考えをしている人達が多い。食べ過ぎの結果は嘔吐が始まる。嘔吐した り成長の良い赤ん坊は、皮肉にもそれが理由でさらに過剰のミルクを与え られる結果となる。この本の読者の皆さんはこのようなばかげた行為をや めてくれることをわたしは期待している。赤ん坊が与えられたミルクを飲 むのを嫌がりながらも泣かないとか、ミルクを飲んでから2∼3時間静か に眠ってしまうというのは肥満の証拠である。健康な母親から生まれた健 康な赤ん坊が摂取するミルクの量を示した表1は、人工栄養の赤ん坊に 毎日与えてよいミルクの量のおよその目安となる。生後1カ月以内は毎日 200gのミルク、30 gの砂糖、2カ月目には 400 gのミルクと 40 gの砂糖、 半年後には 670 gのミルクと 50 gの砂糖で十分であるというあるフラン スの委員会の計算は、表1の数字からするとあまりにも少なすぎるという 結論になり、この結論は多くの母親が経験上支持するものである。また一 般的には水 100 gに砂糖4−5gを加えれば十分であるから、このフラン スの基準では砂糖が多すぎる。その理由は母乳が5−6%の糖分しか含有 していないことからもわかろう。乳糖や果糖よりも一般的には蔗糖による 結果の方が良好である。エシャリヒ教授の推奨するところによれば、特に 便秘の赤ん坊には蔗糖の代わりに 100 gの水に小匙一杯のマルトースを使 うと良い。 これまで述べてきた栄養法で赤ん坊が順調に成育し、機嫌が良く、体重 増加も順調で、夜泣きすることもなく、大便が粥状の固さで黄色く、発酵 したミルクのような臭気で、おむつを濡らすのが最初は 24 時間で8回か ら 12 回でその後さらに回数が増えてくれば、ミルクをもっと濃くして量 も回数も増やして与えてもよい。この時に注意すべきことは、赤ん坊が与
えられたミルクを完全に消化してから次のミルクを与えるようにすること である。 こうして消化器官が徐々に無理なく発達してきているならば、純粋な牛 乳以外の栄養強化食品を与える必要はなく、牛乳だけで十分である。生後 6−8カ月までは特に特別な栄養食品など与えなくても母乳だけで沢山の 赤ん坊がすくすくと健康に育っているのだから、ミルク以外の栄養価の高 いものを与える必要性がないことは明らかである。 新鮮な牛乳の代用品として 10 年以上前からコンデンスミルクが知られ ているが、スイスのカム、ハンガリーのザフィンにあるアングロスイスコ ンデンストミルク社やビヴイスやケンプテンにあるドイツスイスミルク輸 出会社で生産されている。これは牛乳に蔗糖を加えて保存性を高め、空 気の希薄な容器内で低温沸騰させて濃縮したものである。このミルクは小 さなブリキ製の缶詰にされていて、ほとんどの薬局で入手することができ る。缶詰の表面の説明文では希釈率は1対6∼7となっているが、生後数 カ月までの赤ん坊には強すぎるし、とにかく甘すぎる。希釈率は最初は1 対 15 として、その後は1対 12 でもよいだろう。場合によっては蔗糖が 大量に含まれているので、これを使って育てられた赤ん坊はクル病を発病 する不安もあるから、生後3カ月までは1対 30 から 40 に薄め、その後 は1対 12 から 18 の希釈率が推奨され、同時にレグミノーゼを加えると 良い。つまり、大匙1杯のレグミノーゼ液を少量の食塩と一緒に 500cc の 水に加えて作ったものを毎日3∼4回にわけて大匙1杯ずつ与える。コン デンスミルクの缶詰を開けたらまずは薬局で売っている青色リトマス紙を 一枚使ってミルクが酸性になっていないか調べ、飲ませる度に毎回新鮮な ものを準備しなければならない。リトマス紙の色が全く変化しないかほん の少し赤みを帯びるくらいなら、ミルクは良好な状態にある。もしリトマ ス紙が直ちにはっきりと赤くなったら、その缶のミルクは使用してはなら ない。缶を開けたら、開けた状態のままで保存するのが良い。短時間のう ちに表面が固まってきて層を成し、より深い部分をカビの侵入から保護し て腐敗から守ってくれる。ヤコビの経験によれば、特にコンデンスミルク
に麦粥を加えて育てると赤ん坊の腸内異常発酵、鵞口瘡そして下痢の発生 を抑制できるといわれる。コンデンスミルクは赤ん坊の発育に関して母乳 や牛乳や濃縮リービッヒスープより大幅に優れているわけではない。これ に対してゾクスレト教授の挙げる必須条件をすべて満たしている保存ミル クというのは、砂糖はもちろんいかなるものも加えられていない殺菌コン デンスミルクをいい、それは例えばバイエルンのハーバッツホーフェンに あるシュッテンドーベル工場製のものでシュトットガルトのレーフルント 食品店から販売されている。このミルクは、乳児の栄養補給の場合のよう に、食品の成分が常に一定でなければならないような場合には大変有用で ある。 近年ではロッテルダムで好まれて行われてきたバターミルク哺育がドイ ツにも広まっている。1リットルのバターミルクに大匙一杯の小麦粉を加 えて数分煮立てて粥状になったら、0.8 ∼1gの砂糖を加える。下痢の場 合には小麦粉の代わりに米の粉を利用するといい。 モレショットがいうようにあらゆる栄養食品のなかで最高の存在である ミルクを、育児の場において何か別の物で置き換えようと繰り返し努力が なされてきた。米粥、麦粥、サレップ、にべ、葛粉、マイゼナと呼ばれて いるトウモロコシ粉などを煮て与えてきた。数々の代用食品のなかでも、 シュテッチンのシャーラウ医師が考案したものは比較的大きな薬局なら どこでも入手でき、粉末を水で溶いて牛乳に加えるだけで好評を博してい る。近年流行しているのがあのネスレー社製のキンダーメールで、甘みの あるツヴィーバックに似た味のする黄帯色の微細な粉末で、ヤコブゾンに よれば小麦粉、卵黄、コンデンスミルク、砂糖を原料にしたパン粉のよう であるが、柔らかさの具合によって6∼ 10 倍の水を加える。モルパンは この粉末を 100 人の貧しい赤ん坊に用いて試してみたが、他の食品で育て られた赤ん坊に比べて死亡率が半分以下に減少したという。しかし、アル トヘアの研究によれば生後 15 日間をこの粉末で育てた赤ん坊はコンデン スミルクの場合と同様に体重増加は思わしくなかったといわれる。この本 の現在の著者を含めた多くの医師たちは、早くて8∼ 12 週目からならば
この種の食品を与えてもいいのではないかという考え方をしている。一方 で高名な医師の中には、7カ月目になれば赤ん坊に何らかの補充食を与え てもいいが、それ以前はこの粉末を与えるのは最小限にすべきであると主 張する人達もいる。 ネスレー社のキンダーメールに非常によく似ているのがゲッチンゲンの ファウスト&シュスター社のキンダーメールで、これはフォンウスラー教 授とポルストルフ医師が母乳に代わる優れた哺乳食として特に推奨してい る。またバーデンのローアバッハにあるギサイシーレ社のキンダーメール も同様のものである。ミュンヘンのフィットシュタイン教授は、マクデブ ルクのテオドールリンペが作ったクラフツグリースという栄養食品は口当 たりの良いマイルドな味でミルクに混ぜて使うとよいと述べている。レグ ミノーゼ類ではマールブルクのベネーケ教授の推奨する粉末があり、これ は細かい粉で消化が良く栄養学的にもとても優れている。ニーダーヴィー ザのハルテンシュタイン氏の分析によれば、この粉の栄養価は牛乳、母乳、 通常の食事、牛肉に比しても遜色はないといわれている。この粉末の値段 は1ポンドが1マルク 50 ペニヒである。疫痢の赤ん坊や消化器官の虚弱 な病人にはこのレグミノーゼンスープは有用である。この粉末は冷たい水 に混ぜてゆっくり撹拌しながらたっぷり 30 分間煮なければならない。ひ どく痩せた赤ん坊のためにはでき上がったスープに牛乳から取ったクリー ムを小匙に山盛り1∼2杯加えてもよい。小匙山盛り一杯のレグミノーゼ をカップ一杯の熱湯に入れて溶かして作ったスープは、生後2∼3カ月の 赤ん坊に飲ませる場合には水 10 に対して1の割合とし、その後は濃くし ていく。しかしここで同時に判明したことは、キンダーメールで哺育した 場合と同じ体重計測をしてみると赤ん坊の体重増加はおおむね非常に少な くしかも多くがクル病にかかっていたといわれる。 卵はあらゆる生物の発達初期の栄養物となっているということから、そ の後も同じような役割を果たすことができるはずだと主張する医師たちが いる。新鮮な卵の黄身と生温い 29℃の水を混ぜた物はミルクにとても近 くて少し砂糖を加えることもできるから、赤ん坊の代用食品として一時的
に利用することが可能である。この黄身の飲み物は腸内ガスを発生させや すいために鼓腸になったり、消化不良の症状を引き起こすことがあるた め、こればかりを長期的に与えることは推奨できない。新生児の卵飲料は、 新鮮な黄身半分をコーヒーカップ2杯分の子牛の肉スープに溶かせば簡単 にできるし、黄身1個(15 g)、水 100 g、乳糖6gを混ぜるように勧め る医師もいる。しかし、これらの卵飲料はしばらくすると赤ん坊は受け付 けなくなる。 化学者として有名なユスツスフォンリービッヒ教授は可愛い赤ん坊に与 える食品にまさにぴったりのスープを作り出すことに成功し、数々の見事 な成果を収めている。母乳の代用品であるから母乳と同じ栄養価を持って いなければならないという原則を守り、小麦粉、大麦麦芽粉そして極めて 微量の炭酸カリウムを牛乳と混ぜたところ、母乳と同じような栄養価にな ることがわかった。このスープを準備するには次のような手順を踏む。小 麦粉 15 g、大麦麦芽粉 15 gを計量して、カリウム溶液 30 滴ないしは重 炭酸カリウム 45 センチグラムを加えて混合し、それに水 30 gと牛乳 150 gを加えて、常時撹拌しながらとろ火で温めて固まってくるのを待つ。固 まってきたら火にかけてあった容器を一旦降ろして5分間撹拌する。その 後再度加熱して温めて再び固まってきたら火から降ろし、最後に沸騰する まで熱する。このスープは最後に沸騰させる前には柔らかく流動性があっ て甘みが付いていなければならない。このスープは目の細かい漉し器でふ すまを漉し取ればできあがりとなる。この準備において注意しなければな らないことは、澱粉質の多い極精製粉ではなく普通の新鮮な全粒粉の小麦 粉を使うことである。大麦の麦芽はどこのビール醸造所でも入手できる。 粉の量を量る手間を省くには、大匙山盛り一杯の小麦粉はかなり正確に 15gとなり、大匙山盛り一杯の大麦麦芽粉はカードで半分にするとやは り 15 gとなる。炭酸カリウム溶液を作るには、通常の炭酸カリウムを薬 局で購入する。1ポンドの水に 60 gの炭酸カリウムを溶かし込む。井戸 水を使用すると少量の炭酸カルシウムが沈殿してくるのが普通である。1 時間もするとこの液体は澄んで完全に透明になる。炭酸カリウムはベトつ
いたり湿っていたりしてはならない。カリウム溶液の重さを量るには普通 の指貫きが役立つ。指貫き一杯分で約3gのカリウム溶液となる。牛乳と 水については、薬局に行って普通のビーカーに牛乳 30 g、水 150 gを量っ てもらい、両方の分量に合わせてヤスリで目盛りを付けてもらうか、既 製の目盛付のガラス瓶を使用する。このスープが正しく作られていれば牛 乳のように甘いから砂糖をさらに加える必要性はなく、赤ん坊に与える場 合には母乳の倍の濃度になっているから水で半分に薄めて哺乳瓶で飲ませ る。このスープは熱して一度沸騰させると、24 時間は良好な状態で保存 できるが、沸騰させないと牛乳と同じように酸敗して固まってくる。カリ ウムを加えないで沸騰させると必ず凝固してしまい、単なるミルク粥と同 じで消化の悪いものができる。リービッヒスープは小麦粉と大麦麦芽に含 まれているタンパク質をすべて含有しているが澱粉は含まれていない。で きあがり具合が時には違うこともあるが、これは麦粥を作る場合に比べて とにかく注意力と経験が余計にものを言うからである。 ミュンヘンの薬剤師ヒエンツマイアーはリービッヒスープの調整の難し さを避けるためにその濃縮物を作った。このスープは赤ん坊が生まれたそ の日から6∼ 10 カ月以上連続して飲ませることができるという。リービッ ヒスープの発明者の息子である H.V. リービッヒ氏はこの濃縮スープだけ で6人の子供を育て、大変良好な結果を得たという。濃縮リービッヒスー プは処方によれば牛乳と水を加えて倍にして利用するが、アルトヘアとロ ルホの検証によるとタンパク質が非常に豊富なため、誕生直後であれその 後であれ赤ん坊の体重は母乳による場合と同様に順調に増加するといわれ る。クル病の発生もその高いタンパク質の含有率のおかげで極めて確実に 予防することができるという。 シュツットガルトの薬剤師で化学者でもある A.D. レーフリントは、大 麦麦芽、小麦粉そしてカリウムで作ったエキスをビュルテンブルクで 1866年に発売したが、これを使うと牛乳に溶かして薄めるだけで簡単に 失敗もなくリービッヒスープを作ることができる。このリービッヒスープ 用のエキスの効用は驚くべきもので、ビュルテンブルクでは1年間で月間
2000瓶(1瓶は約1週間分)の販売量に達し、スイス、フランスそして アメリカにまで輸出されている。このエキスは牛乳で溶かして半分の水を 加えればリービッヒスープが出来上がる。パリならばブルバーマレハーベ 19番地のジローデル薬局がアリマンリービッヒという商品名でこのレー フルントエキスを販売している。 同様のエキスを溶解型リービッヒリーベという商品名でドレースデンの パウルリーベ薬局が売り出している。これはこの薬局やシェーファーシュ トラーセ 25 番地の製造所で入手できる。さらにはラインプロイセンのメー スにあるヨッツノルシュ社はリービッヒスープの粉末はもちろん液体エキ スのものも製造している。この商品は数々の例証によって確かなものであ ることが判明している。これらのリービッヒスープ用商品はすべてが内 外の特約店で購入可能である。しかし、これらの商品がリービッヒスープ と全く同じものと言うわけではなく、ケーニッヒやポッペルの分析から明 らかなようにタンパク質の含有量は少ない。ミュンヘンのポッペル医師が リービッヒスープの成績を統計的に分析してみたところ、成績は思ってい たほどではないことが判明した。しかし H.V. リービッヒが自らも認めて いるように、生後1カ月目で比較すると他の代用食品と同様に母乳にかな わないが、アルトヘアとロルホの検証を見ると代用食品の中では最も優れ ていると言えそうだ。従って一部の有力な医師が言うように、リービッヒ スープは歴史的な意義しかもってないと言って片付けてしまう訳にはいか ない。このスープを使用して十分な結果を得ている医師は必ずいるわけで あるし、ゾクスレトの器具を利用すれば必ずしもうまく育つとは限らない から、何か別の代用食品を必要にしている赤ん坊も必ずいる。 既に生後6−7カ月になった赤ん坊には少し流動食を与えるのがよいだ ろう。水に乾燥ツヴィーバックを入れて煮立てた後に牛乳を加えて作った ものを毎日に適量与えるのは有効である。この点ではオランダのカンパー 医師が推奨している離乳食を特に勧めたい。品質の良い小麦粉でできたツ ヴィーバックを使い、土鍋で水を沸騰させて煮立て、粥状になってきたら 木の匙で常に撹拌しながら適量の新鮮な牛乳を加えて薄めて液状にする。
赤ん坊が残した分は絶対に後で温め直してはならず、赤ん坊に与える度 に新しく作らねばならない。1歳くらいの赤ん坊のための栄養としては、 リービッヒのオーペルやポツダムのゲーリッケが販売しているキンダー ツヴィーバックが良い。ツヴィーバックの代わりに古いパンの耳の部分を 利用することもできる。ヴェーアトハイムバー医師の方法によればパンの 耳をしばらく水を浸しておいて柔らかくし、固まりの部分を十分に取り除 いてから、土鍋に入れて柔らかめの粥状になるくらいの牛乳を加え煮立て る。場合によっては砂糖を加えても良い。 ドイツではすでに 1826 年から利用されている下痢に効果のある食品が フランスで使われるようになってきている。それはあのスコットランド ハーファーメールである。スコットランドやアイルランドでは3通りの使 い方がある。1)単に水ないしは牛乳を煮立てて少量の塩や砂糖を加える。 2)これを使用して小さなクーヘンを焼いて、牛乳ですりつぶす。3)特 に赤ん坊用のためには大きなコップ1杯の水か牛乳に大匙1杯のカラスム ギ粉を加えてかき混ぜ、12 時間時々撹拌しながら放置したあと粒の部分 を漉して取り除き、少量の塩ないしは砂糖を加えて柔らかい粥状にする。 これは口当たりが良くて少しバニラ風味があり、赤ん坊はとても喜んで食 べる。この食品の栄養分はライ麦、小麦、米のような穀物種よりも多く、 牛乳に近い。これに対してヤコビ医師は相変わらずゲールステンメールの 方に一朝の優があるとしている。その理由はカラスムギは脂肪分と澱粉質 の多さから内臓に負担となるからで、むしろ便秘気味の赤ん坊に対しては ハーファーメールを勧めている。生後間もない赤ん坊に与える場合大麦粉 を何時間も煮立ててから利用するようにヤコビ医師は指示している。 読者の皆さんは医師たちの相反するような意見に惑わされてはならな い。こうした混乱した事実の示すところは、赤ん坊によってそれぞれにい ろいろと適切なものがあるということで、それぞれを試してみてからの結 果の善し悪しによって使用するかどうかの判断を下さなければならない。 読者は、便利だからといって大人がおしゃぶりなどと呼んでいるろくで もない食べ物を赤ん坊に与えることのないように慎重にしなければならな
い。被害を被るのは可哀想な赤ん坊と決まっており、このようなものに唯 一期待できるものと言えば母親やお手伝いさんの気休めだけである。この 思い込みにすぎない気休め物は牛乳や水や母親ないしはお手伝いさんの唾 液で柔らかくされ、気休め程度のものを含んでいるかもしれないが、最も 忌むべき育児習慣のひとつである。赤ん坊の口はこれでいつも汚染されて しまう。おしゃぶりに含まれているものが後に発酵を開始して腐敗に至り、 消化不良を引き起こす。口腔粘膜にカビが生えて、白っぽい斑点や粘膜剥 離を起こして、歯肉は炎症を起こして損傷する。そのために赤ん坊は思う ようにものを食べられないうえに、生えてくる乳歯はガタガタですぐに虫 歯になる。単に泣き叫ぶ赤ん坊を静かにさせるためだけに、こうしたもの を与えるように勧める医師が今日でもいることは嘆かわしいことである。 赤ん坊が、母親や乳母の母乳であろうと人工栄養であろうと、与えら れている栄養物で本当に体が大きく育っているのかどうか分からないとき は、秤を使って週に一回でも複数回でも体重測定し、その体重を記録して おくとよい。非常に手頃な赤ん坊用の秤としては、台秤や布地を張ったカ ゴと重りがセットになった竿秤をベルリンのベルンシュタイン社が製造し ている。正確な体重測定を繰り返した結果をみると、母乳で育てられた赤 ん坊は生後3日間で出生直後の体重から約 275 g体重減少があることが分 かっている。3日から4日後には赤ん坊は失った体重を取りもどし始め、 一週間くらいで再び体重を元に戻して出生時と同じになる。未熟児や人 工栄養の場合には4日以上体重減少が続くことが多く、そのうえに減少量 も大きい。エシャリヒによれば、赤ん坊の1週間毎の体重増加は、8日目 から1カ月までは 104 g、2カ月目から 174 g、3カ月目には 147 g、4 カ月目には 153 g、5カ月目には 177 g、6カ月目には 129 g、7カ月 目には 102 g、8カ月目には 108 g、9カ月目には 84 g、10 カ月目には 60g、11 カ月目には 62 g、12 カ月目には 60 gの体重増加を示す。生後 1カ月から2カ月が経過するころまでは毎日およそ 17.5 gの体重増加が なければ赤ん坊が完全な健康状態にあって予定通り発育しているとはいえ ず、赤ん坊が必要十分な栄養を摂取できていなかった可能性がある。
このようなことから赤ん坊の体重測定をより頻繁にする必要性があるこ とが明らかになってきているから、一般に普及していくように体重測定を 推奨したい。 この章の結びに当たって、例えばウイーンの有名な生理学者ブリュッケ のように、ゼロ歳児から肉をあてがうのを勧める人達も少なくない事実が あることをここで述べておかなければならない。彼の死後に出版された赤 ん坊の命と健康の守り方(ウイーン、ブラウミュラー出版、1892)とい う著書において次のような助言がなされている。これまでのように牛乳を 与えながらも、生後1カ月目で試しに肉を食べさせ始めることができる。 肉は煮ても焼いても良いが、煮込んではならない。肉の固い表面を取り除 いて得られた固まりから取ったハーゼルナッツ1個分のものを細かくつぶ して、赤ん坊に気づかれないように肉スープに加えて与える。何か問題が 発生したら、赤ん坊の体調があらゆる面で完調であれば早くて2週間後で きれば4週間後に再度試してみる。そこですべてがうまく運べば大きくし てヴァルヌスの木の実くらいのものにしてみるとよい。 本書の著者は、このブリュッケの助言を試してみる状況にはなかった が、特に肥満の赤ん坊や通常のミルク栄養物では十分な成長がみられな い赤ん坊には、この種の肉の利用に移行しても危険はないであろう。しか し、この肉を与えるのは最大で1日2回として時間的間隔も長く取るのが よいだろう。そして毎日の排便を注意して観察することを欠かしてはなら ない。 おわりに 19 世紀のバイエルン地方では母乳育児は不道徳という考え方が支配的 であったから(母乳育児の文化と真実、N.Baumslag,D.L.Michels 著、橋本 武夫監訳、メディカ出版、1999、P.162)、冒頭にあるようにドイツ南部地 方では人工栄養が使われて高率な乳児死亡率の原因と言われた。牛乳は飼 育、搾乳、保存のいかなる段階でも細菌汚染の可能性が非常に高くて、か つては牛乳を危険のない良好な品質に保つことは至難の技であった。牛乳
は細菌繁殖には絶好の栄養環境にあり、保存方法や殺菌理論そして殺菌技 術が確立するまでは、牛乳を与えられた赤ん坊は結核感染や腸内感染が原 因で死亡することが多かった。これが牛乳の人工哺育への利用を長く妨げ ていた主要因であったと考えられ、そのために牛乳哺育は古来から普及す る気配を示さなかった。 腐敗物からは自然に蛆虫が湧いてくると考えられていて誰もが無から有 を信じていた時代は、まさに「紀元前」(医学をきずいた人びと、S.B. ヌー ランド著、曽田能宗訳、河出書房新社、1991、P.144)であった。人類の 歴史において時代の紀元前と紀元後を分けるものがキリスト誕生であるな ら、医学史上では 1861 年のパスツールの白鳥型フラスコの実験がそれに 相当するといってもよかろう。その後のパスツールの研究成果に勇気づけ られたリスターが、外科手術において石炭酸消毒法の有効性を発表したの が 1867 年であった。米国でヤコブが牛乳殺菌の重要性を説いたのが 1875 年で、訳文中に登場するゾクスレトが簡便な牛乳殺菌法を開発したのが 1886年であった(ミルクの文化誌、足立達著、東北大学出版会、1998、 P.233)。 訳出したアモンの育児書は、医学におけるこのような大きな転換期に書 かれた貴重な著書であることは冒頭でも述べた。この育児書では近代医学 の基礎が固まった特別な時代背景が既にしっかりと把握されて消毒の重要 性が主張されており、その誠意ある先進性こそが人気の理由であったよう に思われる。訳出部分の前半では、大半の内容は殺菌された安全な牛乳を 与えることの重要性とそれを如何に確保するかに関連して解説がなされ ている。後半の内容は主に牛乳に代わり得る各種の哺乳食の紹介ではある が、残念ながら未だ未発達の栄養学のせいで十分な科学的説明にはなって いない。 要するに完全に母乳に代わり得る哺乳食はまだ存在せず、訳文を読むと 結果的に母親の存在感の重さだけが浮き上がってきているように思われて ならないが、それは私だけの思い違いであろうか。