川 崎 市 の 結 核 対 策
―DOT事 業 推 進 を 起 点 と し て― 1多田 有希2大 森 正 子2伊 藤 邦 彦3藤 生 道 子 要 旨:川 崎 市 で は,野 宿 生 活 者 や 簡 易 宿 泊 所 居 住 者 等 を対 象 と した 結核 対 策 と して,従 来 実施 して い る検 診 事 業 に加 え て,2000年 度 にDOTに よ る治 療 支 援 事 業 を 開始 した。DOT事 業 は保 健 所 の結 核 関 係 職 員 に と ど ま らず,保 健 所 全 体,福 祉 事務 所,本 庁 の 結核 対 策所 管 課 とホ ー ム レス対 策 所 管 課,さ ら に地 域 の 医 療 機 関 と共 に,市 の 結核 対 策事 業 と して,目 的 を共 有 す る こ とか ら始 ま り,連 携 と共 働 に よ り,地 域 の 特 性 に適 した 事 業 が 推 進 され た。DOT事 業 を実 施 す るた め に 必 要 と な っ て 開 始 し た 適 正 医 療 の徹 底 や 患 者 管 理 の 充 実 強化 な ど種 々 の施 策 は,DOT事 業 を実 施 す る特 定 地 域 に お い て の み な らず,市 全 体 の結 核 対 策 の 強化 に繋 が っ た。 そ の結 果,市 全 体 で 治 療 成 績 の 向 上 が 認 め られ,ま た,罹 患 率 に改 善 の 兆 し も認 め られ て い る 。DOTの 実 施 を 目的 に 開 始 した 事 業 で あ った が,種 々 の 施 策 を通 し,目 の 前 に い る患 者 の 「確 実 治療 」こそ が 事 業 の 目的 で あ り,わ れ わ れ の 目標 で あ る こ と が改 め て分 か っ た。 そ の 目標 に 向か って 関 係 者 は必 要 なあ らゆ る施 策 を実 施 しな け れ ば な らず,そ の た め の強 い意 志 を共 有 す る こ とが 重 要 との 考 え に至 った 。 キ ー ワ ーズ:結 核 対 策,都 市 結核,ホ ー ム レス,確 実 治療,DOT(directlyobservedtherapy) は じ め に 川 崎 市 の 結 核 罹 患 率 は 全 国 の そ れ と 同 様 に,1997年 頃 か ら減 少 率 の鈍 化 が 認 め られ た が,川 崎 市 で は そ れが 顕 著 で,特 に周 囲へ の感 染 の危 険 の 高 い塗 抹 陽性 肺 結 核 罹 患 率 は,lggo年 後 半 ま で 明 ら か な 上 昇 を示 し た(Fig. 1)。 2001年 の 結核 の 統 計1)か ら川 崎市 の 結核 の特 徴 を ま と め る と,① 全 国 平 均 を上 回 る高 い結 核 罹 患 率(全 結核 罹 患 率36.6/全 国27.9),② 高 罹 患 地 区(地 域 格 差)の 存 在 (Fig.2),③ 患 者 の 年 齢 層 が 若 い(新 登 録 患 者 中30∼59 歳 割 合44.1%/全 国32.2%),④ 生 活 困 窮 者 が 多 い(年 末 活 動 性 結 核 中生 活 保 護 受 給 割 合18.1%/全 国8.8%),⑤ 受 診 お よ び診 断 の遅 れ が 問 題(有 症 状 肺 結 核 中 発 病 か ら初 診2カ 月 以 上 割 合28.4%/全 国19.2%,初 診 か ら登 録1カ 月 以 上 割 合41.0%/全 国26.8%)が 挙 げ られ る。 診 断 の 遅 れ 以外 は すべ て典 型 的 な都 市 結 核 問題 で あ る。 市 は7つ の 区 か らな る が,特 に 罹 患 率 の 高 い 川 崎 区 は 川 崎 市 の 湾 岸 部 に 位 置 し,戦 後 大 規 模 な 石 油 化 学 コ ン ビ ナ ー トが 形 成 さ れ 工 業 地 帯 と し て 労 働 者 が 多 く集 ま り,現 在 は 長 引 く経 済 不 況 や 産 業 構 造 の 変 化 に 伴 う 産 業 の 空 洞 化 等 に よ り野 宿 生 活 者(ホ ー ム レ ス)の 多 い 地 域 と な っ て い る(Fig.2)。 厚 生 労 働 省 の ホ ー ム レ ス の 状 況 調 査 に よ る と2),2001年9月 末 現 在,市 別 の ホ ー ム レ ス 数 は 大 阪 市8,660人,東 京 都 特 別 区5,600人,名 古 屋 市 1,318人,川 崎 市901人 の 順 で あ る が,人 口1000人 対 比 で み る と,大 阪 市3.32人,川 崎 市0.71人 と川 崎 市 は2番 目 に 多 い 。 2001年,川 崎 区 の 新 登 録 患 者 は165人 で 全 市 の 新 登 録 患 者 の35.5%を 占 め る 。 ま た165人 の う ち 野 宿 生 活 者 は 24人,簡 易 宿 泊 所 居 住 者 は19人 で,こ れ ら の 住 所 不 定 者 が 約4分 の1を 占 め る 。 さ ら に,こ の 住 所 不 定 者 の 新 登 録 患 者43人 の う ち28人 は 喀 疾 塗 抹 陽 性 で 発 見 さ れ て お り,こ の 喀 疾 塗 抹 陽 性 割 合65.1%は 川 崎 市 全 体 で の 36.9%,全 国 で の35.7%と 比 べ て も極 め て 高 い 。 「川 崎 市 の 高 い 結 核 罹 患 率 を 低 下 さ せ る1と い う 目 標 1国立 感染 症 研 究所 感染 症 情 報 セ ンタ ー(元 川 崎 市 健 康福 祉 局), 2結核 予 防 会結 核 研 究所 ,3川 崎 市 川 崎 区保 健 福 祉 セ ン ター 連 絡 先:多 田 有 希,国 立 感 染 症 研 究 所 感 染 症 情 報 セ ン タ ー,〒 162-8640東 京 都 新 宿 区 戸 山1-23-1(E-mail:yukit@nih.gojp)Fig. 1 Trends of TB incidence rates for all forms and smear-positive pulmonary TB in Kawasaki City and Japan. Incidence=newly notified cases of all forms of TB in 1972-2002
(new criteria in 1998-2002).
Smear-positive incidence=cases were based on all forms of TB in 1975-1978, pulmonary TB in 1979-1997, and sputum smear-positive pulmonary TB (new criteria) in 1998-2002.
を達 成 す る た め に は,川 崎 区 の結 核 対 策 を充 実 させ る こ とが優 先 課 題 かつ 急 務 で あ り,中 で も野 宿 生 活 者 等 の 結 核 患者 の早 期 発 見 と治 療 中 断 ・脱 落 を 防 ぐこ とが 求 め ら れ た。 そ こで,「 野 宿 生 活 者 結 核 検 診 」か ら都 市 結 核 問 題 を意 識 した結 核 対 策 を 開 始 し,「 川 崎 市 結 核 対 策DOT 事 業 」へ と対 策 を展 開 した 。 最 近,治 療 成 績 な らび に罹 患 率 に対 策 の 成 果 が 認 め られ て きた の で,DOT事 業 に 伴 っ て 開始 した 施 策 を紹 介 し,今,地 域 に 求 め られ る結 核 対 策 につ い て 考 え る。 DOT事 業 以 前 に開 始 した施 策 1994年 度 に 「野 宿 生 活 者 結核 検 診よを 開始 した(Table)。 こ の 検 診 は 福 祉 施 策 と し て 毎 朝 実 施 して い る パ ン券 (2000年 度 途 中 か らは 食 料 品)支 給 の 実 施 場 所 にX線 車 を配 置 して,年 度 に1,2回(1∼3日 間)実 施 す る も の で,2回 目の 実 施 は1回 目で 漏 れ た 者 を対 象 に して い る。1998年 度 に はパ ン券 支 給 者 数 が 倍 増 した た め に十 分 な対 応 が とれ ず,検 診 受診 率 は著 し く低 下 した。 そ こ で1999年 度 に は,実 施 主 体 の 川 崎 区保 健 所 に加 え,本 庁 の 結核 対 策 所 管 課 とパ ン券 支 給事 業所 管 課,川 崎福 祉 事 務 所 が協 力 体 制 を整 え,積 極 的 な勧 奨 も行 っ た 結 果, 検 診 受 診 率 ほ ぼ100%を 達 成 で き た。 結 核 検 診 か らの 患 者 発 見 率 は,最 も高 い1995年 度 で4.3%,1996年 度 か ら 2001年 度 の6年 間 は1%台 で あ った 。 この 成 績 は大 阪 市 の 南 港 臨 時 宿 泊 所 検 診 の3.3%,あ い りん 結 核 検 診 の 1.2%3),社 会 的 ハ イ リス ク者 へ の 結核 検 診 の発 見 率1.6%4) とほ ぼ 同 じで あ る。 こ の期 問 の定 期 外 健 康 診 断 の 家 族 検
Fig. 2 TB incidence rates for all forms by ward in Kawasaki City and surrounding cities, 1998-2002.
TB incidence rates were calculated using summation of newly notified TB cases and population for 5 years.
診 か らの発 見 率 は0.5∼0.45%1)で あ り,野 宿 生 活 者 の 結 核 検 診 は効 率 の良 い検 診 と言 え る。 1999年 度 に は さ らに,こ の 結 核 検 診 で 発 見 さ れ た12 名 の患 者 を確 実 に治 療 完 了 させ るた め に,入 院 患 者3名 に は 「院 内DOT」 を,通 院 患 者9名 中 同意 を得 た6名 に は 「薬 の 殻 の 確 認 」に よ る 服 薬 確 認 を 治 療 終 了 時 ま で 行 っ た 。 「薬 の 殻 の確 認 」を し なか っ た 通 院 患 者3名 に つ い て も治 療 終 了 を確 認 し,12名 全 員 の 治 療 終 了 を確 認 で きた 。 この 成 果 を踏 ま え,2000年 度 に 「川 崎 市 結 核 対 策DOT事 業 」を川 崎 区保 健 所 で 開始 した 。 DOT事 業 と成 績 事 業 対 象 者 は塗 抹 陽性 ・陰性 にか か わ らず 野宿 生 活者, 簡 易 宿 泊 所 居 住 者,単 身生 活 者 な どで,通 院治 療 が 必 要 で あ る が 治 療 継 続 困 難 と思 わ れ る 者 で あ る。DOTの 方 法 は,A型:開 庁 日に毎 日看 護 職 の前 で抗 結核 薬 を内 服 す る(抗 結 核 薬 は保 健 所 で 保 管),B型:1∼2週 間 に1 回 内 服 済 み の 薬 の 殻 を確 認 す る(2003年4月 か ら週2, 3回 対 面 内服 確 認 も加 わ る),C型:そ の 他,と した 。 医 療 機 関,福 祉 との 連 携 を密 に し,月1回 のDOT会 議 で 患 者 の 状 況 や 方 針,関 係 者 の役 割 分担,事 業 運 営 に 関 す る こ と等 を 検 討 した 。 な お2002年 か らは 訪 問 事 業 も 併 用 した5)。 2000年8月 か ら2002年12月 ま で に87名(A型59名, B型24名,C型4名)に 実 施 し た 。87名 の う ち,69名 (79.3%)は 最 後 までDOTで 治 療 終 了,1名(1.1%)が 結 核 外 死 亡(肺 アス ペ ル ギ ル ス 症),6名(6.9%)は 治 療 中 断 とな り,転 居1名,転 症1名(非 結核 性 抗 酸 菌 症)で, 治 療 継 続 中 が9名 で あ る(2003年6月 末 現 在)。DOT事 業 前 の コ ホ ー ト法 に よ る 野 宿 生 活 者 の 治 療 成 功 率 は 1998年33.3%,1999年58.1%で,DOT事 業 開始 後 は2000 年71.4%,2001年72.2%5)6)と 向上 した。 DOT事 業 に伴 っ て 開始 した施 策 DOT事 業 は 単 に患 者 の服 薬 を 目の 前 で 確 認 す る事 業 で は な く,「標 準 治 療 に基 づ く適 正 な治 療 薬 を確 実 に服 薬 す る こ とに よ り,患 者 を治 癒 させ る」こ とを 目的 と し た 事 業 で あ る。 そ の た め,患 者 と関係 す る保 健 所,本 庁 の 結 核 対 策 所 管 課(以 下,本 庁),医 療 機 関,福 祉 等 の 総 合 的 な 事 業 と して発 展 させ な い か ぎ り,事 業 の成 功 は な い と言 え る 。事 業 の 開 始 に あ た っ て は,場 所 と人員 の 確 保 が 大 きな 課 題 で あ っ た 。 また,事 業 開始 後 も次 々 に 課 題 に 直 面 し,そ れ らの解 決 の た め に以 下 に挙 げ る施 策 を 実施 した が,こ れ が結 果 と して,市 全 体 の結 核 対 策 の 重 点 目標 を 「確 実 治療 」に置 き,医 療 機 関 や 福 祉 との 連 携 の も とに患 者 支 援 を強 化 す る こ とに繋 が っ た。 以 下 にDOT事 業 に伴 っ て 開 始 した 施 策 とそ の成 果 を 紹 介 す る。 (1)川 崎 市 立 井 田 病 院 との 連携 井 田 病 院 は川 崎 市 内 で は 唯 一 結 核 病 床 を有 す る病 院 で,川 崎 市 民 の結 核 入 院患 者 の 約6割,通 院 患 者 の 約3 割 をか か え る市 の 結核 医 療 の 中 心 的 病 院 で あ る。 以 下 の 施 策 を進 め る につ れ て 病 院 と保 健所 の 距 離 が縮 ま り,一 人 一 人 の 患 者 につ い て 治療 経 過 中 の 問 題 点 を共有 し,互 い に必 要 な相 談 を,必 要 な 時 に,適 切 な 職種 間 で行 え る よ う にな っ て きた 。
Table Results of mass screening for TB performed for homeless persons, by year, Kawasaki-ward in Kawasaki City, 1994-2002
① 院 内DOT 1999年 度 に 「野 宿 生 活 者 結核 検 診 」の発 見 患 者 に対 し て,院 内DOTを 開 始 した 。 当時,井 田病 院 に はDOTに 関 す る認 識 は な く,病 院 に対 しそ の 意 義 や 方法 の説 明 か ら行 った 。現 在 で は,患 者 に よ り実 施 期 間 に差 は あ るが, 入 院 当 初 は患 者 全 員 に院 内DOTが 行 わ れ て い る。 ② 病 院 で の 結核 リー フ レ ッ トの 配 布 結 核 に関 した 保 健 所 業 務 を紹 介 した リー フ レ ッ トを用 い て,「 保 健 所 は,結 核 と い う病 気 に 関 して 医 療 費 の公 費 負 担,接 触 者 検 診,退 院 後 の 経 過 観 察 な ど,継 続 して 支 援 す る と ころ で あ る」こ と を入 院 当初 に,病 院看 護 師 か ら伝 え て も らう よ う に した。 ③ 病 棟 看 護 師 と川 崎 区保 健 所 の 保 健 師 との 連 絡 会 川 崎 区保 健 所 はDOT事 業 の 開 始 に伴 い,従 来 の患 者 訪 問 とは別 に,月1回 保 健 師 が 病 棟 に 出向 き病 棟 看 護 師 との 連 絡 会 を始 め た。 退 院 後 に保 健 所 でDOTを 実 施 す る予 定者 の み な らず,川 崎 区保 健 所 登 録 患 者 全 員 に関 し て情 報 交 換 を行 っ て い る。 ④ 病 院 と保 健 所,本 庁 の結 核 業 務 連 絡 会 結核 対 策 上 の 目的 を共 有 し,互 い の立 場 を理 解 す る た め に結 核 業 務 連 絡 会 を開 催 した。 この 会 は不 定 期 だ が, 必 要 に応 じて様 々 な形 で 開催 して い る。 会 で は保 健 所 の 結核 業務 の 紹介 か ら始 め,徐 々 に 意見 交 換 や 問 い合 わせ な どが ス ム ー ズ に行 わ れ る よ うに な っ た。 な お,こ の連 絡 会 の 中 で 病棟 の看 護 師 か ら提 案 され,病 院訪 問 した保 健 師 が,患 者 か ら得 た 情 報 や看 護 師へ の連 絡 事 項 等 を記 載 す る 「病 院訪 問連 絡 票 」の 実 施 も始 ま った 。 ⑤ 結 核 専 門 医 の 配 置 2000年 度 に は病 院 か ら 「結 核 専 門 医」に よ る指 導 の要 請 が あ り,結 核 研 究 所 に依 頼 した と ころ,月 に1日 の専 門医 の 派 遣 が 受 理 され,医 師 の 治 療 方針 決 定,検 査 精 度 の 見 直 し,看 護 師 の教 育等 に つ い て,結 核 専 門 医 の指 導 ・ 助 言 を受 け る よ う に な った 。 ⑥ 病 棟 看 護 師 の 結 核 研 究 所研 修 派 遣 井 出病 院 は総 合 病 院(552床)の 一 部 門 と して 結 核 病 棟(58床)を 有 す る が,看 護 師 が 結 核 の研 修 を受 け る 機 会 は ほ とん どなか っ た。 結 核 研 究 所 の 保 健 師 を対 象 と し た研 修 に病 棟 看 護 師 を派 遣 した と こ ろ,結 核 対 策 の 中 で の病 棟 看 護 職 の あ り方 が 明 確 に な り大 変 有 益 で あ った 。 ⑦ 耐 性菌 連 絡 治 療 開始 時 の菌 検 査 所 見 の う ち,耐 性 菌 か 否 か の 情 報 は,化 学 予 防 対 象 者 へ の 適切 な薬剤 を選択 す るた め に も, また地 域 の耐 性 菌 出現 状 況 を把 握 す る た め に も重 要 で あ る 。 そ こで井 田病 院検 査 室 で耐 性 菌 と判 明 した場 合,す み や か に検 査 室 の検 査 技 師 が本 庁 へ 連 絡 し,本 庁 か ら各 保 健所 に連 絡 す る シス テ ム を構築 した。 こ の連 絡 は川 崎 市 内 に限 らず,他 都 市 の保 健 所 に も行 っ て い る。 ⑧ 菌検 査 所 見 の把 握 結 核 診 査 協 議 会(月2回)の 直 前 に,保 健 所 検 査 技 師 が 交 代 で 病 院 の 検査 室へ 出 向 き,各 保 健 所 が リス トア ッ プ した 患 者 の 菌 検査 結 果 を調査 し始 め た 。 治療 中 の患 者 だ けで な く,状 況 不 明 の ま ま登 録 され て い た患 者 の 菌所 見 も調 査 で き,患 者 登 録 削 除 に も役 立 っ た 。 た だ し,こ の方 法 で は,検 査 室 の 入 力 シス テ ム 上,薬 剤 感 受性 検 査 結 果 は 調 査 で き な い とい う 課 題 が 残 っ た が,そ れ も, 2002年 度 末 か ら保 健 所 検 査 技 師 の来 院調 査 時 に 合 わせ, 病 院検 査 技 師が 調 べ る こ と に な った 。 ⑨ 未 受 診 者 の把 握 神 奈 川 県 域 の保 健 所(川 崎 市 は含 まれ て い な い)と 国 立 療 養 所 神 奈 川 病 院 が 始 め た 「神 奈 川 方 式 」7)と呼 ば れ る方 法 に倣 い実 施 した。 各 保 健 所 が 提 出す る治 療 中の 患 者 リス トを,本 庁 が 一 括 して病 院医 事 課 に送 り,病 院 医 事 課 が受 診 の有 無 を調 査 し,結 果 の書 き込 まれ た リス ト は本 庁 を経 由 して各 保 健 所 へ 返 し,治 療 中断 防止 に役 立 て て い る 。 ⑩ 退 院 連絡 患 者 の 退 院 が 決 まっ た 時 点 で,病 棟 婦 長 が 各 保 健 所 に 連 絡 す る よ うに し,保 健 師 は退 院前 後 の治 療 継 続 上 大 切 な 時 期 に,訪 問 等 に よ り患 者 と接 触 す る こ とが で きる よ う にな っ た 。 (2)川 崎市 立 井 田病 院以 外 の 医療 機 関 との連 携 交 通 の 利便 性 や 基礎 疾 患 を有 す る こ と等 か ら,井 田病 院 以 外 の 医 療 機 関 を受 診 す る 患者 も多 い 。特 に 受診 人 数 の 多 い 医 療 機 関 とは,組 織 的 な 連携 を図 っ て い る 。 ① 指 定 医 療 機 関 医 師研 修 会 2000年 度 か ら年 度 に1回 開 催 す る よ う に な っ た 。 2002年 度 は 医 師 会 との 共 催 で,よ り多 くの 出席 が 得 ら れ た。 ②FAXに よる菌 検 査 所 見 の把 握 菌 検 査 所 見 は 電 話 や 郵 送 で は得 に くい 場 合 もあ る た め,方 法 の ひ とつ と して,医 療 機 関 にFAXに よ る情 報 提 供 を依 頼 し始 め た が,返 信 状 況 に は まだ 課 題 が 残 され て い る。 な お,FAXに 使 用 す る 「結 核 菌 検 査 所 見 報 告 書 」で は,氏 名 の代 わ りに医 療 費 受 給 番 号 を用 い て い る。 ③ 国立 療 養 所 南 横 浜 病 院 との 連 携 市 立 井 田病 院 に次 い で川 崎 市 民 の 結 核 患 者 が 多 く入 院 す る病 院 で,川 崎 区保 健 所 のDOT対 象 者 も少 な くない 。 こ こで は看 護 部 の協 力 に よ り,各 病 棟 看 護 師 長 は退 院 日 が 決 定 した患 者 につ い て本 庁 を経 由 して各 保 健 所 に連 絡 す る よ うに な っ た。 ④ 聖 マ リア ンナ 医科 大 学 病 院,稲 田登 戸 病 院 との連 携 どち ら も主 に市 の北 部地 区 の結 核 患 者 が 通 院治 療 を受 け る主 要 な 病 院 で あ る 。 治療 中 断 防止 の必 要 性 を説 明 し た と こ ろ,医 事 課 の協 力 が得 られ,各 病 院 の 医事 課 は毎
月,受 診状 況 を調 査 し本 庁 を経 由 して各 保 健 所 に連 絡 す る よ うに な っ た。 な お稲 田登 戸 病 院か らは,結 核 菌 検 査 結 果 の報 告 もあ る。 (3)福 祉 との 連 携 野 宿 生 活 者 に代 表 さ れ る社 会 経 済 弱 者 とい われ る人 々 へ の結 核 対 策 は,保 健 と福 祉 が 一体 とな る こ とで成 立 し, 推 進 され て い る。 す な わ ち,福 祉 との 連 携 がDOT事 業 の鍵 と言 え る。 ① 医療 費 と住 居 の 確 保 DOT事 業 の 対 象 者 は,「 川 崎 区保 健 所 に登 録 さ れ た 結 核 患 者 の う ち,野 宿 生 活 者,簡 易 宿 泊所 居 住 者,一 人暮 ら し の 者 等 で 治 療 困 難 と 認 め ら れ る も の 」で あ る た め,一 部(生 活 保 護 を望 ま な い 者)を 除 くほ とん どの患 者 に対 して,結 核 治療 中 は 生活 保 護 を適 用 し,原 則 と し て 医療 費 の他 に 生 活 費 と簡 易 宿 泊 所 で の宿 泊 費 を確 実 に 支 給 す る よ うに な っ た。 ②DOTの 勧 奨 とDOT未 来 所 時 の 対 応 生 活 保 護 を支 給 して い る福 祉 の担 当者 か ら も,積 極 的 にDOTを 勧 奨 して お り,こ の効 果 は大 きい 。 ま た 予 定 どお りに 来所 しな か っ た場 合 に は,福 祉 事 務 所 の 担 当 者 が 簡 易 宿 泊 所 に連 絡 し,受 診 を促 してい る。 連 絡 が 取 れ な い場 合 は,保 健 所 保 健 師 と福 祉 担 当 者 が 一 緒 に簡 易 宿 泊 所 を訪 問 し,預 か って い る抗 結核 薬 を簡 易宿 泊 所 に届 け,患 者 の状 況 も確 認 す る。 ③ 管 理 検 診 の 受 診勧 奨 治 療 終 了 後 の 生 活 保 護 費 の 支 給 時 に,福 祉 事 務 所 の担 当者 が 「定 期 的 に管 理 検 診 を受 け る よ う に」と,勧 奨 し て くれ る よ う に な った 。 (4)適 正 医療 の確 保 DOTを 有 効 に 実 施 す る た め に は,活 動 性 結 核 の 確 実 な診 断 や,短 期 化 学療 法 を中心 と した標 準 治 療 の採 用 な ど,適 正 な 医療 の確 保 が重 要 か つ基 本 で あ る。 ① 「患 者 届 出票 」と 「公 費 負 担 申 請 書 」の改 訂 届 出 票 で は,診 断根 拠 を 明記 す る欄 を設 け,乳 幼 児 と の接 触 の有 無 も記 載 す る よ うに した。 公 費 負 担 申請 書 で は,菌 検 査 所 見 記 入 欄 を充 実 し,今 後 の治 療 方 針 欄 を追 加 す る な ど した。 ② 「結 核 診 査 協 議 会 合 格 ・不 合 格 の 目安 」の作 成 市 に4つ あ る診 査 協 議 会 にお け る審 査 判 定 の ば らつ き を な く し統 一 性 を持 たせ る こ と を 目的 に,「 大 阪市 結 核 診 査 協 議 会 裁 定 の 目安 」を参 考 に8),保 健 所 お よび 診 査 協 議 会 と意 見 交 換 して 作 成 した 。 標 準 治 療 の 徹 底 や 菌 検 査 所 見 の重 視,治 療 必 要 性 の 判 断 等 に関 す る審 査 レベ ル の確 保 につ なが った 。 (5)早 期発 見 早 期 発 見 は,患 者 本 人 の 治 療 の み な らず 周 囲へ の 感染 拡 大 防 止 に不 可 欠 で あ る。 ① 野宿 生 活 者保 健 所 内 結核 検 診 1994年 度 に 開 始 した従 来 の 「野 宿 生 活 者 結 核 検 診 」は, 年 度 に1,2回(1∼3日 間)の 実 施(Table)で あ る た め, 2002年 度 に は よ り早 期 の 患 者 発 見 を 目 的 に,新 規 に食 料 品 受給 者 とな っ た 人 を主 な対 象 者 とす る毎 月1回 の 保 健 所 内 結 核 検 診 を開 始 し,従 来 の 集 団 検 診 は1回(1日 の み)に 縮 小 した 。 しか し,結 果 的 に従 来 の 集 団 検 診 と 合 わせ て も受 診 率 は決 して十 分 で は な く,課 題 が 残 され た。 検 診 受 診 率 が2000年 度 以 降 減 少 し て い るが,食 料 品以 外 も購 入 で き たパ ン券 の 支 給 が,食 料 品 の 現 物 支 給 に な っ た こ と に よ り受 給 者 数 が 減 った こ とや,保 健所 内 結 核 検 診 の 受 診 率 が 悪 い こ と も考 え合 わ せ,実 施 方 法 の 工 夫 が 必 要 で あ る。 ② 「施 設 に お け る 結核 定期 外 健 康 診 断 の手 引 き」の 作 成 結核 緊 急 事 態 宣 言 以 降,集 団感 染 対 策 の 徹 底 が 図 られ, 事 業 所,病 院,高 齢 者 施 設,学 校 等 の 施 設 に対 す る接 触 者検 診 を強化 して い る が,患 者 の居 住 地 と施 設 の所 在 地 が 異 な り接 触 者 検 診 が依 頼 され る場 合 に,保 健 所 間 で考 え 方 の違 い か ら,両 保 健 所 の役 割 分 担,対 策 委 員 会 の 開 催 の基 準 等 に混 乱 が認 め られ た。 そ の た め,各 保 健 所 の 役 割 を明 確 に し,施 設 との 連 絡 の取 り方 な ど を整 理 し, 適 切 な定 期 外 健 康 診 断 を 円滑 かつ 効 率 よ く行 う こ とを 目 的 に 「手 引 き」を作 成 した 。 作 成 に あ た っ て は,各 保 健 所 の各 職 種 と意 見 交 換 を重 ね た。 施 設 にお け る調 査 項 目 案 や,依 頼 や 報 告 に使 用 す る書 式 も盛 り込 み,ま た 同 時 に,接 触 者 検 診 に用 い る結 核 検 診 用 カル テ を改 訂 した 。 (6)保 健 所 の 結核 対 策 強化 川 崎 区 保 健 所 で のDOTの 実 施 が 刺 激 とな っ て,他 の 保 健 所 で も結 核 対 策 へ の 取 り組 み が 強 化 さ れ る よ う に な った 。 ① 「結核 発 生動 向調 査 」を テ ー マ と した職 員 研 修 会 結 核 発 生 動 向調 査 の デ ー タ を解 析 し,区 ご との 疫 学 上 ・対 策 上 の 問 題 点 を探 る研 修 会 を,2001年 度 か ら結 核 研 究所 の 専 門家 を講 師 と して 始 め た 。 これ に よ り各 保 健所 の優 先 課 題 が掴 め て い る 。 ② 「患 者 管 理 」を テ ーマ と した地 域 ご との 職 員研 修 会 結核 診 査 協 議 会 が 同一 で,患 者 の 疫 学 状 況 が 類 似 し, 結核 指 定 医療 機 関 も共 通 の2保 健 所 ご とに,テ ー マや 講 師 を含 め 保 健 所 職 員 が 自 ら計 画 して,2001年 度 か ら1 地域 ず つ実 施 して い る。 ③ 結 核 発 生 動 向調 査 入 力 担 当者 研 修 会 発 生 動 向調 査 は コ ンピ ュ ー タ ー に デ ー タ を入 力 す る こ とに よ り行 わ れ るが,こ れ に は情 報 を収 集 す る過 程 と入 力 す る過 程 の2つ のス テ ップが あ る。 ど ち らが 欠 けて も 正 し い デ ー タ は 入 力 さ れ ず,解 析 結 果 に も影 響 す る。 2002年 度 に この 「入 力 」の 部 分 を確 実 にす る た め の研 修 会 を実 施 した。 長 く保 健 所 で 入 力 経 験 の あ る 職 員(臨 床
検 査技 師)が 指 導 者 と な り,北 部4つ の保 健 所 と南 部3 つ の 保 健 所 に分 け,自 ら作 成 した マ ニ ュ ア ル9)を も とに 画 面 を実 際 に見 な が ら実 施 した 。 これ に よ り,自 己判 断 の 修 正,業 務 の 共 有 化 も図 れ た。 今 後 も必 要 に応 じ継 続 して い く予 定 で あ る。 (4)コホ ー ト検 討 会 北 部3区 の 保 健 所 に よ る 合 同 の コ ホ ー ト検 討 会 を 2 001年 度 か ら開 催 した。 こ の 結 果,治 療 成 功 ま で の患 者 支 援 の ポ イ ン トが 掴 め る よ う にな り,保 健所 内外 に お け る 関係 職 種 間 の協 力 体 制 も深 ま っ た10)11)。な お,こ の 3つ の 区(宮 前,多 摩,麻 生)は 川 崎 区 とは 異 な り,東 京 の ベ ッ ドタ ウ ン とい え る住 宅 地 域 で あ り,結 核 罹 患 率 は周 辺 地 区お よ び全 国値 よ り低 い(Fig.2)。 結核疫学指標値 の変化 Fig.3に 示 す よ うに,川 崎 区 で は2000年 以 降罹 患 率 に 低 下 の 兆 しが み られ,2001年 か ら2002年 に か け て は 喀 疾 塗 抹 陽性 罹 患 率 も大 き く低 下 した。 川 崎 区 に隣 接 す る 幸 区 で は罹 患 率 の停 滞,喀 疾 塗 抹 陽 性 罹 患 率 の 微 増 が 認 め られ,川 崎 区 か ら幸 区へ 結 核 発 病 の ハ イ リス ク者 の 流 出 が起 こ っ て い る可 能 性 も否 定 で きない 。 しか し,川 崎 区 の 塗 抹 陽 性 罹 患 率 の 減 少 に よ り川 崎 市 全 体 の 値 が 2002年 に は全 国値 に近 づ い た こ とは確 か で あ る(Fig.1)。 これ を川 崎 市 に お け る結 核 罹 患 率 の減 少 の始 ま り とす る の は時 期 尚 早 だ ろ うが,川 崎 区 のDOT事 業 に伴 っ て 他 の 地域 で も新 しい結 核 対 策 へ 大 きな動 きが あ り,そ の結 果 が さ ま ざ まな形 で結 核 疫 学 指 標 値 に現 れ て きて い る と 考 え る。 結 核 発 生 動 向 調 査 情 報 か ら作 成 した 治 療 成 績 (Fig.4)に お い て も,治 療 成 功 率 は2000年 登 録 コ ホ ー ト か ら大 き く向 上 した。DOT事 業 の推 進 に よ り「脱 落 中 断 」 が 減 少 した こ との 他,入 力 率 の 上 昇 や 菌検 査 成 績 の把 握 の 向上 に よ り 「そ の 他 」が 縮 小 した こ とが 影 響 し て い る の か も しれ ない 。 い ず れ に して も,こ の よ うな市 全 体 の 目標 で あ る 「確 実 治 療 」に 向 け た結 核 対 策 の 流 れ の 中 で, 比 較 的 短 期 間の うち に,活 動 の 結 果 が 数 字 で 評価 され た こ と は結 核 対 策 に 従 事 す る者 に とっ て 大 き な励 み とな り,今 後 の 活 動 へ の 意 欲 を生 み,結 果 的 に患 者 の 支援 に 深 くつ なが っ てい くもの と考 え る。 お わ り に 青 木 結 核 予 防会 会 長 は 第76回 結 核 病 学 会 総 会 に お け る特 別 講 演 「新 世 紀 の 結核 戦 略 一 結 核 根 絶 に 向 け て 」の 中 で,従 来 わが 国 の結 核 対 策 は,BCG接 種 に よる 「予 防」 に最 重 点 が 置 か れ,次 に集 団検 診 に よ る 「患 者 発 見(診 断)」が あ り,「治 療 」は最 後 と され て きた が,今 後 は 「治 療 」に最 重 点 を置 くべ きだ と述 べ られ た12)。川 崎 市 で は, 先 に も述 べ た よ う に 「市 の 結 核 罹 患 率 を低 下 させ る」と い う最 終 目標 達 成 の た め に,罹 患 の 高 い 川 崎 区の 野 宿 生 活 者 等 に対 す るDOT事 業 を 開始 した。 開 始 す る 際 に は, DOTの 実 施 が 本 当 に 地 域 の結 核 罹 患 率 の 低 下 に繋 が る の か とい う不 安 は あ っ たが,青 木 会 長 のお 話 か ら も,一 人 一 人 の患 者 を確 実 に治 せ な い か ぎ り,現 状 の改 善 を望 む こ とは で き な い と考 え た。 ニ ュ ー ヨー ク市 のDOTの 成 功13)∼15)は示 唆 に富 み,大 きな励 み とな っ た。DOT事
Fig. 3 Trends of TB incidence rates for all forms and sputum smear-p0sitive pulmonary TB by ward in Kawasaki City, 1998-2002.
Fig. 4 Treatment outcomes for new sputum smear-positive pulmonary TB cases registered in 1997-2001.
The size of cohort eligible for evaluation in each year from 1997 to 2001 was 150, 151, 140, 129 and 149, respectively. The number of cases who could be evaluated in fact in each cohort was 55 (36.7%), 142 (94.0%), 124 (88.6%), 127 (98.4%) and 149 (100%). The DOT program has been implemented since 2000.
業 を実 施 して い く中 で解 決 しな け れ ば な らな い多 くの課 題 に 直 面 した が,そ の 解 決 の た め に行 った種 々 の 施 策 は, 「川 崎 区」の枠 を超 え,ま た 「治療 」の枠 を超 え,す べ て の 結核 対 策 へ と繋 が っ た。 確 実 治 療 を 目指 した こ とは, そ の前 段 階 で あ る早 期 か つ 適 切 な診 断,ま た 接 触 者 か ら の新 た な患 者 発 見,さ ら に は発 病 予 防,感 染 予 防 へ と, 意 識 も,対 策 も必 然 的 に拡 大 した 。 そ の 結 果,良 好 な治 療 成 績 が 得 られ,罹 患 率 の 改 善 も認 め られ 始 め て い る。 現 在 川 崎 市 で は,「 確 実 治療 」 「早 期 発 見 」 「発 病 予 防」 に 「保 健 所 と医 療 機 関 との 連 携 強化 」を加 え た4つ を柱 と して 結 核 対 策 に取 り組 ん で い る。 最 重 点 は 「確 実 治 療 」 に あ り,「初 期 強 化 治療 に よ る確 実 治 療 」を さ ら に徹 底 しな けれ ば な ら ない と考 え る。 現在 最 も有効 とい え る 治 療 法 に よ って,よ り確 実 に よ り短期 間 に 治癒 に繋 げ る こ と こそ,患 者 一 人 一 人 へ の 支援 とな る 。 川 崎 区 の野 宿 生 活 者 に対 して は,当 面,保 健 所 来 所 型 のDOTが 基 本 に な る と考 え られ るが,最 近 一 部 の 患 者 に 訪 問 型 のDOT も実 施 して い る 。今 後 は,す べ て の 区 に お い て,患 者 の 要望 な らび に利 便 性 を考 え,地 域 の 診療 所 や 調剤 薬 局16), また 入 所 施 設 等 で,状 況 に合 わ せ た 方 法 に よ るDOTを 行 っ て い くこ とが必 要 だ ろ う。実 施 の必 要 性,実 施 方 法 等 は,患 者 本 人 と担 当す る保 健 師が よ く相 談 し,同 意 を 得 た 上 で 行 う。 た と え 一 人 の 患 者 へ の 実 施 で あ っ て も,保 健 所 全 体,医 療 機 関,福 祉 事 務 所 等 の 関 係 機 関 が 組織 的 に 連携 し,そ の患 者 の確 実 治療 に よる治 癒 に責 任 を持 つ こ とが重 要 で あ る。 目標 はDOTで も,福 祉 や 医療 機 関 との連 携 で もな い。 「確 実 治 療 」 とい う 目標 を 間違 え な い こ と,そ して,目 標 に 向 か う強 い意 志 を共 有 す る こ とが,今,地 域 で 結 核 対 策 を実 施 す る に あ た っ て何 よ り も大 切 と考 え る。 一 人 一 人 の患 者 の治 療 成 功 を積 み 重 ね てい くこ とが ,罹 患 率 の低 下 とい う最 終 的 な 目標 の 達 成 に き っ と繋 が る はず で あ る。 謝 辞 共 に対 策 に取 り組 ん で きて い る川 崎 市 の 結核 対 策 関係 職 員 の 方 々 に深 く感 謝 致 し ます 。 職 員 の研 修 に と ど ま ら ず,常 に ご指 導 い た だ い て い る結核 予 防 会 結核 研 究所 長 森 亨 先 生,同 保 健 看 護 学 科 長小 林 典 子 先 生,結 核 予 防会 事 業 部 長 山下 武 子 先 生 に深 謝 い た し ます 。 最 後 に,DOT 事 業 の 開 始 時 か ら御 助 言 な らび に ご指 導 を い た だ い て い る結核 予 防 会 会 長 青 木 正和 先 生 に心 よ り御 礼 申 し上 げ ま す。 文 献 1)厚 生 労 働 省 保 健 医 療 局 結 核 感 染 症 課:「 結 核 の 統 計 2002」.結 核 予 防 会,東 京,2002. 2)厚 生労 働省 社 会 ・援護 局 地域 福 祉 課:全 国の ホ ーム レ
ス の 状 況 に つ い て(概 数 調 査 結 果). 2001, 12月. 3)大 阪 市 環 境 保 健 局:大 阪 市 の 結 核 の 現 状. 2000,31. 4)吉 山 崇:社 会 的 ハ イ リ ス ク者 へ の 結 核 検 診 の 施 行 の 実 情 に つ い て.平 成12年 度 厚 生 科 学 研 究 ・新 興 再 興 感 染 症 研 究 事 業 「再 興 感 染 症 と し て の 結 核 対 策 確 立 の た め の研 究 」研 究 班 報 告 書.2001, 5月. 5)杉 原 い と 子,三 浦 展 子,大 類 芳 子: DOTSに よ る 結 核 療 養 支 援.保 健 師 ・看 護 師 の 結 核 展 望.2002;80:29-33. 6)多 田有 希:川 崎市 にお け る野宿 生 活者 の結核 対 策.平 成13年 度厚 生 労働 科 学研 究 ・新興 再 興 感染 症研 究事 業 森 班 「再 興 感 染 症 と して の 結核 対 策 確 立 の た め の 研 究」,高 鳥毛 敏雄 分担 研 究 「社 会 経済 弱 者 にお け る結 核 対 策の 強化 に関す る研 究(H)」 報告 書. 2002, 61-69. 7)原 田 久,辻 村 比 呂 人,藤 野 忠 彦,他:神 奈 川 県 結 核 患 者 管 理 促 進 事 業 につ い て.結 核. 2001;76: 207. 8)亀 田 和 彦:結 核 診 査 協 議 会 の 実 際 的 な 運 用 に 関 す る 提 言.結 核. 2003; 78: 65-68. 9)平 岡真 理 子:結 核 発 生動 向調 査 システ ム フ ローチ ャー ト.平 成14年 度 厚 生労働 科 学研 究 ・新 興再 興 感染 症研 究 事 業石 川 班 「都市 部 にお け る一 般対 策 の及 び に くい 特 定集 団 に対 す る効 果的 な感染 症対 策 に関す る研 究」, 大 森 正 子 分 担研 究 「都 市 結核 対 策 評 価 に関 す る研 究」 報 告 書. 2003; 13-19. 10)平 岡 真 理 子,太 山 和 枝,多 田 有 希,他:川 崎 市 北 部3 保 健 所 に お け る 結 核 コ ホ ー ト検 討 会 一 第1報 一.日 本 公 衆 衛 生 雑 誌. 2003;50: 845. 11)太 山 和 枝,平 岡 真 理 子,多 田 有 希,他:川 崎 市 北 部3 保 健 所 に お け る 結 核 コ ホ ー ト検 討 会 一 第2報.日 本 公 衆 衛 生 雑 誌.2003;50:846. 12)青 木 正 和:新 世 紀 の 結 核 戦 略 一 結 核 根 絶 に 向 け て.結 核. 2001; 76: 549-557.
13) Fujiwara PI : A decade of successful tuberculosis control in New York City-the role of DOT vs DOTS- Œ‹Šj. 2002 ; 77 : 29-35.
14) Fujiwara PI, Larkin C, Frieden TR : Directly observed therapy in New York City, history, implementation, results and challenges. Clincs in Chest Medicine. 1997 ; 18 : 135-148.
15) Frieden TR, Fujiwara PI, Washko RM, et al. : Tuberculosis in New York City turning the tide. N Eng J Med. 1995 ; 333 : 229-233.
16)和 田 雅 子,溝 口 國 弘:間 欠 療 法 を も ち い た 調 剤 薬 局 に お け る 外 来 間 欠DOTの 試 み 世 界 のDOTSと 日本 の DOTS-結 核. 2003; 78 :218.
Field Activities
TUBERCULOSIS CONTROL IN KAWASAKI CITY
Promoting the DOT Program
1
Yuki TADA, 2Masako OHMORI, 2Kunihiko ITO, and 3Michiko FUJIU
Abstract Kawasaki City initiated the DOT (Directly Ob-served Therapy) program in 2000 to improve tuberculosis (TB) control in the homeless persons and individuals living in temporary subsidized housing. The program was implemented
as an additional program to the city's control policy of mass TB screenings for these groups. The DOT program was imple-mented through participation of numerous agencies sharing
common goals. Through coordination and cooperation, a strat-egy suitable for the regional level was developed. Sectors involved were not only the TB control staff within the public health centers but also the entire public health centers, the welfare administrative division, the city's TB task force and homeless task force, and regional medical institutions. With the implementation of the DOT program, proper medical treatment, improved patient care, and various other measures were performed, and this led to the strengthening of TB control not only in designated DOT-implemented areas but
also in the entire city. As a result, the treatment outcomes improved, and incidence rate of TB began to decrease.
Key words : Tuberculosis control, Urban tuberculosis, Home-less persons, Assured treatment, DOT (directly observed therapy)
1
Infectious Disease Surveillance Center, National Institute of Infectious Diseases, 2Research Institute of Tuberculosis, Japan Anti-Tuberculosis Association, 3Health Welfare Center, Kawasaki-ku, Kawasaki City
Correspondence to : Yuki Tada, Infectious Disease Surveil-lance Center, National Institute of Infectious Diseases,1-23-1, Toyama, Shinjuku-ku, Tokyo 162-8640 Japan.
