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「代謝性アシドーシスを伴うCKD患者への
重曹投与はCKD進行を抑制するか」
Bicarbonate Supplementation Slows Progression of CKD and Improves Nutritional Status
2016年5月2日
神戸大学医学部附属病院総合内科 担当者 南地克洋
【症例】 80歳 日本人男性 【現病歴】糖尿病・高血圧で10年以上の治療歴あり。 半年前に高カリウム血症(K 6.9mmol/L)で入院。 ARBは中止となったが、以後 尿蛋白、eGFRは悪化。 透析だけは避けたいと思っている。 認知機能低下はないが、一人暮らしで内服アドヒアランスは 良くはない。 【既往歴】高血圧 2型糖尿病 慢性閉塞性肺疾患 糖尿病性腎症による慢性腎機能障害(CKD) 【内服薬】アムロジピン5mg シルニジピン15mg ドキサゾシン1mg グリメピリド0.5mg サルメテロールフルチカゾン 吸入
【身体所見】身長155cm 体重58kg 体表面積 1.6m
2血圧150/86mmHg 脈拍 60bpm 整
頚静脈怒張なし 心雑音なし III・IV音なし
両側肺底部吸気末にfine cracklesあり wheezeなし
腹部に異常所見なし 両下腿に浮腫軽度あり
【検査所見】WBC 6500/μl Hb 10.0g/dl Plt 24万/μl
BUN 28mg/dl Cr 2.0mg/dl eGFR 25
Na139mmol/l K 4.9mmol/l Cl 111mmol/l
HCO3
-18mmol/l glucose 180mg/dl HbA1
C
6.5%
尿蛋白クレアチニン比
6.7g/gCr
胸部Xp うっ血像なし
重曹投与が腎機能予後にも良いと聞いたことがあり 外来で患者さんと相談してみた。 私「・・・というわけで、重曹(炭酸水素ナトリウム) という薬を始めてみませんか。」 患者「しかし先生、血圧や腎臓が悪いから塩分を制限して いるのに、ナトリウムの入った薬が良いって本当ですか? それに、おしっこの回数が増えそうで心配です。 確かに透析はすごく大変そうで、なんとしても避けたい のですが。」 私「・・・もう少し、調べてきますので次回改めて 相談させてください。」
症例の疑問点のまとめ
CKD患者(糖尿病 高血圧 代謝性アシドー
シス合併)に重曹を投与することで、腎保護
作用や透析導入を遅らせることが期待できる
だろうか。
EBMの実践 5 steps
Step1 疑問の定式化(PICO)
Step2 論文の検索
Step3 論文の批判的吟味
Step4 症例への適用
Step5 Step1-4の見直し
EBMの実践 5 steps
Step1 疑問の定式化(PICO)
Step2 論文の検索
Step3 論文の批判的吟味
Step4 症例への適用
Step5 Step1-4の見直し
Step1 疑問の定式化
患者のPICO
Patient:
高血圧・糖尿病・代謝性アシドーシス合併
のCKD患者
Intervention:重曹(NaHCO
3)を内服
Comparison:内服しないのに較べて
Outcome:透析導入が避けられるか
「治療」の論文を検索するEBMの実践 5 steps
Step1 疑問の定式化(PICO)
Step2 論文の検索
Step3 論文の批判的吟味
Step4 症例への適用
Step5 Step1-4の見直し
慢性腎臓病における代謝性アシドーシスの病因、影響、および治療
(Pathogenesis, consequences, and treatment of metabolic acidosis in chronic kidney disease)の章
UpToDate 「CKD 重曹」で検索
→TREATMENT OF METABOLIC ACIDOSIS IN CKD の項 ・Evidence supporting bicarbonate therapy
J Am Soc Nephrol. 2009 Sep;20(9):2075-84. PMID: 19608703
論文
単施設
前向き無作為化試験
オープンラベル
EBMの実践 5 steps
Step1 疑問の定式化(PICO)
Step2 論文の検索
Step3 論文の批判的吟味
Step4 症例への適用
Step5 Step1-4の見直し
背景①
生化学マーカーによる分析では、尿細管を
保護し腎障害の進展を遅らせる可能性が示
された。
Oral Sodium Bicarbonate Reduces Proximal Renal Tubular Peptide Catabolism, Ammoniogenesis, and Tubular Damage in Renal Patients Renal Failure Volume 20, Issue 2, 1998
経口での重曹投与について
いくつかの動物実験では、代謝性アシドー
シスと腎障害の進行速度の関連が示されて
いる。
Calcium citrate ameliorates the progression of chronic renal injury. Kidney international 65.4 (2004): 1224-1230.
代謝性アシドーシス合併CKDにたいして重
曹を投与すると腎機能障害の進展を遅らせ
るという仮説を検証するために研究を行っ
た。
代謝性アシドーシスの改善が、腎機能にど
れだけ影響するか長期間の研究は(当時)
ない。
背景②
"The effect of metabolic acidosis on the rate of decline of glomerular filtration rate in patients with stage 4 CKD."
Abstract presented at the World Congress nephrology. 2005.
短期間のコホート研究では、腎機能に実質
的な影響与えず。
論文のPICO
P : 代謝性アシドーシスを合併している
Stage4-5のCKD患者
I : 重曹内服する
C : 標準治療のみ行う
O : クレアチニンクリアランスの低下度
CKDの急速な進行をきたした患者数
ESRDが進行し透析を要した患者数
ESRD : end stage renal disease 末期腎不全
Inclusion criteria
・18歳以上
・Stage4-5のCKD患者
・血漿HCO3
-
が 16~20mmol/L
・臨床的に安定している
(CrCl<29ml/min/1.73m
2)
Exclusion criteria
・悪性疾患
・病的肥満
・認知機能障害
・chronic sepsis
・コントロール不良の高血圧
(降圧薬4剤でも150/90mmHg以上)
・うっ血性心不全
Intervention
重曹内服 1回600mg×1日3回
2ヶ月毎に血漿HCO3
-
を測定
HCO
3
-
が23mmol/L 以上を維持
Comparison
標準治療
・クレアチニンクリアランス低下度
・CKDの急速な進行をきたした患者数
・ESRDが進行し透析を要した患者数
・急速なCKDの進行 : CrCl 3ml/min/1.73m2/年 以上の低下 と定義 ・透析を要するESRD : CrCl <10ml/min と定義 CrCl<10ml/min/1.73m2 、尿毒症、溢水、高K血症をきたした患者は、 治療・モニタリングの強化と共に、多職種による検討会にかけられ透析開始 タイミングが決定される。 CrCl>10 での透析導入例は本研究中にはなかった。Outcome
Secondary outcomeとして栄養状態の評価が行われた。倫理的配慮
・ヘルシンキ宣言に則って行われた
・倫理委員会の承認を得た
・参加者から書面によるInformed
consentを得ている
Step3 批判的吟味
結果は妥当か
結果は何か
介入群と対照群は同じ予後で開始したか 患者はランダム割り付けされていたか ランダム化割り付けは隠蔽化(concealment)されていたか 既知の予後因子は群間で似ていたか=base lineは同等か 研究の進行とともに、予後のバランスは維持されたか 研究はどの程度盲検化されていたか(一重~四重盲検) 研究完了時点で両群は、予後のバランスがとれていたか 追跡は完了しているか=追跡率・脱落率はどうか 患者はIntention to treat解析されたか 試験は早期中止されていないか
結果は妥当か
Step3 批判的吟味
患者はランダム割り付けされていたか ○
ランダム化されている。
性別、糖尿病の有無により層別化され、
ブロック毎にランダム化
介入群と対照群は同じ予後で開始したか
ランダム化割り付けは隠蔽化
(concealment)されていたか ○
concealmentされている。
既知の予後因子は群間で似ていたか
=base lineは同等か ○
(similarと記載)
J Am Soc Nephrol. 2009 Sep;20(9):2075-84
研究の進行とともに、予後のバランスは維持されたか
研究はどの程度盲検化されていたか ×
オープンラベル試験
盲検化されていない。
研究完了時点で両群は、予後のバランスがとれていたか
追跡は完了しているか
=追跡率・脱落率はどうか ○
J Am Soc Nephrol. 2009 Sep;20(9):2075-84
介入群で、5名が
治療開始前に脱落
追跡率
介入群は93%
対照群は100%
研究完了時点で両群は、予後のバランスがとれていたか
患者はIntention to treat解析されたか ○
研究完了時点で両群は、予後のバランスがとれていたか
早期中止されず。
予定の2年間追跡された。
治療効果の大きさはどれくらいか RRR・ARR・NNTはそれぞれいくらか 治療効果の推定値はどれくらい精確か 上記それぞれの95%CI区間の範囲は適切か・広すぎないか
結果は何か
Step3 批判的吟味
治療効果の大きさはどれくらいか
RRR・ARR・NNTはそれぞれいくらか
重曹投与(+) 対照群 RR 観察期間中の CrCl 低下 1.88ml/min/1.73m2 (95%CI -0.39~ 4.15) 5.93ml/min/1.73m2 (95%CI 4.19~ 7.76) 備考 透析導入しなかった患者だけ で検討しても 対照群でCrCl 低下が大きい CKDの急速な進行 を来たした患者数 9% 45% 0.15(95% CI 0.06~ 0.40) P<0.0001 ESRD進行し透析 を要した患者数 4人 6.5% 22人 33% 0.13 (95% CI 0.04~ 0.40) P<0.001J Am Soc Nephrol. 2009 Sep;20(9):2075-84
RRR =100-13
87% (95%CI 60~96%)
ARR =33-6.5
26.8%(95%CI 5~33%)
ARRの95%CIは論文に記載なし。 以下のサイトからcalculatorを利用し 計算したため参考値NNT = 100/26.8
3.7人(3.0~20)
2年間 3.7人に投与して
1人透析を回避
ESRD進行し透析を 要した患者数で計算 治療効果の大きさはどれくらいかRRR・ARR・NNTはそれぞれいくらか
http://ktclearinghouse.ca/cebm/practise/ca/cal culators/statscalc Kaplan-Meier法で解析治療効果の大きさはどれくらいか 言葉にする
RRR・ARR・NNTはそれぞれいくらか
小さく見積もって60%
大きく見積もって96%
透析導入を相対的に減少させる
RRR
小さく見積もって5人
大きく見積もって33人
透析導入を減少させる
ARR
少なく見積もって、3人が重曹内服すると、
2年間で1人透析導入を回避できる
多く見積もって、20人が重曹内服すると、
2年間で1人透析導入を回避できる
NNT
2年間、100人が重曹内服すると
EBMの実践 5 steps
Step1 疑問の定式化(PICO)
Step2 論文の検索
Step3 論文の批判的吟味
Step4 症例への適用
Step5 Step1-4の見直し
論文の結果が症例に適用できるか
結果を患者のケアにどのように適用できるか
研究患者は自身の診療における患者と似ていたか
患者にとって重要なアウトカムはすべて考慮されたか
研究患者は自身の診療における患者
と似ていたか △
J Am Soc Nephrol. 2009 Sep;20(9):2075-84
年齢・血圧はスタディー群と異なる (血圧150以上はexclusion criteriaに抵触) 尿蛋白は、自身の患者さんのほうが多い Bicarbonateや腎機能は大差なし Black/Asianが約50%を占めるがAsianが どの程度含まれているのか不明 スタディー群の原疾患で糖尿病は1/3程度 ① ① ① ② ② ③ ③ ⑤ ④ ④ ⑤