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がんリハビリテーションにおけるフレイル予防の基礎的研究と臨床への応用

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(1)理学療法学 第 624 47 巻第 6 号 624 ∼ 629 頁(2020 年) 理学療法学 第 47 巻第 6 号. 理学療法トピックス シリーズ 「疾病予防の基礎研究と臨床応用」. 連載第 1 回 がんリハビリテーションにおけるフレイル予防の. 基礎的研究と臨床への応用* 井 平   光 1). はじめに  2018 年 3 月に閣議決定された第 3 期がん対策推進基 1). 丁寧な思考と実践をもって実現していくことが必要であ ると考える。  その意味で,今回は,がんリハビリテーションのなか. では,患者本位のがん医療を実現させるため. でも,運動機能の維持・改善を目的とした,積極的アプ. の分野別施策のひとつに,「がんのリハビリテーショ. ローチの側面に焦点をあて,虚弱状態を表すフレイルを. ン」が明記されている。この基本計画では,症状の進. 予防し,早期の社会復帰をめざすことを基礎的研究と臨. 行に伴う日常生活動作(activities of daily living:以下,. 床研究の現状から俯瞰し,がん患者におけるフレイル予. ADL)障害や,生活の質(quality of life:以下,QOL). 防を目的としたリハビリテーションの現状と今後につい. の著しい低下に対する,がん領域におけるリハビリテー. て私見を述べたい。. 本計画. ションの重要性が示されている一方で,がんリハビリ テーションを行うための十分な体制が整備されていない. がん性悪液質とフレイル. ことや,機能回復にとどまらない社会復帰という観点も.  がん患者にリハビリテーションを実施する場合,運動. 加えることなどが,課題として挙げられている。このよ. 療法のおもな目的は,筋力低下の予防あるいは維持・改. うな期待と課題のなかで,がんリハビリテーションの担. 善である。固形がんは,最初単一のがん細胞から,徐々. う役割は幅広く,がん治療前の予防的なリハビリテー. に増殖を繰り返し,ある程度の大きさに進展する。この. ションから,終末期の緩和的リハビリテーションまでを. ような段階を経て腫瘍細胞が大きくなることは多段階発. 内包する。たとえば,切除可能な大腸がんに対して手術. がんと呼ばれ,がん細胞は徐々に増大していく。この過. (外科治療)を行う場合には,術前から合併症予防を目. 程で,がん細胞はある程度の大きさに成長し,がん組織. 的としたリハビリテーションを開始し,術後早期に機能. として増大し続けることが多い。増大し続けるために. 低下予防を目的とした運動療法プログラムを立案するこ. は,そのがん組織への酸素や養分が必要となり,がん組. とが効果的かもしれない。一方で,がん終末期における. 織は自らのがん組織から血管新生作用を促すために,ホ. 疼痛除去を目的とした緩和的リハビリテーションにおい. ルモンを放出し,自身のがん組織へあらたな血管を新生. ては,安楽な体位を保持することに重点を置いてもよい. させることで,さらに増殖していく。この一連の流れに. かもしれない。病態や部位,進行度が多様な“がん”と. よって,がんは増殖増大していく。このことが一因とな. いう疾患に対し,その目的が多様であるリハビリテー. り,がん細胞の増大に伴って,自身の代謝は異常をきた. ションを実施し,がんリハビリテーションの効果として. し,本来,筋細胞へ取り込まれるはずの酸素やたんぱく. 一括りに捉えることは容易ではない。このような複雑さ. 質は,がん細胞の増殖のために使われてしまう。また,. を,可能な限り単純化し,科学的に確からしいことを積. 腫瘍から放出される,たんぱく質分解誘導因子などの関. み重ね,そして臨床現場に幅広く応用していくことを,. 与や,炎症性サイトカインの活性化は,代謝異常に関連 し,さらなる筋量減少を引き起こすとされている。加え. *. The Basic and Clinical Research for Prevention of Frailty in Cancer Rehabilitation 1)国立がん研究センター 社会と健康研究センター 疫学・予防研究 グループ (〒 104‒0045 東京都中央区築地 5‒1‒1) Hikaru Ihira, PT, PhD: Epidemiology and Prevention group, Center for Public Health Sciences, National Cancer Center キーワード:がん性悪液質,エビデンス,理学療法. てがん患者は,心理的不安感,生活環境の変化,手術に よる後遺症や治療による副作用など,様々な要因によっ て食欲が低下することが多い。これによって,栄養不良 に陥ることが,上記の代謝異常に拍車をかけることも少 なくない。このように,「通常の栄養サポートでは完全.

(2) がんリハビリテーションによるフレイル予防の基礎研究と臨床研究. 625. 表 1 がん性悪液質の診断基準(EPCRC) (引用 3) 定義. 診断基準. 下記を特徴とする他因子性の症候群 ・骨格筋量の持続的な減少(脂肪量減少の有 無にかかわらず) ・通常の栄養サポートだけでは完全に回復で きない進行性の機能障害. ・過去 6 ヵ月間に 5% を超える体重減少(単 純飢餓の非存在下) ・または,BMI 20 未満かつ 2% を超えるすべ ての体重減少 ・または,サルコペニアに一致する四肢骨格 筋指数(男性 <7.26l g/m2; 女性 <5.45l g/m2) かつ 2% を超えるすべての体重減少. に回復することができず,進行性の機能障害に至る,骨. 率が 5% だったのに対して,術前にフレイルな状態のが. 格筋量の持続的な減少(脂肪量減少の有無にかかわら. ん患者の術後死亡率は 23%だったことが報告されてい. ず)を特徴とする他因子性の症候群」は,がん性悪液質. る. 2). 5). 。また,80 代の健常な高齢結腸がん患者と比較し. と定義される 。がん性悪液質の発生メカニズムは,十. て,フレイルな状態の高齢結腸がん患者は,結腸切除術. 分に明らかにされていないが,がん性悪液質に対するリ. 後 1 年以内の死亡率が 8.4 倍高かったことも報告されて. ハビリテーションに関しては,図書により詳細にまとめ. 6) いる 。さらに,23 編の研究をまとめたシステマティッ. 3). 。がん. クレビューでは,高齢がん患者における 90 日後の死亡. 性悪液質の診断基準は,2011 年の EPCRC(European. リスクにもっとも影響を与える身体的要因が,フレイル. Palliative Care Research Collaborative)による国際コ. であることを報告している. ンセンサスによって定められた基準が標準的に使用され. 化比較試験では,フレイルな高齢大腸がん患者に対し. 3) ることが多い (表 1)。. て,術前のリハビリテーションを実施したところ,術後.  フレイルは,ストレスに直面した際に,要介護状態,. 30 日に測定された各アウトカムに統計学的に有意な改. 死亡への脆弱性が更新した状態である。代表的なフレイ. 善は見られなかったことが報告されている. られているため,そちらをご覧いただきたい. ルの評価基準である Fried モデル. 4). では,1)意図しな. 7). 。一方で,最近のランダム. 8). 。この研究. については,盲検化がされていないことや,単施設研究. い体重減少,2)歩行速度低下,3)疲労感,4)身体活. であることなど,研究デザイン上の不備があることや,. 動の低下,5)筋力低下,の 5 つの基準のうち 3 つ以上. 高齢がん患者に対する介入アドヒアランスが適切になさ. 該当する場合にフレイルと定義され,1 つまたは 2 つあ. れていないことなどの指摘. る場合にはプレフレイルと定義されている。フレイル. 数有する高齢がん患者に対して,フレイル予防を目的と. は,高齢者の機能状態を表す概念として用いられること. したリハビリテーションを実施し効果を検証することの. が多いが,がん性悪液質の場合は,体重減少を伴うこと. 難しさを象徴している。. が多いため,その時点でプレフレイルの状態であること.  上記のように,高齢がん患者のフレイル予防に対する. が多く,がん性悪液質に対するリハビリテーションに. 介入効果の検証については,臨床研究の枠組みにおいて. よって機能改善を図ることは,フレイルに対するリハビ. 進行中であるが,がん患者の身体機能を改善し,ADL. リテーションと似た側面をもつ。しかしながら,同じ高. および QOL 向上に向けた好循環を生み出すことが,が. 齢者においても,がんに罹患していない地域在住高齢者. んリハビリテーションの役割として重要であることはい. のフレイルと,がん性悪液質を有している高齢者のフレ. うまでもない。さらに踏み込んでその役割を考えてみる. イルとでは,その病態や障害像は大きく異なる。また,. と,がん患者に対してリハビリテーションを実施し身体. 当然ながら,成人でがん性悪液質を有した状態は,地域. 機能を維持・改善することは,その後のがん治療自体を. 在住高齢者のフレイルとは異なる。したがって,フレイ. 継続できるかどうかにも大きくかかわる。たとえば,大. ルという概念で統一されてしまいがちな身体的特徴を有. 腸癌治療ガイドライン医師用 2019 年版. していても,その背景にある病態や障害像は大きく異な. 大腸がん患者の治療方針として,切除不可能な症例につ. ることを理解し,がんリハビリテーションにおいて,フ. いては,全身薬物療法や放射線療法の治療を実施するか. レイルを予防するために必要な情報を整理し,予防対策. どうかの判断基準として,パフォーマンスステータス. を実践していく必要がある。. 9). もあるが,基礎疾患を多. 10). では,再発. 11) (Performance Status: 以 下,PS) ( 表 2) が 用 い ら.  がん患者がフレイルな状態であることは,術後の様々. れ,PS2 以下である場合に治療継続の流れとなる。つま. なアウトカムに悪影響を及ぼすことが多く報告されてい. り,この評価時点で,PS2「歩行可能で,自分の身のま. る。たとえば,胃がんに対する手術療法を行った 180 人. わりのことはすべて可能だが,作業はできない。日中の. のがん患者の中で,術前に健常ながん患者の術後死亡. 50%以上はベッド外で過ごす」よりも身体的に自立して.

(3) 626. 理学療法学 第 47 巻第 6 号. 表 2 パフォーマンスステータス(Performance Status:PS) (引用 11) 0. まったく問題なく活動できる.発症前と同じ日常生活が制限なく行える.. 1. 肉体的に激しい活動は制限されるが,歩行可能で,軽作業や座っての作業は行 うことができる.例:軽い家事,事務作業. 2. 歩行可能で,自分の身のまわりのことはすべて可能だが,作業はできない.日 中の 50%以上はベッド外で過ごす.. 3. 限られた自分の身のまわりのことしかできない.日中の 50%以上をベッドか 椅子で過ごす.. 4. まったく動けない.自分の身のまわりのことはまったくできない.完全にベッ ドか椅子で過ごす.. 全身状態の指標のひとつで,患者さんの日常生活の制限の程度を示す.. いることが,次の治療を実施できるかどうかの主要な判. 質に関する動物実験の基礎的研究としては,Smith と. 断材料となる。がんリハビリテーションによってフレイ. Tisdale. ルを予防する取り組みは,がん術後の ADL や QOL の. ンパク質分解が大幅に増加し,体重が 15 ∼ 30%減少し. 向上だけでなく,がん治療を継続できるかどうかという. たという報告を皮切りに,多くの基礎研究が進展したと. 観点からも,重要である。. いわれている。最近の研究では,がんリハビリテーショ. がんとフレイルに関する基礎的研究. 15). が,腫瘍マウスでタンパク質合成に比してタ. ンへの応用をめざした基礎的な知見として,がん罹患マ ウスのモデルに電気的な筋収縮を与えることで,筋萎縮 16).  がん患者とフレイルの関連を調査した疫学研究では,. が抑制されたという報告がある. 高齢がん患者の多くが,プレフレイルもしくはフレイ. 用いた実験的研究. ルの状態であることが明らかになっている。Handforth. およびヒラメ筋)を支配する神経を取り除いた場合,通. ら. 12). は,高齢がん患者のフレイルの有病率を調べるた. 。同様に,マウスを. 17). では,下肢の筋(腓腹筋,足底筋,. 常のマウス(CNT)の除神経グループで筋量の低下が. めに,2,916 名を含む 20 編の観察研究をまとめたシステ. 確認されたことに加えて,がん性悪液質を有するマウス. マティックレビューの結果から,がん患者のフレイルの. (CCX)においても,除神経グループで統計学的に有意. 有病率が 42%(範囲:6 ∼ 86%),プレフレイルの有病. な筋量の低下がみられたことが示されている(図)。つ. 率が 43%(範囲:13 ∼ 79%)であることを示した。こ. まり,この研究では,代謝障害や栄養障害を含む多様な. の研究では,さらに,フレイルな状態の高齢がん患者で. 原因によるがん性悪液質と,不活動による電気的な筋活. は,その後の全死亡や,術後死亡について統計学的に有. 動低下が合併した状況下(図:CCX で除神経(+)の. 意なリスクの上昇を示し,高齢期のがん患者に対するフ. マウス)において,下肢筋量の低下が著しいことを明ら. レイル評価の必要性と,集学的なアプローチを検討する. かにしており. 重要性を提案している。フレイルと密接にかかわる筋力. の状況下においても電気的に筋収縮を誘導させること. 減少症(サルコペニア)に関しても,がん患者では有病. で,筋量低下を予防できる可能性を示唆する重要な研究. 率が高いことが報告されている。たとえば,胃がん患. であると考える。. 者. 13). では約 57%,肝がん患者. 14). では約 27% の割合. でサルコペニアを有していることが疫学研究によって示. 17). ,逆説的に解釈すると,がん性悪液質. がんリハビリテーションの臨床研究. されており,がん患者におけるサルコペニアの有病が,.  がんリハビリテーションの臨床研究を一括りに捉える. その後の生存期間を短縮していることも明らかにされて. ことは難しい。がんリハビリテーションの内容(がんリ. いる。これら以外にも,がん患者の筋力減少をはじめと. ハビリテーションとして内包されうる実施内容)が多様. して,体重減少に関する報告は多数存在する。がん患者. であること,また,がんリハビリテーションによるアウ. が痩せ細るという現象は,フレイルやサルコペニアとい. トカム(身体的側面 or 心理的側面,機能 or QOL or 生. う定義ができる前に,昔から起きていた訳だが,今この. 命予後,など)が多様であることが,がんリハビリテー. ように注目されている理由としては,がん生存率の向上. ション研究における目的の多様性を生み出している。た. に伴い,がん罹患後あるいはがん治療後に,いかにして. とえば,進行性がん患者に対する新規薬物療法が生存期. ADL や QOL を向上させ,スムーズな社会復帰に誘導. 間に与える影響,が目的であれば,二重盲検化のうえで,. していくか,という取り組みへの必要性が認識されてき. 進行性がん患者をランダムに既存薬物療法を対照群,新. ているからである。. 規薬物療法を介入群に割り付け,主要なアウトカムを全.  がん患者のフレイルの主要因である,がん性悪液. 生存期間(Overall Survival:OS)に設定し,複数施設.

(4) がんリハビリテーションによるフレイル予防の基礎研究と臨床研究. 627. 図 がん性悪液質群と対照群の除神経による下肢筋力の比較(文献 17 より一部改変). でこの効果を検証することになるかもしれない。このよ. 果を検証した。化学療法の施行前と終了時の筋力指標. うな非常に洗練された研究デザインにおいても,真の影. (平均値;治療前→治療後)を比較すると,肘屈曲筋. 響を観察するためには考慮されるべき事項は多く,様々. 力( 通 常 ケ ア 群;29.1 Nm → 25.2 Nm, ト レ ー ニ ン グ. な努力によって,その効果を検証することになる。しか. 群;31.7 Nm → 32.0 Nm,平均差(95%CI) ;7.0(2.6 to. しながら,リハビリテーションを実施する場合,まずは. 11.3) ),膝伸展筋力(通常ケア群;65.7 Nm → 62.3 Nm,. 介入内容の盲検化が難しいという特徴がある。かつ,が. トレーニング群;70.2 Nm → 71.4 Nm,平均差(95%CI) ;. んリハビリテーションのアウトカムとしては,死亡評価. 7.6(2.1 to 13.0) ), お よ び 握 力( 通 常 ケ ア 群;29.4 kg. などのいわゆるハードアウトカムよりも,QOL や機能. → 27.5 kg,トレーニング群;31.8 kg → 30.6 kg,平均. の向上が主体となることが多いため,アウトカムの統一. 差(95%CI) ;1.8(0.4 to 3.1))で,統計学的に有意な介. 性という観点からは,エビデンスが統合されにくいとい. 入効果を認めたことが報告されている。その他にも,ア. う特徴もある。このように,科学的なエビデンスが集約. ンドロゲン除去療法を施行中の前立腺がん患者を対象. されにくい特徴はありながらも,丁寧に研究成果を積み. として,31 人を通常ケア群に,32 人をトレーニング群. 上げていくことが必要であると考える。この意味で,が. にランダムに割り付け,3 ヵ月間のレジスタンストレー. んリハビリテーションの臨床研究として全体を俯瞰する. ニ ン グ を 含 む 運 動 介 入 の 効 果 を 検 証 し た RCT. ことは難しいが,フレイル予防に関連する臨床研究に関. は,ベースライン時と 3 ヵ月後の筋力(1 RM, kg)が,. して,代表的な介入方法である運動療法と,アウトカム. レッグプレス(通常ケア群;143.6 → 141.7,トレーニ. として筋力指標に着目した研究を紹介したい。. ング群;134.3 → 157.9,平均差(95%CI);25.9(15.0 to.  がん患者に対する運動介入は,筋力を改善させるこ. 36.8) ),チェストプレス(通常ケア群;50.4 → 47.4,ト. とができるのだろうか。28 編のランダム化比較試験. レーニング群;44.8 → 47.2,平均差(95%CI);4.8(1.6. (randomized controlled trial: 以 下,RCT) の 結 果 を. to 7.9))ともに向上し,上下肢の筋力向上効果が期待で. まとめたメタアナリシス. 18). では,がん治療期間にお. 20). で. きることが示された。. ける 60 分間以上のレジスタンストレーニングを含む. 我が国における,がんリハビリテーション研究. 運動介入が,上肢筋力,下肢筋力,および下肢筋機能 の維持改善に有効であることが報告された。このなか.  日本における,がんリハビリテーションの臨床研究で. で, 代 表 的 な RCT で あ る PACE study(The Physical. は,近年,理学療法が実施する内容に焦点化した様々な. Exercise During Adjuvant Chemotherapy Effectiveness. 結果が報告されている。血液がん患者を含む造血幹細胞. 19). では,化学療法試行中の乳がん患者 230 人を. 移植患者を対象に,早期リハビリテーション後の身体活. ランダムに 3 群(通常ケア群 vs 在宅運動群 vs レジス. 動の高さが入院期間の短縮と関係することを報告した研. タンス・有酸素トレーニング(トレーニング)群)に. 究. 割り付け,身体機能や健康関連 QOL に対する介入効. ん患者リハビリテーション料」が新設されて以降は,さ. Study). 21). をはじめとして,2010 年度の診療報酬改定で「が.

(5) 628. 理学療法学 第 47 巻第 6 号. らに多くのがんリハビリテーションの研究成果が報告さ れてきている。たとえば,食道切除術を実施した食道が ん患者 100 人を対象に,術前のリハビリテーションが 術後の肺合併症予防に有効であることが,後方視的研 究. 22). によって報告されている。また,食道切除術を実. がんリハビリテーションと精神的および社会 的フレイル  がんリハビリテーションにおける身体的フレイルの予 防改善に焦点化してきたが,フレイルには精神心理的お. 施した食道がん患者の術後肺合併症の予測因子として,. よび社会的な側面もある。がん患者の精神心理的フレイ. サルコペニアが関連している可能性(調整済みオッズ比. ルについては,高齢期の認知機能低下を特徴とするもの. 23) され,さらに, (95%CI)= 3.13(1.12‒8.93))が示唆. とはやや異なるが,がんに罹患したことへの精神的な落. サルコペニアは 90 日間の生存率の関連要因(調整済み. ち込みや,それが進行したうつ状態などは,高齢期に限. 24). オッズ比(95%CI)= 2.35(1.21‒4.54)). であることも. らずサポートが必要な大きな課題である。特に,緩和ケ. 明らかにされており,筋力減少を主体とするサルコペニ. ア(がんが進行してからはじめるものではなく,がんと. アを含めて,リハビリテーションによってこれらの病態. 診断されたときから開始される)の概念に基づき,個々. を予防することが,がん術後の予後にとっていかに重要. 人のニーズに対応した多職種・多面的な介入を行うこ. かが示されている。. とで,がん患者の苦痛を和らげることを目的としたアプ.  他にも,理学療法を主体としたがんリハビリテーショ. ローチを実施していくことが求められている。. ンの効果検証に関する基礎的研究や臨床研究が,この直.  社会的フレイルについても,特に,働き世代のがん罹. 近 5 年以内に,日本人研究者によって多く報告されて. 患者であれば,就労支援が大きな課題となっている。基. 25‒28). 。また,日本におけるデータベース研究とし. 本的に,入院中に施行されるがんリハビリテーション. て,76,739 人の肺がん患者を対象に,肺がん術前後のリ. は,社会復帰をめざして進められることが多いが,外来. ハビリテーションが,術後肺炎の発症に予防的であるこ. での実施ができないこともあり,退院後の生活をフォ. いる. 29). 。大規模データベースを操作するた. ローすることは事実上難しい。急性期におけるがんリハ. めには,ある程度の専門的な知識やスキルが必要で,現. ビリテーション後の社会的フレイルについてかかわりが. 状ではリハビリテーション分野の研究報告は多くはない. 難しい点かもしれないが,がん以外の疾患と同様に,退. が,海外ではリハビリテーション専門職以外のバイオイ. 院後の就労を見据えた生活を支援する取り組みは重要で. ンフォマティクス研究者が,論文作成にあたることも多. ある。. とが報告された. い。しかしながら,このようなデータベース研究では, 単に数値を読み解くだけではなく,取得データの背景要. まとめ. 因(たとえば,診療報酬の改定時期によってリハビリ.  がんリハビリテーションの基礎研究と臨床応用につい. テーション料が異なる,など)をよく理解し,リハビリ. て,おもに身体的フレイルを予防するためのヒントを概. テーション領域での実践的なリサーチクエスチョンを立. 観した。国立がん研究センターによる最新がん統計. 案することや,研究課題の重要性を考慮することが大切. では,生涯でがんに罹患する確率は,男性 65.5%,女. であり,やはり専門職ならではの視点が有益である。そ. 性 50.2%と報告されている。一方で,5 年相対生存率. 29). 30). は端緒的であり,今後,ビック. 64.1%が示すように,がん治療の進展による生存率の向. データの情報共有や操作技術を含めて,さらに発展させ. 上によって,多くのがん患者が,社会復帰のためのリハ. ていく必要性の高い分野だと思っている。. ビリテーションを必要としている。.  上記で触れた様々な研究の通り,2012 年度からはじ.  がんを制圧するために,がん研究を取り巻く環境は,. まった 2 期目がん対策基本計画の骨子,および 2018 年. 産学官連携あるいは医療戦略的な国際競争の支柱とし. に閣議決定された第 3 期がん対策推進基本計画で明記さ. て,日々情報が更新されている。「がん患者を含めた国. れている「がんのリハビリテーション」の効果を,客観. 1) 民が,がんを知り,がんの克服をめざす」 という全体. 的なエビデンスに基づいて明らかにしようとする取り組. 目標に向けて,ゲノム解析からリハビリテーションに至. みは,現在進行形で行われている。このような取り組み. るまで,それぞれの分野で役割を果たす必要がある。と. を継続的に実施することは,今後のがんリハビリテー. りわけ,がん研究において比較的新しい領域であるリハ. ションに関する制度設計のための信頼を勝ち取る意味に. ビリテーションが,今後その役割を果たし,大きな期待. おいても重要であり,ひいては,がん患者の生活を豊か. に応えていくためには,がん研究の他領域と共存的な関. にするために,研究共同体制を構築するなど,より一層. 係性を構築し,学際的にも社会的にも,より革新的に発. 拡充される必要があるのではないだろうか。. 展していく必要があると感じる。2 人に 1 人以上ががん. の意味で,上記研究. に罹患する現在,がん治療後の社会復帰を見据えた,医 療の枠にとどまらないシームレスな思考やサポートが求.

(6) がんリハビリテーションによるフレイル予防の基礎研究と臨床研究. められているなかで,がんリハビリテーションの特徴で ある,多種多様な取り組みや目的は,今後のがん対策の 大きなカギを握っていると考えている。 文  献 1)厚生労働省.がん対策推進基本計画.https://wwwmhlwgojp/ file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000196975pdf. (2018 年 3 月引用) 2)Fearon K, Strasser F, et al.: Definition and classification of cancer cachexia: an international consensus. Lancet Oncol. 2011; 12(5): 489‒495. 3)立松典篤(編):がんのリハビリテーション 15 レクチャー シリーズ.中山書店,東京,2020,pp. 107‒116. 4)Fried LP, Tangen CM, et al.: Frailty in older adults: evidence for a phenotype. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2001; 56(3): M146‒M156. 5)Tegels JJ, de Maat MF, et al.: Value of geriatric frailty and nutritional status assessment in predicting postoperative mortality in gastric cancer surgery. J Gastrointest Surg. 2014; 18(3): 439‒445; discussion 445‒446. 6)Neuman HB, Weiss JM, et al.: Predictors of short-term postoperative survival after elective colectomy in colon cancer patients ≥ 80 years of age. 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参照

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