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イバラガニモドキの鰓腔から出てきた異物

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Academic year: 2021

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29

日本甲殻類学会 Report

Carcinological Society of Japan

報告

Cancer 25: 29–32 (2016)

イバラガニモドキの鰓腔から出てきた異物

Foreign body found in gill cavity of golden king crab (Lithodes aequispinus)

柳本 卓

1

・松崎浩二

2

Takashi Yanagimoto, and Koji Matsuzaki

はじめに タラバガニ類は北洋に広く分布し(Sakai, 1976), 北日本における水産業の重要な産業種となってい る.それらの中に,タラバガニ,アブラガニ,ハナ サキガニ,イバラガニモドキがある.それぞれ大型 の甲殻類として重要で,底刺し網,カニ籠などで漁 獲されている.タラバガニ類には様々な寄生生物が 付着することがあるが,寄生生物は脱皮直後の個体 にはあまり付いてないことから,実入りの良い製品 の指標として使われることが多い.一方,鰓腔の中 にも寄生生物が存在していることが知られている. 2015年にタラバガニの鰓腔から出現した異物やア ブラガニの鰓腔から出てきた異物について,どんな 生物なのか調べてほしいという依頼があった.これ らの外部形態の観察とDNA分析の結果から,異物 はコンニャクウオ属の一種が輸卵管によりタラバガ ニ類に産み付けた卵であると推測された(柳本・猿 渡,2015;柳本,2015). 本報告では,イバラガニモドキの鰓腔から卵と思 われる異物が見つかったので(Fig. 1),この異物に ついて外部形態とDNA分析を行い,どのような生 物種であるのかを調べた. 材料と方法 異物の分析 2015年12月に羅臼沖の水深700から1000 mにお いてキチジ刺し網により漁獲されたイバラガニモド キ1個体の鰓腔から異物が出現した.異物の一部に ついてエタノール固定して,研究室にて外部形態の 観察を行った.異物は魚の卵塊のようであり,これ らをほぐして8粒の大きさを測定した.その後,こ れら8粒について,QuickGene(Fuji Co.)を用いて DNAを抽出した.mtDNAの16S領域とCOI領域に ついて塩基配列を調べた.16S領域についてプライ マー16SarL(5′-cgcctgtttatcaaaaacat-3′)と16SaH(5′- 1 (独)水産総合研究センター中央水産研究所水産遺伝 子解析センター 〒236–8648 神奈川県横浜市金沢区福浦2–12–4 Research Center of Aquatic genomics, National Research

Institute of Fisheries Science, 2–12–4 Fukuura, Kanaza-wa, Yokohama, Kanagawa 236–8648, Japan

E-mail: yanagimo@affrc.go.jp

2 公益財団法人ふくしま海洋科学館

〒971–8101 福島県いわき市小名浜小名浜字辰巳町50 Marine Science Museum, Fukushima Prefecture 50 Ta-tsumi-Cho, Onahama, Iwaki, Fukushima 971–8101, Japan E-mail: matsu@marine.fks.ed.jp

Fig. 1.  Photograph of foreign body found in gill cavity

of golden king carb. White arrow shows two black points. It was considered that there are eyes of larvae.

(2)

30

Cancer 25 (2016)

柳本 卓 ・ 松崎浩二

ccggtctgaactcaggtcacgt-3′)を,COI領域についてプ ライマーL5956(5′-cacaaagacattggcaccct-3′)とH6558 (5′-cctcctgcagggtcaaagaa-3′)を用いて(Palmbi, 1992),

サーマルサイクラー(ABI9700 Applied Biosystems)

に よ りPCR増幅をおこなった.PCR反応として, 94度2分の熱変性後,熱変性94度30秒,アニーリ ング55度30秒,伸長反応72度2分を30サイクル行 い,最後に72度で7分加熱して伸長反応を行った. PCR反応溶液は,DNA溶液1 μl, 2.5 mMdNTP溶液 2.5 μl, 10×Buffer (TaKaRa)2.5 μl, 50 μMの各プライ マー0.5 μl, TaKaRa Ex Taq Polymerase 0.125 U,総量が 25 μlになるように超純水を加えた.PCR産物につい て,1.5%アガロースゲル(NuSieve3 : 1, TaKaRa)で 電気泳動して,エチジウムブロマイド染色により PCR産 物 を 確 認 し た.Quick PCR Purification Kit

(Qiagen)によりPCR産物を精製した.精製した PCR産物をテンプレートとして,PCRで用いたの と 同 じ プ ラ イ マ ー を 用 い, BigDyeTerminatorKit-Ver3.1(Applied Biosystems)により製品の手順に従 いシーケンス反応を行った.Exo-SapIT (GEヘルス ケア)によりシーケンス反応物を精製した.精製産 物 をABI PRISM 3130XL Genetic Analyzer(Applied Biosystems)によって電気泳動して塩基配列を決定 した.得られた塩基配列をインターネット上の遺伝 子相同性検索ソフトBlast(Altschul et al., 1990)に よって,塩基配列がどのような種と近いかを検討し た. 結 果 異物をほぐして,その8粒の大きさを測定したと こ ろ, 小 さ い も の で4.59 mm, 大 き な も の で 5.28 mm,平均4.96 mmであった.また,異物には 眼のようなものが観察された(Fig. 1). 8粒の16S領域545 bpとCOI領域500 bpを決定し たところ,すべて同じ塩基配列であった.16S領域 とCOI領 域 の 塩 基 配 列 をDNAデ ー タ バ ン ク に LC126711とLC126712で登録した. 16S領域の塩基配列についてBlast分析を行った結 果,ビクニンの2つの塩基配列が99%,カザリクサ ウオの3つの塩基配列が92%と相同性が高かった (Table 1).また,COI領域の塩基配列についてBlast 分析を行った結果,コンニャクウオ属の一種やアイ ビクニンCareproctus cypselurusの塩基配列と相同性 が高かった(Table 1). 考 察 イバラガニモドキの鰓腔から出現した異物には眼 のようなものが観察されることから魚類の卵である と考えられた(Fig. 1).また,異物の大きさは平均 4.96 mmと大きく,クサウオ類の卵とほぼ同じ大き さであった(Poltev & Mukhametov, 2009).異物に

ついてmtDNAの16S領域とCOI領域の塩基配列を

決定しBlast分析を行った結果,16領域ではアイビ

Table 1. The results of blast analysis for sequences of foreign body.

A) 16S

Order Acc.No Speceies name Japanese name Identities Identities(%)

1 KJ010654 Careproctus sp. コンニャクウオ属の一種 544/544 100 2 KJ010653 Careproctus sp. コンニャクウオ属の一種 544/545 99 3 KR779500 Careproctus cypselurus アイビクニン 540/540 100 4 KJ010555 Careproctus cypselurus アイビクニン 541/542 99 5 LC002657 Careproctus sp. コンニャクウオ属の一種 543/545 99 B) COI

Order Acc.No Speceies name Japanese name Identities Identities(%)

1 KP453825 Liparis tessellatus ビクニン 476/478 99

2 KP453826 Liparis tessellatus ビクニン 475/478 99

3 FJ164724 Liparis pulchellus カザリクサウオ 461/500 92

4 JQ354185 Liparis pulchellus カザリクサウオ 460/500 92

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Cancer 25 (2016) イバラガニモドキの鰓腔から出てきた異物 クニンなどのコンニャクウオ属の塩基配列と,COI 領域ではビクニンやカザリクサウオの塩基配列と相 同性が高いと言う結果になった.このことから,異 物の種を特定できないが,クサウオ類の卵であると 考えられた. DNA分析の結果,16領域とCOI領域で最も近い 塩基配列の種が異なる結果になった.これは,現在 のDNAデータベース上に,データが登録されてい ないため,今回のような結果になったと推測され る.そのため,今後,データベースを整備する必要 がある.現在,様々な研究機関に依頼してクサウオ 類を収集している.今後,これらの外部形態から正 確な種査定を行い,DNA分析を行ってデータベー スを作成することにより,どのクサウオ類がどのカ ニに産卵するのかを明らかになると考えられる. クサウオ類が輸卵管を伸ばしてタラバガニ類の排 卵腔から産卵することは,古くから知られている (ex., 中澤,1915; Rass, 1950; Vinogradov, 1950; Hunt-er, 1969).近年,食の安心安全が問われていること から,このようなタラバガニ類から出現する異物を 正確に種判別することは重要である.これまで, DNA分析によって「茹でられてお歳暮で送られて きたタラバガニから出現した異物」がコンニャクウ オ属の一種の卵である可能性が高いこと,「茹でて 食べていたアブラガニから出現した異物」がコン ニャクウオ属の一種の卵である可能性が高いことが 分かった(柳本・猿渡,2015;柳本,2015).本研 究の結果,イバラガニモドキの異物がクサウオ類の 卵であることが明らかになった. イバラガニモドキはタラバガニ類の中でも,クサ ウオ類の卵の出現が多く,宿主の大きさとの関係な ど報告されている(Love & Shirley, 1993; Somerton & Donaldson, 1998; Poltev & Mukhametov, 2009).ま た,イバラガニモドキに卵を産み付けるのは一種類 だけではなく,複数種が報告されている(Poltev & Mukhametov, 2009).日本沿岸の報告として,野別 (2003)によると,キチジ刺し網に多くのイバラガ ニモドキが混獲され,その腹部から稚魚が採集され ている.稚魚の背鰭条数を計測したところ80を超 えていたため,この稚魚がヒラインキウオの可能性 があると報告している.本報告の異物の塩基配列は ヒラインキウオのDNAと相同性は高くなかったが, 今後,多数の鰓腔からの異物を調べることでヒライ ンキウオの卵も見つかるかもしれない.この報告の ように,日本沿岸で漁獲されるイバラガニモドキに も,クサウオ類が卵を産みつけており,今後,更に 検討していく必要がある. このような事例を積み重ねることにより,より安 心安全にカニを利用することができる.更に,この ようなデータが蓄積されることにより,どのカニを 獲ってくればどのクサウオ類の卵があるか分かる. 通常,飼育が難しいクサウオ類の繁殖などに応用で きる可能性がある. 謝 辞 本研究を進めるにあたり羅臼漁業協同組合所属の 豊佑丸船長藤本繁美氏には,試供個体のご提供,羅 臼漁業協同組合代表理事組合長田中勝博氏には深層 水施設の借用等で便宜をはかって頂いた.また公益 財団法人ふくしま海洋科学館の安部義孝館長,薦田 章副館長には研究の機会とご指導を頂いた.この場 を借りて各位に厚くお礼申し上げる. 文 献

Altschul, S. F., Gish, W., Miller, W., Myers, E. W., & Lipan, D. J., 1990. Basic local alignment search tool. Journal of Molecular Biology, 215: 403–410.

Hebert, P. D. N., Ratnasingham, S., & Waard, J. R., 2003. Barcoding animal life: cytochrome oxidase subunit I di-vergences among closely related species. Proceeding of the Royal Society B: Biological Sciences, 270: 96–99. Hunter, C. J., 1969. Confirmation of symbiotic relationship

between liparid fishes (Careproctus spp.) and male king crab (Paralithodes camtschaticia). Pacific Science, 23: 546–547.

Love, D. C., & Shirley, T. C., 1993. Parasitism of the golden king crab, Lithodes aequisplnus BENEDICT, 1895 (De-capoda, Anomura, Lithodidae) by a Liparid fish. Crus-taceana, 65: 97–104. 中澤毅一,1915.タラバガニ鰓腔に産卵する魚.動物 学雑誌,27: 14–165. 野別貴博,2013.意外な産卵場所.斜里町立知床博物 館 編. 知 床 の 魚 類. 北 海 道 新 聞 社, 札 幌,pp. 215–216.

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Ma-32

Cancer 25 (2016)

柳本 卓 ・ 松崎浩二

rine, 45 pp.

Poltev, Yu. N., & Mukhametov, I. N., 2009. Concerning the problem of Carciophilia of Careproctus Species (Scor-paeniformes: Liparidae) in the North Kurils. Russian Journal of Marine Biology, 35: 215–223.

Rass, T. S., 1950. An unusual instance of a biological rela-tion between fish and crabs. Priroda, 39: 68–69. [In Russian].

酒井 昇,1976. 日本産カニ類.講談社,東京,pp.

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Somerton, D. A., & Donaldson, W., 1998. Parasitism of the

golden king crab, Lithodes aequispinus by two species of snailfish, genus Careproctus. Fishieres Bulletin, 96: 871–884.

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Fig. 1.    Photograph of foreign body found in gill cavity  of golden king carb. White arrow shows two  black points
Table 1.   The results of blast analysis for sequences of foreign body . A) 16S

参照

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