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特展 望集望 LTO 負極を用いたリチウムイオン電池の安全性と信頼性 LTO 負極を用いたリチウムイオン電池の安全性と信頼性 Safety and Reliability of Lithium Ion Batteries with LTO Anode Safety and reliability o

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Academic year: 2021

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LTO負極を用いたリチウムイオン電池の安全性と信頼性

Safety and reliability of Lithium ion batteries with LTO anode

猿渡 秀郷

Hidesato SARUWATARI

概 要

リチウムイオン電池(LIB: Lithium Ion Battery)は他の電池に比べエネルギー密度が大きいことが最大

の特長であり,その負極には一般的に炭素材料が用いられる.この炭素材料のかわりにチタン酸リチウ ム(LTO)を負極に用いた場合,エネルギー密度は低下するものの,そのほかの特性でユニークな性能 を有する電池とすることができる.本稿ではLTO 負極を用いた LIB の安全性と信頼性を中心にその特 長とそれを活かした応用について紹介するとともに,実際に電池を長期使用するために必要なオンサイ ト診断技術について説明する.

1.はじめに

CO2排出量の少ない低炭素社会構築に向けて,再 生可能エネルギーの活用やエネルギーの効率的な利 用が望まれている.これらの実現に対し,蓄電池の 役割は重要である.なぜなら,効率的なエネルギー の利用に対し有効であるピークシフトやピークカッ ト,再生可能エネルギーの課題の一つである天候な どの自然状況の影響による不安定さの解決は,電力 を一時的にプールすることができる蓄電池によって 実現できるからである. リチウムイオン電池(LIB)は市販化されている 電池の中では最もエネルギー密度の大きな二次電池 であり,ノート PC やスマートフォンといった民生 用機器の電源として広く普及している.さらに最近 になって,電力貯蔵用・車載用・無停電電源用・通 信基地局用といった産業用途への適用が増えてきて いる.ここで産業用電源は,電池特性としてエネル ギー密度が最重要視される民生用電源に比べ,様々 な特性が求められるものであり,特に安全性や信頼 性に対する要求は格段に厳しいものとなる. 一般的なLIB の原理図を図 1 に示す.LIB は,充 放電の過程において,その正極と負極に可逆的にリ 図1 リチウムイオン電池の原理図 チウムイオン(Li+)を挿入脱離する材料を用いるこ とを特徴としている.正極にはLi 酸化物,負極には グラファイト等の炭素材料が用いられることが一般 的である.一方で,負極にチタン酸リチウム(LTO) を用いたLIB が注目されている.これは,2008 年に 東芝より「SCiBTM」として商品化され1),産業用途 を中心に幅広い分野で利用されている.負極にLTO を用いることで,炭素材料を用いた場合よりエネル ギー密度は低下するものの,安全性や信頼性の向上 展 望 特   集 展   望展   望

LTO 負極を用いたリチウムイオン電池の安全性と信頼性

Safety and Reliability of Lithium Ion Batteries with LTO Anode

猿渡 秀郷

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を図ることができるとともに,急速充電や低温環境 下 で の 使 用 が 可 能 と な る か ら で あ る . 本 稿 で は SCiBTMの特長とその応用例を紹介する.

2.SCiB

TM

の特長

LTO と一般的な炭素材料であるグラファイトの物 性を表1 にまとめる.LTO は,グラファイトよりも 電池のエネルギー量に直結する理論容量が小さいが, Li+挿入脱離電位が高く,充放電に伴う体積変化が小 さいのが特徴である.ここで Li+挿入脱離電位とは Li+の挿入脱離反応が起こる電気的なポテンシャルエ ネルギーを表す概念であり,力学における位置エネ ルギーに対する位置に相当する.リチウムの酸化還 元反応が起こるポテンシャルを基準としていること から,単位はV vs Li/Li+で表され,LIB の電圧は, 正極と負極の Li+挿入脱離電位の差によって決定さ れる.また,理論容量が 100mAh/cm3とは,1cm3あ たりの活物質で100mA の電流値を 1 時間出力するこ とができるということを意味する. 表1 LIB 負極材料の物性2) 活物質 Li +挿入電位 [V vs Li/Li+] Li+脱離電位 [V vs Li/Li+] 理論容量 [mAh/cm3] 体積変化 グラファイト 0.07, 0.10, 0.19 0.1, 0.14, 0.23 855 10% LTO 1.55 1.58 607 0.20% SCiBTMと一般的なグラファイト負極を用いたLIB の充放電時における,電池の厚さ変化を実測した結 果を図2 に示す.SCiBTMの方が,体積変化が小さい ことがわかる.図1 にあるように LIB の電極は,電 極材料が集電体と呼ばれる金属箔上に形成されたも のであり,これらはバインダとよばれる接着剤によ り保持されている.充放電により活物質の体積変化 が起こると,活物質の集電体からの剥離による導電 パスの不均一化,活物質同士の導電パスの分断によっ て充放電に寄与しない活物質が存在するようになり 電池容量が低下する.したがって,充放電サイクル による容量低下を抑制するには,充放電時の体積変 化の小さい電池系とすることが好ましい. SCiBTMと一般的なグラファイト負極を用いた各種 LIB の充放電サイクル特性を図 3 に示す.ここで図 中の1C 充電/1C 放電とはサイクル試験中の充電と 放電における電流値は 1C であるということを意味 する.このC は電池の充放電電流値の相対的な比率 を表す単位であり,電流値[A]/電池容量[Ah] で 図2 各種 LIB の充放電における厚さ変化 算出され,たとえば電池容量が 20Ah の電池におい て,1C の電流値は 20A となり,2C の電流値は 40A ということになる.民生用途のグラファイト負極を 用いたLIB が数百サイクルで電池容量が初期の 80% に達するのに対し,産業用途では1000~3000 サイク ル程度まで改善されるが,SCiBTMはそれ以上の20000 サイクル近い耐久性を有する.このように SCiBTM は,一般的なグラファイト負極を用いたLIBよりも, 長寿命な電池であることがわかる.また,サイクル 経過に伴う容量変化の挙動に着目すると,グラファ イト負極を用いたLIB は劣化が加速されることがあ るのに対し,SCiBTMは比較的劣化が一定であり,寿 命推定に対しても有利な電池だと考えられる. ここで LTO 負極は,Li+挿入脱離電位が1.55V vs Li/Li+とリチウム金属析出電位である0.0V vs Li/Li+ に対し十分高いことから,充放電時に負極にリチウ ム金属が析出することがほとんどない.リチウム金 属が析出すると,これが電解液と反応し電気化学的 に不活性となり電池の抵抗成分となる.また,リチ ウム金属析出するということは,充電時に正極から 脱離した Li+が放電時に挿入されないということに なるので,電池内の正負極の容量バランスが変化す る.このバランスの変化が,前述のグラファイト負 図3 各種 LIB の充放電サイクル特性 極を用いたLIB における急激な電池容量劣化の要因 の一つである.さらに最悪の場合には,リチウム金 属がデンドライト状に析出し,内部短絡が起こるこ ととなる.したがって,LIB においてはこのリチウ ム金属析出をいかに防ぐかが重要である.グラファ イト負極は,Li+挿入脱離電位が0.1V vs Li/Li+とリチ ウム金属析出電位に非常に接近していることから, 低温充電や急速充電といったことを行うとその過電 圧により負極表面電位がリチウム金属析出電位を超 えてしまい,負極表面にリチウム金属が析出してし まうことがある.ゆえに,グラファイト負極を用い たLIB では,これを防ぐために充電時の温度を制限 したり,充電のパワーを小さくするという制御を行 う.一方で SCiBTMの場合,急速充電や低温充電を 行ったとしても負極電位がリチウム金属析出電位に 達することがないので,このような制御を考慮する 必要がない.ゆえに SCiBTMは,低温充電や急速充 電といった使い方も可能であり,電池制御の観点か ら見れば非常に使い勝手の良い電池であるといえる. またLTO は,充電時は高電子伝導体であるが,放 電時は絶縁性に近い低電子伝導体に相転移するとい う性質を有する.したがって,たとえ内部短絡を生 じたとしても短絡点のLTOが絶縁化して内部短絡電 流を抑止するという自己保護機能を有する(図 4). SCiBTMまたはグラファイト負極を用いたLIBの内部 短絡模擬試験の結果を図5に示す.SCiBTMはグラファ イト負極を用いたLIB にくらべて内部短絡電流が約 1/1000 に抑制されていることがわかる 3).製造工程 中で異物が電池の中に入ったことによる内部短絡が 原因のLIB の発火事故が報告されているが,これは 内部短絡電流による発熱が電池の熱暴走のトリガー となっている.したがって,内部短絡電流が小さけ れば電池は熱暴走に至らない.このように内部短絡 図4 SCiBTMにおける内部短絡時の電池内部模式図 図5 各種 LIB の内部短絡模擬試験 耐性が高いということは,外部からの力による圧壊 や導電性のある釘が貫通したような場合でも,同様 のメカニズムにより熱暴走が起こりにくくなる. SCiBTMで押し潰し試験を行った後の外観を図6 に 示す 4).電池を完全に押し潰した場合においても熱 暴走に至っていないことがわかる.これらのことか ら SCiBTMは,グラファイト負極を用いた LIB より も原理的に内部短絡耐性に優れており,高い安全性 を有する電池であることがわかる. 以上のように SCiBTMは,グラファイト負極を用 いたLIBに比べ安全性や信頼性に優れた電池である. したがって SCiBTMは,エネルギー密度重視の民生 用途では不利であるが,多様な電池使用方法が求め られ,特に安全性や信頼性といった特性が重要視さ れる産業用途においては最適な電池となりうる.次 項ではSCiBTMの応用例について述べる.

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3 各種 LIB の充放電サイクル特性 極を用いたLIB における急激な電池容量劣化の要因 の一つである.さらに最悪の場合には,リチウム金 属がデンドライト状に析出し,内部短絡が起こるこ ととなる.したがって,LIB においてはこのリチウ ム金属析出をいかに防ぐかが重要である.グラファ イト負極は,Li+挿入脱離電位が0.1V vs Li/Li+とリチ ウム金属析出電位に非常に接近していることから, 低温充電や急速充電といったことを行うとその過電 圧により負極表面電位がリチウム金属析出電位を超 えてしまい,負極表面にリチウム金属が析出してし まうことがある.ゆえに,グラファイト負極を用い たLIB では,これを防ぐために充電時の温度を制限 したり,充電のパワーを小さくするという制御を行 う.一方で SCiBTMの場合,急速充電や低温充電を 行ったとしても負極電位がリチウム金属析出電位に 達することがないので,このような制御を考慮する 必要がない.ゆえに SCiBTMは,低温充電や急速充 電といった使い方も可能であり,電池制御の観点か ら見れば非常に使い勝手の良い電池であるといえる. またLTO は,充電時は高電子伝導体であるが,放 電時は絶縁性に近い低電子伝導体に相転移するとい う性質を有する.したがって,たとえ内部短絡を生 じたとしても短絡点のLTOが絶縁化して内部短絡電 流を抑止するという自己保護機能を有する(図 4). SCiBTMまたはグラファイト負極を用いたLIBの内部 短絡模擬試験の結果を図5に示す.SCiBTMはグラファ イト負極を用いたLIB にくらべて内部短絡電流が約 1/1000 に抑制されていることがわかる 3).製造工程 中で異物が電池の中に入ったことによる内部短絡が 原因のLIB の発火事故が報告されているが,これは 内部短絡電流による発熱が電池の熱暴走のトリガー となっている.したがって,内部短絡電流が小さけ れば電池は熱暴走に至らない.このように内部短絡 図4 SCiBTMにおける内部短絡時の電池内部模式図 図5 各種 LIB の内部短絡模擬試験 耐性が高いということは,外部からの力による圧壊 や導電性のある釘が貫通したような場合でも,同様 のメカニズムにより熱暴走が起こりにくくなる. SCiBTMで押し潰し試験を行った後の外観を図6 に 示す 4).電池を完全に押し潰した場合においても熱 暴走に至っていないことがわかる.これらのことか ら SCiBTMは,グラファイト負極を用いた LIB より も原理的に内部短絡耐性に優れており,高い安全性 を有する電池であることがわかる. 以上のように SCiBTMは,グラファイト負極を用 いたLIBに比べ安全性や信頼性に優れた電池である. したがって SCiBTMは,エネルギー密度重視の民生 用途では不利であるが,多様な電池使用方法が求め られ,特に安全性や信頼性といった特性が重要視さ れる産業用途においては最適な電池となりうる.次 項ではSCiBTMの応用例について述べる.

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6 SCiBTMにおける押し潰し試験後の外観

3.SCiB

TM

の応用例

3.1 周波数変動対策大型蓄電池システム 気象条件によって出力が変動する風力発電や太陽 光発電の導入拡大に伴い発生する周波数変動に対し, 火力発電が周波数調整機能を担っている.本システ ムは,この周波数調整の一部を大型蓄電池で行うと いうものである.図7 に東芝が東北電力西仙台変電 所に納めた大型蓄電池システム(40MW/20MWh)の 外観を示す 5).この大型蓄電池システムに使われる 電池一つの容量が約46Wh であるので,40 万個以上 の電池が使用されており,またその設置面積は約 6000m2と非常に大きなシステムであることがわかる. 図7 周波数変動対策大型蓄電池外観 大型蓄電池では,その中の電池が一つでも破裂や 発火といった不具合を生じると,その影響によりま わりの電池も連鎖的に破裂や発火するということが 予想される.その結果,たとえ電池一つの不具合で あったとしても,その被害は甚大となると考えられ ることから,このような大型蓄電池システムでは, 電池レベルでのより高い安全性が求められる.また 大型蓄電池システムは,その設置や維持にかかるコ ストも大きくなることから,使用される電池にはよ り高いレベルでの信頼性が求められる.設計寿命は 10 年を超えるものが一般的であり,20 年以上を求め られるシステムもある.以上の理由から,メガワッ トアワーを超えるような大型蓄電池システムには, 長寿命で優れた安全性を有する SCiBTMが適してい ると考えられる. 3.2 回生電力貯蔵装置 鉄道向け回生電力貯蔵装置のイメージ図を図8 に 示す.このシステムは車両の減速時に発生する回生 エネルギーを回生電力貯蔵装置に一度貯めて,この 電力を他の車両の加速時に利用することで電力の高 効率使用を実現している 6).電車から架線に帰って くる回生エネルギーはパワーが大きく,先述のとお り入力側(充電側)の許容できるパワーに制限があ るグラファイト負極を用いたLIB では必要以上に大 き な 電 池 容 量 の 設 置 が 必 要 と な る . こ れ に 対 し SCiBTMでは,入力側の許容パワーが大きいために最 大入力仕様を満たすために設置する電池容量を小さ くすることが可能であり,安価でコンパクトなシス テムとすることができる. 図8 回生電力貯蔵装置イメージ 3.3 回生型 ISS およびマイルド HEV 向け電源 回生型アイドリングストップシステム(ISS)車や, 回生動作に加えてアシストなどを行うマイルドHEV

(Hybrid Electric Vehicle)は,従来のガソリン車から の大きな設計変更なしで,すなわちガソリン車に元々 搭載されている鉛蓄電池の補助電源として小型の高 出力電池と,必要に応じて小型モータを配置するだ けで燃費改善効果を実現できる(図9). この小型高出力電池には SCiBTMが最適である. これは回生電力を効率よく回収するためには急速充 電が求められること,安全性に優れること,長寿命 であること,幅広い環境温度での使用が求められる ことおよび電池パックの使用電圧範囲が限られるこ とからグラファイト負極を用いたLIBよりも SCiBTM の実効エネルギーが大きくなるからである7). 図9 ISS 車及びマイルド HEV の構成(一例) 以上のように SCiBTMは,大型蓄電池や回生電力 貯蔵装置といった社会インフラ電池および車載用電 池として実用化されている.ここで SCiBTMは,非 常に劣化が小さく信頼性の高い電池ではあるものの, 他の電池と比べると程度は小さいが同様の経年劣化 による容量劣化ならびに抵抗上昇を生ずる 3).社会 インフラ電池では,いつ何時起こるかわからない大 規模事象発生時に期待通りの性能を発揮できなけれ ば意味がない.そのためには,オンサイトでの電池 の残存性能およびその劣化診断,すなわち使用中の 電池の健全率を判定するための手法が必要となる. またこの健全率判定手法は,車載用電池においても 車検時や転売時の査定を行う際に役に立つ.次項で は,電池の長期使用を実現するための電池診断技術 について述べる.

4.蓄電池/パック/システムのオンサ

イト劣化診断技術

電池の劣化診断手法としては以下の4 手法が知ら れている.①電池使用履歴のデータベースを構築し, 電池の環境条件と充放電の使用条件を劣化のパラ メータとして網羅的に扱い統計的に解析する手法 (ビッグデータ解析法),②周波数を変えて測定した 交流インピーダンスからそれぞれの抵抗成分が電池 のどの部分に起因するかを同定し,それらの劣化挙 動から電池全体の劣化を評価する手法(交流インピー ダンス法),③電池の放電曲線を電圧で微分すること で特徴づけて,各電圧での電池反応と紐付けること で劣化挙動を評価する手法(放電曲線解析法),④電 池の充電曲線と開回路曲線との差分から電池活物質 の容量と内部抵抗を変数とした回帰計算を行い電池 の劣化状態を算出する手法(充電曲線解析法)であ る 8).ここでは充電曲線解析法について,その考え 方と特長を説明する. 充電曲線解析法では,容量劣化と抵抗上昇は電池 内の各活物質で個別に進行すると考える.それに加 えて各活物質の充放電範囲が変化する,すなわち正 極と負極の充電量のバランスが変化することで劣化 を定義している.具体的には,抵抗値,活物質量の 変化を反映する充電曲線について,各々の電極活物 質の開回路電位曲線を基準に回帰計算を行い,抵抗 値と容量ならびに充放電範囲を算出する.ここで電 極活物質の開回路電位曲線は材料固有のものであり, これをデータベース化しておく必要がある.充電曲 線解析法におけるアルゴリズムの概要を図10に示す. 充電曲線から実測された電池電圧に対し,正極の開 回路電位関数と負極の開回路電位関数を可変とした 残差方程式をたてて,残差二乗和が最小となるよう な可変パラメータを導くことで劣化状態がわかる. このアルゴリズムを定性的に示すと図11 のようにな る 9).充電曲線から得られる測定時間・充電電流・ 電圧・温度を入力として,正極および負極の容量と 各種抵抗からなるパラメータをフィッティングする ことで,出力として容量・内部抵抗・電池状態値(フ レッシュな電池と寿命を迎えた電池との間のどの状 態に位置するかを数値化したもの)が導ける. 図10 充電曲線解析法のアルゴリズム 充電曲線解析法の特長としては,①一般的な機器 において充電は一定電流で行うものが多いので入力 データを取得しやすくかつ非破壊測定であること, ②内部状態を推定するだけでなく,正極と負極をそ れぞれわけて解析していることから使用条件による 劣化の違いも推定できること,③各種材料の開回路

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ことおよび電池パックの使用電圧範囲が限られるこ とからグラファイト負極を用いたLIBよりも SCiBTM の実効エネルギーが大きくなるからである7). 図9 ISS 車及びマイルド HEV の構成(一例) 以上のように SCiBTMは,大型蓄電池や回生電力 貯蔵装置といった社会インフラ電池および車載用電 池として実用化されている.ここで SCiBTMは,非 常に劣化が小さく信頼性の高い電池ではあるものの, 他の電池と比べると程度は小さいが同様の経年劣化 による容量劣化ならびに抵抗上昇を生ずる 3).社会 インフラ電池では,いつ何時起こるかわからない大 規模事象発生時に期待通りの性能を発揮できなけれ ば意味がない.そのためには,オンサイトでの電池 の残存性能およびその劣化診断,すなわち使用中の 電池の健全率を判定するための手法が必要となる. またこの健全率判定手法は,車載用電池においても 車検時や転売時の査定を行う際に役に立つ.次項で は,電池の長期使用を実現するための電池診断技術 について述べる.

4.蓄電池/パック/システムのオンサ

イト劣化診断技術

電池の劣化診断手法としては以下の4 手法が知ら れている.①電池使用履歴のデータベースを構築し, 電池の環境条件と充放電の使用条件を劣化のパラ メータとして網羅的に扱い統計的に解析する手法 (ビッグデータ解析法),②周波数を変えて測定した 交流インピーダンスからそれぞれの抵抗成分が電池 のどの部分に起因するかを同定し,それらの劣化挙 動から電池全体の劣化を評価する手法(交流インピー ダンス法),③電池の放電曲線を電圧で微分すること で特徴づけて,各電圧での電池反応と紐付けること で劣化挙動を評価する手法(放電曲線解析法),④電 池の充電曲線と開回路曲線との差分から電池活物質 の容量と内部抵抗を変数とした回帰計算を行い電池 の劣化状態を算出する手法(充電曲線解析法)であ る 8).ここでは充電曲線解析法について,その考え 方と特長を説明する. 充電曲線解析法では,容量劣化と抵抗上昇は電池 内の各活物質で個別に進行すると考える.それに加 えて各活物質の充放電範囲が変化する,すなわち正 極と負極の充電量のバランスが変化することで劣化 を定義している.具体的には,抵抗値,活物質量の 変化を反映する充電曲線について,各々の電極活物 質の開回路電位曲線を基準に回帰計算を行い,抵抗 値と容量ならびに充放電範囲を算出する.ここで電 極活物質の開回路電位曲線は材料固有のものであり, これをデータベース化しておく必要がある.充電曲 線解析法におけるアルゴリズムの概要を図10に示す. 充電曲線から実測された電池電圧に対し,正極の開 回路電位関数と負極の開回路電位関数を可変とした 残差方程式をたてて,残差二乗和が最小となるよう な可変パラメータを導くことで劣化状態がわかる. このアルゴリズムを定性的に示すと図11 のようにな る 9).充電曲線から得られる測定時間・充電電流・ 電圧・温度を入力として,正極および負極の容量と 各種抵抗からなるパラメータをフィッティングする ことで,出力として容量・内部抵抗・電池状態値(フ レッシュな電池と寿命を迎えた電池との間のどの状 態に位置するかを数値化したもの)が導ける. 図10 充電曲線解析法のアルゴリズム 充電曲線解析法の特長としては,①一般的な機器 において充電は一定電流で行うものが多いので入力 データを取得しやすくかつ非破壊測定であること, ②内部状態を推定するだけでなく,正極と負極をそ れぞれわけて解析していることから使用条件による 劣化の違いも推定できること,③各種材料の開回路

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電位曲線をデータベース化するだけで多様な材料系 の解析が可能となることが挙げられる. 図11 充電曲線解析法のフロー

5. まとめ

本報では,まず一般的なグラファイト負極を用い たLIB よりも原理的に高い安全性と信頼性を有する SCiBTMについて,その特長と応用例を述べた.次に その必要性がますます望まれている電池のオンサイ ト劣化診断技術を紹介した.電池を製造する場合に おいてもエネルギーは消費されるので,長寿命の電 池を使い切るということがエネルギー効率を上げる こととなる.今後は,SCiBTMや安全性,信頼性の実 現により更なる長期使用を実現させ,くわえて電池 診断技術を向上させることで,例えば用途に合わせ てリユースするといった手法で最後まで電池を使い 切ることを目指していく.そうすることで,エネル ギー利用効率の最大化を達成し,CO2排出量の少な い低炭素社会構築に貢献したい.

参考文献

1) 東芝:プレスリリース, http://www.toshiba.co.jp/about/press/2007_12/pr_j1 102.htm(2007.12)

2) N. Nitta, F. Wu, Jung T. Lee, G. Yushin:Materials today, Vol.18. No. 5. pp252-264(2015.06) 3) N. Takami, H. Inagaki, T. Kishi, Y. Harada, Y.

Fujita and K. Hoshina: Journal of The Electrochemical Society, Vol. 156, No. 2, pp. A128-A132 (2009) 4) 伊藤康行,鈴木盛雄,水谷麻美:東芝レビュー, Vol.66, No.2, pp.50-53 (2011) 5) 佐竹信彦,野木雅之,保科俊一郎:東芝レビュー, Vol.69, No. 8, pp.52-55 (2014) 6) 橋本竜弥,川俣智幸,島田和義:東芝レビュー, Vol.70, No. 9, pp.45-48 (2015) 7) 猿渡秀郷,山本大:東芝レビュー,Vol.71, No. 2, pp.44-47 (2016) 8) 星野昌幸,小野修史,本多啓三:東芝レビュー, Vol.68, No.10, pp.50-53 (2013) 9) 森田朋和,門田行生,本多啓三:東芝レビュー, Vol.68, No.10, pp.54-57 (2013) (さるわたり ひでさと/㈱東芝) 猿渡 秀郷 2001 年 3 月東京理科大学大学院修士課程(工学)修 了.2001 年 4 月株式会社東芝入社.2011 年 3 月東京 理科大学大学院博士課程(工学)修了.東芝入社以 来一貫して高機能二次電池の開発およびエンジニア リング業務に従事.工学博士.電気化学会会員.

図 3   各種 LIB の充放電サイクル特性 極を用いた LIB における急激な電池容量劣化の要因 の一つである.さらに最悪の場合には,リチウム金 属がデンドライト状に析出し,内部短絡が起こるこ ととなる.したがって, LIB においてはこのリチウ ム金属析出をいかに防ぐかが重要である.グラファ イト負極は, Li + 挿入脱離電位が 0.1V vs Li/Li + とリチ ウム金属析出電位に非常に接近していることから, 低温充電や急速充電といったことを行うとその過電 圧により負極表面電位がリチウム金属析
図 6 SCiB TM における押し潰し試験後の外観 3.SCiB TM の応用例  3.1  周波数変動対策大型蓄電池システム  気象条件によって出力が変動する風力発電や太陽 光発電の導入拡大に伴い発生する周波数変動に対し, 火力発電が周波数調整機能を担っている.本システ ムは,この周波数調整の一部を大型蓄電池で行うと いうものである.図 7 に東芝が東北電力西仙台変電 所に納めた大型蓄電池システム( 40MW/20MWh )の 外観を示す 5) .この大型蓄電池システムに使われる 電池一つの容量が約 4

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