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人と人のつながりをデザインする

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Academic year: 2021

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(1)人と人のつながりをデザインする Design for Encouraging Social Interactions 小林秀樹. KOBAYASHI Hideki. 千葉大学大学院工学研究科. Graduate School of Engineering, Chiba University. もうひとつの住まい方推進協議会. Alternative Housing & Living Association. 私は住まいまちづくりを専門としていますが、出身は建築. 一方で、公助はどうかというと、みなさんご存知のように財. で、建築デザインの研究や実践を行ってきました。それを踏ま. 政縮小、さらに少子高齢化で財政難。恐らく将来にわたって福. えながらお話をします。テーマは参加と共生のデザイン、人と. 祉の充実というのは難しいと考えられます。. 人のつながりのデザインです。 最近、家族ではない人々が集まり住む暮らし方が注目され、. そうすると自助も不安、公助も不安ということで、この間に ある共助というのが現在、大事にされるようになっているわけ. 増えています。例えば、若者のシェアハウスがあり、建物は非. です。昔と違うのは、昔は家族が単位でしたが、今は個人が市. 常に古いのですが、みなさん居心地のいい居場所を生み出して. 場や政府と向き合うように変わっていることです。このような. います。また、高齢者が集まって暮らす住まいも注目されてい. 共助を求める大きな時代背景が、暮らしの場において新しいつ. ます。. ながりを求める意識に現れていると考えています。. なぜ人口減少社会で「つながり」が求められるのか、これに は大きな時代の流れがあると考えられます(スライド1)。. では、つながりを生み出すデザインとはどんなものか。時計 の針を戻して30年前の話です。実は、私の博士論文では、建 築の形、例えば中庭を囲むデザインをすると、そこで人とのつ. もともと昔の村落 ・ 共同体では、生きていくために共助、助 け合いが必要でした。それは農耕、狩猟、生産には、共同す. ると、そこで自然に交流が生まれるという研究をしていました。. ることが不可欠であったからです。その後産業社会になりサラ. 一方で、家の前に植木鉢を置く行為を「表出」と呼びます. リーマンが中心となると、自助の領域すなわち各世帯が市場か. が、その手入れのために外に出ることで自然に隣人と顔を合わ. らサービスを買う領域と、政府からサービスを得る公助の領域. せるという、建築デザインとは少々違う要素が大事なことも分. が拡大していきました。それが縮小社会になると(自助と公助. かりました。これを空間デザインに置き換えると、表出の場所. の領域は大事ですが)その間にある共助をもう一度再評価する. を作るために、全部をデザインするのではなく、ユーザーが. 動きが出てきます。その理由の一つは、自助について、所得格. 手を加えたり物を置ける場所を作っておくことが大切だという. 差が広がり、不確実化から将来が見通せないことです。更に一. ことです。これをまとめたのが私の博士論文で、それをもとに. 人暮らしが増えています。お年寄り、若者の一人暮らしで将来. 「集住のなわばり学」という単行本が出ています(スライド2) 。. に不安があると、一人一人が市場と向き合うのは大変です。そ. 4. ながりが生まれるとか、あるいは通路に窓を開くデザインをす. 1992年で発行ですが、関心のある人は中古等で是非お買い. こで、ちょっと助け合いが欲しいという意識が強まるわけです。. 求めください。. スライド1. スライド2. デザイン学研究特集号 Special Issue of Japanese Society for the Science of Design Vol.23-4 No.92 2016.

(2) さて、空間デザインが生み出す人間関係というのは、顔見知 りになるとか挨拶するところまでで、それ以上の深い関係にな るか、ならないかは、空間では左右できないのです。しかし、. あり、個人の愛着も強いのですが、そこにみんなの愛着も加 わっているのです。 このような経験から、空間をデザインするのではなくて、空. 今日、縮小社会で求められるのは、「顔見知り関係」より踏み. 間づくりに参加する「プロセスのデザイン」が大事だといわれ. 込んだ「つながりの関係」なのです。. るようになります。このような理念に加えて、少子高齢化とい. そこで、コーポラティブハウスに注目したいと思います。 ユーザー参加で集合住宅を作るものです(スライド3)。 この例では、住宅の入り口に、参加した証として居住者が手 形を付けています(スライド4)。 この建物自体は凝ったデザインではなく、普通だと思いま す。しかし、ユーザーは非常に満足している。 30年前の「表出」の話では、植木鉢は個人が住まいに愛着. う社会背景を踏まえた新しい暮らし方、共助を大切にした暮ら し方を目指して、「参加と共生」の住まいが注目されるように なりました。 「もうひとつの住まい方推進協議」は、このような参加と共 生の住まいに共感する皆さんによって発足しましたが、それを 建築・デザインの理論の流れから位置づけると以上のようにな ります。. を持つことを育みましたが、この手形は、個人ではなく、みん. 「もうひとつ」とは、元々は「オルタナティブ」という英語. なが建物に愛着を持つという点で意義が広がっています。そし. で、第3の選択肢という意味です。日本語に訳す事は難しい言. て、今日求められている「つながり」というのは、みんなのつ. 葉です。. ながり、あるいはみんなの愛着、これを生み出すことだと思っ ています。 もちろんコーポラティブハウスは、室内の自由設計に特徴が. つまり、住まい手が参加することで豊かな人と人のつながり と愛着、満足を生み出す。これはデザイン理論でいえば、お仕 着せのデザインではなく、参加のデザインということです。し かも、今日は人口減少社会であり、「つながり」が再評価され ている。その一方で空き家が増え、建築を新しく作るのではな く、既存の建築を利用する、そういう時代を背景に活動してい ます。 いくつかの事例を紹介します。これは、古い空き家を利用し たグループホームです(スライド5)。 古い建物ですから、空間としては必ずしも豊かではありませ ん。しかし、この建物の入口をみて下さい。写真が貼ってあ り、一人一人の活動の足跡が記してあります。先程の手形と一 緒です。住まい手の愛着を深めて居場所としての価値を高めて いるのです。 一方でファミリー層が減り、一戸建てが空き家となり、みん. スライド3. スライド4. なで一緒に暮らそうという住まいが増えています。また、木造. スライド5. デザイン学研究特集号 Special Issue of Japanese Society for the Science of Design Vol.23-4 No.92 2016. 5.

(3) アパートを活用して派遣切りされた人々の住まいを作った例が あります。さらに、広い家にお年寄りが一人暮らしで空き部屋 が増えている、それを活用して地域の居場所づくりをした例も あります。. 規模多機能居宅介護施設を複合した例です(スライド8)。 地域とのつながりを生み出すために、1階にサロンを設け、 道に開いたデザインにしていることが注目されます。. このような事例の推進を目指して、もうひとつの住まい方推. 今、多様な事例を紹介しましたが、ほとんど写真に人が映っ. 進協議会は活動しています。更に、既存住宅だけではなく新築. ていますね。建築分野は人がいない写真が多いのですが、私た. ももちろん対象としています。その例として有名なコレクティ. ちは人が活き活きしている場面を大切にしています。. ブハウスがあり、一緒に食事するコモンスペースを別途設けて. さて、もう一つの大きな課題は、実現するための事業手法で. います。海外にも同じ理念に基づく住まいがあり、北米では. す。例えば、都心部で緑豊かなお屋敷を維持しようとすると、. コ・ハウジングと呼ばれています(スライド6)。. 相続税の問題があります。そこで、これは私が関わった事例で. なお、コレクティブハウスでも、最近は、新築ではなく既存 建物を利用した例が登場しています。 これは、障がい者と健常者が一緒に暮らすコーポラティブ住 宅です(スライド7)。. すが、土地を借地にしながら環境共生型のコーポラティブ住宅 をつくったものです(スライド9)。 この事業手法をスケルトン定借、別名つくば方式と呼びます が、これにより、緑を残しやすくしたわけです。この他にも市. 知的障がいのお子さんをもつ家族が中心になり、コーポラ. 民ファンドを作るとか、LLP と言いますが、有限責任事業組合. ティブ方式で実現した集合住宅で、家族の自宅に加えて、交流. を作って実現する等、いろいろな事業手法を工夫しています。. 室、グループホームや居宅介護支援センターを併設した画期的. 6. こちらは、高齢者の賃貸住宅を中心に、グループホーム、小. 最後に、千葉大の私の研究室がかかわった活動を紹介します。. な住まいです。障害者の生き生きとした姿が印象的でした。. これは、団地の空家を活用したシェアハウスです。千葉大生向. スライド6. スライド7. スライド8. スライド9. デザイン学研究特集号 Special Issue of Japanese Society for the Science of Design Vol.23-4 No.92 2016.

(4) けに募集し、5、 6年実践して今は中止しています。ずいぶん. ないことが多いのです。しかし、現代は子育て世帯というが非. マスコミに取り上げられました。実は、シェアハウスを作るこ. 常に少なくなっているので、友達を求めようとしても近くにい. とに加えて、事業の仕組みを開発することが大きな目的でした。. ない。そこで、子育て世帯が集まってコミュニティを作ること. この活動は、LLP という有限責任事業組合を日本で初めてコ. を応援しようという構想です。そのためには中庭を囲んで、そ. ミュニティビジネスに適応した事業なのです(スライド10) 。. こに開くデザインが大事だとして実現した例です。. その仕組みは、専門家に加えて団地の住民が組合のメンバー. まとめです。今日、私からお話ししたのは人と人のつながり. になり、空き住戸の所有者から住宅を借り上げて、部屋ごとに. をデザインするということです。もちろんデザインの中には家. 千葉大生に貸すものです。団地の住民に入っていただいている. 具によるデザイン、さらに空間によってつながりを生み出すデ. ことが重要で、「家守さん」と我々は呼んでいます。この「家. ザインがあります。その中で、現在、私たちが重視しているの. 守さん」が学生と団地の活動のつなぎ役をするのです。これに. が「参加と共生によるデザイン」という領域であり、これに. より地域の活性化につなげようとしました。また、シェアハウ. よってつながりを生み出すということです。. スの暮らしの様子は、この後の丁さんの講演で紹介します。. 現在、人口減少社会を迎えて人と人のつながりが再評価され. こちらは稲毛にある園生団地の再生事業の一環として完成し. ています。さらに、既存の建築を利用してつながりを生み出す. た複合施設ですが、生協スーパー ・高齢者福祉・子育て支援・. 方法が求められています。この二つを背景として、参加と共生. 診療所、こういうものを複合しています。このような多機能の複. のデザインを大事にしつつ、新しい住まい方を推進しています。. 合は全国で初めてのケースで、地域の拠点として生協グループ が実現したものです。これを私の研究室が応援させていただき ました。次の佐々木さんの講演で詳しい事業内容を紹介します。 実は、この団地は、大型ショッピングセンターに押されて スーパーが撤退した場所です。そこに、もう一回スーパーをつ くろうとしても失敗します。そこでいろんな機能を複合化する ことで人が集まってきて、それによって、スーパーを何とか成 立させているわけです。完成1年後の調査では、スーパー利用 者の4割は他施設を同時利用していますので、複合した効果は 大きいといえます。 一方、30年前に「集住のなわばり学」で紹介したデザイン 理論について、今でもときどき問い合わせてくださる方があり ます。これは、とあるハウスメーカーが、その理論をもとに計 画したアパートで、最近できました(スライド11)。 中庭を囲むように配置した子育て世帯向けの賃貸アパートで す。民間賃貸アパートというものは一般にコミュニティを求め. スライド10. スライド11. デザイン学研究特集号 Special Issue of Japanese Society for the Science of Design Vol.23-4 No.92 2016. 7.

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