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PRINTEPS を利用した小学校社会科教育実践
Educational Practices of Elementary School Social Studies using PRINTEPS
菅 陽哉
*1森 雄一郎
*1森田 武史
*2山口 高平
*2 Haruya Suga Yuichiro Mori Takeshi Morita Takahira Yamaguchi*1
慶應義塾大学大学院理工学研究科開放環境科学専攻
Keio University, Graduate School of Science and Technology, Open and Environmental System
*2
慶應義塾大学理工学部管理工学科
Keio University, Faculty of Science and Technology, Administration Engineering
We refer to
the coevolution of human intelligence and machine intelligence through the multimodal interaction between humans and machinesas “Coevolution of Intelligence”. And new machine intelligence that is evolved become a
practice intelligence that can solve real problems.
The platform that enables the development of practical intelligent applications in each domain efficiently on the basis of this“Coevolution of Intelligence”
is PRINTEPS (PRactical INTElligent aPplicationS). In this paper, on the basis of this“Coevolution of Intelligence”
, we describe the education practice in elementary school using a humanoid robot NAO. And we describe to make education practice in elementary school to Web services towards the development of PRINTEPS.1. はじめに
人と機械がマルチモーダル(知識,対話,表情,視線,姿勢, 動作,環境)でインタラクションをとり,その相互作用を通して, 人の知能と機械知能が互いに進化し続けていくことを「知能共 進化(Coevolution of Intelligence)」と呼び,進化した新しい機械 知能は,現実問題を解決できる実践知能となる.この知能共進 化を基にして問題領域ごとに実践知能アプリケーションを効率 よ く 開 発 す る プ ラ ッ ト フ ォ ー ム が PRINTEPS(PRactical INTElligent aPplicationS)である.[山口 15] 本稿では,この知能共進化に基づいて,人型ロボット NAO を 用 い た 小 学 校 で の 教 育 実 践 に つ い て 述 べ る と と も に , PRINTEPS の開発に向けた小学校における教育実践の Web サービス化について述べる.知能共進化の提案背景および PRINTEPS の設計方針については, [山口 15] を参照いただき たい.2. 小学校教育支援の目的
小学校の教師は,研修や報告書作成,親からのクレーム対 応など,様々な雑務に追われ,授業の準備時間や生徒と向き 合う時間が削減されてしまい,クラス全体を掌握できなくなるとい う問題が生じている.そのため,本研究では,知識共進化に基 づくアプリケーションを構築し,教師とロボットが協働して授業を 行い,クラス全体の掌握の手助けとなることで,教師の負担軽減 を目指す. また, 現在の小学校教育においては単なる詰め込みの知識 伝達型の教育ではなく,児童の主体的な学習が必要となってい る.これを補助するために,児童の興味関心を高め,知識を教 示する,ということも目的である. 3. 小学校教育支実践のシステム概要 図 1 に本研究でのシステム概観を示す.本研究のシステムに おいては,知識の教示のための多重知識ベース,興味関心を 高めるためのマルチメディア,ロボットの身振りがあり,それらが, 互いに関連している.それぞれについて詳しい内容を述べてい く. 3.1 多重知識ベース 本研究では,多重知識ベースとしてワークフロー,領域オント ロジー,常識オントロジーの 3 つを組合せることでロボットによる 小学生教育支援を行う. ワークフローは,教師の教授戦略を基に,教師とロボットが協 力して授業を行う際の処理手続きを定義したものであり,授業動 画の分析や教師へのインタビューの結果を基に構築を行う. 領域オントロジーは,ロボットが教師と協力して教材内容を教 示する,あるいは教材内容に対して児童の質問に答えるための 教材知識である.これには二種類あり,一つ目は,教科書や資 料集に記載されている内容の分析を基に構築を行うものである. そして二つ目は,動画等のマルチメディアと関連し,そのマルチ メディアの内容を基に構築を行うものである. 常識オントロジーは,ロボットが児童からの質問に答える際に, 領域オントロジーだけでは対応できない場合に使用する知識で あり,日本語版の Wikipedia から自動構築した事実型知識の大 規模汎用オントロジーである日本語 Wikipedia オントロジー[玉 川 13]を利用する. 連絡先:菅陽哉,慶應義塾大学大学院理工学研究科 〒223-8522 神奈川県横浜市港北区日吉 3-14-1 TEL:045-566-1614 [email protected]図 1 教育システムの概観
The 29th Annual Conference of the Japanese Society for Artificial Intelligence, 2015
- 2 - 3.2 マルチメディア マルチメディアとは,授業に関連する内容の動画,画像,音 声といったものである.これを授業内で使用することによって, 児童に授業のトピックを身近に感じさせるといった効果を与え, 授業への興味関心を高める. 3.3 身振り 身振りとは,まず,ロボットに,児童に注目させるときに手を振 る,何か失敗したときにうなだれる,といった動きをさせるもので, これによって,児童に対してロボットに親近感を持たせる.また, 動画といったマルチメディアの内容に関連した動きをすることで, 授業への児童の興味関心を高める.このマルチメディアに関連 した動作は,マルチメディアを基に作られた領域オントロジー内 に含まれるようになっている.これによって,領域オントロジーを 用いた児童からの質問に動作で答えることも可能である.
4. 実験
本研究では,教師と人型ロボット NAO が共働する小学生教 育実践の評価を行うために,横須賀市立鶴久保小学校の協力 のもと,5 年生を対象とし,社会科の単元「環境を守る人々」の 地球温暖化に関する授業を実験として行った. 4.1 授業概要 実験として行った授業概要を以下に示す. ・ 場所…横須賀市立鶴久保小学校 図書室 ・ 日時…2015 年 1 月 28 日 3 時限(10:35~11:20) ・ 対象生徒…5 年生 4 クラス合同(合計 113 名). 4.2 授業構成 実験として行った授業構成を時系列順に以下に示す. (1) 授業開始挨拶 児童にロボットに対して親近感を抱いてもらうために,授業を 開始する際に,ロボットから児童に簡単な挨拶を行った. (2) 授業導入(2050 年の地球環境について考える) 地球温暖化という小学生にとってはあまり身近ではない内容 に対して興味関心を持ってもらうために,2050 年に自分は何歳 かを考える,2050 年の日本の気象についての動画を見せる,こ の動画を見て気になった言葉をロボットに質問させる,未来の 地球環境を考える,といったことを児童にさせる.これらをするこ とで,児童に地球温暖化を印象付け,授業を進めやすくする. (3) 地球温暖化についての説明 地球温暖化について,その仕組みを画像,動画を用いてロボ ットが説明する. (4) 地球温暖化の対策を考える 地球温暖化の対策について児童に考えさせる.このとき,対 策を考えるヒントをロボットから出す.そして,児童の考えた対策 を発表させる. (5) 地球温暖化対策としての森林についての説明 (4)ででた対策に加えて,森林を守るということも大事だという ことをロボットが説明し,なぜ大事かということを森林の光合成の 仕組みの動画を交えてロボットが説明する. (6) 授業まとめ 授業のまとめをロボットがする. 4.3 ワークフロー 教師は様々な学習方法を取る中で,生徒とインタラクションを 取りながら,生徒の学習の進捗を把握し,状況に応じてヒントを 与え,生徒を各学習の狙いへと導いている.そこで,撮影した鶴 久保小学校での授業動画を基にワークフローを作成した.そし て,人型ロボット NAO(以降,NAO)が教師の役目を肩代わりで きる場面を抽出し,教師と NAO が協力して授業を進めるために, ワークフローの修正を行った.さらに,このワークフローを教師の 方々に見てもらい,フィードバックをもらうことで更なる修正を行 った.こうして 5.2 節において述べた授業構成の(1)~(6)の項目 それぞれについて,小学校の教師の方と何度も打合せを重ね, 授業のワークフローを構築した.本稿では,一例として(2)授業 導入におけるワークフローを図 2 に示す.図 2 において,左側 はロボットのワークフロー,点線の右側は教師のワークフローを 示している. 4.4 オントロジー 本実験では,授業単元の内容に基づく社会科教材オントロジ ーと,2050 年の日本の気象についての動画に基づく動画オント ロジーの二つを手動で構築した.また,既存の汎用オントロジー である,日本語 Wikipedia オントロジーを利用した. (1) 社会科教材オントロジー 図 3 に社会科教材オントロジーの一部を示す.図 3 において, 白抜きの楕円はクラス,背景色が灰色の楕円はインスタンス,短 形はリテラル,点線は is-a 関係,実線はクラス-インスタンス関係, ラベル付き点線はプロパティ関係を示している.このオントロジ ーは,地球温暖化や森林といった授業内に登場するトピックと, その説明や,説明の際に用いる動画,画像の関係性を記述し ている.このオントロジーを用いて,ロボットによる地球温暖化や 森林の説明や,再生する動画の指定を行った. (2) 動画オントロジー 動画によってオントロジーの構成は変わるが基本的にインス タンスネットワークを記述した RDF となっている.オントロジーと して階層性がほぼ無く,データベースとしても記述可能ではある が,オントロジーとして記述し,インスタンスを大規模オントロジ ーである日本語 Wikipedia オントロジーとマッピングすることで, 話題拡張機能を有することとなる. インスタンスネットワークの一部に action と呼ばれるデータプ ロパティが存在している.これはヒューマノイドロボットの身体的 特性を活かしたものである.これは身振り機能の 1 つとなってい図 2 授業導入におけるワークフロー
- 3 - る.このオントロジーを用いて,授業導入における動画の内容で 気になった言葉を児童からロボットに質問させる際のロボットか らの返答を行った. (3) 日本語 Wikipedia オントロジー 授業導入における動画の内容で気になった言葉を児童から ロボットに質問させる際のロボットからの返答を行うなかで,動画 オントロジーでは答えることができない質問が出た場合に,それ に回答するために日本語 Wikipedia オントロジーを用いた.日 本語 Wikipedia オントロジーを用いても質問に答えられない場 合は,わからないので教師に聞くように,と児童に返答する. 4.5 マルチメディア 本実験では,マルチメディアとして以下のものを使用した. • 2050 年の日本の気象の動画 • 地球温暖化の仕組みの動画 • 地球温暖化の仕組みの画像 • 森林の働きの動画 2050 年の日本の気象の動画の利用目的は,地球温暖化という 普段の生活に直接目に見える形で関わってくることの無いよう な,生徒のイメージしにくいトピックへの興味関心を高めるという ことである.その他のマルチメディアの利用目的は,言葉だけで はわかりにくい説明を視覚的な情報によってわかりやすく児童 に伝えるということである. 4.6 身振り 本実験では,2050 年の日本の気象の動画に関するオントロ ジーのプロパティとして繋がっている身振りと,注意喚起・謝る・ 驚くといった感情表現,さらに通常しゃべる際のボディーランゲ ージの様な動きも動作ライブラリとして構築した.構築方法は, NAO の動作プログラミングソフトウェアの Choregrahe と NAO の 動作をプログラミングするためのフレームワークである NAOqi Framework の Python の API を用いて実装を行った.これにより, 児童の注目をロボットに集めるとともに,児童の興味関心を高め る.
5. 評価と考察
本実験の評価として,児童へのアンケート,実験の授業を行 った教師へのインタビューによる評価を行い,それに対する考 察を述べる. 5.1 児童へのアンケート 児童へのアンケートは,実験の授業終了後に,授業を受けた 全児童に対して行った. (1) 教育効果について Q1「NAO が身ぶり手ぶりで 2050 年の君たちを表現したが, 2050 年へのイメージは膨らみましたか?」という五段階評価の 質問の結果は表 1 のようになり,Q2「授業で一番印象に残った こと何ですか?」というアンケートの結果は表 2 のようになった. 表 1 より,ロボットの身振りによって 2050 年のイメージが少し でも膨らんだという回答が約 93%とほとんどである.表 2 より,動 画に関連する内容が印象に残った児童が約 60%と多く見られ る.このことから,マルチメディア,身振り,動画オントロジーによ って教育効果があったと考えられる. (2) QA 機能について Q3「授業内容で NAO に聞きたかったけど,聞けなかったこと はなにか?」という質問の結果は表 3 のようになり,さらに,授業 内で児童や教師から発言された単語のうち質問される可能性が あるものを表 4 にまとめた.これらのうち,動画オントロジーで答図 3 社会科教材オントロジーの一部
表
1 Q1 の結果
表
2 Q2 の結果
- 4 - えられず,日本語 Wikipedia オントロジーで答えられるものは背 景色が灰色になっているもので約 40%になった.これより,多く はないが,日本語 Wikipedia オントロジーでの情報のカバーは 可能であると考えられる. 5.2 教師へのインタビュー 授業後に,授業を行った教師にインタビューを行った.インタ ビューを基に,以下に教師とロボットが協働して授業を行うこと での良い点,悪い点をまとめる. ■良い点 ・動画による印象は大きい ・身ぶり手ぶりを交えたトークは印象深い ・授業内で目標としていた学びの目標を多くの生徒は達成で きていたのではないか ■悪い点 ・ロボットと協働して授業を行うとテンポが上がらない ・興味関心が削がれる可能性もある.独特の間がある ・教材研究についてはここまで費やすことはできない ・しゃべるスピード等,トークに緩急を付けることが出来ない これより,動画,身振りにより,興味関心を与え,教育効果を上 げるということには効果があった.しかし,重要な部分を強調して 話すなど,ロボットの話し方は改善する必要がある. 5.3 その他の考察 本実験に向けて,教師の方には授業のワークフローを作成す るための打合せやロボットの使い方の練習といったような,余計 なコストをかけさせてしまった.今後研究を進めていくうえで,こ ういったコストを削減しなければ,ロボットを用いた授業が一般に 浸透することは難しいと考えられるので,いかにコストを削減す るかを考える必要がある.