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カーブに象徴されるように 結婚 出産そして子育てなどのライフイベントによって 女性の労働力率は低下しているが 経年的にみると底上げが生じている M 字カーブのボトム部分にあたる 25 歳から 29 歳は 1975 年には 42.6% であったのに対し 2011 年には 77.2% まで上昇している

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13 〔論 文〕

配偶者控除制度と有配偶女性の労働供給の変化

Spousal Deduction and Female Labor Supply

足立 泰美

**

  金田 陸幸

***

Abstract

This paper focuses on investigating the married women’s labor supply response to the income tax and household resource allocation, since the spouse-deductible amount from the husband’s income decreases as the married women’s earnings increase. As a review of the system, an analysis was made as to whether to abolish the spouse deduction, or whether it could be transferred to the basic exemption. Using the anonymous data of the“National Survey of Family Income and Expenditure in 2004”, we structurally estimate the married women's labor supply under the fixed-income, head of household constraint, created by the Japanese tax and social security system. This studies’ purpose is to clarify the effect the spouse deduction system has on the labor supply of women, as divided into the unemployed, non-regular staff and regular staff. We find that the household’s tax burden and the married women’s labor supply changed according to the abolishment of the spouse deduction, and the currently proposed reforms. At this time, when looking at all households and the households with children, it has become clear that the household’s tax burden and the married women's labor supply are different according to the age group and employment type of the spouse.

key words: Labor supply of women(女性の労働供給)、spouse deduction(配偶者控除)、 micro-simulation(マイクロシミュレーション) 1. はじめに 急速に進む人口減少によって、労働供給が減少し、経済成長の低下が懸念されるなかで、成長戦 略の一環として、潜在的労働力を有する女性の就業促進が進められている。総務省(2014)「労働 力調査:基本集計」によると、専業主婦は前年度比4.3% 減の 1,592 万人にまで減少し、過去最大 の減少幅となっている。それに対し、女性就業者数の増加は著しく、2013 年度に過去最多の 2,701 万人に達し、前年度と比べ47 万人の増加となっている。 総務省の同調査によると、年齢階級別の女性労働力率の経年変化について、20 歳から 24 歳では、 労働力率の減少が認められるものの、25 歳から 39 歳では、労働力率は増えつづけている。M 字本稿は2015 年度生活経済学会研究大会(於 追手門学院大学)で報告した論文を改訂したものである。討論 者の関西大学の林宏昭先生からの有益なコメント及びレフェリーの先生方からのご教示により、論文の掲載に 至ることとなった。ここに謝辞を述べたい。

** Yoshimi Adachi,甲南大学経済学部准教授,Associate Professor of Konan University,Faculty of Economics,

E-mail: [email protected]

*** Takayuki Kaneda,関西学院大学経済学研究科博士課程後期課程・日本学術振興会特別研究員 DC2,

Kwansei Gakuin University Graduate School of Economics・Research Fellow of Japan Society for the Promotion of Science,E-mail: [email protected] 生活経済学研究vol.43.indb 13 16/3/10 12:58:04 12 構造における環境要因の重要性:保険薬局A社における実証研究」『オペレーションズ・マネジ メント&ストラテジー学会論文誌』2(1), pp.58-69 市東友和、高橋京子、山浦真弓、矢島愛治、大城琢磨、萩原みさを (2003) 「外来透析患者における 内服薬の理解度に関する統計学的解析」『医療薬学』29(4), pp.532-538 正之、安達 元明 (1997) 「外来患者の医薬分業に対する意識を規定する要因」『日本公衆衛生雑 誌』44(1), pp.47-54 玉地亜衣、酒井 明、佐藤素子、池間有紀子、松崎清秀、田伏英晶、野田幸裕 (2010) 「精神科病院 における患者の服薬アドヒアランス向上に向けた薬剤管理指導業務の構築」『薬学雑誌』130(11), pp.1565-1572 日本薬剤師会(2008) 「後期高齢者の服薬における問題と薬剤師の在宅患者訪問薬剤管理指導なら びに居宅療養管理指導の効果に関する調査研究報告書」(2015年6月1日閲覧)  <http://www.nichiyaku.or.jp/action/wp-content/uploads/2008/06/19kourei_hukuyaku1.pdf> 畑中典子、伊藤貴文、石幡真澄、小島美里、根本英一、大嶋 繁、小林大介 (2009) 「在宅患者のア ドヒアランスに及ぼす背景因子の解析-真の服薬率とヘルパーの推定する服薬率の比較-」『薬 学雑誌』 129(6), pp.727-734 長谷川 浩平、栗谷良孝、足立充司、新家惠子、西井諭司、藤田芳一 (2008) 「服薬コンプライアン スのさらなる向上と薬剤管理指導業務 : 患者の好む薬とは」『医療薬学』34(8), pp.800-804 平塚祥子、熊野宏昭、片山 潤、岸川幸生、菱沼隆則、山内祐一、水柿道直 (2000a) 「服薬コンプ ライアンス尺度(第1報)-服薬コンプライアンス尺度の作成-」『薬学雑誌』120(2), pp.224-229 平塚祥子、熊野宏昭、片山 潤、岸川幸生、菱沼隆則、山内祐一、水柿道直 (2000b) 「服薬コンプ ライアンス尺度(第2報)-心療内科における服薬コンプライアンスに関わる諸要因-」『薬学雑 誌』120(2), pp.230-237 藤村和宏 (2009) 『医療サービスと顧客満足』、医療文化社 真野俊樹、水野智、山内一信、小林慎 (2003)「薬剤情報に対しての消費者意識 : アンケートを元 に」、『医療情報学』22(6), pp.475-481 南知惠子、小川孔輔 (2010) 「日本版顧客満足度指数 (JCSI)のモデル開発とその理論的な基礎」、 『季刊マーケティングジャーナル』30(1), pp. 4-19 生活経済学研究vol.43.indb 12 16/3/10 12:58:04

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14 カーブに象徴されるように、結婚、出産そして子育てなどのライフイベントによって、女性の労働 力率は低下しているが、経年的にみると底上げが生じている。M 字カーブのボトム部分にあたる 25 歳から 29 歳は、1975 年には 42.6%であったのに対し、2011 年には 77.2%まで上昇している。 これまで女性の就業については様々な対策が講じられてきた。近年の動向をみると、2013 年に 閣議決定された日本再興戦略では、雇用制度改革および人材力の強化を目指した日本産業再興プラ ンを掲げている。そこでは、女性の活躍推進を掲げ、男女が共に仕事と子育て等を両立できる環境 整備を打ち出している。内閣府(2013)「経済社会構造に関する有識者会議」ならびに内閣府2014)「第 15 回産業競争力会議」では、全員参加型社会の実現のための働き方改革を挙げ、女性 の活躍を支える社会基盤整備の強化が必要であるとしている。その背景には、女性の労働参加を促 すことによって、世帯の所得の上昇および消費の増加を通じて、GDP の底上げに繋げる狙いがあ ると考えられる。さらに近年の議論では共通して、環境整備などのハード面に加え、ソフト面、つ まり女性の就業意識に影響を与えるとされる配偶者控除をあげ、中立的な税制・社会保障制度のあ り方が検討されている。 配偶者控除とは、配偶者の合計所得金額が38 万円(給与のみの場合は給与収入が 103 万円)以 下の場合、世帯主の所得から38 万円の控除が受けられる人的控除である。配偶者の合計所得金額38 万円を超過すると、配偶者に対して所得税が課せられるとともに、世帯主の控除額が減少し、 世帯の税負担が増えることを意味する。この負担増を避けるために、配偶者は自らの就業を調整し ている、つまり配偶者が就業に対する意識の壁を感じることになる。 一方で、配偶者控除は、二重控除の問題を抱えている。配偶者がパート・アルバイト、派遣社 員、契約社員などの非正規職員であれば、配偶者が基礎控除の適用を受けるだけでなく、世帯主は 基礎控除と配偶者控除を併せて所得から控除される。この場合、専業主婦や夫婦が共に正規職員と して働いている世帯よりも控除額の合計が多くなり、二重控除が生じていると考えられる。 以上を踏まえ、本稿の問題意識としては、配偶者控除の制度の見直しが女性の労働供給に与える 影響を検証する。なお、配偶者控除の制度改革の見直しとして、配偶者控除の廃止と移転的基礎控 除への移行を取り上げる。本稿の構成は以下の通りである。次節では配偶者控除の制度の概要を説 明し、3 節では先行研究の概要、4 節では分析に用いる推定モデル、データ、変数について述べる。 5 節では推定結果を示す。最後に、本稿で得られた結果をまとめ、政策的インプリケーションを示 してむすびとする。 2.制度の概要 近年、新たな労働力としての女性の就業が注目されるなかで、中立的な税制・社会保障制度の視 点から配偶者控除制度の見直しが検討されている。配偶者控除とは、配偶者の合計所得額が一定以 下の場合、世帯主の担税力の調整を行う人的控除である。その変遷を遡ると、配偶者に対する控除 の発足当初は、1 人目の扶養親族として配偶者に扶養控除が適用されていたが、1961 年には扶養で はなく夫婦の相互扶助の観点から、配偶者控除制度が創設された。現在、配偶者の合計所得金額が 38 万円(給与のみの場合は給与収入が 103 万円)以下の場合、世帯主の所得から 38 万円の控除が 受けられる。 配偶者の合計所得金額が一定の額を超過すると、世帯主が配偶者控除を受けられなくなることか ら、配偶者の就業の抑制に繋がる可能性が高い。給与収入の場合、配偶者の年間収入が、38 万円 の基礎控除と65 万円の給与所得控除の和である 103 万円を超えれば、税負担が発生する。そして、

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15 配偶者本人に所得税が課せられるとともに、世帯主の控除額が減少し、世帯の税負担が増える。こ の負担の増加は、配偶者の就労意欲に対する壁となり、結果として、配偶者は就業の調整をしてい ると指摘されている。 実際に、厚生労働省「平成23 年パートタイム労働者総合実態調査」によれば、非正規職員が就 業調整を行う理由として、6 割以上が自分の所得税の非課税限度額の 103 万円を超えると税金を支 払わなければならないからであると答えている。同調査では、配偶者の年間収入の分布をみると、 女性の非正規職員の年間収入は、年収100 万円付近でピークがあることが示されている。 また厚生労働省(2012)「男女共同参画白書」では既婚女性の給与所得者の年齢階級別所得分布 で、20 歳~ 29 歳から 60 歳~ 69 歳の全ての階級で就業調整が認められている。配偶者控除の適用 者数は、2014 年度では 1,400 万人程度であり、額にすると 6,000 億円にのぼると計算されている。 しかも、意識の壁は税制だけでなく、夫の勤め先から支給される配偶者手当にも存在する。という のも、配偶者手当は税制上の配偶者控除の対象者がいることを支給要件としている場合が多いため である。配偶者控除の適用を外れることで税引き後の手取額が減少することに対し、一定の金額の 所得控除が受けられる制度が必要とされ、1987 年に配偶者特別控除が創られた。とはいえ、依然 として配偶者控除が就業を抑制している可能性は否めない。 そもそも、配偶者控除とは、一定の所得金額以下の配偶者を有する納税者の担税力を調整するこ とを目的にしている。しかし、意識の壁によって就業が阻害されているのは、世帯主が一定の収入 を得ている中間層であり、低所得層ではない可能性が高い。世帯主の年収が300 万円以下の低所得 世帯は、配偶者が壁を越えて労働することを強いられている。 当然、配偶者控除制度の見直しによって生じる税負担の影響は世帯によって異なるだろう。どの ような世帯で、税の負担率が増減し、それによって労働供給がどのように変化するのだろうか。こ のとき、配偶者控除の見直しによって生じる労働とは、非正規雇用の労働時間の追加であろうか。 それとも正規雇用であろうか。非正規雇用でとどまるのであれば、大幅な労働生産性の向上は見込 めないだろう。 配偶者控除制度は、就労に対する意識の壁に加え、二重控除の問題をも抱えている。配偶者が パート・アルバイト、派遣社員、契約社員などの非正規職員であれば、配偶者の所得に基礎控除が 適用されるだけでなく、世帯主は世帯主本人の基礎控除に加えて配偶者控除の適用を受けることが できる。そのため、専業主婦や正規職員の共働き世帯よりも控除額の合計が多く、二重控除の問題 が指摘されている。具体的に、正規職員の共稼ぎ世帯なら、世帯主と配偶者の所得に対してそれぞ れ1人38 万円、合計 76 万円の基礎控除が適用される。専業主婦世帯なら、世帯主の基礎控除が 38 万円と配偶者控除が 38 万円の合計 76 万円の控除が適用される。だが、配偶者が非正規職員で あれば、世帯主と配偶者それぞれの基礎控除38 万円と配偶者控除 38 万円の合計 114 万円の控除が 適用されることになる。 二重控除の解消策として、配偶者の所得によらず、控除額を一定とする移転的基礎控除の考え方 がある。これは夫婦2 人で受けられる控除額の合計額を同じくするために、配偶者の基礎控除の余 剰分を世帯主の控除として移転させる仕組みである。例えば、世帯主が正規職員、配偶者が非正規 職員で、30 万円の給与所得を得ているとする。この場合、配偶者が自身の所得から 30 万円を控除 出来るだけでなく、基礎控除額と配偶者に適用された控除額の差額8 万円を世帯主の控除に移転で きる制度である。配偶者に対して30 万円の控除が適用され、世帯主には 46 万円の控除が適用され こととなるため、夫婦で適用される控除の金額は76 万円となる。この金額は、専業主婦世帯や夫 生活経済学研究vol.43.indb 15 16/3/10 12:58:04 14 カーブに象徴されるように、結婚、出産そして子育てなどのライフイベントによって、女性の労働 力率は低下しているが、経年的にみると底上げが生じている。M 字カーブのボトム部分にあたる 25 歳から 29 歳は、1975 年には 42.6%であったのに対し、2011 年には 77.2%まで上昇している。 これまで女性の就業については様々な対策が講じられてきた。近年の動向をみると、2013 年に 閣議決定された日本再興戦略では、雇用制度改革および人材力の強化を目指した日本産業再興プラ ンを掲げている。そこでは、女性の活躍推進を掲げ、男女が共に仕事と子育て等を両立できる環境 整備を打ち出している。内閣府(2013)「経済社会構造に関する有識者会議」ならびに内閣府2014)「第 15 回産業競争力会議」では、全員参加型社会の実現のための働き方改革を挙げ、女性 の活躍を支える社会基盤整備の強化が必要であるとしている。その背景には、女性の労働参加を促 すことによって、世帯の所得の上昇および消費の増加を通じて、GDP の底上げに繋げる狙いがあ ると考えられる。さらに近年の議論では共通して、環境整備などのハード面に加え、ソフト面、つ まり女性の就業意識に影響を与えるとされる配偶者控除をあげ、中立的な税制・社会保障制度のあ り方が検討されている。 配偶者控除とは、配偶者の合計所得金額が38 万円(給与のみの場合は給与収入が 103 万円)以 下の場合、世帯主の所得から38 万円の控除が受けられる人的控除である。配偶者の合計所得金額38 万円を超過すると、配偶者に対して所得税が課せられるとともに、世帯主の控除額が減少し、 世帯の税負担が増えることを意味する。この負担増を避けるために、配偶者は自らの就業を調整し ている、つまり配偶者が就業に対する意識の壁を感じることになる。 一方で、配偶者控除は、二重控除の問題を抱えている。配偶者がパート・アルバイト、派遣社 員、契約社員などの非正規職員であれば、配偶者が基礎控除の適用を受けるだけでなく、世帯主は 基礎控除と配偶者控除を併せて所得から控除される。この場合、専業主婦や夫婦が共に正規職員と して働いている世帯よりも控除額の合計が多くなり、二重控除が生じていると考えられる。 以上を踏まえ、本稿の問題意識としては、配偶者控除の制度の見直しが女性の労働供給に与える 影響を検証する。なお、配偶者控除の制度改革の見直しとして、配偶者控除の廃止と移転的基礎控 除への移行を取り上げる。本稿の構成は以下の通りである。次節では配偶者控除の制度の概要を説 明し、3 節では先行研究の概要、4 節では分析に用いる推定モデル、データ、変数について述べる。 5 節では推定結果を示す。最後に、本稿で得られた結果をまとめ、政策的インプリケーションを示 してむすびとする。 2.制度の概要 近年、新たな労働力としての女性の就業が注目されるなかで、中立的な税制・社会保障制度の視 点から配偶者控除制度の見直しが検討されている。配偶者控除とは、配偶者の合計所得額が一定以 下の場合、世帯主の担税力の調整を行う人的控除である。その変遷を遡ると、配偶者に対する控除 の発足当初は、1 人目の扶養親族として配偶者に扶養控除が適用されていたが、1961 年には扶養で はなく夫婦の相互扶助の観点から、配偶者控除制度が創設された。現在、配偶者の合計所得金額が 38 万円(給与のみの場合は給与収入が 103 万円)以下の場合、世帯主の所得から 38 万円の控除が 受けられる。 配偶者の合計所得金額が一定の額を超過すると、世帯主が配偶者控除を受けられなくなることか ら、配偶者の就業の抑制に繋がる可能性が高い。給与収入の場合、配偶者の年間収入が、38 万円 の基礎控除と65 万円の給与所得控除の和である 103 万円を超えれば、税負担が発生する。そして、 生活経済学研究vol.43.indb 14 16/3/10 12:58:04

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16 婦ともに正規職員である世帯の控除額と同じであるため、二重控除の問題を解消することができ る。 以上のことから、女性の就業を促進するうえで、配偶者の就業を抑制している可能性の高い配偶 者控除の見直しは重要な課題であるだろう。しかも、配偶者控除制度は、基礎控除との兼ね合いで 二重課税の問題を抱えている。 このような問題を抱えている配偶者控除に対し、本稿では配偶者の労働供給という視点から、第 1 に意識の壁を持つ配偶者控除を廃止した場合に、無職および非正規職員の配偶者の労働供給はど のように変化するのかを、世帯における税負担の変化を示したうえで、年齢階級別および就業形態 別に検証する。 第2 に、配偶者控除の廃止に至らなくとも、税制上の二重控除の問題を考慮し、配偶者控除から 移転的基礎控除に移行した場合に、配偶者の労働供給の変化がどのように変化するかを検証する。 ただし、無職の配偶者にとって、移転的基礎控除は、現行の配偶者控除制度と変わらないため、労 働供給を変化させない。したがって、移転的基礎控除の分析は、103 万円の壁に直面しているパー トやアルバイトなどの非正規職員の労働供給の変化に焦点を当てたものである。 3.先行研究と本稿の位置づけ 配偶者の就業行動について、賃金効果や所得効果からアプローチした先駆的な研究として、 Rosen and Welch(1971)、Gunderson(1977)、Keeley et.al(1978)らは、労働供給の賃金や所得の 変数の特定化によって測定誤差のバイアスが生じることを示しており、賃金関数ならびに所得関数 による推定を提案している。このとき、就業行動を連続的変数の最適選択図式を適用した労働時間 を変数に用いていたRosen and Welch(1971)、Mincer(1962)、Bowen and Finegan(1971)がある。 Mincer(1962)、Glen and Martin(1976)、Bowen and Finegan(1971)は、都市区別データや 1/1000 標本データなどの集計データを使用し実証的に分析を行っているのに対し、Gunderson(1977)、 Keeley et.al(1978)は、就業選択には一定の指定労働時間の下でなされていると説明し、配偶者の 就業行動を就業と非就業の不連続な選択で明示的に捉えている。就業行動を個人から家計の単位に 発展させた研究として、Gronau(1973,1977)と Heckman(1974)がある。Gronau(1973,1977)と Heckman(1974)は、ライフサイクル過程における家計行動パターンを、就業、家事、余暇の 3 方 向からのアプローチを行い、配偶者の労働供給と子どもを持つことの相互依存関係について論じて いる。 配偶者の労働供給を取り扱った研究については、国内でも活発に議論されてきた。なかでも、本 稿と同じく個票データを使用し労働供給と賃金との関係を検証した研究として、島田・酒井 (1980)、 樋 口・ 早 見(1984)、 岡 本(1998)、 高 山・ 有 田(1992)、 安 部・ 大 竹(1995)、 永 瀬1997)、大石(2003)がある。島田・酒井(1980)は「就業構造基本調査」を使用し、55 歳以上 の世帯主の個票データを抽出し、世帯主、配偶者そしてその他の世帯員の労働供給関数を推定し賃 金率を導出している。樋口・早見(1984)は同じく「就業構造基本調査」を用い、世帯主が雇用さ れており、配偶者が30 歳~ 44 歳である世帯を対象に賃金率が労働時間にプラスに有意であること を明らかにしている。 安部・大竹(1995)は「パートタイム総合実態調査」の年間パート所得、年間パート労働時間、 配偶関係、学歴データを使用し、配偶者控除が未婚女性と既婚女性に与える効果を検証している。 未婚パート労働者をcontrol group とし、既婚のパート労働者を treatment group として検証した結果、

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17 世帯主の所得によってパート労働者の所得分布に散らばりがあるものの、所得税の課税最低限で既 婚のパート労働者が所得調整と労働時間調整を行っていることを実証的に明らかにしている。 永瀬(1997)は雇用職業総合研究所「1983 年職業移動と経歴調査」を用いて、20 歳~ 44 歳の有 配偶者を対象に短時間労働者(35 時間未満 / 週)、長時間労働者(35 時間以上 / 週)の非正規職員 および正規職員の賃金率と労働時間を分析した。その結果短時間労働者の賃金率がマイナスに有意 であることを示した。これら島田・酒井(1980)、樋口・早見(1984)、安部・大竹(1995)、永瀬1997)、は、労働供給に労働時間を用いている。 一方、就業選択の視点から検証した研究には岡本(1988)、高山・有田(1992)がある。岡本1988)は、就業の有無による二項選択モデルに加えて、正規職員、非正規職員そして無職の三つ の選択肢をもとに多項選択モデルを採用している。また、高山・有田(1992)では、岡本(1988) と同様に、正規職員、非正規職員そして無職から成る多項選択モデルを用いて、就業選択行動を評 価している。 岡本(1988)は都市部の家計を対象とした「家計行動のアンケート調査」を使用し、配偶者の就 業の有無についてロジットモデルとプロビットモデルで分析を行い、さらに無職、非正規職員、正 規職員の就業形態別に多項ロジットモデルで実証している。就業の有無では賃金率が労働供給にマ イナスに有意な結果が検出され、就業形態別での検証では、非正規職員の賃金率はマイナスに、正 規職員の賃金率はプラスに労働供給に統計的に影響が与えることが示されている。高山・有田 (1992)は「全国消費実態調査」の 60 歳未満の配偶者データで多項ロジット分析を実施したとこ ろ、正規職員に加え非正規職員も賃金率がプラスに有意な結果となった。 大石(2003)では、厚生労働省「国民生活基礎調査」の 1998 年度の個票データを使用し、就業 と非就業の有無によるプロビットモデルで推定を行っている。その結果、配偶者控除による就業抑 制効果が生じていることを明らかにし、非正規職員は配偶者控除によって賃金が上昇しても労働時 間を短縮して就業調整を行っていることを示した。 上記の先行研究の大半が、賃金率の算定を行うのに、税引前賃金率を使用し、かつ累進課税構造 を考慮していない。またデータの使用についても、非就業者データおよび世帯主の賃金データが含 まれておらず、家族構成などといった世帯属性のコントールがなされていない。そこで本稿では、 世帯主および配偶者の賃金に対し、一連の給与所得控除、基礎控除、配偶者控除、扶養控除を考慮 した上で、税引後賃金率を算出する。次に、配偶者控除の制度改革にともなう配偶者の労働供給の 変化を明らかにするために、家族構成や就業形態をコントロールしたうえで、世帯主の賃金と配偶 者の賃金そして余暇をもとに効用関数のパラメータを推定し、女性の労働供給の変化の有無および 程度について検証を行う。 4.分析手法 4.1 推定モデル 本稿ではvan Soest(1995)に始まる離散選択型の労働供給モデルを用いる。離散選択型のモデ ルでは、就業者はいくつかの選択肢の中から労働時間を決定する。ここでは、家計i の配偶者の選 択肢として、J 個の労働供給の選択肢 {hij: j=1,2,…J} を設定する。個人が使用できる総時間を T、 労働時間をhijとすると、配偶者の余暇はlij=T - hijと表現できる。ここで、労働供給を変化させ るのは配偶者のみとし、世帯主の労働供給は一定とする。各家計が可処分所得yijと余暇lijから効 用を得るとすると、家計i の効用関数は(1)式で表すことができる。  生活経済学研究vol.43.indb 17 16/3/10 12:58:05 16 婦ともに正規職員である世帯の控除額と同じであるため、二重控除の問題を解消することができ る。 以上のことから、女性の就業を促進するうえで、配偶者の就業を抑制している可能性の高い配偶 者控除の見直しは重要な課題であるだろう。しかも、配偶者控除制度は、基礎控除との兼ね合いで 二重課税の問題を抱えている。 このような問題を抱えている配偶者控除に対し、本稿では配偶者の労働供給という視点から、第 1 に意識の壁を持つ配偶者控除を廃止した場合に、無職および非正規職員の配偶者の労働供給はど のように変化するのかを、世帯における税負担の変化を示したうえで、年齢階級別および就業形態 別に検証する。 第2 に、配偶者控除の廃止に至らなくとも、税制上の二重控除の問題を考慮し、配偶者控除から 移転的基礎控除に移行した場合に、配偶者の労働供給の変化がどのように変化するかを検証する。 ただし、無職の配偶者にとって、移転的基礎控除は、現行の配偶者控除制度と変わらないため、労 働供給を変化させない。したがって、移転的基礎控除の分析は、103 万円の壁に直面しているパー トやアルバイトなどの非正規職員の労働供給の変化に焦点を当てたものである。 3.先行研究と本稿の位置づけ 配偶者の就業行動について、賃金効果や所得効果からアプローチした先駆的な研究として、 Rosen and Welch(1971)、Gunderson(1977)、Keeley et.al(1978)らは、労働供給の賃金や所得の 変数の特定化によって測定誤差のバイアスが生じることを示しており、賃金関数ならびに所得関数 による推定を提案している。このとき、就業行動を連続的変数の最適選択図式を適用した労働時間 を変数に用いていたRosen and Welch(1971)、Mincer(1962)、Bowen and Finegan(1971)がある。 Mincer(1962)、Glen and Martin(1976)、Bowen and Finegan(1971)は、都市区別データや 1/1000 標本データなどの集計データを使用し実証的に分析を行っているのに対し、Gunderson(1977)、 Keeley et.al(1978)は、就業選択には一定の指定労働時間の下でなされていると説明し、配偶者の 就業行動を就業と非就業の不連続な選択で明示的に捉えている。就業行動を個人から家計の単位に 発展させた研究として、Gronau(1973,1977)と Heckman(1974)がある。Gronau(1973,1977)と Heckman(1974)は、ライフサイクル過程における家計行動パターンを、就業、家事、余暇の 3 方 向からのアプローチを行い、配偶者の労働供給と子どもを持つことの相互依存関係について論じて いる。 配偶者の労働供給を取り扱った研究については、国内でも活発に議論されてきた。なかでも、本 稿と同じく個票データを使用し労働供給と賃金との関係を検証した研究として、島田・酒井 (1980)、 樋 口・ 早 見(1984)、 岡 本(1998)、 高 山・ 有 田(1992)、 安 部・ 大 竹(1995)、 永 瀬1997)、大石(2003)がある。島田・酒井(1980)は「就業構造基本調査」を使用し、55 歳以上 の世帯主の個票データを抽出し、世帯主、配偶者そしてその他の世帯員の労働供給関数を推定し賃 金率を導出している。樋口・早見(1984)は同じく「就業構造基本調査」を用い、世帯主が雇用さ れており、配偶者が30 歳~ 44 歳である世帯を対象に賃金率が労働時間にプラスに有意であること を明らかにしている。 安部・大竹(1995)は「パートタイム総合実態調査」の年間パート所得、年間パート労働時間、 配偶関係、学歴データを使用し、配偶者控除が未婚女性と既婚女性に与える効果を検証している。 未婚パート労働者をcontrol group とし、既婚のパート労働者を treatment group として検証した結果、

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18 uij=u(yij, lij, Zi)+εij       (1) ここで、u(yij, lij, Zi)は効用のうち観察可能な確定項、Ziは家計の世帯属性であり、εijは加法的 な誤差項である。夫の税引前所得をIi、配偶者の税引前賃金率をWi、児童手当給付額をδ(Ii, Wi hij, Zi)、世帯の税、社会保険料をt(Ii, Wihij, Zi)とすると、労働供給hijを選んだ時の可処分所得yij は以下の式のとおりとなる1。 yij=Ii+Wihij+δ(Ii,Wihij,Zi)-t(Ii,Wihij,Zi)       (2) 各家計は(2)式の予算制約のもとで(1)式の効用を最大化する可処分所得と余暇の組み合わせyij, hij)を選択する。ここで、ある労働時間hikを選択したときの効用uikが、他の労働時間を選択 したときの効用よりも大きいとする。すなわち、(3)式が成り立てば、効用最大化の結果として、 労働時間hikが選択される。 uik> uim for all m      (3) 本稿では、効用関数のパラメータを推定するために、既存研究にならって、効用関数を以下の2 次関数に特定化する。   u(yij, lij, Zi=αyyyij]2ll lij]2+αylyijlij+βyyij+βllij+Φi1{hij> 0}      (4) αおよびβが推定されるパラメータである。ここで、Φ は労働に伴う固定費用である。固定費用 は働くことによる金銭的、非金銭的費用を示したものであり、労働時間がゼロの場合はゼロ、労働 時間が正の値であれば1 の値をとるダミー変数である。例えば、求職のために必要な交通費や求職 情報を得るための時間、あるいは労働によって小さい子どもの世話をできないというような心理的 な負い目などが固定費用には含まれると考えられる。またβyiβliΦiは世帯属性と線形の関係に あるとする。 βy=βy0+β´yZi       (5) βl=βl0+β´lZi            (6) Φi=Φ0+Φ´Zi       (7) 可処分所得の係数βyと余暇の係数βlは、純粋な所得(あるいは余暇)の影響と世帯属性Ziとの 交差項からなる2。誤差項εijが極値第Ⅰ分布に従うとすると、条件付きロジットモデルとして、最 尤法を用いることで、(4)式から(7)式のパラメータを直接推定することができる。 1 本稿ではt(Ii, Wi hij, Zi)として、所得税、住民税、社会保険料に加えて、保育所にかかる子供がいる世帯に ついては、保育にかかる費用である保育料も考慮に入れている。 2 ここで、所得と余暇の交差項となる世帯属性は、配偶者の年齢、3 大都市圏ダミー、持ち家の有無、住宅ロー ンの有無、子の数(6 歳未満、6 歳以上 15 歳未満)、高齢者数であり、固定費用の交差項となる世帯属性は子の 数(6 歳未満、6 歳以上 15 歳未満)とする。

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19 4.2 データ 本稿の具体的な手順は図1 に示す。使用する主なデータは、総務省(2004)『全国消費実態調査』 (以下、『全消』とする)匿名データの二人以上世帯である3。全消は、国民生活の実態について、全 国でサンプリングされた世帯を対象に、消費と所得などの収支状況および貯蓄、負債などを総合的 に調査している。サンプル数は43,861 世帯である。本稿では、配偶者控除に関する制度変更の労 働供給への影響を分析するため、就業者が少ないと考えられる60 歳以上の世帯および配偶者が存 在しない世帯は分析から除外している。また、全消匿名データの世帯主の「職業符号」が商人及び 職人、個人経営者、農林漁業従業者、法人経営者、自由業者、その他をとる世帯は収入に関する データが存在しないためサンプルから除外する。本稿で扱うサンプル数は19,183 世帯である。 4.2.1 収入データの設定 収入に関するデータには、年額の収入である「年間収入」と調査時期における平均の収入である 「収入総額」がある4。「年間収入」は、世帯員ごとの収入および収入の内訳がないことから、本稿で は「収入総額」を用いる。なお、「収入総額」は、世帯主の事業所得が存在せず、世帯主以外の世 帯員の事業、内職収入に関しては、収入の一部しか記載されていない。そこで「収入総額」の「勤 め先収入」のデータを分析に使用する。 4.2.2 税引前所得の設定 「勤め先収入」は、月単位の平均データであることから、賞与が含まれていない。所得税、住民 税の負担額の算出には年間の給与収入を用いるため、賞与が必要となる。そこで、厚生労働省 (2004)『賃金構造基本統計調査』のデータと全消匿名データをマッチングすることで年間賞与を算 出した。具体的には以下の作業を行う。 第1 に、産業、年齢、性別の属性を指標に、全消匿名データと『賃金構造基本統計調査』のマッ チングを行い、全消匿名データから就業者だと確認できる者に『賃金構造基本統計調査』の「き まって支給する現金給与額」「年間賞与その他特別給与額」を与える。 第2 に、(8)式に示すように、「きまって支給する現金給与額」に対する「年間賞与その他特別 給与額」の割合を算出し、「勤め先収入」にその割合を乗じたものを年間賞与とした。 9 第2 に、(8)式に示すように、「きまって支給する現金給与額」に対する「年間賞与その 他特別給与額」の割合を算出し、「勤め先収入」にその割合を乗じたものを年間賞与とした。 年間賞与ൌ 「勤め先収入」 ൈ 「年間賞与その他特別給与額」 「きまって支給する現金給与額」 (8) 第3 に、「勤め先収入」がゼロ以上、かつ「就業・非就業の別」のデータがパートではな い世帯員に、算出した年間賞与を与える。「勤め先収入」データに12 を乗じ、年間賞与を 加えたものを個人の税引前所得とする。 4.2.3 労働時間の設定 本稿では、賞与の場合と同様に、全消匿名データと厚生労働省(2004)『賃金構造基本統計 調査』のマッチングを行い、全消匿名データの各世帯に労働時間を与える5。 第 1 に、全消匿名データの「就業・非就業の別」が就業である世帯員は正規職員、パー トである世帯員は非正規職員と考える。 第 2 に、全消匿名データと『賃金構造基本統計調査』をマッチングすることによって、 正規職員と非正規職員で、別々に労働時間を与える。具体的には、全消匿名データと『賃 金構造基本統計調査』の産業、年齢、性別が一致する場合、『全消匿名データ』の正規職員 には『賃金構造基本統計調査』の「一般労働者」の「所定内実労働時間」のデータを労働 時間として与え、『全消匿名データ』の非正規職員には、『賃金構造基本統計調査』の「短 時間労働者」の「実労働時間」に「1 日あたり所定内実労働時間数」を乗じた値を労働時間 として与えている。『賃金構造基本統計調査』は月単位の労働時間であるので、12 を乗じる ことによって、年間労働時間とする。 4.3 税引前賃金率 離散選択型の労働供給モデルを考えるにあたり、労働供給の選択肢ごとの税引前所得の 算出には、時間あたりの賃金率を入手する必要がある。本稿では、税引前所得を労働時間 で除することで、税引前賃金率を算出する。なお、無職の世帯員には、先行研究に従い、 以下のように、Heckman の 2 段階推定を行い、その当てはめ値を税引前賃金率として用い る(van Soest(1995)、Labeaga, Oliver and Spadaro(2008))。

まず、それぞれの税引前所得とマッチングによって設定した労働供給のデータを使用し、 税引前賃金率(=税引前所得/労働時間)を導出する。次に、観測された賃金率を被説明変数 とし、年齢、年齢の2 乗、3 大都市圏ダミー、性別を説明変数とする6。なお、1 段階目の推 定については、2 段階目で用いる4つの説明変数に加えて、6 歳以下の子の数、65 歳以上の 高齢者数、貯蓄の有無、持ち家の有無、住宅ローンの有無を変数として使用する。 4.4 可処分所得の計算 本節では、労働供給の選択肢ごとの税負担額および社会保険料の算出方法を説明する。 なお、世帯主の労働供給は変化しないと仮定しているので世帯主の税引前所得は一定であ る7。配偶者の税引前収入は税引前賃金率と労働供給を乗じ、労働供給の選択肢ごとに求め る。 まず、税負担については、個人の税引前所得から給与所得控除を算出し、給与所得控除 を税引前所得から減じることで、給与所得を求める。次に、給与所得から各種の所得控除 5 全消匿名データには収入データはあるものの、労働時間データはない。 6 3 大都市圏は関東、中京及び京阪神をさす。 7 本稿の分析では、配偶者の所得によって控除額が変化する配偶者控除、配偶者特別控除を適用している ことに加えて、各選択肢において、世帯主と配偶者の税引前収入が高い世帯員に配偶者控除と扶養控除を 適用している。そのため、世帯主の税引前収入は変化しないが、可処分所得は各選択肢によって異なる可 能性がある。       (8)3 に、「勤め先収入」がゼロ以上、かつ「就業・非就業の別」のデータがパートではない世帯 員に、算出した年間賞与を与える。「勤め先収入」データに12 を乗じ、年間賞与を加えたものを個 人の税引前所得とする。 3 本稿の分析で用いているデータセットは、統計法に基づいて、独立行政法人統計センターから総務省『全国 消費実態調査』に関する匿名データの提供を受け、独自に作成・処理したものである。匿名データとは、個票 データと同様に世帯ごとのデータを得ることが可能なマイクロデータである。ただし、特定の個人または法人 その他の団体の識別ができないような処理(匿名化措置)が施されている。具体的には、全消データの調査客 体から80%を再抽出(リサンプリング)、世帯人員が 8 人以上の世帯は削除(特異なレコードの削除)、年齢が 85 歳以上の場合は 85 歳以上と表記(トップコーティング)、年齢を 5 歳階級で表記、地理区分を 3 大都市圏か 否かだけのみに限定(リコーティング)などである。しかし、これらの匿名化措置は本稿で主に用いるデータ に大きな影響を与えるものではない。 4 二人以上世帯は9、10、11 月の 3 か月平均、単身世帯は 10 月、11 月の 2 か月平均の月額である。 生活経済学研究vol.43.indb 19 16/3/10 12:58:05 18 uij=u(yij, lij, Zi)+εij       (1) ここで、u(yij, lij, Zi)は効用のうち観察可能な確定項、Ziは家計の世帯属性であり、εijは加法的 な誤差項である。夫の税引前所得をIi、配偶者の税引前賃金率をWi、児童手当給付額をδ(Ii, Wi hij, Zi)、世帯の税、社会保険料をt(Ii, Wihij, Zi)とすると、労働供給hijを選んだ時の可処分所得yij は以下の式のとおりとなる1。 yij=Ii+Wihij+δ(Ii,Wihij,Zi)-t(Ii,Wihij,Zi)       (2) 各家計は(2)式の予算制約のもとで(1)式の効用を最大化する可処分所得と余暇の組み合わせyij, hij)を選択する。ここで、ある労働時間hikを選択したときの効用uikが、他の労働時間を選択 したときの効用よりも大きいとする。すなわち、(3)式が成り立てば、効用最大化の結果として、 労働時間hikが選択される。 uik> uim for all m      (3) 本稿では、効用関数のパラメータを推定するために、既存研究にならって、効用関数を以下の2 次関数に特定化する。   u(yij, lij, Zi=αyyyij]2ll lij]2+αylyijlij+βyyij+βllij+Φi1{hij> 0}      (4) αおよびβが推定されるパラメータである。ここで、Φ は労働に伴う固定費用である。固定費用 は働くことによる金銭的、非金銭的費用を示したものであり、労働時間がゼロの場合はゼロ、労働 時間が正の値であれば1 の値をとるダミー変数である。例えば、求職のために必要な交通費や求職 情報を得るための時間、あるいは労働によって小さい子どもの世話をできないというような心理的 な負い目などが固定費用には含まれると考えられる。またβyiβliΦiは世帯属性と線形の関係に あるとする。 βy=βy0+β´yZi       (5) βl=βl0+β´lZi            (6) Φi=Φ0+Φ´Zi       (7) 可処分所得の係数βyと余暇の係数βlは、純粋な所得(あるいは余暇)の影響と世帯属性Ziとの 交差項からなる2。誤差項εijが極値第Ⅰ分布に従うとすると、条件付きロジットモデルとして、最 尤法を用いることで、(4)式から(7)式のパラメータを直接推定することができる。 1 本稿ではt(Ii, Wi hij, Zi)として、所得税、住民税、社会保険料に加えて、保育所にかかる子供がいる世帯に ついては、保育にかかる費用である保育料も考慮に入れている。 2 ここで、所得と余暇の交差項となる世帯属性は、配偶者の年齢、3 大都市圏ダミー、持ち家の有無、住宅ロー ンの有無、子の数(6 歳未満、6 歳以上 15 歳未満)、高齢者数であり、固定費用の交差項となる世帯属性は子の 数(6 歳未満、6 歳以上 15 歳未満)とする。 生活経済学研究vol.43.indb 18 16/3/10 12:58:05

(8)

20

8

図1

分析の手順

出典)筆者作成

データ

分析

推計

結果

デー タ抽出 労働時間 の設定 総 務省( 20 04 )「全国消費実態調査」匿名データ 所得税と住 民税の税負担額 変数: 続柄、 性別 、 年齢 、 就業 ・非就 業 の 別、 産 業 符 号、 職 業 符 号、 学校の種 類、 持ち 家の 有無 、 住宅 ロ ー ン の 有無 、 勤め 先 収入 、 年金 収入、 貯蓄現 在高 、 負債 残 高 、 地域 情 報 Heck m an の二段階 推定 に よ る 賃金率の 設定 効用関数のパ ラメ ーター の推定 厚生労働 調査 (20 04 )「賃金構造基本統計調査 」 無職の賃 金率の設定 条件付きロ ジ ッ ト モ デ ル分析に よ る 算 出 誤差項の 設 定 労働供給 の変化 全世帯と保育給付世帯 の年齢階級別労働供給の変 化 変数: 所定内給 与額 、 所定 内実 労働 時間 (一般 労働 者) 、1 時 間あ た り 所定内給 与額、 実 労働 日数 、1 日あ た り 所 定内 実労 働時 間( 短期 労 働者) 、 産業符号 、 年齢 5歳階 級、 性 別、 就 業・ 非就 業の 別 被説明変数: 賃 金率 、 労働 の有 無 説明変数( 1、 2段階 共 通 ) 年 齢、年 齢の 2乗、 3大 都 市 圏ダ ミ ー 、 性別 説明 変数 (1 段 階 の み) :6 歳 以下 の子ど も 数、 高 齢者 数、 貯 蓄の 有無、 持ち 家の有無、 住 宅ロ ー ン の有 無 被説明変数: 労 働 供 給ダ ミ ー 説明変数: 配偶 者 の 余暇 、 配 偶 者の 余暇 の 2乗 、 可処 分所 得、 可 処 分所得の2 乗、 配 偶者 の余 暇 *可 処 分所 得、 配 偶者 の余 暇と 家 計属 性の交差項、 可処 分所 得と 家計 属性 の 交 差項 、 労 働 の固 定費 用、 固定費用と 子ど も 数 の交 差項 家計属性: 配偶 者 の 年齢 、 3 大 都 市 圏ダ ミ ー 、 持 ち 家 の 有 無、 住 宅 ロ ー ン の有無 、 子 ど も 数( 6 歳未 満、 6 歳 以 上 15 歳未 満) 、 高齢 者数 極値第 Ⅰ 分布 に し たが う 乱数 を 発生さ せ、 1 世帯に つ き 最 大 10 0個 の 誤差項 を 与 え 、 10 0回 の シミュ レ ー ショ ン を 行 う 。 配偶者 控除 の廃止 基礎控除 への移 転 図1 分析の手順 出典)筆者作成

(9)

21 4.2.3 労働時間の設定 本稿では、賞与の場合と同様に、全消匿名データと厚生労働省(2004)『賃金構造基本統計調査』 のマッチングを行い、全消匿名データの各世帯に労働時間を与える5。 第1 に、全消匿名データの「就業・非就業の別」が就業である世帯員は正規職員、パートである 世帯員は非正規職員と考える。 第2 に、全消匿名データと『賃金構造基本統計調査』をマッチングすることによって、正規職員 と非正規職員で、別々に労働時間を与える。具体的には、全消匿名データと『賃金構造基本統計調 査』の産業、年齢、性別が一致する場合、『全消匿名データ』の正規職員には『賃金構造基本統計 調査』の「一般労働者」の「所定内実労働時間」のデータを労働時間として与え、『全消匿名デー タ』の非正規職員には、『賃金構造基本統計調査』の「短時間労働者」の「実労働時間」に「1 日 あたり所定内実労働時間数」を乗じた値を労働時間として与えている。『賃金構造基本統計調査』 は月単位の労働時間であるので、12 を乗じることによって、年間労働時間とする。 4.3 税引前賃金率 離散選択型の労働供給モデルを考えるにあたり、労働供給の選択肢ごとの税引前所得の算出に は、時間あたりの賃金率を入手する必要がある。本稿では、税引前所得を労働時間で除すること で、 税 引 前 賃 金 率 を 算 出 す る。 な お、 無 職 の 世 帯 員 に は、 先 行 研 究 に 従 い、 以 下 の よ う に、 Heckman の 2 段階推定を行い、その当てはめ値を税引前賃金率として用いる(van Soest(1995)、 Labeaga, Oliver and Spadaro(2008))。

まず、それぞれの税引前所得とマッチングによって設定した労働供給のデータを使用し、税引前 賃金率(= 税引前所得 / 労働時間)を導出する。次に、観測された賃金率を被説明変数とし、年齢、 年齢の2 乗、3 大都市圏ダミー、性別を説明変数とする6。なお、1 段階目の推定については、2 段 階目で用いる4 つの説明変数に加えて、6 歳以下の子の数、65 歳以上の高齢者数、貯蓄の有無、持 ち家の有無、住宅ローンの有無を変数として使用する。 4.4 可処分所得の計算 本節では、労働供給の選択肢ごとの税負担額および社会保険料の算出方法を説明する。なお、世 帯主の労働供給は変化しないと仮定しているので世帯主の税引前所得は一定である7。配偶者の税 引前収入は税引前賃金率と労働供給を乗じ、労働供給の選択肢ごとに求める。 まず、税負担については、個人の税引前所得から給与所得控除を算出し、給与所得控除を税引前 所得から減じることで、給与所得を求める。次に、給与所得から各種の所得控除を差し引き、課税 対象所得を計算する8。最後に、算出した課税対象所得に対し、所得税および住民税の税率を乗じる ことで、所得税額と住民税額を算出する。本稿で使用した税制については、表1 にまとめている。 なお、社会保険料については、財務省が課税最低限の計算に使用している簡易計算方式を用いて計 5 全消匿名データには収入データはあるものの、労働時間データはない。 6 3 大都市圏は関東、中京及び京阪神をさす。 7 本稿の分析では、配偶者の所得によって控除額が変化する配偶者控除、配偶者特別控除を適用していること に加えて、各選択肢において、世帯主と配偶者の税引前収入が高い世帯員に配偶者控除と扶養控除を適用して いる。そのため、世帯主の税引前収入は変化しないが、可処分所得は各選択肢によって異なる可能性がある。 8 本稿では、所得控除として、基礎控除、配偶者控除(配偶者特別控除を含む)、扶養控除、社会保険料控除を 用いている。 生活経済学研究vol.43.indb 21 16/3/10 12:58:06 20

8

図1

分析の手順

出典)筆者作成

データ

分析

推計

結果

デー タ抽出 労働時間 の設定 総 務省( 20 04 )「全国消費実態調査」匿名データ 所得税と住 民税の税負担額 変数: 続柄、 性別 、 年齢 、 就業 ・非就 業 の 別、 産 業 符 号、 職 業 符 号、 学校の種 類、 持ち 家の 有無 、 住宅 ロ ー ン の 有無 、 勤め 先 収入 、 年金 収入、 貯蓄現 在高 、 負債 残 高 、 地域 情 報 Heck m an の二段階 推定 に よ る 賃金率の 設定 効用関数のパ ラメ ーター の推定 厚生労働 調査 (20 04 )「賃金構造基本統計調査 」 無職の賃 金率の設定 条件付きロ ジ ッ ト モ デ ル分析に よ る 算 出 誤差項の 設 定 労働供給 の変化 全世帯と保育給付世帯 の年齢階級別労働供給の変 化 変数: 所定内給 与額 、 所定 内実 労働 時間 (一般 労働 者) 、1 時 間あ た り 所定内給 与額、 実 労働 日数 、1 日あ た り 所 定内 実労 働時 間( 短期 労 働者) 、 産業符号 、 年齢 5歳階 級、 性 別、 就 業・ 非就 業の 別 被説明変数: 賃 金率 、 労働 の有 無 説明変数( 1、 2段階 共 通 ) 年 齢、年 齢の 2乗、 3大 都 市 圏ダ ミ ー 、 性別 説明 変数 (1 段 階 の み) :6 歳 以下 の子ど も 数、 高 齢者 数、 貯 蓄の 有無、 持ち 家の有無、 住 宅ロ ー ン の有 無 被説明変数: 労 働 供 給ダ ミ ー 説明変数: 配偶 者 の 余暇 、 配 偶 者の 余暇 の 2乗 、 可処 分所 得、 可 処 分所得の2 乗、 配 偶者 の余 暇 *可 処 分所 得、 配 偶者 の余 暇と 家 計属 性の交差項、 可処 分所 得と 家計 属性 の 交 差項 、 労 働 の固 定費 用、 固定費用と 子ど も 数 の交 差項 家計属性: 配偶 者 の 年齢 、 3 大 都 市 圏ダ ミ ー 、 持 ち 家 の 有 無、 住 宅 ロ ー ン の有無 、 子 ど も 数( 6 歳未 満、 6 歳 以 上 15 歳未 満) 、 高齢 者数 極値第 Ⅰ 分布 に し たが う 乱数 を 発生さ せ、 1 世帯に つ き 最 大 10 0個 の 誤差項 を 与 え 、 10 0回 の シミュ レ ー ショ ン を 行 う 。 配偶者 控除 の廃止 基礎控除 への移 転 図1 分析の手順 出典)筆者作成 生活経済学研究vol.43.indb 20 16/3/10 12:58:06

(10)

22 算した9・10。世帯主と配偶者の税引前所得および児童手当の和から、所得税、住民税、社会保険料、 保育料を差し引くことで、世帯の可処分所得yijを算出することができる。 出典)財務省財務総合政策研究所『財政金融統計月報:租税特集』より筆者作成。 備考)住民税については表中の所得割以外に均等割(4,000 円)を課している。 所得税 住民税 給与所得控除 180万円まで  40% 180万円まで   40% 360万円まで   30% 360万円まで   30% 660万円まで  20% 660万円まで  20% 1,000万円まで  10% 1,000万円まで   10% 1,500万円まで 5% 1,500万円まで 5% 1,500万超  245万円 1,500万超  245万円 最低控除額  65万円 最低控除額  65万円 基礎控除         38万円 33万円 配偶者控除 38万円 33万円 配偶者特別控除 最高38万円 最高33万円 扶養控除 扶養親族 38万円 扶養親族 33万円 特定扶養親族 63万円 特定扶養親族 45万円 社会保険料控除 支払額の全額 支払額の全額 税率  195万円以下 5% 道府県(標準税率)  195万円超  10%       一律4%  330 〃  20% 市町村(標準税率)  695 〃 23%      一律6%  900 〃    33% 1,800 〃  40% 表1 分析で使用する税制 4.5 推定方法 本稿では、世帯主の収入を一定として、配偶者控除制度の変更による配偶者の労働供給および家 計の収入の変化を検証する。被説明変数として、正規職員、非正規職員、無職に区分した労働供給 を使用する。なお、非正規職員については、正規職員よりも労働時間の分布が広く、実際に正規職 員よりも柔軟に労働供給を変化させることができると考えられるため、非正規職員にあたる労働供 給の選択肢を2 つに設定した。具体的には、無職はゼロ時間と設定し、マッチングによって与えた 労働時間がゼロ時間超1,200 時間未満の場合は労働時間を 1,100 時間に設定し、1,200 時間以上 1,500 時間未満の場合は 1,300 時間、1,500 時間以上の場合は 2,000 時間とすることで、4 通りの労 働供給の選択肢を設定した11。それぞれの労働供給の選択肢における余暇は総時間T を 5,840 時間 (=16 時間× 365 日)として求めている。 説明変数には、可処分所得および配偶者の余暇を使用する。子のいる配偶者が労働供給を行うに は、保育費用などの子の世話に要する費用が生じる。コントロール変数には、配偶者の年齢、3 大 9 具体的には、収入が900 万円以下の者は収入に 0.1 を乗じた金額、収入が 900 万円超で 1,500 万円以下の者は 収入に0.04 を乗じて 54 万円を加えた金額、収入が 1,500 万円超の者は 114 万円となるように計算される。 10 子がいる世帯については、児童手当の給付額を計算する。児童手当額は、ゼロ歳から3 歳未満の子は 1 万 5 千円、3 歳以上中学生までの子については 1 万円(ただし、第 3 子以降は 15,000 円)である。しかし児童手当 には所得制限が課されており、所得が所得制限限度額以上の場合には特例給付として一律5 千円である。 11 労働時間がゼロ時間であれば無職、労働時間が1,100 時間か 1,300 時間であれば非正規職員、労働時間が 2,000 時間であれば正規職員とする。

(11)

23 都市圏ダミー、持ち家の有無、住宅ローンの有無、子の数(6 歳未満、6 歳以上 15 歳未満)、高齢 者数を採用する。なお、固定費用Φ は子の数(6 歳未満、6 歳以上 15 歳未満)に依存すると仮定 する。 各家計は上記の4 つの選択肢のもとで、(1)式を最大化する。ここで、(1)式の誤差項 εijが極 値第Ⅰ分布に従うとする。家計i が効用 uikを最大化する労働供給hikを選択していると仮定すると、 家計i が労働供給 hikを選択する確率は以下の式で表すことができる。

Pr(uik> uis for all k ≠ s)=exp(u(yik, lik, Zi))/ ∑4m=1 exp(u(yim, lim, Zi))      (9)

ここで、uim=u(yim, lim, Ziimである。この時、(4)式は、条件付きロジットモデルとして、最 尤法によって、パラメータを推定することができる。 以上の方法で設定した可処分所得、労働時間、推定で用いるその他の変数の記述統計およびこれ らの変数を用いて推定を行った結果は表2 のとおりである。それぞれのパラメータは各変数の限界 効用を表す。表2 では、可処分所得のみの限界効用はマイナスである。したがって、可処分所得の 限界効用のみに着目すると、可処分所得の増加とともに効用が減少する。しかし、(4)式にもある とおり、可処分所得は2 乗項や他の変数との交差項が存在する。既存研究である Labeaga, Oliver and Spadaro(2008)でも、単身世帯の推定では、可処分所得のみのパラメータは負の値をとる。こ こで、重要な事は、van Soest(1995)が指摘するように、交差項や 2 乗項も含めた効用に対する可 処分所得の限界効用が正の値であることである。以降のシミュレーションでは、表2 の係数を効用 のパラメータとして用いる。 4.6 シミュレーション 本稿では、配偶者控除が、女性の労働供給に与える影響をシミュレーションによって明らかにす る。条件付きロジットモデルで得られたパラメータと誤差項εijを使用し、(3)式の効用関数から 各世帯の選択肢ごとの効用を算出する。以下では本稿のシミュレーションの方法について述べる。 まず、(3)式の誤差項 εijをカリブレ-ションによって求める。具体的には、極値第Ⅰ分布に従 う乱数を発生させ、世帯ごとに労働供給の選択肢と同数のJ 個の誤差項を得る12。得られた誤差項 と条件付きロジットモデルのパラメータを用いると選択肢ごとの効用を算出することができる。こ こで、データで観測された労働供給の選択肢の効用が、他の選択肢の効用と比較して、最大となる 場合、このJ 個の誤差項の組み合わせは成功として保存する。 観測された選択肢以外の労働供給のもとで効用が最大となる場合は、新たなJ 個の誤差項を発生 させ、成功の誤差項の組み合わせが得られるまで同様の作業を行う。同様の作業を300 回行っても 成功の誤差項が得られなければ、その家計はシミュレーションから除外する。各家計につき、成功 した誤差項の組み合わせを最大100 個生成し、その誤差項を用いた 100 回のシミュレーションの平 均の結果について制度変更の評価を行う13。 12 本稿では、労働供給の選択肢を4つに設定しているため、J=4 である。 13 誤差項の発生作業、シミュレーションの試行回数ともに作業回数を倍にした場合の結果も算出したが、結果 に大きな変化がなかった。 生活経済学研究vol.43.indb 23 16/3/10 12:58:06 22 算した9・10。世帯主と配偶者の税引前所得および児童手当の和から、所得税、住民税、社会保険料、 保育料を差し引くことで、世帯の可処分所得yijを算出することができる。 出典)財務省財務総合政策研究所『財政金融統計月報:租税特集』より筆者作成。 備考)住民税については表中の所得割以外に均等割(4,000 円)を課している。 所得税 住民税 給与所得控除 180万円まで  40% 180万円まで   40% 360万円まで   30% 360万円まで   30% 660万円まで  20% 660万円まで  20% 1,000万円まで  10% 1,000万円まで   10% 1,500万円まで 5% 1,500万円まで 5% 1,500万超  245万円 1,500万超  245万円 最低控除額  65万円 最低控除額  65万円 基礎控除         38万円 33万円 配偶者控除 38万円 33万円 配偶者特別控除 最高38万円 最高33万円 扶養控除 扶養親族 38万円 扶養親族 33万円 特定扶養親族 63万円 特定扶養親族 45万円 社会保険料控除 支払額の全額 支払額の全額 税率  195万円以下 5% 道府県(標準税率)  195万円超  10%       一律4%  330 〃  20% 市町村(標準税率)  695 〃 23%      一律6%  900 〃    33% 1,800 〃  40% 表1 分析で使用する税制 4.5 推定方法 本稿では、世帯主の収入を一定として、配偶者控除制度の変更による配偶者の労働供給および家 計の収入の変化を検証する。被説明変数として、正規職員、非正規職員、無職に区分した労働供給 を使用する。なお、非正規職員については、正規職員よりも労働時間の分布が広く、実際に正規職 員よりも柔軟に労働供給を変化させることができると考えられるため、非正規職員にあたる労働供 給の選択肢を2 つに設定した。具体的には、無職はゼロ時間と設定し、マッチングによって与えた 労働時間がゼロ時間超1,200 時間未満の場合は労働時間を 1,100 時間に設定し、1,200 時間以上 1,500 時間未満の場合は 1,300 時間、1,500 時間以上の場合は 2,000 時間とすることで、4 通りの労 働供給の選択肢を設定した11。それぞれの労働供給の選択肢における余暇は総時間T を 5,840 時間 (=16 時間× 365 日)として求めている。 説明変数には、可処分所得および配偶者の余暇を使用する。子のいる配偶者が労働供給を行うに は、保育費用などの子の世話に要する費用が生じる。コントロール変数には、配偶者の年齢、3 大 9 具体的には、収入が900 万円以下の者は収入に 0.1 を乗じた金額、収入が 900 万円超で 1,500 万円以下の者は 収入に0.04 を乗じて 54 万円を加えた金額、収入が 1,500 万円超の者は 114 万円となるように計算される。 10 子がいる世帯については、児童手当の給付額を計算する。児童手当額は、ゼロ歳から3 歳未満の子は 1 万 5 千円、3 歳以上中学生までの子については 1 万円(ただし、第 3 子以降は 15,000 円)である。しかし児童手当 には所得制限が課されており、所得が所得制限限度額以上の場合には特例給付として一律5 千円である。 11 労働時間がゼロ時間であれば無職、労働時間が1,100 時間か 1,300 時間であれば非正規職員、労働時間が 2,000 時間であれば正規職員とする。 生活経済学研究vol.43.indb 22 16/3/10 12:58:06

(12)

24 備考)***、 **、 * はそれぞれ有意水準 1%、5%、10%で係数が統計的に 有意にゼロと異なることを示す。推定結果の下段は標準偏差である。 推定結果 可処分所得 -0.0265 *** -0.0021 可処分所得×可処分所得 2.29E-05 *** -6.86E-07 配偶者の余暇 -0.0105 *** -0.0016 配偶者の余暇×配偶者の余暇 1.06E-06 *** -1.88E-07 可処分所得×配偶者の余暇 5.55E-06 *** -1.62E-07 可処分所得 ×配偶者の年齢 -0.0006 *** -3.92E-05  ×3大都市圏ダミー -0.0042 *** -0.0005  ×持ち家ダミー 0.0052 *** -0.0008  ×住宅ローンダミー -0.0014 ** -0.0006  ×子ども数(6歳未満) 0.0037 *** -0.0006  ×子ども数(6歳以上15歳未満) -0.0036 *** -0.0003  ×高齢者数(65歳以上) 0.0003 -0.0005 余暇  ×配偶者の年齢 -5.53E-05 *** -4.52E-06  ×3大都市圏ダミー -9.91E-05 * -5.77E-05  ×持ち家ダミー 0.0004 *** -8.63E-05  ×住宅ローンダミー -0.0004 *** -6.73E-05  ×子ども数(6歳未満) 0.0003 *** -0.0001  ×子ども数(6歳以上15歳未満) 9.43E-05 ** -4.72E-05  ×高齢者数(65歳以上) -0.0003 *** -5.47E-05 固定費用 0.2260 -0.4320  ×子ども数(6歳未満) -1.1110 *** -0.1050  ×子ども数(6歳以上15歳未満) 0.7010 *** -0.0507 対数尤度 -21073.968 サンプルサイズ 76,732 表2 記述統計および推定結果

参照

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