緒
言
日常臨床において通法の咬合検査では問題がないにも かかわらず,咬合違和感を訴える患者に遭遇する場合が ある.このような咬合違和感を訴える原因は多岐にわた り,確立された治療方法は未だにないため,対応には困 難を伴うことが多い1).とりわけクラウンブリッジによ る補綴処置が必要な場合は,プロビジョナルレストレー二回鋳造法を応用したブリッジ装着により咬合違和感が改善した
一症例
藤田 崇史
1§飯塚 知明
1廣川 琢哉
1川田
祐
1吉沢 亮平
2藤澤 政紀
1 1明海大学歯学部機能保存回復学講座歯科補綴学分野 2明海大学歯学部付属明海大学病院 歯科技工部 要旨:患者は 75 歳女性.他院でブリッジを装着した 2 年前より生じたという咬合違和感と味覚障害を主訴に,口腔外 科より紹介され受診した.治療方針として,下顎左右のブリッジにレジン築盛による可逆的補綴治療の後,新しいブリッ ジを製作することとした. ブリッジ製作に際し,正確で安定した咬合を再現する為に二回鋳造法を用いた.咬合の改善により,咬合違和感に加え 味覚障害も改善した. 適切な機能的咬合面を付与することにより,咬合違和感に影響を及ぼす局所因子を口腔内に適応させることができたも のと思われる. 索引用語:咬合違和感,機能的咬合面,二回鋳造法A Case of Occlusal Discomfort Treated by Fixed Partial Denture
Fabricated by Double-cast Technique
Takafumi FUJITA
1§, Tomoaki IIZUKA
1, Takuya HIROKAWA
1,
Yu KAWADA
1, Ryohei YOSHIZAWA
2and Masanori FUJISAWA
11Division of Fixed Prosthodontics, Department of Restorative & Biomaterials Sciences, Meikai University School of Dentistry 2Dental Laboratory, Meikai University Hospital
Abstract : A case of a 75-year-old woman with occlusal discomfort is reported. She was referred by an oral surgeon with the
complaints of occlusal discomfort and dysgeusia after treatment of fixed partial denture(FPD)in another dental clinic 2 years pre-viously.
As the treatment strategy, fabrication of new FPDs for the right and left sides of the mandible following reversible prosthodontic treatment including self-cure resin build-up was proposed.
In the process of the FPD fabrication, a double-cast technique was adopted to ensure precise and favorable occlusion. With oc-clusal improvement, not only the ococ-clusal discomfort but also the taste discomfort disappeared. A precise functional ococ-clusal sur-face provides peripheral factors suitable for the intraoral environment, which may affect occlusal discomfort.
ションから最終補綴装置への移行時に,咬合感覚の変化 によって咬合違和感を惹起させる場合もある.今回,プ ロビジョナルレストレーションから最終補綴に移行する 際の咬合の変化を最小限に抑える手法である二回鋳造 法2) により製作した臼歯部ブリッジを装着し,良好な経 過を辿った症例を経験したため,臨床術式ならびに経過 について報告する.
症例の概要
75歳女性.咀嚼障害,味覚障害,および頭痛を訴え 2012 年 2 月 7 日明海大学病院を受診した.1 年前に近医歯科 にて顎関節症と診断されスプリント治療を行ったが改善 されなかった.次第に歯が咬み合わなくなり,浮いたよ うに感じ,味覚の変化と頭痛を生じるようになり,本学 口腔外科に紹介され受診となった.その後,口腔外科に て咬合の精査依頼により補綴科を受診した.───┐⑦6⑤│, ┌─── │⑤6⑦ に装着されたブリッジに対し,前医にてブリッ ジの咬合面にレジンが添加されたとのことであった(Fig 1).パノラマエックス線写真(Fig 2)より,─┐7│に根管 充填材の不足を,┌─│7 根尖部には透過像を認めたが,い ずれも症状はなかった.レジストレーションストリップ スによる引き抜き試験では,咬頭嵌合位において咬合支 持域の不足が認められ,不安定な咬合状態であった(Fig 3). また,初診時の歯周基本検査(Fig 4)において,一 部 4 mm のポケットを認めたが,プラークコントロール は良好で,動揺歯も認められなかった. ───────────────────────────── §別刷請求先:藤田崇史,〒350-0283 埼玉県坂戸市けやき台 1-1 明海大学歯学部機能保存回復学講座歯科補綴学分野治療経過
1.治療方針ならびに装着までの経過 治療方針として可逆的な治療法により,咬合の変化と 症状の変化の関連を確認することとし,その後必要部位 の根管治療を行い,安定した咬合の確立を図るため,二 回鋳造法によるブリッジを製作することとした.現存す る───┐⑦6⑤│,┌───│⑤6⑦ ブリッジの咬合面に常温重合レジ ンを添加し(Fig 5),持参したパンをチェアーサイドで 食べてもらい,咀嚼に支障がなくなり状態が改善したこ とを確認した.───┐⑦6⑤│,┌───│⑤6⑦ ブリッジの咬合接触 を改善することにより咀嚼機能が向上し,咬合違和感も 軽減したため,両側のブリッジを新しく製作することと した.2012 年 5 月 10 日に───┐⑦6⑤│のブリッジを除去 し,プロビジョナルレストレーションに置換し(Fig 6),調整を繰り返した後,同年 7 月 19 日より─┐7│と┌─│7 の根管治療を開始した.根管治療終了後,プロビジョナ Fig 4 Periodontal examination chart.Fig 5 Adding self-cured resin on the occlusal surface of the ex-isting fixed partial dentures(FPDs).
〈初診時咬合所見〉 咬頭嵌合位 : 71│4──┼─ 71│4 右側方運動時 : 3│─┤ 3│ 左側方運動時 : 7│356─┼─── 7│356 前方運動時 : 1│─┤ 1│ Fig 3 Occlusal status.
Fig 6 The provisional restorations replacing FPDs.
ルレストレーションで確立した機能的な咬合関係を鋳造 ブリッジに反映させるために,二回鋳造法によるブリッ ジ製作を行い,2012 年 12 月 3 日に仮着した.右側の咬 合を確立した後,┌───│⑤6⑦ も同様に除去,┌─│7 の根管治療 を行い,2013 年 5 月 15 日にブリッジを仮着した. 2.二回鋳造法によるブリッジの製作 1)ベースクラウンの製作 通法に従い印象採得を行い,歯型可撤式の作業模型を 製作した.ろう型形成時の咬合面には解剖学的形態(Fig 7−a)を付与し,その後咬合面をカットバックしレジン 添加スペースを設けた.ベースクラウンに添加するレジ ンとの維持向上の為レディーキャスティングワックスを Fig 7 Fabrication procedure of base crown.
a. Ordinal wax up with anatomical form
b. Ready casting wax being added on the occlusal surface c. FPD base crown
d. Self-cured resin being added on the occlusal surface
Fig 8 Add and cut were repeated for adjustment of FPD with
咬合面に付与した(Fig 7−b).通法に従い埋没,鋳造, 研磨を行いベースクラウンを完成させた(Fig 7−c).続 いて,ベースクラウンの咬合面に常温重合レジンを添加 し(Fig 7−d),口腔内に試適調整後,仮着した. 2)機能的咬合面の製作 完成したベースクラウンを仮着後,口腔内で咬合面に 常温重合レジンの添加・削合を行い調整した(Fig 8). 初診時の症状が完全に消失したことを確認した後,機能 的咬合面が付与されたベースクラウンをスプルーイング し,埋没,鋳造,研磨を行い,機能的咬合面が付与され たレジンを金属に置換し,ブリッジを完成させた(Fig 9).尚,咬合面の研磨はシリコーンポイントのみで行っ た. 3.装着後の経過 二回鋳造法により機能的咬合面を金属に置換したブリ ッジを 1 か月間仮着して経過を観察したが,初診時の症 状は再発することなく,咬合状態も良好であったため ───┐ ⑦6⑤│ブリッジを合着した(Fig 10). その後,反対側┌───│⑤6⑦ も同様の製作方法にて機能的 咬合面を付与したブリッジを製作し,合着した(Fig 11).BiteEye BE-1Ⓡ(GC 社製)による咬合接触検査で は初診時と比較して咬合接触面積は増加し(Fig 12), 初診時に訴えていた咀嚼障害に加え,味覚障害,頭痛も 消失し,良好な経過を辿っている.
Fig 10 Intraoral lateral view of FPD(one month after delivery).
考
察
咬合違和感には明らかに咬合に不調和が認められる場 合以外に,中枢または歯根膜,顎関節および咀嚼筋など の末梢器官に起因するものがある3) .本症例はレジンの 添加による可逆的アプローチにより,咬合に起因した咬 合違和感であることを確認し,二回鋳造法を用いてブリ ッジを製作した. 二回鋳造法とは,咬合面以外の部分を製作した鋳造体 (ベースクラウン)の咬合面に常温重合レジンを盛り上 げ,口腔内で調整を行った後に咬合面を金属に置換す る,いわば間接法と直接法を組み合わせたクラウンブリ ッジの製作法である.そのため,従来の間接法の製作過 程において生じ得る様々な誤差(対合歯の模型の変形, 咬合採得時の誤差,咬合器装着時の誤差,口腔内の支台 歯への適合性に由来する誤差,隣接接触関係による誤 差)を最小限に抑えることができる4) . ベースクラウンに築盛した常温重合レジンを調整する ことにより,プロビジョナルレストレーションと同様の 調整ができ,そのままの咬合面が金属冠に再現されるこ ととなる.その論理的背景は機能的咬合面形成法として 知られる FGP テクニックに準じたものである5) .加えて 支台歯を被覆するベースクラウンは金属であるため,レ ジンによるプロビジョナルレストレーションのように長 期間の仮着による二次カリエスの危険が少ない.その反 面,鋳接部に境界を生じること,来院回数が増えてしま うこと,技工操作が煩雑であること,支台歯形成時の咬 合面削除量が多いこと,前装冠への適応が困難なことな どが欠点として挙げられる.しかし,従来の間接法によ る金属冠の鋳造収縮と比較すると,二回目の鋳造による 寸法変化が少ない6) ことから,咬合の変化に敏感な患者 に対して有効な補綴治療であると考えられており,長期 的にも安定しているという報告がある7, 8) . 本症例においては,前医にて最終補綴処置後,複数回 にわたり咬合調整を行うも,咬合違和感の改善が見られ ず,患者が咬合の変化に極めて敏感であったため,可逆 的に咬合を変化させ,安定した下顎位を確保できること を確認した後に新しくブリッジを製作した.咬合違和感 を訴える患者においては,安易に補綴介入を行うべきで はなく,各治療ステップで可逆的治療を行うことが重要 であると考える9) .本症例では,来院時に装着されてい たブリッジに,まず常温重合レジンを添加することによ りさらなる補綴治療の可否を検討したが,この時も「不 具合が起きたときは盛った材料を除去すれば元の状態に 戻せます」と説明した上でレジン添加を行った.また, ブリッジを除去し,新たなプロビジョナルレストレーシ ョンに置き換える際も,患者が咬合違和感を訴えた際, 旧補綴装置が再度使えるようにブリッジの除去には細心 の注意を払った10) . このように「前の状態に戻れる」ことを保証すること によって,咬合の微妙な変化に敏感な患者に安心感を持 たせて補綴治療に導入できたことと,プロビジョナルレ ストレーションで確立した咬合関係を最終補綴装置に反 映できる二回鋳造法の利点により,本症例の患者の初診 時の訴えを解消することができたと考える.また,通法 どおりに製作される解剖学的形態を付与した補綴装置が 必ずしも咬みやすいとは限らず,とりわけ咬合違和感を 訴える患者に対しては,機能的咬合面を付与した補綴装 Fig 12 Preoperative(left)and postoperative(right)occlusal contact analyses using BiteEye BE-1Ⓡ. Color dots in blue silicone indicate occlusal contact.
置によってその症状が改善しうることがある. しかしながら,咬合違和感を訴え,その原因が本当に 咬合にあったとしても,機能的咬合面が適しているか, 解剖学的咬合面が適しているかは,症例によるものと思 われる.したがって可逆的な補綴治療により治療方針を 再評価するという配慮が必要と考える.本症例におい て,二回鋳造法を応用したことの意義としては,咬合精 度の向上のみならず,可逆的補綴治療による安心感を与 えるという簡易精神療法11) としての手続きが功を奏し, この二つの面が相俟って症状の改善につながったものと 思われる. 今後は,咬合状態や咀嚼機能の変化および鋳造体の変 化について長期的に経過観察を行っていきたい.