は じ め に 肺炎随伴性胸水(parapneumonic effusions:PPE) は,急激に呼吸不全を発症する急性肺炎の合併症 の一つである.近年,小児期での PPE 発症頻度は 増加しており,特に重症心身障害児は発症リスク が高い1).治療方針は臨床的病期に応じて決定さ れ,uncomplicated PPE 症例では抗菌薬投与や胸 腔ドレナージなどの保存的治療で治癒可能な症例 が多い.一方で,complicated PPE や膿胸では外 科的治療を要する症例が散見される2, 3).小児例で はたとえ重症例であったとしても侵襲性を考慮し 線維素溶解療法を含めた保存的加療が選択される 場合が多い4).近年,胸腔鏡下手術の安全性が高 まってきたことを受けて,線維素溶解療法による 治療期間の長期化や出血リスクを考慮し,呼吸状 態の悪い患児に対して迅速に外科的介入を施す症 例が散見される2,3,5,6).今回,抗菌薬投与にもかか わらず急速に胸水貯留が進行し,VATS (video-assisted thoracoscopic surgery)を施行した小児例 を経験したため報告する. Ⅰ.症 例 症例:13 歳,男児 既往歴:8 歳時の交通事故による右急性硬膜下 血腫,頭蓋骨骨折後の重症心身障害児 家族歴:特記すべき事項なし 出生歴:40 週 1 日,頭位分娩,3,504 g,妊娠・ 周産期に異常なし 予防接種歴:BCG,三種混合 4 回,ポリオ 2 回, 要旨 肺炎随伴性胸水(PPE)は,抗菌薬投与のみで改善する uncomplicated PPE か
ら侵襲的治療介入を要する complicated PPE や膿胸まで様々である.今回 video-assisted thoracoscopic surgery(VATS)を要した complicated PPE の小児例を経験 した.症例は交通事故の後遺症で重症心身障害児となった 13 歳男児.左急性肺炎に対 して経静脈的抗菌薬投与を行うも症状の改善なく,数日間で左胸腔が胸水で充満され た.画像検査では左胸腔に多房化の所見を認めた.経皮的胸腔ドレナージを試みたが 不応であり VATS が選択された.胸腔鏡下で無数の隔壁を形成する醸膿膜を除去し膿 胸腔を単一化した.術後,左肺の拡張は良好で再燃や後遺症なく退院となった.PPE に対する保存的治療が難しい小児例では,安全性の観点から線維素溶解療法が選択さ れることが多い.しかし VATS の安全性が向上し,症状の改善も速やかであることか ら,小児例でも症例により積極的な VATS の選択が考慮されるべきである. Key words:肺炎随伴性胸水,胸腔鏡下手術,多房化胸水 1)金沢大学附属病院小児科 連絡先:伊川泰広 〒 920-8641 金沢市宝町 13-1 金沢大学附属病院小児科
麻疹・風疹 2 回,日本脳炎 2 回,二種混合 1 回 現病歴:転院2日前の早朝から体温 37.0℃の微 熱と頻呼吸を認めたため近医を受診した.胸部 X 線像で左下肺に軽度の浸潤影を認めた(図 1a, b) が,血液検査上,炎症反応は軽度上昇にとどまっ ており一旦帰宅となった.しかし,同日午後から 38.0℃台の発熱を認めたため近医を再診した.血 液検査で炎症反応の上昇を認め,頻呼吸と静脈血 酸素飽和度の低下も認めたため加療目的に同日入 院となった.入院後,細菌性肺炎を念頭に cefo-taxime 1g×3 回/日,酸素投与 5 L/分で加療を開 始した.転院 1 日前も解熱は得られず,血液検査 上,白血球数 21,500/μL,CRP 値 22.7 mg/dL と 炎症反応の著明な上昇を認めた.胸部 CT 検査で は左肺野に著明な胸水貯留を認め(図 1c)cefo-taxime は無効と判断し,抗菌薬を meropenem 1g×3 回/日,cefazolin 1g×3 回/日に変更した. しかし,抗菌薬変更翌日も解熱傾向を認めず,血 液検査上もさらに炎症反応の上昇を認めた.胸部 CT 検査を施行したところ,胸水貯留が進行し(図 1c)外科的処置の必要性も考慮され同日当院へ紹 介となった. 入院時現症:身長 150 cm(-0.9 SD),体重 43 kg(-0.5 SD),体温 39.6℃,心拍数 139 回/分, 呼吸数 30 回/分,経皮的動脈酸素飽和度 91% (room air),血圧 112/62 mmHg 左肺野で呼吸音は著明に減弱し,呼吸による胸 郭の動きも乏しかった.右凸の側彎,四肢拘縮を a b c d 図 1 胸部 X 線および胸部単純 CT 検査の経過 a. 前医入院時の胸部 X 線写真:左肺野に含気を認める.b. 前医入院翌日の胸部 X 線写真:左肺野全体の含気が消失 した.c. 当院転院直前の胸部 CT:左肺に著明な胸水貯留を認める.肺門部に一部含気が残存している.d. 当院転 院 2 日目の胸部 CT:肺門部まで液体濃度で置換された.
認めた. 入院時検査所見(表):入院時の血液検査では, 炎症反応の著明な上昇を認めた.静脈血ガス分析 では二酸化炭素の貯留を認めた.起因菌の同定目 的に行った精査では,明らかな原因微生物を同定 できなかった.また,血液培養・喀痰培養におい ても有意菌は検出されなかった. 入院後経過(図 2):入院当日,胸水ドレナージ 目的に左胸腔にドレーンを挿入したが,胸水の排 出を認めなかった.翌日まで胸腔ドレーンを留置 し陰圧で排出を促すも排液は認められなかった. 入院翌日に再度胸部 CT を施行したところ,肺尖 部にも含気が認められず胸水貯留の進行が確認さ れた(図 1d).前医からの画像所見の経過はまと めて図 1 に示した.左胸壁から胸腔エコーを施行 したところ,多数の隔壁により多房化した胸水の 貯留が確認できた.炎症の沈静化が認められず, 胸腔内に多量の隔壁が存在し有効なドレナージを 得られなかったこと,胸水貯留が進行していたこ とから,線維素溶解液を用いた保存的治療では根 治は難しく病状の進行が危惧された.そのため, VATS の適応と判断し,全身麻酔下に肺剝皮・胸 腔ドレナージ術を行った.胸腔鏡を挿入すると, 胸膜は臓側・壁側ともに炎症性に肥厚し,胸腔内 には多量の胸水と醸膿膜が充満していた.胸腔鏡 下に鋭匙等を用いて可及的に醸膿膜を切除し,温 蒸留水で胸腔内を洗浄し手術は終了とした.胸水 の性状は淡赤色でやや混濁しており,pH 7.623, LDH 2,096 IU/L,総蛋白値 5.4 g/dL,アルブミン 値 2.7 g/dL,adenosine deaminase(ADA)39.3 RBC 41.7 105/μL UA 3.0 mg/dL Hb 13.3 g/dL 〈静脈血液ガス〉 Hct 33.4 % pH 7.492 Plt 24.7 103/μL pCO 2 28.7 mmHg 〈生化学・血清〉 HCO3 21.7 mmol/L
AST 9 IU/L BE -0.2 mmol/L
ALT 5 IU/L Lac 9 mg/dL
LDH 111 IU/L Glu 238 mg/dL ALP 503 IU/L 【感染症関連】 γ-GTP 10 IU/L マイコプラズマ抗体(PA 法) <40 倍 Na 140 mEq/L マイコプラズマ IgM 迅速検査 陰性 K 3.8 mEq/L 尿中肺炎球菌抗原 陰性 Cl 105 mEq/L 尿中レジオネラ抗原 陰性 Ca 7.8 mg/dL 咽頭アデノウイルス迅速検査 陰性 P 2.6 mg/dL 胸水アデノウイルス迅速検査 陰性 CRP 25.9 mg/dL
IU/L と滲出性胸水であった.胸水のグラム染色 では好中球は多数確認されたが,細菌貪食像は認 められず培養検査も陰性であった.醸膿膜の病理 では,血腫,壊死物,少量の肉芽組織がみられた が菌体構造は確認できなかった. 両肺換気後,著明な 1 回換気量・酸素化の改善 を認めた.培養結果が判明するまでは,前医から の meropenem に加えて,患児の易感染性を考慮 したメチシリン耐性黄色ブドウ球菌を念頭に vancomycin を併用した. 入院 15 日目に再度高熱を認め,入院 8 日目に提 出 し て い た 胸 水 の 培 養 結 果 か ら Stenotroph-omonas maltophilia が検出されたため ST 合剤を 開始する予定とした.しかし翌日にイレウスとな り内服困難となったため,感受性検査を参考に抗 菌薬を ciprofloxacin に変更した.入院 21 日目に 再度高熱がみられ,CRP 値が 5.0 mg/dL に再上昇 し,以前に提出していた胸腔ドレーンのカテーテ ル先端培養からも S. maltophilia が検出されたた め,感受性検査を参考に minocycline に変更した. また,他の細菌感染も考慮し,広域セフェム系の cefepime も併用した.術後,左肺実質の拡張は良 好であり,胸水貯留の再燃は認めず,入院 5 日目 に抜管,27 日目に退院となった. Ⅱ.考 察 PPE は,発症から 3 か月以内に胸腔内に膿性液の 貯留をきたす急性炎症性疾患と定義され,小児の細 菌性肺炎の 5 ∼ 10%に合併するとされている2,3). PPE の発症頻度は増えており,特に高齢者や基礎 疾患を有する症例では,依然として高率に認めら れる.抗菌薬投与のみ,もしくは胸腔ドレナージ などの保存的治療だけでは改善を得られない com-plicated PPE 症例では,積極的な外科的処置が必 要となる.PPE は Light の分類によりⅠ期(滲出 期),Ⅱ期(線維素膿性期),Ⅲ期(器質化期)に 分類され,Ⅰ期からⅡ期へは 2 ∼ 14 日で,Ⅱ期か らⅢ期へは 3 ∼ 4 週で移行するとされている2,3). 図 2 当院転院後の経過 [胸部X線所見] 入院2日目 入院11日目 入院21日目
単房性または胸水貯留のみであり,手術を要した 症例はほとんどが多房性であった. 以上より,胸部 CT や胸部エコーで隔壁形成や 胸腔内の多房化がみられる症例で保存的治療で改 善が期待できないと予想されうる症例では,早期 からの外科的治療を行うことで肺剝皮術など,よ り侵襲的な介入から免れると考えられる4~6). 一方で,過去に多房化胸水を認める症例に VATS と線維素溶解療法を治療期間や治療対費用 の観点から比較した報告も多数認める8~11).それ らの報告では,VATS は線維素溶解療法と比較し て安全性の面で危惧される点と高額な治療費用が あげられている.また,小児呼吸器感染症診療ガ イドライン 2017 によると,入院期間や解熱までの 期間に両者で有意差はなく,ドレナージ無効例に おいては同等の効果と考えられている12).しかし, 近年,VATS の安全性が確立されてきたことを受 け,VATS も小児例に積極的に施行され始めた. 本症例のように側彎を有する寝たきりの小児な ど,基礎疾患を有する症例で,呼吸状態が不安定 であり速やかなドレナージを必要とする場合は, 積極的に初期治療として VATS の選択を考慮すべ きだと考えた. PPE を合併する呼吸器感染症の起因菌として, 肺炎球菌や化膿レンサ球菌,黄色ブドウ球菌,イ ンフルエンザ菌 b 型が大部分を占める13~15).この 中で,肺炎球菌とインフルエンザ菌 b 型は予防接 種が定期接種化されたことで発症率は低下してい る13~16) .重症心身症児への予防接種基準では,呼 吸器感染症の重症化リスクの回避のため,接種対 象年齢超過後の接種が推奨されている17,18) .しか し,定期接種開始以前に生まれた年長の重症心身 症児は呼吸器感染症発症のハイリスク患者である 状態の増悪を認めた complicated PPE に対して, VATS が有用であった小児例を経験した.近年, VATS の安全性が向上してきており,内科的治療 で効果が望めない症例においては,積極的に VATS の選択を考慮すべきだと考えられた.さら に,重篤な呼吸器感染症のハイリスクである寝た きりの小児に対して,呼吸器感染症による重症化 を防ぐ目的に,追加のワクチン接種を勧奨するこ とが重要と考えられた. 本論文の要旨は第 11 回日本小児科学会石川地方 会(2014 年9月,金沢)で発表した. なお,本症例を論文化するにあたり,家族の了承 を得た. 日本小児感染症学会の定める利益相反に関する 開示事項はありません. 文 献 1) 徳永 修, 他:重症心身障害児(者)に見られる呼 吸障害.日本小児呼吸器学会雑誌 25(1) : 4-9,2014 2) 稲毛英介, 他:重症心身障害児に発症した口腔内 常在菌による膿胸の 1 例.小児感染免疫 22 : 227-232, 2010
3) Light RW:Parapneumonic effusions and empy-ema. Proc Am Thorac Soc 3 : 75-80, 2006 4) 松田英祐,他:急性膿胸に対する胸腔鏡手術症例 の 検 討. 日 本 臨 床 外 科 学 会 雑 誌 72(11) : 2782-2786, 2011 5) 持永浩史,他:急性膿胸に対する治療方針に関す る検討.日本呼吸器外科学会雑誌 25 : 134-139, 2011
6) Goldin AB, et al: Outcomes associated with type of intervention and timing in complex pediatric empyema. Am J Surg 203 : 665-673, 2012
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8) Gates RL, et al : Dose VATS provide optimal treatment of empyema in children? A system-atic review. J Pediatr Surg 39 : 381-386, 2004 9) Sonnappa S, et al : Comparison of urokinase and
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10) Sonnappa S, et al : Treatment approaches for empyema in children. Pediatr Respir Rev : 164-170, 2007
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12) 尾内一信,他(監修),小児呼吸器感染症診療ガイ ドライン作成委員会(作成):小児の膿胸の治療に 外科的治療は有効か? 小児呼吸器感染症診療ガ イドライン 2017, 82-84, 協和企画, 東京, 2016
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Video-assisted thoracoscopic surgery for refractory parapneumonic pleural effusion: A case report
Eiko KOIZUMI1), Yasuhiro IKAWA1), Akihiro YACHIE1) 1)Department of Pediatrics, Kanazawa University Hospital
The severity of parapneumonic pleural effusion (PPE) varies from uncomplicated PPE, which is treatable with antibiotics, to complicated PPE and empyema, which needs invasive treatment. This paper presents the case of a 13 year-old-boy with severe motor and intellectual disabilities following a car accident, who required video-assisted thoraco-scopic surgery (VATS) for complicated PPE. He suffered from acute pneumonia that was treated with intravenous antibiotic infusions, but with no improvement in his symp-toms. Thereafter, he was found to have pleural effusion with multiple loculations. Since an indwelling percutaneous pleural drainage tube did not result in successful effusion drainage, VATS was selected as second-line therapy. Abundant fibrinous septa, which had formed within the thoracic cavity, were removed under thoracoscopy. The lung expanded well postoperatively, and the patient was discharged without any sequelae or relapse. Fibrinolytic therapy tends to be selected for pediatric complicated PPE cases because of issues related to safety of the VATS procedure. However, due to improve-ments in the safety of VATS, this treatment could be first-line therapy even for pediat-ric complicated PPE patients.
Key words: parapneumonic pleural effusion, video-assisted thoracoscopic surgery, multi-ple loculations