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〈書評〉岡本哲弥著 『情報化時代の流通機能論』 晃洋書房 2008

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220 彦根論叢 2015 spring / No.403

岡本哲弥著

『情報化時代

流通機能論』

晃洋書房

2008年、 193pp.

 本書は、流通活動における情報技術の普及を 個別流通企業内部の省力化・合理化の観点から ではなく、垂直的な企業間関係の観点から描き出 そうとした著作である。

1950

年代以降、多くの情 報処理システムが企業の情報化を目的に企業内 部に構築されたが、その効果は企業内部にとどま らず、取引関係にある外部の企業にも影響が及ぶ ようになってきた。しかし、情報技術の普及やそれ に伴う効果は極めて流動的であり、定点観測が困 難なものであるため、本書では流通活動を担う企 業が果たしている流通機能に着目して情報化と企 業間関係の問題を捉えようとしている。  第

1

章「流通機能表の系譜と情報流通」では、 生産者と消費者の懸隔を埋めるために存在してい る流通業者が果たしている流通機能について、多 くの研究者の主張のレビューを行っている。その 結果、工業化や情報化が進展しても普遍性が高 い流通機能があり、それを担当する企業は変われ ども流通機能自体はまったく失われていないこと を見出している。この結果から、流通機能という固 定的な視点から情報化と企業間関係という流動 的な問題を分析することが可能であるとしている。  第

2

章「経営情報システムとその評価」において は、

1960

年 代 に 導入 さ れ た

EDP

Electronic

Data Processing

)から、インターネットなどネット ワ ー クによって商取引 を 行 う

EC

Electronic

Commerce

)まで、企業の経営や商取引に用いら 山下悠 Yu Yamashita 滋賀大学経済学部 / 准教授 れてきた多くの経営情報システムについて取り上 げ、初期の経営情報システムが専ら企業内部の効 率性を高めることを意図して導入されていたのに 対して、最近の経営情報システムが外部の企業特 に取引先との関係性を変化させることを目的に導 入されていることを示している。その上で、各経営 情報システムについて客観的な評価が必要である ことを提唱しており、第

4

章以降では小売企業に 幅広く普及した

POS

Point Of Sales

)システムと、 取引関係にある企業が情報の共有化を図る

EDI

Electronic Data Interchange

)に限定して分析 が行われている。  第

3

章「流通情報化と企業間の関係性に関する 分析枠組み」では、分析の前段階として、経営情報 システムを評価する

2

つの基軸を設けている。

1

つ は、全ての経営情報システムに対して行われる投 資の積極性を示した「情報化投資水準」であり、も う

1

つは、電子化された流通情報のうち、どの種類 の情報を企業間で共有化するのかを示した「情報 共有化水準」である。  第

4

章から第

7

章では、著者が

2003

年に行った 大衆医薬品を販売する小売企業に対 するアン ケート調査をもとに、小売企業とその最大の取引 先である企業との関係について分析を行っている。 第

4

章「流通情報化における投資と情報共有化」 では、本書の分析の妥当性、すなわち、企業が共 有する流通情報を流通機能の観点から分析する 書評

(2)

221 岡本哲弥著『情報化時代の流通機能論』 山下悠 必要性について検証するとともに、共有化される 流通情報を「在庫系情報」「販売系情報」「輸送系 情報」の

3

つに機能別に分類する必要があること を提言している。  第

5

章「流通企業間の関係性と情報化」では、 小売企業と取引企業の取引依存度や企業規模が、

POS

システムと

EDI

への投資行動を規定している という仮説について検証している。検証の結果、

POS

システムについては取引企業の関与なしに 小売企業が単独で導入することが可能であるため、 企業間の関係性の影響は受けていなかったが、

EDI

については取引依存度が低いほど投資を積 極的に行うことが示されている。  第

6

章「流通企業間における情報の流動性と卸 売企業の関与」では、営業担当者と仕入担当者と が直接コミュニケーションすることで共有するアナ ログ情報に着目し、

EDI

によって共有が行われる デジタル情報との関係性を検討している。分析の 結果、アナログ情報とデジタル情報は完全に異な る情報であるため、情報化がより進展したとしても デジタル情報がアナログ情報を代替することは考 えにくいことを示唆している。  第

7

章「小売における情報化と卸売企業の関与 による効果」では、これまで議論されてきた企業内 部の情報化および企業外部との情報共有化がど の程度経営成果の改善に繋がるのか分析が行わ れている。その結果、

POS

システム・

EDI

ともに投 資を積極的に行うことで粗利益率と商品回転率 の向上に貢献しているものの、営業経費率の低下 については影響がないことが示されている。  本書を通して著者が果たした貢献は、次の

3

点 にまとめることができるだろう。まず、学術的な貢 献として、生産者と消費者の間を媒介する流通業 者が果たす流通機能に着目して、情報化など時代 の変化に直面しても流通機能自体はまったく損な われることなく、特定の流通機能を複数の主体が 担うことがありうることを想定し、情報化によって 流通機能の分担が起こり、それが経営成果に影 響を与えることを統計的に検証した点である。ま た、小売企業とその取引先が共有化する情報をク ラスター分析によって流通機能の面から分類でき ることを確認し、流通機能論の発展可能性を示し たことも貢献の

1

つとして挙げることができるだろう。  実践的な貢献としては、多くの小売企業が導入 している

POS

システムや

EDI

について経営成果に 与える影響を検証したことと、企業規模と

EDI

へ の投資の関係性を分析したことを挙げることがで きる。全ての取引先と情報を共有化することが会 社の資本面から難しい場合には、どの企業と共有 化するべきか選択の問題が必要になるが、本書の 分析に従えば、自社と同程度の規模である取引相 手と共有化することが経営効率を高めるためには 望ましいことになる。  最後に、本書に関するコメントをまとめておく。 本書は、流通機能論に依拠して、ともすれば懐古 主義的な視点から情報化と企業間関係について 分析を行っている。著者が終章で指摘しているよ うに概念とそれを示す変数の選択については若干 の飛躍はあるものの、従来はほとんど行われてこ なかった流通機能の概念に定量的な指標を当て はめることに成功した点は非常に大きいと言えるだ ろう。  本書の定量的な分析がもっぱら大衆医薬品を 取り扱う小売企業すなわちドラッグストアや薬局 に限定されるとともに、多くの分析において標本 数が

50

前後に留まったことは注意を要する点であ る。本書の分析によって得られた結論がドラッグ ストア業界でのみ成り立つことなのか、他の小売 業界でも成り立つことなのかを検討する余地は十 分にあり、更なる研究が望まれる。

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