原 著
〔書栃縛35第號元難〕
起立試験における指先容積脈波判読法の検討
東京女子医科大学 神経内科学教室(主任:丸山勝一教授) タテ イシ キ ミ コ 立 石 紀 美 子 (受付 平成元年3月4日)Investigation of Digital Plethysmography during Orthostatic Stress Test
Kimiko TATEISHI
Department of Neurology(Director:Prof. Shoichi MARUYAMA), Neurological Institute,
Tokyo Women’s Medical College
For the purpose of differentiating the symptoms of dizziness and/or vertigo, the Digital Plethysmography was performed during the orthostatic stress test on 178 subjects with dizziness
and/or vertigo and 14 normal subjects.
The results of the investigation were summarized as follows:
1) Three groups were classified into Dicrotic Index(DI)and Beat Effect(BE)during orthostatic
stress. DI reflects the degree of the peripheral vasoconstriction and BE indicates the variation in the cardiac response.
2)The first group with normal DI and normal BE includes all functional disorders. The second group with abnormal DI and normal BE includes partial functional disorders.And most of the patients in the third group with abnormal DI and BE have significant organic diseases.
In conclusion, with the use of this method, dizziness and/or vertigo cou】d be differentiated between functional and organic diseases.
緒 言 めまいや立ちくらみは日常診療の中で,しぼし ぼ遭遇する症状であるが,その病因の鑑別診断に は困難を要することが多い. 今回,著者らはめまいを主訴とする疾患群をめ まい症候群とし,これらの循環動態の一端を調べ る簡易検査法として,起立負荷時の指先容積脈波 (以下脈波)の検討を行った. 脈波は,非観血的であるため,患者に侵襲をあ たえず,かつ経時的連続的に記録できる利点があ り,また,血管への末梢神経支配は自律神経内の 交感神経支配が優先するため,心血管系の反応を 敏感に反映している. 正常の場合,起立時には,圧受容体反射により, 細動脈収縮と心拍出量の増加をきたし,血圧が維 持されている.この起立時の反射を,脈波記録よ り,細動脈収縮の度合を示すdicrotic index(DI) と,心拍出量の変動の度合としてのbeat effect (BE)を判読し,年齢,および,疾患との関連につ いて検討した. 研究方法 対象ぱ,めまい症候群として,最近1年間にめ まい,たちくらみを訴えて,東京女子医科大学神 経内科を受診し,主治医の指示で起立試験を施行 した男性90例,女性88例,計178例,平均年齢50± 17歳と健康成人男女各7例,計ユ4例,平均年齢27± 3歳(正常対象群とする)とした(表1).症例の 内訳は,脳血管障害55例,変性疾患11例,末梢神 経障害7例,耳性めまい6例,糖尿病(合併症を 伴わない)5例,不定愁訴症候群40例,失神15例, 片頭痛5例,うつ病5例,その他28例であった. 検査方法は,被検者を5分間安静仰臥位として,
表1 対 象 疾 患 名 男 女 計 平均年齢 正常対照群 7 7 14 27±3 めま』い症候群 90 88 178 50±17 脳血管障害 36 19 55 61±13 変性疾患 8 3 11 53±13 末梢神経障害 5 2 7 54±11 耳性めまい 1 5 6 51±13 糖尿病* 4 1 5 55±11 不定愁訴症候群 13 27 40 40十16 失神 8 7 15 41±15 片頭痛 1 4 5 34±17 うつ病 3 2 5 25±8 その他 11 17 28 55±13 〔DD1 100% 90% A群 100 90 B群 *合併症を伴わない 100 90 C群
前側13募前口13募前霧13碁
②BE 100% 50% a群 100% 50% b群前30135 前3D 135
秒 分 秒 分 c群 d群 100% 一一一一一一一一一一一一一一 100% 一一一一一一一一一一一一一一 50% 50%前謬13募 前幕13身
図1 起立後の脈波変化による分類 脈拍,血圧,呼吸の安定を待ち,脈波波形および,脈高の安定した状態を確かめた後,脈波計PT
703を用いて,右第2指の脈波,心電図第II試導, 血圧を,起立前,起立後30秒,1分,3分,5分 で記録測定した.起立後は,上肢を心臓の高さに 水平に保つこととし,室温は,22∼25℃にて測定 条件を一定とした. 脈波の判読は,DIとBEを用いた.すなわち, DI=切痕の波高/脈波波高 BE=(脈波波高の平均値/4.0)×心拍数/分 の式で求められる. 次に,反応様式により,DIとBEを次のように 分類した(図1).まず,DIについては前値の90% を境として,A;上昇するタイプ, B;一過性下降 後回復するタイプ,C;連続下降するタイプとし, BEについては,前哨の50%を境として, a;上昇 するタイプ,b;軽度下降(50%以内)後回復する タイプ,c;下降(50%以上)後回復するタイプ, d;連続下降するタイプにそれぞれ分類した. 対象のDIとBEにつき,これらA, B, C群お よびa,b, c, d群のいずれかであるかを判定し, 相互関係,年齢との関係および疾患との関係につ ぎ検討を行った. 結 果 1.年齢とDIの関係(表2) めまい症候群では若年者にはB,C群が多く,高 齢者にはA群を多く認めた.正常対象群は全例A 群であった. 2.年齢とBEの関係(表3) めまい症候群では,各年代でa,b群の比率が高 く,年齢によるBEの差は特に認められなかった. 正常対照群ではa,b群のみであった.3.DIとBEの関連(表4)
めまい症候群では,A−bが最も多くA−aがこれ についで多かった.正常対照群ではA・aが多く A−bがこれに次いだ.めまい症候群で,C−d,すな わち細動脈血管反応低下,および心機能低下状態 を呈した症例が9例ありその内訳は,脳血管障害 3例〔椎骨脳底動脈循環不全(以下VBI)2例, Wallenberg症候群1例〕,変性疾患4例〔脊髄小 脳変性症のオリーブ橋小脳萎縮症(OPCA)および Holmes型, Shy−Drager syndrome(SDS),idiopath量。 orthostatic hypotension(10H)各1
例〕,不定愁訴症候群1例〔起立性調節障害(OD) 1例〕,失神1例であった. 4.疾患とDI, BEの関係(表5一①,5一②) 1)脳血管障害;各種の型が認められたが,A とa,bの組合せが44%と多い傾向にあった. C−b, C−dを呈した症例はそのほとんどが椎骨脳底動脈
表2 年齢とDI DI 年 齢 計 A(%) B(%) C(%) めまい症候群 10∼19 0(0) 2(22) 7(88) 9 20∼29 2(12) 8(47) 7(41) 17 30∼39 13(72) 2(11) 3(16) 18 40∼49 15(50) 6(20) 9(30) 30 50∼59 30(65) 7(15) 9(20) 46 60∼69 24(64) 8(22) 5(14) 37 70∼79 9(56) 4(25) 3(19) 16 80∼ 3(60) 1(20) 1(20) 5 計 96(54) 38(21) 44(25) 178(100) 正常対照群 20∼29 12(100) 0(0) 0(0) 12 30∼39 2(100) 0(0) 0(0) 2 計 14(100) 0(0) 0(0) 14(100) 表3 年齢とBE BE 年 齢 計 a(%) (%) c(%) d(%) めまい症候群 10∼19 2(33) 3(33) 3(33) 1(11) 9 20∼29 6(35) 3(18) 7(41) 1(6) 17 30∼39 4(22) 11(61) 3(17) 0(0) 18 40∼49 8(27) 10(33) 6(20) 6(20) 30 50∼59 16(35) 22(59) 4(7) 4(7) 46 60∼69 24(64) 17(46) 5(13) 4(11) 37 70∼79 4(25) 8(50) 3(19) 1(6) 16 80∼ 1(20) 2(40) 1(20) 1(20) 5 計 52(29) 76(43) 32(18) 18(10) 178(100) 正常対照群 20∼29 8(67) 4(33) 0(0) 0(0) 12 30∼39 2(100) 0(0) 0(0) 0(0) 2 計 10(71) 4(29) 0(0) 0(0) 14(100) (VB)系の血管障害であった.
2)変性疾患;内訳は脊髄小脳変性症4例
(Menzel型1例, OPCA 2例,晩発性皮質性小脳 萎縮症1例,Holmes型1例), SDS 2例,パーキ ンソン病2例,10H 1例であったが, DIは11例中 10例(90%)C群にみられ,BEも。, d群が50% 以上であった.B℃を示した1例はパーキンソン 病治療中の症例であった. 3)末梢神経障害;内訳はpolyneuropathy 2 例,アルコール性1例,DM性1例,ゲルマニウム中毒1例,癌の・remote effect等による
表4 DIとBE
疾患 DIaEA
B C 計 め a 30 13 9 52 ま b 47 10 19 76 い症 C 12 13 7 32 候 d 7 2 9 18 群 計 96 38 44 178 正 a 10 10 常 b 4 4 対 C 0 照 d 0 群 計 14 0 0 14 表5一① 疾患との関連 疾 患 n DIaEA
B C 脳血管障害 a 11 2(1) 3(1) 55 b 13 5(2) 5(4) (13) C 4(1) 4(1) d 4 1 3(3) 変性疾患 a 11 b 5 C 1 1 d 4 末梢神経障害 a 3 2 7 b 2 C d 耳性めまい a 3 6 b 2 C 1 d 糖尿病* a 1 1 5 b 2 C 1 d ()はVB系,*合併症を伴わない radiculoneuropathy 2例の計7例であるが, DI はC群が4例(57%)であった,BEはa, b群の みであった. 4)耳性めまい;DIはすべてA群であった. 5)糖尿病(合併症を伴わない);A群4例,B 群1例でA群に片寄っていた. 6)不定愁訴症候群;各種の型が認められたが A−a,A−bの割合が23例(58%)を占めている. OD表5一② 疾患との関連 疾 患 n DIaE
A
B C 不定愁訴症候群 a 9 3 1 40 b 14 1 4 (3) C 1 2(1) 2(1) d 1 1(1) 片頭痛 a 1 2 5 b 卿1 C 1 d 失神 a 2 1 15 b 4 2 C 1 2 2 d 1 うつ病 a 1 1 5 b 1 C 1 1 d その他 a 3 1 28 b 11 4 C 4 3 d 2 1 ()はOD は3例と症例が少なかったが,C−c, C・dに片寄る 傾向がみられた.7)片頭痛;DIはややC群に片寄る傾向を認
めた. 8)失神;その臨床症状より,血管迷走神経性失 神6例,起立性低血圧3例,排尿時失神2例,原 因不明4例であった.各種の型が認められたが, 血管迷走神経性失神6例は全例A群に含まれ,他 はB,C群を占めた. 9)うつ病;C群に片寄る傾向を認めた(3/5). 10)その他;内訳は三叉神経痛,低血圧,特発性振戦等であり,ABabの組合せが多くDIのC
群は認められなかった. 5.結果のまとめ DIとBEの変動様式は次の3群に大別された.1)DIがA群でBEがaもしくはb群に属す
るものとして,正常対照群,不定愁訴症候群,耳 性めまい,糖尿病(合併症を伴わない),失神が見 られた.2)DIがC群でBEがaもしくはb群に属す
るものとして,末檜神経障害,片頭痛,うつ病が 見られた.3)DIがC群でBEがcもしくはd群に属す
るものとして,VB系脳血管障害,変性疾患, OD が見られた. 6.症例 次に典型的2症例を提示する. 1)A・a型 健常成人29歳女性の1例を図2に示した.起立 後30秒後にはDI上昇をみとめ,5分後にも上昇 したままであり,BEは3分後には前値以上の上 昇を認めた.A−aと判定. 2)C・d型Wallenberg症候群42歳男性の1例を図3に示
した.起立後30秒後には22%のDI下降を認め,そ 波形へn
且
丑
『L几
臥位 起立30秒 1分後 3分後 5分後 心拍数(/min) g高(mv/v) cl aE 決ウ(mmHg) 68 @4.0 @0,アア U8.0 P04/63 75 @2,8 @0.92 T2.5 PD5/7】 75 @3.3 @0.87 ULg 撃n4/71 75 @3,8 @0,89 V1.2 獅P!76 75 @3.0 @0.85 T6.2 高V/72 図2 A−a型(健康成入.29歳,女性)波 形 /\」、圧
N∫L
/㌔・)∫L ∫\,几 /\,∫L 臥 位 起立30秒 1 分 後 3 分 後 5 分 後 心 拍 数 67 79 81 81 78 波高(rnv/v) 3.2 2.9 1.7 1.4 1.3 Dl α89 0.70 0.58 0.60 0.60 BE 53.6 57.2 34.4 28.3 25.3 血圧(mmH9 103/70 105/82 98/76 98/7b 98〆74 図3 Gd型(Wallenberg症候群,42歳,男性) の後も下降したままであった.BEも徐々に低下 し,5分後には50%以上の低下を認め,C−dと判 定. 考 察 体位変換試験は圧受容体反射を判定する方法の 一つとして古くから施行されておりSchellongの criteriaが広く知られている.しかし,その分類に は時間的経過の概念はない.正常の場合,起立時 には下半身への血液poolingが起こり,静脈還流 の減少により,心拍出量は低下し,血圧は一時的 に下降する.これに対して主として圧受容体神経 反射により,細動脈収縮と心拍出量の増加をきた し,血圧が維持されている. 脈波は,非観血的で患者に侵襲を与えず,連続 的に記録でぎるため,その経時的変化をみるのは 容易である.脈波を起立試験に応用した報告は小 児におけるODI),自律神経失調症2),起立性低血圧 症3)4),脊髄小脳変性症5)等でなされているが,多数 例についての詳細な検討は行われていない. 著者らは,起立脈波所見より,細動脈収縮の程 度を示すDIと,心拍出量の程度としてのBEを 求め,経時的変化に着目して分類を試みた. まず,DIに関して, A群のように即値より上昇 する反応を示すものは,正常反応と考えられる. 正常対照群は,すべてA群のみであり,起立回す みやかに細動脈収縮反応を起こすと考えられ,若 年者では血管収縮良好状態を示しているが,高齢 者においては,血管拡張不全による収縮状態も含 まれてくる可能性がある.B群は,起立後一時細 動脈が強度に拡張するが,5分以内に収縮反応を 起こすもので,A群に比べ反応遅延型が含まれて くる.しかし,一般にDI変動幅は高齢者に小さ く,若年者に大きい傾向が認められ,若年者にお いては正常でもB群を示すことがありうるので, 境界領域と考えた.C群は,血管収縮不全,拡張持 続型で血管反応不良型と見なされる.高齢者では, VB系脳血管障害や変性疾患,末梢神経障害に多 く認められ,器質的疾患により,起立時に十分な 代償がなされない状態を示していると考えられ た.若年者では不定愁訴症候群(特にOD)や片頭 痛,うつ官等に認められた. 次にBEに関しては,心機能からみて, aおよび b群は正常反応,c群は反応軽度低下, d群は反応 低下型と考えられた.年齢および疾患についての あきらかな傾向は得られなかった.これは,教室 の三浦らの報告5)と一致するところであった.ま た,DI, BEのそれぞれの反応低下は,圧受容体お よび求心性線維,中枢,遠心性線維の反射弓のど の部分の障害でも起こり得ると考えられ,その障 害部位を決めることはできない,しかし,DIと BEを組み合わせて考えることにより,その病態 の解明に役立つものと考える. DIとBEの変動様式は以下のように大別された.1.DI, BEともに正常反応(A・a, A・b群)
正常対照群,耳性めまい,糖尿病(合併症を伴 わない)がこの群に含まれたが,これらの疾患で は,圧受容体反射弓に明らかな障害を来していな いと考えられる.不定愁訴症候群では種々の型が
認められたが,ODを除くと正常に近い型が多
かった.加藤ら2)は心臓神経症に起立負荷脈波を 行い,5分後の結果でDI, BEの上昇を認め,血 圧の変動の著しいものほど,DIの増加傾向がみら れたとしており,著者の成績とほぼ一致するものと考えられる.ところが,ODではDI低下BE低
下傾向を示した.寺脇ら1)は小児ODではDIの上 昇を示しており末梢血管抵抗は増したとしてい る.この点,著者の結果と異なるが,近年,田中 ら6)は,その原因を交感神経末端1こおけるnore− pinephrine(NE)分泌不全とする報告をしており, 今回の結果はそのような病態の反映と考えると納 得できる.ODの長期予後7)8)として,神経循環無力 症(NCA),心臓神経症(CN),特発性起立性低血 圧症(10H)への移行が問題とされており今後の 経過観察が必要と考えられる.今回の結果で種々 の型が認められた理由も,その循環動態の様々な 過程や程度によるものと推察される. 失神には様々な原因9)があるが,そのうち最も 多いのは,急激な末梢循環抵抗の消失により生ず る血管迷走神経性失神である.これはすべての年 齢の正常な健康人において,ストレスを生ずる情 動や環境因子により起こることが多い.今回の結 果でもほぼ全員正常型(A−a,A−b)を呈した.ま た,次に多い原因とされる起立性低血圧では,DI はB,C群に含まれ,10H等も含めて器質的疾患 との関連が示唆されうる.排尿失神では膀胱反射, 腹腔内圧の変化,起立性低血圧が関連しておこる とされている.今回の結果では,A−b, B℃を呈し た. 2.1)1反応低下で,BE正常反応(C・a, C・b群) この群には主に末梢神経障害,片頭痛,うつ同 等が含まれた. 末梢神経障害における血管運動神経障害は,ア ミロイド末梢神経障害,糖尿病性末梢神経障害, ポルフィリン症性末梢神経障害,アルコール性末 梢神経障害,Guillain−Barr芭症候群,癌や骨髄腫に よる末梢神経障害等でみられ,その原因について は各々の疾患により異なる10>が,今回の症例は7 例と少なく,様々な原因に=わたっているため,一 概に論ずることはできない.しかし今回の結果で はDIはB群3例, C群4例で反射性細動脈収縮 不全傾向を示した,細動脈の収縮反応を起こす血 管運動神経は主にα受容体を介するα交感系と されていることより,α交感系反応低下を来しや すいと推察される,一方,BEはa, b群のみであ り正常反応であった.すなわち心機能に深い関わ りのあるβ交感系は比較的良く保たれていると 思われた. 片頭痛では原因としてセロトニン説や血管運動 中枢の調節障害を主因とする説等があり,患者は 心理的身体的および種々の外的刺激に対して正常 者よりも過度の血管収縮を起こし,局所的な乏血 状態を呈しやすいが,その反動として過度の血管 拡張を生じる傾向が強いとされているω.教室の 村上ら12)は強度の血管反応を示した片頭痛症例を 報告している.また,近年,後藤ら13)は,片頭痛患 者において,非発作時の血漿NE低値とhead−up tilting後の血漿NE上昇不全の結果を得,交感神 経系機能不全を示唆している.著老の結果,すな わちDIの低下傾向と一致するものと考える. うつ病では,種々の自律神経症状が認められて おり,心血管系障害発生頻度も高く(40∼80%) 起立試験においても過敏反応を示すものや代償不 全反応を示すものが多い14)とされている.また,そ の治療薬の副作用としても起立性低血圧は起こ り,三環系抗うつ剤による発生機序は,中枢性α アドレナリン受容体の刺激が末梢性交感神経活動 を阻止し,血管運動系の緊張を減少させるためと されている.本研究の成績でもDI低下傾向を示 し,血管収縮反応不全であったが,うつ病の病態 に由来するのか抗うつ剤の副作用によるものかは 断定できない. 3.DI, BEともに反応低下(C・c, C−d群)この群にはVB系脳血管障害,および変性疾
患,ODが多く認められた. 脳血管障害では急性期のNE高値15)がいわれて いるが,その急性期(7日以内)すなわちNE高 値の時期に立位30.にてNE反応低下が報告され ている16).島津ら吻も急性期に体位変換試験を行 い,起立時の血圧変化は閉塞性および出血性脳血 管障害両者ともに起立性低血圧の傾向を示し,どちらかというと後者において反応性の低下を示し たとしている.また,3ヵ月まで経過観察し,閉 塞群では歯面にみられた起立性血圧下降が経過と ともに改善傾向を示したが,出血群では反応性の 動揺が強く一定の傾向を認めなかったとしてい る.また,急性期における起立性低血圧は生存群 と死亡群の間に明らかな差がみられ,死亡群では 起立により全例が収縮期圧20mmHg以上の血圧 下降を示したとしており,その生命予後の推察の 可能性を示唆している18).一方,脳血管障害では, 脳循環autoregulationの障害19)∼22)もいわれてい る.特に脳幹部病変およびVBIでも頭部挙上によ り,テント上の脳」血流低下を来しその脳血流 autoregulationの障害が示唆され21),特に下部脳 幹(脳橋)の脳循環autoregurationへの関与が推 察されている19),同報告の中で起立性低血圧のあ るものの方が脳循環autoregulationの障害が著 明であったとしている.今回の症例は慢性期 (attack後1ヵ月以上)がほとんどであったが,明
らかな梗塞のないVBIも含めてVB系脳血管障
害ではDI, BE共に低下傾向を示した.視床下部 から脳幹にかけての心血管反応中枢への直接の障 害や脳血流autoregulationの障害などの関与が 考えられるが,障害部位,病変の種類,その上位 中枢との関係や,時期などの関与については今後 の課題と考えている. SDS, OPCA等における起立性低血圧の責任病 巣は脊髄中間質外側部とされており末梢血管抵抗 の低下を主因とし,進行例では心機能の低下も 伴ってくるとされている23)24>.パーキンソン病で の起立性低血圧発現の責任病巣をGrossら25)は 延髄より上部の自律神経中枢障害とし,Langston ら26)は視床下部後部障害を主とし,Rayputら25>も 交感神経中枢の系統的Lewy小体変性障害と関 連づけている.今回の症例には治療中のものも含 まれており,L−dopa療法での起立性低血圧26)の出 現も加味された可能性もあると思われる.また, 10Hでは, SDS等と同じ疾患概念である多系統 変性症に含まれるとする説24>と,独立した疾患で あるという説があり,Ziegler29), Polinsky30),吉 田ら31)は,仰臥位中のNEの濃度低下と立位負荷 時のNEの上昇不全を報告している.これら変性 疾患において,その進行度,病変部位の広がり等 により,差はあっても,DI, BE共に低下傾向を示 してくることは,うなずけることと思う. 結 語 !.めまい症候群の循環動態の一端を調べる簡 易検査法として起立:負荷指先容積脈波法により DIとBEを組合せ,細動脈の反応性と心機能を併 せて判定する方法を提示した. 2.DI, BEの経時的変化により疾患群を分類す ると次の三群に大別された. 1)末梢血管収縮良好(A)で心機能正常(a,b) である群には,正常対照群,不定愁訴症候群,糖 尿病(合併症を伴わない),耳詰めまい,および失 神が含まれた. 2)末梢血管収縮反応低下(C)しかし心機能は 正常(a,b)である群には,末梢神経障害,片頭 痛,うつ病が含まれた. 3)末梢血管収縮反応の低下(C)と,心機能低 下(c,d)の両者が認められる群には, VB魚脳血 管障害,変性疾患,ODが含まれた. 3.本法により機能的障害(A−a,A−b)と器質的 障害(C−c,Gd)の鑑別の可能性を示唆した. 稿を終わるに臨み,ご懇篤なる御校閲,ご指導をい ただぎました丸山勝一教授ならびに竹宮敏子教授に 深謝申し上げます.また,終始直接ご指導を頂きまし た山口晴子講師,三浦明子講師に感謝申し上げます. 本論文の要旨は第25回日本臨床生理学会総会にお いて発表した. 文 献 /)寺脇 保,川野通昭,豊元実助ほか:OD児の体位 変化による血圧と脈波の態度,Clin Report 11二 11−15, 1970 2)加藤義一,筒井末春,難波経彦ほか:立位負荷に よる指先容積脈波の変動(1).自律神経 9: 97一エ02, 1972 3)加藤義一,筒井末春:起立性低血圧の脈波.自律 宇申経 11 :164一工68, 1974 4)三浦明子:自律神経機能検査に利用した指先客積 脈波法.東女医大誌 51:129−151,1981 5)三浦明子,山口晴子,坂口潤子ほか:自律神経機 能検査法としての指先容積脈波一脊髄小脳変性症 における体位変換試験について一.自律神経18 :12−15, 1981 6)田中英高,竹中義人,小西和孝ほか:小児起立性 調節障害におけるα作動性交換神経活動につい て.自律神経 24:58−63,1987 7)鈴木幸雄,内山 聖:起立性調節障害(0,D,)の 長期予後,自律神経 24:513−517,1987 8)阿部忠良:自律神経失調症としての起立性調節障 害。小児内科 14:481−488,1982 9)Merritt HH:Syncoperメリット神経病学」(椿 忠雄訳),pp481−483,医学書院,東京(1979) 10)宇尾野公義:ニューロパチーと自律神経障害.「宋 梢神経障害のすべて」(亀山正邦編),pp338−347, 南江堂,東京(1977) 11)片山宗一:血管性頭痛.「頭痛」(寺尾栄夫,間中 信也編),pp80−90,現代医療社,東京(1981) 12)村上博彦,田中 徹,三浦明子ほか:末梢血管反 応の著明な充進を示した片頭痛の1例,自律神経 16:245−249, 1979
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