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門脈 : 大循環系短絡路症例に対する短絡路閉鎖術の臨床的検討

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原 著 〔東女医大誌 第64巻 第8号頁612∼619平成6年8月〕

門脈一大循環系短絡路症例に対する短絡路閉鎖術の臨床的検討

東京女子医科大学 消化器病センター 消化器外科学教室(主任      スズ    キ     タカ   フミ      鈴 木  隆 文 羽生富士夫教授) (受付 平成6年4月15日)   Clinical Assessment of Clos量ng Shunt Operation i皿Patients with        aPorto−Systemic Shunt       Takafumi SUZUKl Department of Surgery(Director:Fujio HANYU), Institute of Gastroenterology,        Tokyo Women’s Medical College   Chronic liver and other diseases, have been reported to complicate a giant shunt from the portal vein to other veins in several patients. These patients tended to have severe clin至ca玉 symptoms and hence they had to be treated in various ways, one of which is the closing shunt operatior1. To evaluate the therapetltic effect of this operat圭on, we studied several clinical features in 23 patients operated on and cornpared theln with those of the same patients before the operation. The results showed that there was signlficant improvement in their ICG R15 and the prevalence of recurrent hepatic encephalopathy. These improvements were associated with the degree of hepatic fibrosis in these patients;the milder the hepatic fibrosis, the higher was the rate of improvement. Another advantage of this operations is that by closing the shunt before the hepatic resection, a h童gher success rate was obtained in treatment of hepato−cellular carcinoma patients. The worsening of either esophagea1ρr gastric varices that might be expected from the results of this operatlon can be prevented by additional therap{es, such as an endoscopic intra− venous sclerosis and the accompanying resection of the varlces. Thus, these res司ts indicate that the closing shunt operation is an effective treatment for patients with a porto−systemic shunt.        緒  言  近年,画像診断の進歩によって肝硬変症,門脈 圧充進症などにおける門脈血行動態の解析が可能 となり,門脈血行異常の一つであ.る巨大な門脈大 循環系短絡路を有する症例に関する報告も散見さ れるようになった.慢性肝疾患に伴うこの短絡路 は,肝障害による門脈圧充進を下げるための生体 適応反応の一つと考えられてきた.  しかしながら,われわれはこのような門脈圧二 進状態に対応してできた短絡路において,時問経 過に伴う短絡血流量の増加により脳症および肝機 能異常を引き起こしたと思われる症例を報告し た1).この症例では,短絡路を閉鎖することにより 病態の改善が確認された.この事実に基づき,我々 は巨大門脈大循環系短絡路症例に対しては,積極 的に短絡路閉鎖術を行ってきた.今回,我々はこ のような短絡路閉鎖.術を施行した症例について retrospectiveに分析を加え短絡路閉鎖術の臨床 的意義について検討した.          対象および方法  1.対象  対象は,東京女子医科大学消化器病センターに おいて,1984年11月から1991年3月までの間に門 脈大循環系短絡路閉鎖術を施行した23症例とし た.その内訳は,男性12例,女性1!例であり,年齢分 布は19歳から70歳で平均年齢は55.6歳であった.

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 2.分類  対象とした23例を,短絡路の閉鎖目的,短絡路 の部位,肝組織所見での線維化の程度によって以 下のように分類した上で,解析を行った.なお, 短絡路の閉鎖方法は開腹術によるものが22例,経 皮的門脈塞栓術により閉鎖したものが1例であっ た.  閉鎖目的別の分類では,(1)肝性脳症の改善を 目的に手術が行われたものが8例,(2)短絡路を 合併した肝癌に対して肝切除の適応拡大および安 全性の向上を目的として手術が行われたものが8 例,(3)食道静脈瘤の手術時に同時に短絡路閉鎖 術が行われたものが7例であった.  短絡路の部位に関しては,腹腔動脈造影,もし くは上腸間膜動脈造影の門脈相において描出され

た像により,(a)脾腎静脈短絡路(12例;

52.2%),(b)傍膀静脈短絡路(9例;39.1%), (c)上方系短絡路(傍食道静脈系短絡路)(1例; 4.3%),(d)下方系短絡路(上腸間膜静脈系短絡 路)(1例;4.3%)の4群に分類した2).  肝組織の検討は,術前肝生検,もしくは術中の 切除標本における非腫瘍二二組織を用い,その肝 線維化の程度を,宮崎ら3)の分類に従い次のよう に分類した.(a)軽度線維化群:線維化がないか あってもグリソン鞘周辺のみに認められ,bridg− ing(連結)にいたる線維化の伸びだしがまだわず かであるもの(5例;21.7%),(b)中等度線維化 群:グリソン鞘相互,中心静脈相互,あるいはグ リソン鞘と中心静脈を結びつける線維化の伸びだ しが連結しつつあるがまだ完成していないもの (13例;56.5%),(c)高度線維化群:bridgingの 連結が完成しているもの(5例;21.7%),の3群 に分類した(表1).  3.短絡路閉鎖術施行後ICGR15の変化  短絡路閉鎖術前後の肝機能の変化は術前後の ICG R15からICG R15改善率〔(短絡路閉鎖二値一 閉鎖後値)/短絡路閉鎖二値〕を算出し,①改善率 0∼20%未満の軽度改善群,②改善率20∼39%の 中等度改善群,③改善率40%以上の著明改善群の 3段階に分類し,それぞれについて,(1)短絡経 路の部位,(2)術前ICG R15,(3)肝組織所見と 表1 門脈大循環系短絡路閉鎖症例  (目的別および肝線維化別分類) 肝線維化の程度

閉鎖目的

例数 軽 度 ?ロ化 ?ロ化中等度 ?ロ化高 度 全短絡路閉鎖症例 フ性脳症改善 フ切除適応拡大 H道静脈瘤閉鎖時 ¥防的閉鎖症例 23 W87 5302 13 R64 5221 の関連について検討した.  4.短絡路閉鎖術二二性脳症の改善度  肝性昏睡度分類で1度以上の脳症を有する8例 について脳症改善目的として短絡路閉鎖術を施行 した.ここでは,短絡路閉鎖術後に肝性昏睡分類 における1段階以上の肝性脳症の軽快をもって改 善としたが,さらにその程度により,①軽度改善 (脳症の程度としては改善したが,ときどき肝性脳 症に対する保存的治療が必要であったもの),②中 等度改善(短絡路閉鎖術によってgrade 1程度の 軽い精神症状を残すが治療を特に必要としないも の),「 B著明改善(短絡路閉鎖によって完全な脳症 の消失が得られたもの),の3段階に分類し,(1) 短絡路の部位,(2)術前ICG R15,(3)ICG R15 改善度,(4)肝組織所見との関連について検討し た.  5.短絡路閉鎖術後許容二二除量の変化  門脈大循環系短絡路を合併した肝癌症例に対し て,短絡路閉鎖術を行うことで肝切除の適応拡大 (安全性向上)を目的とした症例は8例であった. 術前のICG R15,および短絡路閉鎖後に再度測定 した閉鎖術後ICG R15の値から許容最大肝切除 量を算出し,実際に施行された術式を検討した. なお,許容最大肝切除量は,許容最大切除量≦ 100× (log 40−log ICG R15)/(2−log ICG R15) の式より算出した4).  6.短絡路閉鎖術による食道静脈瘤の変化  閉鎖術前後での静脈瘤の変化は,内視鏡所見中, 主としてform(F),およびred color sign(RC) の変化を指標として検討した.

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 7.統計処理  統計学的な有意差検定には,Student t検定,κ2 検定を用いp<0.05を有意差ありとした.          結  果  1.短絡路閉鎖術施行によるICG R15の変化 (表2)  短絡路閉鎖術を行うことで術後ICG R15の悪 化した症例はなかった.短絡路閉鎖術前後のICG Rユ5改善率を算出すると,改善率は0%(非改善 例)から53%(平均ICG R15改善率は26%)であ り,改善率が20%未満であった軽度改善症例は11 例,改善率が20∼39%であった中等度改善症例は 6例,改善率40%以上の著明改善を呈したものは 6例であった.  1)短絡路の部位とICG R15改善率の関係  短絡路の部位別にICG R15改善率をみると,脾 腎静脈短絡路系の12例中では改善率が20%未満の 軽度改善であったものは6例(50%),改善率

20∼39%の中等度改善であったものは3例

(25%),改善率が40%以上の著明改善を示したも のは3例(25%)であった.次に傍膀静脈系9例 中ICG R15改善率が20%未満であったものは4 例(44.4%),改善率20∼39%のもの3例(33.3%), 表2 短絡路の部位別ICG R15改善率 ICG R15改善率 短絡血行路 例数 20%未満 20∼39% 40%以上 全短絡路閉鎖症例 B腎静脈短絡路 T腰静脈短絡路 纒綷n短絡路 コ方系短絡路 23 P2 X11 11 U410 63300 63201 40%以上改善したものは2例(22.2%)であった. これらの二三静脈短絡と二野静脈短絡路間では, 短絡路の部位によるICG R15改善率の統計学的 な差はみられなかった.また,1例ずつではある が,上方系短絡路のものでは20%未満の改善率に 対して,下方系短絡路のものでは40%以上の著明 な改善率を示した.  2)術前ICG R15とICG R15改善率との関係 (表3)  術前ICG R15値とICG R15改善率との関係を

検討してみると,表3に示すように,術前ICG

R15が0∼24%群では軽度改善症例2例(40%), 中等度改善症例1例(20%),高度改善症例2例 (40%)であり,術前ICG R1525∼49%群では軽 度改善症例は4例(40%),中等度改善症例は3例 (30%),高度改善症例3例(30%)であった.術 前ICG R15が50%以上の症例では,軽度改善症例 は5例(62.5%),中等度改善症例は2例(25%), 高度改善症例は1例(12.5%)であった.すなわ ち,術前のICG R15値が高値なものでも短絡路閉 鎖術によってICG R15改善率の高い症例がみら れた.  3)肝線維化とICG R15改善率との関係(表4) ‘肝組織所見での線維化の程度別にICG R15の 改善率を比較すると,軽度線維化群の5例中4例 表3 術前ICG R15とICG R15改善率 術前ICG R15 例数 ICG R15改善率 軽度改善 中等度改善 高度改善 0∼24% Q5∼49% T0∼75% 245 ユ32 231 表4 肝線維化の程度とICG R15改善率との関係 ICG R15改善率 肝線維化の程度 (例) 平均改善率 @(%) 20%未満@(例) 20∼39% @(例) 40%以上@(例) 全短絡路閉鎖症例 y度線維化 ?剴x線維化 sx線維化 23 T135 26.1±19.4

@li爺}

11 P55 6060 6420 *p<0.05

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に改善率40%以上の著明な改善を認めた.中等度 線維化群の13例では,ICG R15改善率20%未満の 軽度改善例は5例(38.5%)であり,改善率20% 以上39%以下の中等度改善例は6例(46.2%),さ らにICG R15改善率40%以上と著明に改善した 症例は2例(15.4%)であった.しかし,高度線 維化群の5例では全例ICG R15の改善率は20% 未満と軽度であった.各々の群の平均ICG R15改 善率は,42.8%(軽度線維化群),25.9%(中等度 線維化群),10%(高度線維化群)であり,この3 二間のICG R15改善率には有意差がみられ,線維 化の軽度なものほど改善率が高く,線維化が高度 なものでは改善率が低かった.  2.肝性脳症に対する短絡路閉鎖術の効果 (表5)  肝性脳症の治療を目的とした8症例の術前の肝 性脳症の程度は,肝性脳症分類に従って分類する と,grade 1∼3の範囲でgrade 1は4例, grade 2 は1例,grade 3は2例であった.  短絡路閉鎖術施行により軽度改善例が2例,中 等度改善例が2例,著明改善例が4例と,いずれ の症例においても脳症の改善が認められた.なお, 短絡路閉鎖術後脳症の悪化例は1例もみられな かった.  1)短絡血行路の部位と肝性脳症改善度  短絡路の部位別に脳症の改善度を検討してみる と,脾腎静脈系短絡路4例では著明改善例および 中等度改善例が共に2例(50%)ずつであった.

二月齊静脈系の短絡路では軽度改善例が2例

(66.6%)であり著明改善例は1例(33.3%)であっ た.また下方系短絡路は1例であるが,著明に脳 症の改善をみている.二二が少なく,統計学的な 有意差はみられなかったが,二二静脈系短絡路に 対して閉鎖術を行ったものに比して二二静脈系の 短絡路に対して閉鎖術を行ったものの方が脳症改 善度が高い傾向がみられた.  2)術前ICG R15と肝性脳症改善度(表6)  肝性脳症に対して短絡路閉鎖術を行った8例の 術前ICG R15値は,5∼70%であり,平均43%で あった.術前ICG R15を0∼24%,25∼49%, 50∼75%の3群に分け,それぞれを脳症の改善度 表5 短絡路の部位別肝性脳症改善度 肝性脳症改善度 短絡血行路 例数 軽度改善 中等度改善 著明改善 全短絡路閉鎖症例 8 2 2 4 脾腎静脈短絡 4 0 2 2 傍膀静脈短絡 3 2 0 1 上方系短絡 0 0 0 0 下方系短絡 1 0 o 1 表6 術前ICG R15と肝性脳症改善度

肝性脳症改善度

術前ICG R15 軽度改善 中等度改善 著明改善 0∼24% Q5∼49% T0∼75% 002 110 121 別に比較したが,これらの3群問に偏りはみられ なかった.  3)ICG R15改善度と肝性脳症改善度(表7)  短絡路閉鎖術後のICG R15改善度が低い軽度 改善群では肝性脳症の改善も,術前よりICG R15 の値が正常であった著明改善のユ例以外では,軽 度改善2例,中等度改善1例であった.これに対 して,ICG R15改善度の高い症例では,2例とも 著明に肝性脳症の改善をみた.すなわちICG R15 改善率の高い症例ほど脳症の改善も著しいことが 明らかとなった.  4)線維化と肝性脳症改善度(表8)  軽度線維化を呈した3例は,短絡路閉鎖術後に 著明な脳症の改善を認めており,中等度線維化を 呈した3例では,著明改善が1例,中等度改善が 2例と高い改善度を示した.しかしながら,高度 線維化群のものには,短絡路閉鎖術による中等度 以上の改善を認めたものはなく,軽度の脳症改善 にとどまった.  3.許容肝切除量に及ぼす短絡路閉鎖術の効果 (表9)  肝切除の適応拡大,および安全性の向上を目的 として短絡路閉鎖術を行った症例は,8症例で あった.このうち,実際に腫瘍切除を選択した症

例は,表9の症例1から症例6までの6例であっ

た.

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表7 1CGR15改善度と肝性脳症改善度 ICG R15改善度

肝性脳症改善度

軽度改善 中等度改善 著明改善 軽度改善 ?剴x改善 sx改善 200 110 112 表8 肝線維化の程度と肝性脳症改善度 肝性脳症改善度 肝線維化の程度 例数 軽度改善 中等度改善 著明改善 全短絡路閉鎖症例 y度線維化 ?剴x線維化 sx線維化 8332 2002 2020 4310 表9 肝切除適応拡大(安全性向上)を目的とした短絡路閉鎖症例 症例 年齢 性 短絡路 病理 ?ロ化 短絡路閉鎖前 ¥測許容切除率 ¥測許容切除率短絡路閉鎖後 術  式 1 61 F 傍膀 中等度 50 60.2 区域切除 2 57 F 脾腎 中等度 一36,1 17.4 亜区域切除 3 55

M

脾腎 中等度 一58 12.7 亜区域切除 4 68 F 脾腎 中等度 12.7 39.4 亜区域切除 2カ所 5 70 F 脾腎 中等度 一44,3 一8.6 腫瘍核出術 6 48

M

脾腎 高度 一85,4 一36.1 S5核出術 7 66 F 脾腎 軽度 一43 一43

TAE

8 64

M

傍食道 高度 一33 一33 アルコール局注 切除許容量≦(log 40−10g ICG R15)/(2−log ICG R15)×100, TAE:transcatheter arterial embolization.  短絡血行路の部位は,症例1の傍膀静脈経路, 症例8の傍食道静脈経路以外の6例は脾腎静脈経 路の短絡路であった.  組織所見における肝の線維化の程度では,症例 6,症例8が高度の線維化を示す以外すべて中等 度の線維化を呈していた.  症例1では,術前予測切除許容量は50%であっ たが,短絡路閉鎖術施行後に測定したICG R15か ら算出した切除許容量では,さらに60,2%に増加 し安全に区域切除が行えた.  症例2,症例3は,短絡路閉鎖前の切除許容量、 はそれぞれ一36.1%,一58%と肝切除に対する危 険度がかなり高いと推定された症例であるが,術

中の短絡路閉鎖により各々の切除許容量は

17.4%,12.7%と改善し,亜区域切除が可能と判 断し施行した.  症例5,症例6に関してはそれぞれ切除許容量 が一44.3%から一8.6%,一85.4%から一36.1%と 改善はみられたが,いずれも危険域をでなかった ため,比較的侵襲の少ない腫瘍核出術が選択され た.  症例7,8は,共に短絡路閉鎖術を行っても切 除許容量の増加はみられず,手術以外の治療法が 選択された.  なお,全例選択された治療に対する回復経過は 良好であった.  4.食道静脈瘤に及ぼす短絡路閉鎖術の影響 (表10)  短絡路閉鎖術による食道静脈瘤に対する影響を 検討するため23例全例について閉鎖術施行前後の 食道静脈瘤の変化とその予防治療について検討し た.術前よりF1以上の静脈瘤の合併は16例に認め られた.短絡路閉鎖術を行った23例中,術前,お よび術中に静脈瘤に対する処置を全く行わなかっ たものは3例で,何等かの静脈瘤に対する処置を 行ったものは20例であった.静脈瘤に対する処置 を行わなかった3例のうち2例に悪化を認め,変 化のなかったものは!例であった.その肝組織を 比較してみると,悪化した2例は,中等度および 高度の肝線維化を伴っており,変化のなかった1 例は,軽度線維化を呈していた.  静脈瘤に対する予防的処置は,計20例に行われ

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表10 短絡路閉鎖後食道静脈瘤の変化 肝線維化の程度 短絡路 ツ鎖症例 予防治療の有無@(術  式) 静脈瘤 フ悪化 軽度 中等度 高度 な し

@3

十  2│  1 01 10 10 23   (血行郭清術) @    11 十  1 │ 10 02 07 11 20 @ (食道離断術) @    9 十  〇 黶@ 9 03 04 02 ており,その内訳は,経腹的食道離断術9例,血 行郭清術11例であり,20例中19例には静脈瘤の悪 化はみられなかった.静脈瘤の悪化を認めたのは, 高度線維化を呈するものに対して血行郭清術のみ を行った1例であった.すなわち短絡路閉鎖術に より高度の肝線維化を有する症例では,食道静脈 瘤の増悪を伴う危険性はあるものの,何等かの予 防的処置を行うことで,食道静脈瘤の増悪は防げ ることが明らかとなった.          考  察  肝性脳症の原因の一つとして,門脈大循環系短 絡に起因する脳症がある.これは,1950年に猪瀬 により提唱された,いわゆる猪瀬型脳症に代表さ れる㊦.猪瀬型脳症とは,側副血行路の存在により 有効な肝血流量が低下し,また肝での代謝を受け ない門脈血が下大静脈に直接流入するために発症 する脳症であり,1954年にSherlockにより報告 されたportal systemic encephalopathyとほぼ 同一疾患と考えられている6).その症状は,繰り返 す意識障害,構音障害,手指振戦,歩行障害等の 肝不全時の肝性脳症とほほ二一であるが,短絡路 閉鎖によって可逆性であるという特徴を有してい る.しかしながら,門脈大循環型短絡路を有した 全ての肝性脳症が短絡路閉鎖術を行うことによっ て改善するわけではない.その理由として,短絡 路発生が,先天的な脈管開存,腹部外科手上等に よる腸間膜の癒着などから末期の肝硬変による門 脈圧の上昇に起因するものまでその発生原因の違 いによると考えられている.  近年,画像診断の進歩によって,このような門 脈大循環系短絡路を有する症例の発見が容易とな りその報告例も増加してきたが,閉鎖術の適応に 関する報告はまだ少ない7)8).よって,今回の検討 では,短絡路閉鎖術を施行した23症例に関し,ret− rospectiveに臨床症状,およびICG R15の改善度 を比較し,その治療効果の差をもたらす原因につ いて解析した.  門脈大循環系短絡路はその部位により,(1)傍 月齊静脈系,(2)二二静脈系,(3)上方(二二静脈, 奇静脈)系短絡,(4)下方(腸管膜静脈逆流)短 絡系,(5)その他,に大きく分類されるのが一般 的である2).われわれが今回短絡路閉鎖術を施行 した症例は,二三静脈系34.8%,丁丁静脈系34.8% の両者が多く,上方短絡系4.3%,下方短絡系4.3% であった.これは1991年度厚生省特定疾患治療委 員会・の集計(二二静脈系62.3%,二二静脈系 15.2%,上方短絡系8.6%,下方短絡系4.3%,n= 162)に比べ,やや二三静脈系短絡路の比率が高 かった.  統計学的には,症例数の関係から短絡路と改善 度との有意な関係はみられなかったが,下方系短 絡路のように腸管からの血流を多く短絡する可能 性のある血行路に脳症の著しい改善が認められる 傾向があった.  また,術前のICG R15と, ICG R15改善率,お よび肝性脳症改善度の比較では,術前ICG R15の かなり悪い症例でも短絡路閉鎖術によって肝性脳 症の改善が期待できるという結果であった.この 事実は,これまでその臨床症状とアンモニア値, ICG R15値により末期肝硬変による脳症として扱 われてきた症例のなかにも,短絡路閉鎖術を行う ことで,臨床症状が改善する可能性がある症例が 存在することを示している.  次に,肝の線維化の程度とICG R15改善率,お よび肝性脳症の改善度を比較したところ,肝組織 の線維化の程度の軽いもので,脳症の改善程度が よい傾向がみられた.すなわち,門脈大循環系短 絡路を合併した肝疾患症例では,肝の線維化,な らびに血流の短絡という個々の独立した要因によ るのではなく,両者が相互に作用しあって症状を 発現するということを示している.すなわち,肝 硬変の程度の軽い門脈大循環系短絡症例ならば, 短絡路閉鎖術を行うことで著明なquality of life

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の改善が期待できると考えられる.  短絡路閉鎖術の効果が肝線維化の程度によって も規定されている理由は,一つには,単に術前 ICG R15がみかけ上のみ悪かったことも考えられ るが,短絡路閉鎖後に,アルブミン,コリンエス テラーゼ置旧の上昇がみられる症例もあることか ら,短絡路閉鎖術によって,門脈血の増加に伴い 肝臓全体の仕事量が回復したと考えられる.例え ば,肝め線維化の軽度な症例において,側副血行 路を合併した場合,この短絡路は,当初,若干上 がった門脈圧を正常に戻すためにできたはずであ るが,肝への血液流入抵抗よりも,ここから大循 環系へ流れる抵抗が低いために,短絡血流量が次 第に増加することで短絡路自体が大きくなったと 考えられる.これにより,実質的な肝への門脈血 流量が減少し,ICG R15の上昇をはじめ脳症等 様々な臨床症状を呈したが,短絡路を閉鎖するこ とによってこれらが改善するということは,短絡 路閉鎖により肝臓への血流量が増加し肝の絶対的 な仕事量が増えたといえる.この典型例として, 上腸問膜静脈 下大静脈短絡により脳症を発症し た症例を以前報告した1).この症例は,術前に施行 した上弓間膜動脈からの門脈造影では肝内の門脈 は全く造影されず,下大静脈に向かう短絡路が造 影され,門脈本幹の血流は,超音波ドップラー法 による測定では,術前には遠肝性の血流を示して いた.しかし,短絡路閉鎖術によって術後臨床症 状,および肝機能検査成績の改善を認め,8カ月 後に行った門脈造影にても側副血行路の再発はみ られず,肝内門脈は鮮やかに造影され,血流方向 も求肝性に変化した.しかし,今回の結果でも示 されるように,短絡路を閉鎖することで肝への流 入血流量の増加が期待できるものは,それだけ肝 臓自体に受容力がなくてはならない.  最近,われわれは,肝切除の際に術中門脈圧測 定を行い,肝切除術式決定の参考としているが, その結果の一つとして,肝の線維化の軽い場合に は,一側の門脈枝を遮断しても門脈本幹の圧の上

昇はほとんどみられないという結果を得てい

る9>.  一方,完全に肝硬変が完成し,たとえ門脈血の 流入量を増加させても,また他の側副血行路が生 じてしまうような症例の場合は,当然仕事量の増 加は期待できない.その受容力を見極めることが, すなわち短絡路閉鎖術の適応を決定することであ り,その一番の指標となるものが,先に述べた肝 の線維化の程度と考えられる.  またわれわれは,肝切除を行うにあたって,各 種生化学検査の中でも術後残響機能予測にICG R15が最も重要であると考えているが,術前ICG R15の悪い症例のなかで,側副血行路を有する症 例に対し肝切除の適応拡大を目的としての短絡路 閉鎖術を行い,良好な結果を得ることができた10>. この場合も,単にみかけ上のICG R15の改善のみ でなく,同様に残存肝の再生に対して肝への流入 血流量の増加が,大きな役割をはたしているから と考えられる.  一方,短絡路閉鎖術において最も注意しなけれ ばいけないことは,門脈圧の上昇である.多少で も線維化のある肝臓に,逃げていた血流を戻すた め,一過性であっても門脈圧の上昇を考慮しなけ ればならない.この際に,一番問題となることが 他の側副血行路,特に食道静脈瘤の悪化および新 生である.今回の検討では,線維化の軽いもので は比較的静脈瘤の悪化傾向は低かったが,短絡路 閉鎖術に前後して,何等かの予防および治療は必 要であると考えられる.方法としては,上腹部の 手術である脾腎静脈短絡路の場合は,短絡路閉鎖 術の際に,同時に脾摘血行郭清等の処置が行われ ることが理想である.しかしながら,同時に行う ことに危険性がある場合や短絡路の位置が離れて いる場合は,内視鏡的硬化療法も有用であると思 われ,今後検討すべき問題の一つであろう.

        結  語

 東京女子医大消化器病センターにおいて,短絡 路閉鎖術を施行した23症例を肝硬変の程度によっ て3群に分類し,臨床症状を中心にretrospective に検討し次の結果を得た.  1.短絡路閉鎖術後のICG R15の改善,および 脳症の改善は肝の線維化の程度によって規定さ れ,線維化の程度の軽いものほど改善率が高かっ た.

(8)

 2.門脈大循環系短絡路を有する肝硬変合併肝 癌に対しても,短絡路閉鎖術を同時に行うことに よって肝切除の適応拡大および安全性の向上が可 能であった.  3.短絡路閉鎖術の合併症として食道静脈瘤の 悪化が懸念されるが,これは合併治療によって予 防可能であると考えられた.  稿を終えるに当たり,御指導,御校閲を賜りました 羽生富士夫主任教授に深甚なる謝意を表します.ま た,直接御指導,御教授を戴きました高崎健助教授な らびに肝グループ各位に深謝いたします.  なお,本論文の要旨は,厚生省特定疾患門脈血行異 常症調査研究班,平成3年度総会(平成3年12月4日, 東京)において発表した。       文  献  1)鈴木隆文,高崎 健,済陽高穂=門脈本幹逆流を    呈した門脈大循環系短絡による肝性脳症症例の1    治験例.肝臓 32二730−734,1991  2)厚生省特定疾患“門脈血行異常症”調査研究班治    療委員会:巨大門脈大循環短絡症例の治療成績に   関するアンケート調査報告.平成3年度研究報告   書:228−239,1991 3)宮崎正二郎:肝切除に伴う肝再生に関与する因子   の解析.日消外会誌 26:815−823,1993 4)高崎 健:肝硬変併存肝癌の切除術式の選択基   準.日外会誌 19(9):1881−1889,1986 5)猪瀬 正:肝脳変性疾患の1特殊型.精神経誌   51:245−270, 1950 6)Sherlock S, Summerskill WHJ, White L et al:   Portal−systemic encephalopathy, neurologicaI   complications of Iiver disease. Lancet 4:   453−457, 1954 7)広田俊子,大野尚文,日野俊子:上腸肝膜静脈一下   大静脈短絡による猪瀬型肝性脳症の1例.肝胆膵   10(4) :649−654, 1985 8)馬庭宣隆,丸林誠二,八幡 浩:巨大な上腸肝膜   静脈一下大静脈短絡による猪瀬型肝性脳症の1手   術治験例.日消外会誌 23(3):777−781,1990 9)中上哲雄,高崎 健,次田 正:門脈右枝血行遮   断後に門脈膀部の著明な血流増加を確認し得た肝   細胞癌の1切除例.肝臓 32(3):155,1991 10)大坪毅人,高崎 健,武藤晴臣:門脈大循環シャ   ントを伴った肝硬変合併肝細胞癌の2治験例.肝   臓31(3):342−345,1990

参照

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