• 検索結果がありません。

雑誌名 同志社大学ワールドワイドビジネスレビュー

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "雑誌名 同志社大学ワールドワイドビジネスレビュー"

Copied!
18
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

EUにおける反汚職(anti‑corruption)

著者 山本 直

雑誌名 同志社大学ワールドワイドビジネスレビュー

巻 3

号 2

ページ 80‑96

発行年 2002‑03‑31

権利 同志社大学ワールドワイドビジネス研究センター

URL http://doi.org/10.14988/re.2017.0000015850

(2)

〈研究ノート〉

EU における反汚職(anti-corruption)

山 本 直

(同志社大学大学院法学研究科)

は じ め に

1990年代以降,国際レベルにおける汚職防止の動きが顕著となっている。96年12月には国 連総会が,国際的な商取引における「汚職,賄賂およびそれに関連する不正な実践の全形態」

に加盟国が一致して対抗するための国連宣言を採択し

1

た。翌年11月には,経済協力開発機構

(OECD)加盟国が外国の公務員への賄賂防止を目的とする規約(「外国人公務員贈賄防止規 約」)を採択し,99年2月に発効している。地域レベルでは,96年3月に米州機構(OAS)が

「汚職に対抗する米州規約」を採択し翌年3月に発効した。また,欧州審議会(Council of

Europe)では,汚職に関する刑事法規約と民事法規約の署名が開始され,刑事法規約は2002

年7月に発効する予定であ

2

る。

贈賄と収賄の双方を含む汚職防止へのこうした動きは,複合的な要因に負っている。すなわ ち,多国籍企業の増加,脱国境的な経済活動の進展,および情報・運輸技術の発達が,政・官

・業が国境を越えて癒着する機会を新たに提供したといえるであろ

3

う。

では,欧州の15ヵ国が加盟する欧州同盟(EU)においては汚職防止の取組みがどの程度ま で進んでいるのであろうか。EUでは,共同市場の形成,単一通貨ユーロの導入および人の移 動の自由化を含む政策領域の拡大がみられてきた。また,欧州共同体(EC)の予算規模は,93 年の700億ユーロから2002年の980億ユーロへと増額傾向にある。こうした状況下では,EC の財政に対する,あるいは政治的取引等のさまざまな局面における汚職の可能性が高まること にな

4

る。EUレベルにおいて汚職を防止しようとする機運が生じたのは,いわば必然的な結果 であった。

EUは,他方において,先進諸国や世界銀行とともに,開発援助国における汚職の問題にも 厳しい目を向けるようになっている。その背景としては,東西対立の終結が「国家の安全保障 上の理由から腐敗した体制を支援する必要」を除去させたこと

5

や,いわゆる「援助疲れ」が双 方の当事者にとって不利益であると認識されたことが挙げられよう。

このような関心から,本稿では第1に,EUにおける汚職防止の取組みについて,さらに第 2に,開発援助国を含む域外諸国との関係における汚職問題の位置づけの変化について考察を 試みる。とはいえ,これらの動きは開始されたばかりであり,具体的な評価を行なうのは困難

(3)

である。したがって,汚職の防止を政治規範の観点から捉え,その規範が加盟国間においてい かに共有されつつあるのか概観することを目的としたい。

Ⅰ 汚職防止の胎動

1.汚職の防止と不正の防止

EUの政策課題としての汚職の防止は,不正(fraud)の問題,つまりEC財政に損害を与え る詐欺的行為をいかに防止するかという問題に付随して提起された。たとえば,汚職防止の必 要性を指摘した文書として1994年12月6日に司法・内務協力理事

6

会が採択した「共同体の財 政利益の法的保護に関する決議」があるが,この決議の焦点はEC財政に対する不正の防止で あり,ECの公務員による贈収賄の防止は補完的に言及されるにすぎなかっ

7

た。

EUにおける優先課題が汚職ではなく不正の防止にあったことは,司法・内務協力理事会が 準備した加盟国間条約の内容にも反映された。95年7月26日には,EC財政に対する不正防 止を目的とする「共同体の財政利益の保護に関する規約」(以下,不正防止規約とす

8

る)が採 択されていた。汚職についての初めての条約は,翌年9月27日にこの規約の議定書という形 で,すなわち「共同体の財政利益の保護に関する規約への議定書」(以下,不正防止規約議定

9

書)として採択されたのである。

前文と13の条文からなる不正防止規約の特徴について以下,言及しておきたい。その第1 は,不正の用語が,EC財政の支出および収入の両面から定義されたことである。EC財政の 支出においては「不正確,不適当あるいは不完全な言明を行なうかもしくは書類を提出するこ とにより,共同体一般予算あるいは共同体により運営されるか代表される予算からの資金を着 服もしくは不当に所持するもの」,「特定の義務である情報開示を行なわないことによりこれと 同様の結果をもたらすもの」および「そのような資金を当初に認められた目的とは異なるもの に使用すること」とされ,またその収入においては,「不正確,不適当あるいは不完全な言明 を行なうかもしくは書類を提出することにより,共同体一般予算あるいは共同体により運営さ れるか代表される予算からの資金を不当に縮小するもの」,「特定の義務である情報開示を行な わないことによりこれと同様の結果をもたらすもの」および「正当に得た利潤を横領すること によりこれと同様の結果をもたらすもの」とされたのであ

10

る。第2の特徴は,こうして定義さ れる不正が各加盟国において犯罪とさ

11

れ,かつ,とくに5万ECUを超える規模の不正が「重 大な不正」として位置づけられたことであ

12

る。第3には,民間企業に従事する者が不正を行な った場合に当該企業の首脳らが刑事責任を問われなければならないと規定されたことが挙げら れ

13

る。

この不正防止規約の適用と解釈に関する加盟国間および加盟国・欧州委員会間の紛争は,欧 州司法裁判所に付託される。また,属地原則をはじめとする裁判権,不正行為者の引渡し,あ

(4)

る不正に2ヵ国以上の加盟国が関わった場合の当該国間協力,一事不再理の原則および新規 EU加盟国による加入の手続き等が規定されてい

14

る。

つまり,この規約に基づいて加盟国は,EC財政に損害を与えた不正行為者を処罰する義務 を負うことになったといえる。もっとも,イタリアが批准していないため,この規約は2002 年5月時点において未発効である。

EC財政に対する不正は,共通農業政策が導入された60年代からその存在が指摘されてい

15

た。健全な会計経理の確保を目的に77年に設立された欧州会計検査院もまた,会計監査によ る不正の摘発に限界があることを翌年の第1回報告において認めていたのであ

16

る。これに対 し,行為としての汚職は不正に比して価値観や文化の問題を多く含みうるものであり,また,

ネルケンとレビ(D. Nelken=M. Levi)が,イギリスにおいては国家議会による統制型が,イ タリアにおいては積極司法型が,あるいはドイツでは官僚主導型が発達してきたとしたよう に,加盟国によりチェック・アンド・バランスの様式もさまざまであっ

17

た。さらに,北欧を中 心とする一部関係者の「腐敗した南欧諸国」という偏見とこれに対する南欧出身者の反発が存 在すること

18

は,EUにおける汚職防止の取組みへの障害となってきた。これらの背景から,汚 職の定義とその主体,汚職に対するEUの管轄権の範囲および不正の行為との関係等の課題は 多く,EUレベルにおける取組みは容易ではなかったのである。

EC財政に損害を与える汚職の問題は,当初,不正の問題とともに,不正防止規約において 対応すべく司法・内務協力理事会の審議事項となっていた。しかし,同理事会の審議では進展 がみられず,95年上半期の理事会議長国であったフランスが,汚職の問題をこの規約では扱 わないことを決定したのであ

19

る。

2. 951215日の欧州議会決議

95年12月15日に欧州議会は,「欧州における汚職との闘いについての決

20

議」を採択した。

この決議は,欧州議会の院内委員会である「市民的自由と域内問題に関する委員会」(名称は 当時)の報告担当委員であったサリシュ(Heinke Salisch・欧州社会党・ドイツ)の報告に基 づき採択されたものであり,EUにおける汚職防止の取組みへ提言となった。

この決議は,EUにおいて包括的な汚職防止政策が導入されることを要請している。まず,

司法・内務協力理事会に対しては,加盟国に一般的な防止措置をとらせるよう勧告し,公的地 位にある人物の贈収賄を犯罪とみなせるよう努めることも求めている。欧州委員会に対して は,域内市場の機能についてのEC設立条約3条(現行3条),競争の確保についての85条

(同81条)および加盟国の法律の接近についての100条(同94条)の各規定を根拠に汚職の 防止を強化し,さらに,EC財政に明白な損害をもたらした法人および自然人の名称等を共同 体官報誌上にて公開すべきとした。会計検査院については,加盟国の監査機関との役割調整が 不可欠とし,また,検査院への照会は第1の柱である共同体事項に加え,第2の柱である共通

(5)

外交・安全保障政策と第3の柱である司法・内務協力においても可能となるよう改革すべきと した。欧州議会については,諸利益が競合することを避けるための議員の民間活動に関する規 則を定める決意を表明してい

21

る。

この決議では,加盟国とその国内議会に対しても取組みへの要請がなされている。加盟国に 対しては,公的人物による収賄行為を犯罪とみなし,汚職の温床となりうる国内税制を廃止 し,政党助成の透明化およびその使途の明瞭化をはかり,また腐敗した人物を公共事業契約か ら排除すべきとした。国内議会には,汚職問題について活発な討議を行ない,議会間における 相互協力を強化するよう要請しているのであ

22

る。

このような内容をもつ欧州議会決議が,95年7月の理事会議長国スペインによる不正防止 規約議定書の起草提案ととも

23

に,EUにより汚職防止が取組まれる契機となったといえよう。

96年10月には司法・内務協力理事会が,当該分野における優先的な政策課題として「共同体 の財政利益に損害を与える汚職および不正との闘い」を「組織犯罪と麻薬との闘い」および

「移民と難民についての協力」等と並び掲げることとなったのであ

24

る。

EU

における汚職防止の取組み

1.汚職防止策への着手

不正防止規約が採択された95年7月,理事会議長国のスペインは,EC財政に損害を与え る汚職を防止するための議定書を作成するよう提案し

25

た。この提案にしたがい,不正防止規約 議定書が96年9月27日の司法・内務協力理事会において採択された。さらに,同96年3月 には議長国イタリアが,EC財政に限定されないより一般的な汚職の防止を目指した規約の作 成を提案し

26

た。この提案は,97年5月26日の「欧州共同体あるいはEU加盟国の公務員が関 与する汚職との闘いについての規約」(以下,汚職防止規

27

約)の採択に結実することとなった。

(1)96年9月27日の不正防止規約議定書

前者の不正防止規約議定書の議定書の法的枠組は不正防止規約と同様であり,次のような内 容である。まず,第1条から第3条では,加盟国が,ECおよび加盟国の公務員によるEC財 政に損害を与える汚職を犯罪とすることを義務づけている。なお,ここでいう汚職は,収賄と しての意味合いをもつ「消極的汚職」と贈賄としての「積極的汚職」とに類型化されたもので あ

28

り,公務員の中にはEU諸機関の構成員は含まれな

29

い。

第4条では,加盟国の法律がその閣僚,国会議員,最上位の国家裁判所および会計監査機関 の構成員が関わる消極的汚職および積極的汚職を犯罪とみなしている場合には,欧州委員会,

欧州議会,欧州司法裁判所および欧州会計検査院の構成員による同様の汚職も犯罪とみなすこ とを義務づけている。

第5条では,加盟国が,ECと加盟国の公務員による汚職を効果的,比例的および制止的な

(6)

刑事罰に処し,また,重大な汚職の場合にはその人物を罷免し引渡しを可能とすべきとしてい る。

第6条は,加盟国の裁判権の設定に関してであり,(a)犯罪がその領域内で行なわれた場 合,(b)犯罪者がその国民か公務員である場合,(c)犯罪がECあるいは加盟国の公務員か,

もしくは欧州委員会,欧州議会,欧州司法裁判所および欧州会計検査院の構成員であるその国 民に対して行なわれた場合,(d)犯罪者がEC機関かEC設立条約に基づき設置されかつその 国家内に本部のある機関の公務員である場合に加盟国の裁判権が設定される。ただし,(b),

(c)および(d)については,この議定書の批准時における宣言をもって留保できることが加 盟国に認められている。

第7条は,不正防止規約の一部規定が適用されることを定める。すなわち,ECと加盟国の 公務員による消極的汚職および積極的汚職ならびに第4条において言及される汚職が犯罪とさ れている場合,(1)企業関係者がEC財政に損害を与える汚職を行なったのであれば,当該企 業の首脳らが刑事責任を問われるための必要な措置を講じる,(2)その領域外で汚職に関与し た国民を引渡さない加盟国は,必要な措置を講じて裁判権を設定する,(3)ある汚職事件に複 数の加盟国が関わっている場合,当該国は,相互の法的支援,引渡しあるいは相手国において 下された判決の執行の手段を通じて効果的に調査,起訴および処罰できるよう協力する。さら に,一事不再理の原則およびこの議定書に基づいて改定した国内法を欧州委員会に伝達するこ と等が確認されている。

第8条では,この議定書の解釈や適用をめぐる加盟国間の紛争は,まず理事会の場で解決が 図られ,6ヵ月以内に解決しない場合には当事国により欧州司法裁判所へと付託できるとす る。また,加盟国・欧州委員会間の争いも最終的には司法裁判所に付託できるとしている。

第9条では,理事会の事務局長に対して全ての加盟国の批准が通知された90日後に議定書 が発効するものの,不正防止規約が未発効である場合にはその発効日に合わせると規定する。

第10条では,新規加盟国がこの議定書に加入しうること等が規定されている。第11条では,

留保は第6条が定めるものが唯一であるが,受託者である理事会の事務局長への通知により加 盟国はその留保を撤回できるとする。第12条では,議定書の受託者を理事会の事務局長と し,彼が加盟国の批准や留保の状況を共同体官報誌上にて公表する手続きを取ると定める。

不正防止規約議定書は,このように,主にECと加盟国の公務員の汚職によりEC財政が損 害を被ることを防止するためのものである。また,彼ら公務員の汚職に関わったEU諸機関の 構成員の処遇について言及されてたことは特筆されるべきであろう。

(2)97年5月26日の汚職防止規約

次に汚職防止規約についてみていきたい。この規約は,EUにおいて採択された条約として その表題に初めて汚職の語を含んでいるものの,加盟国がECおよび加盟国の公務員が関わる 汚職を対象としている点では不正防止規約議定書と同様である。とはいえ,汚職防止規約にお

(7)

いて定義される消極的汚職と積極的汚職は,EC財政に損害を与える汚職に限定されていな

30

い。この規約の当事者である加盟国が前文において「汚職との闘いに際して司法協力を強化す ることが共通の利益にかなうと考える」とし,さらに「司法協力の強化のために,前の議定書 以上のものを目指して・・・この規約を作成する必要があった」と述べられているように,こ の規約の目的はEUにおけるより一般的な汚職を防止するところにあるのである。

汚職防止規約の起草および採択過程において欧州議会は,通常の汚職に加えその支援,教 唆,扇動および未遂も刑事罰の対象とし,また,各加盟国において汚職犯罪の対象となるEU 機関構成員のリスト(本節(1)参照)にEUオンブズマンを加えるべきであると提案し

31

た。

司法・内務協力理事会はこれらの提案を採用しなかったため,汚職防止規約の法的な枠組みも 不正防止規約と類似したものとなったが,少なくとも以下に挙げる諸点は汚職防止規約におけ る重要な特徴として指摘できよう。

第1は,欧州司法裁判所の先行判決制度が導入されたことである。すなわち,加盟国の裁判 所は,ECおよび加盟国の公務員の定義(第1条),消極的汚職(第2条),積極的汚職(第3 条),EC諸機関構成員による汚職の犯罪(第4条),司法裁判所の関与(第12条),規約の発 効(第13条),新規加盟国による規約への加入(第14条),留保(第15条),批准書の寄託

(第16条)の各規定の解釈をめぐる問題で,かつEC諸機関の構成員あるいは公務員が関わる 事項について司法裁判所が先行判決を下すよう求めることができるとし

32

た。ただし,司法裁判 所の先行判決についてはイギリスが抵抗したため,宣言を行なった加盟国のみが先行判決手続 きを認めるというオプトイン方式が採用されることとなっ

33

た。

第2は,司法裁判所の関与を含む一部規定は除外されるものの,批准をすませた加盟国にお ける先行適用の実施が認められたことであ

34

る。汚職防止規約はドイツ,イタリア,アイルラン ドおよびルクセンブルクの4ヵ国により批准されておらず未発効であるが,フィンランド

(1998年12月),スウェーデン(99年6月),イギリス(同10月),オーストリア,スペイン

(以上2000年1月),フランス(同8月),デンマーク(同10月),ギリシャ(2001年4月), ポルトガル(同12月),ベルギーおよびオランダ(以上2002年3月)がすでに批准書の寄託 をすませてい

35

る。この11ヵ国中,スウェーデンとオーストリアが2000年5月に先行適用を受 入れ,翌01年1月にはデンマークがこれに加わった。現在では以上の3ヵ国において規約の 適用が先行的に実施されてい

36

る。

第3は,98年12月に逐条コメンタリーを備える解説リポートが司法・内務協力理事会によ って承認されたことであ

37

る。これにしたがい,条文の意味内容が明瞭となった。たとえば,消 極的汚職により利益を得る者の範囲は,ECおよび加盟国の公務員自身に加え,その配偶者,

パートナー,親友,政党およびその他の組織を含むとされた。あるいは,汚職がもたらす利益 の範囲に関しては,金銭,貴重品,さまざまな形態の財産等の物質的なものに加え,汚職行為 者の借金の取消しや所有不動産の処理が含まれることになったのであ

38

る。また,EC公務員に

(8)

は,「EC公務員規程」が定める公務員に加え,以下の機関に勤務する職員も含まれた。欧州 海外協力庁,欧州投資銀行,欧州職業訓練開発センター,欧州生活・労働条件改善基金,在フ ィレンツェ欧州大学研究所,欧州投資基金,欧州環境庁,欧州訓練基金,欧州麻薬監視センタ ー,欧州医薬品評価庁,欧州職場安全・衛生庁,域内市場(商標・意匠)調整局,欧州中央銀 行,共同体植物品種局,EU関係機関翻訳センターおよび欧州人種主義・外国人排斥監視セン ターの職員がこれに該当す

39

る。

このように汚職防止規約は,司法裁判所の先行判決を導入し,規約の先行適用を認め,ある いは解説リポートの承認による条文の明瞭化を図るものであった。しかし,この規約の画期性 は,何よりも,加盟国が一般的な汚職の防止を共有すべき政治規範として位置づけた点にある といえるであろう。

2. EC財政に損害を与える汚職の防止措置

EUでは,EC財政に損害を与える汚職への取組みとして,さらにいくつかの措置がとられ るようになった。すなわち,不正防止規約の第2議定書の採択,欧州不正防止局の発足,およ び「ユーロジャスト」の設立がそれである。

(1)不正防止規約の第2議定書

不正防止規約の第2議定書は,国家政府や公的機関を除いた法人による不正,積極的汚職お よび資金洗浄の防止を目的として,97年6月19日に司法・内務協力理事会により採択され

40

た。不正と積極的汚職は,それぞれ,不正防止規約とその議定書において定義される行為を指 す。資金洗浄とは,91年6月10日の「資金洗浄を目的とした財政システムの活用の防止に関 する理事会指令」(91/308/EEC)第1条において定義される行為のことであ

41

る。

この第2議定書における汚職の防止に関しては,積極的汚職が焦点となっている。各加盟国 は,必要な措置を講じることにより不正,積極的汚職および資金洗浄に関与した法人の責任を 問い,さらに公的支援資格の奪,商業活動の一時的あるいは恒久的停止,司法監査および解 散命令を含む刑事上あるいはその他の制裁を実施する義務を負うのであ

42

る。また,ある法人に よる監督あるいは管理の欠如がその権威下にある人物による不正,積極的汚職および資金洗浄 を可能とした場合には,その法人の責任を問い一定の制裁を科するか措置をとる義務を負うと され

43

る。

第2議定書は,消極的汚職にも言及している。すなわち,加盟国は,必要な措置を講じるこ とにより不正,積極的汚職,消極的汚職および資金洗浄の手段と収益とを差し押さえ,また善 意の第三者の諸権利を害することなくそれらを没収あるいは除去できるようにする義務を負

44

う。加盟国と欧州委員会は,不正,積極的汚職,消極的汚職および資金洗浄の防止に向けて相 互協力を行なう。欧州委員会は,さらに,加盟国の管轄機関間で調整が必要とされる場合に は,技術上および実践上の支援を行なわなければならないのであ

45

る。

(9)

欧州委員会と加盟国の管轄機関の間においては情報の交換が認められており,その場合は委 員会が個人データの保護に責任を負

46

う。司法裁判所には,この責任に委員会が違反した疑いの ある場合の裁判権が付与されてい

47

る。

(2)欧州不正防止局(OLAF)

欧州委員会は,EC財政に損害を与える汚職や不正を広範に調査するため,99年5月に欧州 不正防止局(European Anti-Fraud Office, L’Office européen de lutte antifraude : OLAF)を発足さ せ

48

た。88年に組織された不正防止調整部門(Unit for the Coordination of Fraud Prevention, Unité de co-ordination de la lutte antifraude : UNCLAF)がその前身であ

49

る。

不正防止局の調査権限は,欧州議会および理事会が採択した規則(EC, No. 1073/

50

99)に定め られているように,EC財政に損害を与える不正,汚職およびその他のいかなる不当な活動に 関しても独立的なものである。調査には外部調査と内部調査とがあり,外部調査は,加盟国国 内において,あるいは協力協定に基づき第三国においてもなされる。内部調査は,EUの諸条 約に基づき設立された機関,団体,事務所および官庁に対するものであ

51

る。なお,外部調査は 防止局長官の提案か加盟国の要請に基づき,また内部調査は長官の提案か機関等の要請に基づ き,それぞれ長官によって開始が決定され

52

る。

不正防止局の長官が任命される手続きは次の通りである。まず欧州委員会が,欧州議会,理 事会および欧州委員会の共通の合意によって任命された5名により構成される監督委員会

(Supervisiory Committee)の意見を受けた後,候補者リストを作成する。このリストに基づい て欧州議会および理事会と協議した後,欧州委員会により任命されるのである。初代長官に は,ボスニア・ヘルツェゴビナ上級代表事務所の不正防止局の長官としての実績をもつドイツ 人のブルーナー(F-H. Bruner)氏が就任した。任期は5年である。

なお,監督委員会は,長官の任命手続きに関わる以外にも,調査機能を定期的に監視するこ とにより不正防止局の独立性を強化する役割を担う。監督委員会の構成員は3年の任期であ り,一回の再任が可能であ

53

る。防止局の職員数は2001年6月現在,常任が145名,非常勤が 38名の計183名であり,最終的には300名となる予定であ

54

る。

2001年の活動報告によれば,不正防止局は,中・東欧諸国への援助プログラムであるPHARE の融資において汚職の疑いがあるという申立てを受け,第三国であるスロバキア国内の状況を 調査してい

55

る。不正防止規約議定書と汚職防止規約が未発効であることから汚職については本 格的な調査はできないと思われるが,その一方で不正行為については積極的に調査が進められ ている。スペインの汚職防止特別訴追局Fiscalía Especial Anti-Corruptiónと協働のうえ,ECに より買い支えられている亜麻の生産量が過剰申告されていた点を明らかにしたのはこの例であ

56

る。

(3)ユーロジャスト(Eurojust)

司法・内務協力理事会は,2002年2月28日に「重大な犯罪との闘いを強化するためにユー

(10)

ロジャストを設立する決

57

定」を採択した。

EUレベルにおける検察機関であるユーロジャストは,この決定によれば次の3つの目的を もつ。第1は,加盟国の管轄機関間における司法協力を後押しすることである。すなわち,

(a)加盟国の管轄機関の要請およびEUの諸条約に基づく正当な機関の情報提供を考慮しつ つ,調査や起訴についての管轄機関間の調整を促進し,(b)管轄機関間の協力を改善すること により相互の法的支援と引渡しとを推進し,(c)管轄機関による調査と起訴が効率的に実施さ れるよう支援する。第2は,加盟国の管轄機関の要請に基づいて当該国と第三国に関する調査 および起訴を支援することである。第3は,加盟国の管轄機関か欧州委員会の要請にしたがい 当該国およびECに関する調査や起訴を支援することであ

58

る。

ユーロジャストは,加盟国が各1名を派遣する検察官,裁判官あるいは警察事務官によって 構成され,各構成員がそれぞれ1名の補佐を受ける。また,一定の手続きを経れば,複数の人 員による補佐が可能であ

59

る。本部は暫定的にオランダのハーグとされている。

このような特徴をもつユーロジャストにおいて,「共同体の財政に損害を与える汚職」が不 正やその他の犯罪とともに対象犯罪リストに含められることになった。犯罪リストには,さら に,95年7月26日のユーロポール規約(O. J. No. C 316, 27 November 1995)によりユーロポ ールが管轄するようになったテロリズム,麻薬売買および他の重大な国際犯罪や,コンピュー タ犯罪,犯罪による収益の洗浄,環境犯罪,犯罪組織への加担等が挙げられてい

60

る。

2001年3月にはすでに,暫定的なユーロジャストである「プロ・ユーロジャスト」が発足 し活動していた。プロ・ユーロジャストは,02年2月に発表した年次報告において,当期の 取扱い件数は180件であり,支援要請の多かった加盟国としてイタリア,ベルギーおよびフラ ンスを,逆に被要請件数の多い加盟国としてドイツ,イギリスおよびオランダを挙げた。年次 報告は,さらに,加盟国間にみられる立法,言語および司法システムの相違や構成員が享受す る権限の程度差がもたらす「権限のモザイク」等を問題として指摘したのであ

61

る。

EUにおける汚職の防止は,このように,主に第3の柱である司法・内務協力において取組 まれてきた。不正防止規約とその議定書,汚職防止規約,不正防止規約の第2議定書の採択お よびユーロジャストの設立がこれに該当する。さらに,第1の柱であるECの枠組みにおいて 発足したのが欧州不正防止局であった。なお,一般的な汚職の防止に向けては汚職防止規約が 決定的に重要であるものの,発効の時期は不正防止規約とその議定書の方が先になるであろ

62

う。不正防止局とユーロジャストは,これらの文書が発効することにより汚職の問題について の積極的な役割を担う予定である。

ところで,97年5月のコミュニケーション「汚職に抵抗するEUの政策」において,欧州 委員会は「(EUは)域内と域外の双方の政策において一貫性の高い汚職防止の戦略を実施す ることを関心事項とする」とし,「この戦略こそが,国際貿易および競争,EC対外融資,開 発協力政策およびEU加盟前戦略を成功に導くであろう」と述べ

63

た。このように,EUでは域

(11)

内のみならず域外諸国との関係においても汚職防止が重視されている。次章では,2000年6 月にアフリカ・カリブ海および太平洋(ACP)77ヵ国との間で締結されたコトヌー協定と呼 ばれる提携協定を題材にして,EUの対外関係における汚職問題への対応へと視点を移すこと にしたい。

Ⅲ 対外関係における汚職問題

──ACP諸国とのコトヌー協定を題材に──

ACP諸国との間で1989年12月に締結された第4次ロメ協定は,2000年に失効する期限条 約であった。そのため,失効後においても協力関係を保持するための新たな提携協定が必要で あった。協定の締結に向けたACP諸国との交渉は98年に開始され,2000年2月に妥結し た。これにより成立したのがコトヌー協定であ

64

る。

1.良い統治条項の挿入

EUとその加盟国は,ACP諸国が汚職防止に取組むことの必要性を90年代前半より確認し ていた。たとえば,91年11月の開発理事会は,防止に向けて適切な措置をとることが公正な 開発にとって不可欠であると表明し

65

た。94年2月には,ACP諸国の国会議員と欧州議会議員 の代表団から構成されるACP-EU共同総会が,選挙汚職の防止や政治および行政におけるモ ラルの向上を決意したのであ

66

る。95年11月4日にはACP諸国との間で第4次ロメ協定の中 間見直し(mid-term review)が締結されたが,その前後において汚職防止の強化を求める声が 高まった。その中心がコトヌー協定への「良い統治条項」の挿入を要請するものであった。第 4次ロメ協定の中間見直しでは,人権尊重,民主主義および法の支配の原則に違反した協定当 事者にはもう一方の当事者が「適切な措置」をとることができるといういわゆる民主主義条項 が規定されてい

67

た。これと同様に,汚職防止の推進をはじめとする「良い統治」(good govern- ance

68

)を遵守しない当事者にも適切な措置をとれるという規定が設けられるべきと考えられた のである。

もっとも,良い統治の概念自体は,すでに中間見直しにおいて導入されていた。「・・・開 発政策および協力は,基本的人権の尊重と享受,民主主義原則,法の支配の強化ならびに良い 統治の認識と実践とに緊密に結びついている」とされ,さらに,良い統治がACP諸国との協 力の強化に向けての「特別の目的」と位置づけられていたのであ

69

る。とはいえ,中間見直しで は良い統治は概念上の導入にとどまったため,欧州委員会のJ.ピニェイロ開発担当委員を中 心に良い統治条項の挿入が模索されることとなっ

70

た。委員会は,良い統治条項の挿入によって 得られる成果について,「明白な汚職があり,かつそれに関与した公務員が制裁を受けない場 合,EUは開発融資を再考する必要がある。汚職がみられた取引は中止され,その資金はEU

(12)

に返還されなければならない」と述べ

71

た。先に触れた人権尊重や民主主義の原則は,中間見直 しにおいて協定の本質的要素(essential elements)とされていた

72

が,良い統治条項も同様に本 質的要素とすべきとしたのである。

98年3月に委員会は,コミュニケーション「民主化,法の支配,人権尊重および良い統 治:EU・ACP諸国間の連携に向けて」を作成し,良い統治と汚職の意味内容を明確にした。

良い統治とは,このコミュニケーションによれば,経済および社会面における開発を公正で持 続可能なものとするために国家の資源は全て透明かつ説明責任の高い状態で管理される必要が あるという考え方であ

73

る。良い統治は,また,「市民が公平に資源へとアクセスする権利」,

「法にしたがう資源活用」および「(民主的に)統制された資源管理」等と関連することから,

民主主義の諸原則とも重複す

74

る。汚職については,「意思決定の過程において不当な誘導ある いは利得によりもたらされる権力の濫用もしくは不行跡」と定義され,良い統治に向けての

「主な障害」とされる。汚職がみられる環境では,契約履行の質の低下,国家の経済的資源の 縮小,透明性・公正性・法の支配・参加の意義の軽視,内外の投資家の意欲の減退,経済改革 の困難化,および組織犯罪の常態化を生むことにな

75

る。汚職は,こうした見地から防止されな ければならないと認識される。

新たな提携協定における良い統治条項の挿入に積極的なのは,欧州委員会のみではなかっ た。欧州議会や欧州に本拠を置く多数のNGOsがこれへの支持を表明したのであ

76

る。他方,ACP 諸国では,第4次ロメ協定の中間見直しにおいて民主主義条項が挿入された際と同様に,反対 の姿勢が示された。その根拠は,( )良い統治条項に基づく「適切な措置」の執行は国家主 権原則の抵触にあたる,()良い統治条項の挿入は画一的な基準を設定するものであり各国 の開発格差を拡大しかねない,()概念上すでに民主主義の原則が導入されており新たな条 項を設ける必要はないというものであっ

77

た。良い統治条項の挿入問題は,コトヌー協定の締結 交渉が開始された98年10月の時点から早々にACP諸国との間で論争となったものの,交渉 が妥結する3ヵ月前の翌99年12月には基本合意が成立した。EU側は,良い統治を本質的要 素ほど核心的なものではない「基本的な要素」(fundamental element)とするにとどめ,さら に,重大な汚職のある場合に限り適切な措置を講じうるという内容の譲歩を行なった。この譲 歩がACP側に受入れられたのであ

78

る。

その結果,良い統治条項にあたるコトヌー協定の第9条3項と第97条は,次のような内容 となっている(太字は筆者)。

【第9条】3.良い統治とは,人権,民主主義原則および法の支配が推進される政治的およ び制度的環境において,公平で持続可能な開発の達成に向け人間,自然,経済および財政 の諸資源が透明かつ説明責任を負える形で管理されていることである。良い統治には,公 的な権威のレベルにおける明瞭な意思決定手続,透明かつ説明責任を負える制度,諸資源 の管理と配分に際しての法の卓越性,およびとくに汚職を防止しかつそれと闘うための措

(13)

置を整備し実施する能力の向上が必要である。

ACPとEUの連携を補強する良い統治は,当事者による対内的および国際的な諸政策 を補強するものであり,本協定の基本的な要素である。当事者は,97条が明記するよう に,賄賂の行為を含む重大な汚職の問題に限りそのような要素の違反に該当することに合 意する。

【第97条】1.当事者は,共同体が経済および部門政策あるいはプログラムへの財政支援 において重要な提携者である場合,重大な汚職の問題が当事者間の協議の対象になるべき であると考える。

2.このような問題があれば,いずれかの当事者は,他の当事者を招いて協議をもつこと ができる。協議は21日以内に行なわれ60日を超えてはならない。

3.協議の結果,両当事者が満足できる解決を見出せなかったか,あるいは協議が拒否さ れた場合,当事者は適切な措置をとることができる。早急に必要な措置をとることにより 事態を改善しなければならないのは,いかなる場合であっても重大な汚職の問題が確認さ れた側の当事者である。他方の当事者がとる措置は,事態の重大さと比例していなければ ならない。措置が講じられる際には,本協定の適用が混乱しないよう細心の注意が払われ る必要がある。協定の停止は最後の手段とする。

4.本条が言及する 当事者 とは,一方において共同体およびEU加盟諸国であり,も

う一方においてACP各国である。

2.良い統治条項の適用

2001年7月に開発理事会は,コトヌー協定の良い統治条項の規定にしたがい,協定の当事 者であるリベリアと協議することを決定した。EUは,人権活動家への脅迫および隣国シエラ レオネの反乱軍支援等を民主主義原則についての本質的要素の欠如とし,さらに,公共財政の 透明性が極端に低下した同国の状況を,条項に言及されている「重大な汚職」として認識した のであ

79

る。

リベリア政府との協議は11月9日にブリュッセルにおいて行われ,理事会議長国と欧州委 員会の関係者がEU側の代表として出席する中,同国政府による改善事項が確認され

80

た。しか しその後,12月と翌02年2月のモニタリング会議では好ましい成果が報告されなかっ

81

た。そ のため,開発理事会は,同国政府との対話を継続する必要に留意しながらも,3月25日,第8 次欧州開発基金(EDF)の凍結を含む適切な措置を執行することを決定し

82

た。なお,決定に至 った事由はM.キャプタン外相に宛てられた書簡において言及されている。そのひとつが

「燃料,木材およびコメ部門における資源をはじめとする公共会計の管理が依然として不透明 である」というものであっ

83

た。EUは,こうして良い統治条項を初めて適用したのである。

域外への汚職防止の要求は,EUの加盟候補となっている中・東欧諸国に対してもなされて

(14)

きた。「加盟に向けての前進」と題される欧州委員会作成の年次報告において,各候補国にお ける防止措置の実施状況が,人権や民主化に関する措置とともに公表されている。たとえば,

95年12月に加盟申請を行なったブルガリアに関する01年11月の報告では,同国が過去1年 間に採用した防止措置として「公務員倫理法の承認」,「政党議定書の発効」および「公共情報 アクセス法の発効」等が挙げられ

84

た。この年次報告のデータは,当該候補国の加盟基準が判断 されるうえで貴重な資料となっている。

中・東欧諸国一般については,欧州審議会との共同出資の下,OctopusⅡと呼ばれる汚職防 止を支援するためのプログラムが実施されてきた。このOctopusⅡは,EUの理事会議長国,

欧州委員会,欧州審議会の閣僚委員会議長国および審議会事務局長の間で定期的にもたれた4 者会談の成果のひとつであり,実施の対象には独立国家共同体(CIS)諸国およびバルカン西 部諸国の一部が含まれている。出資額は,1999年から2000年12月までの2年間で240万ユ ーロとなってい

85

る。

このようにEUは,ACP諸国や中・東欧諸国との関係においても汚職防止への取組みを重 視してきたといえる。もっとも,EU域内における取組みと対比した場合,政治規範としての 汚職概念に相違がみられることに留意する必要がある。域内政策における汚職は,汚職防止規 約等に明らかなように刑事犯罪として,すなわち不正,組織犯罪および麻薬取引等と同列に位 置づけられ対処されてきた。これに対し,ACP諸国との協定においては,汚職防止は良い統 治の一環であり,人権尊重,民主主義および法の支配を含む民主主義原則とも結合した概念と して把握されるのである。こうした相違は,短期的には問題を惹起させることはないものの,

EUとその加盟国が反汚職に円滑に取組むうえで長期的には概念上の均一化を目指す必要が出 てくると思われる。

開発理事会は,コトヌー協定第97条の下で行為するにあたり特定多数決制を採用してい

86

る。これにしたがい,EUを主体とする「良い統治コンディショナリティ」がリベリア以外の ACP諸国にも容易に実施されることが予想される。このようなコンディショナリティは,そ の被実施国への内政干渉となりうることに加え,倫理の強要とも解釈されかねないセンシティ ブな性質をもつ。この点を考慮すれば,汚職概念の「内」と「外」のあいだにみてとれる相違 を克服することは,むしろ焦眉の問題といえるのである。

お わ り に

汚職は,公的な権力が存在するところであれば常に起こりうる現象である。主権(sover- eignty),領域(territory)および国民(nation)の三要素をもつとされる近代国家の時代が訪れ たのちは,汚職は国家によって抑制されるべき政治規範であった。とはいえ現代の欧州では,

EUのレベルにおいても汚職の防止が規範として共有され,限定的ではあるが政策として実施

(15)

される段階に到達しつつある。

もっとも,EUにおける汚職防止の取組みは次のような問題をともなっている。第1に,そ の取組みが,説明責任のきわめて低い司法・内務協力の枠組みにおいて主に推進されてきたこ とである。この枠組みにおける中心的な機関は,加盟国閣僚から構成される司法・内務協力理 事会であり,加盟国から一定の自立性を享受する欧州委員会や,各加盟国の直接選挙により選 ばれた議員よりなる欧州議会の関与の程度は低い。また,理事会における審議は基本的には公 表されず,審議における使用言語も限定されているため,欧州議会および加盟国議会による民 主統制が及びにくい意思決定メカニズムとなってい

87

る。

第2には,取組みの形態が複雑なことが挙げられる。たとえば,欧州議会が指摘したよう

88

に,汚職という同一の問題を扱う条約が不正防止規約議定書および汚職防止規約と2つ存在す ることは,深刻な混乱の要因となりえよう。さらに,欧州不正防止局やユーロジャストの管轄 権等についても不透明感が強く十分な説明がなされているとはいい難い。イギリスのビジネス 雑誌であるアカウンタンシー・エイジは,J.サンテール欧州委員会の腐敗を告発した委員会 職員ビュイッテンネン(Paul van Buitenen)に99年度のヘッドライン賞を与えた

89

が,このよう な状況下では,内部告発への受動的な対応に終始する不正防止局よりも告発者自身に一般民衆 の賛意が集まるのも無理からぬことであろ

90

う。

開発援助国との関係についていえば,汚職防止は,民主主義原則と並んでキーワードのひと つになっている。そしてすでに述べたように,対内政策および対外政策の双方で用いられてき た汚職の概念は,漸進的にでも均一化が図られるべきであろう。しかしながら,汚職corruption という語には堕落や背徳といった道義的な意味合いが含まれているため,援助国との関係にお いて汚職の客観的な価値基準を確立することは,良い統治を定義することと同じく容易な作業 ではない。

EUにおける汚職防止の取組みが本質的な困難さを包含していることは以上の通りである。

EUにおける取組みが今後いかなる展開をみせるのかが注目されよう。

1 General Assembly, United Nations Declaration against Corruption and Bribery in International Commercial Transactions, 16 December 1996, A/RES/51/191.

2 See e.g.,梅田 徹「OECD外国人公務員贈賄防止条約のフォローアップについて」『麗澤大学紀

要』第70号,2000年,254−286ページ;Lucinda A. Low, Andrea K. Bjorklund and Kathryn Cameron Atkinson, The Inter-American Convention Against Corruption : A Comparison With the United States Foreign Corrupt Practices Act, Robert Williams and Alan Doig(eds),Controlling Corruption, Edward Elgar, 2000, pp. 377−426.

Susan Rose-Ackerman, Corruption and Government : Causes, Consequences, and Reform, Cambridge University Press, 1999, p. 177 ; Véronique Pujas and Martin Rhodes, A Clash of Cultures? Corruption and the Ethics of Administration in Western Europe,Parliamentary Affairs, vol. 52, no. 4, 1999, pp. 698−

699.

See e.g., Pujas and Rhodes, op. cit., pp. 700−702.

(16)

5 Management Development and Governance Division, Bureau for Policy and Programme Support, United Nations Development Programme, Corruption and Good Governance, Discussion Paper 3, July 1997, p.

89.

6 司法・内務協力理事会は,EC設立条約202条に基づいて設置される理事会の一形態であり,加盟 国の内相や司法相によって構成される。なお,司法・内務協力は,アムステルダム条約により「刑 事問題における警察・司法協力」へと改定されたが,本稿では便宜上,引き続き司法・内務協力の 語を用いることにする。

7 See, O. J. No. C 355, 14 December 1994, pp. 2−3.

8 O. J. No. C 316, 27 November, 1995, annex.

9 O. J. No. C 313, 23 October 1996, annex.

10 O. J. No. C 316, op. cit., Art. 1(1). 11 Ibid., Art. 1(2).

12 Ibid., Art. 2.

13 Ibid., Art. 3.

14 Ibid., Art. 4−9 and 12.

15 Dick Ruimschotel,The EC Budget : Ten Per Cent Fraud? A Policy Analysis approach,Journal of Com- mon Market Studies, vol. 32, no. 3, 1994, p. 319.

16 Ibid.

17 David Nelken and Michael Levi,An Overview,in Levi and Nelken, eds., The Corruption of Politics and the Politics of Corruption, Blackwell, 1996, pp. 6−7.

18 See, Pujas and Rhodes, op. cit.

19 Monica den Boer and William Wallace, Justice and Home Affairs, in Helen Wallace and William Wal- lace(eds),Policy-Making in the European Union, Fourth Edition, Oxford University Press, 2000, pp. 510

−511.

20 A 4-0314, Minutes of 15 December 1995.

21 Ibid.

22 Ibid.

23 Agence Europe, no. 6338, 5 January 1996, point 3.司法・内務協力の立法措置においては,欧州委員 会に加えて加盟国にも政策発議権が付与されている。EU条約34条および42条を参照されたい。

24 その他の項目は「テロリズムとの闘い」,「司法協力の増進」,「域外国境における人の管理強化」お よび「人種主義および外国人排斥との闘い」等とされた。O. J. No. C 319, 26 October, 1996, pp. 1−3.

25 注23参照。

26 Agence Europe, no. 6692, 21 March 1996.

27 O. J. No. C 195, 25 June 1997, annex.

28 消極的汚職および積極的汚職は,次のように定義されている。「ある公務員が,共同体の財政利益 に損害を与えるかあるいは与えうる形で,彼の職務に基づいて行動しないかまたはその職務を侵害 してその機能を実践することにより獲得される自身あるいは第三者にとっての利益を,直接的にも しくは仲介者を通じて故意に要求するか受領し,あるいは約束するもの」(消極的汚職),「ある公 務員が,直接的にもしくは仲介者を通じて故意に自身あるいは第三者にとっての利益を約束するか 保証したうえで,彼の職務に基づいて行動しないかまたはその職務を侵害してその機能を実践した 結果,共同体の財政利益に損害を与えるかもしくはその見込みのあること」(積極的汚職)。 29 「ECの公務員」と「加盟国の国家公務員」は,各々次のようなものである。「ECの公務員規程お

よびECの他の官吏雇用規則が定める公務員あるいは契約従業員である者,加盟国あるいは公共お よび民間組織によりECに派遣されたECの公務員あるいは官吏と同等の役割を担う者,および一 部を除く,EC設立条約を根拠として設置された組織の構成員」(ECの公務員)。「一定の状況下に おける公的な職員を除く,国家法により公務員あるいは公的な職員と定義された者」(加盟国の国 家公務員)。

30 See, O. J. No. C 195, op. cit., Art. 2 and 3.

31 See, Corruption involving officials, O. J. No. C 362, 2 December 1996, point 4 and 5.

32 O. J. No. C 195, op. cit., Art. 12(3).先行判決は,加盟国の裁判所からの付託に基づき司法裁判所が

(17)

共同体法の解釈問題を管轄する制度である。先行判決の判例は,同法の発展にとって最も重要な貢 献を担っていると考えられている。山根裕子『ケースブックEC法』東京大学出版会,1996年,65

−78ページ参照。

33 O. J. No. C 195, op. cit., Art. 12(4).see also, Agence Europe, no. 6982, 28 May 1997.なお,不正防 止規約についても,96年11月29日の「司法裁判所による不正防止規約の解釈に関する議定書」

(O. J. No. C 151, 20 May 1996, annex)により同様の方式が認められた。

34 Ibid., Art. 13(4).

35 理事会のウェブサイト(http : //ue.eu.int)のデータに基づく。

36 同上参照。

37 O. J. No. C 391, 15 December 1998, pp. 1−12.

38 Ibid., point 2.3 and 2.4.

39 Ibid., point 1.3.

40 O. J. No. C 221, 19 July 1997.

41 Ibid., Art. 1. 91年6月10日の理事会指令第1条における資金洗浄の定義については,O. J. No. L

166, 28 June 1991, p. 79参照。

42 O. J. No. C 221, op. cit., Art. 3(1)and 4(1). 43 Ibid., Art. 3(2)and 4(2).

44 Ibid., Art. 5.

45 Ibid., Art. 7(1).

46 Ibid., Art. 7(2)and 8. EUにおける個人データの保護については,福田耕治「EU行政の情報化と情

報公開・個人情報保護の制度化」『同志社法学』第247号,1996年参照。

47 Ibid., Art. 15(1).

48 Commission Decision of 28 April 1999 establishing the European Anti-fraud Office(OLAF),O. J. No. L 136, 31 May 1999.

49 なお88年以前には,調査は欧州委員会の関係総局によって行なわれており,たとえば農業部門に ついては第6総局が,また関税部門については第21総局が担当していた。see, Ruimschotel, op. cit., p. 334.

50 Regulation(EC)No 1073/1999 of the European Parliament and of the Council of 25 May 1999, O. J.

No. L 136, 31 May 1999.

51 Ibid., Art. 2, 3 and 4.

52 Ibid., Art. 5.

53 Ibid., Art. 11.

54 European Anti-fraud Office, Activity report for the period 1 June 2000−31 May 2001, 2001, pp. 32−34.

55 Ibid., p. 14.

56 同様の調査はベルギー,ポルトガルおよびイギリス国内でも行なわれたと報告されている。Ibid., p. 21.

57 O. J. No. L 63, 6 March 2002, pp. 1−13.

58 Ibid., Art. 3.

59 Ibid., Art. 2.

60 Ibid., Art. 4.

61 Pro Eurojust says it was impeded by diverging legal systems, European Report, no. 2656, 2 February 2002.ユーロジャストの設立については,さらに,Jörg Monar, Justice and Home Affairs, Journal of Common Market Studies, Annual Review, vol. 39, 2001, pp. 128−133.参照。

62 代表的な反汚職NGOである「トランスペアレンシー・インターナショナル」は,これらの規約お よび議定書の発効が遅延していることを批判している。Agence Europe, no. 7626, 5 January 2000.

63 COM(97)192 final, 21 May 1997, p. 1.

64 ロメ協定からコトヌー協定の締結に至る経緯については,前田啓一「EU開発政策の変貌について

−ロメ協定からコトヌー協定へ−」『日本EU学会年報』第22号,2002年;Bernd Martenczuk,From Lomé to Cotonou : The ACP-EC Partnership Agreement in a Legal Perspective, European Foreign Af- fairs Review, vol. 5, 2000, pp. 461−487.

(18)

65 Bull. EC 11-1991, pp. 122−123, point 5,.

66 O. J. No. C 167, 20 June 1994, pp. 73−74.

67 Agreement amending the fourth ACP-EC Convention of Lomé signed in Mauritius on 4 November 1995,

Art. 5 and 366 a.第4次ロメ協定の中間見直しの締結過程と民主主義条項については,大隈 宏

「ロメ協定と人権コンディショナリティ」成城大学法学会編『21世紀を展望する法学と政治学』信 山社,1999年,481−495ページ参照。

68 なお,良い統治は,フランス語では「公共問題の良き管理la bon gestion des affairs publiques」と呼 ばれている。

69 Agreement amending the fourth ACP-EC Convention, op. cit., Art. 5.

70 See, Agence Europe, no. 6936, 17 March 1997.

71 Aide au développement : quel rôle pour les milieux économiques et sociaux? Un avis d’initiative du Comité economique et social, RAPID, 29 mai 1997.

72 Agreement amending the fourth ACP-EC Convention, op. cit., Art. 5.

73 COM(98)146, 12 March 1998, pp. 7−8, point 14.

74 Ibid., p. 8, point 15.カッコ内は筆者。

75 Ibid., pp. 8−9, point 16.

76 See, Agence Europe, no. 6859, 23 November 1996. : Agence Europe, no. 7078, 13 October 1997. ; Euro- pean Parliament, Report on the Commission Communication entitled ‘Democratisation, the rule of law, respect for human rights and good governance : the challenges of the partnership between the European Union and the ACP States’(COM(98)0146-C 4-0390/98),(Rapporteur : Fernando Fernández Mar- tín)A 4-0411/98, 9 November 1998, p. 7, point 28.

77 E.g., Agence Europe, no. 7403, 12 February 1999/no. 7573 15 October 1999 ; European Report, no. 2381, 13 February 1999.

78 Agence Europe, no. 7592, 13 November 1999.

79 COM(2002)103 final, 21 February 2002, p. 2. see also, Agence Europe, no. 7993, 27 June 2001.

80 COM(2002)103 final, op. cit., pp. 2−3.

81 Ibid., pp. 3−6.

82 Council Decision of 25 March 2002, O. J. No. L 96, 13 April 2002.

83 Ibid., annex.

84 SEC(2001)1744, pp. 19−20.

85 See, European Report, no. 2380, 6 February 1999.欧州審議会との共同支援プログラムについては,

山本 直「欧州審議会とEU」『ワールドワイドビジネスレビュー』第2巻第2号,2001年,115−117 ページ参照。

86 Accord interne entre les représentants des gouvernements des États membres, réunis au sein du Conseil, relatif aux mesures à prendre et aux procédures à suivre pour la mise en oeuvre de l’accord de partenariat ACP-CE, Journal Officiel No. L 317, 15 décembre 2000, annexe.

87 den Boer and Wallace, op. cit., pp. 509−510.

88 Corruption involving officials, op. cit., point 1.

89 Liz Loxton, Winners of Accountancy Age Awards for Excellence unveiled,(http : //www.accountancy- age.com),3 November 1999.

90 See e.g., European Report, No. 2664, 2 March 2002.とはいうものの,不正防止局が精力的な活動を 行なっていることは,EC財政の10% から15% に横領の疑いがあるという発表を敢行し,あるい はストラスブールとブリュッセルの欧州議会ビル建設に絡む汚職事件の調査に着手したことに明ら かである。Le Monde, 18 septembre 2001. ; 3 avril 2002.

参照

関連したドキュメント

12―1 法第 12 条において準用する定率法第 20 条の 3 及び令第 37 条において 準用する定率法施行令第 61 条の 2 の規定の適用については、定率法基本通達 20 の 3―1、20 の 3―2

第 98 条の6及び第 98 条の7、第 114 条の 65 から第 114 条の 67 まで又は第 137 条の 63

3.BおよびCライセンス審判員が、該当大会等(第8条第1項以外の大会)において、明

計量法第 173 条では、定期検査の規定(計量法第 19 条)に違反した者は、 「50 万 円以下の罰金に処する」と定められています。また、法第 172

(大防法第 18 条の 15、大防法施行規則第 16 条の 8、条例第 6 条の 2、条例規則第 6 条の

第二の,当該職員の雇用および勤務条件が十分に保障されること,に関わって

の繰返しになるのでここでは省略する︒ 列記されている

41 の 2―1 法第 4l 条の 2 第 1 項に規定する「貨物管理者」とは、外国貨物又 は輸出しようとする貨物に関する入庫、保管、出庫その他の貨物の管理を自