翻刻『風俗太平記』
著者 翻刻の会
雑誌名 同志社国文学
号 37
ページ 70‑141
発行年 1993‑03
権利 同志社大学国文学会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000005079
翻刻 ﹃風俗太平記﹄七〇
翻刻 ﹃風俗太平記﹄
︑底本には刷りが比較的よいと思われる︑国立劇場所蔵︑元題姦・元表紙の七行九十六丁本を用いた︒
二︑底本を忠実に翻刻することを原則としたが︑次のような校訂方針に拠った︒
1 本文は文字譜を手掛かりにして︑適宜改行を施した︒ただし︑道行・景事の類︑会話の途中等では改行しなかった︒
2 各丁の表・裏の終わりは︑丁数の数字とオ・ウの略号を︵ ︶で示した︒
3 仮名は現行の字体に統一した︒ただし︑感動詞︑送り仮名︑捨て仮名の類以外の︑本文中の︺一﹂﹁ハ﹂﹁ミ﹂は
﹁に﹂﹁は﹂﹁み﹂とした︒
4 漢字は︑一部の異体字を除いては︑原則として通行の字体に統一した︒
5 漢字・仮名ともに︑誤字︑脱字︑当て字︑仮名遣い︑清濁は底本の通りとした︒
6 特殊な略体︑草体︑合字等は現行の表記に改めた︒
・畳字は︑平仮名は﹁こ︑片仮名は﹁・一︑漢字は﹁々一に統一した︒ただし︑﹁く一はそのまま残した︒
8 文字譜の類はすべて採用し︑本文の右傍の適切と思われる位置に翻字した︒
三︑本文の翻刻は︑次に掲げる翻刻の会︵学部学生の研究会︶の会員によってなされた︒
備前美樹子︑長谷川朋子︑中村 登︑七里輝夫︑大西 仁︒
文字譜︑改行及び本文の最終確認は山田和人が担当した︒
一参考一寛保三年一一七四三︶三月十八日︑大坂豊竹座初演の浄瑠璃︒五段の時代物︒作者は為永太郎兵衛︵内題下一︑浅田一鳥︑
豊岡珍平︑小川半平一本文末一合作︒なお︑奥付の本文は省略したが︑﹁豊竹越前少橡﹂﹁大坂心斎橋南四丁目西側正本屋西澤九左衛
門﹂とある︒全体の構想は︑﹃太平記﹄によっており︑相模入道を滅ぽすまでの赤松円心一家と︑その周辺の宮方の人々の愛別離苦︑
銀難辛苦が描き出される︒その上に新たに木阿弥︑孫郎大夫それぞれの一家の悲劇が展開される︒太平記物の一っである︒また︑本作
中の盗賊の張本日本左衛門は︑黙阿弥の﹃青砥稿花紅彩画﹄の日本駄右衛門に先行する︑盗賊としての日本左衛門の演劇史上最も早い
例の一つである︒なお︑底本の不明箇所は適宜同板の他本で補ったが︑特に断らなかった︒ 一山田和人︶
風俗太平記
作者 為永太郎兵衛
序詞 はる 言会会 きつし いざ至 かんぱせたま 言むろ たいく わが言の う二かす うたひ 定によ ち冨からうた 春を懐女あり吉士これを誘︒ 顔玉のごとく箭にして脱々たり︒我晩を感ことなかれと諏し︒男女の契 詩
たぐひ 二・ おなじう くはうこんゐん 二 ぢせい あたつ かまくら ぷしんさがみ たかとき けんせい ぜんたいみもん きくはん ユりの︒類を麦に同す︒光厳院の御治世に当て︒鎌倉の武臣相模入道︒高時の権勢こそヲロシ前代未聞の︒奇観なれ︒
ウ ウ 中 地色中 けい きさらぎちうじゆん いんじふゆ かち せんてい 二だいニ ハル きんぎよく もうむ さん 比は正慶元年二月中旬︒往冬都の合戦にうち勝︒先帝︵一・オ︶後醍醐ノ天皇︒宮々迄も寮極し︒多年の蒙霧を散じ
カ ハル ウ ぐんこう くもんじよ お・ゆか しつじ かいだうハル だううん ウ あんどうけんもつむねなりたる︒味方の軍功を沙汰すべしと︒公文所の大床に出給へは︒執事の役は二階堂出羽ノ前司道一組︒井に安藤監物宗成を始メ フ一ン ウ あかはしながさきふ し ふだい れきれき ゐ ぎ さんれつとし︒塩田赤橋長崎父子︒其外御譜代の歴々迄威義を︒たして参列ある︒
地色中 中 ウ ひでかど あかまつゑんしん ゆういん なを 色 詞 ぼつらく か・る所へ松田五郎秀門︒赤松円心を誘引し︒一つの箱を御前に直させ謹ンで︒大塔ノ宮去年都を没落の時︒千本通リの赤 地ハル松が庵室に︒預ヶ置れし日月の御ン旗︒円心某を頼︑︑︑君へさし上侯と︒言上すれは相模入道︒ヲ︑円︵一・ウ︶心神妙也︒日
はた一 とふ しんていあらは まんぞく月の旗を相渡す上は問に及ず︒心底顕れ満足く︒一一有難き御ン仰︒某赤蒙郎判官といつし大俗の時より︒後醍醐一天
皇御謀反の御企有しゆへ︒それを諌て発心仕侯と︒おもねる詞に︒ホ︑さも有なんく︒都千本通リに庵を結び︒閉観
ことは てき まとか よむの身と成しと聞キ︒いぶかしく思ひたるはと有けれは︒ハァ其御不審は理り︒鎌倉六波羅へ敵たはぬ申訳に︒円なる心と読
﹃風俗太平記﹄ 七一
﹁風俗太平記﹄ 七二 地ウ 色もんじ すぐ ゑんしん もはや なまじい ハル ニうくはい 詞文字を直に円心と改メ︒最早浮世に望ミなけれは︒邪に其御旗︒預り置て今の後悔︒大塔ノ宮の御有家を存ぜねは︒かヘ フシ 地ウ ハル のぺさんにもせんかたなく︒扱こそ天下の執権たる高時公へ︒さし上て侯と述けれは︒
地ハル ぜんじ色 せんぢやう はた もつたい 出羽ノ︵ニオ︶前司す・み出︒戦場にて敵の籏を切取しは︒高名にも成べきが︒是はそれに事替り︒勿体なくも天子の 色 まま みかと 二うぷん よん はきし・ さいとうとしゆさ 地ハル あざ御旗︒此儘にとめ置れんは恐レ有リ︒帝の告文を読で血を吐死たる︒斎藤利行がよき手本と︒いはせも立ず入道大キに潮
わら せうきう れい お き おいなが とし笑ひ︒承久の例に任せ︒後醍醐ノ天皇を隠岐国へ︒追流したる程の某に︒血を吐てくたばつたる利行を︒手本にせよとはあ フシ かんげん 地ウ ひらき にしき あたり か・やくまちやくな謹言と︒御旗の箱を押開取出せは︒金銀にて日光月光打ツたる︒錦の御ン旗傍も輝計リ也︒
詞 めいはく 地中 きらく ハル フシ たいしゆつコリャく松田︒是にて円心に二心なき事明白︒勝手次第に相伴ひ︒帰洛せよとの給へば︒一ニウ一はっと両人暇申て退出
する︒ 地色中 ハル 色 詞 べうどういん ぢうしよく しんくわんあじやり いとこ 安藤監物御前に向ひ︒日月の旗御ン手に入しこそ幸イ︒山城ノ国宇治平等院の住職︒真観阿闇梨は某が従弟︒世に隠レな 地ウ めいよ しゆげんじや せんてい かたしろ てうぷく 色 やいぱ ウき名誉の修験者︒あの籏を先帝の戸として︒調伏有一て然一べしと︒皆迄いはせずホ︑耳寄く︒刃で殺せは事むっかし︒ ハルウ みはた 色 詞 ためし汝は是より宇治へ趣クベしと︒御旗の箱を渡さるれは前司さ・へて︒むかしが今に至ル迄臣として︒ヤァ君を調伏せし例は ハル ウ いさめ 地ハル 中 し二う かさね いさめ させき フシないといふ事か︒まだるき諌用ぬく︒監物急ヶと追やり給へは︒前司を始メ伺公の人々︒重て諌ん詞もなく座席︒しら
けて見へにける︒
ハル 中 ハル 地色中 ウ くはんれい ときわするがのかみのりさだ ウ たかよししんわう たうちやく ひろう 折もこそあれ京都の管領︒︵三オ︶常盤駿河守範貞︒先帝の一の宮︒尊良親王を伴ひ到着と︒披露に程なく︒目通りヘ
フシ 詞 ゐだけだか かさぎらくじやう じ よ いけどり引すゆれは︒入道居尺高に成︒イヵ二範貞︒是が笠置落城の以後︒行衛しれざりし一の宮よな︒ハ︑自余の生捕と同じからね
よるく\ しざい るざい けんりよ 地ハル 色 詞 うなづきは︒某相ぐし鎧々と罷下リ侯︒死罪か流罪か︒御賢慮いかと窺へは︒一の宮をはつたとねめ付︒父天皇と点合イ︒此入 地ハル 色 ひたい はつかねつみ おろか とらはれ あく はぢ道が首とらんとは︒猫の額に有物を︒ 麗 が念がけるより愚な事︒ 檎の身と成て思ひしられ侯かと︒飽迄に恥しむれ フ一ン ハル ウ いらへ 一 ウ 中 らくるいは︒宮はとかふの︒御諾さへ歎きしづませ給ふにぞ︒一座の諸武士もいたはしさの︒︵三ウ︶落涙かくす計也︒ の地岬さだウ 一ル くらんどしげかねは・畜 色 詞 いけどり 交しやう 地ウ 範貞の御供に随ひし︒有井ノ蔵人重包悼なく罷出︒一の宮を生捕しは某が高名︒其御恩賞には我ヵ心にたくはふる︒一 色 ︑レ ウ つくろ 詞 めい そむきつの望ミ侯と忠こがましく申上れは︒駿河ノ守取繕ひ︒元トあの蔵人は土佐ノ国の者︒父有井ノ庄司君の命に背しゆへ︒所
やうやく 地ウ むかし あんど 7シ領残らず召上られ︒今は漸此範貞にっかへて罷有ル︒哀レ昔の本領安堵仰付られ︒下されかしと有けれは︒
司 おい おんしやう もくだい が・範貞︒汝は此入道が甥程有て︒情ふかき願イ事︒有井が望ミの通り︒此度の恩賞として土佐ノ国の目代を申付︒則チ︒ 離婁言と 乳やかた きぴ 色 詞 はだたけぷん象た象むね り毒やう一の宮を預ヶ置ク︒畑山の麓に︒牢屋形をしっらひ厳しく守れ︒宮の家来︵四オ︶には秦ノ武文︒縣ノ長宗とて︒力量す
地ウ うぱひ フシ ︑ぐれし者共有と聞及ふ︒窺イよって奪とらんも計がたし︒心を付よとの給ふにぞ︒
地ハル 中 すいじん ウ かさぎ はな うちじに 中 ウ宮御涙にくれさせ給ひ︒丸が随身武文も長宗も︒笠置の城より離れく︒大方タ討死しっらんぞや︒さのみ心を置ヵず共︒
ウ お き なが スヱテ父天皇のおはします隠岐ノ国へ︒我をも流しくれよかしと歎き給へは
詞 いにし るざい お二な ためし みやす のき あがた とうじ せめくちヤァ其願︒叶はぬく︒古へより親子一所に︒流罪に行ひし例なし︒武文は御息所葎ひ立退︒縣ノ長宗は東寺の攻口 地ウ いくさぷきやう うつたへ もつたいを切ぬけ︒両人共に行がたしれずと︒軍奉行よりの訟︒それを何ンぞや討死せしとは︒しらくしき偽りと︒勿体なく ウ ハル 色 詞 みやす からうた 地色 っまも親王の御ンた︵四ウ︶ぶさを︒手にからまいてぐっと引よせ︒サア御息所詩姫の隠レ家を白状あれ︒いやとよ妻の詩には︒
二ぞ ハル 色 詞 よし去年の冬引別れ︒今はいっくに︒忍び居るやら露しらず︒ム︑しからは御ン弟大塔ノ宮の行衡は何ンと︒ヲ︑大塔ノ宮は村上義
﹃風俗太平記﹄ 七三
﹃風俗太平記﹄ 七四
てる そくゆう 地中 ハル そうぺうしやしよく ちかひ 中 フシ輝︒赤松則祐を召っれて︒熊野のかたへと聞し計リ︒其外の事共は︒宗廟社稜を誓に立て︒しらざるぞや︒ ︑レ 詞 とふ しゆつくはい らち 地ハル 色 〃引二し 色 ハル ヱ︑何を問ても述懐涙で埼明ず︒っれて立と突き放せは︒駿河ノ守承り誰か有ル︒牢輿もてと一の宮の御手を引立︒有井
フ一ン諸共無体に打込奉れは︒
詞 いくさ かちんぞめ ぢん まく れい入道つ︑立コリャく範貞︒いっとても軍に討勝たる上にては︒掲布染に陳一五オ一幕を染るが︒当家代々の吉例成ルぞ︒
せんかく 地ウ もら さいばん 中 ウ じつ しやうらく ウ る す先格に任せ其用意致べし︒京都には宮方の討洩されの詮義︒裁判する事おほかるべし︒不日に入道上洛せん︒其留守中鎌
さぱき はから フシ倉の取捌は︒二階堂出羽一前司が計ひたらんとつどくに下知あれは︒
表具ふし 中 ハル ︑ 中 かく ハルキンクル からうたひめ ウ ハル おし ろうこしの物見より︒宮は御ン顔さし出し斯有べきと期したらは︒都に残る︒我つまの︒詩 姫にも暇乞︒名残を惜み別
ウ スエテ 中ナヲスれん物︒任せざる世の中やと︒歎きしづませ給ひける︒
地ハル ウ 詞 は︑︑か くりこと ろう二し 色 のりさだ ハル けい一︑一 ウ ヤァ此入道が目通リ共揮らす未練の誇︒牢輿急げとせり立れは︒範貞主従一の宮を警固して︒都をさして帰︵五ウ︶ら
中キン よ ・ ウ ゐふう ウる・其名も代々に高時の︒威風はげしき鎌倉山うごかぬ︒御代こそ三重へ久しけれ︒ ︑レ ノ ウ
ハルフシたつみ中 はしひめウ ちやしおんなあるじ りん 中いへなうはなりめうりん
都の巽︒宇治の里︒橋姫の宮居に近き茶師の家︒女主が其以前倍気深きをいつとなく︒家名に呼ンで妬屋の妙琳と︒ハル かんぱん ゑがくてつぢやうきぢよ めん フシしにせも古き看板に︒画鉄杖鬼女の面︒よし有げにぞ見へにける︒
地ハル 色 詞 みやす橋を渡一ていそく来る所のあるき︒お宿にござるかかみ様︒けふ平等院へ六波羅様がお出なされ︒一の宮様の御息所
からうた みずいじん はだ たけぷん 地ハル のれんウ 色 詞詩姫︒御随身の秦ノ武文の隠レ家を御詮義と︒聞より妙琳暖簾おし明ヶ立出て︒イヤくそんな覚はござらぬ︒ヲ・隠し置てい
地ハル フシ どうざい そにん はうひ いへなみかどたはる者は同罪との云付︒御息所と武文を︒︵六オ︶訴人する者あらは︒御褒美は望次第と︒家並門並ふれて行︒
キン フシ ハル7ン負 中 ウ みそじ ハル かづき ウ 一︑ ︒ウ あんない都に目馴ぬ︒だてもやう︒二八計リの小娘に三十余リのは・き・の被も同じだんカはり 供の女に案内させて入来れは︒
司 あたひ かんぱん jレハどなたかは存ぜね共︒お茶の御用なら何成と︒価やすふでさし上ませふ︒イヤ茶は所望になし︒鬼女の面の看板を目
もくあ み りん あは はりま当テに来りしが︒木阿弥の後家妙琳とは︒アィ私でござります︒ヲ︑っいに逢ねは見知リは有まじ︒自は播磨ノ国︒赤松次郎判
のり はぎ 地ウ ちはや ハル 色 みやうが フシ官則村が妻萩の戸︒乙の娘禰の前と名のり給へは︒コレ一く冥加ない御尋とほたくすれは︒
仰ヤなふ妙琳・自親子連レで磁りしは・一六ウ一夫−円心殿に逢んため︒都千本通−の撃へ尋しかど︒折ふし他行ゆへ其帰 色 ようし 地ウ ハル ちはや 詞るさ︒此所へ立寄しは我娘を︒こなたへ養子にやりたい望ミと︒思ひがけなき仰に驚く欄のまへ︒申母上︒自にも合点さ さぞせず︒そりやまあ何おつしゃる︒ヲ︑不しんは道理︒妙琳も晦一合点が行まい︒そもじの連合イ木阿弥の存生の時には︒夫ト赤 地ウ ニんい よんど二ろ ハル 色 詞 ︑︑松殿懇意になされし︒昔のよしみを思ひ出し︒拠 なき此頼ミとの給へは︒妙琳さし寄︒思ひもよらぬ仰︒様子はとうで
ござりますと・影は北がかた・畑一日都にて人の噂を聞ヶは・後醍醐−天皇様を郡倣の為︒宇治平等院へ六波羅の錦餓︒駿
河ノ一七オ一守の議といふ・女でこそ有ふけれ・朝恩深き赤松がつまの萩の戸︒離捨には成がたし︒召っれし娘をそもじ
︑レ 中 ハル 〃引し ウ はせ みかど てうぷく さまたげ かくニ ウ ぢはや こ づま くはいへ養子にやり︒自は平等院へ走行︒帝様の調伏を妨て︒切死にする覚悟と︒の給ふ内より欄のまへ︒小楯り︑しく懐
けん 色 詞 いひなづけ 地ハル 色剣を引そばめ︒中母様︒多治見四郎次郎殿に云号の自ラ︒帝様への忠義とあれは︒一所にお供致ますと︒いふをねめ付コリャ
剥 かうさん さむらいうろたへ者︒松ことに云号の四郎次郎は︒相模入道へ降参して︒今では六波羅の侍ヱ︑イ︒そんならわたしはおまへと一所
地h 中 7ン ハルに︒行事はならぬかへ︒ハァ︒はつと計にかっぱとふし︒とかふ詞も泣計リ︒
辮始終を聞ボも・軒萩一七ウ一の戸様︒敵へ襲なされしは四郎次郎様計じやない︒甲心様も鎌倉へ︒お味方なされ
﹃風俗太平記﹄ 七五
﹃風俗太平記﹄ 七六
ましたぞへ︒珊それは誠かほんかいのと︒ポはて給へは・刑・御隷なさ予筈・島△一イに稀て成と・帝様へ嚢を立る
お心でござりますか︒サアそれじやによって︒足手まとひになる此娘を︒養子にしんぜたいといふ事︒ア・然らは私が子にし
はしちか さかづき 地ウ ハル フシてお預リ申ます︒麦は端近︒奥へいて親子の盃致シましよ︒それは嬉しや姫こちへと︒打つれ奥に入給ふ︒
三下リハルがらす中 ウ 中ハル色 ウたいニハルキン中じハル色 ウ 色ウ
ねむた烏をそ︑ぐりおこし︒あけの一イく︒あけの太鼓にサおの字を付て︒一リャく︒ゆふべ近よるヒャ一︒りえりく ナヲス 色 ウ 中 ウキン きゃくがらす色 ハル 中 ︑レ ハルフシ 中り限リの太鼓︒マサナヵナ︒嬉し︒たうとし有難がらすの客鳥まこ︒︵八オ︶とにさんや汕︒九条の里に︒隠レなき︒今紫をウねびき ハル 中 つれ小ヲクリ うわなり フシ根引の大臣︒多治見四郎次郎国長が︒夫婦めかする二人リ連たれも︒ねたまん妬屋の︒表まぢかくさしか︑り︒
詞 わすれ かんばん めん 地ウ ハル フシ久しぶりでも見忘ぬは︒看板の鬼女の面︒サァくかふと案内なし︒ずつとはいるも親の内︒
﹄ 色 詐 地ハル ゑい ちどり 司 たしなま コレ大夫︒四郎次郎国長といふ︒花知耳がきたといやいのと︒ほろ酔きげんの衡足︒邦・正体もない嗜しやんせ︒こりや ハル 地ウ ちはや 色 詞母様はどこへぞと︒見廻す所へ欄のまへ立出て︒今あれにて様子を聞ヶは︒扱はおまへが︒多治見四郎次郎様でござんす ハル
︑一 地ウ ︑ あいさつ 色 詞 なれ とがめ ちやつみカと︒おもはゆげに挨拶あれは今紫︒ハアこなさんは見馴ぬ人と各られて︒イヱわたしは今参リの茶摘女子で︵八ウ︶ござん
地ハル ウ フシすと︒口にはいへど目づかひは殿御見とる・計也︒
地色ウ いろ一︐一のみ 色 詞 っま ちやつみ 色好の国長近く寄て︒ハレじんじやうな爪はづれ︒茶摘女にして置クはあたら物︒引上ヶて此四郎次郎が奥是なる今紫が︒
手廻りでっかふてくれふ︒エ︑イ︒そんならあなたがおまへの奥様かへ︒何ンのいなわしや九条の傾城︒けふ国長様に識出さ
のち 地ウまれ︒か︑様に逢イに来やんした︒イヱ妙琳様は今お客が有て奥にでござんす︒後にお逢イなされませ︒此問にちょっとわしや
ハル 色 詞 いひ弩け 圭尋たい事がある︒あの四郎次郎様には︒外にお云号の奥様が有げな︒おまへはそれを知ツてかへ︒ホ・:いき過た事を問人︒
かさねなじみ重た今紫︒それしらいでよい物か︒サァそれ︵九オ︶と知ツて受出され︒其云号のお方へ聞へたら何ンとさしやんす︒
ハテそもじの桝かせにならぬ事︒よしない世話をやきやんなと︒破パとさすれは畔郎次郎︒切レやくたいもない事腹立て︒
地ハル ウつかへ むつま ウ ちはや あけ むらさき 中フシ溶おこしてたもんなと︒中睦じきを見るに付ヶ︒顔は上気の欄のまへ朱をうばふて紫も腹立涙せきあへず︒
地ハル かく ウ 色 のけ 詞 けいせい あい とのたち りんき 斯と聞より奥より出る二人の母︒互イに娘を引除て︒コリャ君傾城を愛するは殿達の有ならひ︒日頃より倍気すなと︒云聞
地ウ ふるまい ハル ウ いかり さう かんぱん きじよせたは麦の事︒それを忘レてはしたない振廻︒顔は血筋に目は血ばしり︒盆の相はあの看板の鬼女の面に︒ひとしきとは
色 司 こんじやう 地ハル 色 詞思はぬか︒苗一根性で赤松の娘一九ウ︶といはれふかと︒聞もあへず四郎次郎︒ヒャァそふおっしやるは円心殿の奥方︒此国
ちはや 地ハル はぢ ウ ウ ゆる長に云号の︒欄の前とはおことよなと︒いふに紫恥入て︒しらぬ事とてお姫様︒御赦されて下さりませ︒イヤくこなたに 色 詞ウ ウ たいめん むこ はづか つれ しゆつけ そだて無理はない︒にくいのは此娘︒始メての対面に︒知耳殿の手前も恥しい︒連合イ赤松殿は︒先年出家なされ母計で育しゆへ
地ハル そしり おし スヱテ 中と︒人々の訓を受るが口惜ひと︒むせび給へは︒
司 わかいじぷん めんぼく もくあ み しつと うとみデ・お道理く︒こんな事を聞クに付︒此妙琳が︒若時分の事を思ひ出して面目ない︒夫木阿弥わらはが疾妬ふかきを疎︒
ウ ウ じゆすい 地ウ ハル けい せいぼうこう まづしあの宇治橋より入水するとの書置残し︒八年以前に相果られ︒一人の娘に︒傾︵十オ︶城奉公さす様な︒貧ひくらしして
色 司 いひふくめ もら 地ウ ハル居れは︒秋が云含四郎次郎様に︒身受をして貰ひしかと︒皆様のおさげしみもはづかしい︒連合の存生の時より御恩をう
ウ やしなひ 色 詞 地ハル ウけし︒赤松様の御前ン様︒養姫へ義理立て︒紫は勘当いたします︒どっちへ成共出て行ヶと︒引立れは欄のまへ︒イヤなん
スヱテ 中ぼでも勘当はさせませぬと︒すがりとむれは
ハル 色 ハル 色 詞 しんてい 四郎次郎︒妙琳を引のけ︒ヤァ欄の前も紫もさはがししとおししづめ︒いづれもの心底を見と︑け︒一ト通りを申聞ヶる︒
﹃風俗太平記﹄ 七七
﹃風俗太平記﹄ 七八
さがみ かうさん けいりやく お き はいしよ某宮方をふり捨︒相模入道へ降参したは元ト計略︒然るに後醍醐ノ天皇には︒何とぞ隠岐の配所を︒ぬけ出んとの御︵十
くはだて かしづき た︑・あき ひそか 地ウ ゥウ︶企︒それに付︒御用金入用のよし︒伝の三位殿忠顕卿より︒密に我方へ申来る︒事急に金子の才覚成がたく︒此 色 ノj カり 諦 さ︑げ国長が軍用の金と偽り︒六波羅より︒五百両の金子を借受て︒直クに隠岐の配所へ捧奉り︒其金の行衛を︒隠さんが為の
ぐるひ︒ きいほう高 至はしようこ 地ウ傾城狂 今紫が身受は所持の財宝を売代なして致たれ共︒我本心より色に迷ぬ証拠には暇をくれる︒必恨と思ふなと始メ
ノ﹄ ウ 色 司て明す国長が︒忠義の心底聞に付︒人々かんずる其中に悲しき者は今紫︒歎クをせいして北のかた︒邦・夫トと親に見放され
悲しいは道理︒そもじの事は自が身にかへてもあしくはせじ︒コレ国一士オ一長殿︒こなたは菱に︒べんくとして居る
てうぷく もよほ所じや有まい︒けふ平等院にて後醍醐ノ天皇様を︒調伏する敵の催し︒ヤァ扱は今日六波羅より︒駿河ノ守の参詣と聞しが︒
地ハル ウ 色 詞 さまたげ其企とはしらず︒よしなき事に隙取たり︒直に是より平等院へかけ付︒一命かけて調伏の妨し︒それより拙者は都をひら 地ハル あつめ いさぎよ かし二まつ フシ かけりき︒諸国の官軍駈集ん︒ヲ︑知耳殿潔し早ござれ︒畏 たと一さんに平等院へと翔行︒
地色ハル 色 詞 コレなふ申と紫欄したひ歎くを北のかたおしとどめ︒ナフ妙琳︒自も麦に長居は敵への聞へ悼有︒本国へ立帰らん︒幸イ麦
ひろ 地ハル 中ハルフシ 中ハル ウニ・ろざし かいほう
によい娘︒拾ひ上て我子にせんと︒今紫が手を取て︒立出︵十一ウ︶給へは妙琳は︒お志の有難やと︒欄の前を介抱し︒色 クル ウ ウ ウそんならおさらは︒さらはと互イに︒娘を取かゆれは︒見送る姫君見かへる紫︒萩の戸御前に打連立引別レ︒てぞ三重へ帰リ
ける︒
地ウ 一ル ゆき 中 しもだいニウ はいくはい 訂婁と と喜く舛やうぽん おの ウ 都より宇治へ住来の夜ルの道︒下の醍醐の松原に俳個する︒大倭日本左衛門といふ盗賊の張本有︒己が不敵の大鳥に ハル ちよつか みそさ︑︑い ウ だう はうつ とぷはがい くれ でぱり ひか人を直下と鶴鵡︒五畿七道に榑て飛翅の下タに付廻る︒手下の者共大勢引ぐし︒暮ぬ内から出張して︒道筋ふさぎ加へ
貫しは関をすへたるごとく也︒ ウ 地色中 くはんく ハル こし色 詞 二ぱたらき つ︑ばり 日本左衛門桓々と小高き木の根に腰打かけ︒此間は方々へ手分して遣したる︒小働の辻張めらもよい鳥がか・らぬや
かいだうら︒︵十ニオ︶しこためを持ツてもうせず︒此街道もがらくた計リ行かいすれは︒ほつこりとしために出合ぬ︒ナントわいらは︒
み・ぷと 地フシ ウ くまたか 色 詞耳太な沙汰も聞ぬか︒とふかくと尋れは︒数多の中より目の光る鶴の弥惣っ・と出︒旦那はお聞なされずか︒此たび赤
しんぐはんあじやり てうふく けんもつむねなり もり松が預リ置し︒大塔ノ宮の御ン旗鎌倉殿へさし上しを︒平等院の真観阿閣梨へ調伏を頼まん為︒安藤監物宗成が守奉り先達
ひたすらすすめ せういんて来りしに︒又此問六波羅殿も立越ヱられ︒一向勧らる・といへ共承引なきゆへ︒今日都へ帰らる・よし︒待ぶせしてう
しゆつ せ たね 地ハル ウ めんしよく ぢやう せつ み︑より ハルばひ取リ︒天皇一さし上給は嘉出世の種ならんと︒咄す内より驚く面色︒ヤ︑そりや定一十ニウ一説か耳寄く︒天よ 色 きづく さいはい 詞 はたり授る身の福 ︒今にも来らば籏もばい取リ︒大将も引ぱいでくれん︒いぢはらば片はしばらして引ツたくれ︒必ぬかるな 地ウ かしこまつ りきみ ウ ハル めくぎ フシ油断すな︒畏 たと力味出し︒面々大だら目釘をしめし︒手ぐすね引イて待所へ︒
地中 色 おも ウ にな なま かね くまたか一イくくさっくさ︒さってもゑらいは重たいはと︒さし荷ふてくる二人づれ︒銭か銀かと鶴が呈むき出しすかし寄︒
まう っかん 色 ウ 色 詞 つら棒ばな掴でコリャ待おらふと︒声かけられてわっと飛のき︒待テとは何ンの御用でござります︒ヤこいっとぼけた頬するやっ︒
さかて きかて たいがい つまみせに けうとい かりそめ何の用とはしれた事︒此荷を酒代に置て行ヶヱ︑イ︒酒代とあればまあ大概が孤銭︒此荷を置ヶとは気疎望︑︑︑︒仮初︵十三オ︶
いなり とみながら五十貫︒たった今稲荷様の一の富︒突キ当ったもこっちに丁どあての有ル銭︒ねぎりこぎりするではないが物は談合︒
ばかつ かいだう何ンと二三百で︒といふては中々了簡なされまい︒思ひ切てすとんと一貫しんぜましよ︒馬鹿つらめがつくし上れ︒此街道
はながみ かく二 ︑ ふんどし ぱぐ︑を通るやっら︒あた・かに鼻紙一枚︒からだに付ヶちやかへさぬはい︒ごたくばらずと覚悟ひろげ揮迄引剥ぞ︒ヤァそりや
﹃風俗太平記﹄ 七九
﹃風俗太平記﹄ 八○
地ウ フシ まかせあんまりむごたらしい︒そんなら十貫ヤまだあまいほうげたきく︒サァ皆寄て片付いヲット任と立か・る︒
地色ハル 色 詞 げうさん日本左衛門声をかけヤィまてく︒一レ仰山な者共︒めくさり銭の五十貫︒古一わん一十三ウ一ばうのきれ何にする︒取た
たから むなとらぬに海上はない︒世話やかずと通せく︒イヤそりや旦那あんまり御了簡過る︒宝の山に入リながら空しくかへすは︒
しき 二んじやう残多イといふ事かハ︑︑︑︑︒それ式を宝の山と︒其ちいさい根性では︒一生手下にへちまふて立身は得せまい︒コリャく二人
ゆるす かしら かくぺつの者︒身が赦からどこ迄も気遣イない︒道おっひらいて早く帰れさ︒サッテモ嬉しや有難や︒アお頭の気は格別︒大きい所が
地ウ ハル ふいてう 色日本左衡門︒お顔も見知ツておりまする︒おじひな事を立帰ツて庄屋殿に風聴し︒急度お礼にそれぬかしてよい物かと︒
ウくまたか ねめ そさう 色 詞 だい とみ ぬすぴと鴉 に睨付られホンニ麓相なこりやいはぬ事︒其代我等が富取た︵十四オ︶事も︒沙汰なにして下さりませ︒盗人が聞おった 地ウ おどりこみ かきね そさう ウ ハル ま ウら踊込にきおりましよと︒重て麓相又露相︒又もや御意のかはらぬ問に︒ひあいな此銭何事なふ︒急で我家へお供せいせ
かた フシいく肩せいゑいさっさと飛がごとくに急行︒ 色 地ハル うつ ウ けんもつむねなり ウ はた フシ あゆみより 時も移さず供人引ぐし急き来るは安藤監物宗成︒箱にこめたる日月の旗︒自身たづさへ松原ちかく歩寄
詞 すねぽね 地ハルヤァ家来共︒平等院を出しは九っ︒日の内に都へ着んと思ひの外︒夜に入たは油断く︒脚骨かためてぼし付ん参れく
色 ウ す・み てうちん おと ぴつく ウ まな二 にぐと気をいらち︒行を窺ふ手下の者共︒先キに進し提灯はっしと切落せは︒家来は拘りうろたへ眼︒逃るをぼっかけ無ニ
フ一ン無三切付く追て一十四ウ一行︒
地ハル 色 詞 らうぜき のが 地ウ よこ はねとぱ 思ひがけなき安藤監物︒ヤァ狼籍者遁さじと払ふ刀を日本左衛門︒横になぐって翻飛し︒切付るをまっかせと︒持たる箱
にてくはっしと受れば︒箱は砕て日月の御旗二っにずっはと切レ︒あまる切先キ監物がまっかうじやっぶり切込れ︒眼も
と うしな ウ ぬま よ二きれ 7ンくらむくらやみに︒途を失ってうろたへ廻り︒道なき沼を横切に命から▲\逃てげり︒
地ウ かく くまたか 7ン 斯共しらず手下の者共︒ 鶴を先キに立テ追々にかけ戻り︒
詞 ざうさ うぱひ わつ まん 旦那御ン旗は何ンとなされた︒ナントハ何の雑作もなく︒奪取たる是を見よ︒我ヵ切付ヶしを受る拍子︒箱ぶち破て御旗の真 地ウなか もつたい おそれ かり じやう ウ ウ くつきやう こずへ中︒ニッに切たは勿体なし恐有︒仮にも不浄の地に置れず︒ホ︑思ひ付たり︒是こそ究寛よき所︵十五オ︶と︒松の梢に
うで のば フシ腕さし延しうやくしくしげみにかけ︒
諦 うつ先ツ一色は片付た︒此六波羅はなぜこない︒イヤ最前より時移れば定て追付ヶ︒工︑いか様程は有まい︒ソレく兼て云付置た︒
てつはう 地ハル 中 くぱり ヲクリ フシ鉄砲の用意せいハット一度に立か・り︒そこよ麦よと面々が︒手分ヶ手配しめし合せ松原︒へ深く忍ひ入ル︒
詞 そなへ でうちん そろへ ながはおりありやくく︒六波羅殿のお通りだ︒片付く先キのけろ︒まっ先キ備の立提灯︒っ二て揃の長羽織︒大小ほっ込
ウ ハル 中 ウ も︑だち 地ハル 中 はいがいくつわ たづな ウ ゐせいさかん わかみどり ときわ のりきだ高股立︒手ふる袖ふるはいくく︒要轡に諸手綱︒馬上ゆこく乗ツたるは︒威勢盛の若緑︒常盤駿河ノ守範貞︒ゑ
暑うぞくぼし装束花︒やかなる︒ 中コハリ 地色中 ぞヘ ウ ひてかど きんじゆ ウ りつぱ かさる きんもんせい ひ はさみぱこ色 ウ つい お馬添には松田五郎秀門︒近習小性に至ル迄立派を飾供廻り︒金絞青︵十五ウ︶皮の挟箱だい笠︒たて笠大鳥毛︒対の
やりもちくつか二もち れつ 地ハル ウ ウ なわ ひなわ 中鑓持沓籠持︒列をたして打タせたり︒それと見るより日本左衛門︒っるべ縄にひとしき火縄たづさへゆるぎ出︒ソレと一ト
ウ け よる ウ わかたう 色 やつ げうてん ハル声かくるやいな︒ぱらくと寄手下の者︒待ふくと先キをふさげばかち若党︒コリャ何奴と仰天はいもう︒松田五郎もきよ 色 ぎおく 詞 かいだう はいくはい たうぞく おいっとせしカ憶せぬ顔︒ム︑こりやうぬらは聞及ぶ︒此街道を俳個する盗賊めらだな︒コリャやい誰レ有ふ︒当時鎌倉殿の甥の
ときは にげか︑・むはづ じやま じめつ ま かもの なわ殿︒常盤駿河ノ守のお通りときかば︒おぢ恐レて逃屈筈︒出しやばって邪魔ひろぐは︒自滅をまねく雨鹿者共︒片ツぱし縄
﹃風俗太平記﹄ 八一
﹁風俗太平記﹄ 八二 ゆるぶって都へ引クやっらなれ共︒此松田五郎が了簡今は赦す︒有難く思ってとうく立一十六オ一去レ︒いぢばると手は見せ
地ウ そり フシぬと反打てねめ付れは︒
地色ハル 色 調 あぢ日本左衛門大口明イてからくと打笑イ︒コリャちっぺいめが刀ざんはい︒ぴこくと味をやるよ︒六波羅殿合点た︒駿河ノ
また守よく知たがうぬはコリャ︒身が事をしらないな︒六十余州を股にかけ︒三千余人の手下をっかへは︒名さへ日本左衛門と呼
あまね とうぞく かしら きら かうけ ︒ れ︒普く一天四海に隠レなき︒盗賊仲間のお頭だ︒性としてこひっいた事が嫌ひ︒大名公家を引ツぱげは︒こさくと手
とき しあん うん のがれ こ問隙いらず︒一時にあた・まる思案︒出っくはしたはうぬらが不運︒ほへづらかかふが︒蜘舞をひろがふが速モ遁ぬ︒小
竃はかずときりくぬげと・撃く共せぬ概た斑い・利敵にも又恐しし︒
地色ウ かく 中 ウ ハル 中 ウ 斯共しらず︵十六ウ︶多治見四郎次郎国長︒六波羅殿の御共もおくればせにかけ来り︒此体を見て驚キしが︒子細こそ有 フシ ハル はないきルらめ窺イ見んとくらきを幸イ︒さし足ぬき足松がへを︒取より早くきうゑんの︒こづたふこどくよぢのぼり鼻息もせず聞居
たる︒ 地ハル しじう 色 詞 たう ふ婁いあつはれく 駿河ノ守馬上より始終を見下し︒今天下一統我ヵゐせいに随ツて︒詞をかへす者もなきに不敵の振廻適々︒其根づよき性
たうぞく ぱくたい 地ウ がうき っや根を以テ︒盗賊するはあたら事︒我レにっかへは莫太の所領をあたへん︒返答いかに何ンとくと︒強気になづむ詞の艶︒聞
ハル 色 うなづ 詞 たましい か︑へてほくく打点き︒主持タぬ身のやり放し︒所領は望︑︑︑にあらね共︒此日本左衛門が魂を見込ンで︒召抱んとはこりや面
さつそく むね白し︒早速おつと云イたいが︵十七オ︶ちと存る旨あれは︒此義は追てお返事申そふ︒それはそれ是は是︒先ツさし当つて
我商売に遠慮はない︒法に任て残らず引ツぱぐ裸にする︒ソレく片はしぬがせくといふに松田が又ぎしやばり︒聞分な
地ウ つぱ フシき盗賊共︒手をかけたら打放すと︒鍔打た・けば家来も口々︒ぬがぬくとぎしみ寄︒
ヤァめんだうな手問くらい︒一々みぢんにしてくれんと︒相図の火縄打ふれは︒松原一面ばらくと数も限らぬ鉄砲の︒
地ハル ほたるび 7ン てら 二と火縄の光リきらくと︒星かあらぬか蛍火のむらがり照すに異ならず︒
地ウ 中フシ ー のりさだ ハル すね ひざ 詣 ︑範貞松田は是を見て︒はっと仰天色まっさお︒数多の家来は脚すはらす膝ぶしがたくふるひ出す︒サァとふじやぬカね 地中は一十七ウ一一度に火ぶたをきらすが何ンとく︒一︑これくぬぎますく︒ヤレこはや恐しゃ︒命チにかへる物はない︒渡
まつはだか きるものフシすくと帯引ほどき真裸︒手一々に着物さし出せは︒
砦ウ さしづ隻いわくウ ハル かたみ はぜひに及ず松田もぐるくすっぽりぬげは︒差詰迷惑駿河ノ守︒襯一っに風折ゑぽし︒肩身すぼめてしよんぼりと︒歯の
どう フシ根も合ぬ胴ふるひ︒見ぐるしかりける有様也︒
地ウ 色 詞 地ウ さむ ハル 色日本左衛門にっこと打ゑみ︒ホ︑心地よいく︒もふ用はない皆つ・走れと︒ぼつ立られて松田五郎︒寒さこたへて両手
司 地ハル 中 うなづ ウ しりめをっき︒審君にはお馬に召れ然べう侯と︒申上れはしぶくに打点き︒うらめしそふに左衛門が顔を尻目にかけながら︒
たづな 色 フシ ︑手綱つかんでゆらりとのれば︒笛は口に引一一十八オ一添てお立︒くと呼はるにぞ︒
地ハル ニたへ わかとう 色 詞 に からだ一ツト答てかち若党︒二行にならんでおっ立ろ︒先のけくくろ︒夕べに今ン夜は似ざりけり︒夜嵐骸にっこ一たへる︒
じばん はなとがらしかぢってすり付ろ︒裸で道中なる物か︒旦那も襯で寒やら︒お鼻にっら・が見へ申す︒すくむなかぢけなヤレふれ
やり まかせ 地ウく︒ふらふもねらふも鑓がない︒ないとてふらいでょい物か︒面ン々持鑓毛鑓ふれ︒合点だ任ろすっくす︒すっぺり
すはだ フシ素肌の都入とざんざめかして急行︒
﹃風俗太平記﹄ 八三
︐風俗太平記﹄ 八四
地中 とうぞく ウ ウ ハル 色 詞 かしら跡見送一て盗賊共︒又も相図の手拍子に︒松原よりばらくと大勢火縄持一て出︒お頭首尾よふ参りました︒ヲ︑サく︒
そろつ てつはう もろこし扱打揃たばか者共でないか︒鉄砲といふ物唐には用れ︵十八ウ︶共︒いまだ日本へ渡らざる事気も付ヵず︒松に付置ク火
てつぽう はが ぐる 地中 いつかど 色 詞 いるい かし二まつ縄を︒誠の鉄砲と思ひおぢ恐れ︒剥れたざまの見苦しさ︒何ンでも一廉仕合セした︒ソレく衣類残らず持かへれ︒畏たと
ウ 地ウ地中 フシあつむ くまたか色 詞 せつかく ウ手下の者共取集れは鴉がコレくお旦那︒曇則松にかけ置れた日月の御旗︒折角うばひ取た物︒必お忘レなさるなと︒心を
付てサ喜こい︒いんで今夜の祝事︒料理こしらへ旦那を待ふ︒よかろくと手々に衣類肩にかけいさみ進で立かへれは︒
二すヘ ウ くつきやう うぱひ ちくてん うで ハル ウ梢に窺ふ四郎次郎︒御旗と聞イて究寛く︒奪取て逐電せんと︒腕差延しむんずと掘ムもまっくらがり︒日本左衛門すか ウ ウ やり ぬきし見て︒扱こそしれ者ごさんなれと︒︵十九オ︶鑓おつ取て突かくるをひらりとかはし飛ンでおり︒抜打に切付るを丁ど受
色 ウ ウ ゑ ウフシ 詞ノリ留メ打ひらき︒引ヶは付込︑︑︑はらへは切込ムとたんの拍子︒鑓の柄はっしと切落せば︒刀はほっきと折飛だり︒コリャとったは 地ハル かいな ふみ ウ かみと日本左衛門︒さし込ム手先キをしっかと取︒腕もぢりに打かへすどっこいさせぬと踏と︑・まつてゑり髪たぶさ︒互イに取 色 ねぢ 中 ウ ウ ふところ はた つかみ ハルて捻合イもみ合フ赤土原︒すべるをこけじと二人がいどみくんづころんづ︒多治見が持たる懐の籏かい掴︒ひくをやらじ
フシ ウ あらそ くだん かたの ウ 色 ウ ウと譲ふ内に︒二っに切レたる件の籏︒すっぽりぬけて月光打し︒片幅をこなたへ引たくれは︒多治見が手に残りしは日光
みはた ちくてん ハツミフシ計の御旗の半分︒どこをしやうどに逐電の行方︵十九ウ︶しらず成にけり︒
地色中 ウ ほしあか しろかね ハル 詞跡に残って日本左衛門︒星明りにすかし見れは銀にて︒月の形チを打たる御ン旗の半分計リ︒ヤァくく扱は此半分は今の
うぱひ 地ウ すそ フシしれ者めに奪れたるか︒おっかけて取かへさんと︒裾はせ折てかけ出す所へ︒
地ハル ウ 色 詞 ぢんじやう 安藤監物大勢引ぐし取てかへし︒ヤァけちぶとい盗賊め︒大切なる日月の旗うぬらが持ツては犬に小判︒尋常にかへせば
い ぎ 地ウ ウ 色 詞 地ハルよし︒異義に及ぶとおっ取まいて討取ルといへ共ぐっ共すっ共いはずあざ笑ツてっ・立テは︒ヤァおさめ過たどろぼうめ︒ま
中 よは二し ウ フシっふたつにしてくれんと切てか・るをかいくり︒そっくび骸ひっ掴ンで打付れは︒松の立チ木にすかうべぴつしやりみ
くだけぢんに砕死てけり︒
地ハル なみ ウ 色 ウ ウ手並に三十オ一こりぬ家来共︒抜キつれくおめいてか・るをまっかせと︒弓手になぐりめてに打ふせ切たおし︒四角
フシ つめ八面追立追詰おつちらし︒ ウ 地色中 色 ウ ウ さいはい ウ がうせいこんもうヲ︑気味よしく心地よし︒よしく此旗手に入れは︒天皇方にたよる手がら身の福︒又六波羅にも我強勢懇望あれ
は両手にぶらく︒提くらぶる立身出世は思ひのま・︒元トより手下タは三千人︒六十余州に名を得し者共︒不日に招き召 ウ連レなは︒どちらにっく共一方の軍大将案の内と︒いさみす・みし勢ひは︒異国の盗躁我朝の熊坂の長範にも︒逢まさり
よたう 色 キン つたへ ほまれし夜盗の張本ン︒其名も高き日本左衛門︒よ・に伝て隠レなき誉を︒長ク残しける︵二十ウ︶
第二
すみ きし みどり いくよ みづかき ウ ハルみやはしら たて う二き 本フシ いのり かみもふで 住の江の岸の姫松︒緑なし︒幾世へぬらん瑞鰹や四所明神の宮柱︒ふとしき建て動なき︒御代を祈の神詣︒
地色中 さつき ウ おぽろ ふる しゃぢく ハル だしぎぬよそほ 中 ウ みやす からうた ウ 頃しも五月の初メっかた空も騰に降雨の︒車軸もいとはぬ糸毛の車出絹粧ひ召れしは︒一の宮の御息所詩姫︒ぐぶは
みずいじん はだ たけぷん も・だち がさウ ハル と︐・ろか ウ しらはり どろ ウ み名におふ御随身左衛門ノ佐秦ノ武文︒高股立に紅葉傘ながへとり▲\轟す︒数多の仕丁が白張も泥を飛ハして鳥井まへ︒御
車とむれは御息所︒しづくとおりさせ給ひ︒はしたの女召ぐして︒神前に逢拝あれば︒
地 そぱ色 詞 きんけい てだて ばしよ
武文御傍にさし寄ツて︒今日明神へ御参詣と申シ︒か様にお供仕るも一ツの方便︒此度の一乱に危キ︵二十一オ︶場所を﹁風俗太平記﹄ 八五
﹃風俗太平記﹄ 八六やうく しんしよく つ考くに考 にんみん 多漸 まぬがれ︒当社の神職︒津守ノ国夏を頼ミに是迄忍せ申スといへ共︒一天下の人民当時鎌倉六はらの威勢に随ひ︒笑の 地ウ やいぱ とぐ かさ はいしよ かく ハル中に刃を研世の中うかっに月日を重ねん事危し︒是より直クに宮のまします土佐の配所へ御供せん為︒斯ははからひ侯と︒ 色 げに 詞 は︑・かり申上れは実もく︒宮様に引別れ有ルにあられぬ悲しさつらさ︒其時御跡したはんも世間の聞へ偉有リ︒事しづまる迄暫ク
地中 へだて ウ ハル ウ ともなふ待テとそなたのさしづに任せ共︒海山隔し宮の御事案じくらせば夜の目も合ず︒土佐とやらんへ片時も早ふ伴てたも武 ウ うつり 上 キンクル中 ハル フシ文と︒の給ふ内も恋しさと移かはれる世のうさと︒身をしる雨に御袖をしぼり︒兼させ給ひしが︒
地ウ 色 かくおちうど にげかく そひや・有てコレく仕丁の面々︒一二十一ウ一斯落人の身と成て︒麦かしこに逃隠れ︒危き我レを見捨もやらずけふの今迄付添
かたぐ 7シ 地中 ウ ハル あやし 中し︒妾 志忘レはせじ︒去ながら︒是より配所へ趣クに大勢っれては目に立ツて︒怪められんもはかられず︒名残おしくは
ウ ハル みやうりよ クル 中 ナヲス あひ ウ思へ共いづれも暇をとらすべし︒もしも天の冥慮に叶ひ︒又もや君の代とならば︒再び逢見んそれ迄は都に忍びながらへ
ねん一︑一ろ フシよと︒いと懇にの給へは︒
地色ウ 色 詞 せんど ひとへ 地ハル 人々はつと恐レ入︒一命を捨是迄付添イ奉るも︒御先途を見参らせん為いづく迄もぜひ御供︒偏に願イ奉ると︒思ひ込だ
ウ 色 詞 あつぱれ そぱづかへる詞の末︒聞て武文かんじ入︒ホ︑適々︒無二の忠心頼もしし︒併シ今聞る・通り︒弓ン手もめても敵の中︒お傍仕の此
かく二 かたく 地中 ウ女︒某両人御供さへ姿をやっし︒罷下らん覚悟なれば︒︵二十ニオ︶妾 の願イは叶はず︒行クも残るも君の為忠義の道にニ
ウ つき ゆうよ かへつ さまたげ ウ ウ せいハル ウ一はなし︒互に名残は尽せね共猶予有ては却て妨︒とくく都へ帰られよと︒事を分ヶて制するにぞ︒ぜひに及ず顔見合 ウ ウ あられ 中フシ やさしせかへす詞もあら涙︒譲たばしるごとくにて︒立兼るこそ詑けれ︒
地中 ハル 中 ウ すいじんあがた ながむね つまウ 色 詞 くれ 折から向ふの松原よりいきせき急ぎくる女は︒宮の随身縣ノ長宗が妻それと見る間も走リ寄︒ヤァお姫様か︒呉竹か︒久
ていしやく︒自が髪に居る事どうして知一て︒よふ尋ておじやつたの︒ヤァ妹あはたこい体心元トない︒様子はどふじや何一
地一ル やうくいき 色 詞 たんヱ とがめ 言どとくと︒問れて漸息をつぎ︒御存の通り夫ト長宗は︒日頃短慮な生レ付︒べしてもない詞答を根に持一て︒何一の越度 ウ で 地中 はなもない私に暇をやる︒男の子︵二十ニウ︶なれは虎吉は残し置イて︒出てゆけとの無理無体︒我子に離れるが悲しさに色々
わぴ二と色 詞 ゆうりき いつてつたんき ゐのし・と佗一一日したれど︒コリャく妹そりや何をいふ︒汝が夫ト長宗は︒我ヵ相役ながらも其身の勇力を頼︑︑︑に︒一徹短気の猪武者︒
かさきらくじやう とうじ おとづれ いきどほり笠置落城の醐リ︒東寺の戦イに深入リせしと聞キしが︒其以後行衛知レねは︒此方より音信せざるを憤︒おことに暇をく
みれん はいしよ さいしれしと覚たり︒ばかくしく夫トをしたふは未練く︒今御息所様を土佐の配所一お供申す折からなれは︒李が事はうち ウ そい かいはう 二んじやう つれない しかたやつて姫君に付添御介抱申せさ︒但し主にも兄にも見かへ︒夫をしたふ根性か︒イ︑ヤそふではなけれ共難面仕方と知リな ウ ウ あひ いんぐわウ ちじよく ウがら︒思ひ切てもきられぬはたった一人リの虎一一に逢たい一二十三オ一見たいは親の因果義理も恥辱も打忘レ︒ぐどく思
色 やみ 詞 うはさふも子ゆへの闇︒道すがら行かふ人の噂を聞ヶは︒御息所は武文を召っれ此住吉にまします事︒誰がいふ共なく六はらの
じやうぷん たつ す だ 地ウ ハル のか 色上聞に達し︒討手として須田六郎追付是へ来るよし︒かふいふ内も気遣イな早ふあなたを連まして︒立退しやんせといふ
びつく 詞 ゆうよに悔り︒ヤ︑︑︑何討手とはそりや一大事︒妹でかした能クしらせた︒サァく片時も猶予はならぬ︒コレく仕丁の面々︒姫君の
み やつ 地ウま おちのぴ代リに此はしたの女を御車にのせ︒神主方へ引るべし︒討手の奴原御息所と心得追かくるは必定︒其問をはかつて落延ん女 色 色 ウ おし 詞 あまぐ 地中合点か成程く︒姫君のお為とあれば命は惜まぬ︒一︑それく︒ヤィ家来共︒其貿入こなた一と︒ふた押ひらき一二十三 色 二んぞめがつは へうはく せめ そばつかヘウ︶紺染合羽取出し︒漂泊の御身成共責て一人御傍仕と︒あの女が用意は幸イ︒姫君にも召せかへ︒そちも是をと取急ぐ
地ウ ハル しらさぎ ウ トル フシ かけり時しもあれ︒松のしげみに羽音して︒数多の白鷺つらを乱しむらくぱつと飛っれく︒神前さして翔行ク︒
﹃風俗太平記﹄ 八七