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新建築コンペ入選案における正方形プランの類型研究

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Academic year: 2021

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早稲田大学大学院 創造理工学研究科

博士論文審査報告書

戦後アイデア・コンペの実施動向と

新建築コンペ入選案における正方形プランの類型研究

Study on idea competition trends after World War II

and typology of square planning seen in the prize-winning works presented in SHINKENCHIKU Residential Design Competitions

申 請 者

石垣 充

Takashi ISHIGAKI

建築学専攻 建築意匠論研究

20162

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現在、国内では様々な提案型建築設計競技(以降 アイデア・コンペ)が行われている。建築以外 のデザイン分野においても公募型の懸賞競技、コンペ、コンクール、コンテスト等が多く存在し、

優秀案の選定、公平な適者判定の方法として社会的な定着が見られる。これらアイデア・コンペは 戦前から行われているが、戦後の出発点は 1947 年新建築社主催により行われた「十二坪木造住宅國 民住宅懸賞募集」にまで遡ることができる 。このように戦前-戦中-戦後を通じて多くの若い設計 者・学生によって取り組まれているアイデア・コンペではあるが、その提案は実際の建築行為を伴 わず、実施を前提としていない。そのため応募者や設計者のデザイン力修練の機会、トレーニング チャンスとしての評価に留まり、主催者である企業側の安易な開催も見られる。

このような背景に対して著者は、実施では無いがゆえに独自の論点や表現が可能であり、課題内 容も社会背景や世相を敏感に捉えたテーマが多く見られるという、アイデア・コンペの性質に着目 した。また、課題設定者・審査員も当代の代表的建築家や建築評論家が多く担当していることから、

彼らの課題への言説と提案への講評は、その時代の建築に対する認識や展望を表現しているとする。

更に、アイデア・コンペが応募者にとって後の建築家へと成長していく過程での通過儀礼的、登竜 門的機能を果たし、かつ彼らが課題及び課題設定者、審査員あるいは自身が提案によって獲得した 建築的仮説から、以降なんらかの影響を受けていると推察することで、この主題が建築デザイン思 潮との連関に含みをもたせている。その意味で、著者はこのようなアイデア・コンペの要項におけ る課題文章、応募者の提案におけるデザイン、審査員の講評における言説を、設計者や建築家によ る社会のイメージや建築デザインの潮流を知る重要な資料と捉えるのである。

懸賞競技に関する既往研究として戦前の住宅改良会による懸賞競技や、戦後の新建築懸賞など個 別の競技を扱った内容が二編見られるが、“要項−提案−講評”を分析し、アイデア・コンペの実施 動向全体とデザイン変遷を網羅的に捉えたものは見られず、プロジェクト・コンペ偏重の設計競技 研究においてアイデア・コンペは等閑に付され、未着手の研究テーマとなっていた。著者はこのよ うなアイデア・コンペに関する既往研究の欠如を踏まえ、本論文の目的として新建築誌に掲載され るアイデア・コンペの実施動向や各競技における“要項-提案-講評”を分析し、アイデア・コンペ の概略を論じ、それらの年次的変遷や起点、転換・展開期等を考察し、定義付けることを挙げてい る。更に、新建築コンペ(新建築懸賞と新建築競技の総称)入選案の平面外形とプランタイプを穿 鑿し、これら「紙上建築」に対して新建築および住宅特集に掲載される住宅作品、実作を「地上建 築」と捉え、これらを比較分析することも挙げている。このように本論文はアイデア・コンペの通 史における特徴的事象、入選案に含意される先進性や実験性を考察することで、アイデア・コンペ の機能、意義の一端を提示し、アイデア・コンペに客観的な評価を与えることを試みた先駆的論文 であるがゆえに、従来の設計競技研究とは峻別されるべきものといえる。

本論文は序論、四章からなる本論、そして結論の構成となっている。

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序論においては、本論文の研究目的、問題の所在、研究方法と論文構成を述べている。

本論第一章では、戦前-戦中-戦後に行われたアイデア・コンペの実施動向を把握するとともに特 徴的競技を考察することで、本研究の起点となるアイデア・コンペを定義付けている。戦前-戦中- 戦後におけるアイデア・コンペは、それぞれの社会的背景により開催され、戦前の住様式の啓蒙的 役割、戦中の戦役記念建造物などによる国威発揚、戦後混乱期の坪数制限下における小住宅提案へ と、その目的を変化させていく。著者は戦後アイデア・コンペの通史において、高度経済成長期の 1965年に単数審査員による特異な型式「ワンマン・コンペ」として行われた新建築競技1965を、ア イデア・コンペの起点と捉えている。この競技以降、万国博覧会開催などを社会的背景として次第 に開催が活発化する展開期を向かえ、かつ応募者を海外に求める国際コンペの形式も見られるよう になる。その後の経済成長に合わせアイデア・コンペの開催数も増加、1990年前後のバブル経済期 に最も多くの競技が開催される乱立期を向かえるが、その後景気の後退とともにバブル経済期に乱 立したアイデア・コンペが短期間で終了し安定前期を向かえ、2000年代半ばより再び新規のコンペ が見られるようになる安定後期となり、2010年にアイデア・コンペにおける特徴的開催事例である 新建築競技が終了するという実施動向を丁寧に整理している。

本論第二章では、新建築誌に掲載されたアイデア・コンペの“要項-提案-講評”の年次的変化を 分析、把握し、それらの変化が顕著に見られる転換期がどの期間に形成されているのか、また変化 を引き起こした背景の一端を考察している。著者は、1960 年代というアイデア・コンペ初動期にお いて設計条件が付され、所与の問題を解く「問題解決型」の課題が主であったが、1970,73 年に起こ った要項の変化、特に所要図面の変化と主題の変様が提案表現の自由度を拡大したことを、要項の 分析により明らかにしている。この変化後に見られる新建築競技 1975 最上位案は図面表現によらな いイメージ提案であり、以降の建築物によらない非建築的回答の増加を誘導し、多様化していくこ とを、提案の分析により明らかにしている。つまり、設計条件やビルディングタイプ等を要項によ り設定する「問題解決型」の課題形式から、それらを各自設定し提案者が問題を作成し拡張する「問 題拡張型」へと転換していくことを突き止めている。このように、著者により 1965 年から 2010 年 までのアイデア・コンペの流れが俯瞰され、アイデア・コンペの意味的内容が大きく変化する「転 換期」が 1970 年代に見出されたことは、従来のアイデア・コンペ研究には見られない洞察であり、

高く評価できる。

本論第三章では、前章において明らかになったアイデア・コンペの起点であり、転換期を形成す る背景となった新建築コンペを対象として、当該コンペの要項における作品体裁の変遷を分析する とともに、入選案の平面外形とプランタイプの分析を行い、作品体裁の変遷に伴う建築デザインと の対応関係、特徴的プランタイプの存在を考察している。著者は1970年代に見られる作品体裁の大きな 変化として図面表現、空間表現、文章表現の自由設定を挙げる。そしてこの変化が提案表現の任意設定とい

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う自由度を付与し、空間表現、文章表現とともに縮尺率や方位記号を持たない図式的表現が一体的にレイア ウトされるという「図面表現の意味的変化」をもたらしたことを明らかにした。また平面外形を分析するこ とで、公室を南面に配置する東西方向長手外形が減少し、対して増加する正方形外形の提案を膨大な数にの ぼる新建築コンペ入選案から抉出している。このように住宅における採光および間取りの工夫という主題が 後退し、空間の新規性を正方形外形に投影する実験的回答モデルとして正方形プランが多数見られる様にな り、10種の類型が多様に展開していくことを多数の入選案から抽出、確認している点において、従来未着手 であったアイデア・コンペ入選案におけるデザイン変遷の一端が提示されており、今後の当該分野における 研究展開に新しい方向性を与えるものとして大きな成果が認められる。

本論第四章では、新建築コンペの入選案「紙上建築」と新建築および住宅特集に掲載される住宅 作品「地上建築」における、正方形という限定的な平面形状を比較対象として紙上建築と地上建築 における正方形プランの出現動向、類型変遷等双方の対応関係が考察されている。著者は紙上建築 と地上建築において 1952 年という正方形プランの出現初年、1970 年代と 2000 年代に出現率が増加 するという出現動向の同一性を確認し、その一方で面積規模、「間取り型」の占有率、駐車場の計 画、意匠面における差異などの不同性も明らかにしている。また各類型の出現傾向を地上建築へと 敷衍し、実作例が見られず紙上建築の実験性を表出するプランタイプとして「外周諸室型」「複数選 択型」「一室型」、さらに紙上建築が先行出現し地上建築において後発的に同傾向の作品が見られる 先進性を表出する類型として「空間接続型」を見出している。これらは紙上建築における先進性と その役割の重要性を明示するものであり、アイデア・コンペ研究における新たな知見と視点をもたら すものであり、評価すべきものと言える。

結論では、上記の研究成果と、各章の考察結果の要約をもって本論全体のまとめとしている。

以上を要するに、本論文はアイデア・コンペについて、はじめてその歴史的蓄積を文字通りに悉 皆吟味することで、その通史、開催変遷、転換・展開期等を各々の定義付けとともに、明らかにし た先駆的論文と言える。また、アイデア・コンペ入選案の正方形プランの単純な類型化に留まらず、

紙上建築と地上建築における相互関係と意匠論的分析に踏み込んだ考察がなされていることは特筆 すべき試みであり、その成果は建築学の発展に寄与するところが大きい。よって本論文は博士(工 学)の学位論文として相応しいものと認める。

2016年2月 論文審査員

主査 早稲田大学理工学術院教授 工学博士 入江正之 副査 早稲田大学理工学術院教授 古谷誠章 副査 早稲田大学理工学術院准教授 藤井由理

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