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法曹養成のこれまで とこれか ら
安 達 和 志
(本法務研究科委員長)
法曹養成 の中核 を担 う法科大学院 の制度 が2004(平成16)年度 に創設 されてか ら,今年 で9年 目を迎 える。当初 の計画 に相違 して,司法試験 の合格者数 は近年2,000人余 りで停滞 し,合格率 も 年 々低下 して20%台 に落 ちてい る。 この よ うな状況 の もとで,法科大学院へ の総志願者数 は激減 してお り,各法科大学院 における入学定 員の削減 と相 まって,2012年度 の入学者数 はつい に3,150 人 に まで減 ってい る。 その内訳で も法学末修者 よ り法学既修者 の方が多数 を占め るよ うにな り,社 会人や非法学部 出身者 の入学者数 は ます ます減少傾 向にある。他方,先 ごろの総務省 「法曹人 口の 拡大及 び法曹養成制度 の改革 に関す る政策評価書」(2012年4月20日)で は,2002年 の 「司法制 度改革推進計画」 (同年3月19日間議決定) における法曹人 口拡大 の根拠 とな った法的 サ ー ビス需 要 は当初予測 されたほ ど大幅には拡大 ・顕在化 してお らず,現在すでに弁護士 の供給過 多に よる就 職難 の発生等 の課題 が指摘 され る状況 にある との分析 の もと,法科大学院入学定 員の さらな る削減, 他 の法科大学院 との統廃合 の検討,公的支援見直 し指標へ の定 員充足率 の追加 な どが,文科省 に対
して勧告 された。
か くして,社会 に伏在す る数多の法的ニ ーズに応 えて法曹 の裾野 を広 げ,多様 な人材 を確保す る との司法制度改革 の理念 はいつ しか後景 に退 き,法科大学院制度 は縮減 モー ドの負の スパ イ ラルに 陥 ったかの ようにみ える。 しか しなが ら,今 日の社会 において,法曹 に よる支援 を真 に必要 として い る人々に対す る法的サ ー ビスの供給 は,本当に飽和状態 にな ってい るのであ ろ うか。東 日本大震 災後 の復興支援,高齢者福祉問題,子 どもの虐待 ・い じめ自殺 問題, 中小 ・零細企業 の倒産 問題 な どな どを想起す る と,答 えは香 であ る と言 わ ざるをえまい。法科大学院 をめ ぐるこ うした閉塞状況 を切 り開 くためには,何 よりも法曹志願者 を大幅 に増加 させ,多様 な法曹教育 を広 く容認す るよ う な改革 プランが望 まれ る ところで あ り,社会 の様 々な分野で活動 してい る志 ある人 々に とって,紘 曹養成 の場 が よ り魅力 に溢 れ, チ ャ レンジす る価値 のある もの として存在 しなければな らない。
本年7月19日に出 された 中央教育審議会大学分科会法科大学院特別委 員会 「法科大学院教育 の 更 な る充実 に向けた改善方策 につい て (提言)」 に よれば,新制度 の もとでの法科大学院 の修 了者 については,「法曹関係者 のみな らず広 く法律実務 に携 わ る関係者 か ら, 自発的 ・積極 的 な学修意 欲 が高い,判例 や文献等 の法情報調査能力 が高い,法律家 として求 め られ る文書作成能力 が相 当程 度習得 されてい る, コ ミュニケーシ ョン能力 に優 れてい るな ど,法科大学院 の教育課程 を通 じて高 い能力 を習得 してい る との評価 を受 けてい」 る との こ とで ある。 そ うだ とすれば,法科大学院制度 の導入 には一定 の成果が示 されてい る とい えるが, その成果 を定着 させ,い っそ う拡充 してい く方 向で改革への取組 みがな されなければな らないで あ ろ う。 もっとも,他方で同提言 は,司法試験合 格率,入学試験競争倍率 な どの面で法科大学院間の差 が拡大 してい るこ と,標準修業年 限修 了率,
4 法曹養成のこれまでとこれから
司法試験合格率 な どの面 で法学既修者 と法学未修者 との差 が拡大 してい るこ と,2011年 の短答式 試験合格率 が法学既修者81.4%,法学末修者54.1% で あ るのに対 し,短答式試験合格者 の最終合 格率が法学既修者43.5%,法学末修者30%で あ った こ とか ら,「法学末修者 に とっては,特 に短答 式試験 が課題 とな ってい る」 こ とな ども指摘 してい る。
さらに,当初 の理念 に沿 った法科大学院教育 と現状 の司法試験 のあ り方 との間に も,相 当なギ ャ ップがあるので はないか と考 えられ る。合格率が低水準 に とどま り厳 しい競争試験 としての性格 を 多分 に残す司法試験 の現実 を前 に,法科大学院 における教育 が受験対策 に極 めて抑制的で なければ な らない とい う二律背反 を どう乗 り越 えれば よい ので あろ うか。特 に,法学未修者 に とって課題 が 多い とされ る短答式試験 については,法令 や判例 の細 かい知識 を問 うような難易度 の高い 出題 はや めて,基礎的 ・基本的 な問題 に絞 っては どうか。 また,論文式試験 につい て も, 多数 の論点 に関 し 短時間で コンパ ク トな問題整理 を求 める ような広 く浅い論点主義で な く,論点 を絞 って じっ くり考
えさせ るよ うな出題 が増 えるよ うに望 みたい。 この ような司法試験問題 自体 の改善 を含 めて,法科 大学 院教育 が,多様 な人材 を確保 す る との司法制度改革 の理念 に沿 って,社 会 に対す る学生 の興 味 ・関心 を広 げ,たんな る暗記的知識で ない法的素養 や実践的 な判断 ・思考力 を しっか り身 に付 け る場 となるこ とを指 向す る改革構想が,い ま求 め られてい るので はない だ ろ うか。 こ うした取組 み を通 じて,法曹 を志望す る優秀 な学部生や社会人等が, よ り積極的 に法科大学院 に入学す る環境 を 整 えてい く必要があろ う。
現実 には,小規模法科大学院 を取 り巻 く環境 は極 めて厳 しく,統廃合 や撤退 の動 きも生 じてい る。
旧司法試験以来 の合格実績 をもち収容定 員の多い法科大学院へ実力 ある志願者 が集 中 し, その結果 として一部 の法科大学院に志願者 が偏在 し,合格実績 の少 ない法科大学院では よ りい っそ う受験 を 意識 した教育指導 が求 め られ るこ ととな ってい る。 この悪循環 を断 ち切 り,様 々なバ ックボー ンを もって各地域 ・職域 で活躍す る有為 な人材 が確実 に輩出 され るためには,大規模 な法科大学院の定 員 を削減 してで も,全 国各地域 に密着 した小規模法科大学院 を支援 し, その存続 を積極 的 に確保す る施策 こそが求 め られ るのではないだ ろ うか。 これか らの法曹養成 についてその ような淡い期待 を 抱 きつつ も,当面,現下 の厳 しい環境 におかれた私 たちには この悪循環 を克服す る教育力が試 され てい るので あ り,少人数教育 の長所 を最大限に生か しなが ら,高い志 と強 固な意思 をもって努力す る学生一人 ひ とりに対 して,粘 り強 く地道 な指導 を積 み重ねてい くしか ないで あろ う。
なお,本法務研究科では,橡川泰史教授 の ご退職 に ともない,後任 として木下崇准教授 (商法, 研 究者 教 員) が2011年4月1日か ら着任 され て お り, また,森 田明教 授 の ご退職 に ともない, 2011年10月1日よ り後任 に中村俊規教授 (実務家,みな し専任教 員) をお迎 え してい る。退職 さ れたお二人 の先生 には,本法務研究科 の設立準備 の時期か ら, まさ しく本法務研究科 の教 員 スタッ フの中心的 な担い手 として支 えていただいた こ とに深甚 の感謝 を申 し上 げたい。 また,新任 のお二 人 の先生 には,本法務研究科 の教育指導 に新 たな活力 を注入 して くだ さるこ とを期待 しつつ,心か
らの歓迎 の意 を表す る次第である。