― 63 ― 修士論文要約
スマート・ツーリズムにおける観光者の情報取得意志と行動
―訪日中国人大学生を対象として―
Willingness to Acquire Information and Behavior of Tourists in Smart Tourism:
A Case Study of Chinese College Students Visiting Japan
金 海景
JIN Haijing
キーワード:スマート・ツーリズム,観光支援アプリ,情報取得,観光行動
Keywords: Smart Tourism, Tourism Appli
cations, Information Acquisition , Tourist Behavior
1.研究の背景・目的
スマート・ツーリズムとは様々なデータをソー シャルメディアやデジタル追跡などの IT 技術と組 み合わせ,必要とされる情報やサービスによって支 援された観光のことである.スマート・ツーリズム は単にリアルタイムに個人ニーズに合わせた情報を 発信して言葉の通じない地域への個人旅行を可能に するだけでなく,商業や人々の社会的経験,観光地 イメージの形成,そして観光者の行動に変化を与え ていると考えられる.
中国の観光支援アプリの多くは,複数の情報・
サービスをワンストップで提供する「統合型アプリ」
である.統合型アプリ利用率が高い中国人にとって,
観光動機の多くは統合型アプリの利用を通じて短時 間のうちに生成されうる.本研究は,訪日中国人大 学生観光者を事例に,観光者の意志とアプリ上の企 業や評価者が提供する情報とが,いかに結びついて 観光行動となって表出しているのかを解明したもの である.
2.研究の方法
まず,観光支援アプリの機能とアプリ内で提供さ れる情報を整理する.そうすることで観光における アプリの役割と情報源を明らかにする.次に,訪日 中国人大学生を対象に,日本観光におけるアプリ利 用の実態把握を目的に,①調査対象者の基本属性,
②訪日観光時のアプリの利用状況,③重要視してい
る観光情報の種類を中心としてアンケート調査を実 施し,分析する.さらに,訪日中国人大学生の観光 情報取得における意志と行動を把握することを目的 に,2019 年 7 月 21 日から 2019 年 7 月 29 日にかけて,
中国の大学生 8 人に参与観察を行った.対象者に一 日中付き添い,行動や会話,アプリ利用の記録を通 して,観光情報取得意志の有無がアプリやネット上 の情報といかに関連し,行動に結びついていくのか,
その実態を把握した.参与観察の分析結果をもとに,
観光情報取得意志,情報と行動の組合せを類型化す ることで,観光者の意志とアプリ上の企業や評価者 の意図・意志とがいかに結びついて観光行動となっ て表出しているのかを考察する.
3.研究結果の概要
本論文は 5 つの章から構成されている.
第 1 章ではスマート・ツーリズムにおける背景,
先行研究を整理し,研究目的を述べた.
第 2 章では中国人が国内外で利用する観光支援ア プリの機能と情報を分析し,アプリ内情報を①観光 関連会社によって提供される情報,②アプリ側から 提供される情報,③アプリの利用者から提供される 情報,この 3 つに分類した.なかでも,①観光関連 会社によって提供される情報と②アプリ側から直接 提供される情報は,全体的に観光関連業界からの誘 導によって提供されているものである.一方③の場 合,アプリ利用者が評価者側にまわっており,能動 的な情報源の役割も果たしている.
立教観光学研究紀要 第 22 号 2020 年 3 月 St. Paulʼs Annals of Tourism Research No.22 March ʼ20 pp.63-64.
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St. Paul’s Annals of Tourism Research (SAT) No.22
第 3 章では,訪日中国人大学生 55 名へのアンケー ト調査により観光支援アプリの利用と情報取得を分 析した.分析の結果,「翻訳」機能は日本語力「ゼロ」
の回答者によって最も重視され,日本語ができるほ ど自分で観光に必要な「飲食」「宿泊」「観光地」情 報を収集し,手配までする場合が多くなっていた.
一方で,中国のアプリを「使い慣れているから」利 用した人が最も多かった.中国のアプリを利用する 理由はいずれにしても,訪日中国人大学生の観光行 動が観光支援アプリの影響を受けているのは確実だ と考えられる.そして,団体旅行であっても観光支 援アプリの影響を大きく受けているといえる.総じ て統合型アプリのほうが単機能型アプリより利用率 が高いが,特定の機能では単機能型アプリのほうが 上回る.このことから,訪日中国人大学生は統合型 アプリを主として,単機能型アプリを従として使っ ていることがわかる.
第 4 章では,参与観察からみた訪日中国人大学生 のアプリ利用と意思決定のプロセスを分析した.参 与観察の結果の分析をもとに,調査対象者の情報取 得意志とアプリ内情報の関係を類型化した.その際,
どのような情報を取得したいかを明確に意識して検 索することを「明確な情報取得意志」とし,取得し たい情報が明確ではない情報検索を「不明確な情報 取得意志」と定義する.ここで重要なのは,「不明 確な情報取得意志」はスマート・ツーリズムが登場 し,観光支援アプリからの情報取得が可能になって 初めて成り立つケースだということである.これは スマート・ツーリズムの特徴的な点だといえる.そ して,観光者が参照した情報を「アプリ主導」,「評 価者主導,「観光者主導」に分類した.上記の分類 によりアプリ内の情報取得と観光行動の関係を「明 確な情報取得意志,アプリ(業者)主導」「明確な 情報取得意志,評価者主導」「明確な情報取得意志,
観光者主導」,「不明確な情報取得意志,アプリ・業 社主導」,「不明確な情報取得意志,評価者主導」,
そして「不明確な情報取得意志,観光者主導」の 6 つに類型化することができた.
全行動 30 件中 18 件と圧倒的に多かった類型は明 確な情報取得意志を持ってアプリ主導の情報に従っ て行動するパターンである.アプリ主導の情報には 交通情報や位置情報に基づく商店等の検索結果が多 くを占め,観光者はそれらを信憑性のある情報とし
て受容し,次の行動に移る意志決定をした.一方,
不明確な情報取得意志の場合,アプリ主導の情報に 従ったのは 1 件のみであり,観光者はアプリ側から の情報を信用せず,観光者自身または同行者と共に アプリ内情報を吟味し,判断する「アプリ主導・観 光者主導の融合」(2 件)や,旅行記やコメントな どをもとに判断する「評価者主導」(3 件)で次の 行動に移る意思決定をした.
4.結論
図 1 は,観光者が明確/不明確な情報取得の意志 を持って,アプリ主導/評価者主導/観光者主導の情 報を取得し,それらの情報を検証/無批判で受け入 れて,観光行動に移るまでの流れである.最後に現 れた観光行動は,アプリ内情報の種類や情報への反 応の仕方により多様化されているが,大きく二分さ れる.一つ目は,自己選択で行い,空間的に分散し うる「可能性を広げる行動」であり,「不明確な情 報取得意志」から「アプリ主導・観光者主導の融合」
及び「評価者主導」の情報に基づいて表出される行 動である.二つ目は,アプリ内情報に「誘導される 行動」であり,明確/不明確を問わず「アプリ主導」
の情報に基づいて表出される行動がこれに強く該当 する.本研究では把握できなかったが,情報提供側 の意図を踏まえることができれば,「可能性を広げ る行動」も実は「誘導される行動」としての側面も 持つことが顕著に見いだせる可能性がある.一方で,
現在みられるオーバーツーリズムなどの課題は,ア プリを介して観光者を分散させるなど観光者の行動 を変えることで,解決の方向に進ませられるのでは ないかと考えられる.■
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図 1 観光者による情報取得の意志から行動までの流れ