論文 「企業会計のダイナミズムと金融商品の時価評価
」
137企業会計のダイナ ミズムと金融商品の時価評価
TheDynamismoftheEnterprlSeandtheCu汀entprlCeEvaluationoftheFinancialProduct
神奈川大学大学院 経営学研究科 国際経営専攻 博士後期課程
李 敬 風
1.プロローグ
企業 をと りま く経済的 ・社 会的環境 の変化 は, 企業会計 に対す る社会の新 しい要求 を生み出す結 果 となる。そ して,それはやがて企業会計 の 目的 と機能 を大 きくかえることを通 じて,企業会計 の 内容 を再構築す る方向に作用す る。
企業会計 の主 目的が,伝統的な経営業績の測定 情報の伝達か ら経営意思決定のための企業価値の 評価情報の伝達 に変化す ることに伴 って,従来の 財務諸表 による過去志向的計数情報 は,その利用 の限界が指摘 されるようになった。今 日ます ます 会計情報の量的 ・質的拡充が求め られているので ある。
有価証券 に投下 され る資金の循環過程 は, (投 下前)資金‑ (投下)有価証券‑ (回取後)資金 となってお り,貨幣性資産たる有価証券 は棚卸資 産 と違 って,投下 された有価証券 に資金が拘束 さ れているとはみなされない。有価証券 (一時的所 有で市場性 ある有価証券)への投資 は,企業 にと って余剰資金の管理 にかかわることであ り,その 本質は余剰資金の企業内留保 を放棄 し, リスクを 伴 う企業外運用 をはかることにある。したが って, 公正 な価 格 が成 立 す る取 引市場 を前提 とす る限
り,いつで も企業の 自由な意思 によ り売却可能で ある。 この ように,有価証券 はそれ 自体が非拘束 性の資金 たる性質 を持 った資産 としての特質 をそ なえているのである。
時価評価 による評価損益 については,商法の配 当可能利益 の規定 による配当制限が設 け られてい る。時価評価 した資産すべ てを通算 し, ネ ッ ト・
ベースで評価益が生 じている場合 は,配当可能利 益 は時価評価前 と変 わ らない。通算 の対象 には, 損益計上 される 「売買 日的有価証券」 や 「特定金 銭信託等」 の評価損益 のみな らず, 自己資本 に計 上 される 「その他有価証券」の評価差額 も含 まれ る (ただ し,減損処理 による評価損 は除 く)。 デ
リバ テ ィブの評価損益 も含 まれ る もの と思 われ る。評価損益 は洗い替 え方式で計算 し,通算す る 際には法人税等の額や税効果相当額 を駆除す る。
本稿 は,以上の ような基本認識 を踏 えて,金融 商品の時価評価の問題 を,企業会計の ダイナ ミズ ム とい う論理の視点か ら考察す るものである。論 述の展 開にあたっては, まず最初 に企業会計 の ダ イナ ミズムについて基本的な考 え方 を明 らかにす る。そ して,金融商品 とその評価 をめ ぐる議論 を 展開 し,最後 に時価評価 による会計 システムの変 化 もしくは財務諸表情報の質的変化 を究明するこ
ととす る。
2 .
企業会計のダイナ ミズム (1)企業会計の特質 と限界今 日の社会では各種の経済主体 によって,財貨 やサ ー ビス (用役)の生産,流通,消費 などの経 済活動が営 まれている。家計,組合,官庁 な どの ように営利 を目的 とせず,消費経済活動 を主たる 形態 とす る経済主体 もあれば,企業の ように営利 を目的 とし,生産経済活動 を主たる形態 とす る経 済主体 もある。
会計 は, この ような経済主体の営 む経済活動 を 固有 の方式で記録計算 し,その結果 を利害関係者 に報告す る行為である。経済主体の経済活動や経 済事象 を,貨幣金額 によって測定 し,その結果 を 当該経済主体の財務 内容 を判断す る上で有用 な財 務情報 として伝達す る点 に会計の特質がある。企 業会計 は,企業 に対す るこの ような経済活動 を, 複式簿記 など会計固有の方式 を用いて測定 し,そ の結果 を一定期 間における経営成績や期末の財政 状態 として把握 し,企業の各種利害関係者 に当該 情報 を伝達す るシステムである。
企業会計の行為 によって作成 された情報 は会計 情報 と呼ばれる。会計情報 は,主 として財務諸表 への記載情報 として伝達 される。財務諸表 は,企 業の一期 間の経営成績や期末の財政状態 などを表
138 研究年報 第7号
示す る会計報告書で損益計算書や貸借対照表 な ど か ら構成 される。財務諸表上の会計情報 は,企業 の利害関係者が企業の財務状況 に関す る適切 な判 断 を形成す る上で,有用 な情報 となる。 この よう な会計情報 には,企業の経済活動 の結果 について の真実 な内容が含 まれていることはい うまで もな い。 しか し次の ような一定の限界が指摘で きる。
今 日の企業会計 は,種 々の基礎 的前提 もしくは 仮定的要件 の上 に成立 している。た とえば,企業 会計 が成立す るための不可欠の前提 として,貨幣 的測定の前提が一般 に認 め られている。 この前提 に基づけば,貨幣金額 に よって測定で きない経済 活動や経済事象は企業会計上の取引 として処理 さ れず, したが って,会計情報 として伝達 されない ことになる。特 に企業の収益性 や安全性 を判断す る上で重要な事項が,貨幣的測定が行 えない とい う理 由で会計処理の対象 にな らない場合 には,財 務諸表記載 の会計情報 に限界 を生ず る こ とにな
る。
また,企業会計の作成す る財務諸表 は,取引事 実の単 なる記載ではない。会計事実 を処理す るに あたって,合理的な処理方法の選択 ・適用の局面 で会計担 当者 による多 くの連続 した判断が介入す る。財務諸表 に代表 され る企業会計情報 は
,
「事 実 と慣習 と判断の総合的所産」 としての特質 をも っているのである。時価会計導入 による財務諸表‑の影響 を要約す ゴ引ぎ,次の とお りである。
(∋ 売買 日的有価証券」,特定金銭信託等 ,デ リ バテ ィブの時価 の変動 は,評価損益 の変動 と
して,損益計算書上の当期の損益 に現れる。
② その他有価証券」 の時価 の変動 は,原則 とし て,損益 に影響 を及ぼ さないが,貸借対照表 上の 自己資本の変動 として現れる。
(∋ 減損処理の厳格化 は,企業 にとっては損益 の 減少要因 とな りうる。
(2)企業会計の論理 と構造
企業会計 は,財務会計 と管理会計 とを問わず, 社会の情報要求 にダイナ ミックに対応す る論理 を 持 っている。 したがって,企業会計 に対す る利害 関係者 の情報要求の内容が歴史的 に変化す れば, 会計 目的 もそれ に対応 して変化す ることになる。
そ して,会計 目的が変化すれば,それ を実現す る ための企業の会計 システム もその変化 に対応 して 再構築 される。
企業会計 は,行 われる企業の社会経済的環境 を 背景 に,企業 を取 り巻 く利害関係者の情報要求 を 的確 に把握 して,会計 の 目的は,本来,企業会計 システムそれ 自体が演樺 に設定す る性質の もので はな く,む しろ企業会計 に対す る社会の情報要求 の中か ら導 き出 される与件 としての性質 を持つ も のである と理解 されるのである。
企業会計の ダイナ ミズムについて説明 した とこ ろを図解すれば,図表の ように示す ことがで きる。
図表 によれば, まず,利害関係者の情報要求の内 容が企業 の会計 目的を規定す る。次 に,設定 され た特定の会計 目的 を実施す るために必要 な企業会 計の機能が明 らかにされる。会計機能は会計 の果 たす働 きの ことであ り,企業会計 システムの動的 状態 を示す要素である。そ して最後 は,会計機能
企業会計のダイナ ミズム
(企業会計システム)
> プロ
セ
ス・ループ< フィ
ー ド
バック・ループ注1照屋行雄、井 口 伸著 「財務 会計原理」東京経済情報出版、1999年6月
論文 「企業会計のダイナミズムと金融商品の時価評価」 139
の合理的な達成 を支援す る企業会計 の構造が形成 され,整備 されることによって企業会計 システム 全体が完成す ることになる。会計構造 は会計 の仕 組みの ことであ り,企業会計 システムの静的状態
を示す要素である。 (注 目
この ように して,いったん特定の会計 日的 を実 現す るための企業会計 システムが構築 される と, 会計情報の作成 と開示のプロセスはシステム内の メカニズム を通 じて 自動 的 に作動 す る こ とにな る。その結果,会計 日的が達成 され,その ことに よって杜会の情報要求 に応 えることがで きるので ある。 もし,企業会計が新 たな情報要求 と会計 目 的に直面 した場合 には,再 びこのプロセス ・ルー プに従 って,それに対応す る企業会計 システムが 再構築 されることになる。企業会計 の論理 は, こ の ようなダイナ ミズムを内容上の特徴 としている のである。
企業会計 は,企業の各種利害関係者の多様 な情 報要求 に応 えなければ ららない。企業の利害関係 者 には,株主 な どの投資者や銀行 な どの債権者 を は じめ として各種 のグループがある。投資者 は投 資意思決定のため に有用 な情報 を要求 し, また, 債権者 は信用供与決定 のために有用 な情報 を要求 す ることになる。
この ように,企業 を取 り巻 く各種 の利害関係者 が,提供 された会計情報 を分析利用す ることによ って,企業の財務状況 について適切 な判断 を形成 し, もって合理的な意思決定 を行 うことがで きる ようにす ることが今 日の企業会計 の主たる目的 と なっている。 とりわけ株主 を中心 とした外部投資 者の情報要求 に応 えることを主たる目的 として実 現 されている。 したが って,現行 の企業会計 は, 投資者の投資意思決定のために有用 な財務情報の 測定 と伝達が達成で きるような機能 と構造 をもつ 会計 システム となっているのである。
(3)金融経済の発展 と会計の対応
平成12年4月1日以後 開始す る事業年度 か ら, 市場性 ある有価証券お よびすべ てのデ リバテ ィブ 取引 についての評価基準が原価基準か ら時価基準 に変わることになった。変更理 由 として, これ ら の金融資産 については,一般的には,市場が存在 す ること等 によ り客観的な価額 として時価 を把握 で きる とともに,当該価額 によ り換金 ・決済等 を 行 うことが可能である との説明が な されてい る。
しか し,最 も大 きな理 由は会計基準 の国際的調和
である。
日本企業の国際的な事業活動,国際市場での資 金調達お よび海外投資者の 日本 の企業への投資が 活発 に行 われている状況下 にあっては,財務情報 等の企業情事鋸ま利用者か ら同質性や企業間の比較 可能性が求め られている。 また,特 にボー ダー レ ス化が進 んでいる金融資本市場では,経済環境の 変化 ばか りではな く,法律や会計の違いで取引 を 行 う市場が変 わって くることがある。金融資本市 場 について,東京市場 を活性化するためには各国 の市場 と公平 な競争が行 えるように,法律や会計 をグローバル ・スタンダー ドといわれるような も のに代 えてい くことが必要 になって きた。
不 良債権 についていえば,不良債権の開示が急 速 な経済環境の変化 に対応 で きず,後手後手 にま わった きらいは確かにあった。しか し,会計基準, すなわち不 良債権の償却 ・貸倒引当金は有税 には なるが制度その ものは整備 されている。税効果会 計 に して も金融機関の連結財務諸表 には既 に導入 されてい った。税効果会計が ないので有税償却 を 行 うことがで きなかった とい うのは正確 な議論 で はない。 この間題 は,インフラ整備の遅れではな く,関係者の制度運用 に問題があったのではない であろう。
例 えば,金融再生委員会が資本注入 を求める大 手銀行 に対 し,不良債権の償却 ・引当に関 し,一 律 に一定率の償却 ・引当 を計上 させ ることを打 ち 出 した。融資の実態 を最 も知 っている金融機 関 ・ 公認会計士 を無視す る ものであ り,今で も疑問 に 思 う。 これでは職業会計人の尊厳 を傷つけること になる。企業の経営者や公認会計士が判断 しなけ ればな らない部分 に,米国では数値基準が採用 さ れているので 日本 も数値基準 を導入す る とい うや り方 は間違 っている。それは会計ではな く単 なる 統計 である。 これに対 して関係者が強 く意見 をい うことがで きないのは, 自分 たちの これ までの会 計制度の運用 に 「不 良債権 の先送 り」 とい うや ま
しさがあったか らだ と思 う。
3.
金融商品の概念及び時価評価の理論 (1)金融商品の概念 と認識国際基準 における金融商品の定義 は,開示 に係 るIAS32及び認識 と測定 に係 るIAS39にて規定 さ れている。構造 としてはIAS32にて基本的な枠組 み を示 し,IAS39はそれ を補足す る形 となってい
140 研 究年報 第7号
る。
IAS32では,金融商品 について,一方の企業 に とって金融資産,他方の企業 にとって金融負債 ま たは金融持分商品 を同時 に生 じさせ る契約 と定義 している (IAS32‑par.5)。す なわち,金融商品 と は,金融資産,金融負債,金融持分商品 を生ぜ し める契約であ り,それ 自体 はキ ャッシュフローを 増減 させ る ものではない。 た とえば,投資家側 か らみた転換社債 は,金融資産 (普通社債) と金融 持分商品 (株式 コールオプシ ョンの買建)か ら構 成 されるが,実際の取引では転換社債 とい う金融 商品 として売買 される。この ように金融商品 とは, その中身である金融資産,金融負債及び金融持分 商品について,取引の相手方 と取得 または譲渡で きるように契約 とい う容器で まとめた もの といえ る。 ちなみに金融商品における契約 とは,その履 行が法的に強制 される ものであ り,一旦締結す る と通常 は履行 を免れることはで きない約束 を意味 する (IAS32‑par.6)
。
この ように,金融商品では契約が取引単位 とな るため,土地等の非金融商品 と異 な り,その認識 及び認識 の中止 は対象物の物理的な移動や代金決 済の方法 に関係 な く,契約締結の有無 を基準と し て判断す ることが可能 となる。
なお,取引所 で売買 され る先物取引の ように, 現金 または他 の金融資産 にて決済で きる権利が付 与 されている商品契約(Commodity‑basedcontracts)
については,
① 当該企業が対象商品 を仕入れ,販売 または通常 使用す る目的で当該契約 を締結,かつ締結後 も
その予定であること
②締結当初か ら上記の 目的 を意図 していること
③現物の引受 け ・引渡 しにて決済す る予定である こと
の3つの要件 を全 て充 たす場合 には未履行契約 と して,それ以外 の場合 には金融商品 と同様 な会計 処理が求め られている。 なお,未履行契約 につい ては,従来の会計慣行 とお り,契約が履行 された 時点で当該商品に係 る会計上の認識が行 われるこ とになる。
日本基準 での金融商品の定義等 は
,
「金融商 品 意見書」 において,金融商品 とは金融資産,金融 負債等 に係 る契約 の総称 と規定 してい る こ とか ら,国際基準及び米国基準 と実質的に同 じといえ る。なお
,
「金融商品 に係 る会計基準」 では適用範 囲 の明確化 の観点か ら,金融資産及び負債の定義 に ついて,現金預金,受取手形 (支払手形),売掛 金 (買掛金)等の形式 的な取引形態 によって例示 列挙す る形 を採用 している。 したが って,国際基 準及 び米国基準が採用す る経済実態 に着 目 した概 念規定 とは異 なるが,
「金融商 品実務指針」 では 金融資産及び負債の定義 について,改めて国際基 準 と同 じ表現 を用いていることか ら,結果的には 同 じとなっている (金融商品実務指針4,5項)。 (2)時価評価 の理論企 業会計審議 会 の時価 会計 に関す る意見書 で は,有価証券お よびデ リバ テ ィブ取引 に時価評価 を行 う理由について,次の ように説明 している。
金融資産 については,一般的には,市場が存在す ること等 によ り客観的な価額 として時価 を把握で きる とともに,当該価額 によ り換金 ・決済等 を行 うことが可能である。 また, この ような金融資産 については,時価評価 を行 うことが以下の理由か ら求め られている。
(∋的確 な投資情報の提供
金融資産の多様化,価格変動 リスクの増大,敬 引の国際化等の状況の下で,投資者が 自己責任 に 基づいて投資判断 を行 うために,金融資産の時価 評価 を導入 して企業の財務活動の実態 を適切 に財 務諸表 に反映 させ,投資者 に対 して的確 な財務情 報 を提供す ることが必要である。
⑦ リスク管理
金融資産 に係 る取引の実態 を反映 させ る会計処 理は,企業の側 において も,取引内容の十分 な把 握 とリスク管理の徹底 お よび財務活動 の成果の的 確 な把捉のためにも必要である。
(丑国際的調和
日本企業の国際的な事業活動の進展,国際市場 での資金調達お よび海外投資者の 日本証券市場で の投資の活発化 とい う状況下で,財務諸表等の企 業情報 は,国際的視点か らの同質性や比較可能性 が強 く求め られている。 また,デ リバテ ィブ取引 等の金融取引の国際的 レベルでの活性化 を促すた めにも,金融商品に係 る 日本 の会計基準の国際的 調和化が重要 な課題 となっている。
企業会計審議会が指摘する 「金融資産 について は ・一般的には ・市場が存在す ること等 によ り客 観的な価額 として時価 を把握 で きる とともに,当 該価額 によ り換金 ・決済等 を行 うことが可能であ
論文 「企業会計 の ダイナ ミズム と金融商品の時価評価
」
141る」 である と, どうして時価評価す ることが妥当 なのか について少 し説明す る。 これには 「実現可 能性」 と 「貨幣性資産概念の拡張」 とい う二つの 考 え方があるようである。
a実現可能性
有価証券 の評価益 の収益‑の計上基準 を売却 に よる 「実現基準」 だけではな く,末実現損益 であ って も 「実現可能性」基準 まで拡大 し,それをも って当期の損益 として認識す る考 え方である。 こ の場合 の実現可能性 とは
,
「特別 な努力 を伴 わず に信頼で きる測定可能 な価額 をもって,活発 な市 場で即時 に売却す ることがで きる」とされてお り,まさしく企業会計審議会が指摘 している理由はこ れ と合致 している。
b貨幣性資産概念 の拡張
時価評価 された金融資産 は,投下過程 か ら回収 過程 に転化 し ・それ 自体,市場 において当該時価 で即時 に売却可能 な状態 にあ り ・流入す る見込み の確実 なキ ャッシュ ・フローを表す とみ られるか ら ・それに係 る評価差額 は利益認識基準のいかん にかかわ らず ・おのずか ら当期損益 に算入 される 性質 をもつ もの と解す るとの考 え方である。 この 考 え方 は,保有 目的 を前提 として,高度 に組織化 された市場 で即時 に売却可能である金融資産の特 性 に着 目した点 に特徴がみ られる。 これ も, まさ
し企 業会計 審議 会が指摘 してい る理 由 と合致す る。
4.
時価評価 による企業会計 システム (1)株式の時価 と会計 システムA 「意見書基準」等 における時価
「意見書基準」 で は,時価 とは公正 な評価額, す なわち市場で形成 されている取引,気配又 は指 標 その他 の相場 (以下 「市場価格」 とい う) に基 づ く価額 をい うもの としている。
そ して,金融資産 に付すべ き時価 には,それが 市場で取引 され,そ こで成立 している価格がある 場合の 「市場価格 に基づ く価額」 と,それに市場 価格が ない場合の 「合理的に算定 された価額」 と がある と しているか ら
,
「国際会計 基準」 の公正 価値 と表現 は少 し違 うが,同義の ものである。有価証券 の時価が 「著 しく下落 した」 ときの判 断 基 準 は , そ の 「時 価 が 取 得 価 額 に比 べ て , 50%程度又 はそれ以上下落 した場合」 とし
,
「こ の場合 には,合理的な反証が ない限 り,時価が取得原価 まで回復する見込みがあるとは認め られな いため,減損処理 を行 わなければな らない」 もの
としている。
それ以外 の場合 には,個 々の企業がその合理的 な判断基準 を設 け
,
「保有す る有価証券 の時価 の 推移及び発行体の財政状態等 を勘案 した上で,当 該基準 に基づ き回復可能性 の判定の対象 とす るか どうか を判断すべ きである」が,一般的 には,吹 の ように取 り扱 うことがで きるもの としている。(ヨ個 々 の有 価 証 券 の 時価 の 下 落 率 が お お む ね 30%未満 の場合 には
,
「著 しく下落 した」 ときには該当 しない もの とす る。
(犯 以外 の場合 には,その下落率が企業の設 けた 合理的な基準 に照 らして 「著 しく下落 した」 と きに該当 し,かつ,その下落の合計額が金額的 に重要性 を有する ときには,その有価証券 につ いて回復可能性 を判定する。
ここでは
,
「市場価格 に基づ き価額」 について 述べ る。それは,売買が行 われている市場 におい て,金融商品の売却,取得等 により受け取 り,支 払 う現金の額 をい うもの としている。次の金融商品について,公表 されている取引価格 を市場価格 とす るもの としている。
①取引所 に上場 されている金融資産
①店頭で取引 されている金融資産
(参これ らに準 じて随時売買 ・換金等が可能なシス テムよ り取引 されている金融資産
これ らの金融資産の うち有価証券 について見 る と,表の とお りである。
非公開株式 ・非上場債券 について,ブローカー 又はシステム上の売貝価格又 は店頭気配値 を,徳 者ではさらに業界団体が公表す る基準気配値 を積 極的に採用 しているのが 目立 っている。
また,連結財務諸表原則では,関係会社 (子会 社)の資産及び負債 は,支配獲得時 における公正 な評価額 (時価)により評価する もの としている (親会社 の持分 に限定す る部分時価評価法 と全 て を対象 とす る全面時価評価法がある)。
(2)時価会計 による財務諸表
金融商品は契約の当事者 となった時点で金融資 産,金融負債 または金融持分商品 として認識 され, 貸借対照表上 において資産,負債及び資本のいず れか に区分 される。 その意味 では単純であるが, 法形式 と経済実態が異 なる金融商品や,金融負債 及び金融持分商品 といった両要素 を備 えた複合金
142 研究年報 第7号
融商 品が増加 す る中,貸借対照表 及 び損益計 算書 上 での区分問題 は必ず しも容易 で はない。 と りわ け,負債 と資本 の区分 問題 は,その果実 と しての 支払利息 または配 当金 に係 る費用 または利益処分 の取 り扱 い を通 じて,当期損益 に影響 を及 ぼす こ
とになる。
また,会計 においては総額主義 の原則 に基づ き, 一般 的 に資 産及 び負債 は相殺す る こ とな く,総 額 にて表示 す る こ とが求 め られ る。相殺表示 はあ く まで も例外 であ り,許容 す る場 合 の要件 は極 めて 厳格 であ る。一方,金融商 品取引 で は信用 リス ク 軽 減 の見 地 か ら,従 来 の担保 要求等 だけで な く, マ ス ター ネ ッテ ィ ングア レンジメ ン ト等 の新 たな
リス ク管理手法が普及 しつつあ る。実 質的 には信 用 リス クの軽 減効果 が認 め られ なが ら,従来 の相 殺表示 の要件 を充 た さない場 合,例外 と して財務 諸表 の本体情報 に反映 させ るか, または注記情報 に留 め置 くか は,経営諸比率 に も影響す る こ とか ら経営者 に とって切 実 な問題 となる。
一般 的 に認識 及 び測定 は財務諸表 の本体情報 に 影響 す るため,意見調整 に時 間 を要す るが ,開示 は注記情 報 とい うこ とか ら,実務界 の抵抗感 が薄 れ る こと も事 実 であ る。 また,先行 す る形 となっ た開示基準 で は時価情報 の開示 を求め たが,それ は事後測定 と して時価 評価 が可能 か どうかのパ イ ロ ッ トテス ト的 な役割 を果 た した とい える。現段 階で はデ リバ テ ィブ を含 む金融資産及 び負債 の多 くが貸借対 照表上 で時価評価 となったが,それ に よって開示 の役割 が低 下 したわけで はない。
決算 日の時価 は金融資 産及 び負債 に係 る将来 キ ャ ッシュ フローの経 済実態 を最 も忠実 に反映す る 指標 ではあ るが,それは当該時点 での スナ ップ シ ョッ トにす ぎない。財 務諸表利用者 に とって有用 な情報 とは,当該 会社 か ら生 じる将来 キ ャ ッシュ フローの予測 に資す る ものであ るな らば,決算 日 の時価 は必 要条件 であ るが充分条件 ではない。金 融資 産及 び負 債 か らの将 来 キ ャ ッシュ フロー は, 各企 業の リス ク管理体制 に よって管理可能 となる ため,金融 商 品の開示 で は リス ク管理情報 の開示 が必 要不可欠 となる。
5. エピローグ
以上考察 した ところか ら,一時的所有 で市場性 あ る有価証券 の評価 に当 た って は,期末 の市場価 格 に よる時価 基準 を原則 と して採 用す るこ とが合
理 的であ る。 その場合,期末有価証券 に関す る評 価差額 は評価損 お よび評価益 ともに計上す る こ と が求 め られ る。有価証券 の 「飛 ば し」 に よる含 み 損 の計上忌避 や決算操作 の ため に期 末保 有有価証 券 を売却す る 「益 出 し」 な どの企業 の不適切 な会 計処理 は, この ような評価 基準 の導 入 と評価損益 の開示 に よって解消す るこ とになる。
ここで は,事 態 の改 善 と財務 内容 開示 の充実 を はか るための会計 の対応 と して,費用性資産 た る 棚卸資産の評価 に低価 基準 を強制適 用 させ ,また, 貨幣性 資産 た る有価証 券 の評価 に時価基準 を導 入 す るこ とを提 案 した。 この うち有価証券 の時価 基 準 について は, 日本 において も1999年1月の 「金 融 商 品会計 基準」 の公 表 に よって,2000年4月1
日以後 開始す る事 業年度 か ら,特定 の有価証券 に 時価評価基準 を適用す るこ ととなった。
企業経営 の透明性 を高 め,財務 内容 開示 の充実 をはか る上 で,時価評価 を導 入す るこ とが強 く求 め られている。 それは,企業 の利害 関係 者 の意思 決定 を合理 的 に行 わ しめ る上 で必要 であ るばか り で な く,企業経営 の合理 的 な管理運営 を達成す る 上 で も要請 されている といわなければ な らない。
最後 に,企業 会計 は従来 ,強行法規 たる商法 と の制度上 の調整 を優先 す る こ とで,会計 システム の見直 しや理論 的 な整備 を怠 った面 が あ る こ とは 否定 で きない。現在企 業会計 が直面 してい る本 質 的 な問題 に会計本来 の立場 で真剣 に取 り組 み,今 こそ企業 会計 の法規 か らの離脱 も しくは 自立化 を 目指 して努力すべ きであ る と強 く思 う。 その こ と が,今後企業会計 に対 す る社 会 の信 頼 を再 び回復 す る最善 の道 で ある とい え よう。
参考文献
財務 会計 原理 ,著者 井 口 伸 照屋行雄 ,東京 経 済情報 出版,1999年6月
企業会計 の構造 ,著者 照屋行雄 ,税務経理協 会, 平成13年4月
金融商 品の時価 会計論 ,著者 吉 田康英 ,税蕨経 理協 会,平成11年6月
時価 会計 の基本 問題 ,著者 石川/+.屯治 ,中央経 済 社,2000年4月
会計 学 原 理 , 著 者 若 杉 明 ,税 務 経 理 協 会 , 2000年5月
会計 デ ィス ク ロ‑ ジ ャ と企 業論 理 ,著 者 若 杉
論文 「企業会計 の ダイナ ミズム と金融商品の時価評価
」
143明,税務経理協 会, 1999年1月
時価会計 の実務,著者 吉川 満 吉井‑洋,商 事法務研究会,平成113年5月
金融商品の会計基準,著者 吉 田康英,税務経理 協会,平成13年3月
時価経営入門,著者 小谷 融,中央経済社,辛 成11年9月
上場 非上場株式評価 の基礎理論 と具体例 ,著者 建部好治
,
清文社,平成12年8月時価会計入門,著者 田中建二,中央経済社,平 成 11年8月