• 検索結果がありません。

国際信託と相続準拠法

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "国際信託と相続準拠法"

Copied!
27
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

国際信託と相続準拠法

著者 林 貴美

雑誌名 同志社法學

巻 69

号 7

ページ 2545‑2570

発行年 2018‑02‑28

権利 同志社法學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2019.0000000307

(2)

    同志社法学 六九巻七号五一七二五四五

             

           

一  はじめに   今日においては、かなりの財産が相続法の規律の枠外で、換言すれば相続法が予定した法定相続や遺言によるメカニ

(3)

    同志社法学 六九巻七号五一八二五四六

ズムを利用することなく﹁相続代替制度﹂

)1

によって承継されているという

)2

。そのような制度として、米国では生前信託が盛んに活用されている 3

。生前信託とは、たとえば自らが無能力になるまでの間は金融機関などと自らが信託の共同受託者となり、自ら財産を自由に処分・収益することができる信託である。そして自らが無能力になった場合には、自らが死亡するまでの間信託の利益を享受し、死亡後にはこの信託を終了させ、財産を特定の者に承継させるようなものである

)4

。こうした相続代替制度の活用は、英米法特有の遺産管理手続を回避することが重要な目的の一つであるため、英米法系諸国においてよく見られる。しかしながら、大陸法系諸国においても、利用に至る背景や制度の種類は異なるものの、やはり何らかの相続代替制度が利用されている。日本においても米国の生前信託と類似の機能を果たすものとして二〇〇八年の新しい信託法 5

の下で規定が設けられた遺言代用信託が脚光を浴びている。日本国内で信託業務を営む金融機関の遺言代用信託の新規受託件数は、平成二三年度は六七件に過ぎなかったのが、二四年度は一万八千件足らず、二五年度には四万五千件強にまで増え、その後減少はしているものの、二八年度においても一万四千件強に上る 6

。米国型の資産承継計画(

es ta te p la nn in g

)は今後日本においても一層盛んになっていくと思われる。

  そして、そのような資産承継計画においては、外国で所有するに至った財産の処理を考える際に、あるいは意図的に外国に財産を移すことによって、外国の相続代替制度を利用し、国内法の下では実現できない方法の利用が企図されることもあろう。たとえば、東京地判平成二六年七月八日 7

のハワイ州のジョイント・アカウント(共同名義口座)をめぐる相続事件のように、日本人が米国で所有する財産について米国の専門家による助言を得て生前信託を設定することも容易に想起することができよう。また、今後の日本の信託法における課題として押し寄せる国際化の波への対応をあげる文献もすでに見受けられるが 8

、日本に居住する外国人が日本において遺言代用信託などを設定することも考えられよう。

(4)

    同志社法学 六九巻七号五一九二五四七   本稿は、このような国際信託を題材に、国際的な事案において相続代替制度を活用してなされる財産承継の法的な処理を検討するものである。以下では、まず相続代替制度について概説し(二)、続けて信託の準拠法に関する議論を整理した後に(三)、信託準拠法と相続準拠法との適用関係を考察し(四)、最後に相続代替制度のための準拠法を特別に考慮する必要性があるか否か(五)について検討することとする。

二  相続代替制度   米国では、遺言執行や裁判所による遺産管理手続を回避することを目的として用いられる制度に対して、一九三〇年代から﹁遺言代用制度(

w ill su bs tit ut es

)﹂という用語が用いられ始めた 9

。州ごとに詳細な点で相違はあるが、一般に、被相続人が死亡すると、原則としてその死亡時の住所地州における裁判所で遺産管理手続(

pr ob at e

)が開始され、裁判所の監督下におかれる人格代表者により遺産が管理される ₁₀

。人格代表者は、遺産を収集・管理し、この遺産から被相続人の債務、葬儀費用、租税、管理費用などを支払った後の残余遺産を相続人や受遺者などに分配する。この遺産管理手続の問題は、相当の期間を要し、また人格代表者に対する報酬など費用がかなりかかる点にある ₁₁

。遺産が複数州に所在する場合には、手続は複雑になり、さらに期間が長くなる。そのため、米国においては、遺産管理手続を回避し、財産の承継、節税などの問題を含め個人のニーズに応じた資産承継計画を金融機関や弁護士などが勘案することが盛んであり、遺産管理手続に付されない移転方法、すなわち﹁遺言代用制度﹂を介して死亡による財産承継が実現されるのが一般的であると言われている ₁₂

  裁判所による遺産管理手続を持たない大陸法系諸国では、﹁遺言代用制度﹂のような概念は見受けられないが、﹁遺言

(5)

    同志社法学 六九巻七号五二〇二五四八

代用制度﹂によって得られるのと同様の帰結をもたらすメカニズムが用いられることがある ₁₃

。たとえば、スイスでは、①資産承継をより予測可能、かつ、管理可能なものとするため、②資産の散逸を回避するため、③遺留分を回避するため ₁₄

、④節税のために、財団(

St ift un g

)、生命保険契約、信託といったものが用いられるという ₁₅

。興味深いのは、スイス法自体には信託制度はないにもかかわらず、スイスにおいて信託業界は非常に大きな発展を遂げていることである。その背景には、スイスが重要な国際金融市場であるからのみでなく、ハーグ国際私法会議による信託に関する条約をスイスが締約していることもあげられる ₁₆

。ハーグ信託条約に関しては後述するが、スイスでは自国の信託ではなく、外国法上の信託を遺言代用制度として活用しているのである。

  本稿においては、﹁遺言代用制度﹂よりもっと広く、相続法の規律の枠外での様々な財産承継のために利用されるメカニズム、たとえば夫婦財産制により生存配偶者に財産承継をさせるようなメカニズムなどをも含むものとして、

T alp is

に倣い、﹁相続代替制度(

su cc es sio n s ub st itu te s

)﹂という用語を用いる ₁₇

T alp is

によれば、﹁相続代替制度﹂とは、﹁死亡者が、死亡時に相続以外の方法により、指定された受益者に対しまたはその者のために、自らが所有もしくは実質的に所有する財産を移転するか、または財産についての権利もしくは利益を創出することを企図して行う法律行為﹂である ₁₈

  日本においては、相続代替制度として、死因贈与や相続人その他の者が受け取る生命保険契約が考えられる。また、認知症高齢者の﹁配偶者なきあとの問題﹂や障がいを持つ子の﹁親なき後の問題﹂を解決するために、また、中小企業の円滑な事業承継 ₁₉

のために、信託の活用が期待されている。しかし、死因贈与については遺贈の規定が準用される上(民法五五四条)、遺留分減殺請求の対象にもなり、相続法の規律が及んでいるとも言える。他方、他人のためにする生命保険金は、受取人の固有財産として被相続人(被保険者)の相続財産には属さず(最判昭和四〇年二月二日民集一九巻

(6)

    同志社法学 六九巻七号五二一二五四九 一号一頁)、遺留分算定の基礎財産にこれを参入することは否定されている(最判平成一四年一一月五日民集五六巻八号二〇六九頁)。しかし、生命保険金は被相続人が払い込んだ保険料と等価関係に立つものでないことから、被相続人が生前有していた財産の承継というより付加的に帰属するもので、厳密な意味での相続代替制度には当てはまらないように思われる。信託についても今後の展開が期待されてはいるが、信託業法による受託者規制、信託に対する税制上の制約、受託者名義での信託口座開設に消極的な銀行実務など、民事信託が実際に活用されるためにはまだ改善点が多く残されているようである ₂₀

。また、信託により遺留分減殺請求を回避することはできないという点については異論がない ₂₁

。以上のことを考慮すると、日本においては利用し得る相続代替制度には限界があり、このことは、より柔軟な外国の相続代替制度を、特に外国に在る財産について利用しようと考える誘因になり得るとも言えよう。

三  信託に関する準拠法

1   ハ ー グ 信 託 条 約

いーあがい違なき大と約グハ。の他に点るいてしと提前る条資に本た持を度制託信、い伴なの動る人の移やが発にな活 信約は、制い託とう法託条に信、てし対れこ。たっあ自度を体たがをとこるあ数多国いなが持く普的でな遍、の制度こ おれこ、り生てじがい違統をで一するために作られたもの法の方国の法主義や住所法主義地対準立の法拠決にうよの定 にーハのでまれこるす関相な続、婚離や子養)。効発条グど約らはし関に度制法るいてれ本め国、普遍的に際社会で認   に八五年拠﹁信託の準九会一、はで議法私際国グー及法さびた日一月一年二九九一(れ承択採が﹂約条るす関に認ハ

    1) 要 概

(7)

    同志社法学 六九巻七号五二二二五五〇

国に信託財産が所在したり、受益者や受託者が居住していたりするケースが増加するなど、信託をめぐる法律関係の国際化が進展し、信託の法的処理の結果が予測困難になるケースが頻発していた ₂₂

。特に、信託制度を持たない国からは、遺産処理に関わる国際信託の取扱いがかなり頻繁に問題となっていることも報告されていた ₂₃

。このような状況を改善するため、信託条約は、信託制度を有する英米法系諸国とこの制度になじみがない大陸法系諸国との間に架け橋を作ることを意図して作られたものであった ₂₄

  本条約の採択から三〇年余りが経過し、同条約は、一三か国と一特別行政区において効力が生じている ₂₅

。その間、中華民国(一九九六年)、中国(二〇〇一年)、ルクセンブルク(二〇〇三年)、フランス(二〇〇七年)など、信託法を立法する国も次々と現れている ₂₆

。日本はハーグ信託条約を批准していないが、条約の締結を前向きに検討すべきであるとの主張もみられる ₂₇

。以下、条約の内容を簡単に見てみることにしよう。

  2) 準 拠 法 の 決 定 ル ー ル

  本条約の対象となる信託の範囲は二条で規定されており、﹁﹃信託﹄とは、ある者、すなわち委託者が、生存中の行為によりまたは死亡を原因として、設定する法律関係であって、財産が受益者のため、または特定の目的のため受託者の管理の下に置かれるものをいう﹂。これに続けて﹁信託は、以下の特徴を有する﹂として、﹁a  信託財産は独立の財産を構成し、受託者の固有財産に属さない。b  信託財産は、受託者名義または受託者のために第三者名義となる。c 受託者は、信託条項または法律により課される特別の義務に従い、信託財産を管理し、使用し、または処分する権限及び義務を有し、これらに関して責任を負う﹂旨規定されている。これによれば、日本の信託法上の信託も、本条約に含まれることになるとされる ₂₈

(8)

    同志社法学 六九巻七号五二三二五五一   本条約は、当事者自治の原則を採用しているが、委託者による単独行為で成立する英米法の信託を念頭に置いており、委託者のみによる準拠法指定を認めている(六条一項)。準拠法指定がない場合には、最密接関係地法によるが(七条一項)、最密接関係地の決定にあたっては、委託者が指定した信託事務遂行地、信託財産所在地、受託者の居住地または営業地、信託の目的及び当該目的を達成すべき地を特に参酌して決定される(七条二項)。信託制度を持たない法が準拠法として指定された場合は、七条に定める客観的連結によって準拠法が決定し直される(六条二項)。

  3) 準 拠 法 の 適 用 範 囲

  本条約では、六条及び七条により定まった準拠法は、﹁信託の有効性、その解釈及び効力並びに信託事務﹂に適用されると規定した上で(八条一項)、具体的な事項的適用範囲として、受託者の選任、信託財産の管理処分権、信託財産の分配などが列挙されている(同条二項)。

  もっとも、信託が多様な機能を果たし得ることから、信託準拠法の適用にあたって、法廷地の抵触規則によって指定される他の法制度に関する準拠法の適用と両立し得ない事態が生じ得る ₂₉

。そのため、条約一五条では、﹁婚姻の身分的効力及び財産的効力﹂や、﹁遺言または法定相続によるかにかかわらず、相続権、特に配偶者及び親族の剥奪することができない持分﹂、﹁所有権の移転及び担保物権﹂、﹁支払い不能の際の債権者の保護﹂、﹁その他、善意の第三者保護﹂などに関して法廷地の抵触規則により別途定まる準拠法上の強行規定が本条約により定まる信託準拠法と異なる定めをするときは、当該強行規定が適用されるものとする。

(9)

    同志社法学 六九巻七号五二四二五五二

  4) 承 認

  本条約によって定まる準拠法により設定された信託は、他の締約国においても信託として承認される(一一条)。ここで言う承認とは、外国裁判の承認とは異なり、いわゆる法的状況の承認である。信託制度を有さない国において、信託条約に基づき準拠法である外国法により信託の成立を認めたとしても、当該国においては信託に関する実質法がない。そこで、準拠法により信託が設定されたことを受け容れるとともに、その準拠法上の信託の効力もそのまま受け容れるという手法を採用したのである。

  一一条二項では、﹁承認とは、少なくとも、信託財産が独立の財産を構成すること、受託者が受託者としての資格で訴訟当事者になれること、並びに受託者が受託者としての資格で公証人及び公的資格において行為するいかなる者の前にも出頭することができることを意味する﹂と規定する。さらに、同条三項では、信託の準拠法がその旨規定していないときはこの限りではないという条件の下に、信託財産の独立性や信託違反の効果についても承認の対象となることを規定する。

  5) 相 続 準 拠 法 と の 関 係

  前述のとおり、条約一五条は、﹁遺言または法定相続によるかにかかわらず、相続権、特に配偶者及び親族の剥奪することができない持分﹂に関しては、法廷地の抵触規則により指定される準拠法上の強行規定が信託準拠法に優先して適用されることを認めている。﹁相続権(

su cc es sio n rig ht

)﹂との文言が用いられているが、本条により優先して適用されるのは強行規定のみであり、相続権の後に例が挙げられているように遺留分に関する規定が想定されている。

  なお、条約四条においては、﹁遺言その他財産を受託者に移転する法律行為の有効性に関する先決問題には適用しない﹂

(10)

    同志社法学 六九巻七号五二五二五五三 旨規定されている。信託制度の本質として、信託が有効に成立するためには信託設定者から受託者に対し財産権の移転があることが要件となっている。そこで、信託の有効な成立という問題と、信託の成立要件としての財産権の移転の基礎となる、遺言、贈与その他の法律行為の有効性の問題との境界を画定する必要がある ₃₀

。四条は、後者の問題、すなわち遺言などの有効性には、本条約は適用されないことを明らかにしたものである。

2   法 の 適 用 に 関 す る 通 則 法 の 下 で の 信 託 準 拠 法

  1) 信 託 準 拠 法 の 決 定

  (ⅰ) 通則法の立法過程   法務省民事局から法例改正の検討の委託を受けた法例改正研究会では、信託の準拠法に関する考え方として、①信託を債権的側面と物権的側面とに分ける考え方(分解説)と②信託を一体のものと捉えて連結点を模索する考え方(一体説)があり得るとして示された ₃₁

。しかし、その後の法制審議会では、分解説については、あらゆる信託のあらゆる効力を債権と物権という側面に截然と分けることは困難であり、相当でもないと思われる一方、仮にこのような考え方に立つならば現行規定とその解釈で足り、規定を設ける必要はないとされた。また、一体説に対しては、どのような連結方法を採用するか、相続や法人などの他の諸制度との関係をどのように構成するかなどについて更なる検討を要すると指摘されていた ₃₂

  最終的には、①国内の信託法改正の動向との関係で、今回の法例改正で信託の準拠法に関する規定を設けることは時期尚早であること、②日本の実務で利用される信託は、商事目的が中心で、民事信託や公益信託を含めた信託の統一的な連結政策について検討されたことがほとんどなく、なお検討することが望ましいこと、③渉外的な信託案件は実務的

(11)

    同志社法学 六九巻七号五二六二五五四

に少なく(あるとしても通常は当事者の合意によって準拠法が指定されている。)ため、早急に規定を設ける必要性は高くなく、議論の蓄積が不十分な現段階で立法的決断をすると、それによって生じ得る実務上の弊害の方が懸念されること、④信託は各国によってその法的性格を大きく異にするという特徴を有するため、その準拠法規定を新法に設けるよりも、ハーグ信託準拠法条約の締結を将来的に検討することが望ましいことなどを理由として、信託の準拠法に関する規定は特段には設けないこととし、引き続き解釈に委ねられることとなった ₃₃

。そのため、まずは、信託の準拠法に関するこれまでの学説の状況を概観してみることにしよう。

  (ⅱ) 学説   まず、信託が通則法七条の﹁法律行為﹂に含まれるか否かに関する見解の対立が見られる。これを否定する立場は、通則法七条は、通例は﹁債権的﹂法律行為についての規定であると解されることから、通則法には信託の準拠法決定に関する明文規定が欠缺しているとの前提をとった上で、信託が委託者の意思によって作り上げられる作為的関係であるという点を考慮し、﹁信託﹂という単位法律関係について一体的に通則法七条以下を類推適用する ₃₄

。このように解することで、当事者の予測可能性の確保及び正当な期待の保護といった要請に応えられ、また、信託を債権的側面と物権的側面に二分するという困難を回避できるという。

  これに対して、直接適用する見解が多数説である ₃₅

。信託設定行為 ₃₆

が通則法七条の法律行為に含まれると解するとみるものであるが、信託実質法が一般私法ルールをオーバーライドする形で存在するものであり、通則法がドイツ法的な﹁法律行為﹂という一般的な概念を採用した上でそのうちの一部を特別ルールとしてくくり出すという構造を有していることから導かれ得ると説明する見解 ₃₇

や、信託の本質を当事者自治主義に基づく制度であると解して通則法七条以下の適用を導く見解がある ₃₈

。また、一般に不文の法理または条理によって独自の単位法律関係を設定するという手法は、恣意的

(12)

    同志社法学 六九巻七号五二七二五五五 な解釈に陥る危険が大きいものであり、できる限り避けるべきであると考えられることに加え、信託についてはいずれの手法によるかによってただちに結論に差異が生じることはあまり考えられないことから、新たに独自の単位法律関係を信託について設けることが批判されている ₃₉

。以上の点から、多数説が妥当であろう。

  信託を法人類似の存在として性質決定する可能性もある ₄₀

。しかし、法人の従属法の決定については設立準拠法説が通説であり、結局は当事者の準拠法選択を認めることになり、信託の準拠法を通則法七条により決定した場合と結論は同じになることから、性質決定をどのように考えるかは実益があまりないとも指摘されている ₄₁

  なお、客観的連結に関しても、通則法八条二項・三項の優先関係について見解の対立が見られる ₄₂

  2) 信 託 準 拠 法 の 適 用 範 囲

  信託設定行為の成立及び効力に関する事項には、基本的に信託準拠法が適用される。争いなく適用されるものとしては、以下の事項があげられる。信託の成立要件、信託当事者間(設定者・受託者・受益者)の関係、信託財産の管理方法、信託事務の委任の可否、信託の終了、受託者の交代、信託に対する裁判所の後見的監督、信託監督人・管理人の選任などである ₄₃

  なお、方式に関しては通則法一〇条による(信託財産の独立性に関する見解の対立に関しては後掲注(

56

)参照)。

(13)

    同志社法学 六九巻七号五二八二五五六

四  相続準拠法との関係

1   相 続 と 信 託 と の 交 錯

  ここで再度、冒頭で紹介した米国の生前信託の事例を少しアレンジして用いてみよう。   ︿、在住の日本人Aは節ケ税効果も期待して本日るすース①﹀米国P州にその資産の多くを有 ₄₄

、P州に所在する財産につき、自らの生存中は米国の信託会社と自らを共同受託者とし、かつ、自らを受益者とし、財産を自由に処分したり、その投資収益を受領したりできるようにし、自らの死亡後にはこの信託を終了させ、信託財産を複数いる相続人(XとY)のうちのYのみに承継させる生前信託を設定したとしよう。

  このような信託は、相続に代わって、委託者の死亡による財産承継機能を果たし得る。日本民法上、信託が遺留分制度の対象となることについては疑いがない ₄₅

。仮に、P州法上、遺留分制度がない場合、Xが遺留分減殺請求権を行使できるか否かはいずれの法によって判断すべきであろうか。

  また次の事例を考えてみよう。

。続付された動産について自らの相不権でをかうだるきろは主こるす張と してXは、続被相人はAた定。うよしとため旨るす了続の相準度に託信に由をとこいなが理制る託拠法であ甲国法上信 付な給産財のどB費活生のYが、担をりうに終が託信中よ亡こ死のY、しととは存そをし、の受益者Yにして、Yの生 お遺言にはいて、日本は、託A、がいな度制を信上法法指信者託を産動不てしにB兄を託託受、し定甲てしと法拠準国   ︿

。人るす在所に本、日はA甲国動の住在本日﹀②スー不産る相あでY妻とX子は人続の収。Aるすと入収るた主を入ケ   以上の事案を考える前に、ドイツにおける議論を少し紹介することにしよう。ドイツは、信託法を持っておらず、国

(14)

    同志社法学 六九巻七号五二九二五五七 際私法の主たる法源であるドイツ民法施行法においても信託準拠法に関する明文の規定はなく、信託の機能や目的に応じて、たとえば、生前信託と遺言信託とに分けてその準拠法が検討されている。なお、ドイツはハーグ信託条約も批准していない。

2   ド イ ツ に お け る 議 論

  二〇一五年八月一七日からEUにおいて施行されている﹁相続に関する裁判管轄権、準拠法及び決定の承認・執行、公文書の受け容れ・執行並びに欧州相続証明書の創設に関する二〇一二年七月四日の欧州議会・欧州理事会規則﹂ ₄₆

では、一条二項j号で﹁信託の設定、管理及び終了﹂については本規則が適用されない旨を規定する ₄₇

。これに関する前文一三では、それらの事項が本規則の適用除外とされることから、信託についても一般的に適用除外されると理解されるべきではなく、遺言によって、または法定相続に関連して法律に基づき信託が設定される場合には、本規則による相続準拠法が財産の承継及び受益者の決定に関して適用されるべきであると説明されている。つまり、EUにおいても、死亡による財産承継についての規律は相続準拠法に委ねられている。

  この相続準拠法に関するEU規則はドイツにおいてもすでに妥当しているが、それ以前から、遺言信託は死亡による財産承継を目的としたものであるとみなされ、相続の問題として性質決定されていた ₄₈

。すなわち、遺言信託の実質的成立要件には遺言準拠法(民法施行法二六条五項により遺言作成時点の被相続人の本国法)が、遺言信託の効力には相続準拠法(同二五条により死亡時の被相続人の本国法)が適用され、別途信託準拠法を考慮する余地はない。もっとも、問題が生じるのは、ドイツには英米法上の信託に相当する制度がないため、英米法系の被相続人がドイツに所在する財産について遺言信託をした場合、これをどのように実現するかについてである。ドイツ民法における物権法定主義から、

(15)

    同志社法学 六九巻七号五三〇二五五八

受託者と受益者とに所有権を分割したような、ドイツ民法に定められていない形態になる信託をドイツに在る財産について設定することは認められず、受託者の指定自体は無効であるが、場合によっては、

T re uh än de r

または遺言執行者の指定に置換することはできるとされる ₄₉

  これに対して、生前信託の準拠法に関しては債権説と法人説の対立があり、判例・通説は前者の立場をとる ₅₀

。そのため、信託準拠法と相続準拠法とが異なり得るため、それぞれをいかに適用すべきかという問題が生じ得る。このような場合、信託の成立及び効力に関しては信託準拠法によるが、相続準拠法上遺留分を請求できる場合にはこれが認められる ₅₁

3   日 本 に お け る 議 論

  信託と相続が交錯する問題を抵触法上どのように解決するかについて、学説においては次のような二つの考え方が主張されている。

  第一の考え方は、﹁世界の多くの法域において信託制度が重要な役割を果たしていること、および信託が今後ますます長期的・総合的な財産計画のために利用されることになるであろうことに鑑み﹂、抵触法上、﹁信託をできるだけ尊重﹂すべきという立場から解決を試みる ₅₂

。これによると、信託はその性質上、関係当事者が死亡した場合の対応も十分に考慮に入れて作成されている制度であって、その場合のための仕組みを相続法の特則として持っている制度であるから、信託当事者が死亡した場合の処理は基本的に信託の事項として性質決定すべきであり、相続準拠法の適用はできるだけ抑制して必要最小限にするという方向での解決が図られることになる ₅₃

。そして、①信託関係の処理に関して信託準拠法上利用されている相続に関する概念や仕組み(たとえば信託法の条文中の﹁相続人﹂)、②遺留分のような相続準拠法に

(16)

    同志社法学 六九巻七号五三一二五五九 とって譲れない最小限度の秩序については相続準拠法を適用する ₅₄

。その他、信託準拠法に基づいてなされた委託者自らを受託者とする信託宣言が相続準拠法上禁じられているときに、その信託財産が委託者兼受託者の一般の相続財産に含まれるか、相続準拠法が禁じている種類の生前贈与の実質を有する信託の効力は認められるかなどの個別の問題について相続準拠法が適用されるべきかについても、基本的には前述の信託の尊重という観点から検討すべきであると説かれる ₅₅

  本稿では、相続代替制度として信託が利用される場合を想定しているため、委託者の死亡のケースを念頭に置いているが、前述の第一の考え方は、委託者の死亡の場合のみならず、信託関係当事者すべての死亡に伴う信託関係の処理について一般的に述べられたものである。受託者の死亡により受託者名義の信託財産が受託者の相続財産とならないかという信託財産の独立性の問題についても、これに相続準拠法を適用し、当該相続準拠法上信託制度が存在しない場合には、信託財産も受託者の相続財産に含まれ抵触法上で信託制度を認める意味がほとんど失われてしまうことから、信託準拠法を適用すべきであると主張される ₅₆

  これに対して、第二の考え方は、信託が絡む場合においても、基本は相続法秩序であって、相続準拠法上信託が特則的に扱われている場合に、その信託が有効に成立しているかといった問題が信託の問題として別途準拠法が決定され、それによるべきであるとする ₅₇

。信託が相続法の特則となっていることは、一つの法秩序内ではあり得ても、信託準拠法と相続準拠法とが異なる場面において、信託の法理を優先させる根拠とはなり得ず、信託を委託者の死亡の際の財産の処遇を決める目的で利用させるということこそ、信託制度を持たない相続準拠法の側からみると問題視されるのであって、そのような目的が達成できるように国際私法上配慮するとすることは、信託制度を知らない国が存在している国際社会のあるべき法秩序を形成すべき国際私法の趣旨に悖ると主張される。遺留分の問題も、当然のことながら、相続の

(17)

    同志社法学 六九巻七号五三二二五六〇

問題として相続準拠法が適用される ₅₈

  ここでの考え方の対立は、明らかに信託制度をどのように位置づけるかという理解の違いにある。信託制度が国際社会において普遍的な制度でないにもかかわらず様々な形で積極的に活用され、その傾向が今後ますます強まるであろうこと ₅₉

は否定できない。しかしながら、信託制度が依然として普遍的な制度でないことに加え、通則法では信託に関する明文の規定が置かれていない現状からすると、死亡による財産承継に関して明文の規定をもって定められた相続準拠法の下での通常の解釈を、信託が絡む場合にのみ異なる処理をすることには躊躇を感じざるを得ない ₆₀

  また、相続代替制度を利用する目的は、相続法の規律または相続とみなされることで適用を受ける規律を回避するためであり、それにより実現されるのはまさに死亡による財産承継である。法の適用に関する通則法三六条に規定される﹁相続﹂とは、財産相続たると身分相続たるとを問わず、また包括相続たると特定相続たるとを問わず、さらに法定相続たると遺言相続たるとを問わず、およそ世代をこえた財産的権利ないしは身分的地位の承継一般がそこに包摂されているものと解されてきた ₆₁

。したがって、相続代替制度による財産承継もまた、基本的には、抵触法上は相続の問題として処理すべきであると思われる ₆₂

  ケース①に関しては、実のところ、前述の考え方のいずれをとっても、相続準拠法が遺留分を認める限り、信託準拠法いかんにかかわらず、これが認められる ₆₃

。もっとも、Aの資産の多くがある米国P州の裁判所においてXが訴えるとしても、P州がニューヨーク州のように、同州法を準拠法として非居住者により設定された信託の有効性、効力及び解釈については同州法を適用する旨の規定を有する場合には、同州裁判所で日本法が適用される余地はなく、遺留分に基づく主張をすることはできない ₆₄

。ただし、ニューヨーク州法などは、選択的相続分(

ele ct iv e sh ar e, fo rc ed s ha re

)や家族手当(

fa m ily a llo w an ce

)など生存配偶者や一定年齢の子に遺産に対する権利を一部認めており、近時、遺言代用

(18)

    同志社法学 六九巻七号五三三二五六一 制度により移転された財産も一部遺産に含める傾向が見られるという ₆₅

。したがって、同州において相続準拠法が同州法となる場合には、これらの権利を同州裁判所で主張することができる可能性もあろう。また、仮に日本の裁判所においてXの遺留分減殺請求権が認められたとしても ₆₆

、P州がデラウェア州のように遺留分などに基づき信託財産に対して請求することを禁じる規定(

an ti- fo rc ed h eir sh ip ru le s

₆₇

を有しているような場合には、日本の判決は承認されない。このような場合には、現実的には相続準拠法である日本法上たとえ認められたとしても、遺留分減殺請求権を実現することは難しい。ただし、それ以外の州で外国金銭給付判決の承認に関する統一法(

U nif or m F or eig n- C ou nt ry M on ey Ju dg em en ts R ec og nit io n A ct

)を採用している州においては、日本の裁判所の判決が承認され得る場合も考えられよう ₆₈

  ケース②に関しては、いずれの考え方をとる論者においてもその論考において直接的には検討されていない事例である。あくまでも推測の域を出ないが、第一の考え方は、このような場合にこそ信託の意義を尊重するため信託準拠法を適用するという立場をとるのではないであろうか。第二の考え方によれば、信託が設定されたことによって相続財産からはずれるか否かは相続財産の構成の問題として扱われ ₆₉

、相続準拠法と個別準拠法としての信託準拠法をどの程度、どのように適用するかという問題になるように思われる ₇₀

。ハワイ州のジョイント・アカウントが問題となった東京地判平成二六年七月八日 ₇₁

の事案における処理と同様に、ジョイント・アカウントなどの問題と整合的に扱うためにも、第二の考え方による問題の捉え方が妥当であると考える。

  なお、遺言信託においては、遺言の準拠法との関係も問題となる。通説は、意思表示としての遺言自体の問題と遺言の内容として遺言で定められた法律行為の問題(遺言の実質的内容の問題)とに二分し、前者のみを通則法三七条の適用範囲とし、後者の遺言の実質的内容となる法律行為は当該法律行為の準拠法に依拠させる ₇₂

。たとえば、遺贈は相続に

(19)

    同志社法学 六九巻七号五三四二五六二

関わるものとして三六条に、認知の成立及び効力は二九条によることになる。これに従えば、遺言でなされる信託に関しても意思表示としての遺言そのものの実質的成立要件及び効力については通則法三七条によるが、遺言によって信託を設定し得るかといった信託の成立に関する問題には信託の準拠法が適用され ₇₃

、その他の相続準拠法と信託準拠法との適用関係は前述のとおりである。

五  相続代替制度のための準拠法?    信託がそうであったように、相続代替制度は、各国それぞれいろいろな背景のもと発展してきた制度であり、国際社会に普遍的に認められている制度ではないことが多い。そのため、国際的な事案において相続代替制度が利用されると、その制度を有していない国は自国においてその制度を認めることができず、あるいは、自国の制度に苦労して置き換えたとしても、その結果不完全な効果しか与えることができないということになり、当初当事者が予定したものとは大きく異なる結果を招きかねない ₇₄

。このような法的不安定さを除去するため、ハーグ信託条約においては、信託をそのまま承認するという新たな手法を採用したのである。しかし、その背景には、国際社会における信託の促進という目的がある。同様に、諸外国においては、相続代替制度の利用を促進し、さらに資産承継計画の予測可能性を高めるため、相続代替制度に関する準拠法に関して限定的な当事者自治原則に基づき立法ないしは解釈することを提唱する見解も見受けられる ₇₅

  確かに、相続代替制度は被相続人が望む資産承継計画の実現に資すると言える。そして、現実に広く利用されている国もある。しかし、そのような相続代替制度の国際的な活用を促進すべきかどうかについては慎重な検討を要しよう。

(20)

    同志社法学 六九巻七号五三五二五六三 まず、本来の財産承継の形態として予定された法制度として法定相続や遺言相続があるにもかかわらず、各国の相続法上の強行規定や税制面での規制からの回避のために利用され得る相続代替制度を優遇するための抵触規則を設けることは本当に望ましいのであろうか。また仮に相続代替制度の国際的な活用を促進するとしても、各国固有の制度であることが多く、当事者自治を認めることのみでは法的安定性の観点からなおも問題があるようにも思われる ₇₆

六  むすびにかえて   本稿においては、相続代替制度について抵触法的観点から検討するために、信託を中心に考察し、現状においては、相続代替制度もまた相続の問題として処理すべきであるとの結論を示した ₇₇

  もっとも、同性カップルの増加や直系血族以外の人的繋がりの重要性の高まりといった、相続法がこれまで必ずしも想定してこなかった家族のあり方の多様化も、相続代替制度の重要性を高めていると指摘されている ₇₈

。さらに、今後、国境を越えた資本や人の移動が益々活発になり、各国ごとに異なる相続代替制度の取扱いがより大きな問題となり得ることも考えられ、そうした場合には、国際社会における相続代替制度の法的に安定した環境における活用の促進へと明確に舵が切られることも考えられよう。そのような場合には、普遍的に認められていない相続代替制度をいかに抵触法的に扱うかという難しい問題が生じる。これに関しては、状況の承認 ₇₉

や相続代替制度の問題を含めて相続準拠法への当事者自治原則の導入 ₈₀

による解決の可能性が日本においてもすでに示唆されているところであるが、この問題も含めて、信託以外の国際的に利用され得る他の相続代替制度、たとえば、夫婦財産制を利用し夫婦財産制の清算として生存配偶者にのみ財産を帰属させるといった相続代替制度 ₈₁

の問題とともに、今後さらに検討を深めていきたい。

(21)

    同志社法学 六九巻七号五三六二五六四

、木 n ol., V”, esuttitbsSueyiossceuc “Sis,alp T636ffr11Je, p. 920Recueil des Cours1) 、﹁

s.un and Röthel ed, , inHart, 2016, p. 1. Bran” AAlexandra Braun ationdnnl, “ucodtrInheöte Realth on Death Passing W2) 

dfontent/001128517.p.mgooj.ww://wtpht.jp/c)()、調 3)  4) 

3

、﹁ 5) ﹂(

ew.shintaku-kyokai.or.jp/ns/pwdf/NR290628-2.pdfw://wtpht6)。) 

7) 

1 8) 

)。- 三

ract Athean Dr ofens Troteba“Uniform Non”-p te1 supra no.l,heöt Rnd aunraB, pde1. atnon-probate ansfers on htr9) )﹂ 10) 

3

3

参照

関連したドキュメント

Fletcher is a Clinical Professor of Law and Director of the International Human Rights Law Clinic at the University of California Berkeley School of Law.. She delivered these

Trade Liberalization”, in Bhagwati (ed.), supra note 48, pp. Parry (ed.), The Consolidated Treaty

のとして初めてである (1) 。本件でも争点の( 1 )と( 2

[r]

[r]

JP90C000GR04 eMAXIS Neo 遺伝子工学 三菱UFJ国際投信. JP90C000GR12 eMAXIS Neo

高尾 陽介 一般財団法人日本海事協会 国際基準部主管 澤本 昴洋 一般財団法人日本海事協会 国際基準部 鈴木 翼

[r]