有機化学
第4章「アルケンとアルキンの化学」- #2
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Markovnikov 則
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『Markovnikov則』です。
高校の化学で勉強したかもしれません。Markovnikov先生(ウラジミール・マルコフニコフ、Vladimir Vasilevich Markovnikov、1838/12/22〜1904/2/11、ロシアの
化学者。☜Wikipedia情報)が実験結果から導き出した経験則です。大学の化学では、なぜその様なことになるのかという原理も勉強します。
1-butene
HBr
H Br or
1-bromobutane
2-bromobutane
非対称なアルケンへの付加
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第4章の第1部で紹介した求電子付加反応は、エチレンに対する付加反応でした。エチレンは左右対称のアルケンです。今回は、非対称なアルケン、つまり二重結合の 両側が異なるアルケンへの付加反応を考えましょう。
図は、1-buteneです。見ての通りの非対称アルケンです。この化合物にHBrが付加すると、何ができるでしょう?
反応機構は第1部で勉強した通りの求電子付加反応です。まずH が求電子攻撃をし、次にBr が求核攻撃します。すると、図に示した2つの化合物が生成します。2つ
の化合物の違いをよく観察してください。
1-butene
1-bromobutane 2-bromobutane + HBr
+H⊕ +Br⊖
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反応進行時のエネルギー変化の概略図です。以前アルカンの酸化反応の時にも登場しました。見方を忘れた人は、復習しておいてください。
反応系から生成系に至る途中に活性化エネルギーの山があります。山の高さが違うことに注目してください。この山の高さは、化学反応の進みやすさに影響を与えるも
ののひとつです。実際の山越えと同じで、化学反応にとっても低い山を越えるルートの方が楽です。
1-butene
1-bromobutane 2-bromobutane
なぜエネルギー差がある?
構造に秘密が...
+H⊕ +Br⊖
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1-buteneにH が付加した段階での化合物(中間体という)は山の頂上にあります。2つの中間体は、それぞれ決まったルートを通って生成物に向います。
問題は、なぜ通るルートが決まっているかです。構造と関係がありそうです。
アルキル基( R 基)は電子を押しやる性質(電子供与性)がある。
よって、C (carbocation)に付いているR基が多いほど が安定化され、そ のイオンは安定となる。
1級( primary ) 2級( secondary )
3級( tertiary )
> >
誘起効果
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『誘起効果』を紹介します。
アルキル基は、『電子供与性』と言われる、電子を相手に向って押しやる性質があります。その性質をもつ基を『電子供与性基(electron-donating group)』と言いま す。その性質がどのような効果を生むかと言うと…1-buteneにH が付いた段階の中間体は、C "carbocation (= carbon + cation)"にアルキル基が付いた構造をして います。そして、アルキル基は電子供与性ですから、C に対して電子を押し込みます。これによって、 が安定化されます(和らげられます)。言い換えると、エネル ギー的に落ち着きます。これを「誘起効果」と言います。
付いているアルキル基の数が多いほど押し込める電子の量(数ではない)が増えますから、誘起効果は 3級"tertiary" > 2級"secondary" > 1級"primary" という順にな
ります。
電子を引き寄せる性質(電子求引性)をもつ基もある。
EWG: Electron-withdrawing group、電子求引性基
誘起効果とは、σ結合を通じた電子のやり取りによる安定化のこと。
C ( carboanion )の電子の非局在化( を分散 させる)☞ 安定
> >
誘起効果
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逆に電子を引っ張るという性質もあり、『電子求引性』と言います。その性質をもつ基を『電子求引性基(electron-withdrawing group、EWG)』と言います。この 性質の場合は、C は不安定化しますが、C "carbanion (= carbon + anion)" は安定化されます。この安定化は、電子の『非局在化』によります。「非局在化」とは、
散らばらせること、あっちこっちに置くことです。
この性質の場合も、効果は 3級"tertiary" > 2級"secondary" > 1級"primary" の順になります。
※「誘起効果」はσ結合を通じて生じる効果です。
【例え話】電子供与性や電子求引性を例えると、例えが悪いですが、次のような感じでしょうか。
○電子供与性:ある人がお小遣い不足に陥っている時に、周りの人が金銭的に助けてあげる。助けてくれる人の数は多いほどよい。
○電子求引性:ある人がたくさんの荷物を抱えてフーフー言っている時に、周りの人が持ってあげる。助けてくれる人の数は多いほどよい。
1-butene
1-bromobutane 2-bromobutane
誘起効果のために下の中間体(2 級のカルボカチオン体)の方が安定 である。そこで、赤のルートを通る ことで、2-ブロモブタンが主生成物 となる。
+H⊕ +Br⊖
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1-butene+HBrの反応の話に戻ります。2つの反応中間体がそれぞれ何級のカルボカチオンであるかを考えてください。そうすると、どちらが低いエネルギーの山を越 えていき、どちらが高い山を越えて行くかわかると思います。そして、低い山越えルートを進む中間体の方が多いと考えられます。
図に示すように、2級のカルボカチオン体は赤で示した低いエネルギー山越えルートを進みます。その結果、その中間体から生じる2-bromobutaneが主な生成物となり
ます。
1-butene
HBr H Br
1-bromobutane
2-bromobutane
major product minor product
Markovnikov 則
• もともと H をより多くもっている C に H が結合
するように反応する
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Markovnikov則を文章にすると「二重結合に対する付加反応では、もともとHをより多くもっているCにHが結合するように反応が進む」となりますが、その原理は「中 間体であるカルボカチオンの安定化の度合の違い」ということです。
【余談】多くの実験結果からあるルールを導き出す能力は羨ましい限りです。
π電子(結合)の移動によって、電子の局在化を解消し、安定化する。
共鳴効果とは、π結合を通じた電子のやり取りによる安定化のこと。
/2 /2
*結合の切断が起こるような電子の移動は
共鳴効果
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誘起効果はσ結合を通じての電子のやり取りでしたが、π結合が関係した電子のやり取りもあります。『共鳴効果』と言います。こちらは、完全にπ電子の移動で、そ れに伴って、π結合も移動します。羽根2枚の矢印は電子2個の移動を意味する、ということを思い出してください。この矢印1本でπ電子2個が移動します。つまり、π 結合が移動します。ルイス構造式(電子を点で書いた図)の方が理解しやすいかもしれません。自分で挑戦してみてください。
※「共鳴効果」はπ結合を通じて生じる効果です。
電荷の局在
電荷の非局在
共鳴安定化
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共鳴安定化の説明のための自作の絵です。非局在のイメージを描いたつもりですが、却ってわかりにくいと言う声もあります。
※解離反応の本質は、「まずプロトンが離れ、それから安定化を図る」ではなく、「安定化するために、プロトンを離す」です。
電荷の安定化
• 非局在化
✓ 分子内の電荷を一ヵ所に留めないようにして、電荷 の影響を和らげる。
- 誘起効果(σ結合が関係)
- 共鳴効果(π結合が関係)
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電荷の安定化のまとめです。「非局在化」という意味をよく理解してください。
Δ
+
どちらが起こりやすいか?
第2級carboradical より安定 第1級carboradical
逆 Markovnikov 付加
ラジカル付加反応
• アルケンへの付加反応の中で Markovnikov 則に従わない 反応があった。調べると、ラジカルが関係していた。
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『逆Markovnikov付加』を紹介します。アルケンへの付加が、Markovnikov則に従わない、という例です。
反応に用いた試薬等をよく調べたところ、過酸化物(図でPh-C(=O)-O-O-C(=O)-Phと描かれているもの)が含まれていたことがわかりました。過酸化物の熱分解で発 生したラジカルがH-Brと反応し、その結果生成したBr•がアルケンと反応し、という過程で進むことがわかりました。この時に1級と2級のCラジカルが生成します が、カルボカチオンの時と同様に、2級がより安定です。安定な方のラジカルから主生成物ができますから、生成物は逆Markovnikov付加が起こった化合物となりま す。実験には、きれいな試薬や器具を使わなければなりません。
※化学実験の結果に例外があれば、それは失敗か、別のルールに従っているか、です。見極めが大事です。単なる失敗の時もあります。しかし、時には失敗が単なる失
敗に終わらずに、その失敗が新しい道につながることもあります。その道を見出す能力のことを『セレンディピティー』と言います。有名な例は、Flemmingのペニシ
リン発見です。
反応条件で生成物 が異なる
還元反応と酸化反応
• 還元
✓ 水素添加反応 = 金属触媒 + 水素ガス
- 回転が制限されているアルケンでは cis 付加が起こる
• 酸化
✓ ジオール (diol) の生成
✓ 二重結合の切断
- オゾン分解 (ozonolysis)
- 酸化剤による酸化
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アルケンの還元反応や酸化反応の簡単な紹介です。
還元には金属触媒が用いられます。環状炭化水素のように回転が制限されている場合は、二重結合に対して同じ側からHが付く、つまり、cis付加が起こります。金属表 面に水素が吸着し、それに対して二重結合が乗っかるというイメージです。
アルカンの酸化=燃焼でしたが、アルケンの場合は用いる試薬や条件によって何種類かの酸化反応を起こすことができます。代表的な反応例を挙げておきます。この二
重結合の酸化反応を、卒業研究や特別研究(修士)で利用することもあります。
有機化学
第4章「アルケンとアルキンの化学」- #2 終
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